ガンダム00  マイスター始めてみました   作:雑炊

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詰まる所は短編集です。後で司会担当の彼らが説明してくれますが。


それでは本編をどうぞ


番外編―――色々とつめ過ぎた彼是

『ばーんがーいへーん!!』

 

「さあ、始められてしまいました短編3本による特別番外編。司会は私一応主人公のアムロ・レイと」

 

「解説も含めて、師匠こと僕、リボンズ・アルマークがお送りするよ」

 

「つー訳で開幕早々師匠。俺ちょっと聞きたい事があるのですが」

 

「何かな?」

 

「…………え?何?これ?いつもと違い過ぎんでしょ?つーか地の文何処行った」

 

「ああ、それはだね、今回僕たちがいる“此処”は言うなれば“世界から外れた場所”とでも言うべき所だからだよ。更に今回は、作者のちょっとした浅知恵でただの1本話ではなく、さっきも君が言った通り、3本の短編が纏められた“短編集形式”…故に各話の合間合間にその話の登場者とトークしなさいというお達しまで来ていると来た」

 

「……成程。ちょっと微妙だが理解できた。だから司会と解説役か。作者もしょうも無い事考えるな」

 

「それは言ってはいけない約束、というものだよ」

 

「……で?肝心の作者何処行った?姿が見えん「仕事だよ」…は?」

 

「だから仕事だよ。一応彼はビルメンテ会社の設備管理課の所属だからね。しかも見習い。だから上司について言って様々な現場に顔を出したり書類届けたりetc……」

 

「……ああ、うん。もういい。途轍もなく面倒臭そうなのだという事は解った。だから呪詛のように何か言葉を呟くのは止めてくんない?」

 

 

「と、いうわけでそろそろ短編その1に移ろう。内容は…あ?“シスコンなのか”?」

 

「というよりは、むしろちょっとした雑談だね。君があの3兄妹と一緒に行動している時の話だよ」

 

「…あ~、あったあった。飯食ってる時のあの話か。……短過ぎないか?マジであれサラッとしかないぞ?会話にして3分あったか…」

 

「まあ、そこらは作者の腕の見せ所といった所かな?幸い今回の短編は殆どが3人称メインらしいからね」

 

「本当に大丈夫かよ……まあ、いいか。それでは短編その1“シスコンなのか”次ページよりスタートだ」

 

 

短編その1

『シスコンなのか』

 

それは3大陣営合同演習2日前の話である。

 

「……」

 

夕食を口にしながら、考え込みつつ目の前の全く似ていない3兄妹の顔を見ているのは、ご存じ我らの地味主人公アムロである。

無論、ヘルメット On the head 状態なので、唯一開けられている口元以外から表情を見受ける事はできない。

だが、雰囲気からして何かを考え込んでいるのだという事だけはわかる。

どうでもいい事だが、因みに今日の夕飯はハンバーグ。一応ソースの方もケチャップベースのオリジナルである。

ヨハンはともかく、下の二人は豪い一心不乱に食べていることから、相当美味いのだろう。

それでもミハエルは顔の周りにソースがついているというのに、同じ様に食べているネーナの口の周りがあまり汚れていないのは、ヨハンとミハエルがさり気無く拭いてあげているからだ。

この二人、流石の息の合い様である。

 

「…?O-01、どうしました?」

 

と、それまで比較的静かに食事をしていたヨハンがアムロの様子に気づく。

流石に長男というだけあって、彼は色々な事に気が付き、そしてキチンと対応する。

これで性格がもう少し軟化すれば、女性からはモテるだろうにもったいない、とアムロが頭の中で呟けば、怪訝な表情を更に深くしたので、アムロはあわてて取り繕うように言った。

 

「ン…いや別に大した事じゃない」

 

言いながらも、彼は彼らから目を外そうとはしない。

しかし、そのまま一拍置いてから再度彼が口を開いた時、其処から飛び出してきた言葉はヨハンを大いに動揺させるに足る物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨハンとミハエルって、シスコンなのか」

 

直後にヨハンが偶々口に含みかけた茶を噴出する。

ミハエルは咽に何か詰まったらしくむせ、残ったネーナはポカンとする。

そのまま暫らくその場をヨハンとミハエルの咳のみが支配する。

ややあってヨハンがアムロに向かって珍しく慌てた声を出した。

 

「O-01、何をいきなり言い出すのですか!?」

 

「いや、だってなぁ、お前ら。何でネーナの口を拭いてやるのに二人同時でやるんだ。さっきも、彼女の食器を出すのが一番早かったし、今回もそうだけど普段の飯のメニューとかあれこれとかは、基本彼女の意見最優先じゃないか。服の洗濯だって私の仕事だっつってんのにしてやってるし、挙句の果てには一緒に風呂に入って頭とかも洗ってあげてるじゃないか。これをシスコンと言わずになんだというのか。特にミハエル。風呂一緒に入る時、ヨハンはキチンと服が濡れるの上等で来たまま入ってるのになんでお前全裸なんだ。いや、ヨハンも大概だし、拒否しないネーナもネーナだが、お前もうちょっと自重しろ」

 

つらつらと言われる事実にミハエルとヨハンは「うぐぅ」と言って黙り込む。

特にミハエル。どうやら一線を越えてはいないようだが、それでも流石に不味かろう。

そう思って、半ばからかう様に言ってみたアムロであった。

しかし、次の瞬間予想外の反応をした人間を発見し彼の顔が固まる。

上の馬鹿兄貴二人の反応は予想の範囲内である。それは何一つとして問題ではない。

問題となる人物……それはまさかの、騒ぎの渦中の人物たるネーナであった。

バカ二人のとっても大事な大事な、若干処か此方も中々ブラコンの気があるネーナは、今の話の何処に問題となっている物があるのか理解していないようで、目を丸くしながらキョトンとしている事。

どうやら、今の話に出した例のその殆どが、どれもこれも異常な事だと思ってはいなかったらしい。いい感じに(言い方は悪いが)洗脳されているようだ。

そんな彼女の反応は、アムロにとって完全に予想外だった。

思わずいつも引っ被っている“O-01”という仮面を付けている事すら忘れて、暫しの間呆気に取られる。

心なしか彼の口元がヒクついているのは、決して錯覚でもなんでもない。

その内、そのまま彼は黙り込んでいる馬鹿2名の方へと顔を向けた。

バイザーで隠れてしまっているが、ヨハンとミハエルには、その目に絶対零度の光が宿っているという事がハッキリと理解できる。

それほどまでに、彼の体から発散されている物は、暗く、冷たく、重く澱んでいた。

 

「…二人とも」

 

その口から言葉が紡がれる。

瞬間、二人にはまるでレーザーの如くプレッシャーが叩き付けられた。

顔面を真っ青にしながら辛うじて一言だけ反応する。

 

「「…はい」」

 

それを聞いたアムロはニッコリと笑ってゆっくりと親指を立てると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後でザフキエルの裏な。ちょっと先生と“家族間での倫理観とかそれ以外の色々な事について”お話しようか?」

 

「「…イエス、マム」」

 

「サーな」

 

行き先を立てた指で示して、ハッキリと死刑宣告を行なった。

そのままネーナに顔を向けて彼女を不安にさせないようフォローを入れている辺り、完璧にこなれていることをヨハンとミハエルが理解できるまで後15秒。

 

アムロ・レイ。

手の掛かる師匠と兄姉、そして同居人や近所の友人のお蔭で、本人も望まぬ内に“オカンスキル”が磨かれ、“ガンダムマイスター”ならぬ“ガンダムオカン”への階段を駆け上がっているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい、以上で短編その1“シスコンなのか”終了な…あと、ガンダムオカンって何だガンダムオカンって。ケツの3文字完璧に余計だろ」

 

「いい加減認めてしまえばどうだい?楽になれるよ?」

 

「なにがだよ!?……まあ、いい。という事でトークゲストの紹介だ。ヨハン、カモン」

 

