というわけで前回の短編集でも話題に挙げられていましたが、今回でやっと『あのシステム』がお披露目です。
が、ここで一つだけ注意を。
今回は原作でも重要なポジションの回なのですが、本作品においては同時にとある人物のキャラが大崩壊する回でもあります。 しかもよりにもよって“あの人”のキャラが。 なのでそういうのが苦手、あるいは嫌いな方はここでプラウザバック等を行い、本作品を閲覧しないことをおすすめします。 そうでない方はどうぞ生温い目でお楽しみください。
また、劇中でアムロが外伝云々言っていますが、それはPixiv様で投稿している物のことです。
此方にも直ぐに投稿しますので見たい方は少々お待ちを。
では、本編をどうぞ
『じゃあ、後は頼む』
「了解した」
その声に違和感を覚えたのは必然だった。
今此処に居るはずがない男。
CBの末端のエージェントで、日本での潜伏時にはいつも本当の家族のように接してくれた、性別などの細かい部分以外自分と瓜二つのあの少年。
それと全く同じ声だったのだから。
『刹那!』
「っ!エクシア、目標との戦闘行動に移る!」
『よし、ロック解除。行ってこい!』
共に来てくれたラッセがそう言うと同時に、エクシアが強襲用コンテナから空中へと投げ出される。
結果少々バランスが崩れるが、少しの姿勢制御で十分に対処できる。
「……」
…スローネツヴァイが何故アインを襲って撃破し、あまつさえそのままPMCの物と思われるカスタムタイプのイナクトと共にドライまで手にかけようとしたのかは、私は知らない。
しかし、錯乱して仲間割れをしたのではない、というのは以前彼らがO-01とともにトレミーに来た時の事を思い返すとありえないと断言できる。
……では何故?
その答えは、次の瞬間バスターソードで斬りかかってきたツヴァイの攻撃を、GNソードで受け止めた瞬間に氷解することとなった。
『邪魔すんなよ、クルジスのガキがァ!』
「っ!!!」
それは私にとっては忘れたくても忘れられない声。
あの男―――アリー・アル・サーシェスの声!
「アリー・アル・サーシェス!!貴様!!」
突き飛ばすようにしてツヴァイと距離を取り、素早くGNソードをライフルモードに切り替えてビーム弾を放つ。
しかし奴の駆るツヴァイはこれまでとは違い、小刻みに動いて的を絞らせず、右手に握ったバスターソードと左手のGNハンドガンを巧みに操り独特のラフファイトじみた攻撃法で攻めてくる。
斬撃と共に粒子ビームを放ち、かと思えばビームと一緒に蹴りを繰り出す。
その全てに翻弄され、私は一気に守勢に回る事を余儀なくされた。
水流めいたビームと斬撃の豪雨をシールドやGNソードで防いでいると、奴からの嘲笑が届く。
『ほらほらどしたぁ!?』
瞬間、奴がハンドガンを乱射しながら、鈍い光を放つ右手のバスターソードで斬りかかってくる。
ビームを避けながら、GNソードで反撃。奴と切り結ぶ。
同時に、叫ぶように奴に吠える。
「何故だ!何故貴様がガンダムに乗っている!?」
『お前さんの許可が必要なのかよ!』
その言葉とともに今度はこちらが蹴り飛ばされる。
おまけに、GNソードがライフル部分ごとエクシアの右腕から弾かれた。
「何っ!?」
『おらあっ!』
そのまま接近され、横薙ぎに振られた斬撃は辛うじて左腕のシールドで防げた。が、サーシェスは強引に剣を振り回すことで、そのシールドも弾き飛ばす。
其処へ左腕のハンドガンによる追撃が入る。
咄嗟に東部を横に逸らす事でなんとか直撃は避けられたが、それでもビーム弾と擦過した装甲が削られるのがわかった。
『刹那!』
其処へ粒子ビームが飛来する。
強襲用コンテナのラッセが、ツヴァイに放った物だ。
しかし奴は大仰に機体を動かすわけでもなく、粒子ビームの射線を見切った上で少し体制を逸らす事で全て躱し、お返しと言わんばかりにハンドガンで応戦した。
強襲用コンテナは直撃寸前の危ういラインでそれらを避けると、大きく旋回して距離を取る。
それを目で追おうとしたのだろう。一瞬だが、奴に隙が出来た。
「っ!」
その隙を見逃すほど、私は馬鹿ではない。
両腰からGNブレイドを抜いて斬りかかる。
しかし勘のいいあの男は腐っていても一流の傭兵なのだろう。
GNブレイドを振るった時には既に間合いから離れていた。
『ははははは!最高だなガンダムってヤツは!!大将が言うだけあるぜ!!コイツはとんでもねー兵器だ…戦争のし甲斐があるってもんだぜ!!』
そのタイミングで、奴の声が聞こえる。
カンに障り、腹が立つ。
『オメーのガンダムも、さっきのあの箱もどきも、その為にあんだろう!?』
ツヴァイがバスターソードを両手で担ぐようにして構え、突進してくる。
私は、それを両手のブレイドで受けるとともに叫んでいた。
「違う!!」
しかし、力比べで負けて、片方のGNブレイドを弾き飛ばされる。
「絶対に、違う!!」
次の瞬間再度切り結ぶも、今度はもう片方の得物まで弾き飛ばされる。
「私のガンダムは―――!!」
――――――戦争の道具なんかじゃ、ない!!
