まさかの一万六千字超。嘗てこの話をここまで長くしたのは居るのでしょうか?
大丈夫か、私。
取り敢えず前回の続きですよ。
では本編をどうぞ。
自らの目にそれが映った時、私は神に感謝した。
同時に、絶望した。
映った存在を誰が動かしているのか、分かったからだ。
初めて会ったあの時、私は彼に『戦うような人間』―――否、『戦えるような人間』ではない、という印象を受けた。
おそらく、それに気付いていたのは私だけだろう。私だけなのだろう。
恐ろしく歪な雰囲気を纏っていた。
どこまでも一般人。たとえ鍛えられた軍人が、武術を極めた達人が彼を見ても、そのような感想しか持たぬだろう。
しかし、私にだけはその歪さが良く解った。
何故とは考えない。
何かそういった波長が合っただけなのだろう。
では、その歪さとは何か――――――明確に口に出そうとしても、それは表現ができない物だ。
所謂、感覚的な物だ。
だが、こういう事だけは解った。
『ああ、この少年は戦う事が嫌いなのだな』と。
しかし、その身からは確かに軍人に近い『戦い』の匂いが染み付いていた。
『闘う』ではなく『戦う』。
同じ意味なようで、全く違うこの二つの言葉のニュアンス。
前者は所謂『闘争心』を燃やすような―――言うなれば、試合や稽古といった、『命のあまり関わらぬ遣り取り』を表すもの。
後者は―――前者とは違い、『命の関わる遣り取り』を表すもの。
彼は―――あくまで私見ではあるが―――前者の物はそれなりに好きなのだろう。むしろ、積極的にそれをしようとしている。
しかし後者は―――もはや、『生活の一部となっているからただやっている』のだろう。
そう感じ取れた。
だが、私個人の意見を言えば、それは是非とも外れて欲しい物だった。
何故ならば、彼からは戦いに対する『覚悟』や『思い』というのが全くと言っても良い程に感じ取れはしなかったのだ。
私にはそれがある。
以前までならば『強き者と戦い、更なる上を目指す』と、『愛している空を汚すような無粋な輩を駆逐する』と、『軍人として戦いからは逃げるような事はしない』という覚悟や思いがあった。
今はそれに追加して、『友との約束の為、“フラッグ”でもってガンダムを倒す』という思いであり、覚悟でもあるそれがある。
あの時一緒に居た少女からも、言い表せはしないが覚悟と思いは感じられた。
が、彼はそんな物がなんだと言う様に空虚だ。何も無い。
普通の一般人と同じだ―――戦いに対する覚悟や思いなど、微塵も持っていない、私達軍人が守るべき対象である彼らと―――ただ、状況に流されている。
そして、再度彼を見た瞬間に、言葉を交わした瞬間に、私は悟ってしまったのだ。
―――変わっていない―――と。
確かに、以前と比べれば幾分雰囲気は変わっているようだ。
成長もしているのだろう。
だが――――――やっぱり変わってはいない。
その根幹にある空虚は―――何一つとして。
そして、私は絶望した。
何故ならば、私が追い求め、倒すべき敵として認識していた中で、話を聞く限りでは最も強く、誇り高い存在なのだろうと思っていた存在の正体は――――――
『―――初めまして、と言うべきですか?“グラハム・エーカー上級大尉”?』
「―――出来ればそう言いたい所だが―――生憎、そうではないだろう?少年」
『ですよねー』
――――――こんな、何処にでもいる、ただの、普通の、一般人の少年だったのだから。
「……酷く侮辱された気がする」
「イツモノコト。イツモノコト」
「……クゥッ!」
そんなコントをしながらも視線は目の前の黒い機体からは外さない。
見た感じ、目の前のフラッグみたいな機体は明らかに非武装だ。
が、フラッグならばそう見えて脚部にミサイルを仕込んでいる、なんていう事は十二分に有り得る。
しかし、解せないのはその姿だ。オービットフラッグを基にしているのならば理解できるのだが、それでもおかしい部分はある。
まず、羽根がない。これに尽きる。
オービットフラッグならば腰部に宇宙用スラスターかコロニーガード仕様ならば背面にロケットブースター用のジョイントがくっついているのだが、それらしき物は無い。
というか、下半身から少しだけ見えるフレーム構造が記憶している物と違う事から確実にオービットフラッグではない。
とすれば残るのはシェルフラッグと呼ばれる地上用か――――――或いは通常仕様機か、オーバーフラッグか。
再度まじまじと観察すれば、肥大化している首元のウイングや肩部分のパーツ、色等から、何となくアタリが付くのはオーバーフラッグだ。
が、納得いかないのは―――あれは地上用なのだ。あくまでも。全体的な性能こそ(とは言っても明確に違うのは機動力のみだが)一般機より高いとは言え、宇宙空間での動きにおいてはオービットフラッグ以下の性能しか出せない。
という事から導き出される答えは――――――
(………新型の実験機、か?或いは全領域対応型の実証機?)
―――となる。何にせよ、未だ世には出ていない機体だろう。そのテストパイロットとして優秀なエースが宛てがわれる事は、決して珍しい事ではない。
後方にいる優秀なテスターより、現場の優秀なスタッフの方が良い意見を出してくれる、というのは物作りや社会における客商売等のビジネスの世界において今も昔も変わらない思考の一つである。(軍がそういうのと一緒くたに出来るのかという部分は放っておく事とする。)
―――勝てるか?
