ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第八話:邂逅と決闘と

――昼休み、図書室――

 

「待っていたわよっ!貴方が何故簪ちゃんに近づいたのか、理由をたっぷりと聞かせてもらいましょうか!」

 

そう言って来た人物の名は更識楯無。

 

現生徒会会長にして日本の暗部の家系である更識家の現当主。簪の実の姉でもある。そして発言の後に次いで手に持った扇が開かれた。

 

扇には『不審尋問』と書かれている。

 

……別に不審者でも何もないんだが。

 

「いや、いきなり何故と言わてもな」

「とぼけないで!かんちゃんに近づいて色々とナニかをしようと思ってるでしょう!」

 

トンデモない冤罪である。

 

――二番煎じのネタは(黙っていろ)

 

さて、現在私は生徒会長と相対している。

 

どうしてこうなったのかを解説しよう。

 

私は少し調べ物があったので昼食後に図書室に入ったのだ。

 

普段はあまり人気のない場所。偶に簪や勉強熱心な者が訪れているのだが、基本的にあまり人気はないのである。しかし今回に限ってそうではなかったようで、私が入室すると珍しく先客がいたのだ。そう、正にその先客こそ目の前にいる生徒会長更識楯無その人だったのである。

 

そして今に至る訳だが……開幕の発言から察するに、相当なシスコンであることが解る。これが学園最強なのだからたまったものではない。無視する事はおそらく可能だ。しかし、無視する訳にもいかないのが現実なのだ。

 

――彼女に教えを請わないといけませんからねぇ。

 

「……せめて自己紹介ぐらいして欲しいのだが」

 

彼女の名前と経歴は事前に知っているが、一応は初対面であるため、体裁は整える事にする。

 

「まぁいいわ。お姉さんの名前は更識楯無よ。生徒の長である生徒会長を務めてるわ」

「では俺も名乗ろう。名前は天枷椿。一年生だが、年は君より上だ」

 

何故、自らをお姉さんと呼ぶのだろうか?彼女なら私についての情報を握っていてもおかしくないはずなのだが。

 

「気にしてはいけないわ!」

 

疑問に思っていた事をそう返されてしまった。どうやら心も読めるらしい。そして一度扇が閉じられ、再び開くと『自由無碍』と書かれていた。

 

さっきとは字が違う。一体どんな仕掛けがあるのだろうか?

 

(これも気にしてはいけないのか)

 

――アレですよアレ。突っ込んでは負けです。

 

そんなものか。

 

「そうか。で、聞きくが生徒会長、と呼んだほうがいいか?」

「ん~私としては楯無って呼んで欲しいかな?」

 

会長は名前で呼ぶ事を要求してきた。ならば名前で呼ぶことにする。

 

「そうか。ではよろしく、楯無」

「……まさか本当に名前で呼ぶとは思わなかったわ」

 

いきなり名前を呼ばれたのに驚いたのか、少しトギマギしていた。ただ純粋に呼んで欲しいと言ったからそれ汲んで呼んだのだがな……うむ、あれだ。

 

(不味かったか?)

 

――まさか。寧ろいいと思いますよ?ですが不機嫌になる人物がゲフンゲフン何でもありません。

 

(思うのだが、何故私が人を名前で呼ぶのに誰かが不機嫌になるのだ?)

 

――You don't need to know.(貴方が知る必要はない)

 

訳が解らん。

 

「まぁいいわ。それで、何故貴方は簪ちゃんに近づいたのかしら?」

 

体裁は整えたが結局話の趣旨が変わることはなかった。簪には悪いとは思ったが、下手な言い訳では通じそうにないので腹を括って話すことにした。

 

「別に目的があって近付いた訳ではないが、事情を話そうか―――」

 

私はこれまでの経緯を楯無に話し始める。

 

・きっかけは私が古鷹を整備するために整備室に向かったら偶々簪の隣が空いてたこと。

・会話していると彼女が姉である楯無に対しある種のコンプレックスを抱いていたらしいこと。

・私が置かれている境遇と彼女の置かれている境遇が似ていた事を理由に私に相談し、私がそのことに対して自分の考えを述べ、簪は自分の答えを得たこと。

・今まで避けていた本音と和解して再び仲良くなっていたこと。

・私に機体製作の手伝いをして欲しいと頼み、私がそれを了承し、現在も手伝っていること。

・そしていつか姉とちゃんと向き合って話がしたいと言うこと。

 

