ガンダム00  マイスター始めてみました   作:雑炊

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今回はこの前書きをしっかりと理解した上での閲覧をお願いします。


今回はあまりお話は進みません。
あと、文中に少し不謹慎にも程があるネタが入っておりますのでそういう物に不快感を感じる方は、冒頭以降の閲覧をお控えください。マジで。
念の為オリジナル版と比べて表現を私が和らげられる分だけ和らげましたが、それでも少しキツい方にとってはキツいかもしれません。
一応こんな事したのはこういう理由があるからだよ、というのをあとがきに書き込んではいますが……
あるいは、途中を飛ばしてください。

そんなの無いよという方だけどうぞ。


二十話―――葬式に出るときは身嗜みも大事だけどそれよりも先ずは喪主に恥をかかせないという心構えをしましょう

西暦2309年 某所

 

……あら?めっずらしいわね?本当に来たの?

政府公認のPMCに対する取材だって言うからてっきり出まかせかと思っちゃった。

…え?そう思ったならなんで此処に居るのかって?

そんなもん暇潰し以外何があると思ってんの?偶々よ。偶々。

 

…で?何が聞きたいんだったっけ?

…………ああ。あの“白い悪魔”が初めて表舞台に出た話ね。

確かにあたしはアレに参加してたけど…担当は別のやつよ。AEUの正規軍。あたしはそれを見ていただけ。

…え?それでも良いって?まあ、それで満足するならあたしも吝かじゃないけど…あ、勿論報酬はキチンと寄越しなさいよ。……OK。交渉成立ね。

 

そしたら、取り敢えず要点だけ纏めて言うわね。

確かアレはAEUによるワイヤーを使った作戦が成功に見えたその瞬間だったっけ…

 

 

 

「あらー…これは流石に勝ち目無いかもねぇ…」

 

その時、あたしは機体をそいつに撃墜されててさ…あ、ガチでやって負けたわけじゃないから。不意打ちでやられただけだからノーカンよ。ノーカン。

で、とりあえず近くの小島に機体を隠して救難信号出してたわけなの。

そしたら、近くでAEUとそいつのドンパチが始まってさ。

で、俗に言う『ワイヤー作戦』で悪魔は絶体絶命のピンチだったと。

それでも、かなり堪えてたけどね。ワイヤーを体中に合計3つだか4つだか忘れたけどそんだけくっつけられた上に、引切り無しにバラバラの方向から引っ張られるのよ?

普通は腕が良くても2つ3つが限界。それをそこまで耐えてたっていうのは純粋に尊敬できるわね。

まあ、新しく引っ付けられた瞬間にバランス崩してたけど。

 

話を戻すと、まさにそのタイミングでGN-Xの内の1機がビームサーベル構えて特攻したのよ。

こう、突き入れるような形でね。

…え?回避?

無理よ。無理無理。あたしでもそんなの無理。

直ぐにブーストかけて離脱しようとしても、腕や足の1本や2本は持ってかれるわ。

……奇跡でも起きない限りは、ね

 

 

そう。奇跡。正しくあの時、悪魔には奇跡が起こったのよ。

 

 

サーベルが突き入れられる瞬間、突然悪魔は眩い光を放ってから消えた。

 

そして次の瞬間、悪魔はその身を戒める縄を全て引き千切ってから、自分の命を狙った不届き者をその手の光の剣でバラバラに解体した。目にも止まらぬ速さで。

 

そして今度は肩の大砲を用いて波間に隠れた奴隷達を次々と裁きの光にて焼き殺し、残った哀れな生贄を自らの腕で引き裂いた。

 

 

…ちょっと詩的な表現になっちゃったわ。ごめんなさいね。あたしって一応敬虔な宗教家だから。ユダヤ教ね。…あれ?キリストだっけ?ヒンドゥーだっけ?…まあいいか。

話戻すけど、でもあの光景はそうとしか言い表せなかったわ。装甲の隙間という隙間から血飛沫みたいに緑色の粒子が噴出してるのは本当にすごかったし。その近くが赤く光ってるのも印象的ね。

絵が描ければ解り易くできるんだけど…ごめんなさい。あたし、絵心無いから。

まあ、ともかく後は公式発表の通りよ。

悪魔は―――――ガンダムは、その後バラバラにした機体の残骸を海に投げ捨ててからどっか行ったわ。こう、ポイっとね。

あたしはそれを黙って見ているしかできなかった。

 

……?別に?死んでったやつなんかは運が悪かったか、身の程を弁えなかっただけだからね。別に悲しんでやったりはしてないわよ。

本音を言えば、あの状態のガンダムと心行くまで戦争したかっただけよ。

きっと、戦ってるだけでもイケちゃうわ。きっと。

 

…と、もうこんな時間ね。

んじゃ、あたしこの後仕事あるから、ここでお暇させて貰うわ。

お金は、指定口座に振り込んでね。

 

…ん?今夜一緒にどうかって?

ん~…ゴメンね?あなたは魅力的だけど、あたしってもう主人が居るから。

うん。主人。ご主人様ってやつね。

満足?してるわよ勿論。愛の前に障害なんて物はないの。

 

それじゃ、ね?この話、いい記事にしてよ?

 

 

西暦2307年 スペイン某所 ソレスタルビーイングアジト

 

 

「……そろそろ離して欲しいのだが」

 

「……」

 

「……」

 

「………兄妹揃って無視とか良い度胸だな貴様ら」

 

なんとかほうほうの体に近い状態でアジトへと帰ってきてみれば、機体から降りた途端にミハエルとネーナに捕まりましたよ。

いや、兄貴死んで色々とあるのは解るのだけれど流石にいつまでも抱きつかれているとこっちは何もできないと言うよか一歩も動けない訳で。

できればさっさと放して欲しいのにまさか今の彼女達の精神状態で力ずくとはいかないし…

 

いや、別にネーナの方は引っ付いてても良いんだけどさ。

 

「…ミハエル。ネーナはともかくお前お兄ちゃんだろう。差別するつもりはないが、妹が泣いてる時はもう少し気丈に振るまえ。そんなんじゃ示しが付かないだろう、情け無い」

 

「………おう……」

 