「…どうも、チームトリニティの長男、ヨハン・トリニティです。O-01、今回はお招き頂き、ありがとうございます。…しかし、何故私だけが」

 

「君、前回死んだだろ?で、予定ではと言っても当分出番無いから暇だろうと思ってね」

 

「師匠!ド直球でいうな!!もっとオブラートに包めよ!!」

 

「………本当に、呼んで頂けて感謝しています」

 

「お前も泣くな!?みっともない!」

 

 

「…さて、解説行ってみようっていうか解説いるかこれ?」

 

「僕は要らないと思うけど一応ね…そういえば、君達3兄妹は実質的な血のつながりは無いんだっけ?」

 

「はい。我々3人は嘗てソレスタルビーイングに参加、或いは協力を申し出た人物のDNAサンプルを元に、とある遺伝子研究者の手によって生み出されました。なので、兄妹、とは言っても仰るとおりに実質的に血の繋がりは無く、また、兄妹の位置づけもあくまで肉体の培養、調整が終了した順で付けられているために、かなり曖昧な物なのです」

 

「……ん?培養?調整?まるでイノベイドみたいだな?」

 

「………(実はその研究者ってイノベイドの不老性の秘密が欲しかったからそのサンプルとして彼らを作ったのだけれど…面白いから黙っていようかな)」

 

「…師匠。どした?」

 

「いや、別に?」

 

 

「さ、どんどん行ってみようか?」

 

「つー訳でシスコン。真面目な話、お前もしもネーナが彼氏紹介してきたらどうする?」「スローネアインのライフルで消し飛ばします」

 

「即答かよ。流石はシスコン、伊達ではないぜ……因みにその相手が俺だったら如何するよ?タダでは「全面降伏いたします」だから早いって!!しかも俺に対しては全面降伏かよ!?」

 

「実際の所、本編中アレだけの怪我を負いながらもあそこまで戦えてしまう貴方に勝てるビジョンが何一つ思い浮かびません。例えガンダムを持ち出したとしても、懐に入られてそのままコックピットから引きずり出される可能性があるので…」

 

「…まあ、否定はしない」

 

「つーか君絶対にやるよね」

 

「そんなこと言う師匠はどうせそんな事せずに彗星拳で爆破だろ?」

 

「惜しい。ジー○ブ○ーガ○、死ねぇ!!!!で潰すよ」

 

「とうとうそっち方面を出してきたか!ってかサイズが合わんだろサイズが!!」

 

「フッ、愛の前に不可能なんぞは無いのさ…」

 

「うわぁ綺麗な言葉なのに師匠が言うとまるで別の言葉に聞こえ「ジー○ブ○ーガ○、死ねぇ!!!!」ってうおおおおおおい!?椅子が!?椅子が木っ端微塵なんですけどォォォ!?」Σ(゚д゚lll)

 

「チッ…」

 

「舌打ちをするな舌打ちを!!」

 

 

 

「……というわけで、トークその1終了だ。短かったなおい…しかもゲスト途中からほったらかしだし……という訳でヨハン。お前次と…ああ、あとその次のトークも続投な。流石に今のは酷いし…」

 

「了解しました」

 

「んじゃ、次の話は……“スパジェネ”」

 

「僕の真骨頂!!!!」「師匠うっさい」「にょろーん」「かわいくない」

 

「…?O-01。スパジェネ、とは…?」

 

「ああ、後で実際にやらせてやるけど、要はテレビゲームだよ。楽しいんだ」

 

「…ゲーム、ですか?」

 

「そう。ホントに楽しいよ?後でミハエルやネーナも入れてみんなでやろう。んじゃ、その前に短編開始だ」

 

 

 

短編その2

『スパジェネ』

 

幾多ものビルが立ち並ぶ市街地を、1機の巨人が駆け抜けていく。

その後ろに追随するは、悪魔の如き翼を生やし、その植物の蔓の寄せ集めのような有機的な肉体を刺々しい白い甲冑に包んだ巨人。

手には大型の狙撃用ライフルが握られている。

と、次の瞬間白い巨人――――――ライン・ヴァイスリッターは手に持ったライフル―――――ハウリングランチャーで目の前の巨人―――――アークゲインと呼ばれたそれに対して、光の矢を放つ。

その結果は―――失敗。なんとアークゲインはその場で踏み止まってから方向転換し、あろう事か正拳突き1発でビームを弾き返してしまったではないか!!

慌ててライン・ヴァイスリッターは回避行動をとるも、一瞬早くアークゲインがその懐に飛び込む。

そして――――――――――

 

 

 

 

 

 

【1P WIN!!】

 

 

 

 

 

 

「うし、勝った」

 

「いやいや待て待て!!今の一体なんだよ!?」

 

深夜1時頃のとあるマンションの一室からこんな会話が聞こえる事を咎める者は……いなかった。

 

 

ぶっちゃけてしまうと、今の現象はアークゲインという機体の特異性にある。

元々はアークゲインやヴァイローズ等といった、所謂“64系スーパーロボット”のカテゴリにその名を連ねる“ソウルゲイン”という機体のバリエーション機体という立ち位置で参戦した機体ではあったが、アーケードでの稼働当初は所詮“名前と見た目が違うだけのソウルゲイン”という性能でしかなく、さらに通常の対ソウルゲイン戦法の確立や、新たに追加された覚醒コマンドを使った所で、ソウルゲインのように両腕が変化しパワーアップする、といった目新しい物も無かった為、結局当時は“気分で使うロマン機体”という立ち位置に落ち着く事となった不遇の機体である。

この現実を受けて開発スタッフが何を思ったのかは分からない。が、流石に最新機体がこれではいけないとでも思ったのだろうか。

何時の頃からかアークゲインには、“射撃攻撃被弾時にタイミング良く攻撃を当てる事で、その攻撃を相手に跳ね返す”という異色の能力が付与されたのである。

しかもこの能力、何故かその“タイミング”というものがかなり甘く設定してあり、ただ単に攻撃を相手の射撃攻撃に当てるだけでも跳ね返せるという鬼畜仕様であった。

そんな物であるから使い手の腕によっては、アークゲインは一気にロマン機体から“一歩間違えるとリアルファイトに突入するレベルのチート機体”へとその性能を変化させてしまったのだ。

しかも何故かその異常な性能を再三ユーザーから指摘されているにもかかわらず、メーカー側は修正する気が無いという。

 

まあ、そんな状況な物だからその鬼畜性能は家庭版になっても修正されず、結果今のような事態が起こりまくる事となったのだが……

 

 

「という訳で、アムロはアークゲイン使用禁止。強過ぎるからね。いっそスパアス(スーパーアースゲインの略称)も封印させたいくらいだ」

 

「前半は納得するが、後半は完璧に師匠の我儘だろ。……はい、ティエリアおっつー」

 

「ぬああぁ!?」Σ(゚д゚lll)

 

ティエリアがそう叫ぶと同時に、画面の中でゲシュペンストMk-Ⅱ改タイプCがアークゲインのラッシュでバラバラにされる。

現実では一流パイロットの中でも抜きん出た実力を持つマイスターの内の一人。それでも、流石にゲームの中の腕前はそこそこでしかなかったらしい。

思わず彼はアムロを睨むが、睨まれた方は屁とも感じていないようでもう既に次の試合の準備に取り掛かっている。

まあ、先程のアムロとロックオンの試合を見ていれば、今の結果はもう分かったも同然。

なので他の面々は(約1名にやにやと笑っているのを除いて)苦笑いで彼らを見ている訳なのだが。

 

「………ほい、再設定完了。んじゃ師匠次」

 

「ほいきた」

 

そんな会話を交わしながらアムロがリボンズと入れ替わる。

因みに今の状況はマイスターズVSバカ師弟+1のチーム対抗戦が終わったので、今度はマイスターズ+1VSバカ師弟コンビによる対抗リーグ戦の真っ最中。

+1が何故移動しているのかというと……ぶっちゃけた話、ハンデである。

初戦のチーム戦にて、いきなりスーパーアースゲイン*2という地獄絵図が展開された際、一切+1の駆るR-1が目立って無かったからというのが大きな原因である訳だが。

…が、そんなハンデ等意味があったのか、今となってはわからない。

何故ならば、やりつくしているこのバカ師弟コンビはリーグも余裕で全勝中なのだから。

 

「…………………」

 

「ティエリア。無言で向こうを睨みつけながら僕にコントローラを渡さないで。意外と怖いから」

 

「……クッ、たった…たった数発しか当てられないとは…僕は…俺は……私は……!」

 

「うん。ただのゲームごときでそこまで情緒不安定になれるって結構才能だよね……大丈夫だよ。仇は……無理そうだけどとにかく頑張ってみるよ」

 

「私は……」

 

「…あー、アレルヤ?ダメだ、コイツ聞いてないぞ」

 

「……フォロー、お願いします…」

 

「あいよ」

 

言いながらロックオンがティエリアの方へ向かう。

…え?リジェネ?彼はリーグ開始早々バカ師弟コンビに秒殺されて真っ白になっていますが何か?