これまでの経緯を全て話した。

 

そして楯無は私の会話内容を聞きながら様々な表情を浮かべていた。

 

複雑な表情、感心した表情、納得のいった表情、嬉しそうな表情……ふむ、少々シスコン度合いが高い様な気がするが、本当に妹を心配している様だな。

 

「――と言う事だ。原因は当事者の君がよく知っていると思うが」

 

話の締めに浮かべた表情は暗い顔だった。

 

「……えぇわかっているわ」

「彼女は今、過去を乗り越えようとしている」

 

簪は強い。このままいけば和解できる筈だ。

 

「貴方の話を信じればそうなるわね」

「会いに行きたいか?」

「えぇ、そうね。今すぐにでも会いに行きたい」

 

……ふむ。

 

「だが、今はまだ彼女の気持ちの整理が始まったばかりだ。今行けば逆効果になる」

「えぇ。それもわかっているわ」

「だが彼女の今の現状を聞いて、君は弍式の制作を手伝ってあげたい、と思っていると」

「……貴方は超能力者なのかしら?その質問はYESよ。手伝ってあげたいけど……」

 

楯無は再び暗い顔をしていた。

 

(血の繋がった姉妹はどこか似ているというが)

 

――同感ですね。暗い表情がMs.簪によく似ています。

 

そんな所が似ていても困るんだがな。

 

「状況が状況だからどうしようもないと?」

「……えぇ、そうよ」

「ならば答えは簡単だ」

「え?」

 

何だ解らんのか。案外鈍いのだろうか?

 

「よく考えてみろ。目の前にいるだろう?製作の手伝いをしている俺が、ここに」

 

だから、と置く。

 

「直接手伝えなければ俺を通して手伝えばいいだけだ。稼働データやら必要な知識を集めるだけでいい。それで納得できないかもしれないが、そうすることで間接的に彼女の機体制作を手伝うことに繋がる。無論彼女はその事に気付かないから、和解したらその事を俺が話をすることにはなるがな」

 

その時には少なからず衝突があるだろう。だが、簪なら、妹の事を本気で想う楯無であればどうにかなるだろう。無論、責任は私が取る。

 

「……貴方を頼っていいの?」

 

遠慮しているような、それでいて懇願するような上目遣いで此方を見てくる。

 

まるで捨てられて怯えている子犬のようである……まぁ言い過ぎかもしれないがな。

 

「初対面だからと遠慮しているのか?ここまで関わってしまったのだ。どうせならお前達姉妹が和解するまでとことん付き合おう。だからそんな遠慮はいらん。なに、心配しなくてもいい。大船に乗った気持ちで俺を頼れ」

「……ありがとう。じゃぁお願いするわ」

 

楯無は礼を述べた後、それを了承した。

 

「そうか。なら今度データやら書類やらを準備しておくといい」

「解ったわ。なら早速行動しなくちゃね。これで失礼するわっ!」

 

そして急に元気を取り戻した楯無は嵐の様に去っていってしまった。

 

(……騒がしい奴だ。やはり子犬だな)

 

イメージ通りだったか。普段はどう言う仮面を被っているのかは知らないがな。因みに妹である簪のイメージは他人に借りられた小猫である。

 

――何ともまぁ味気ない感想ですね、可愛かった、とかそう言うのはないんですかね?

 

(何故そうなる?姉妹の問題を解決するために手を貸そう以上の言葉はない)

 

全く持って訳が解らん。

 

――……時々貴方がホモに思えてしまうのですが。

 

失礼な駄コアだ。

 

(抜かせ、私は至ってノーマルだ)

 

そして会話を終わらせ、調べ物を調べながら残り時間を図書室で過ごした。

 

 

 

 

――生徒会室――

 

「~~♪~~~♪」

 

私は現在鼻歌を口ずさみながらパソコンに向き合い、作業をしていた。作業内容は勿論妹の簪のためのデータの収集、知識、整理諸々である。

 

とても気分がいい。

 

過去、私や虚達を避けるようになったはいつの日だったろう?……いや、きっとあの時の発言だと思う、あの時から私と距離を置き、虚や付き人の本音さえ避けるようになっていた。

 

私はそれを悲しく思っていた。

 