「ネーナも、だ。そんなんではヨハンに笑われてしまうぞ?今は良いが落ち着いたらまたいつも通りにしなさい。な?」

 

「……うん…」

 

そうしてから、また二人共無言になった。

…今思ったが、そういえば二人共涙は流してるみたいだが嗚咽は漏らしていない。

本当はわんわん声を出して泣きたいだろうに。

 

(…何がいつもどおりにしなさいだ。示しがつかない、だ)

 

そう思うと笑えてくる。

顔には出さないが。

 

(お前ら二人は十分“強い”よ。多分俺よりも)

 

何となくそんな感慨深い物を感じた。

ギリギリヘルメットのお蔭でバレなかったけど、実は俺ももう泣きそうだったのだ。

顔もクシャクシャだろう。

 

でも、強がっていられるのは、きっと最後のあの声のお陰だと思う。

 

 

まあ、その数分後にとある事を聞かされて、二人に構っていられないくらいに愕然となったんだけどさ。

 

 

「…は?え?あの、ちょっと、師匠?今なんて言った?ちょっと聞き取り難かったから、もう一回言ってくれない?」

 

『勿論構わないよ

 

 

 

絹江・クロスロードがつい先日、何者かに襲われて死体で見つかった』

 

 

…………………………………

 

 

「………それって、俺葬式でないとダメなんじゃない?」

 

『いきなりそんな発想ができる弟子を持てて僕は嬉しいよ』

 

「いや、だって…」

 

ねえ?不味くない?

 

 

経済特区日本 都内某所 斎場

 

 

姉さんが、死んだ。

スペインでルイスの看護をしている時に掛かってきた電話で言われた事の意味が、最初は何だか解らなかった。

ただ、何となく「ああ、あの時かな」なんて柄にもなく思ってしまった。

最初は、ただそれだけしか感じれなかった。

 

実感が持てたのは、死体を見てからだった。

ルイスの主治医に無茶を聞いて貰って、彼女を連れて(というか勝手に着いてきた)身元確認へと走った。

 

久々の姉さんは、青いシートに包まって冷たかった。

検死は終わっているらしく、死因は頭部への強い衝撃による脳挫傷なのだという。

それ以外に、傷跡は手足の擦過傷くらいだったから、特に大きな傷も無く、姉さんの体は綺麗な物だった。

 

でも、そんな事はどうでも良くって。

 

もう僕は姉さんと二度と言葉を交わす事も出来なければ、笑い合う事すらも出来なくなったのだと、その事が、僕には一番強い衝撃を与えていた。

 

その場で泣き出さなかったのは、隣にルイスが居てくれた事が大きい。

もしも彼女が手をずっと握ってくれていなかったら、ずっと嗚咽を漏らして静かに涙を流していなければ、僕はその場で心が折れていたかもしれない。

 

姉さんの後輩の記者さん曰く、彼女はソレスタル・ビーイングについて、ずっと調べていたのだという。

上司からも、同僚からも心配され、何度も止めろと言われていたらしいが、それでも彼女は情報を集める事を止めなかった、と。

そんな中、偶々後輩さんが別の仕事で姉さんと別れた。

その時姉さんはリニアトレイン事業の総裁で、国際経済団のトップである“ラグナ・ハーヴェイ”と面会する予定だったのだという。アポ無しで。

その人が考えるには、おそらくそのタイミングで、確信に迫る何かを聞いてしまった。或いは感づいてしまった。

その結果として口封じの為に殺されたのではないか、と。

 

もう一つは、偶々なんかしらの事故の被害者になったか。

姉さんが見つかった地域は車の交通量が多く、もしかしたらひき逃げの被害者になったのではないかと。

体の傷の少なさから、同時に発見場所が交通量の多い大通りの直ぐ近くだったということから、可能性はこちらのほうが高い、それが向こうの地方局の見解だった。

 

 

できれば、僕は警察の人たちと同じように、後者であることを願いたかった。

その方が、まだ現実味もあるし、色々な意味で踏ん切りが付けられそうだったから。

前者だと、きっと誰に恨みを抱けば解らなくなって潰れてしまうかも知れないから。

 

 

『~~~~~~~』

 

そして、今は姉さんの葬式の最中だ。

喪主は、僕。

当然だ。

何故ならば、他に家族が居ないから。

けど、斎場の手配などは殆どが姉さんの職場の同僚の方や、編集長さんがやってくれた。

みんな、良い人達ばかりだった。

 

『~~~~~~~』

 

お坊さんの唱えるお経は、何を言っているのか良くは分からない。

時々、周囲の人の計らいで僕の隣に座ることを許されたルイスが、質問してくるから少し困る。

こういう時の説明役は、大体は今此処にはいない友人だというのに。

 

『~~~~~~~』

 

そういえば、その肝心の友人はつい先日から連絡が付かない。

元々神出鬼没な上に、なんだか良く分からないバイトを前からやっていたが、今度もその関係なのだろうか?

 

『~~~~~~~』

 

そんな事を考えながら、焼香に来た参列者の人達を見ていた。

 

『~~~~~~~』

 

そんな中、丁度式が半分位に差し掛かった時である。

突然入口付近の辺りが騒がしいように感じた。

まるで、有名人が来たけど空気を読んで黙ってるが少し動きに出てしまっている、という感じだ。

 

(…一体何だ?)

 

そう思っていると、突然入り口のドアが開いた。

思わずそちらへ目を向けて――――――

 

 

 

「…………」

 

――――目を背ける事にした。

 

だって其処に居たのは身長190cmに届くか届かないかの長身で、炎の様な赤い髪に整った顔立ちの所謂“イケメン”と分類される人が二人―――――

 

「…………」

 

「……ねえ、沙慈。あの人達が着てる服って、色は黒と白だけど多分江戸時代とかのお侍さんが着てた「ゴメンルイスそれ以上言わないで。このままだと何かが崩れそう」……あ、うん…………ゴメン」

 

―――今ルイスが言ったように、黒い着物に白い袴という時代錯誤も上等な格好でやってきた。

香典とかもキチンと渡してたし、受付もキチンとしていたけど……普通、スーツじゃないの?いや、別にあれでも一部地域では普通だと思うけど、それでもこのご時勢にそれは…結婚式じゃないんだし…

…いや、よそう。もしかしたらスーツで来ようとしたけど、やむを得ない事情があってアレで来ているのかもしれない。

ほら、顔なんか超真面目な感じに堂々としているもの。

きっと、下手に照れるとますます酷い事になるからあんな顔にしているんだ。そうに違いない。そうだと言ってくれ…………!