非武装の相手に襲かかる程外道な事はないとは思うが仕方ない。
何せ敵は未知の存在。
ほっておけば後々どんな厄災を引き連れてくるかわかった物ではない。
無意識にトリガーに指をかける。
既にマントの下でOガンダムの左手にはビームピストルが握られていた。
後は攻撃コマンドを入れるだけで、自動的に敵にビームが撃たれる。
無論避けられる事も考慮して、ガンビットも事前に放出済みだ。
舐めてかかれるような相手ではないのは百も承知だからこそのこの采配。果たして吉と出るか、凶と出るか?
「…で?今日はどんな御用ですかね?生憎とこっちはそちらに構えるほど暇ではないのですけど?」
自然と口が動く。隙を作り出すための、というよりかは情報を取れるだけ取っておこうという思考の表れだ。
『何、あの“ガンダム”相手に噂の新型が何れ程やれるのか、興味が湧いただけだよ』
向こうもそれは百も承知なのか、口調は軽いがしっかりと言葉を選んでいる感がある。流石に人を束ねる役職に就いているだけはある。
「…で?どうします?」
『……フム。どうするか、か……』
小細工は効かない―――今の会話でそれはハッキリと解った。ならば、やるべき事はさっさとこの状況を進展させるのみである。
ゆえの今の問。この空気。
これで敵が「ではやろう」等といった日には全力でビームの嵐に飲まれていただきます。
そこ、外道だとか卑怯だとか言うな。常識だからな。
……んが、それで出てきた相手の答えは…というか行動は俺の常識を超えていた。
パン
という音が通信機越しに鳴る。
何だべ、と思った次の瞬間、こんな事を言われた。
『―――では、決闘の予約を取らせて頂こう。今の音はその表明だよ』
「…ウェイ?」
決闘?予約?……ちょっと今の展開からなんでそうなったのかとか、あなたが何言ってるかわかんないですね僕……
狼狽えている。
そう、明白に分かった。
よもやMSが首を傾げて頭上にクエスチョンマークを出すとは思わなかったが、その分彼がどのような心境にあるのか分かり易い。
まあ、確かにそうだろうとは思う。
決闘を申し込まれ、その後直ぐに始めるというのならばよくある話だが、今の私の様に決闘の“予約”をする、というのは些か理解しがたい物だろう。
「何、簡単な話だよ。私のこの新たな愛機―――さしずめ、カスタムフラッグⅡと呼称すべき存在は、未だ不完全なのだ。今、友やその仲間達が寝る間も惜しんでこの機体を完成に近付ける為の努力をしてくれてはいるが、今回はこの様な大規模な作戦に私の嘗ての部下であり、友が参加していると聞いてね」
『……その勇姿を拝む為に無理言って不完全な機体で出てきたと?で、そしたら自分が居たから完成の暁にはタイマン張ってくれと?』
「そういう事だ」
我ながら苦笑が禁じえない。
今はもう別の所属だというのに、ダリルは出撃前に態々この機体の開発を手伝っている私のもとまで挨拶にやって来たのだ。
曰く、「ハワードの仇を取る為に。そして隊長の望みを叶える為―――お膳立ての為に出撃いたします」、と。
お膳立て、とはどういう事かと思ったが、今なら解る。
『フラッグでガンダムを倒す』―――そのお膳立ての為だ。
たった1機で何ができるのかと殆どの者は笑うだろう。
だが、彼がガンダムを1体でも倒す事ができれば、敵の数を減らせれば―――軍は、ガンダムに対してそこまでの戦力投下をする事はなくなるだろう。
そこへ自分がフラッグで一騎打ちが出来るような状況を仕立て上げられれば―――後は言うまでもないだろう。
しかし、それは理想論だ。
現実にそんな事が許されるわけはないだろうと思う。
だが、僅かでも可能性があるのならば、その可能性を更に大きくするために出来る事があるのならば―――彼は、そう思ったのだろう。
そんな彼に、私は何も言ってやることが出来なかった。
辛うじて、その心意気に感謝し、敬礼する事しかできなかった。
だが、やはり私の我慢弱い部分はただジッとしていることを望まなかったようで―――結局、カタギリに無理を言って、この不完全なカスタムフラッグⅡを持ってきたのだ。
その結果として、彼と相対する事が出来たのだからこれは怪我の功名とも言うべきか―――微妙な所か。
と―――ここで不意に私の前方が明るくなる。
それを戦艦が撃沈した際の最後の断末魔の物だと理解した瞬間、この場に居る二人の行動は早かった。
私は咄嗟に推力を全開にして。少年は盾を構えながらその場から離脱し始めた。
無理もない。というのも、この宇宙空間において、輸送艦とは言え大型艦の爆発による周囲への被害というのは、同サイズの物ならばまだしもMSにとってはかなり辛い物があるからだ。
今も私のこのフラッグの横スレスレを外壁だったのであろう破片が通り抜けていった。
当たっていれば―――おそらく、元がフラッグであろうと無かろうと防御を捨てて、且つかなりの軽量化を施す事でより高い機動力を確保しているこの機体では一堪りもなかっただろう。
『――――――っ!?GNドライブ!?』
ほう?どうやら気付いてくれた様だ。
見れば破片を避けながら注意深く目だけをこちらへと向けているガンダムの姿が見えた。
思わず感嘆の声を漏らしかける。
何せ爆発点から飛んでくる破片を一切目にする事無く避けているのだ。高性能なサポートCPUを積んでいるか、或いは本人の技量の高さの現れか。
どちらにしても、彼との決戦が心躍るものになりそうだということを私に知らしめるには、十分過ぎる物だった。
「では―――また会おう、少年!!是非とも良い答えを聞かせてくれる事を切に願うぞ!!」
『いや、ちょっと待ちなさいって!え?ナニコレ!?実質俺に拒否権無いじゃん!?次会ったら強制的に戦闘開始じゃん!?え?!ちょい待ち?!ホントにドユコトこれ!?』
「ハーハッハッハッハ!!ア、デュー!!!」
『ちょちょちょちょちょちょちょちょ!?』
本当に次に相対する時が楽しみだな!少年!!
