ガンダム00  マイスター始めてみました   作:雑炊

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今回でやっと決着です。
マジで長かった……というか、酷く遅れて申し訳ありませんでした。
途中何度も何度も書き直してやっと書き上がりました。

……1万7千3百文字超という分量だけどね!?




というわけで本編の方をどうぞ


二十三話――――――帰ってこれた者。帰ってこれなかった者

「如何でしょう?御指示通り、アレには投薬と催眠暗示。それから“ちょっとした(・・・・・・)”改造手術を施した後、こちらで極秘に製造した機体で戦場に投入してみましたが」

 

「いや、素晴らしいよリボンズ。片方は手負いだったとはいえガンダムマイスター2人と凄腕の傭兵をあんな短時間で秒殺……フフ、予想以上だ」

 

「お気に召しましたでしょうか?」

 

「とても良いよ。とても気に入った。いや、私も少しは嘗て軍のエースだったという誇りがあったのだがね…それがこんな物の前では吹き飛んでしまう様だ……いや、勘違いしないでくれたまえ。むしろ清々しさすら感じているのだからね」

 

それを聞いた僕は恭しく一礼する事で、感謝の礼を示す。

…が、その内心ではこの男の顔に今直ぐにでも唾を吐き掛けてやりたいと思っている。

 

(悪趣味此処に極まれり、か…アムロの耳に入ったら大変だな)

 

そう思いながら、横目で画面を見やる。

 

 

実際あの“肉人形”の為に用意する羽目になった“アクウオス”は上々の成果を叩き出せていた。

…とは言っても、戦闘動作や思考パターン、対話時の使用音声は全てプログラミングされた物だ。

プログラム主は僕。パターン等のモデルも僕。ただし、技能レベルなどはかなりの所まで下げてあるから、同じ条件下だったら僕が圧倒的優位に立てるね。

ぶっちゃけアムロでも普通に勝てるだろう。

マイスターだって、さっきみたいな不意打ちみたいな真似さえされなければ打倒は決して難しいものではない筈だ。

 

 

 

 

問題はその機体の性能差を何処まで実力でカバーし切れるかだ。

 

 

 

ハッキリ言って“アクウオス”自体の性能は僕やアムロ専用機としての調整を施している所為で、カタログスペックだけならば“リミッターを解除したサキエル”レベルの機体でなければ互角の勝負は不可能だ。

逆を言えば『サキエルならばアクウオスと互角に戦える』という事なのだが。

 

(……っと。そろそろ限界かな?)

 

不意に手元の端末から聞こえたその音に、僕は一言断ってからディスプレイを見やる。

…どうもアクウオスの生体CPUが悲鳴を上げ始めたらしい。

もうちょっと粘るかと思ったが、どうもそういう訳にはいかないらしかった。

 

……いや?これはハードが限界というわけじゃ無さそうだ………という事は、“中身”の心配…本能的な物で拒絶反応起こしているのかな?

少なくとも、これ以上の戦闘は無理そうだ。

 

そう判断して、僕はいまだ上等なワインを飲みながらクラッカーの上に乗せられたチーズを食みつつ、まるで映画を鑑賞するようにモニターを見る男へと僕はこう進言する。

 

 

「アレハンドロ様。生体CPUが限界のようです」

 

「おや?もうかい?」

 

「はい。残念ながら、身体ではなく精神の方が薬物に拒絶反応を起こしているようで……」

 

「フン。“私はあくまで清らかだ”とでも言うか?既にデータ処理か慰み者になるしか能の無い肉人形が吠えたものだな」

 

「……アレハンドロ様。それは……」

 

「ン……些か……どころではないな。気分を悪くしたかね?」

 

「いえ、別に………ですが、あんな物でも一応私の“作品”ですので…せめてキチンと生体CPUとお呼びください」

 

「ああ!すまないすまない。確かに君が仕事をしてくれた物を肉人形呼ばわりは失礼だったな。次からはキチンと呼ばせてもらうよ」

 

「勿体無いお言葉です」

 

再度頭を下げる。

う~ん自分自身にも腹が立つね今の会話は。

本来であれば正しく導くべき人類を、僕は野望の道具として扱っている……僕の存在意義は僕自身が見つける事だからそこら辺どうこう思う事は無いが、それでも思う所はあるのだよ。

 

……何?『誰だお前は!?』、だって?失礼な……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだろう?あたまがおぼつかない。

いつのまにかわたしはきかいにくみつけられて、こんなものにのっている。

でもふしぎといわかんはない。

むしろきもちいい。

くちのなかにとおされたくだからなにかながされている。

きっとごはんだ。

のどをとおるぜりーみたいなものがぐにゅぐにゅするかんかくがそうだとわかる。

おなかにたまった。

それにおしだされるようにしてなにかがからだのなかをとおっていく。

あ。

おおきくふくらんだわたしのおなかのなかからなにかがとんとんとたたいている。

ああ、ごめんね。こわかったね。

でもだいじょうぶだよ。もうこわいひとたちはみんなやっつけたからね。

だからもうこわがらなくていいよ。

 

だいじょうぶだよ。

 

 

こわいひとはみんなおかあさんがやっつけてあげるからね。

 

だからね、

 

 

 

 

もうなかなくていいんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――『  』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ヤバい物を見てしまった気がする」

 

「?どうかしたかね?」

 

「いえ……」

 

 

 

 

……うん。やっぱりこういうのはダメだね。メッチャクチャ気分悪いわ。吐き気がするわ。マジで。もう二度としない。生体CPUなんぞ二度と作るものか。

 

吐き気がするわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠がどこかで凄く気分が悪くなったという電波が届いた件について」

 

「ソノ心ハ?」

 

「プギャー」

 

「デスヨネー」

 

「…凄く、なんか余裕だよね」

 

 

まあ、実際にはそんな会話できてる場合じゃないんですがね、と心の中で呟きながら右から切りかかってきたGN-Xの顔面をグーで殴りつける。

いい感じに怯んでくれたのでそのまま胸部…っていうか、腹部?のGNコンデンサのレンズに正拳突き。

レンズは見事にバリンと割れて、そのままOガンダムの右腕がズボッと突っ込まれた。

…まあ、なんというか、アレだ。

 