 

 

そんな僕の願いを裏切るように、次に入口から出てきた人はもっと凄い格好でやってきた。

 

「…………」

 

「…………ねえ、沙慈……あれってまさかナース「ゴメン黙っててルイス」…う、うん……」

 

……次に出てきたのは、淡い紫の髪に白い肌。赤い瞳にこれまた整った顔立ちの―――

 

「…………」//////

 

―――どう見ても、真っ黒なナース服をそれなりに見れる形に改造したようにしか見えない服を着てきた女の人。

綺麗というより可愛いという感じだが、その格好はどうなのだと。

…………いや、きっと彼女のあの格好は不本意な物なのだろう。だって顔がトマトのごとく赤いし。

きっと、偶々服がなかったから、苦肉の策でああしたんだろうな。

うん。ならまだ許容範囲だよ。

 

 

「――――――と思ってたらこれだよォォォォ!!」(超小声)

 

悲しみと共に次に入ってきた人物の姿を見て小声で大絶叫するという奇妙な体験をしてしまう。

入ってきたのは二人組の男性で、一人は黒髪ロングの一瞬女の人と見間違えてしまうほど綺麗な人。

もう一人はこちらも見様によっては女性に見えるかもしれないが、顔立ちでギリギリ男だとわかる、典型的な金髪で北欧出っぽい人。

 

…………うん。此処までならまだ普通。普通なんだ…………ここまでは。

 

「…………え……え~…と。さ、沙慈?」

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハ。何だいルイス?もうドンと来いよ」

 

「…………え、えっと…………もしかして、あのグラサンに白いマフラーに黒スーツの人達ってもしかしてマフィ「あ、ルイス。焼香に来た人達がいるからお辞儀お辞儀」あ、うん」

 

…………オーケェイ。Coolだ。Cooooooooooolになるんだ沙慈・クロスロード。この程度でブルってたら天国の姉さんに笑われちまう。

………よし。落ち着いた。

そ、そうだよな。まさかそんな裏の世界の人が姉さんの葬式にあんなに堂々と『私、マフィアの人間です』オーラ出して来たりしないもんな。

そもそも姉さんはそんな裏の世界に脚を踏み入れては………いない、よね?

いや、大丈夫なはずだ。僕は姉さんを信じる。OK。それが真実だ。

 

 

「とかさっき言ってたけど、ごめん姉さん。僕は貴女を疑ってしまいそう」(超小声)

 

そんな事を呟く僕の目の前に次に現れたのは、各所にフリフリが付きまくっている黒と白基調のドレスを着た、髪が黄緑のこれまた美人。

 

しかしゴシックロリータ。略してゴスロリファッションだ。ご丁寧に眼帯まで付いている。

 

「あ、可愛い」

 

「」

 

…だ、ダメだ。もうルイスの素っ頓狂なセリフに突っ込む余裕が無い。

アムロはもしかしてこんな苦行を家族間で行っていたというのか。

そりゃああんなに精神が強くなるわけだよ。

……くそぅ!逃避もできない!!周囲の目が痛すぎる!!主に僕に対しての「可哀想に…」という生温い視線が!?

や、ヤバイぞ!?ルイスはまだまだ大丈夫そうだが喪主の僕はもう既にいっぱいいっぱいだ!主に精神の安定とかそういった部分が今にも盛大に『銀河の彼方へさぁ行くぞ!』してしまいそうだ!?

 

(た、頼みます神様姉さま仏様!!次こそ!次の人こそもっとマトモな格好でお願いします!!このままでは僕の心が破裂しそうです!!!)

 

思わずそう願ってしまう僕を誰が責められようか。否、常識ある人ならば誰も責められまい。

 

「さ、沙慈!?大丈夫!?なんか目が虚ろだよ!?ねえ、聞いてる!?大丈夫!?ねえったら!?」

 

ルイスが何か言っているが、悪いけど今は其処に構っていられない。

何故ならば、僕の精神の運命は次に入ってくる参列者の格好で決まるんだ。

少し心配させちゃうかも知れないけど大丈夫。ここまで変なのが続いているのだから流石にもう変なのは「はーはっはっはっはっは!!!!!僕、参、上!!!!」(←上下真っ赤のスーツに金色ネクタイ)「ゴメンルイス僕は限界だ」

 

いいながら僕の意識は暗闇へと沈んでいった。

完全に沈む間際に普通の喪服で周囲の参列者に対して「ごめんなさい」と「すみません」「申し訳ありません」を連呼しながら土下座して謝りまくるアムロと紫色の髪のメガネの少年が見えたのは唯一の救いか。

 

(と、いうか、もしかしなくてもこの人たちって君の御家族かい?アムロ?)

 

そんな言葉は形になる事無く、僕の意識は闇に染まった。

 

 

 

(式中断中……)

 

 

 

「全員纏めてマトモな服に着替えろやダボがァァァァァァ!!!!!!!!!!あ、グラーベさんとヒクサーさんはグラサンとマフラー外して。リジェネ兄さんはそのままね。至って常識的だから」

 

「「我々は?」」

 

「ブリング兄さんとデヴァイン兄さんはどうぞご自由に。夕飯がコーヒーご飯になりたいのであれば」

 

「「……………………………………………………………………………………………………………………………着替えてくる」」

 

「オイちょっと待て二人共何だ今の間は。もしかして食べたかったりした?」

 

「僕は僕は?」

 

「その真っ赤なスーツを黒い色に変えてネクタイもその金ピカから黒いのに替えれば良しとするというかさっさと変えてこいやクソ師匠がァァァ!!!!!」

 

「ちょっと待ちたまえ!!その日本刀は一体何処から出したと言うんだい!?僕も出しちゃうけどね!!!」

 

「ちょっと二人共巫山戯てないで沙慈を介抱してあげてよぉ!!」

 

 