『うるせーガキだこと』
が、言い終わる前に背後を取られていた。
悔しいかな、やはり操縦技量やセンスはあちらの方が格上だったらしい。
冷徹な声が耳に届くとともに、絶対的な“死”が近づく足音が聞こえたような気がした。
『―――コイツでフィナーレ、だ!』
向こうがそんな風になっている頃、こっちもこっちでちょっと面倒なことに…つーかGN-X含めたMS部隊に囲まれるなんて珍事になっていたのは…まあ、読者の皆様ならお分かりの筈だ。
…はて?読者、とは一体なんぞや?少なくとも今はメタパートではないんだが?
「なんて考えとる場合じゃないってのは解りきってんだけどねー」
『だったらもうちょっと真面目にアイツら撃ち落とさんかい!ボケェ!』
「無茶言うなや」
言いながら右腕のツインライフルをブッパ。
相手のシールドに当たったけど…む、ディフェンスロッド部分で受けたか。
板が残ってしまっている。
すかさずショルダーキャノンで追撃するけど避けられた。
ふん。腕も一級品、と。
……こら面倒だわな。
ぶっちゃけ一般兵レベルならこれだけの数でもなんとかなるのだけど…
「っと」
真下から撃たれた軽く避けて反撃する。
ワイヤーを発射して相手の右腰の細長いスラスターに引っ掛けてそのまま力任せに振り回す。
疑似太陽炉搭載機でも、流石に姿勢制御において重要な部分を強引に引っ張られれば、必死に抵抗しても碌な効果は無い。
憐れ手足をジタバタさせながら僚機にハンマーの如くぶち当たるGN-X。
そこにタイミング良くビームを撃ち込む。
命中。
狙い通りに腰部にあるコクピットに直撃。そのままパイロットを一瞬で蒸発させる。
「っし。姉さん、今ので大穴空いたぞ。さっさと離脱せい」
『言われなくても!いい加減こいつらの啜り泣く音が鬱陶しいからね!』
「無理言ってやるなよ……」
そんな言葉に『じゃかあしい!』と返してくる姉さんに溜息一つ。
ここら辺、イノベイドと人間の違いってもんなんだろうか?それとも、そういう物が関係無い根本的な違いなんだろうか?
…まあ、そんな感傷に浸ってなどはいられない。
(………GN-Xはあと3機。それ以外は……武器も持たずに来てどっか消えたな…何か仕掛けてくる可能性がとても高いから注意はしとこう。後は後続もいると考えて敵全体の数は……ちょいわからん、か?)
無論こっちを囲んでいるのはさっきも言ったが言わずと知れたGN-Xである。
元々4機いたのが今では1機減っているとはいえ、乗っているのはエースレベルだ。
パワーアップしたOガンダムでもちとキツイ。
そして随伴で来たイナクトやヘリオンの存在も不可解だ。一体何をしてくることやら……
因みに機体と地理的な事を考えると、此奴らはAEUの所属部隊かな?
あの傭兵の二人組がリークでもしたか…?
「っと…」
後方からビームによる攻撃。同時に正面からサーベルを突き入れるフェンシングのような構えで1機突っ込んでくる。
面倒なのでその場でバレルロールしつつGNフィールド展開して正面のGN-Xに体当たり。
サーベルは切るよりも性質的に突き入れる方が威力が高いのは常識だが、流石にヴァ―チェクラスのGNフィールドには通用し難いのが現実。
しかもエネルギー量は確実に此方が勝っているから…
(…ほらね。)
GN-Xの掌で爆発が起こる。
過負荷に耐えきれなくなったビームサーベルが自壊したのだ。
シンプルイズベストを体現したようなOガンダム用の物の量産劣化品とはいえ、あの一瞬だけでも持っていたのだから称賛すべき性能だ。
そんな事を考えつつ目の前の敵機に向かってブースト付きの回し蹴り。
バギンという音と共に相手の胸部小型スラスターの片方が飛んでいく。同時に、バランスが崩れた。
(焦るの禁物…っと。)
そのまま追撃すれば撃破できたのだろうが、あと2体無事なのが残っていることを鑑みて止めておく。
一瞬だけ意識を姉さん達の方へと向ける。
レーダーを見る限りでは、既に作戦エリアから遠ざかる事ができているようだ。
敵の後続とぶち当たる等といった事もなさそうである。
そうなると、俺の残る仕事としてはエクシアとツヴァイの戦闘が終わるまでコイツらの足止め。あるいはそれまでに撃墜することだ。
………存外にハードな……
カンッ
「んお?」
不意にそんな音が鳴った。
しかし、ダメージは無い。
衝撃も殆ど無い。
気のせいか?