ガンダムパンチ、凄い。

GN粒子で強化しているとは言え普通のパンチでこれは無い。あまりにも威力がおかしすぎる。

 

が、それに構う余裕なんぞ無い訳で。

 

「ホッ!」

 

後ろから襲い掛かってきた別のジンクスのビームサーベルを避けつつ、その腕を引っつかむ。

後は突き入れてきた奴の顔面に反対の手に持ったビームガンの弾を接射してやる。

そんでもってちょっと離れた所で蹴り飛ばすっと……まだ動かれても困るからビームガンでコンデンサを撃ち抜く。

結果的にそのままGNドライブも壊れる訳で、凄い量の赤い粒子がそこらじゅうにブチ撒かれる。

 

(しまった)

 

そう口には出さずに呟く。

濃度が低ければ問題ないのだが、今目の前に広がった粒子はまるでスモッグのごとく、濃い。

こうなるとこの中に入ったビーム兵器は撒かれた粒子に干渉もしくは中和されて、尽く威力を落とすか最悪無効化されてしまう。

逃げ込むには良いが、ここから反撃するとなるとどうにもし難い。

それにいくらGN粒子制御用のクラビカルアンテナがあるからといって、こんな濃い粒子の雲の中に突っ込んでいる以上レーダー等の計器にも幾らか影響が出てしまうのは明白だ。

今も3次元レーダーがマトモに機能してくれていない。

 

と思ったら、

 

「おっと」

 

煙を引き裂いてGN-Xが手刀を突き入れてきた。

アッサリと回避しつつその脇腹に蹴りを一発。

反動を利用してそのまま粒子スモッグの中から離脱する。

勿論GNABCマントで全方位をカバーしながら、だ。

出た瞬間ビームで蜂の巣とか勘弁してほしい。

 

…と、身構えていたのだが一向ににそれらが来る気配がない。

つーか全機こっちに恨みがましそうな視線(俺主観)を向けてくるだけで一向に動きが無い。

少し動いてみる。と言っても軽く機体の向きをプトレマイオスの方向に向けただけだ。

それでも少し身構えるだけでそれ以上の動きは無い。

スラスターを噴かして移動し始めてもである。

 

どうにも不気味だ。

 

だが、同時に好都合でもある。

 

何せこっちは一刻も早く実働部隊と接触した後、先程から何の反応も返してこないミハエルの安否を確認しなければならないのだ。

どうにもあの狂い具合には引っかかる物があるので、こちらとしては早急に合流したいのだが……果たしてそれを許してくれるかどうか……

 

 

 

 

――――――まあ、何かしてきたら対応すりゃいいだけだけどね。

 

 

ふっと頭の中に浮かんできたその言葉にそれもそうかと納得する。

どうせこれまでも『向こうが何かしてきたから対応する』のが常だったのだ。

結局いつも通りである。

こっちはこっちの目的の為に動くけど、それを邪魔してくるなら叩き落とすのも止む無し。

そういうもんなのだ、俺の行動スタンスは。

 

それがいつの間にかこっちから先に手を出そうとする様になっている。

どうにも焦り過ぎているらしい。

その理由は理解しているつもりだ。

が、だからといって焦って行動すれば、悪い結果しか産まない事など経験済みだろうに。

 

主に師匠の所為で。

 

もう一度言おう。

 

主に師匠の所為で。

 

 

 

 

 

「…アムロ?」

 

「ン……まあ、仕掛けて来ないなら無視していくさ。最優先でミハエルを探したい所だが……生憎私情でそういう事ができないのが中間管理職の辛い所でな」

 

「……」

 

ネーナが暗い顔をして黙る。

心配なのだろう。

実際に血が繋がっていないのだとしても、トリニティは確かに兄妹だったのだ。

紛れもない、本当の家族だったのだ。

その家族が、もう自分以外はたった一人だけしか居ない。

しかも、その安否は未だ不明。

 

……もしも、俺なら……きっと、仕事とか放り投げてしまうんじゃないだろうか?

 

そんな確信がある。(ただし師匠は除く)

 

それが解ったからこそ、俺はOガンダムの推力を上げて、一秒でも早く余計な仕事を終わらせる為の行動をした。

 

 

 

家族が居なくなって一人ぼっちになる人間が出るのは――――――俺の知り合いで、これ以上増やしたくは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――夢を、見ていた。

 

 

 

『―――――――ぞ』

 

 

 

――――――酷く、曖昧で、ぼやけてて――――――

 

 

『――にい!!早く――――』

 

 

 

 

『―――――――――っと行儀よ――――――――――』

 

 

 

――――――…それでも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミハエル』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――幸せな、夢だったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ……?」

 

気が付くと同時に抱いたのは違和感だった。

こう、体に何か刺さってるんだけど痛みがない的なそれだ。

見れば自分の胴体にコクピット内のコンソールの破片らしい物が何本か刺さっていた。

幾つかは小さく、別に何も問題はなさそうだったが、内1本だけが比較的大きい。

おそらく内蔵を貫いているのだろうなという事は理解できた。

 

「よっ…と……うぇ」

 

破片を抜き、ノーマルスーツの止血用吸水ポリマーが凝固していくのが目にするが、やはり傷は深いようだ。

一向にポリマーが凝固し切る様子がない。

これでは応急用の絆創膏を貼った所で、凝固したポリマーが上まで上がってきて最悪窒息させられる。

 

(冗談じゃない)

 

仕方無く絆創膏を貼るのは諦める。

どうせポリマーが固まりきるかどうか分からないのだ。

だったら、少しでも死に易くなるようなファクターを増やすのは遠慮したい。

 

「機体は……ダメか?」

 

ダメコン画面には左腕と胴体と頭部以外は全てロストしているという情報が映し出されている。

…モニターは兎も角として、メインのセンサーやカメラが一つも死んでいないというのは、運が良かったのか、それとも別の何かか……

 

 

(……っ!)