 

「…相手はスーパーアースゲインか…」

 

試合開始と同時に、アレルヤは自機のART-1を戦闘機形態へと可変させて、ステージの端ギリギリを飛ばした。

これにはキチンとした意味がある。

スーパーアースゲインもアークゲインもそうだが、基本的にスーパー系の機体というのは、ダッシュ攻撃などといった勢いのある攻撃をした場合、リアル系のように直ぐには止まれずそのまますっ飛んで行ってしまうという妙な癖がある。

アレルヤはそれを利用しようとしているのだ。

このゲーム、ステージの範囲外に出ると、全自動で範囲内に戻ろうとするモーションがかかるのだが、実はこの時でもダウンしなければ攻撃が通り続けるという仕様になっている。

無論、リアル系の機体ではせいぜいマシンガンの掃射を一回喰らえば直ぐにダウンしてしまうため、あまり戦闘に影響が無いと言えば無いのだが、スーパー系の機体になると話は違ってくる。

無駄に防御力と図体、そしてダウン耐性のあるスーパー系にはこのモーションが入ると中々ダウンしないのが災いして、この仕様は忌むべきフルボッコの種となるのだ。

なので本来では、このようなアレルヤと同じ戦法をとる敵を相手にするのはかなり時間の無駄なので無視するのが定石なのだが……今回のようにタイマンとなると、そうはいかない。

時間切れを狙っても、一度も倒せなければ意味は無いのだ。

 

(さあ、来い!)

 

そう思いながら、アレルヤはギリギリのラインを保ち続ける。

尚且つ、ブーストゲージが切れる前に変形解除→着地→変形コマンドでモーションキャンセルと共にブーストゲージ回復→再度飛行開始 という変形機体特有のバグ技も交えた行動をも取り入れながらというのが、彼の技量が如何程高い物かというのを証明していた。

それを見て、リボンズは内心で小さな感嘆の声を上げる。

先程のロックオンやティエリアと違い、己の駆る機体の特性と相手の機体の特性。そして己と相手の技量の差をキチンと弁えた、至極合理的な戦い方を選んできた事に対する物だった。

バグ技の方は、おそらく最初のチーム戦でアシュクリーフを用いたアムロの動きを見てそれを真似ているだけなのだろうが、それでもそれをすぐさま自分の動きに取り入れられているというというのは、一種の才能というものだろう。

…しかし――――

 

 

(面白い!!その小賢しいコテコテの定石など、真正面から蹴り砕いてくれる!!)

 

―――そんな戦法に対して、この鬼畜最強イノベイドが一片の怯みも覚える訳が無い。

むしろ嬉々としてコレに突っ込んでいく。

地を蹴り、邪魔な障害物を吹き飛ばし、いまだギリギリのラインを飛んでいる若干紫交じりのダークブルーの機体を群青色の巨人が追いかける。

これがもしも現実であったならば、アレルヤは恐怖で肝をつぶしていただろう。

…しかしこれはゲームである。命など一切ベットしなくてもいい、お遊びの一環なのである。

 

(来た!)

 

乗ってきた群青色の巨人を見て、アレルヤは快哉交じりの声を心の中で叫んだ。後は敵の攻撃に当たらないように、且つそれをうまくステージ外に飛び出すように誘導しながら粘り切れれば勝利である。

…しかし、極めに極めた男の駆るこの巨人は、そんな小賢しさをせせら笑うような行動をとった。

それは……

 

「っ!?ラインの上を!?」

 

「この程度、少し訓練すれば誰でもできる芸当だよ!それ、落ちてもらおうか!?」

 

…簡単な話、相手よりも外側に立って、攻撃が外れたとしても範囲外へと出るリスクを無くしたのだ…詰まる所、境界線の上で行動したのだ。

無論、そんな簡単な事ではない。少しでも操作をミスれば一瞬で範囲外へと出てアウトである。

事実、口は軽いがリボンズの手にはうっすらと汗がにじんでいる。

 

「…っけど、バランスを崩してしまえば!!」

 

言いながらアレルヤは変形を解除して、ブーステッドライフルによる攻撃を敢行する。

弾速、威力、相手の保つ絶妙のバランスに与える影響を加味した上でのチョイスだ。

事実、ほぼ至近距離から放たれた銃弾は諸にスーパーアースゲインの頭部を捉えた。

 

「ヌハハハハハハハハ!!!!貧弱貧弱ゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

それでも止まらない、ブレない、怯まないと3拍子揃っているのは、流石のスーパー系最強の一角といった所だろう。

思わずそれを見たアレルヤは舌打ちをしながら再度変形。再び全速力で逃げ始めた。

それを追いつつ、隙あらば掠らせる程度とは言えダッシュ攻撃を当てるリボンズ。

そんなイタチごっこの如き追いかけっこは、制限時間終了時まで続いた。

 

因みに結果は引き分けだった。

つまり、どっちも相手を落とせなかったという訳だ。

試合終了時、不気味に笑うリボンズを見ながらアムロはコッソリとアレルヤに合掌したという。

 

 

 

 

「次、俺とやろうぜ。さっきはアンタの弟子に予想外の攻撃で負けちまったが、今度はそうはいかねぇぞ?」

 

「HAHAHAHAHA。狙撃しか能のない男がよくも吠えた物だね。良いだろう劇画チックにブチのめしてさしあげよう」

 

「言いやがったな?負けて吠え面かくなよ?」

 

「こちらのセリフだ、と言わせてもらおうか」

 

「……あの、二人とも年長者なんだから、もうちょっとにこやかにゲームできませんかね?」((((;゚Д゚))))

 

その直後の試合でとんでもない黒い笑みを浮かべた年長者による、暗~い雰囲気の中行われた、斬艦刀VSZOソードという異色の対決があったのだが……あまりにも試合中行われていた会話がブラック過ぎるので、少っしも描写できるような物ではなかったという事を、ここに明言させてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

「……以上で“スパジェネ”終了だ。師匠、そっち終わったか?」

 

「もうじき終わるよ……む、今のを避けるか。しかしこれでフィニッシュと行こう」

 

「ああ!………くっ、無念……」

 

「……えー、とりあえず今までヨハンと師匠の二人が何やってたかというと、ヨハンがノウルーズ、師匠がアルブレードカスタムを使って、スパジェネやってたんだな。因みに大方の予想通りに師匠の勝ちだ。…それでも1回落せてるから、初めてにしては大健闘じゃないかヨハン。誉めてやろう」

 

「恐縮です、O-01」

 

「オウ。という訳でゲストはこの人。トレミーのおとうさんこと、ロックオン・ストラトスだ」

 

「いやー!!どうもどうも!ご紹介に預かりましたロックオン・ストラトスです!」

 

「2期のウソ予告と、デフォルメキャラによる特別編登場時のノリで出ていただき、ありがとうございます、兄貴」

 

「いや、兄貴言うなし。気恥ずかしいな」

 