「……行っちまったよ…………」
「…ど、どうするの?」
「ん?ん~………
―――――――――取り敢えず見つけ次第に全力で逃走するわ。ある事無い事言いふらしながら」
「なにそれひどい」
「外道、外道」
「黙れ」
既に国連軍の輸送艦隊は既に壊滅といったも良い状態にあった。
今もまた、一隻がGNアームズから伸びた四条の光の線によって戦隊に大穴を開けた後、爆散していく。
既に他の艦船はGNアームズの姿を確認し、リニアライフルによる弾幕を展開していたが、未だ味方の撃沈による混乱から抜けれてはいないと推測できる。
その殆どの弾頭は虚空を切っているのだから、仕方がないな。
銃座は今頃大パニックなのであろう。
その結果、弾幕は今のGNアームズにとって威嚇の意味すら持ち得てはいなかった。
そんな中、デュナメスのコクピットで俺は輸送艦の残骸を横目に無意識に奥歯を噛み締めていた。
(…たったの1機でこれほどとはな…大したもんだよ、全く)
ほぼ一撃で戦艦が撃沈するほどの火力。
それが生み出した、敵輸送艦隊の壊滅寸前という惨状。
だが、その戦果を前にして心は冷えている。
戦艦を撃沈するというのは―――それに乗っていた、顔も知らない誰かの命を百人単位で宇宙に散らせたという事なのだ。
後悔こそしてはいないが、罪の意識はキチンとある。
大量殺人を仕出かした後に歓喜と達成感を覚えるほど俺の精神は単純じゃあない…と、思う。
それでも。
そう呟いた自分の声が聞こえた。
だが、口は一切開いちゃいない。
これは、俺の心の声だった。
後悔の二文字はスナイパーを志したその日に自分の心からは除外されていたしな。
リニアライフルを乱射してくる敵艦は残り2隻。
MS部隊は遥か遠く、トレミーの方だ。深入りをし過ぎたのは失策だったな、と敵の司令官と会話ができるなら言ってやりたい。
いわば今の俺はチェスで言う敵のキングのいる列に入り込んだクイーンだ。しかも敵の駒の殆どはこっちの陣地に入りっぱなしと来ている。
要は、チェックメイト寸前だ。
逆にこっちには優秀な駒―――ナイト、クイーン、ビショップ、ルークが勢揃いな上、クイーンと同格になったポーンが2機居るのだ。
後者がアテにはならないとしても、十分場はこちらの方へと傾いてきている。
後はゆっくり……してはいられないのでさっさと
「悪いが、墜ちてもらうぜ?」
狙いをつけて、トリガーを引く。
片目こそ使えないものの、こんなシステム頼りの簡単な狙撃くらいは普通にできる。
特に、俺のガンダムなら尚更だ。出来ないといった日には確実に何処かが逝かれている。
目の前でまた1隻沈んだ。
紫色の独特な煙―――推進剤等の不純物の混じりあった酸素の塊だ―――が膨れ上がって、やがて虚空に消えていった。
――――――次でラスト!!
続けて大型ライフルの銃口を残る1隻へと向ける。
コイツで全てが終わる。そう確信しながら。
――――――しかし次の瞬間目に飛び込んできたのは大型ライフルが爆発する光景だった。
「何!?」
思わずそう声を上げながらユニットごとパージする。
爆発の仕方からして、明らかに整備不良だとかそういったたぐいで引き起こされる不具合からの物ではない。
―――攻撃だ。しかも、粒子ビームを用いた攻撃。
(気を抜き過ぎてたってのか!?クソッ!!)
だがそう悪態も吐いていられない。
輸送艦からはリニアライフルの嵐。そして四方八方からの粒子ビーム。
辛うじて回避運動は取れたが、それでも何発か食らう。
お蔭様でGNアームズはもう既に満身創痍だ。
デュナメスまで被害が来なかったのが奇跡かとも思えるぜ。
(よく頑張ったよ、GNアームズ!!)