 

不意に目に入った光点が瞬間的に再度脳みそを沸騰させた。

ここから離れていっているそれ――――――レーダーにはハッキリと『ツヴァイ』の文字。

 

奴だ。しかも逃げ出そうとしている。

 

「野郎…!」

 

奥歯を砕けんばかりに噛み締め、残った左手で近くを漂っていたビームサーベルを引っ掴み、全速力で追いかけ始める。

凄まじいGが満身創痍と言っても過言ではない体に襲い掛かり、骨が軋む音がわかった。

血もポリマーの吸収できる量を超えたのか静かに流れ出している。

 

 

だというのに痛みが無い。

 

これは僥倖でも何でもない。

 

 

その原因だと思われる物は――――――はて、何だっただろうか。

 

機体を動かしながら、俺はボンヤリとそこら辺に関する記憶を掘り出し直していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アムロが戻ってくる数時間前:CBアジト

 

 

ゼッ…ゼッ…ゼッ…ゼッ…ゼッ…ゼッ………

 

 

―――クソッ!

 

 

息を吐き出すばかりで体は動かない。

―――というか、小刻みに痙攣を繰り返すだけで一向にそれが収まる気配がない。

 

 

「おいおい……」

 

俺の頭の先で緑色の髪のガキ―――にしか見えないヤツが酷く呆れたような声で俺を見下している。

…が、その顔は笑顔だ。これ以上無い程に笑顔だ。

成程こんな鬼畜な男の下で長い間鍛えられていたのだったら、アムロのあのとんでもない実力の高さも納得できるというもんだった。

文字通りに、俺達とは基礎が違ったのだ。

 

「高々休憩挟みつつ5時間連続組手と40時間ぶっ続けで“エクストリームガンダム地獄”をやらせただけじゃないか?何故そんなに消耗するんだい?まったくそんな程度で自分よりも格上の相手にサシで戦って勝ちたいとか馬鹿なの?死ぬの?別に僕は困らないけどさ」

 

「…………!…………っ……」

 

言葉責めに反論しようとしたが、反論ができない。

何せ顎の筋肉すらもう既に限界なのだ。

というか、体中の筋肉という筋肉がヤバイ。

以前まだアムロと会った初めの頃にやった延々と続くようなあの地獄がどれだけ生温く、優しさに満ち溢れた物だったのかを思い知らされている気分だ。

 

「……フン」

 

「ゴェッ!?………ゲッ………っ…!」

 

「フフン?」

 

そんな事を考えている内に腹を蹴られた。

どころかそのまま仰向けにされて喉を踏み潰される。

胃から逆流してきたゲロが流れを塞き止められ、そのまま胃まで戻る。

その流れに腹の中を掻き混ぜられるような痛みを感じるが、同時に呼吸まで封じられている分体はそっちの苦しみを優先しているのか、そこまでもんどり打つ事はなかった。

…が、このままだと本当に死ぬので何とかして腕を動かそうと躍起になる。

 

しかし結果は芳しくない。精々震えながら数cm腕が浮いただけだった。

 

 

「…ハァ…」

 

すると突然首の圧迫感が無くなる。

新鮮な空気が鼻と口を通って体の中に入ってくるのを感じる――――――

 

 

 

 

「―――そぉい!!!!」

 

「ゲガッ!?」

 

 

―――――のと同時に思いっきり頭を蹴っ飛ばされた。

反論しようと体を起こそうとするが相変わらず筋肉は痙攣を繰り返し、今度は視界も揺れてエライ事になっている。

 

 

―――殺される。

 

 

酷く当然の様にそれが頭に浮かんだ。

視界に映る、サディスティックな笑みを浮かべるソレがゆっくりと近づいてくるのを目にすれば、誰でもそう思うだろう。

 

 

 

 

 

…しかし、気紛れか何かは知らないが、そいつはそれ以上俺に攻撃をする事はなかった。

それどころか普通に手当てをし、休憩までさせてくれた。

(その時の手捌きは素人目から見ても見事だったのには複雑な気分だったが)

 

 

 

 

 

 

「で、だミハエル・トリニティ」

 

「あ?何ですかねェ?」

 

 

「ふむ。ハッキリと言わせて貰うよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵討ち、諦めなさい。君じゃ無理だよ」

 

「フォンドヴァヴォゥ!?」

 

とか思ってたらこの一言だよ。

 

 

 

あまりの衝撃に呆然となっている俺をほっといて、目の前の師匠は淡々と、それでいて笑顔のまま理由をつらつら上げていく。

 

「まず、第一に実力の差は如何ともしがたいね。これは君も解っているはずだ。一日二日で身につけた付け焼刃は、本当の実力者…そうでなくても、ただ単に長くMS乗りをやっているベテランにすら通用はしないからね」

 

「…」

 

…それは俺も理解している。

何せ、それを明確に教えてくれたアムロは実地で俺達にそれを証明してみせたのだから。

その事に納得しつつも、次の師匠の言葉を待つ。

 

 

 

「二つ目にあるのは――――――というか、あまり言いたくはないけど此処が大きな理由かな――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――相手になる男―――アリー・アル・サーシェスだが―――どうも、基本的な身体能力が君よりも上っぽいんだよ。耐Gの許容限界とか諸々も、ね」

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

んが、流石にこの一言だけは聞き流す事もできず、かと言って理解も納得もできなかったが。

 

 

 

 

 

 

…そのまま数秒間沈黙が周囲を支配する。

やっとこさ絞り出せた言葉も、次の様に短い単語だけだった。

 

 

「…マジ?」

 

「マジマジ大マジ。残念ながら明確な事実だよ………っと、何処からそんな情報持ってきたかは聞かないでくれ?情報はこの世で最も強力な武器になり得るが、同時にこの世で最もその価値と力を失い易い貴重品だからね」

 

そう言われるものの、今の俺はそんな言葉など聴いてる余裕も、それを疑問に思う余裕もなかった。

 

アレが俺やネーナよりも身体能力が高く、尚且つ腕前も遥かに上?