そう思える程に、それは微かな音だったし、尚且つショボかった。
何だ?そう思いながら周囲を見渡す。
瞬間、何かに機体がグイっと引っ張られた。
ほぼ条件反射だった。
思い切り機体を捩らせて回避運動をとったその直後、頭部スレスレをビーム弾が掠った。
まずいと思いつつ機体を更に捩るも、まるで何かに引っ張られているような感覚は消えず思うように動けない。
再度GN-Xからの攻撃。ロングライフルによる狙撃だ。
こちらはサーベルモードに切り替えたツインライフルで切り払う。
が、切り払いの挙動が終わるかどうかのタイミングでまたしても引っ張られるような感覚。
機体のバランスが崩れ、丁度眼科の海に真正面に向き合う形になる。
そこで、見た。
海の中から伸びるワイヤーと、それを必死に海中から引っ張る、3機ほどのイナクトとヘリオンを。
(…げ…なんちゅー無茶を…)
心からの言葉だった。
そも、GNドライブ搭載や水中戦を想定していない機体では、水の中でまともに動く事などできない。
操縦感覚は宇宙空間によく似ているとは言え、水圧、水の抵抗、浸水によるトラブル等々………そういった問題で、下手な事をしようとすれば関節部に負荷がかかって損傷したりするからだ。
ティエレンのようにガッシリとした作りならばまだある程度はいけるのだろうが、流石にイナクトやヘリオン、フラッグやリアルドといった手足の細い機体では実際無理がありすぎる。
ゲームなどで水に潜る事を何度か見た事はあるがあれはあくまで創作物の話だ。現実はゲームではない。
「向こうもそれだけ必死か」
ポツリと呟く。あるいは擬似太陽炉搭載機があるからもう旧式などいらない、という判断だろうか? あまりにもお粗末な考えだったためこの線は無い、と頭を振って消し飛ばす。
と、その時先ほどの乾いた音が立て続けに2、3回ほど鳴る。
ビームサーベルで攻撃を仕掛けてきたGN-Xをいなすのとほぼ同時に大きく機体を動かして確認を取る。
相棒に引っ張られた部分を黄色く表示しろと指示を出してコンソールを見れば、右肩、胴体、左足、バックパックが黄色くなっている。
腕に当たらなかったのは不幸中の幸いというべきか否か。
少なくとも、これではロクな軌道をとって飛行することは無理だ。
肩や背中はともかくとして、姿勢制御で重要な胴体と足にアンカーが当たっている時点で本来なら地上に降りるのがベターである。
ただ、今眼下にあるのは海だし唯一足場にできそうな敵機も水の中。
何とかして水上まで引きずり上げたいが、いかな強化装備を付けたガンダムであっても1対複数。しかも力の掛かる場所がバラバラでは無理がある。
となると結局対抗策としてはアンカーを引っ張る敵を吹き飛ばすしかない。
幸いなことに今のOガンダムには弾頭切替可能なショルダーキャノンがある。
ここまで一度も実体弾は使っていないから残弾数も十分。
しかし、撃てない。
「ええいまたか!?少しは待ってくれよ!?」
撃とうとすれば絶妙なタイミングで敵のGN-Xによる邪魔が入る。
無論、大人しく当たってやれば致命傷確実だ。
そういう訳にもいかないから回避行動を取るのだが…結果的に、アンカーを引っ張る敵機を撃ち落とすことができない。
(…いっその事、機雷ばら蒔いてやろうか?)
一向に良くならない状況にそんな事を考える。
ただ、そんな事しても一歩間違えれば自殺行為にしかならないからキチンと自重して案を却下する。
ま、このままやられっぱなしってわけにも行くまい。
そう思いながらダブルライフルをサーベルモードにし、構えた。
突っ込んでくるGN-Xと交錯する時間はたったの一瞬ではあるが、それだけあれば十分である。
まあ、失敗すればそれはそれは酷い事になるが。
――――――…おや、珍しく緊張してら。
唇の乾きにそう心の中で呟いた。
舌で舐めて湿らせるが一向に乾きが収まらない。
気づけば喉もカラカラである。
そこまで来て、やっと俺が自分自身がそこそこに相手を嘗めていたのだという事に気づく。
「うわ」
思わず苦笑い一つ零してそう呟いた。
やっぱり俺も未熟だな、と。
それから次いで「ダセェ」と自重の言葉を漏らそう―――
―――ッ!ちぃ!
―――とした所でGN-Xが突っ込んできた。
相変わらず、こっちの心情を全部見破っているかのようなタイミングである。
(…だがなっ!)
今度はこっちからも―――そう吠えようとして――――――
ガクン
「あら?」
―――――機体のバランスが、崩れた。
見れば右腕のダブルライフルにアンカーが貼っついている。
…って事は貼り付けたのは今さっきか。
バランス崩したのもコレ、と。
(……はぁ……)
目前に迫る血の色をしたビームの刀身。
機体の体中アンカーで雁字搦め。
逃げ切れるだけの余裕は――――――無い。
「Oh…」
思わずそう呟く。
辞世の句になるかもしれないが仕方がない。
出来ればもうちょっとかっこいい事を言えばよかったと後悔するかもしれないが大人しく黙ろう。
(……そういえば、最近醜態晒してばっかだな。)
不意にそう思う。
我ながら暢気な物だと苦笑い。
ただ、醜態を晒してばかりなのは事実なのでそろそろいいカッコしたい、というのは本当だ。
……何?外伝で散々暴れただろう、だと?メタな発言は止して貰いたい。
…………ま、そんな気持ちも確かにあったから、ただ、なんとなーくやってしまったんだよ。
「…………」
無言で、『避けれたら凄いなー』なんて考えながらさ、機体を思いっきり上空へ飛ばそうとしたんだよ。
ぶつん
――――――……ん?
そしたらいきなり意識がすっ飛ぶのってどういう事なんだろうな?