「んじゃお義父さんで」

 

「おい、今なんかニュアンス違わなかったか!?」

 

 

「それじゃ、早速トークしようか。今回は親睦会の時の話だね」

 

「ホント、二人はもうちょっとにこやかにやって下さいよ…」

 

「ああ…あれは俺も少し大人げなかったからな…反省しねぇと」

 

「した所で絶対に変われない件について」

 

「ケンカ売ってんのか?」

 

「売ってやろうか?」

 

「やめなさい!!!大の大人がみっともない!!」

 

「“お恥ずかしったらありゃしない”、という事ですね、O-01」

 

「いや、そのネタは結構古いぞ…というか意味も違うし。……というかなぜに知っている、ヨハン…」

 

「元ネタの分かる貴方も大概だと思いますが……」

 

 

「というか、アークゲインって…」

 

「ムゲフロの機体だね。Wシリーズなんだっけ?」

 

「そ。EXCEEDでサポキャラとして使用可能になった奴なんだけど……良いのか?使っても?」

 

「まあ、鬼畜性能なのは否めないけど……良いんじゃないか?どうせ今回だけだろうしな」

 

「はぁ」

 

 

「…ところでロックオンさんはラインヴァイスしょっちゅう使いますよね?狙撃機体ならほかにもあるでしょうに…」

 

「いやあ、あれ中々使い易いんだよ。早いし軽いし、弾頭切り替えもスムーズにできるしな。弾幕が張れるっていうのも大きい」

 

「…乱れ撃つのは貴方の弟の特権でハブォ!?」

 

「「ヨハンちょっと黙ってようか?」」

 

 

「つーか師匠とロックオンさんってなんでそんなに仲悪いんですか。できればもうちょっと仲良くして貰いたいなと思う訳で「「やだ」」…即答ですか」

 

「まあ、僕の場合は嫌いというよりかは何となく気に入らないというのが大きいんだけどね。特に心の中にどす黒いとても大きな物を持ってるのに、綺麗な言葉でそれを塗り固めて上手く隠している所とか“特に”」

 

「俺の方も同じような感じだな。綺麗な顔して中身はこの世の歪みという歪みを凝縮して上手いこと人間の皮を被せてる様な所とか“特にな”」

 

「……フフフ」

 

「フフフフフ」

 

「「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」」

 

「……勘弁してください」

 

「O-01。挫けたら負けです」

 

「…………ホントに勘弁して……」

 

 

 

 

「…気を取り直して、次は3本目だな。さっさと終わらせて帰りたい…」

 

「ロックオン・ストラトスと師匠氏はいまだ不気味な笑いを続けているので代わりに私が。題名は“影の薄い彼女のデート?”だそうです」

 

「……誰?誰と?そしてなぜ疑問系?」

 

「さあ……」

 

「…………ま、いいか。そしたらさっさとはじめよう。次ページからスタートだ」

 

短編その3

『影の薄い彼女のデート?』

 

(……これは一体如何してこうなっているのだろう?)

 

ある晴れた昼下がり。

ソレスタルビーイング所属のガンダムマイスター【ユリ・花園】は、嘗て無いほどの試練に襲われていた。

 

その試練とは――――――

 

「……オイ、何顔赤くしてるんだ。はよ食え。俺がアホみたいだろが」

 

―――などと言ってスプーンの上に乗ったアイスクリームを口元に差し出してくる、一人の少年だったりする。

 

(……ど、どうしてこうなった……?)

 

そう思いながら、彼女は内心頭を抱えた。

主に羞恥とか羞恥とかそこらへんで。

 

何がどうしてどうなっているのか――――――その答えの糸口を見つけるには、今の状況から約数時間前に遡らなければならない。

 

 

「……は?買い物に付き合え、だぁ?」

 

「あ、ああ…ちょっと…その、個人的に必要だった物が、最近尽きかけてきてな……それで…」

 

とある日曜の昼直前。アムロはユリにこんな風に誘いをかけられた。

その誘いをかけた方の恰好はかなり気合が入っており、どう考えても“ちょっと買い物行ってくる”レベルの物ではない。

何をそんなに気合を入れているのか? 思わずアムロは内心で首を傾げた。

 

「で…その……どうなんだ?」

 

ソファーに寝っ転がりながら天井を見つめて考え事をしていたアムロに再びユリが問いかける。

 

「ン。まあ別に今日は彼是無いから暇だしな…一日中家の中っていうのも性には合わんから付き合うわ」

 

「ホントか!?」

 

「ウソ言ってどうすんだ。で、何処に行くんだ?」

 

言いながらアムロはソファーから立ち上がって荷物の準備をする。

とは言っても、携帯と財布をズボンのポッケに押し込んで、肩掛けバッグを背負うだけなのだが。

そんな彼に対して、ユリはテーブルの上に置いてあったとあるチラシを開いて見せる。

其処に書いてあった事とは――――――

 

 

お○場 ○ーナス○ート

 

「ここまで来させられた意味が分からない」

 

「うるさいな。来たかったんだから別に良いだろう。それに文句言いながら結局ついて来てるじゃないか」

 

「俺保護者。お前被保護者」

 

「喧嘩売ってるのか?」

 

等と言い合いながら歩く二人はどっからどう見てもバカップルとかそういった類の関係にしか見えないのは…まあ、些細な事だろう。

 

 

ポテポテと二人そろって歩きながら周囲を見渡す。

さっきの言い争いから既に30分ほど経過していた。

その間に二人が入った所と言えば…まあ、主に服屋とか化粧品屋とか雑貨屋とかしかない訳でそういう所にしか行ってないのであるが。

しかしそれでも彼らの両手に荷物の入った買い物袋が大量にぶら下げられるには充分であった。

 

「……つくづく思うが大量に買ったよな…ってか、明らかにお前が着たりする以外の物も買ってなかったか?」

 

「ん?…ああ。一応スメラギさんやクリス達にあげようと思ってな。彼女たちは基本仕事であまり出かけられないから…」

 

「ん。納得」

 

言いながらアムロは首を回して肩を解した。

あまりユリに荷物がいかないように頑張ってみたものの、流石に両手のキャパシティを超えるほどの量の荷物を持つとキツイ物があるらしい。

結局、彼女にも幾つか持たせてしまっているし。

それでも液体系や比較的重量のある物をメインで持っているのは、男としての面目躍如といった所だろう。

そんな自分に自嘲気味の苦笑を漏らす。

 

が、次の瞬間。

 

「「…?」」

 

不意に二人は誰かから注視されているような奇妙な感覚を感じ、咄嗟に不自然な動き方にならないように注意しつつ背中合わせになった。

周囲を警戒し、隅々まで見渡す。

異常無し。

ユリの顔を見る。彼女も異常無しと判断したようだ。

同時に二人揃って、はて?、と首を傾げた。

確実に見られているような感覚はしたのだが、肝心のこっちを注視しているであろう人間の姿が見当たらない。

気のせいか?と思おうとしても、タダでさえガンダムマイスターという特異な職業柄、気配察知などの能力が高いユリに、それを“基礎能力”として追加で鬼畜師匠による地獄の修行を施されて尋常じゃないレベルまで身体能力をぶち上げられたアムロの二人が同時に察知できたのだ。

勘違い、という線はありえない。

 

(…不味い、か?)