(師匠一行着替え中……)

 

 

 

「ねえねえアムロ!どう?似合う?」

 

「とりあえずその口調とセリフはやめろ師匠。可愛くない。蒼月昇氏にジャンピング土下座して謝れ。あとネクタイ曲がってる。ちょっと動くな」

 

「すまんね」

 

「アムロ。あたしは?」

 

「ちょっと待って姉さん。…よし。師匠はこれでOK。姉さんは……あ、良いんじゃない?」

 

「っし!」

 

「でもスカートよれてる。直すから動くな」

 

「えっ。ゴメン…って、尻を触るな!!」

 

「不可抗力なんだから我慢しろってゴファ!?」

 

「ああっ!?アムロが宙を舞った!?」

 

「見事な回転だな」

 

「言ってる場合か!?」

 

 

(アムロ蘇生中……)

 

 

 

「そういえば思ったんだけどリヴァイヴ」

 

「何だい紫ワカメ?」

 

「黙れずんだヘッド。入ってくんな。…あ、ごめん。いや、僕らの中でこういった式での作法って知ってる人居るのかなって。因みに僕は知ってるよ」

 

「…なら何故訊く。…確かこの場合は立礼式だから、 

 

1.焼香台の2、3歩手前に出て遺族と坊主に一礼

 

2.身を正して遺影または御本尊に合掌して一礼

 

3.焼香台の前に進み、抹香を目の高さに押し抱き、炭の上に落とす(1~3回繰り返す)

 

4.合掌して遺影または御本尊に再度一礼

 

5.後ろ向きに下がってから再度遺族と坊主に一礼

 

で、最後に席に戻るか退場して終了だったはずだが」

 

「長文ご苦労TSちゃん」「殺すぞ」

 

「いや、マジゴメン。調子乗った。……で、リボンズ。ちょっと言いたいんだけど」

 

「ん?何だい?」

 

「…アムロって、それ知ってると思う?」

 

「……たぶんね」

 

「……嫌な予感しかしないなぁ…」

 

 

(アムロ復活&沙慈が起きないので喪主気絶状態のまま式続行。臨時喪主代理はルイスに)

 

(アムロ焼香終了)

 

「…何だよ?なんでそんな目で見る」

 

「いや、だって…ねえ?」

 

「…まあ、確かに教えてはいたけど、さ」

 

「「「「「「「「……つまらないなぁ」」」」」」」」

 

「おっしゃ全員今から表出ろ。エスカリボルグでミンチにしてやる」

 

 

 

「……はっ!?」

 

気がついたら葬式は殆ど終わっていた。

僕はどうやらルイスの膝枕で眠り続けていたらしい。実に心地いいんですけど。

 

「…………って、膝枕ァ!?」

 

「あ、やっと起きた」

 

飛び起きてみれば、ルイスの腿の辺りが少し赤くなっている。

どうやら長い時間ずっと乗っけていたらしい。

申し訳無さと共に、大観衆の前でこれをやっていた彼女の豪胆さに驚く。

……尻に敷かれるのは決定かなぁ……

 

「よ」

 

「あ、久しぶり」

 

「おう。ご愁傷様です」

 

「ホントだよ。後であの人達とお話させてね。結構言いたい事があるから」

 

「言っても無駄だと思うぞ。さっきこっ酷く叱ったけど屁とも思ってなかったから、全員今日の夕飯は抜きにしてきた」

 

「それは効果あるんだ…」

 

「いや、マジで台所を制する者は人権を制すみたいな感じになってるからな、ウチ」

 

「マジで?」

 

と、様子を見に来てくれたのかアムロがやってきたので、いつも通りの取り留めもない会話をする。

っていうかやっぱり彼らは君の身内だったんだねアムロ。地味に尊敬しちゃうんだけど。

 

「よせやい。照れる」

 

「あれ?口に出してた」

 

「顔に出てるぞ」

 

「うわ、ホント?」

 

「ホントホント。な、ルイス」

 

「バッチリね」

 

「あちゃー…」

 

やっぱり少しだけ参っている様だ。

普段だったらこんな事無いのになぁ…つくづく思うけど、最近こういう時にアムロがしょっちゅう居る気がする。

 

「気のせいだな」

 

「地の文読まないでよ」

 

「いや、二人共メタ発言はよそうよ。ここまだ斎場だよ」

 

「「納骨までの時間が暇です」」

 

「その前にお骨を拾うんでしょー!」

 

そうルイスに怒鳴られるも、どうも腑抜けてしまうのが現状だ。

きっと、張り詰めていた物が一気に途切れてしまった事から来る反動みたいな物なのだろうけど。

アムロも何故か似たような状態らしく、だらけきっている。

時折、家族の方(とは言っても、明らかに血は繋がって無さそうだから、きっと施設関係の年上の人なのだろう。嘗て本人がそう言っていた)が寄って来て、彼と二言三言言葉を交わして去っていくが、その内容は殆どが今日の夕飯の献立だったり基本ご飯関係なのはどういう事か?

 

(…そういえば、姉さんも帰ってきたら何時も「今日のご飯は何?」って訊いてきたっけ。)

 

もう戻って来ない日々とはよく言った物で、つい先日まで普通に交わしていたその会話がもう交わせないと思うと、改めて姉さんが死んでしまったのだと否応無しに理解させられ――――

 

 

――――――…ああ、そうか。

 

―――こんな気持ちを、ついこの間ルイスは味わったんだ。

 

…きっと、アムロも。

 

 

不意にそんな言葉が脳裏に浮かんできて、思わず二人に顔を向ける。

二人は、仲良く談笑している……というより、どうやらルイスが必死にアムロに何かを教えて貰っている。

途中途中で「味醂がちょっと」だの「ご飯炊くときは」だの聞こえている事から、どうやら料理の仕方でも教えてもらっているみたいだ。

その事にちょっとだけ驚く。

「あのルイスが?」という気持ちもあるが、それよりもアムロが中々高度な技術をルイスに伝授しようとしているからだ。

君何ルイスに料理と偽って茶芸(中国の伝統芸能の一つ)教え込もうとしてるの?というか君何で出来るの?