 

…そうなれば、後は機体性能や別のファクターでカバーするしかない。

 

……が、そういった部分は彼我の戦力差――――――この場合は前述した二つだ――――――があまりにも掛離れていた場合、何の意味も持たない。

 

………詰まる所それは――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………それってよぉ……もしかしてこれ、詰んでね?」

 

 

――――――という事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「? 何を言っているんだい?一応まだ手はあるよ」

 

 

 

 

―――とか思ってたらこれだよ。

 

 

は?と思いながら俯かせた顔を上げる。

そこにいるのはさっきとは打って変わって――――――実に楽しそうな笑みを浮かべた、師匠の姿。

 

瞬間的に俺の本能が警鐘を鳴らした。

 

 

ヤバイ、と。

 

 

 

何かは分からないが兎に角拙い、と。

 

 

それを認知した俺の体は、休憩で幾らか回復しているとは言え、まだ全快時とは比べ物にならないような動きしかできない体を無理矢理動かしながら、弾かれた様にその場から逃げ出した。

 

…逃げ出そうと、した。

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ」

 

「グガッ!?」

 

 

が、相手はそれを予め読んでいたかの様に、体を動かそうとした瞬間俺の背中にそこそこな威力の蹴りを叩き込み。

 

「そおい!!!」

 

「うおおおおおおお!?」

 

そのまま襟首掴んで振り回した挙句地面に叩きつけると――――――

 

 

 

 

 

「そ~れぷすっとな」

 

 

「ハゥッ!?」

 

 

 

――――――何かよくわからん物を注射してきた。

 

 

瞬間、体中が熱くなる―――――というか、体全体をなんだかかなり小さい何かが這い回っているような感触がする。

熱いと感じたのは、おそらくそれらが蠢く事で肉体が錯覚したからだろう。

特にそれが顕著なのが血管とかだ。ちらと見えた手首の血管を凄い勢いで何かが動き回っているのが見えた。

 

「ぎ、ぎゃああああああああああああああああ!!!!!?????」

 

思わずそれに対する恐怖で口から声が出る。

が、それはそんな風に恐怖する俺のことなどお構いなしにとうとう頭の中にまで入ってきやがった。

 

瞬間、目の奥で火花が散り、体が勝手に動き出す。

感覚も滅茶苦茶だ。

何も含んでいないはずなのに口の中は甘かったり苦かったり塩っぱかったり。

視界はモノクロになったかと思えば突然カラフルになったり、暗くなったり明るくなったり。

 

体中の筋肉など、もう痙攣しているのか動いているのかすら解らない。

 

背筋がゾゾゾッとし、目からは涙、鼻から鼻水、口から涎を撒き散らしているのかもわからない。

 

 

 

快楽、苦痛、不快感、幸福感、恐怖、悲哀、憎悪、憤怒、絶望感。

 

そういった感情が一気に溢れ出すかの様な奇妙な感情が体を駆け巡る。

 

 

ただし、このまま行けばどうなるのか。それだけはマトモではなくなった思考でも理解できていた。

 

 

 

 

 

死ぬ。

 

 

 

殺される。

 

 

 

 

 

 

このわけのわからない存在に、おれは何もできずに殺される。

 

 

もう自分が床を転がっているのか宙に浮いているのかたっているのかそれとmmj不イグfydtvfhbjghkんjgbfCDsgんbhcgjmvbんcgfvgbんhbmvンxbfdgvhbmjbfdscgすぇdrftgyふjhんgybtrvへcせだqwせdrftgyふじkkkkkkkkk―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。まあ、こんなもんかな」

 

 

 

 

最hsyりhskvふlkshcvkbvh。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Lets起床」

 

「ウグホッ!?」

 

 

目を覚ましたら突然蹴っ飛ばされた。

何をするんだと目の前の奴を見ると、そいつは突然顔を至近距離まで近づけて、矢継ぎ早にこう宣った。

 

 

 

「さて本来ならばこんな事しなくても良いのだけれど、まあ、君のその執念に感服、或いは驚嘆したそのご褒美ということだ。理解したね?」

 

何がだ、と言いたかったが言うことができない。

なぜか口は動かず、只々ボーッとそいつの言う事を聴く事しか出来ない。

 

「まあ、反応は帰ってこないなんて理解しているからね。別に気にしないよ――――――ああ、そういえば君の脳を通してこっちを見ている『彼ら』には今君に何が入ったのかわからない人も居るだろうから教えておこうかな?―――――まあ、ぶっちゃけた話が僕のこの目の前にいるコレの身体能力その他諸々を徹底的にブチ上げるための魔法の代物だよ」

 

 

「簡単に言えば、アリー・アル・サーシェスに勝つ。コレには欠けている物が多過ぎる。となれば後は何でそれをカバーするのかが問題だ」

 

 

「…ってオイ。気を失おうとするんじゃないよミハエル・トリニティ。一応君の為に説明しているのも同義なんだからね?」

 

 

「で、その補う為の答えというものが……今注入した物だ。言ってしまえば、技量で勝てないならば徹底的に身体能力をぶち上げて、それに+αで何か追加してやれば勝てる…そういった、少々端的な物だよ」

 

 

「僕らしくない?当然だね。ハッキリ言っておくが、僕はコイツに其処まで愛着がある訳ではない。むしろどうでも良い」

 

 

「ただ、其処まで言うんだったら……という理由で、まだ試作段階のあるもののテストベッドにしてやっただけさ」

 

 

「要するに彼の勝ち負けはどうでも良いのさ。僕は今投入したソレのデータが欲しい。ただそれだけ」

 

 

「…まあ、其処までやって勝てませんでしたは流石に僕も腹が立つからね。一応の一矢報いるぐらいはできるようにお膳立て程度はしてあげるよ」

 

 

「……っと、そろそろ可愛い馬鹿弟子のご到着かな?このままだと怒鳴られてしまうね………以前の失言もあるし、仕返しが怖いからそろそろ元に戻そうかな」

 

 

 

 

 

 

「というわけでレッツゴージャスティーン。あ、その時が来るまではキチンと普段通りに生活するんだよ?良いね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在:

 

 

 

回想終了。

――――――なんというか、色々ヤバかった。

 

というか痛みとかその他諸々がないのはそのせいか。ってか、なんで後半の記憶無くしてた俺。

 

概ねぶち込まれた物が関係しているんだろうが――――――っていうか起きた時にあそこが妙にグッショリしていたのもそのせいか。

 

…なんとなくだが、意地でも勝って帰らねばならなくなってしまったような気がする。

―――主にアムロの奴にに告げ口して仕返ししてもらうという意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「損傷甚大!損傷甚大!戦闘不能!戦闘不能!」

 

「ヌ、グォ…?」

 