心の中でそう呟きながらアームズ其の物をパージする。
次の瞬間、GNアームズがデュナメスの真後ろで爆散する。
が、どうも基部だけがぶっ壊れたようで、それ以外は自動的にパージされていたらしい。
幾つかの装備はまた後で回収すれば使えそうだった。
結局対艦攻撃はあと1隻残して終了になった。
「ええい、しつっけーんだよ!!」
しかしその事を悔やむ間も無く粒子ビームが再度襲いかかってくる。
いやらしい機動を描いていると思えた。
誘い込まれているような気分だった。
不意に視界の隅にオレンジ色の何かが映った。
左腕の装着型ハンドガンで此方に威嚇射撃を行いながら突っ込んでくる、“それ”。
大型の大剣を肩にくっつけ、腰に大型のスカートバインダーを装着しているそれは、素晴らしく見覚えがあった。
厳密には、ちょっと前に交戦しそうになったり、助けられたりしていた。
ガンダムスローネ・ツヴァイ
そいつは威嚇射撃も程々に俺の隣をすり抜けて言った後、突然こちらを向いて右手で合図を出してきやがった。
曰く、『こっちだ』、と。
ご丁寧に首も動かして誘っていやがる。
珍しく自分でも異常なくらいギリギリと歯噛みしていると自覚できた。
眉間には皺を寄せて、目が釣り上がる。
心臓はバクバクと音を鳴らし、頭は怒りの炎で沸騰していた。
「アリ・アル・サーシェス……野郎……!」
上等だ。いい度胸じゃねえか。ぶちのめしてやる。泣いても謝っても許さん。八つ裂きだ。
そんな言葉が頭を駆け抜ける。
無理もなかった。
あいつは戦いを呼ぶ権化であり、刹那の話を信じるのだとすれば、間接的には俺の家族の敵でもある。
そして――――――あのガンダムバカ娘を、こんな修羅もびっくりの血塗れた道に引きずり込んだ、史上最悪の戦争狂だ。
「……生かしておいてなるものかよ……!」
迷わず俺はその背中を負った。
ただ、復讐の二文字。それだけが、今の俺の思考を占めていた。
ラグランジュ1の資源衛星郡における戦闘の光がモニターで見えるレベルまで、既に教習用コンテナは到着していた。
それでも望遠モニターを用いてやっと見えるのだから、距離的にはざっと数万キロの距離だ。
『刹那。ポイントを確認した』
「わかっている。見えている」
言いながら強襲用コンテナからGNアームズを分離。
完全に離れたのを確認してから、続いて自身もエクシアで虚空へと躍り出る。
モニターの映し出す物がコンテナから宇宙空間へと変わるやいなや、機体を制御して体勢を変え、目指すべき宙域を視界に入れる。
あそこで仲間が戦っているのだ。
トレミーが国連艦隊を補足したという暗号通信を最後に、皆とは連絡が取れてはいない。
戦闘中だから仕方ないと言ったらそれまでだが、それでも情報の不足は私の不安を加速させるのには十分だった。
おそらく、あの光の大きさからすれば、既にサキエルがその大量の重火器を持って艦隊を火達磨にしているか、或いは………考えたくもないが、負傷しているはずのロックオンがGNアームズTypeDで対艦戦闘を行なっているか、だ。
スメラギ・李・ノリエガは確実に彼を出撃させようとはしないことは分かっているが、ロックオンはそれを良しとしないということは明らかだ。
絶対に何かしらの手で持って出撃しているのだと思う。
それでも、それを見越して他のマイスター達が手を打っているはずだ。
それが成功したのであれば、実質3機で擬似太陽炉搭載機を相手取らなければならない。
更に言えば、スローネツヴァイを奪取し、その上空に上がったというアリ・アル・サーシェスの事もかなり気にかかる。
『行ってこい、刹那!』
「そうさせて貰う」
少なくとも、今、現状で自分が出来る事など皆無に等しい。
ならば、一分一秒でも早く、あの戦線に自分も参加する事こそが、今の自分の役目だ。
「トランザムを使う」
GNアームズにドッキングし、私はトランザムを起動した。
これでも使えるかどうか心配だったが、どうやら杞憂だったらしい。
エクシアだけでなく、GNアームズの装甲も赤く光り、明らかに通常よりも速いスピードで動いているのが解る。
―――間に合うか?
そんな疑問が心の中で浮かんだが、頭を振って思考の隅へと追いやる。
間に合うか、ではない。
間に合わせるのだ。
兎に角、やるしかないのだ。今は。
そう、自分に言い聞かせた。
「クソッ!!利き目!!こんな所で影響が出やがるか!!」
GNスナイパーライフルで攻撃しながら、俺はボヤいた。
さっきからスローネに弾が一発も当たらない。
それは勿論奴の腕もあるのだろうが、それ以前に狙いが上手く付けられてないのが最大の原因だった。
眼帯の違和感は相変わらず拭えないどころか更に増しているし、それに伴って積もっていく不快感によって集中力は乱れていく。
結局の所、これじゃあスローネの機動力相手にスナイパーライフルを当てることはかなり難しい。
所謂、至難の業って奴だ。
万全の状態ならともかく、今の効き目が使えない俺じゃあ無理だな。
「仕方ねぇか…!」
スナイパーライフルを大人しく仕舞って、右手にGNビームピストル、左手にビームサーベルを持たせる。
所謂、インファイト装備っていう奴だ。狙撃能力しかクローズアップされてはいないが、基本デュナメスだって格闘戦はできる。
問題は奴の攻撃が右側…つまり、今の俺の死角から襲ってくる可能性があるということだ。
今の所はまだ大丈夫だろう。だが、いつボロを出してしまうかはわからない。
そうなればおしまいだ。ファングでズタズタにされるだけだろう。
(そうなる前にケリは付けたい所だが……!)
そう思った矢先、突然資源衛星の影からスローネツヴァイがバスターソードを構えて飛び出してくる。
速い。ピストルでの対応は不可能だ。
咄嗟に左手のサーベルで振り下ろされたバスターソードを受け止める。
GN粒子でコーティングされたEカーボンとビームの衝突する独特な音がコクピットに響き渡った。
ディスプレイ越しに仇敵が乗っているであろうスローネツヴァイのコックピットを睨む。
鍔迫り合いで発生している光でよく見えないが、今の俺の目線の先にはその位置は大体解る。
「KPSAのサーシェスだな!?」
有視界通信回線を開いて、奴の顔を拝みながら詰問するように怒鳴る。
何とも粗暴そうな面構えだった。髭を剃っている分幾らか清潔な雰囲気を醸し出しているが、表情に浮かぶ狂ったような笑みで全部マイナスだ。
こいつはどんな聖人君子でも狂人扱いだなと感じるような顔だった。
『ハっ…大方あのクルジスのメスガキにでも聞いたか?』
――――――認めやがった!!