速く仲直りしたいと思った。だけど、そのタイミングをいつにすればいいのか解らなくて結局かなりの時間が経ってしまった。

 

このまま時間だけが過ぎてしまうのだろうか?とさえ思った。

 

しかし、そんな事は無かった。

 

もうすぐ叶う。

 

仲直りが。

 

昔の様に仲の良かった姉妹に、戻れる。

 

とても嬉しい。

 

彼には感謝しなければならないだろう。今度お礼をしに行こうと思う。

 

しかし――

 

「――まさか呼び捨てにされるとは思わなかったわ。お姉さんびっくり」

 

まさか、と思った。

 

初対面の女性の名前は呼ばないだろうという前提でおちょくる意味も兼ねて言ってみたが、躊躇いもなく呼んでくるとは思わなかった。おかげで柄にもなく動揺してしまったが、次は動揺すまい。

 

そしてそこまで考えてある事に気付いた。

 

(そーいえば彼の事、名前で呼んでなかったわね。まぁ、お礼ついでに考えておきましょ)

 

やはり姉妹は変な所でも似ているのだった。

 

 

 

 

――放課後、第三アリーナ・ピット――

 

以前と同じ様に私は古鷹を身に纏う。

 

本日はオルコットとの決闘。満を侍しての大舞台である。そしてピットには簪、のほほんさんが来てくれた。因みに、一夏達はオルコット側に行ったらしい。

 

「……さて、そろそろ時間か」

「てひひー今日は頑張ってね~」

「頑張って」

「あぁ、勿論だとも。だがのほほんさん。君は下心が見えすぎた」

「おぉう、はんせいはんせい~」

 

絶対に反省してないだろう。少なくともそのたぼたぼした袖を振り回しながら言う台詞ではないな。

 

「本音、それ反省になってない」

「きにしないきにしな~い」

 

気にしてくれ。

 

「まぁいい。出撃するから離れていろ」

「はいは~い」

「解った」

 

二人は安全な所まで離れていく。

 

――ようやく私の出番が来ますか

 

(あぁ、そうだ。サポートは任せる)

 

――では今回の戦闘方針は?

 

(盾の及び武装の評価試験を兼ねての全力だ)

 

――仕事熱心な事で

 

(またとない機会なのだ。試さない手はない)

 

――了解。ではそのつもりで今回の戦闘記録は全て保存します

 

(あぁ)

 

「古鷹、搭乗者天枷椿……entry」

 

――エントリィィィィィィィィィィイイイイ!!!

 

(喧しい)

 

私は静かに、一機は騒がしくアリーナに入場(entry)する。

 

そしてアリーナに入るとオルコットが待ち受けていた。

 

「とうとうこの時が来ましたわね」

「そのようだな」

「私は、今ある全ての力を持って貴方を倒します」

「望むところ」

 

オルコットはスターライトMk―Ⅲを展開し、構える。私もソレに倣い、武装を展開する。

 

選択

 

背部武装

R:30㎜ガトリング砲

L:大型荷電粒子砲

 

主武装

R:Stoner M63   

L:.50Cal Beowulf Le16

 

特殊武装

『アイアスの盾』

 

選んだ武装が展開され、盾も左右に2機づつ配置される。

 

「それが貴方の機体の第三世代兵装ですか」

「あぁそうだ。もっとも、正式には第三世代”防御”兵装ではあるが」

 

機動力を棄て、防御に比重を置いた古鷹の本来の戦い方。耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶ、けっして揺らがない城塞。

 

「故にこの古鷹は防御特化型。この古鷹が完成した暁には専守防衛を掲げる日本に相応しい機体となるだろう」

「そのようですわね……ならその防御、突き崩させて頂きますわ」

「やってみろ」

 

全力で迎え撃つ。互いに宣戦の布告は済んだ。後は開始の合図を待つだけだ。

 

――カウント開始。5、4、3、2・・・開始!