数分前―――
ピシ、と、僕の目の前にある冷凍睡眠用のカプセルに弾痕が穿たれ、無数の亀裂が入る。
月の裏側にあるソレスタルビーイングの心臓部―――ヴェーダ本体が置かれた大聖堂とも言える荘厳なその室内に入り込んだ監視者の一人―――今の僕の雇用者であるアレハンドロ・コーナーが手に持った拳銃より鉛玉をご馳走したのである。
冷凍カプセルに眠る…否、“眠っていた”禿げ頭の男―――ソレスタルビーイング創始者にしてGNドライブの開発者。
おそらく、今後当面の間、こんな漫画に出てくるような天才科学者は出てこないだろうと断言できる正真正銘の大天才。
世が世なら人類の宝といわれても可笑しくはない存在―――イオリあ・シュヘンベルグ。その人に。
アレハンドロはそのまま拳銃のスライドを引いて、薬室に弾丸を装填した。
その拳銃は古めかしい金色のオートマチックで、銃身には華美な装飾が施されている。
―――この24世紀の現代においてはもはや観賞用でしか存在しないか、趣味か何かでしか使われる事のないまごう事無き骨董品だった。
そんな物を使うとは…………と、僕は内心で溜息を吐く。
こと、この男はこういった物が好きだった。
金持ち特有の物なのか、或いはこの男だけが持つものなのか判別は付きにくいけど、少なくとも悪趣味である、という事だけはハッキリしていた。
「やはりいたか、イオリア・シュヘンベルグ……」
そう言いながら大仰な手振りをしつつ、再度彼はカプセルに銃口を向ける。
もうそれ以上やっても無駄だというのに…この男。
確実に自分に酔っているという事がありありと分かった。
正に下衆というべき醜態だった。
「世界の変革見たさに蘇る保証もないコールドスリープで眠りにつくとは…………しかし残念だが、貴方は世界の変革を目にすることはできない」
うん。もう死んでるからね。嘲弄の目で彼を見るのは良いんだけど、基本あなたは僕がいなかったら此処には来れてないんだよ?
最初からこの位置が分かってた僕が。そこら辺わかってる?……わかってないよねー?
うわぁぁ殴りたいこの笑顔。ボッコボコにしたい。
…実際にもうやってしまおうか?
(……いやいや待て待て落ち着け落ち着け。こういうのは最大限持ち上げてから落とすのが一番面白いんじゃないか。)
そう内心で言ってから少し落ち着く。
うーん、アムロもこんな感情になった事があるのかな?
…だとしたら要注意かな。仮にも僕の弟子だしね。
その内逆襲してくるんじゃないかという不安がムクムクと湧き上がってくる。
……まあ、負ける気なんか毛頭ないんだけどな!!
「あなたが求めた統一世界も、その抑止力となるソレスタルビーイングも、この私が引き継がせてもらう。そうだ……世界を変えるのはこの私、アレハンドロ・コーナーだ!」
そんな事を考えている内にアレハンドロの銃が再度火を噴いた。
カプセルに更なる弾痕が空き、細かな皸が入り、イオリアの顔が見えなくなる。
創造主の死。人類の変革を望んだ、僕すら一時は心の底から尊敬した天才は、たった今確実に死んだのだ。
「ハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
アレハンドロは狂ったように笑いながら何度も引き金を引く。
それを僕は冷ややかに見ていた。
無論創造主が殺された事に少しは思う部分もあるのだが、それ以前にあの天才がここまでの事を予想できなかったのかという疑問の方が先に立っていた。
もしも予想できていたなら何かトラップの一つでもあればいいのに…………
そう思っていた。
だがこの時、僕たちはそれに気づいていなかった。
そのことに最初に気付いたのは僕だった。
周りにあったヴィジョンにノイズがはしる。
「なに!?」
「リボンズ!これは!?」
戸惑う僕ら二人の前に、壁と思われていたものが巨大なモニターに変わり、イオリアの姿が映し出される。
『この場所に、悪意を持って現れたということは、残念ながら、私の求めていた世界にはならなかったようだ』
「…イ………イオリア・シュヘンベルグ……!」
「システムトラップとは……!」
やはりという言葉が喉から出かかる。
同時に安心感も。
僕が思っていた通り、この男は正真正銘の天才だったのだ!
『人間は未だ愚かで戦いを好み、世界を破滅に導こうとしている……だが私はまだ人類を信じ、力を託して見ようと思う』
そして僕の目の前で理想高き創設者は言った。
堂々と。
確信を持って。
『世界は、人類は―――』
変わらなければならないのだから……
縦に振り下ろしたGNバスターソードが空を切った。
「んなにっ…………!?」
思わず絶句する。
確実にあのガキごとガンダムを真っ二つに叩き切ったはずの得物にはなんの手応えもなし。ただ、剣先をGN粒子とかいう緑色の光の粒の残滓が流れ、消えていくだけだ。
破片どころか欠片やカス一つ見当たらない。
―――逃げられただと!?
脳裏をそんな言葉が掠めた。
馬鹿な、と間髪入れずにその言葉を自分で否定する。
あのタイミング、距離、どれを取っても完璧に俺の間合いだったはずだ。
それで、避けるならまだしも逃げ切る?…冗談じゃない!!
反射的に頭を切り替える。
仮に逃げたとするならばまだ近くに居るはずだ。
以前のアイツのお仲間のように擬態をしている可能性だって無くはない。
そう考えて周囲に視界を巡らすも、あのトリコロールの機体は影一つ見える事はない。
ステルス特有の違和感もなし。
一体何処へ?そう思った瞬間だった。
視界の隅に、光る何かが過ぎった。
「っ!そこか!!」
振り向きざまに腕のハンドガンを放つ。
しかし躱された。
その空間にはただ光の粒子が漂っているのみだ。
(チィッ!)