そう解釈しても良いだろう。
これで表情に少しでも変化があれば疑うところだが、そんな素振りは一切無い。
ビンゴだった。
その声を聞いた瞬間、俺の瞳は怒りで大きく見開かれる。
奴の声を聞いたのは初めてだったが、そこに浮かんでいた愉悦と侮蔑――――それらを認識した瞬間、背骨が不快感と嫌悪感、それがない混ぜになったような衝撃で酷く粟立った。
「アイルランドで自爆テロを指示したのはお前か!?どんなつもりであんなことを仕出かしやがった!?」
『俺は傭兵だぜ?しかも自分の本能に忠実な最低野郎と来たもんだ……故に依頼があれば、金の為、心躍る戦争の為にに何だってやる物なんだよ……それになぁ……』
サーシェスはニヤリと擬音がつくように笑った。
瞬間俺の背筋が寒くなる。急いで操縦桿を倒してその場から離れた。
次の瞬間、スローネがバスターソードを振るうと同時に今デュナメスのコクピットがあった空間を血の色の閃光が貫く。
反射的にピストルで出処を撃った。
ファングだ。
運良くよけられたから良かったものの、気づけなければ今頃は……ゾッとする話だ。
何とか今一つ潰せたのは僥倖だった。
改めて奴を見ると、向こうは勢いをつけて再度こっちにに斬りかかってきていた。
それに俺が対応することで、再び鍔迫り合いが開始する。
『AEUの軌道エレベーター建設に中東が反発するのは至極当たり前じゃねぇか。わかってんだろ?』
「関係無い人間まで巻き込んでやる事じゃあねぇだろうが!!」
『テメェだって同類。俺みたいなののお仲間だろうが。紛争根絶…そんな甘っちょろい理想をを掲げる稀代のテロリストさんよぉ!!』
「…咎は受けるさ」
ひどく自然とそんな言葉が口から出る。
当然だ。
今まで殺してきた、或いは傷つけてきた人々。そいつらの怒りも、憎しみも、悲しみも、どんな感情だって、受け止める覚悟はとうに出来てんだ。
当然だが、全てが終わればその咎を受けるつもりはまんまんだ。
――――――ただし!!
「テメェをブチ殺した後でなぁ!!」
鍔迫り合いをしながらデュナメスの腰部装甲を展開。そこに装備されたミサイルを迷う事無く全弾発射する。
『おぉっとビックリィ!!』
だが、奴の操縦技術はやはりかなりの物だった。それを改めて認識させられる。
一気にこっちと距離を取りながら、ミサイルを避け、或いはハンドガンで撃墜しやがった。
撃墜されなかったのも、資源衛星に当たって粉微塵に粉砕するに留まる。
思わず舌打ちが出た。
そのまま他の資源衛星郡に逃げようとする奴を、感情に任せて追いかける。
「許すものかよ……!」
そうだ。今口から漏れた言葉の通り、奴の行いは到底許せたものじゃねぇ。
GNスナイパーライフルでその背中を狙い撃つ。
無論、避けられるのは最初から織り込み済みだ。
狙いはその隙に距離を詰めることにある。
ハンドガンによる反撃。
しかし明らかに威嚇行動だ。
このまま突っ込める。
一気に距離を詰めてビームサーベルで切りかかる。
向こうは勿論バスターソードで応戦してくる。
肩のビームサーベルを使わないのには気になったが、おそらくあれは緊急用なんだろう。そう、解釈しておくことにした。
時々剣戟の合間にピストルで狙う。が、避けられる。
向こうもハンドガンで狙ってくる。が、それを俺も避ける。
何度も何度も剣を交え、撃ちあう
奴はこの瞬間、この戦いを楽しむ為。
俺はある意味一方的な復讐の為。
どっちも完全に歪んでいる。だが、それで良い。
少なくともその部分は今、全く意味をもつことはない。
「テメェは戦いを生み出す権化だ!!元凶…疫病神其の物だ!!」
『喚いてろ!!』そう、奴が言う。
『同じ穴のムジナがよぉ!!』
「ふざけんな!!テメェみたいなキチガイファッキン野郎と一緒にすんじゃねぇ!!!!」
感情に任せながら不意打ちで蹴りを繰り出す。
幸運にもヒットした。しかも肝心の獲物を持っている方だ。
『うぉっ!?』
スローネツヴァイの体制が崩れる。崩れてくれた。
ほぼ反射的に右手のピストルでバスターソードを持つ手を狙い撃ち、そのまま左手のビームサーベルを逆手に持ち直して振り上げる。
勢いよく振られたそれは、胸部装甲の端っこと頭部のアンテナごと、ツヴァイの右腕を切断した!
『ゲッ!?やべぇ!?』
奴の焦ったような声が聞こえる。
思わず口元に笑みが浮かんだ。チャンスだ。そう思った。
(逃がしゃしねぇ……いや、逃せねぇ!!!)