ハロのそんな声に意識が覚醒する。

どうも意識が少しの間ばかし飛んでいた様だ。

だが、まだ少し靄が掛かっている様に覚束無い。

 

「ッ…!」

 

そこで意識をハッキリさせる為に頭を振ろうとしたのだが、直後に体の中から鋭い痛みが走る。

…おそらくさっきの一件で何本か肋骨が折れたのだろう。

鋭い痛みということは、これは内蔵にもダメージがあるかもしれない。

皮肉な事に頭は痛みで冴えたものの、今度は骨折による嘔吐感が襲ってきた。

頭を軽く叩く事で紛らわせたが……やはりキツイな。

 

「チッ…」

 

舌打ち一つ打って、なんとか資源衛生の影にデュナメスを隠した。

周囲に敵が居ないこの状況は嬉しい物だったが、かと言ってさっき見た『アレ』が何処かで見ていないとも限らない。

バカみたいにボンヤリとしてて、それで殺されるのなんかはまっぴらゴメンだ。

…何にせよ機体の損壊状況から言っても、逸早く母艦へと戻らねばならないという事は明白だった。

 

 

――――――ただなぁ…

 

 

心の中の隅でそんな事を呟く。

というのも、あの時、あの得体の知れないアイツ(ガンダム)から逃げ出す際に見た光景が、嫌に引っかかっているのだ。

 

 

四肢は左腕以外切り飛ばされ、無傷で残っているのは胴体と頭くらい。

その脇にこれ以上無いほど解り易く浮かんでいるビームサーベル。

 

 

…実際問題、アレを見た時の妙な不安感は、未だに払拭できていない。

むしろ、更に膨れ上がっている。

 

 

(……よし。)

 

 

そこで俺はある決意をした。

傍から見てもバカバカしい――――――いや。

 

 

気が狂っているにも程がある事を決意した。

 

 

 

―――それに、あの傭兵は出来れば自分の手で引導を渡しておきたい。

その為の手も、既に俺は見つけていた。

 

「っ!……フゥ……」

 

コクピット上部に設置されている精密射撃用のスコープを痛みに耐えながら外して肩に担ぐ。

内臓怪我してる上に骨折ってる奴が何してんだと色んな方面から怒鳴られそうだが、今はそれを敢えて無視しておく。

何故ならコイツが、コイツこそが『手』の鍵になるからだ。

置いてはいけない。置いてってはいけないんだ。

 

コンソールを叩いてコクピットハッチを開ける。

相変わらず体は痛むが、それでも動き方に気を付けていれば我慢できないような痛みが襲ってくる様な事は無さそうだった。

その事に軽く安堵しつつ、移動用のバーニアを背面に背負ってから、俺は宇宙空間へと身を乗り出した。

 

「グッ…ハ、ハロ……デュナメスを、トレミー、に……できるな?命令だ……」

 

脇腹が少し傷んだ。

それに堪えつつ、相棒へと指示を送る。

 

「ロックオン、ロックオン」

 

「はは……心配すんな。生きて、帰るさ……」

 

手を伸ばして専用の台座にスッポリ嵌っている相棒の、よく撫で慣れたオレンジ色でツヤツヤの表面を改めて撫でる。

そのLEDの目が何か訴えかけるようにしている……みたいに見えるのは、きっと俺の感傷だ。

 

―――が、たまにはそういう風にセンチメンタルになるのも良いだろう。

 

そう思いながら相棒から手を離し、ハッチを蹴ってデュナメスから離れていく。

 

「太陽炉、頼むぜ……」

 

言いながら、もう一度離れていく愛機の姿を見る。

ボロボロだ。

今の俺の様にボロボロだ。

 

(……なんて無様だ)

 

そう思いながら、目を離す。

耳元で相棒が自分の名前を呼び続けている――――――そんな気がした。

 

幻聴だろう。

そう切って捨てる。

 

きっと、俺の感傷が生んだ産物だろう。

そうに違いない。

 

「……生きて帰る、か……」

 

 

 

だからこそ、俺はその感傷を振り切るために、もう聞こえないかも知れないがこの言葉を呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……嘘ついて、ごめんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

覚悟は揺るがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウルォラアアアアアアア!!!!!!!』

 

「ハハッ!テメェ!!」

 

あの3色(トリコロール)のガンダムが残った左腕でビームサーベルを構えながら突っ込んでくる。

それをこっちも残った左腕で保持したビームサーベルで受け流す。

さっきからこんな感じだ。

 

と、いうのも、大将の言うとおりに敢えて向こうの回者からの攻撃を喰らい、ボロボロになった状態で奴さんが離脱したのを見届けた後、大急ぎでビームサーベルを回収、離脱してきたら、予想よりも早い段階で目の前のコイツが追い縋って来やがったのだ。

常人だったら最短でも後5分以上は気絶しっぱなしと言う話だったんだが……どうもコイツは『何かされて』いるみたいだなぁ…そこまで俺を殺したいってか?

 

「イイねぇ…最高だ!!」

 

『ウッがァァァァ!!!!!』

 

そう叫びながら一心不乱にサーベルを叩きつけてくるその様子は、もはや獣だ。

接触回線から聞こえてくる声は明らかに無理をしている事が解るものの、それを捩じ伏せて体を動かしてくるような――――――所謂、手負いの獣を連想させる。

実に俺好みだ。

 

「ウラァ!」

 

『ギッ!』

 

弾きながら柄の尻で胴体を殴り付ける。

やはり四肢の内3本を失っているのは大きいのか、向こうもこっちもかなりバランスが崩れた。

 

が、偶にはこういうのも良い。

 

いつもとは違う状況、環境。

それは命が失われるというスリルを更に増大させ、同時に俺の心にいつもとは異なる刺激を与えてくれる。

 

向こうも手負い。こっちも手負い。

ただし互角ではなく、向こうは中身が満身創痍で、こっちはほぼ無傷。(ただまぁ、軽い打撲っぽいのはあるがな)

 

そこだけが残念だ。

逆だったならば……この戦争(勝負)をもっともっと楽しめた筈なのに。

 

 

(ま、死ぬのは流石の俺も嫌だかんな……)

 

そう思いながら追撃。

左下腕に取り付けられているビームガンで頭を狙う。

 