ただ呆然としているわけにも行かず、機体が持てるポテンシャルを最大限活かして光の後を追い、ハンドガンを連射する。
しかし届かず、弾丸は的はずれな方向に飛んでいくだけだ。
一瞬だけ高速で動く『それ』を視界の内に入れることはできたが、それだけだった。
「何だっつーんだ、あの動きは!?」
思わずそんな言葉が口から漏れるが、それを言った所で現状は変わらない。
一瞬、『それ』が側面に走った。
即応し、ハンドガンを連射するが当たるわけもなく全て躱される。
光る『それ』―――あのガキの乗るガンダムは驚くべき事に残像が見えるほど高速で動いてこちらの攻撃を躱し続けている。
「ムゥッ!」
突然、それまで躱すだけだったガンダムの動きが一転して、攻勢に出た。
両手にビームサーベルを抜き、こちらに迫ってくる。
迎撃の為に再度ハンドガンを撃っても全て躱される。
「クソッ!一発ぐらい当たりやがれってんだよ!!」
言った直後に背中から衝撃。
斬られたのとは違う、硬質な感触。
体当たりでもかましてきたらしい。
ただ、そんな事は問題にはならん。
チャージなんぞ俺も実際によく使う手だからな。
それよりも驚くのは…
「背後を取られただと!?」
其処だ。
こっちが手の内から何から全て分かっているようなガキ如きに背後を取られた。
その事実の方が、よっぽど俺には衝撃的だった。
「ふざけんな!!テメェはあの化け物とは違う筈だろうが!!」
瞬間脳裏にフラッシュバックする嘗ての悪夢。
クルジスで目の前のガキも含めた少年兵達を纏め上げて、いざ戦争、と思ってきた所で突然襲い掛かってきたあの正真正銘の化け物に背後を取られたときの恐怖が俄かに甦ってくる。
(冗談じゃねぇ!!)
その恐怖から逃れる様にハンドガンからバスターソードに武器を切り替えて、奴の動きが方向転換の為に止まってくれるその一瞬の隙を見逃さずに切りかかる。
だが、それすら空を切った。
代わりに相手の獲物でバスターソードを弾き飛ばされ、直後に蹴りを食らって地面に落とされる。
「グううぉ!!」
地面にぶつかるスレスレで機体に受け身を取らせて着地したものの衝撃は殺しきれない。
歯を食いしばって踏ん張り、衝撃がある程度緩和されたところで肺に溜まった息を吐き出す。
圧倒的に致命的な隙だった。
殺そうと思えばいつでもやれたはずだ。
だがあのガキのガンダムはビームサーベルをだらんと手に提げたまま、こちらを見下ろしてくるだけだった。
(…本当に、ふざけた冗談だ…!)
目の前に見えるガンダムは―――まるで中のガキの感情が表面化しているみたいに赤く、眩く、いっそ神々しいと思えるほどに輝いていた。
ただ、機体の装甲の表面に血管みたいな光のラインが時折奔っているのが、少しだけ人間っぽさを感じさせたのが何よりも腹立たしかった。
「こ、れは…?」
私は、その時これまで見慣れてきていた筈のコクピットの中を、今初めて見たかのように眺め回していた。
あの時、サーシェスによって機体を切り裂かれかけたあの時、当然のように回避運動を行った。
死が怖かったのではない。ただ、この男などに殺されてたまるか、という激情のままにエクシアを動かしただけだった。
奴の攻撃を、例え甚大なダメージが出たとしても、何とかして切り抜け、その上で応戦しようとした。
するとエクシアは、ガンダムは思っていた以上のスピードで応えてくれた。
瞬間移動でもしたのかと思うほどの機体速度。これまで想像せども不可能だったはずの四肢の鋭敏な動き。
“ガンダム”エクシアは、今、己の操者が望んでいたことを、それ以上に体現していた。
その働きに、私はこれまで感じた事の無い、一種のトランス状態だったといっても良いほどの興奮に陥った。
サーシェスの駆るスローネツヴァイからの数多の猛撃をどのように避け、どの様に反撃するかを考えてはいたものの、それを自身が操縦桿を握って成し遂げたという自覚など無きに等しかった。
まるで、エクシアが自分の力でもって勝手にやってくれていたような錯覚を感じるほどだった。
それを自覚した上で、身体は震えていた。
「この、ガンダムは……?」
その時、突然コクピットモニターに一瞬ノイズが走った直後、映像が割り込んできた。
虚を突かれ、息を呑む。
そして映し出された人物を確認し、思わずあっと声を漏らした。
モニターに映し出されたのは誰であろうあのイオリア・シュヘンベルグだったのだから。
思わぬ事態に呆気にとられるに構わず、映像の中の人物は喋りだす。
『…GNドライブを有する者たちよ。君たちが私の意思を継ぐ者なのか、今この時代に生き、そちらに存在していない私には分からない。だが、私は私自身の最後の希望……GNドライブの有する全ての“可能性”を君たちに託したいと思う』
それを聞く私は真摯な面持ちで聞いていたと同時に、今の言葉に何か引っかかりを覚えた。
しかし、それはあまりにも微かな物だったために、そこまで気にすることではない、と判断して忘却の彼方へと吹き飛ばす。
そんなことを考えるよりも、この言葉を聞くほうが先決だ。
ちなみに、この時の私は知り得ていないことではあったが、この映像は同時にプトレマイオスにも流れており、ロックオンやスメラギ達といったクルー全員がこれを目にし、同時に同じ疑問を微かに抱いていたらしい。
しかしそれに構わず、イオリアは言葉を紡いでいく。
『君達が真の平和を勝ち取るため、戦争根絶のために戦い続けてくれる事を祈る。ソレスタルビーイングという群体ではなく、君達自身という個人の意志で……ガンダムという、可能性を体現するための、人の意思を形にするための存在と共に……』
その最後の言葉が紡ぎ終わるとともに、映像はブツンと消えた。
残ったのは彼の言葉だけだった。
「…ガンダム…」
戦争根絶のために、自分たちの意志で。
“ガンダムという、可能性を体現できる、人の意思を形にできる存在”と共に。
(……可能性……)
一体何の、とは思わない。
きっと、何か意味があるのだろう。
今は分からずとも、何時か分かる時が来る。
そう、確信があった。
(…だが…)
そう心の中で呟くと同時に不安が込み上げる。
可能性の体現。
果たして自分にそれが出来るのだろうか?