 

少々不穏な物を感じたアムロは荷物のせいで碌に動かない手を必死に動かして、ユリにジェスチャーで“早く行こう”と伝える。

対するユリも同じ様な考えだったのか、それを直ぐに了承すると早歩きで目的の場所へと向かい始めた。

念の為最後に周囲をちょっと確認してから、アムロもその後を追い始める。

 

……ただ買い物に来ただけなのに何故こうなるのか、と口の中で愚痴を吐きながら。

 

 

そんな二人からちょっと離れた場所にある柱の裏……というかは、二人が居た方向とは丁度反対側。

其処には先程まで二人を注視していたとある3人組が、組み体操かトーテムポールかと言わんばかりのとっても変な体制で隠れていた。

 

「……い…行った?」

 

そう呟いたのは一番下で上の二人を支えている、黄緑の髪を持つ少女―――ヒリング・ケア。

 

「ああ、行った。おそらく荷物を置くかそのまま此処を離れるためにエレカに戻ったんだろう」

 

そう返したのは上の一人を肩車で支える浅黒い肌で黒髪を持つ少女―――刹那・F・セイエイ。

 

「あ、あの…も、もう降りた方が良いですよね……?」

 

そう言いながら一番上でヒリングに労りの声をかけるのは、ピンクの髪を持つ少女―――フェルト・グレイス。

 

「う、うん。言いたかないけどやっぱキツイわ…」

 

「すまない。今降りる」

 

「ありが…って痛ぁ!?ちょっ、靴が!!靴の踵が肩甲骨の隙間にぃ!?」

 

ギャーギャー喚いても体勢を崩さない辺りは流石のイノベイドと言ったところだろう。普通に涙目になってしまってはいるが。

そんな彼女に構わずに地面に降り、肩車していたフェルトを下すと刹那は首をグリグリと回した。

流石の彼女でもちょっときつかったのかも知れない。

そうしてから、刹那はアムロとユリが消えていった方を見ると、

 

「追うぞ」

 

と言ってから再び歩き出した。

その後を慌ててフェルトが。

遅れて痛みで少し悶絶していたヒリングが追いかける。

 

 

……さて、なんで彼女達が何の用事も無いのにこんなショッピングモールに居て、更にはアムロとユリを追跡しているのか。

その理由は時間を少し戻してみるとわかる。

 

 

2時間ちょっと前

 

アムロ自宅兼アジト

 

「というわけで、アムロとユリ・花園がデートするらしいから追跡するわよー」

 

ニタニタ笑いながらリビングでそう宣言したのは、誰であろうヒリングだ。

肝心のアムロとユリが出かけてから1分近く経ってからの事だった。

突然の一言に刹那とフェルトが目を丸くする。

ややあって彼女に質問したのはフェルトだった。

 

「え………追いかけるん、ですか?」

 

「モチのロンよ。姉には弟がこういった機会に不純な行動しないかどうか監視する義務があんのよ。決して自分の弟があたしより早くそんな甘酸っぱい青春のイベントに遭遇したからって嫉妬してる訳じゃないわよ。無論あたしはブラコンじゃないからその相手があたしじゃなかったからってユリ・花園に嫉妬してる訳でもないわよ」

 

「墓穴を盛大に掘ってないかJK」「黙れ食いしん坊マイスター」

 

言いながら睨み合う二人。

されどヒリングが墓穴を掘った事などフェルトにだってわかる。

それでも口に出さなかったのは、彼女が比較的聡い子供だからだろう。

 

(デート…かぁ…)

 

まあ、子供と言ってもお年頃。

そういった色恋沙汰に興味が湧くのは女の子だから仕方のない事だ。

だから彼女はヒリングの提案に反論しなかったし、然程乗り気でなかった刹那を必死に説得したりもしたのだ。(ただし刹那はお菓子をチラつかせた瞬間に賛成派に回った為に、別に説得も糞も無いのだが)

 

まあ、それは兎も角としてその後直ぐに追跡する事を決めた3人は言うが早いがヒリングの愛車に乗り、出歯亀もとい何時か自分達にそういう事態が来た時の参考として(約1名は美味い物を食べる事がメインになってはいるが)此処へと足を運んだわけなのだ。

 

 

そして現在。

3人は怪しまれる事を避ける為に、ヒリング主導でアムロとユリが入った店に程近い距離の店(無論向かいだとか隣では無い)を物色しながら2人を追跡しつつ、約1名は虎視眈々と隙あらば二人を誘導してフードコートへと向かおうとしているのだった。

なんかおかしい?気にしてはいけない。

 

「…チッ。二人とも、流石に訓練しているだけあって早い。もうエレベーターホールの前に居る」

 

「不味いわね……あの位置からじゃ、下手に近づくと完璧に見つかるわ。特にアムロの奴はエージェントの仕事もやってるだけあって場馴れしてるし…フェルト。地図を見て、あのエレベーターが駐車場の何処のブロックに到着するのか確かめて」

 

「そこまで詳しくは載ってないけど、大まかになら……えっと…Dの一番端に到着するみたいです」

 

それを聞いたヒリングが悔しそうに顔を歪める。

 

「だとしたら少しキツイわね。あたし達の車があるのはBブロックだから離れすぎてる……ここで見失うと厄介よ」

 

「…裏をかいて別のブロックに置いてあるという可能性は?或いは別の階で降りてから時間を潰し、それから戻るなどの可能性もあるだろう。ユリは兎も角、アムロはやりそうな気がするが」

ポツリと刹那がそう言った。

確かに、先程の二人の様子を鑑みるに何かしらのフェイントでそういう事をしてくるのは考えられる。

特に相手はあのアムロだ。自分が追われていると判断すれば、あの手この手で追う側の気力を削ぐような嫌らしい手を使ってくるあの男が自分達の相手なのだ。

ジャブの気分でそれくらいしてきても何らおかしくは無い。

フェルトもそれが分かっているのか、不安そうな目でヒリングを見てくる。

しかしヒリングはある種の確信があるのか、それは無い、と首を振った。

 

「あいつ単体ならやりかねないけど、今は同伴者が居るのよ?しかも手元には荷物が大量……この場合、逃げるのが目的なら真っ直ぐ足になる物に駆け込むのが得策。フェイントをかけるにしても、かけてる最中に同伴者に限界が来たら逆効果になるしね。あいつもそれ位は分かってる筈よ」

 

「それじゃあ、彼らが乗ってから次に来たのに乗り込みましょう。幸い、エレベーターは2つありますし」

 

「それが一番良いわね……っと、来た来た……それじゃ、二人が乗ってドアが閉まった所で走るわよ」

 

「「了解」」

 

そんな会話を交わしてから身構える3人は、傍から見てる者にとってはどう良心的に見ても不審者以外の何物でもない。

それでも通報されないのは、きっと3人全員がかなりレベルの高い容姿であったからだろう。

要するにこうである。

 

“かわいいは正義!!”

 

 

されどそんな3人の推理を嘲笑うかのごとく、アムロとユリはエレカのあるフロアではなく、まさかのフードコートのある3階で降りていた。

無論、二人ともまだ警戒は解いてはいない。

周囲をきょろきょろと見回しながらアムロが一番店のカウンターに近く、尚且つL字型に壁に囲まれた席に座った後、荷物を置き、ユリを壁側に座らせる。

そしてささっと目配せし、直ぐに手頃な物―――某有名なハンバーガー店Mへと自分と彼女の分の昼食を買いに行った。

その間、ユリはフードコートに入ってくる客をチェックする。

幸い今はまだ11時半。

段々と人が入ってくる時間帯ではあるが、まだ一気にドバっと人が入ってくるような事は無いため、チェックし損ねる心配は無い。

 

(…にしても家族連れが比較的多いな。カップルは逆に少ない、か……)

 

意外だった、と言えば嘘になるが、かといって予想の範囲内だったかと言うと、それもまた嘘になる。

そもそも今日は平日だ。土日でもなければ祝日でもない。

どちらかと言えば、ほぼ中間の水曜日だ。

…まあ、この世の中定休日が土日祝日ではなく水日祝日とか、それ以外の曜日と祝日だとか、下手をすれば土日とGW、盆、年末だけという所もある。

その事を鑑みれば、この状況もあまり不思議な事ではない。

 

(……っ…)

 

脳裏に一瞬だけ幼い頃の自分が誰かに手を引かれながら笑っている光景が浮かんだ。

それは何時の頃の光景だったのか、何が理由で笑っていたのか……

 

「…………ハァ…」

 

そんな頭に浮かんだビジョンを振り払い、新たに入ってくる家族を見てユリは溜息を吐く。

吐いた所で、別段に何か変わるわけではないが。

 