 

(盾を視線の前に)

 

開幕と同時に盾を1機前に配置、オルコットの初撃を防ぐ。

 

レーザの高熱によって盾の表面が焼かれ、異常熱が確認された。

 

――運用に問題はありません

 

(そうか。では此方も攻撃を開始する)

 

オルコットに狙いを定め、Stoner、Beowulfのトリガーを引く。

 

対IS弾用に作られた5.56mmと12.7㎜の弾幕がオルコットに襲いかかる。

 

「当たりませんわ!」

 

オルコットはそれを回避し、お返しとばかりにレーザーの雨を降らす。

 

「この程度では古鷹に届かないな」

 

それらを全て盾で防いで無力化する。

 

「そのようですわね…なら、これでどうですか!」

 

オルコットは更なる攻勢に出るために4機のビットを繰り出して来た。

 

(盾を射線の前に)

 

4機の盾を射線上に置き、ビットからの攻撃を全て防ぐ。

 

「本体がお留守だぞ」

 

立ち止まっているオルコットに荷電粒子砲を向け、トリガーを引く。

 

超高密度のエネルギーの奔流がオルコットに襲いかかる。

 

「私が何も対策せずにいたとは思わないでくださいな」

 

オルコットは正確に狙い定めた荷電粒子砲を避けて見せた。

 

そして目標を逸れたエネルギーの奔流はアリーナのシールドにぶつかり、僅かな衝撃をアリーナ全体に与えながら霧散する。

 

ビットを制御しながら動いてみせたか。一夏との戦いでは見なかった動き……となると、だ。

 

「余程一夏に動けない時に攻撃されたのが堪えた様だな」

「えぇ、その通りですわ……ですが貴方のその荷電粒子砲、随分と威力が高いですわね」

 

まぁ、チャージ無しで強固なアリーナのシールドに衝撃を与えられるからな。最大出力なら打ち破れるかもしれないな。もっとも、最大出力は制限がかかっているので撃てないが。

 

「威力だけなら血統書付きだ。これは川崎製だぞ?」

 

もっとも、この荷電粒子砲は威力だけ無駄に高いだけであり、かなりのエネルギー喰いであるためそう何度も撃てる代物ではないのだ。

 

「……納得ですわ。流石は変態企業ですわね」

 

流石は川崎、変態としての名前がよく知られてる。

 

「ですが、そうそう撃てるものではないですわね?」

 

弱点を見抜かれたか。

 

「そうだな、だが君とて動きながら操作する代償としてビットの動きが以前の程でもないな」

「確かに未だ慣れていません……ですがその鈍足な機体には十分ですわ」

 

否定はできなかった。

 

――やはり機動性の低さがネックになりますね

 

しかも対実弾に特化した盾であるため、あの攻撃を受け続けるには限度がある。時間が経てば経つ程、此方が不利な形で追い込まれて行くだろう。

 

(それでもやるしかないのだろう?解っていたことだ)

 

――勿論ですとも。この程度の不利で負ける訳にはいかない

 

「ならばそのビットを破壊すればいいだけのこと」

「そう簡単にはやらせませんわ!」

 

やって見せるとも。

 

(荷電粒子砲収納、変わりにAIMLを展開)

 

新たに武装を展開し、オルコットをロックする。

 

「ここからが本番だ」

「望むところですわ!」

 

ミサイルが発射されたと同時に、それぞれが動き始める。

 

オルコットはミサイルを撃ち落としながらビットを制御し、此方に攻勢を仕掛ける。対して此方は盾を駆使してレーザーを防ぎ、或いは回避する。そして二挺の銃器を駆使してビットとオルコットとを同時に狙い撃つ。

 

「っ!」

 

オルコットは全弾回避するのではなく被弾をある程度受け入れ、ビットを操作する事を選ん様だ。よって先程狙っていたビットは以前一夏との戦いで見せた動きを取り戻し、迫り来る弾丸を避けて撃墜を逃れていた。

 

「お返しですわ!」

 

そして再びレーザーが五方向から放たれる

 

それを幾度となく盾で防ぎ、防ぎきれなかったものに時折被弾しつつもStoner、Beowulfを駆使して反撃する。

 

防ぐ、防ぐ、避ける、撃つ、避ける、防ぐ、防ぐ、撃つ、防ぐ、防ぐ、避ける、撃つ、避ける、防ぐ、防ぐ、撃つ、防ぐ、防ぐ、避ける、撃つ、避ける、防ぐ、防ぐ、撃つ、防ぐ、防ぐ、避ける、撃つ、避ける、防ぐ、防ぐ、撃つ、防ぐ、防ぐ、避ける、撃つ、避ける、防ぐ、防ぐ、撃つ、防ぐ、防ぐ