 

「俺だからな」

 

「だから地の文読まないでって。というか出来るんだ」

 

「あの一瞬で仮面が変わるのもできるぞ。ほら」

 

「うわぁ!?ホントにやってくれてありがとうって言うかどうやったのさ!?」

 

「企業秘密」

 

「ですよねー…」

 

 

いよいよもって、火葬の時がやって来た。

最後のお別れはさっき済ませた。

何気にアムロから師匠と呼ばれている少年にしか見えない人が姉さんの死体のほっぺをぷにぷにしていたような気がしたけど気のせいだよね。

アムロがとっても慌てて周囲に謝ってるけどそれも気のせいだろう。

うん。

 

「さ、沙慈!?オデコが!?オデコの血管がはっきり浮き出て!?」

 

ハッハッハ何を言ってるんだルイス。そんな事あるわけないだろう?

あ、姉さんの三角巾取られた。

アムロが鬼の形相になりながら何処からか日本刀を持ち出して師匠を追い掛け回している。

全くダメじゃないかアムロ。

 

そこは僕も混ぜてくれないと。

 

「ホレ、エスカリボルグ&般若のお面」

 

「ほいキタァァァァァァ!!!!!!」

 

「何ィ!?増えただとゥ!?ヨソウガイデス!?」

 

「ちょっと沙慈もアムロも落ち着いてぇぇぇぇ!!!!」

 

「……オーイ4人ともー。納棺しちゃうよー」

 

「諦めろリジェネ。もうあの4人は止められん」

 

「というかあの沙慈って坊ちゃん、よく今まで我慢できてたわよね。偉いと思うわよ、あたしは」

 

「…お前に褒められても誰も嬉しくはないと思うがな」

 

「とか言いながら、ヒリングもグラーベちゃんも缶コーヒー飲みながら傍観は止めようよ…」

 

「ヒクサーそれは違う。私達は色々と諦めたのだ」

 

「そうそう。ぶっちゃけあの状態のアムロを止めるなんて、あたし逆に殺されそうだから真っ平ゴメンだし」

 

「それってただ傍観するだけよりも何倍も質悪くない!?」

 

外野が五月蝿いが僕の知った事ではない。

今こそ、このずんだ餅ヘアーのクソ野郎に天誅を与えるべきなのだ!!!友と共に!!

 

「「死ねよやぁァァァァ!!!!!!」」

 

「おのれ!ならば良いだろう!!二人纏めて黄金の矢で消し去ってくれる!!!!」

 

「だから沙慈もアムロも止まってよぉ!!師匠さんは早く謝るなりなんなりしてぇぇ!!」

 

「……う~ん、テラカオス」

 

「とか言いながら紫芋オレ飲みながらお前も傍観するなリジェネ」

 

 

 

結局、あのずんだ餅に天誅を下す事はできなかった。

流石にルイスに抱きつかれて泣いて懇願されたらいかな男でも抗う事は無理だと思う。

カワイイは万国共通の正義だよね。

 

「にしても姉さん、軽くなったねえ。ご飯食べてる?」

 

「お願いだからこっちに戻ってきて沙慈!!それは確かにお姉さんだけど骨だから!ハイライトの消えた虚ろな目とか怖すぎるから!ね!?」

 

全く冗談がルイスに通じない辺り、どうやら僕の他人から見た感じはとっても悪いようだ。

少なくとも、一緒に骨を拾っている人達の殆どが、僕に可哀想な人を見る目を向けてきている。

実に微妙な気分である。

 

「まあ、さっきまでのお前の惨状を目の当たりにした上で今の言葉を聞いたら、そんな目も向けるわな」

 

「原因の3割くらい君だけどね。残りの7割は君の師匠だけど」

 

「(。・ ω<)ゞテヘペロ」

 

「「……反応しませんよ(しないかんな)?」」

 

「畜生!!」

 

言いながら涙を流しつつ外へと飛び出す師匠。

もうこの人やりたい放題だな。周りからの目が気にならないのだろうか。

…気にならないんだろうなぁ……そういえば、以前アムロが彼の事を「師匠は師匠という名前の何か。新種の生命体」とか言ってたけど、今ならその意味が良く解るよ…

あ、戻ってきた。

 

「…とりあえず、もうこれ以上は変な事しないで下さいね。騒いでるのあなただけですよ」

 

「わかっているさ。多分これ以上やったら作者が読者の方々に批判の嵐を見舞われる可能性があるからね」

 

「メタ発言乙。だけど、多分手遅れだと思うがな」

 

「安心したまえ。某漫画ではもっと酷い事してるから」

 

「アレはアレだから許されるんだろうが」

 

「二人共、少し黙って」

 

「「アイ、サー」」

 

まったく……

 

 

「僕に対するおもてなしがぶぶ漬けってどういうことだい?」

 

「安心しろ。俺は持参の弁当だ」

 

「ゴメンねアムロ。まさかご家族で来るとは思ってなくて……」

 

「そう思ってたからこそ持ってきたんだ。突然来たわけだしな。ところで師匠。そんな所で蹲ってどうした?」

 

「……まさか無視され続けることが此処まで苦痛だとは思ってもみなかった……!」

 

無論、意図的な訳だが。

因みに今は式も完全に終わり、昼食中だ。骨はもうお墓の中に納骨してきた。

無性に物悲しくなったが、僕以上にルイスがもう泣いて泣いて凄い事になっていたので涙なんかは引っ込んでしまった。

…あれ?おかしいな?普通そこで大号泣しなければならないのは僕の筈なのに?