罪に塗れて、戦うことしかできない手を持つ、私に。
――――――できるか、じゃない。
―――――――――――やるんだ。
不意にそんな声が耳元で聞こえた。
通信ではなく、肉声の様な、頭に響くような声。
咄嗟にうつ向き気味だった顔を上げて周りを見る。
誰かが居る筈でもないのに。
「……」
嫌にその言葉が耳に残った。
“できるか”ではなく“やる”。
正解、間違い、成功、失敗、自信、不安。
そんな物関係無しに、とにかくやってみる。
何故かすんなりと、その言葉が受け入れられた。
(…ガンダムと共に、戦争根絶の為、自分達の意志で。“できるか”…違う。“やるんだ”。)
心の中で何度も復唱する。
言葉を、体の隅々まで、それこそ末端の毛の先端まで染み渡るように。
しかし、その行為は背後から急接近してくる悪意に遮られた。
『やってくれたじゃねえか!ええ!?』
スローネツヴァイが―――サーシェスの駆る緋色の機体が、GNバスターソードを振り上げていた。
『どんな手品か知らねぇが!』
先程までならば確実に私にとって致命的な一撃を与えられた一撃。
悔しいが、スピードも、何もかも、ヤツを1流のMS乗りだと納得させられる物だった。
――――――…それでも!
今の私とエクシアにとっては遅すぎる!!
『ぬああっ!?』
バスターソードの一撃を紙一重で避けて奴の頭上に回り、そのまま頭部を左の拳骨で殴りつける。
見た目の地味さに反して元々の威力がそこそこあり、更に強化された状態での全体重をかけた一撃だ。
例えGN粒子でコーティングされた装甲でも、モロに食らえば間違い無くタダでは済まない。
現にスローネツヴァイの頭部が見事なエクシアの拳形に拉げている。
だが、それに躊躇するような私ではない!
返す右の拳によるアッパーでカチ上げ、そのまま反対の拳で腹部のレンズをぶん殴る。
それを受けたスローネの体が後ろに下がる。
そのまま距離を取られるのも嫌なので背後に回ってコーンの部分を蹴り飛ばす。
ついでにあの遠隔兵器―――ファングを出されても厄介なのでGNダガーで射出部分を潰す。
おや、意外とあっさり潰せてしまった。
追加でドロップキックでもお見舞いしておこう。
えい。
『こ、この俺があっ!』
あ、良く考えてみれば上空に打ち上げればビームサーベルで刻めるか。
後顧の憂いは断って置くべき。
相手に体勢を立て直される前に一気に接近して引っ掴み、そのまま頭上へとブン投げる。
そのまま両手にビームサーベルを持ち、擦れ違いざまに切りまくる。
GNソードがあればスパジェネに最近追加されたアッシュやエグゼクスバインの如く大剣によるお手玉が出来るのだが…無い物強請りは出来ないか。
一瞬拾ってこようかとも思ったが、それは傲慢に過ぎるというものだろう。
勝ちたければ何処までも手堅く。
勝負の鉄則だ。
…といってもスパジェネというゲームにおける、という頭文字が付くが。
……流石に不謹慎か。
まあ、それは兎も角として、だ。
「アリ・アル・サーシェス…」
言いながら、スローネツヴァイの手からバスターソードを弾き飛ばし、それをエクシアの右手に持たせる。
「さっき貴様は、私にこう言ったな」
言いながら左腕に内蔵されているGNバルカンを斉射。
両肩のクラビカルアンテナを破壊する。
「コイツでフィナーレだ、と…」
ついでにそのまま相手の両手も粉砕する。
「その言葉…」
何とかして離脱しようとするのを蹴りと正拳突きで黙らせる。
「そっくりそのまま……!」
そのまま奴を正面に見据えながらGNバスターソードを正眼に構え――――
「―――返させてもらう!!」
―――一気に近付き振り下ろす!!
「これでぇ……フィナーレッ、だぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ…!」
振り下ろした瞬間、確かな手応えを感じた。
しかし、視界の隅に映ったのは、血の色をした光の粒子。
斬った物を見れば、それはツヴァイの腰部バインダー。
どうやらこれを身代わりにして逃げ出したらしい。
やはり一流は伊達ではなかったようだ。
「…ん?」
ふと、それまでどんな事があっても表示される事の無かった文字が、正面のコンソールに表示されている事に私はその時初めて気付いた。
発光するルビー色をしたバックに黒色で書かれたその言葉は―――“TRANS-AM”。
「…トランス、アム?……いや、“トランザム”、か……?」
少なくとも前者では無さそうだな、と私は何となく思った。
と、するとエクシアが急にあの高い高機動性を表したのは、これが原因となったのだろうか?
ならば…
「……トランザム、システム……?」
先程のイオリアと、あの声の言葉を思い出す。
――――――ガンダムと共に、戦争根絶のため、君達の意志で……
―――GNドライブの有する全ての“可能性”を君たちに託したいと思う
――――――“できるか”じゃない。
―――“やるんだ”。
「…託された」
―――可能性を。
ガンダムを。
…ガンダムという、可能性を体現するための、人の意思を形にするための存在を!!