慌てて逃げる奴をライフルを再度右手に持って追いかける。
当然だ。
あいつはここで殺しておかなきゃ、またどんな災厄を振りまくかわからねぇ。
だったら、今、ここで、確実に殺しておくべきだ。
「俺はこの世界を……!」
そう言ってから、操縦桿を握る。
その、次の瞬間だった。
「敵機接近、敵機接近」
「んなっ!?」
思いもよらないソレに、俺の意識がサーシェスから、一時其方へと移った。
突っ込んできた機体――――――GN-Xに乗っていたのは、嘗て尊敬すべき上官と友と共にフラッグという愛機を駆って大空を飛び回り、今はその二人のどちらとも離れ、ただ一人恥を忍んでこの機体に乗った男だった。
「そこにいたかよ、ガンダム!!」
ユニオン所属のダリル・ダッジ准尉はまさに怒りに駆られた阿修羅の如き形相で、GN-Xをデュナメスに突っ込ませていく。
曹長から准尉に昇格したのは喜ばしい事だったが、その結果としてこの機体に乗ることになったのには、実際のところ彼は良い印象を持っていなかった。
―――だが、それは今何一つとして問題になることではない。
先の対艦攻撃により武装の殆どを潰された彼の愛機は既にほぼ徒手空拳以外での戦闘は不可能になっている。
だが、それでも妥当せねばならない敵が居る事を彼自身は理解していた。
だからこそ、残った1隻の輸送艦―――本作戦における旗艦の護衛を無視してまで、ここまでやってきたのは、その為であった。
「ハワードの仇だ!!」
―――そして、隊長の望みを繋げる為に!!
裂帛の気合と共にGNクローによる格闘戦を行う。
ハワード・メイスン准尉はフラッグがユニオンで正式配備され、それが自分に回ってきて以来の戦友だった。
いい奴だった。
少し斜に構えた部分もあったが、それでもいい奴だったと断言できる。
無論、彼以外にもオーバーフラッグスとして国連軍に参加してからも数多くの戦友達が屠られてきているのは記憶に新しい。
その度に、苦渋も辛酸も耐え、ただただ拳を握り締め、復讐の機会を伺ってきた。
既に生きているパイロットで親しい戦友は嘗ての上官―――グラハム・エーカー上級大尉ぐらいしかいない。
―――だからこそ!
(あの時墓前で誓ったあの約束!!今こそ果たさん!!)
「死ねよやぁぁぁぁ!!!!!!」
眼前のモスグリーンのガンダムが腰からミサイルをこちらに向けて放ってくる。
しかし、ダリルはGN-Xの片腕で頭部とコクピットを防御しながら突っ込んでいく。
当然だ。ここまで来て、逃げるという選択肢はない。
ミサイルがヒットした。装甲の内側に、圧縮粒子が注ぎ込まれる。
その衝撃は凄まじかった。
防御していた左腕がもげる。振動でコックピットのモニターに頭部を思い切りぶつけた。
バイザーが割れ、破片が頭に突き刺さる。
目に刺さらなかったのは僥倖だった。
流血によって視界が赤く染まっているが、何一つとして問題はない。
推進力も落ちてはいない。
―――行ける。
思わず口元に笑みが浮かんだ。
そう、行けるのだ。これならば、ガンダムを倒せる。できなくても、手傷くらいは負わせられよう。
―――それで、十分。
――――――矜持を見せろよ。
ハワードの声が聞こえた。
幻聴だと思う。
だが、それでも聞こえた言葉は今の彼を更に奮い立たせるのには十分だった。
(良いだろう。そこで見ていろよ。―――これが、俺の矜持だ!)
敵は更に右手のピストルで此方を狙ってきている。
その粒子ビームを避けながら、ダリルはGN-Xをガンダムの右側に突っ込ませる。
何故だかは解らない。
が、そうすれば良い、という根拠無き確信があった。
もう既に敵は目前だった。
もうGN-Xは両足を無くし、左腕も付け根から無く、挙げ句の果てに頭部は半分死んでいる。
―――だけど、右腕だけは残っている!!
GN粒子でコーティングされた、クローが!!!
「俺は…!」
右腕を伸ばす!狙いは敵のコクピットがあるであろう腹部!
「俺は……!!」
機体の出力リミッタを解除し、擬似太陽炉を暴走寸前の状態にする。推力は更に上がった!!
「俺、は……!!!」
レバーを全開で前に倒し、一気に加速。腕を突き入れる!!!
「俺は……!フラッグファイターだぁぁぁぁぁ!!!」
―――その時、彼にとって最悪の偶然が起こってしまった。
突然、血の色の光が、ダリルのGN-Xを襲った。
四方八方から、粒子ビームによって貫かれ、切り刻まれ、哀れな事に最後の一瞬をキチンと把握できぬままに、ダリルの体は蒸発し、この世から消えていった。
ロックオンはそれを見た瞬間、反射的に機体を逃した。
見えない右側からの特攻―――おそらく、今のでサーシェスにはこちらの負っているハンデが判ってしまっただろうと思う。
しかし、だからといって味方まで攻撃するのだろうか?
放っておけば、確実に手傷を負わせられた俺を助けるような真似までして?