「持ってきたぞ…って、どした?」

 

其処へアムロがトレーの上に色々と乗せながら戻ってくる。

 

「ん?いや、なんでもないさ」

 

対するユリは慌てて笑顔を浮かべてその場を取り繕うが、流石に勘のいいアムロはそれが作り笑いである事に気がついたのか、更に眉間に皺を寄せる。

……が、やがて何かを察したような顔になると辺りを見渡してから周囲に妙な物が無いかチェック。それから一番近いところに座っている客との距離を見てから、彼はテーブルの上にトレーを置き、椅子に座ると小声でこういった。

 

「…………つらい?」

 

心臓を引っ掴まれたような気分だったと後に彼女は語っている。

これがアムロ・レイという人間の悪い部分であった。

察しが良すぎる訳ではない。人の心の機微に疎いわけでも敏感なわけでもない。

ただ、まったく別の意味で言った言葉が、あまりにも絶妙なタイミングで出てしまい、まったく別の意味で相手に受け取られてしまう。

詰まる所、低確率ながら彼は人の心の地雷原を盆踊りを踊りながらよりにもよって“突破”してくるのだ。

しかも、本人は全く別の意味でそれを言っているのだから、性質が悪い事この上ない。

 

今回もそうであった。

 

アムロ自身は“人が多いからつらい?”と言ったのであって、まったくそれ以外に含む所は無い。

しかし、今このタイミングで放たれたその言葉は、ユリにとってまったく別の意味を持って投げかけられたと思わせるのに十分であった。

 

「……ン、大丈夫」

 

一寸カッと熱くなりかけた自分を諌めて、彼女は至って普段と同じように返答する事に成功した。

よくよく考えてみれば、彼が自分に関して知っている事など然程無いのだ。

寸前でそう思えた自身の理性に感謝しつつ、彼女はそのまま目の前のハンバーガーの包みを開けて食事を始めた。

そんな彼女の反応を見たアムロは怪訝そうな顔になりながらも同じ様に食事を始める。

 

それから食事が終わるまで、二人は一言も言葉を交わさなかった。

 

 

(…さて、どうする)

 

数分後 

 

(そろそろ腕が疲れてきたな…)

 

場所は変わらず

 

 

((…………どうしよう?))

 

二人はある意味今日一番の問題と直面してしまっていた。

 

 

 

そもそもの発端は食事が終わって不意に立ち上がろうとした時である。

 

【ピピピ、ピピピ、ピピピ】

 

「「ん?」」

 

突然鳴り響く電子音。

はてなんだろうと二人が見渡すと出所は今さっきまで食べていたハンバーガー屋のトレー…の上に置いてあった小型端末。

なんだこれ?と、ユリがそれを持ち上げる。

それを見たアムロは少し考えた後、何か合点がいったような顔になって手を叩いた。

 

「いっけね。デザート代わりに別の店でアイス頼んでたんだったわ。それ、たぶん呼び出し音だ」

 

それを聞いたユリも、ああ、といった顔になる。

成程見れば端末の隅に番号と店の名前が印刷されているシールが貼ってある。

ちょっと取ってくる、と言いながらアムロは席を立った。

それに手を振って返すと、アムロは店の方へと歩いていく。

…暫くしてから戻ってきた彼の手にあったトレーの上に何故かてんこ盛りの緑色の物体が入ったバケツのような容器が乗っているのを見て、彼女が盛大に頬を引きつらせるまで、残り40秒。

 

 

「ドッチクショォォォォォォ!!!」

 

一方こちらは二人の行動を深読みし過ぎてまんまとフェイントに騙された追跡部隊の3人。

駐車場に来てからそこらじゅうを虱潰しだと言わんばかりに練り歩いて二人の姿を探していたが、結局アムロとユリは見つからず。

まさかもう出て行ったのかと思ったところでフェルトが二人が乗ってきたであろうエレカを発見。

荷物などの置かれていないその状態から、ヒリングがやっと自分達がフェイントに引っかかった事に気付いて大絶叫。

刹那はそんな彼女を道中買った肉まん片手に冷ややかに見つめ、残るフェルトは周囲がヒリングを変な目で見ている事に気づき、巻き込まれては厄介と他人のフリを全力でしている。…結局近くにいるので然程効果はないのだが。

兎も角、この後ヒリングが周囲の自分を見る目に気づいて悶絶したため、追跡組がアムロとユリを追いかけられるようになったのは、そこから十数分後であった。

無論、その頃には二人は別の場所へと歩き始めてしまっていたのだが。

 

 

で、その肝心の二人はというと……

 

 

 

「……つくづく思うが、本当にエライ量のアイスを買ってきたな」

 

「食べる?」

 

「いや、いいよ。そんなに食べたらお腹壊しそうで…」

 

「…流石に全部は食わないよ?残ったらキチンと持って帰れるようにしてもらったさ」

 

「そ、そうか」

 

言いながら頬を引きつらせるユリ。

まあ、容器抱えてその中身食ってたら誰でも全部食べるのかと思ってしまうのは当たり前だろう。

事実、既にバケツの中のアイスはもう半分程になってるし。

帰ってからアムロがトイレに篭もりっきりになるのではないか、とユリは少々不安気味になる。

が、そんな彼女の不安なぞ知った事じゃないとばかりにアムロはアイスを貪り続ける。

その顔はもはや何か色々と緩みきってふにゃけてしまっている。

 

(…締まりのない顔)

 

アムロを見ながら、ユリは内心でこう呟いた。

そこには嘲りの色はない。

むしろ、コイツでもこんな顔をするのか、といった驚愕が浮かんでいた。

まあ、それはそうだろう。

ぶっちゃけた話、アムロはこんな顔絶対に人前ではしない。…というか、するタイミングがない。

平時の“アムロ”という存在として活動中は炊事洗濯掃除に買い出しといった家事に追われ、時たま刹那やユリ、フェルトや師匠や姉兄ご近所の対応に追われ、それ以外では相棒のハロに対応。

(ユリ達は知らないが)“O-01”として活動中は常に戦闘のプレッシャーやエクストリーム・ガンダム地獄による訓練、トリニティ3兄妹の面倒を見ている。

そのため、実質的に彼個人がゆっくりできる時間など実は本当に無い、とまではいかないもののそう言っても過言ではないほどに少ない。

 

「何?」

 

と、いつの間にかアムロがふにゃけた顔のままユリを見ていた。

長く見すぎた、とユリは内心で一人ごちる。

珍しい事だったとはいえ人の顔を凝視し続ける、というのは知った仲であっても失礼だろう、と。

 

「いや、なんでもない」

 

言ってユリは視線を外した。

そんな彼女を見ながら、アムロは軽く何かを考えるような素振りをする。

…が、そこは流石のアムロ。

おそらく、彼はそう考えたのだろう。

何かに気づいたような表情になったかと思うとスプーンで手元のアイスを限界ギリギリまで掬い上げ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ」

 

「……は?」

 

「いや、『は?』じゃなくて。食いたいんだべ?」

 

「え?いや、ちょ、ま…え?」

 

 

―――スプーンを、ユリの顔の前に差し出してこう言った。

『自分の顔を見られていた』…それが思いつかない代わりに『アイスを食べたくてそっちを見ていた』なんて事が思いつくあたり、流石だと言わざるをえない。

何が?と言われても困るが。

 

 

「……オイ、何顔赤くしてるんだ。はよ食え。俺がアホみたいだろが」

 

(……ど、どうしてこうなった……?)