 

「アムロ!!お茶!!」

 

と、其処へ飛んでくるアムロのお姉さんの声。

彼女は自分の紙コップを天高く突き上げ反対側の手に箸を持ってアムロを見ていた。

そんな彼女を見たアムロは目を細め、実に呆れたような顔をしながらこう言い放つ。

 

「…自分で入れなさ「買って来て!!」尚更自分で行って来い」

 

そう言うも、彼女は不満そうな顔をするだけだ。

よく見るとどうやら近くのテーブルに備え付けられていた2リットルのペットボトルのお茶が全て空になっていた。

だからこその『買って来て』発言だったらしい。

少し納得する。

僕も姉さんが家に居た時は、良く言われていたものだ。

とは言っても、大抵僕が用事がある時その序でに、というのが多かったが。

あそこまで理不尽極まりない物ではない。

 

「…あ……沙慈、ちょっと動かないでね」

 

「え…?」

 

その時、不意にルイスが顔を近づけてきた。

思わず顔を赤らめるが、直後彼女が手に持ったハンカチで頬を拭いてくれたことで、その意図を理解する。

どうやら、知らずと僕は泣いていたようだ。

自分で自分が泣いていたことを気付かないなんて、どうやら僕は自分で思っているよりも精神的にキているらしい。

 

「ぶぶ漬け以外とうめぇwwwwww」

 

「師匠。シリアスにいきなりギャグ突っ込んでくんの止めてくんない?」

 

「だが断る」

 

「……」

 

……あれ?何故だろう?

姉さんが死んだ事よりも、このキャベツ頭の所為で精神がやられている比率の方が大きいと感じるなんて思ってもみなかった。

 

「沙慈、落ち着け。師匠は何時でも大体こんなだから。付き合うだけ無駄だぞ。だからその額の青筋を引っ込めろ」

 

「…うん。改めて君が凄いと思うよアムロ。普通ここまで無表情でぶぶ漬け人の顔面に叩きつけれる人なんて居ないもん」

 

「馬鹿者。10年近く付き合ってればこうもなる」

 

「……」

 

…そっか、10年か。凄いねアムロ。

僕なら多分半年で発狂しちゃうよ。

 

「ぶぶ漬けを倍プッシュだ……!」

 

「カブトムシの幼虫入ってるけどそれで良いですか?」

 

「ごめんなさい調子に乗ってました!!」

 

あ、こういうのは効くんだこの人。

 

 

そんなこんなで一連の騒動……もとい、姉さんの葬式は終了した。で、今はアムロとルイスと一緒に帰宅中。

…いや、騒動なんてこういう言い方は姉さんに失礼だし、葬式そのものに対する侮辱だと思う。

でも、だからこそこう言わなければならないんだと思う。

それに僕が此処まで荒んだのは全面的にあのキャベツずんだの所為だ。

 

「ハイ沙慈落ち着け。野菜ジュースあげるから」

 

「某歌姫の曲と一緒に懐から出さないでよ。突っ込みどころ満載だから混乱するって……あれ!?ルイスどうしたの!?」

 

「…どーせ私は家事も出来ない、沙慈に頼ってばっかのボンボンですよーだ!!!」

 

「何を言ってるの!?ああもうこんな所で蹲らないでよ!」

 

「安心しろルイス。お前は頼ってばっかのボンボンではない。沙慈にとって都合の良い女だ」

 

「何一つフォローになってないよアムロ!!むしろそれ失礼にも程がな「なら良いや」ルイスさぁぁん!?」

 

くそう!!キャベツずんだから逃げられたと思ったらこれだよ!!

言ってみればいつも通りの展開だけどまさかこんな時にまで……!

…っ!!いかん!!涙がちょちょ切れる!!まさかこんな巫山戯た事で泣くなんて!?しかもこれまで溜め込んでたせいか涙が止まらずまるで滝のように!?

 

 

「…お、やっと泣いたな」

 

…は?

 

「うん。あ~良かった…」

 

「え?いや、あの……え?」

 

え、何?どういう事?意味がわからない。

 

 

「…つまり、何?僕が葬式中ほぼ一度もハッキリと泣かなかったから、今此処で泣かせてしまおうって?」

 

「まあな。ってか、お前って辛い事とか悲しい事に対しては涙腺の耐性が高いじゃんか。優しくしても逆効果だし。だから、こういうしょうもない事であえて一度限界来させたんだよ。こうでもしないとお前溜め込んだままじゃん」

 

「ご、ゴメン沙慈。悪気はなかったの…」

 

……うん。まあ、これに関しては完璧に僕が悪いと言える。

だって溜め込んでしまうのは僕自身良く解ってるし。

………でも、さあ……

 

「……何か涙止まらないんだけど。(ズズッ)ついでに言うと鼻水もとばんだい(ズズッ)もとい止まんないんだけど(ズズズッ)これ、大丈夫なのがぬぁ(ズズズッ)」

 

「安心せい。そんな物で脱水症状起こしたよという笑える話は、俺ァ見た事も聞いた事もねえ」

 

「ああ、ああ、沙慈、ホラ。チーンして。チーン」

 

「ばびがぼ(チーン)…ありがと、ルイス」

 

ルイスが手渡してくれたポケットティッシュで鼻をかむ。

…けど、一向に涙と鼻水は止まる気配がない。本当に大丈夫なんだろうか?これ?

 

「…とりあえずさっさと家に戻るか。沙慈。キッチン使わせろ。ホットミルクかココアでも作ってやろう。それともレモネードか?」

 

「ミルクとココアは兎も角レモネードっぬぇ(チーン)って。レモンなんかウチには無いよ?」

 

「俺の家にある」

 

「流石のアムロさんです」

 

「もっと褒めろ」

 

そう言いながら胸を張るアムロ。…うわぁ。超似合ってるよそのポーズ。

 

「あ!じゃあ、私!私が作りたい!!」

 

「は?」

 

「レモネードの事!ほら、私ってこっち来てからあんまり沙慈の為に何かしてあげられてないし。向こう居た時だって、ずっとお世話になりっ放しだったでしょ?」

 

ね?という目を向けられて、僕は少し焦る。

確かに彼女は僕が世話しっ放しだった。

再生技術によって今こそ完全に潰れた左手は完治しているものの、当時はまだ施術されていなかった為に左手が使えず、怪我の後遺症で少しの間足元が覚束無かった彼女をトイレやら風呂やらに連れて行ったこともあった。

…風呂に関しては、体を拭いたりと色々したし。

…あ、トイレに関しても少し手伝ったか。アムロにバレたら殺されそうである。

 

「……ヘイわが友。食事だけだよな?」

 

いかん勘付かれている!!!

目が明らかに細くなったもの!!

マズイ!本当にマズイ!!このままでは姉さんと同じ地面を踏む羽目になる!!

何とか戻ってくる方法を以前アムロ自身から教えて貰った事はあったが、それが本当に実用できるかは全く判らない!!