避けられた。

そんなもんだと思う。

元々当てるつもりなど毛頭なかったのだ。

むしろ避けてくれて嬉しい。そう思ってしまうほどだ。

 

 

下手に追加で損傷されればその分相手は弱る――――――楽しみが続かなくなるのだから。

 

 

 

(…つっても―――あ~…そろそろ限界みてーだなぁ…)

 

おそらく意識の方は兎も角として体の方が限界なのだろう。

動きに精彩が無くなってきた。

立て直すのも一苦労―――そんな動き方だ。

 

どうも痛みや疲労といった類は―――――薬か何かなのだろう―――――そういった物で誤魔化している様だが、それ以外は誤魔化しきれていないらしい。

具体的には―――やっぱ出血とかだろうな。

そうじゃなければ骨折とかか。

 

どちらにしろ、これ以上続けるのは無理だろう。

 

と、なれば――――

 

 

「―――やっぱトドメはきっちりしておかにゃあ、礼儀がなってねえよなぁ?」

 

ビームサーベルを構え、狙いを定める。

残っているビームガンで蜂の巣にしてもいいが、それは少々あんまりだろうからな。

 

意外に思われるかも知れないが、俺は手前を楽しませてくれた奴にはキッチリと敬意は示す。

それはさっきまで殺りあっていたあの狙撃型のガンダム然り、モラリアの時の『アレ』然り。

無論、目の前のコイツもそれに入る。

(とはいえ、クルジスのガキは微妙だな。やはり手の内が解りきってる奴と殺りあってもイマイチ楽しめない。今後の成長に期待ってところか)

 

…と、向こうも体制を整え切った。が、やはり鈍いねぇ。出来ればもちっと楽しませて貰いたかった所だが……まあ、手負いの獲物相手にコレ以上は贅沢かね?

 

 

「んじゃ、アバヨ。楽しかったぜ獣野郎」

 

サーベルを掲げて、振り下ろすモーションをしながら突っ込む。

向こうもサーベルを振ってるが、この間合いとあの速度じゃチト遅い。

良いトコ行って柄で此方を打ち据えるだけになるだろう。

相打ちには程遠い。

 

そう思っている間に既に相手は目の前だ。こっちの鋒は正確にガンダムのコクピット辺りを。

向こうの鋒は案の定塚が当たる位置にこっちの胴体が来ている事で空を切っている。

 

獲った。

 

確信がある。事実この状況から抜け出すには、第3者の介入が不可欠になる。

この状況下で介入できる人間なぞ、そういやしない。

そもそも介入するとしても、その手立てがそこら辺に転がっているわけが――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――っ!!!

 

 

ほぼ反射だった。

突然の警告音に、俺は直ぐ様機体を動かしその場を脱した。

ガンダムにトドメは――――――させていない。

それを認識して舌打ちするのとほぼ同時に、目の前をピンクの閃光が通り抜ける。

大出力の粒子ビーム。しかも狙いは正確だった。確実に俺だけを殺しに来ている!!

 

「チッ!何処だ!何処から!?」

 

機体の目を光らせてそこら中を見渡す。

が、映る物はデブリとガンダム。そしてさっき俺がぶっ壊した、あの狙撃型のガンダムが使っていた大型の追加兵装の残骸程度――――――

 

 

 

 

 

 

(……ん?)

 

違和感を覚えた。

追加兵装の残骸?

確かに俺はファングであの兵装の基部部分を破壊し、バラバラにした。

それは確実だ。

 

……しかし、アレは今居る宙域から少し離れた所での話だ。

流れてきたとは言っても、こんな都合良く、しかもこっちに向けて暴発なんぞする訳が無い。

 

――――――だと、すれば?

 

 

機体のカメラを望遠モードにして、その残骸に注目する。

なにか、妙だ。

野性的な自分の勘に従い、その残骸を目を皿の様にして見る。

 

 

 

 

…すると、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ハハッ…マジかよ………」

 

 

―――居た。

残骸の上に立ち、狙撃銃のような形の特徴的なコントローラと残骸をコードで接続して、

 

 

 

「……まあ、邪魔してくれたのはその根性に免じて許してやるよ」

 

 

緑色のノーマルスーツを着ている人影が、

 

 

「…だがな!!」

 

 

殺意を隠そうともせずにこっちを狙っていやがった!!

 

 

 

 

「そっからどうするつもりだ!?ええ!?同じ穴の狢さんよォォォ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーし、おしおし……やっぱコッチに来やがったな」

 

 

その様子を見ながら、俺は自嘲すると同時に頬を緩めた。

案の定奴を葬るための『手』――――――GNアームズの残骸はデュナメスから程近い所に浮かんでいた。

しかも中に入っている圧縮粒子は丁度2発まで打てるというだけの量というオマケ付きだ。

どうやら此処に至って漸く神様が何かサービスしてくれたらしい。

まあ、元々艦隊の旗艦をぶっ潰す為の粒子チャージ完了直後に壊されたのだ。

こういう偶然があっても可笑しくはない。

 

システムチェック用の接続ラインを用いてスコープシステムを砲に直結するという、突貫作業も良いとこの状態だったが、思いの外不具合はなく、絶好調だった。

作業自体もものの数分で終わった事を見る限り、どうも緊急時にはこうやって使用する事も想定されていたようだ。

……とはいえ、想定されていた“だけ”で、実際に使う気なんぞ無かったんだろうが。

 

(…まあ、いいさ)

 

そう心の中で自己完結してから、俺はスコープに映るツヴァイに目を移す。

左腕以外に四肢はないが、それ以外に大きな損傷は認められない。

つまりはさっきのあの化物と奴はグルだったということなのだろう。

…どうでも良いか。

 

「……」

 

狙いを合わせる。

一直線にこっちに向かってきている分、ロックするのは容易だ。

だが、外せば終わる。相打ちすらできずに、終わる。

 

「…はは…」

 

思わず声が漏れた。

緊張から来る物ではなかった。

ただただ、自分が滑稽でバカバカしくて――――――そこからでた、自嘲だった。

 

「何、やってんだろな。俺は……」

 

 

たった一人で、こんな、味気も何もない、殺風景で、圧倒的な場所で。

 

だが、やるしか無いのだ。

そうでなければ…俺は………

 

 