「私達は――――――託されたんだ!!!」
と、其処で終われば綺麗に物事は済んだのかもしれない。
そう思っている。
しかし、あの時、あの事態はそれだけでは終わりではなかった。
トランザムという可能性は――――始まりでしか、なかった。
ブンッという音と共に、再度正面のモニターに誰かが映る。
驚いてそれを見れば、映っていたのは先程自分達に“可能性”を託してくれた人が―――イオリア・シュヘンベルグが居た。
しかし、先程とは居る場所が明らかに違う。
そこは何処かの別荘の一室のようなところだった。
奥の窓の向こうに海が見え、画面の左には大量のディスプレイと、一つのキーボードがある事から、おそらく其処がイオリア・シュヘンベルグの研究室なのだろうという事がわかる。
『此処からは……其方の時代に、君が目覚め、尚且つ私がガンダムという可能性と、“ソレスタルビーイング”という集団が存在する確信を持つ切っ掛けとなった“それ”を用いた“何か”に君が乗り込んでいるという条件が揃った時のみ、その時点で製造されている全てのGNドライブ搭載機とそれに付随する存在にのみ投影される』
呆気にとられる私を他所に、イオリア・シュヘンベルグは喋りだした。
しかし、其処に先程までの人類の未来を案じる天才としての男の姿は無い。
居たのは…まるで自分の親しい友人か、自分の息子に対するような、温かみが感じられた。
『先ずは誕生日、おめでとう。些かどころかかなり遅れている可能性はあるが、一応の形式としてだ』
その言葉に、私はかなり驚いた。
誕生日?誰のだというのか?
取り敢えず私ではない事は確かだ。
私自身はもとより、私の家系に彼と交友関係を持つ人間などは居ない。
『面倒なので要点だけ纏めて言わせて貰うが…ガンダムは君が昔書いたあの落書きを元にしてデザインさせてもらった。とは言っても最初の1体だけだが』
最初のガンダム…と、言う事は、Oガンダムの事だろうか?
アレの元が落書き?
そんな事言ってもいいのか?
と、いうか、アレは元デザインが落書きなのか…い、イメージが…
『気に入ったなら私の墓前にでも報告してくれ。気に入らなければ何処がダメなのか書いてくれると助かる。来世で参考にしよう。
そっちの生活は如何だ?どうせ君の事だからぐうたらダラダラ暮らしているのだとは思うが…偶には外に出て動くことをお勧めしよう。私も最近スキューバを始めてみた。筋肉痛がひどい。
友達は居るか?出来れば家内も息子も孫ももう居るといってもらいたいものだ。あの世で彼との話題の種になり易い。
料理は出来るようになったか?叶わないとは思うが、万が一私がそちらの時代でもまだ生きていたら何か振舞ってもらいたい。無理なら墓前にでも置いておいてくれ。あの世まで持っていこう。あとは――――――』
要点だけ纏めるとか言っておきながらどんどん出てくる彼からの言葉。
その内ウンザリしてきて後半は殆ど聞いていなかった。
まあ、しょうがない。
明らかに私以外へのメッセージなのだ。ただ聞いていても、何だか盗み聞きしているような気分になって不快だしな。
そんなのが5分ぐらい延々と続いた辺りで話が一端止まった。
「…やれやれやっと終わったか…」
託された身としてはそんなこと言いたくないのだが、あんな話を一方的に延々と聞かされたら悪態の一つや二つは言いたくなる。
ティエリア辺りに聞かれたらエライ剣幕で怒られそうだが知った事か。
そう思いながら何時の間にか離していた操縦桿に手を伸ばそうとして―――
『では、最後に君を含めたGNドライブを託された物達への忠告でも呟いて終わるとしよう』
―――手が、止まった。
思わず顔が引き締まる。
身が強張る。
忠告とは何か。
態々あの天才が授けてくれる物なのだ。
確実に、意味はあるのだろう。
耳を済ませて、紡がれる言葉を待つ。
そして―――
『――――――超越だけはするな。革新ならば幾らでもしてくれていい。
人類は―――変わらなければならないのだから』
「…超、越?」
『…まあ、君以外の者達は兎も角、どうせ君の事だ。何を言っても変わりはしないだろう。きっと、幾ら言っても革新などせずそのまま大きくなってしまうのだろうから、あまり心に留める必要は、無い』
ガクッ!っと体勢が崩れる。
思わず口から良いのかよ!?、とアムロのように突込みが出そうになったがなんとか踏ん張れた。
同時に、とある確信が私の中に生まれた。
イオリア・シュヘンベルグ。
この男――――――天然だ。
しかも、重度の。
一瞬アムロ並みという言葉が思い浮かんだが―――この男。もしやアレ以上なのではないだろうか?
『以上で、言いたい事は全て言えたのでメッセージを終える事にする』
「って、ちょっと待て!これだけか!?」
思わずそう言ってしまった。
いや、さっきアレだけカッコいい事言ってたのだから、できれば最後まできっちりと締めて貰いたかったのだが…
『では、バイ・ビー』
「オイィィィィ!?」
最後までそんな感じか!?素か!?それが素なのか!?イメージが違うにも程があるぞイオリア・シュヘンベルグ!
いや、もしかすると今まで見てたあの姿はただ単にカッコつけてただけなのか…?