混乱が頭の中で渦巻く。
意識こそ警戒に当てているが、それでも理性は疑問の渦から抜け出せられてはいない。
そんな状況下、答えを持ってきたのは―――
『ヒ………ヒヒヒ……ヒヒハヒャハヤヒャハヤハヤヒャハヤハ!!!!!!!!!』
「っ!?」
そんな、狂っているとしか思えないような、笑い声だった。
雌伏の時間は終わりだ。
正しく、今の俺にはその言葉があっている。
道中その内の一つかも知れないと思って旧世代のアレコレや、あのクソ忌々しい灰色の雑魚共を纏めてバラバラにしてきたが、どれも違った。
それで、イライラが募っていたのは認めよう。実際限界だった。
それで、今もまた灰色をを一機落としたのも認めよう。だが、別に悪い事じゃないはずだ。
問題は、俺の眼前にそいつがいやがったという事だけだ。
懐かしいツヴァイが右腕を無くして其処に居る。
それだけで、十分だ。
中身が誰だとかは一発でわかる。確信がある。
口角がつり上がって、端から泡が出てくるが知ったものか。
そこまで俺は喜んでいる。
下世話な話だが、下の息子もビンビンだ。大興奮だ。
ああ、早く殺してやりたい。
バラバラの八つ裂きにしてやりたい。
だが、既に俺の機体はもうエネルギー切れ寸前だ。やっぱり暴れ過ぎたらしい。
どうもコイツはいけねえな。
そう考えて、追加パーツの予備電池を起動。
擬似太陽炉に電力を満タンまで充填した後、余分なパーツは全部切り捨てる。
元々そういうモンなのだから、怒られはしまい。
深呼吸を一つする。
武装をチェック…オールグリーン。
ただし、ファングが使えなくなったのがちと残念だが…まあ、問題はねぇ。
むしろあんなのに頼りきりじゃあ、兄貴よか強くなったとは言えねぇからな。
(…なぁ?そうだろ?)
いない人間に心の中で問いかける。
答えは帰ってこない。
それで良い。
それで良いんだ。
後は妹が、可愛い妹が幸せになればそれで良い。
あの男なら多分してくれるはずだ。
だから、俺は―――
「――――――アァァァァァァァァリィィィィィィィアルサァァァァシェスゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!」
――――――後先考えずに、この男を殺す事だけに全身全霊を注ぐとしよう!!!!!!
『オラァァッァァァァァ!!!!!!!!』
『チィッ!テメェ!!!』
果たして俺の目の前では、中々理解し難い光景が広がっている。
突然現れたスローネによく似たトリコロールの機体―――あの不審者の機体だ―――ザフキエルがスローネツヴァイに右手に持ったロングバレルのライフルで殴りかかる。
見た感じ、ソレに刃の様な物体は付いていない。長い物は明らかにただのバレルだ。
しかし、それはそこそこ強度があるのか、ツヴァイの頭をぶん殴った割にはひしゃげた様子はない。…だとしても、それで殴りかかるというアレは出ねぇだろう、普通…
(……っと、うかうかしちゃいられねぇな)
何はともあれコイツはチャンスだ。
サシで戦ってあの野郎を殺せないのは少々残念だが、そんな事を言っていられる状況じゃあねぇもんな。下手な感傷でチャンスを逃す…なんて事はバカとガキのやる事だ。
少なくとも俺は歪んでいるし、そんなに大人じゃないが、そこまでガキでも馬鹿でもない。
デュナメスの右手にGNスナイパーライフルを持たせてツヴァイを狙う。
ザフキエルはロングバレルライフルをしまい、両肩のGNバスターソードを取り出してツヴァイに猛攻を仕掛けている。
一方のツヴァイは防戦一方…じゃねぇ。ファングとハンドガンで上手い事対応できていやがる。改めてその技量の高さに舌を巻く。
その内ザフキエルはバスターソードを片方破壊される…というか弾き飛ばされた。
一瞬だが俺が取りに行こうかと思ったが、やめた。
既にこのデュナメスには無理をさせ過ぎている。下手に対応していない武装を使って土壇場で関節逝かれました、なんてトラブルは真っ平ゴメンだ。
「おっし鍔迫り合いに入ったな」
視界の中で、2機がビームサーベルとバスターソードで鍔迫り合いになる。
…つまり、動きが止まるというわけだ。
そうなれば、例え効き目をやられていようと疲労していようと、俺の腕なら狙い撃てる。
「ハロ、ザフキエルに暗号通信。そのまま「モウヤッタ、モウヤッタ。“ソノママ抑エテロ”モウ送ッタ」…本当にお前は最高の相棒だよ」
いつの間にやら俺の思っている事が解るようになっていたのやら……本当に、本当にコイツには助けられる。
既に照準は付いていた。
狙うはツヴァイの頭部。
確実に仕留めるにはこの状況で奴の動きに隙を作るしか無い。
無論、本音を言えば奴の居るコクピットを狙い打ちたい所だが、俺の今居るここからではそれだとザフキエルも狙い打たねばならない。
かと言って場所を変えようとすればその間にアイツが抜け出てしまう恐れもある。
だからこそ、狙うのは頭部だ。
そこを潰せばどんな凄腕だろうと、どんなにキチガイ野郎だろうと必ず怯む。
生身、MS搭乗時関係なしだ。
むしろMSに乗っている方が怯み易い。
何せ一歩間違えれば外の様子が全く分からなくなるのだ。
そうなると、後は救助を待つか、我武者羅に動くか、或いは死ぬのを待つだけだ。
2機とデュナメスの距離は目算で約500mちょい。
障害物はほぼ無し。
全力を出せば一瞬で近づける距離。
…つまりは味方の存在を考えなければビームサーベルで十分奴を仕留められる距離!