 

そして話は冒頭へと戻る。

とりあえずアムロ。アホみたいではない。お前はアホだ。筋金入りの。

 

 

……まあ――――――

 

 

 

 

 

 

「……んっ」

 

「…美味いか?」

 

「……うん」///////

 

「そりゃよかった」

 

 

 

 

 

 

――――――結局食べてしまったあたり、ユリもユリなのだが。

この後?無論帰るだけだったが、家に着くまで(ユリが一方的に)変な雰囲気になっていたことは言うまでもない。

 

 

世界のどっかの某所にて

 

                           

「リア充マジでくたばれ!!!!!!!!!!!!!」ヽ(゚Д゚)ノガオー

 

「ちょっとリボンズ!?いきなり何言い出してるの!?」Σ(゚д゚lll)

 

どっかの師匠が謎の電波を受信して天に向かって吠えたが―――まあ関係なかろう。

 

駐車場にて

 

「「ハッ!?」」

 

「? 刹那、どうかしたの?ヒリングさんも…」

 

「い…今、何か、役どころとしてとても重要なイベントを見逃した気が…」

 

「何故かしら…あたしの場合はなんか無性に腹が立ったんだけど」

 

三人の間でこの様な会話がされたのも関係あるまい。

―――因みにこの3人。自分達では完全にバレきってはいないと思っているが、実はこの時点で追跡者が自分だと『アムロには』バレている。

故に家に帰った瞬間、イイ笑顔のアムロに正座させられ、そのまま事のあらましを聞いて顔を真っ赤にしていたユリに大説教を食らったのは…しょうがない事であろう。

 

因みに宇宙に浮かんでいる白と水色のツートンカラーで塗装されたとある戦艦内では、この二人っきりの買い物が何者かによって逐一映像で実況されていたらしい。

どんな騒ぎが起こっていたかは…それは、読者の皆様のご想像に任せるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

「……以上『影の薄い彼女のデート?』終了だ。……てか、これデートちゃうやろ」

 

「それ以上言ってはいけませんO-01。おそらく、ここに居る全員が思っている事です」

 

「はいはい作者の力不足を酷評する場所じゃないからねココ。というわけでトーク行ってみよう」

 

 

「時系列的には合同演習前だな。というか、これまでの話を読んでいる限りでは、お前さんトリニティと合流してから一回も帰ってないんじゃないか?」

 

「あー…気付きましたか。そうです。一回も帰っておりません。もうすぐ帰れる算段だったんだけど…うわぁ…よく考えたら帰ったら帰ったでまた面倒な事があるじゃないか…」

 

「? 何かあるのですか?」

 

「うん。とってもとっても面倒な案件が……そこの緑髪のバカ師匠の所為で」(-_-)ジトー

 

「ハッハッハ…何の話かな?」

 

 

「つーか今回の話の舞台って、フツーに現実にあるよな。東京都の埋立地の方に」

 

「伏字にしてあるけどモロですしねぇ…作者はなんて言ってるの、師匠」

 

「『なんか苦情とか来たら即座に名前を捏造する』とのことだよ」

 

「…最初から変えとけばよかったのでは?」

 

「そこはそれ、当人の理由という物があるんだろうね」

 

「…果てしなく下らない理由な気がするぜ…」(ーー;)

 

 

「そういえば、O-01が口にしていたものは一体…」

 

「無論メロンアイス!!!」

 

「うおっ!?叫ぶほどか!?」

 

「あー…そういえば言ってないしキャラ紹介の回でも明記してなかったけど、アムロって実は基本的な好みや性格は完璧に作者と両親がモデルになっているんだよ。だから隠れたメロン狂だったりするし、フレンチブルドッグが好きだったりするよ」

 

「マジかよ…」

 

「メロンがあったらどんな絶望的な状況でも10年は戦えるぞ、俺は!!」

 

「どのような理屈なのですか…?」

 

「ヨハン・トリニティ。考えては負けだよ」

 

「はぁ…」

 

「因みにスイカとか梨とかでも可!!つーか果物全般何でもこいや!!」

 

「スイカは野菜だろうが……んじゃ訊くけどドリアンはどうなんだ?」「すみません。刺さるし頭割れるんで勘弁してください」

 

「即答かよ!?」

 

 

「あれ?そういえば思ったんだけどさ師匠」

 

「ん?どうしたんだいいきなり」

 

「いや…ユリ何処?これまでの話の流れからするとトークゲストで出てくるんじゃないの?」

 

「あ、それ俺も思った。だけど、何故か俺もこっち来るまでに見てないんだよな。何でだ?」

 

「…ああそれね。いや、実は彼女も今回呼ぶ予定だったんだが……」

 

「…だが、なんだよ?」

 

「…オイまてまさか…」

 

「フ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1期編の終わりにアムロとタイマンでトークするから今回は出番無しだそうだ」

 

「「酷いぞ作者ああああああ!!!!!!!」」

 

「……(な、なんだ?この形容し難い哀れみは?)」

 

 

 

 

 

「ハイ気を取り直してドンドン行ってみよー!!……って、あれ?今ので終わりじゃなかったっけ?3話でしょ今回?最初に言ってたよな?」

 

「そういや、そうだな…たしか、元々は3話しか入れてなかったはずだが…」

 

「私の記憶にある限りでは、Pixiv版では確かにそうでしたが…」

 

「あ、そういえば言ってなかったかな?今回移転するにあたって、この小説、オリジナル版とは少し違う部分が幾つか有るんだよ。表現が変わってたり、文量が多くなってたり」

 

(もしかしてこう言う脳内でのセリフが『・・・・・・』じゃなくて()で表現されている所とかか師匠?)

 

「あ、うん。実際にやってくれてありがとう。まあ、そう言った部分も含めて、だね」

 

「んじゃあ、次の話もその一環ってわけか。だったら早速話に入ろうぜ。題名は『1期編でやろうと思って“た”外伝のプレ版』か。……って、はい?」

 

「…………え゙?」

 

「……では言ってみましょう」

 

「レッツスタート」

 

 

「いや、ちょっと待って!?何かおかしくない!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

短編その4

 

 

『1期編でやろうと思って“た”外伝のプレ版』

 

 

 

 

 

…ん?何が起こった?

 

むくりと起き上がって、周囲を見る。

見慣れたコックピットに、見慣れた相棒の姿。モニターに若干見える外套と満天の星から、瞬時に此処が乗り慣れたOガンダムのコックピットで、俺は今宇宙にいるという事に気付いて安堵の息を漏らす。

 

…いやいや、安堵しちゃ駄目だろう。

 

そう思い直して、漏らした安堵の息を吸い直す様に、俺は深呼吸を一つしてから、昨日の夜の出来事を思い出す。

 

(…え~……と…確か昨日は師匠が「全員で年越しじゃー!!」言って俺らを集めて、リアル『ガキの使い 笑ってはいけない空港』やる羽目になったんだよな、DVDで………で、その途中で一月一日来ちゃったから、皆で年越し蕎麦(全部俺製)食って、そんでもってなんか皆段々と変なテンションになっていって、それから……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・アムロー!!サスガノアンタデモベッドノウエデモアタシニカテルトオモウナー!!!チョッ!!ネエサンナニイッテ・・・・ウェェェェェェェェェェ!!!!!??????シ、ショウタスケtガンバレーシ、シショオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………うん。何も無かった!!!!!!

無いよ!?無いったら無いからな!?

あ、思い出した!そういやなんか途中で師匠がどっかから甘酒持ってきて、それを皆で飲んだんだった!それで確か姉さんが超大量にそれを飲んじゃって………うん!!悪いのは全部師匠と甘酒ごときで酔っぱらう姉さんだ!!!全て師匠と姉さんの仕業だ!!

 

さて、悪いのは全てあの二人だと確信できたので、再び現状把握に移ろう。

取り敢えず、今俺が乗ってる機体がOガンダムだという事は分かった。

コンソールを見ると、武装データがあって、其処にデカデカと『O-GUNDAM』と書かれている事からも間違いは無い。

…って、いうか、こんな画面あったか?

取り敢えず色々と疑問は残るが全部放置して現状把握の方を続行する。

 

(…えー…っと、武装の方はシールド1つとビームガン改1丁。ビームサーベル1本と、GNABCマントはいつも通りで、その裏に改修型ビームサーベルが2本……改修型?なんじゃそら?何が違うんだ?…………ま、いっか。確認は後にして……あとは改修型ビームガン改がそれぞれ別タイプで6丁……って、“改修型ビームガン改”ィ!?なんじゃそりゃ!?しかもこれ全部どんなのだか説明無い?!って、いうか、さっきのサーベルの方も詳細乗ってないし!………ええい、まあいいや。グダグダ言っていてもどうにもならん。次、次!あとは……特になし!!)