「……先には進めない?」

 

バカが。そんな訳あるか。

こんなくだらねえ復讐なんぞやらなくても、人は前に進めるんだ。

それをそうやらないのは、俺がまだガキだからだ。くだらねえ、自己満足の為に自分の命を掛金にして、人を一人殺そうとしている。

家族の敵を討つ、なんて、大義名分に酔っている。

 

そんな自分が、酷く矮小だと実感した。

 

 

「……それでも、よ」

 

ゆっくりとトリガーを引き絞る。

そう、それでもやらなきゃ成らねぇんだ。

自己満足とかそういう問題じゃなく、な。

 

そう考える脳裏に、過去の光景が流れていく。

 

幸せだった、家族と一緒に生活していた子供の頃。

 

そんな家族が双子の弟と自分を置き去りにして黄泉路へと旅立っていった、あの自爆テロ。

 

無数に並ぶ黒い袋。

 

動かない家族の遺体。

 

五体満足じゃない遺体。

 

無力感に苛まれていた自分。

 

(…ああ、そういう事か)

 

 

そこまで思い出して、自分のやってる事が一体何であるのかを俺は理解した。

 

何の事はない。

ただの――――――ケジメだ。

俺が、世界と向き合う為の――――――過去の整理を付ける為の、ケジメだ。

 

 

世界があの時のテロを過去の物として整理したように。

俺自身も、あの過去に整理を付けなきゃならない。

 

 

あの時の、無力で、何もできず、誰も救えず、

 

只々呆然としていた、あの頃の自分自身に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――ケリを付けなきゃあならない!!)

 

 

 

 

 

「だからよぉ――――――――!!」

 

 

 

 

 

 

ツヴァイがビームガンを構えた。

撃ってくる。

 

(上等!!)

 

早打ち勝負にも似たこの状況。

呼吸が一瞬止まる。

 

 

 

 

 

―――だが!

 

 

(っ!!)

 

 

突然ツヴァイに何かが組み付いた。

―――ザフキエルだ。

背後から残った左腕と胴体で必死に組み付いている。

その結果―――ツヴァイの動きが、鈍った。

 

絶好のチャンス―――だが、そのまま打てば確実にザフキエルも吹き飛ぶ!!

 

(―――どうする!?)

 

一瞬の逡巡。

だがこれを逃せば確実に次はない。

―――しかし、打てば確実にあのパイロット―――ザフキエルの奴も死ぬ!!

 

 

 

 

…その時、不意にザフキエルの翡翠色の目と俺の目が合った。

その瞬間、俺は全てを理解する。

頭ではなく、心で――――――アイツの覚悟を理解した。

 

 

故に――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――狙い撃つぜェェェェェェ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に気付いた時には、俺はGNアームズの砲から投げ出されていた。

見れば、その中心部分にビーム粒子独特の弾痕がある。

 

目を動かせば――――――在った。

 

 

スローネの残骸だ。胴体部分を丸事消失しているようだ。

 

しかし奇妙なことに、何処にもザフキエルの物と思わしき残骸が見当たらない。

あの距離、あのタイミングでは避けれているとは思えない。

……つまり、跡形も残らず、消し飛んだという事なのだろう。

 

 

(……すまん)

 

目を閉じ、謝罪を述べる。

と、同時に俺は吐血した。

バイザーの下半分が鮮血で染まる。

……コイツは内蔵をやられてるな。どうやら投げ出された時に残骸でも当たったのだろう。

体も、自由に動かないと見るあたり、どうやら本気で限界を超えているようだ。

 

(…ん?)

 

ふと、宇宙空間にキラキラと光る物を見つける。

星の光?……いや、違う。GN粒子の残滓だ。

それが周囲に漂って、何もない宇宙に僅かな彩を加えている。

まるで雪みたいだ。

俺の故郷、北アイルランドの冬は厳しく、その時期になると豪雪によって交通機関が麻痺することもザラだ。

それでも、子供の頃の俺達にとっては遊びに新しい要素を与えてくれる嬉しい存在でもあったし、同時に家族で食卓を囲み、美味しい料理に舌づつみを打つ、とある時期の到来を知らせる待ち遠しい存在でもあった。

 

瞼の裏に、その光景が思い出される。

それはクリスマスだったか―――それとも新年を祝うニューイヤーパーティーだったか?

ライルと一緒にケーキやチキン、ローストビーフやサラダを取り合う、そんな平和な時間も、もう過去の事になってしまった

 

そんな記憶に、笑顔の父、母、そして妹。

今は亡き、愛する家族の姿が映る。

記憶にある、十年前と変わらぬ見た目だった。

思えば当時の両親に歳は近づき、妹とは随分離れている。

思わずそう想うと涙が出た。

 

 

「…わかってるさ……ああ、そうだ………わかってたんだ………」

 

時間は戻らない。例え復讐を果たそうが何をしようが、死人は元には戻らない。

 

「こんな事しても……何も変わらないんだ……そんな事、とっくに解ってたんだ……」

 

過去は変わらず、取り戻したい物を取り戻す事は出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――でも。

 

 

――――――それでも。

 

 

 

「―――――これからの、あいつらの明日は――――――ライルの生きる、未来は―――」

 

 

双子の弟―――唯一の肉親の名を呟いた。

あいつは、俺がこんな所で、こんな事をしているなんて知らない。

今も、AEUの大手商社で、退屈ながらも穏やかで平和で――――尊い、普通の生活をしているはずだ。

そんなライルの未来に影を差すような物を残したくはなかった。

あいつは、俺とは違う。

俺みたいに後戻りの出来ない所で四苦八苦しているような、愚かな事はしない。

アイツはどう思っていたかは知らないが―――――俺からしてみれば、アイツの生きる道はとても眩しかった。

復讐に囚われず、自分の道をキチンと歩めているアイツが――――おれは、酷く羨ましかった。

 

―――と、そう思う俺の視界の隅に、緑色の閃光が映る。

オリジナル太陽炉の光―――――青と白の機体―――――あのきかん坊の乗るエクシアだ。

こちらに近づいてくる。

 

口元が緩んだ。にっと笑みを浮かべる。

そしてこう言ってやる。

 

 

「―――刹那――――――答えは――――――出たか?」

 

 

―――いや、聞かなくていい。

答えが出ても出なくとも、いい。

 

刹那。お前気付いてるか。

お前は今、昔の自分から新しい自分へと変わろうとしてるんだ。

ガンダムで―――いや。

 

自分の力で、な。

 

 

反面俺はダメな奴だ。

あの、家族の死んだ十年前から何一つ、俺の時間は進んじゃいなかった。

世界を変えようとしているのに、自分が変わろうとしてないんだぜ?滑稽だろ?