(だが、それはやる訳には行かない)
そう頭の中で呟いて、狙いを付ける。
既に照準サイトのど真ん中には奴の頭部が見えている。
後は引き金を引くだけだ。
それで、終わる。
「んじゃ、ま…」
視界の中でザフキエルが“クン…”と首を動かした。馬鹿野郎バレるだろうが、と怒鳴りたくなったがそうもいかない。
そんな事言ってたら逃げられるからな。
…だから……
「―――狙い撃つぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
――――――――残念だけど、そういう訳にも行かないんだよね――――――――――
「っ!?何!?」
突然聞こえたその声に俺は慌てて機体をその場から逃がそうとした。
背筋の凍るような、変成器を確実に通していると解る甲高い声。
その声の感覚は正に怖気が走る様な物。
虚空から這い上がってきたかの様な、おぞましい何か。
それが何なのか、誰からなのかを明確に認識する前に。
「っ!グアアアアアアアアアアアァァァ!!!???」
凄まじい衝撃とともに機体が揺れた。
コクピット内に紫電が走り、部品がひび割れ、飛ぶ。
それは何個か俺の体をノーマルスーツ越しに突き刺すほどの威力と鋭さを持っていた。
見れば辛うじて無事なモニターに、デュナメスの頭部、右腕、両足、左肩が大破ないしは中破したという表示が出ている。
…今の一瞬で、だ。
相棒が俺の事を呼ぶ。
が、明確に耳に入ってこない。
視界がボヤけ、意識が遠くなる。
どうも想像以上に俺の体はダメージを受けているらしい。
拙い。
そうとだけはハッキリとわかる。
こんな所で気をやれば、確実に俺は死ぬ。
が、手に力が入らない。
ギリギリノーマルスーツに循環している冷却液兼用の止血用吸水ポリマーが肌にくっ付き、そのヒンヤリとした感触があるのはまだ俺の意識が消え去ってはいない証拠だ。
しかし体に力が入らない以上は、それが解った所でどうしようもない。
必死に口を動かして、相棒に指示を出そうとする。
「ハ……ロ…グッ…じ…動「モウヤッテル、モウヤッテル」…スゲ、ェな、お前……」
…うん。やってくれてたわ。流石は俺の相棒だよ。マジで。
だが、それでも限界はある。精々敵の攻撃を避けるくらいは出来そうだが、果たして何処まで持つものか……
――――――…Oh。まだ動けるん……ああ、サポートAI……しぶといなぁ…――――――
全身に悪寒が走る。
さっきの声だ。
またしても頭の中に響くような声。
明らかに通信機ではないその音に俺は恐怖する。
しかし、冷静な部分はそんな状況下でも必死に目を開けて動かし、その声の主が何なのかを探る。
どこだ?何処に居る――――――
――――――こっちだよ。こっち――――――
再びの声。
しかし今度は何となくその位置が解った。
ハッとしてさっきまでザフキエルとツヴァイが鍔迫り合いを行っていた空間を見れば――――――
――――――そうそう。こっちだよ。こっち――――――
――――――居た。居やがった。
白と赤とクリーム色のトリコロール。
四肢からは黄金の羽の様な物を伸ばし、背中からも似たような物を2本生やしている。
何とも目を引くのはさっきのGN-X達とは違い、流線ではなく俺達のガンダムの様に角張ったボディー。
そして――――――額から生える2本の角。意志を感じさせる目。後頭部に生えた、まるでジャパンの中世にいたサムライの頭の様な突起物。
口元にある、まるで獣の牙の様な物が生え揃った“クラッシャー”。
つまり、その機体の見た目こそは――――――
――――――ガンダム。)
口からはその言葉は出なかった。
だが、奴はそれが聞こえたようだった。
カメラアイの筈の目が細まり、クラッシャーが少し開き、まるでニヤリと言うよりはニッコリと笑ったような―――そんな気がした。
それを見て俺の心に浮かぶのは恐怖だ。当然の様に。
思わずロクに動かない腕を必死に動かし、フットペダルを踏もうとする。
が、ロクに動かない以上その行動は無意味だ。離脱するスピードは変わらない。
やがて俺はそのガンダムの傍らに浮かぶ、オレンジとトリコロールの2機をやっと意識的に認識できた。
その2体も傍から見てどう考えても死に体だった。
四肢は左腕以外切り飛ばされ、無傷で残っているのは胴体と頭くらいだ。
その脇にはこれみよがしにビームサーベルが浮かんでいる。
―――嫌な予感がした。果てしなく、嫌な予感が。
それを認識してから、とうとう俺の意識は限界を迎え、俺は気を失った。
如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。
今回で『復讐の果て』は一区切りです。
『え?中編じゃねーのこれ?』と思った方。残念ながら違います。
まあ、状況は次回まで続いていきますが。
要は次回で題名がガラッと変わるだけですね。
では、解説。
アムロの本質が一般人?
→なわけないでしょう。奴の本質はあくまで『逸般人』です。
まあ、ハムさんも『逸般人』なので勘違いしちゃったんでしょうね。
ダリル
→ファンの方には申し訳ありませんがこんな結果です。
因みに彼のシーンのテーマは『無情』です。
んなドラマ見てーなことそうそう起こるわけ無いでしょ、という『人生の無情』という物を描いています。
何気に今の自分を皮肉ったものだったり……
ミハエルの視点は?
→奴は次回がメイン回なので今回は意図的に描写を少なくしています。
表現が狂ったみたいで汚いのは……まあ、次回でその理由がわかるかな、と。
最後のアレ
→まあ、機体はお判りになるかな、と思います。分からなければMSVで検索を。
中の人は……ネタバレなので言えませんね。
というわけで全ての決着は次回となります。
では、また次回!!
追記
そういえば、活動報告にて行っているハムの今後アンケートに追加して、もうちょっと経ったらまた別のアンケを行おうと思います。できれば目をお通し頂けるとありがたいです。
……にしてもマニュアル全部作り直しとか……キツイわぁ……(完全私事