つまり!今此処で返し方を間違えればリアルに Dead or Alive を彷徨いかねない!!

 

駄菓子菓子!!もしも嘘など吐けば勘の良いアムロの事だ。間違いなくバレる!!

という事はこの場を切り抜けるには差し当たり無い言葉で茶を濁すか、ある程度暈して事実を伝えるしかない!!

 

(…い、一世一代の大勝負をこんな所でしろというのか神様!?掛金命とかシャレになってないよ!!)

 

「…おい?」

 

畜生!!口調が強くなった!!今日は厄日か!?

頼みの綱のルイスはニコニコしながらこっちを見ている!!おそらく、援護は望めない!!

いや、アムロ様に読者の皆様、並びに天国の姉さま!!僕、変な事は何にもしてませんよ!?

ただ単に着替えを手伝ったりバスタブに入るのを手伝ったり、トイレでは便座に座るのを手伝ったりしただけですよ!?

体も確かに洗ってあげました!しかし!!背中と足と右腕だけです!!前は見てません!!下も見てません!!断じて疚しい事は何にもありませんでした!!

いや、確かにそりゃ少しは劣情を催しましたよ。でも、そんな状況のルイス相手にそんな事したらただの変態な上、最低の鬼畜野郎でしょう!!我慢しましたよ!!ええ我慢しましたとも!!

今だって我慢してますよ!!膝枕されたときは理性が吹き飛ぶかと思ったわい!!

ってか、何!?ダメなの!?僕みたいなヘタレがルイスみたいな超カワイイ女の子と付き合うのはダメだというですか!?そんな事誰が決めたというのですか!?

何!?神!?神が何だというのですか!?所詮は偶像でしかないでしょうがあんな物!!

ちょっと今直ぐ出てこいよぶっ飛ばしてやるから!!別の世界ではこちとら40m級の巨大ロボやってんだぞコラァ!!」

 

 

「…おーい。沙慈。沙慈。興奮するな。とりあえず変なことはなかったみたいだという事は解ったし、大声出すのは恥ずかしいぞ。見ろ。ルイス真っ赤」

 

「/////////」

 

「ルイス可愛い!!超カワイイ!!!お嫁に来なさい!!!!」

 

「落ち着けマジで」

 

愛を叫ぶ事すらダメだというのかこの野郎!!

 

「時と場合を考えろっつってんだ阿呆が。ドリルミルキィファントム改(師匠仕込み俺バージョン)」(ズドム!!)

 

「オッホゥ!?」

 

腹部に絶大なる一撃。

回転を加えられたその一撃は僕の意識を刈り取るに十分過ぎる威力を持っていた。

…っていうかアムロ。その技は確実に君が使えるような物じゃないと思うんだけど…ネタでも何でもないし……

 

「仕様だ」

 

そうですか。

 

 

 

「はーい♪沙慈♪レモネードお待ちどうさま♪」

 

「うん。ありがとうルイス」

 

「因みに出来は保証しよう。何度か塩と砂糖と醤油と味噌とポン酢を取り違えそうになったが」

 

「なんか今変な物混ざってなかった!?」

 

「気にするな。入っとらん。入れる前に止めたわい」

 

そう言ってアムロは苦笑い。

対するルイスは「もー!」と言って、彼をパシパシ叩いている。

一切動じていない辺りが凄い。

だって今ルイスはプラスチック製のウチのお盆で彼をブッ叩いているからだ。

普通は痛がる様な気がするのだけど…

 

「ああ、慣れてるから。鉄とかセラミックとかEカーボンより柔らかいし」

 

「そんな物に慣れちゃってる君の日常は一体どれだけバイオレンスなのさ!?」

 

多分絶対教えてくれないが、確実にロクな日常ではないと思う。

Eカーボンてどういう事なの。あれ、MSの装甲とか軌道エレベータとかの外壁に使われているような部材のハズなんだけど…

 

「まあ、バイトの関係でな」

 

「「どんなバイト!?」」

 

思わずルイスも反応してしまう。

そんな危険極まりないバイトとは、一体どんなバイトなのだろうか?

ギャグ補正のかかったコメディアンでも死んでしまいそうなものだが。

知りたいが、それよりも脳内で出ている危険信号に従うことにする。

多分、知ったら二度と平和な表の日常には帰って来られない的な意味で。

 

「そんな事よりも早く飲んでやれや。折角ルイスが“お前の為に”作ってやったんだぞ。冷めない内に感想を聞かせてやれ」

 

「あ、うん」

 

言われてみればそうである。

では早速頂いてみる事にしよう。なのでそんなキラキラした目でこっち見ないでくれませんかルイスさん。理性が吹き飛びそうだから。

 

「……あ、普通に美味しい」

 

「でしょ!!」

 

「………でも、何でレモンの皮がかなり薄くスライスされたものとか入ってるの。ぶっちゃけ飲みにくいんだけど」

 

「それは俺だな。香りを出すためにそうやってるんだ。国産の物だから無農薬だし。因みに豆知識だが、本来だったら唐揚げとかについてくるレモンを絞る際も、上手い事革の表面にある粒ごと潰す方が美味いらしいぞ」

 

「マジで?ちょ、唐揚げ食べたくなってきた。夕飯それにしようかな?」

 

「というと思ったのでもう作ってありまーす!!」

 

そう言いながら、まさかのルイスがキッチンから皿いっぱいの唐揚げを持ってきた。

準備良すぎない!?

 

「あ、それ俺がさっきまで作ってたヤツではないか。何故にお前が盛り付けとる」

 

「実はコッソリ私も作ってたんですー。まあ、混ぜてあるけどね」

 

「オイコラ止めろ。なんだその微妙にロシアンじゃないロシアンルーレット」

 

言った瞬間アムロが宙にカチ上げられる。

綺麗なフォームで入ったけど、ルイスいつの間にそんな芸当覚えたのさ!?