『……あ、そうそう忘れていた。確か以前君が私の研究室に冷蔵庫の中にとっておいたメロンを食べたのは誰だといって突撃してきた事があったな』
って、まだあるのか!?さっきのが最後じゃないのか!?オイ頼むぞ!?これ以上イメージを壊すような事は言うなよ!?後生だから!
……などという、そんな淡い願いを聞いてくれるほど、目の前に映る人物は優しくは無かった。
『…済まない。あの時食べたのはE・A・レイだと言ったが……実は食べたのは私だよッ!』
ガタッ!(椅子から立ち上がる音)
『しかァしッ!私はッ!後悔も反省もしていないッ!――――――何故ならばァッ!』
クルクル…(そのままモニター前まで回転しながら移動する音)
『このッ!イオリア・シュヘンベルグはッ!』
シュピンッ!!(右手の人差し指をモニターに向け、やや斜め上かに見下ろすように顔を固定した音)
『マサチューセッツ工科大学並びにホワイトハウス及び国連本部秘密結社ァ!』
シュバァッ!!(手の甲を見せ付けるように左手を顔の前に持ってくる音)
『“メロンを狂おしいほどに愛する会”のォ!』
ギュポーン…(イオリアの目が光る音)
『名誉会長にして会員ナンバー00ォ…』
ガッキィィィン!!(そのまま所謂ジ○ジ○立ちした音)
『だ・か・ら・だッ!!!!!』
グキッ(何か鈍い音)
アオウッ!!(何か切ない感じの呻き声)
ガタン!!(何かが倒れる音)
ブツッ(モニターが消えた音)
「…………」
………なんというか、まあ……
「……テラカオス…」
って、いうか、これはひどい。どうしてこうなった?さっきまでのシリアスは何処行った?
「…これは酷い」
そして俺―――アムロ・レイの方も何だか良く分からない事になっていた。
気を失ったと思われる状態から回復して最初に目に入れた物―――それは――――
「……う、おーいぃ…」
―――Oガンダムに首根っこを掴まれて、装甲やら何やらを徹底的に引きちぎられたのであろう、“元々はGN-Xだと思われる何かの残骸”だった。
「…」
見下ろしてみれば、其処には先程まで海中からワイヤーでこちらを引っ張っていたと思われるリアルドやイナクトの残骸がプカプカ海に浮かんでいる。
さらに言えばその近くにコックピットを握り潰されている以外は特に損傷のない残りのGN-Xが仰向けになって漂っていた。
「……とりあえず逃げるか」
手に持っていた残骸を海面に向かってシュゥゥー!!超!エキサイティン!!
そのまま踵を返して明日への逃走!!
目指すは姉さんも向かったのであろう近海のアジトだぜ!
「……って、あれ?なんか何時もよりもスピードが遅い…?」
何故?と考えていた俺の視界にとある文字が映る。
コンソールに浮かび上がっていたのは翡翠色をしたバックに赤いルビー色というミスマッチ過ぎる色で“TRANS-AM”という単語。
読み難い事この上無い。
「…トランザム?」
車?…じゃないよな。“Trans-Armd”の略語か?ただ、“変化する武器”ってどんな言葉だ?
…まあ、取り敢えずさっきの惨状はこのシステムの所為による物なんだろう。…たぶん。
そうであって欲しい。
もしそれなら、さっきの惨状を自分の意志で起こさない事が可能なのだから。
「……取り敢えずは、戻ってミハエルとネーナのフォロー…か。姉さんがそんな事するとは思えないし」
メンドクセーなどとほざきながら、俺はアジトへと急ぐ。
なんたって、最後まで面倒見る、なんて事言っちゃったんだからな。
口ではなんと言おうと、キッチリやり遂げなけりゃあヨハンの奴に笑われちまうよ。
「…ドミネ・クオ・ヴァデイス。お前が行くのは…勿論天国だ」
俺は地獄だけどな。
最後にポツリとそんな言葉が出た。
せめてもの鎮魂にこれぐらいは許されるだろう。
そう思いながら。
……ところで、何で相棒はさっきから一言も喋らないのだろう?
機能停止してるわけでは「zzzzz……」…は?
「zzzzzz…」
「……突っ込まないよ?絶っ対に突っ込まないからな?」
フリじゃねえからな!!
さて、如何でしたでしょうか。
どうもガン山です。
今回はトランザム回ということで私の脳みそも書いているうちにどうやらトランザムしてしまったようで…ほんとにどうしてこうなった!?
というわけで解説に。
お茶目なイオリア
→実は連載当初から考えてたネタの一つだったり。ここまでものの見事に暴走してくれるとは微塵も思っていませんでしたが。いや、それにしても動いてくれました。
そして彼が今回の話の中で使ったネタの元を分かってくれる人は居るのだろうか…?
トランザム
→原作と同じ感じですね。
刹那が聞いた声
→これはとんでもないネタバレとなるのであまり言えません。
強いて言うならば、声の主はある意味では刹那と繋がっています。同時にアムロとも。師匠は…微妙。
ただ、本作においての重要なキーパーソンの一人となる予定です。
イオリアが託したもの
→本作では“全能力”ではなく“可能性”とさせていただきました。
要はただ与えられるんじゃなくて、たまには自分達で考えろってことですね。
何げに私が自分自身に投げ掛けた言葉だったりします。
イオリアからのメッセージ
→とある人物に向けられたこのメッセージですが、もしかしたら勘の良い方は目星が付いているのではないかと思います。
最後の惨状
→これに関しては次回の冒頭でちょっぴり明らかになります。
というわけで今回はここまで。
では、また次回。