 

撃ち、防ぎ、避ける、と言う応酬を幾度となく繰り返した。しかし――

 

――1番盾の耐久が限界を突破。これ以上の運用は不可と判断。強制収納します

 

――最もレーザーを防いでいた盾が遂に限界を迎え、強制的に量子化された。そして盾が一つ失われた事により、レーザーの包囲網が更に狭まってきた。

 

(リスクとリターンが釣り合わん。このままではな)

 

――状況を動かす必要があります

 

ならばやるべき事は一つ。

 

(手数を増やす。――You have control)

 

――I have control. Avenger、効力射開始

 

背部武装である30㎜ガトリング砲の使用権限を古鷹に譲渡する。

 

古鷹によって制御されたガトリング砲はその7銃身を回転させ、オルコットに目掛けて30㎜の対装甲用焼夷徹甲弾を毎分/3900発で散蒔く。そして私は手に持つStoner、Beowulfで左右別々の方向に配置されているビットを狙い撃った。

 

3方向への同時精密射撃。

 

常人であればおいそれと簡単にできるものではない。ましてやマルチロックオンシステムという物はこの機体には積まれていないのだ。

 

これは企業での訓練時にひたすら叩き込まれたマニュアルロック射撃と古鷹に火器管制を一部譲渡させて精密射撃を行わせる事で初めてできる代物である。

 

「なっ!?」

 

オルコットはこの同時精密射撃には対処しきれなかった。

 

ビットの制御を諦め、回避に専念せざるおえなかったのだ。そして結果として2機のビットを破壊する事ができた。

 

結果は上々か。

 

「くっ……戻りなさい!」

 

オルコットは状況を不利と見て残りのビットを戻す。

 

「同時に複数の武器を扱い、私を狙いながらそれぞれ別方向にいる2機のブルー・ティアーズを破壊。……悔しいですが貴方の射撃は私よりも上ですわね。ですが、負けません!」

 

――最も、種を明かせば私が彼女を狙っていたのですが

 

(命中させればなお良しなのだがな)

 

――全てを望むには私も貴方も実戦経験が足りませんよ

 

(だろうな。だかがそれでも)

 

――解っていますとも

 

「それは此方の台詞だ。オルコット、俺は」

 

私達は――

 

「負けられんのだ」

 

――絶対に負ける訳にはいかない。

 

 

 

 

あれから幾度となく銃撃戦が続いた。

 

(そろそろ終幕か)

 

――えぇそのようです

 

現状は盾が残り2機。ガトリング砲はたった今弾切れ。Stoner、Beowulfも残弾が心持たない。だがシールドエネルギー自体はまだ余裕がある。そして拡張領域内にはまだまだ武装もある。よって戦闘を継続する事が可能である。

 

対するオルコットは4機のビットを失い、機体にかなりのダメージを負っていた。おそらくシールドエネルギーも心持たなくなっているだろう。

 

(ガトリング砲及びStoner、Beowulfを収納。代わりに電磁投射砲を展開)

 

新たな武装を展開し、再び構える。

 

――電磁投射砲、エネルギー充填開始

 

「……それはレールガン、ですか」

「あぁそうだ。これで君に引導を渡す」

 

先ず、AIMLでオルコットをロックし、全弾を放つ。

 

「っ!ティアーズ!」

 

オルコットは咄嗟に2機のミサイルビットを制御し、相殺させる。

それにより激しい爆発が起き、一瞬互いの姿を隠す。

 

――電磁投射砲、エネルギー充填完了。撃てます

 

(電磁投射砲、発射)

 

トリガーを引く。

 

一瞬、アリーナを虹色の光が辺を支配し、青白い閃光が放たれる。

 

超高速の弾丸が大気を、そして爆煙を引き裂きながらオルコットに目掛けて飛翔する。

 

そしてそれと時を同じくしてオルコットもレーザを放っていた。

 

音速の弾丸とレーザーは互いにすれ違い、それぞれの目標へと飛翔する。

 

だが、私はソレを既に見越しており、事前に近くに配置した盾で身を守った。

 

対するオルコットはと言うと――

 

――どうやら決め手とはいかなかったようですね

 

(あぁ、そうだな)

 

これで決着がついたかと思ったが、見ればオルコットは五体満足で立っていた。しかし、先程まで使用したスターライトMk-Ⅲは失われていた。

 