 

 

「……だから、お前はそのまま変わっていけ」

 

大きくなって、過去の自分なんか置き去りにして行っちまえ。

 

「…変われなかった…俺の、代わりに、な」

 

変なこと押し付けるようで申し訳ないけど。

 

 

 

その時、何故か分からないがその横にあるもの―――青い球体が―――――地球が、目に止まった。

 

命が生まれ、生き、そして死に、また新たな命が生まれる星。

 

生まれ育ったはずのその故郷は、酷く遠い所にあったが―――だが、掌に収まりそうなほどに小さかった。

 

だが、その星が放つ輝きは霞まない。

 

それがきっと、命が放つエネルギーなんだろうな、とぼんやり思う。

 

 

 

だからこそ、こう言わずにはいられなかった。

変われなかったからこそ、その世界を見続けてきたからこそ――――言わずには、いられなかった。

 

 

刹那やティエリア、ユリにアレルヤ、フェルトにスメラギにラッセにクリスにリヒティにおやっさんにモレノ先生に―――――あの不審者野郎も含めて、皆が立ち向かおうとしているからこそ、言わなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よう、お前ら……」

 

 

 

 

ゆっくりと、ギリギリ動く左手で拳銃の形を作る。

 

 

 

 

 

「満足か…………こんな、世界で………」

 

 

 

 

下らない争いが続き、あまつさえ自分達の様な―――ソレスタルビーイングなんてものが出てきてしまう世界で―――

 

 

 

 

「俺は――――――」

 

 

 

 

 

狙いを、定めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌だね」

 

 

そして、指を跳ね上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『その言葉、直接言ってあげれば如何ですかね?』

 

 

 

 

瞬間、体を何か大きな物に抱えられた。

なんだと思うと、直後何もなかった空間に、そいつが現れる。

 

 

 

緑色の目。

頭からスッポリ被った外套――――――見覚えが、あった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……オイ。折角人が格好良く決めたのに邪魔するなよ」

 

『カッコ付けて死のうとしないで下さいね。あーあーボロボロでやんの』

 

「うるせぇんだよ」

 

そう言いながら、俺は軽く笑った。

 

まあ、こうやって生き残るのは何とも腑に落ちない…というか、何と言うかアレだが、まあ、仕方ないな、と諦める。

 

 

 

『…んじゃ、プトレマイオスまでお送りしますよ。残念ながらコクピットは満員なのでシートベルト無しの手の平でご容赦下さいね。あと、あまり睡眠も無しの方向で』

 

「わかったわかった……んじゃ、安全運転で頼むぜ」

 

『えんまーい』

 

おい、どう言う意味だそれ、と苦笑しながら上を見る。

エクシアが近づいていた。

 

地球も―――相変わらず、綺麗なままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ネーナ」

 

「…何?」

 

「………すまん。間に合わんかった」

 

「……ううん。いい。いいよ。アムロが悪いわけじゃないし……」

 

「……そこは、少し罵ってくれた方が嬉しかった、かな」

 

「じゃあ、絶対に罵ってあげない」

 

「…すまん」

 

 

……結局、こうなった、か。

プトレマイオスへの連絡もそこそこに駆け足の百倍くらいの速度ですっ飛んできたが――――――――結局、結果はこれだった、と。

 

 

「……相棒」

 

「……高エネルギー反応確認済ミ。照合完了。ザフキエルト一致」

 

「…そう、か…………帰るぞ」

 

「了解」

 

 

そう言いながら、ロックオンから言われたように、安全運転を心がけてプトレマイオスへと向かった。

ネーナの顔は見えなかったが……泣いているというのは、メットの中に浮かぶ水滴で分かった。

対照的に、涙どころか何も感じない自分が、ひどく腹立たしかった。

 

 

 

 

 

 

「………ごめん、なさい」

 

 

 

最後にボソッとそう呟いて、俺はその場を後にした。

 

……ひどく胸が痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしこの数年後。俺はこの時悲しんだことを全身全霊を持って後悔することになるのだが――――――それはまた、別の話である。

 




というわけで如何でしたでしょうか。
どうも、雑炊です。

大叔母が死んだり業務内容が変わったり現場が変わったり書類作業やったりと、かなりドタバタしていましたが、やっと書き上げられました。
とりあえずロックオン兄貴は生存とのことだったので、今後は生存ルートで話を進めていきます。
……とは言っても、おそらく戦線復帰は絶望的でしょう。
以降は完全に裏方に徹して頂きます。

というわけで解説。



生体CPU
→今回最も悩んだ部分です。結局先行公開と同じような感じにして出させていただきました。
この人の正体は……まあ、大体お判りになりますかね?
なお、今回の一件で師匠は完全にこの手の手法は止める事になりそうです。

ミハエルの修行
→アムロはこれの数倍酷い物がデフォ。ついて行けてるのでこうならないだけです。
で、途中でミハエルがぶち込まれたものは………まあ、これも予想が付くかと。
それでも圧倒するほど、この世界の焼け野原ひろしは強いです。ガチで。


ミハエルくんはどうなったのか?

→一応書けたのですが、お話としての文量が少ないので、そのうち番外編か、外伝か―――――或いは活動報告の部分に小さくひっそりと上げるかも知れません。
真面目に分量が少ないので。
少なくとも結果だけ言うと、彼もまた生きています。
最後のアムロのセリフがヒントですね。
あと以前取ったアンケートもそうです。


という感じですかね?
同時にちょっと宣伝を。
現在アンケを2種類ほど活動報告の方でしておりますのでご興味のある方は是非ご覧下さい。
内容はこれまでのラフ的なアレの処遇と、全回初出のやつの処遇です。


……え?記念小説?………あ~…実はまだオチが定まってないので、しばらくお待ちくださ、い。

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