 

「え?葬式の合間にヒリングさんから教えてもらったの。アムロが失礼なこと言ったら、これで報復しときなさいって」

 

「なんつーモンを教えとるんじゃあのバカ姉貴!?」

 

あ、復活した。流石に意識を刈り取れるような威力を出すのは無理だったらしい。

…何だか僕、ドンドンルイスの尻に惹かれる未来が確定していっているような気がする。

 

 

「んじゃ、そろそろ俺は帰るぞ」

 

「うん。今日はありがとうね」

 

「おう。ルイスは次もうちょっと料理を練習しておこうか」

 

「バッチリ美味しいと言わせてみせますよーだ!」

 

夕飯も終わってから、最後に3人で少しゲームで遊んで、その後そろそろ時間的にヤバイという事になり、アムロは家へと帰ることになった。

とは言っても、隣りなんだけどね。

因みに僕達はあと2、3日程してからスペインに帰る予定なのでまだ此処に居る。

 

「んじゃ、お休み」

 

「ん、お休み」

 

「またねー」

 

そんな風に言葉を交わしてから、アムロは自分の部屋へと戻っていった。

……何故だろう。いきなり彼の怒声が聞こえたような気がするんだけど……

 

「…僕達も入ろうか。ルイス、疲れてない?」

 

「うん。まだまだ大丈夫。沙慈こそ大丈夫?」

 

「勿論。アムロとルイスのお蔭でね」

 

「…そこは私の名前だけにしてもらいたかったんだけど…(ボソッ」

 

「?」

 

最後に彼女が何か言ったような気がするけど、直後に何でも無いと言って先に部屋の中に入ってしまったので、聞き返す事はできなかった。

…もしかして、アムロの名前を先に出したのが少し癪にさわっちゃったかな?

 

(だとしたら、しまったなぁ…)

 

何か彼女の気を良くできる物はないか考えてみるも、ご飯はさっき食べてしまったしデザートもアムロが作ってくれちゃったし……あれ?

よく考えてみると、今日アムロの比率高いな。

何なのだろうか?

 

「………あ゙」

 

そんなことを考えた瞬間、ふと脳裏に閃く物があった。

……が、素直に喜べない。何故に彼の事を考えてそれが思い浮かぶのか。

 

(まあ、良いか。)

 

ともあれ思い出した以上善は急げである。こんなタイミングで渡すのもどうかと思うがもしかしたらもう渡せるタイミングはないかも知れないのだ。

ならば渡せる内に渡さねばならない。話を出来る内に話をしなければならない。

 

逝ってしまった人達とは、何をどう努力しても僕では永久に語り合うことは不可能なのだから。

 

(……姉さん。どうかルイスが、喜んでくれますように。)

 

そう、自分の中で神様よりも高い地位にいる人に祈りを捧げる。

語り合うことはできなくても、これ位ならば許されるだろう。

 

散々さっき泣いたせいか、姉さんの事を思ってももう涙は出なかった。

…というか、泣いてなくても泣く気はなかった。

 

だって、これから女の子にプレゼントを渡す男が泣いてたら、格好悪いでしょ?

 

 

「…だよね、姉さん」

 

 

部屋の片隅に掛けてあった袋から小さな子箱を取り出しながらそう呟く。

嘗てまだ姉さんも、ルイスの家族も生きていた頃に彼女にねだられた物だ。

コツコツとアルバイト等でお金を貯めて、やっと買えた矢先にルイスが大怪我をしてしまったので結局渡せていなかった物だ。

 

 

『』

 

 

不意に、誰かの声が聞こえたような気がした。

それは姉さんの声の様でもあったし、幼い頃に聞いたっきりの父さんの声の様でもあった。

ただ一つ言えるのは、それからまるで応援するかのような感じがした事だけだ。

 

それで、僕には十分だった。

 

「……よし!」

 

気合を入れ直して、リビングへと向かう。

ドアの向こうから、ルイスの呼ぶ声が聞こえる。

それに応じながら、僕はドアを開ける。

彼女を見て、改めて気合を入れなおす。

 

そして僕は一歩を踏み出した。

 

 

写真の中の姉さんと父さんが、僕を見守っていた。

 

 

 




後書き

如何でしたでしょうか。
どうもガン山です。

今回はOガンのトランザムは控えめにして、主に沙慈の心情に焦点を当ててみました。
本来は欝展開のここら辺ですが、アムロと事態の元凶が介入したせいでこんな感じに。
本当に師匠はこういう所では暴走してくれます。悪い意味で。
彼が式場からたたき出されなかったのは、一重にアムロとリジェネのおかげです。
そのうちお仕置きします。出来れば。

というわけでここからは解説です。

最初の語り部

→言わなくても判るかな?
そう、やつです。

葬式での師匠の暴れ方

→実はこれ伏線です。しかも超重要な物。
というより、皆さん。あの会話があったのに“絹江の死体が見つかった”という時点で「ん?」と思った方も居るんじゃないでしょうか。
今回こっちに投稿するに至っては傷の詳しい部分の描写もありますし。
これがヒントです。
追加でヒントを出すとすれば、現在の沙慈とルイスは『知らないから幸せ』という事です。本当に、トコトンまで、どこまでも幸せです。

何せ、『クトゥルフの呼び声』ではありませんが、彼らは自分達の暮らしの薄皮一枚隔てた直ぐ隣にある悍ましい現実に直面する事は今後無いのですから。

因みにアムロも知りません。
知っているのは師匠だけです。
ただ、アムロにバレたら最後、二人の関係は永遠に修復不可能になります。
それほどまでの秘密であり、とある真実です。

レモン

→皮ごと絞るはマジな話です。日本で栽培している農家の人達は大体そうやっているそうです。


男を見せる沙慈

→言ってしまうと『人の恋次を邪魔する奴はガンダムに蹴られて三途の川』です。『首突っ込んだらビームで蒸発』です。『デバがめはガンダムパンチ』です。
取り敢えず結果としては成功した事だけご報告しておきます。

といった感じでしょうか。次回はまた宇宙に飛びます。
徐々に1期の終わりに近づいて来ているので、気合を入れねば…

とは言っても、仕事の関係で中々執筆する時間がないのですけれど。
連休なんか全然無いよ!

しかも今回でストック切れたので、次回の投稿が更に遅れる可能性もあります。
ご容赦下さい。

では、また次回!



追記

あ、あと活動報告『ガンマイ最新投稿』にて皆様に相談が…
乗らなくても見るだけでもありがたいです。

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