――原因は電磁投射砲がスターライトMk―Ⅲに直撃した事による威力減衰です。爆風で一瞬視界を塞がれたおかげで狙いが甘くなりましたか

 

(そのようだな)

 

運が良かったと言うべきなのかは知らないが、これでオルコットの主だった武器は失われた。これで状況は完全に私のモノとなっただろう。

 

「オルコット、勝敗は決した……それでもなお諦めないか?」

「……えぇ、ここまで来て、諦めるわけには行きません」

 

その瞳には強い意志が宿っていた。

 

「そうか。ならばコレで決着をつけよう。……構えろ」

 

全ての武装を収納し、新たにKIKUを一機、展開する。

 

望むのはオルコットの残りの武装に合わせた近接戦での決着。

 

「……インターセプター」

 

オルコットは手に最後の武装を展開し、構える。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)、STANDBY)

 

全力でやるからには持ちうる全てを持って答える。

 

例えソレが借り物力であったとしても、私の全力として、だ。一切の迷いはない。ましてや躊躇いなど、ある訳がない。

 

――瞬時加速、READY……

 

「行くぞ」

 

――GO!

 

瞬時加速を使用し、一気に距離を詰め、懐に入る。

 

まさかこの鈍重な機体がここまでの速さを発揮するとは思わなかったのだろう、オルコットは驚愕の色に瞳を染めていた。

 

「なっ!?」

 

そして一瞬で密着状態に入る。

 

「終わりだ」

 

オルコットにKIKUを押し当て、杭を高速射出させる。

 

決着が着いた。

 

『そこまで、勝者、天枷椿』

 

「負けましたわ……」

 

オルコット敗北を認めた。

 

だが、どこかやりきった様な清々しい顔を浮かべていた。

 

「あぁ、俺の勝ちだ」

「……そして私は、貴方に言っておかなければなりません」

 

謝罪の言葉を、と一言置いた。

 

「申し訳ありませんでした」

 

言葉は短けれど、心からの謝罪であった。

 

「それは俺も言えることだ。あの時俺は君にとって代表候補生はお洒落道具か?と言ってしまった」

 

だがそれは違った。

 

「訂正させてもらおう。先程の対戦での勝利への貪欲さ。その姿勢はまさに代表候補生に相応しい」

 

だからこそ私も謝罪の意を込めて一言言う。

 

「すまなかった」

「それはお互い様ですわ……ですが、私はこのまま代表候補生で終わる訳には行きませんわ」

「あぁ、そうだろうな……ところで、だ」

 

次いでに言っておかないとな。

 

「何でしょうか?」

「俺は全てを流した上で君と仲良くしていきたいと思っている。どうだろうか?」

「あら?それは告白ですか?それにしては少しシンプル過ぎますけど」

 

悪戯心を起こしたか子供の様に、或いは小悪魔の様にオルコットは微笑む。

 

それは歳相応の可愛らしい笑みだった。普通の男ならそれで狼狽えるだろう。だが、その程度で狼狽える程私はヤワではない。

 

「抜かせ、好きなのは一夏だろう?」

「なっ!?」

 

オルコットは図星だと言わんばかりに頬を紅潮させていた。

 

「はいはいご馳走様。因みに昨日の時点でバレバレだ」

「こ、この事は一夏さんには……」

 

しどろもどろに言っている姿は正に恋する少女そのもの。

 

「言う訳がないだろう……で、先の返事だが、どうだろうか?」

「断る理由はありませんわ。私の事はこれからセシリア、とお呼びくださいな」

「そうか。ではこれからよろしく頼む。そして俺の事は好きに呼んで構わない」

「では椿さん、と呼ばせて貰いますわ。これからよろしくお願いしますね、椿さん」

 

オルコット、いや、セシリアは手を差し出してきた。

 

「あぁ、よろしく、セシリア」

 

私はそれを握り返す。

 

機体の大きさが違うので私がセシリアの手を若干覆う形になったが今は気にしないでおこう。

 

『ワァアアアアアアアアッ!!』

 

互いの健闘を賛える観客達の歓声をBGMにしながら、私達はそれぞれのピットに戻っていった。

 

 

 

 

 




ここまでがリメイク版です
以前と比べてどうだったでしょうか?

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