 

「…つまり、良く解んない武器が何個かあるだけで、それ以外はいつもの状態なのね…」

 

確認後思わずそんな言葉を漏らした。同時に脱力する。

てっきりとんでもなく変な実験兵器を持たされて放り出されているのかと思ったが、そんな事は無いようだ。

…へ?得体の知れないビームガンとサーベルはって?

大本の武器が使い慣れてる奴なので除外した。つーか細かい事一々気にしてたら俺の精神がもたない。

とにかく、これで武装の把握の方は終了。

後は周囲の状況だが……

 

「オイ、起きろ相棒」

 

「ムニョ…?」

 

俺から見て右側の専用台座にすっぽり嵌まっていた相棒を小突いて起こす。

って、いうか何が「ムニョ」だ何が。

お前一応機械なんだからそんな事言う必要ないだろ。

そんな事を考えながら、俺は相棒に指示を出した。

 

「相棒。現宙域をサーチ開始。何かめぼしい物があったら順次報告しろ。取り敢えず俺達は今何処のどこら辺に居るのか詳しく確認したい」

 

「OK!OK!」

 

「頼むぞ…」

 

言いながら、モニターの外を睨む。

一通りチェックはしてみたものの、そのどんな場面でもこの状況がシミュレータによる仮想現実だということは明示されてはいない。というか、そもそも仮想現実であるならば、今俺の目の前に相棒は居ない筈なのだ。

つまりこれは――――――シミュレータによる仮想(バーチャル)現実(リアリティ)ではなく、現実(リアル)

要するに、人革連やユニオン、はたまたAEUといった『敵』が何時出てきても、何一つとしておかしな事は無いのだ。

故の相棒によるサーチである。

相変わらず気が狂っているとしか思えない超高性能を誇るコイツは、無論情報処理能力もハンパではない。その為、今回の様に索敵等をさせると、ものの1~2分で半径約2km程度の範囲の処理は終わってしまうのだ。この能力は、個人的にかなり高く評価できると思っている。

……まあ、それ以外の能力が凄いんだけど凄くない使われ方をしているからかもしれないが……

 

「……!! アムロ!見ッケタ!見ッケタ!」

 

と、どうやら相棒が何か見つけたらしい。

直ぐに俺は返事を返す。

 

「お!何だ?何を見っけた?」

 

「真後ロ見ロ!!真後ロ見ロ!!」

 

「は?真後ろ?」

 

言われて一瞬俺は頭の上に『?』を大量に乱舞させてから、ハッと気が付く。

そういえば、武装の確認とかはしたけど、まだ周囲を見渡してはいなかった。

これは失敗、と、頭を掻きながら後ろを振り向く。

 

で、絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは巨大な、シリンダー型の何かだった。

全長は今一分からないが、とにかく巨大で、その端っこから羽みたいなのが3枚生えていて、グルグル回っている。

羽の内側は、ほぼ全部が鏡みたいになっていて、その真下は硝子の様な物で構成されているのか透明で、其処から中を見ることが出来た。

中には……雲だ。雲が見える。丁度シリンダーの真ん中らへんに雲があった。その向こうには、シリンダーの外郭にまるで張り付くようにしてビルや民家等が見える。

よく見ると馬鹿デカイサンタのバルーンがあった。その下を車が通っていたり、人が歩いているのが見える。

それを確認した瞬間に、俺は思わず叫んでしまった。

 

「…シ……シリンダー型の居住コロニーだと!?」

 

有り得ない事に、頭の中が一瞬でこんがらがる。

何せ西暦2307年現在にも確かにコロニーはあるが、そういうのは大抵小規模な物で、軌道エレベータの中継地点だとか、アステロイドベルトの小惑星の中だとかそういった所にしかまだ作られていないのだ。外宇宙航行艦とかは別だとして。

CBの所有するコロニーだって、前述した物の後者の方の小惑星タイプの物が限界なのだ。

 

しかし、それでも―――――目の前に実物があるのだから、認めない訳にはいかない。

自分がノーマルスーツを着ていることを今一度確かめてから、コックピットのハッチを開けて肉眼で確認する。

存在している。

ハッチを閉める。そして頭を抱えて溜息を一つ。

これが幻覚の類だとか、自分はまだ寝ててこれは夢なんだといった事ならば、少しは気が楽になるのだろうが、生憎とノーマルスーツ着用時のあのなんともいえない感覚と微妙な息苦しさがこれが夢でもなんでもなく現実なんだという事を如実に物語っている。

その事を再び確認して、また溜息を一つ。

 

(…取り敢えず、何かで気を紛らわそう。このままだとおかしくなりそうだ。)

 

そう考えて、再び周囲に目を向ける。

と、視界の隅でオレンジ色っぽい光が見えた。

ん?と思ってOガンダムのメインカメラをそちらに向け、倍率を最大に上げる。

見れば其処では、一つ目のMS達が、互いにヒートサーベルやバズーカ、ビームライフルやビームサーベルや、あれは…ビームナギナタ、かな?そんな物を振り回したりして戦闘をしていた。

さて、これを見て俺はいよいよ訳が分からなくなってきた。

見た所、あのMS達にGNドライブは付いていない。だというのに、何機かは軽々とビーム兵器を扱っているのだ。しかもビームの色はどれもこれも黄色に近いオレンジである。

もう何が何やら。

 

 

 

ピピピッピピピッピピピッ

 

 

 

と、突然そんな音が鳴った。何かと相棒に確認させると、どうやらその内容はメールらしい。

何ぞと考えながら、メールを開く。

其処にはこんな事が書かれていた。

 

 

 

 

 

『赤いMSのパイロットが指揮している部隊を援護して、彼らの任務を成功させよ。なお、素性は本名以外正直に明かす事』

 

 

差出人は完全に不明。

本当に、これだけしか書いてない。

そして始まる脳内会議。

 

『もうこんな訳分かんない状況なんだから、素直に従っとくのが無難じゃね?』

『いや!これは師匠の盛大なドッキリという可能性がある!!信用するべきではない!!』

『しかしこのままここでボーっとしていても何も始まらん!!素直に従うべきだ!!』

『しかしそれは安易過ぎる!!もっと様子を見るべき』

 

イヤシタガウベキダ!イヤシタガワナイベキダ!!イヤイヤ…………

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全員かかって来いやぁぁぁぁぁ!!!!!!!』

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、従おう」

 

「アッサリトキメタナ」

 

「うっせぇ」

 

言いながら、Oガンダムを戦場へと向ける。

時々流れ弾が飛んできたが、GNABCマントで十二分に弾き返せたので特に問題は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、戦場へと辿り着いたわけだが……

 

「…どうしよう。向こうの周波数しらねえよ」

 

…まさかの事態である。

よくよく考えてみると、俺は向こうの回線の周波数を一切知らない。

と、なると残されているのはレーザー通信か接触回線だけなのだが……

 

「アムロ!!上ダ!!上ダ!!」

 

「チィッ!!」

 

瞬時に機体を動かして、真上から降って来たビームの奔流を避ける。

結構太いな……明らかに高出力だ。

チラとモニターの一つを見ると数値はGNバズーカ並みの出力数値を検出している。

メインカメラを頭上に向けて望遠モードを倍率40倍くらいにしてその方向を見やると…青い一つ目の…何だろう流線型な見た目が妙に目に付く機体が大型のビームライフルと思わしき物をこちらに向けていた。

それを見て、俺は舌打ちを一つする。

何せあれが本当に敵なのかどうか判別がつかないのだ。応戦して撃墜してしまったとして、もしも相手がさっきの指示に出てきた“赤いMSのパイロットが指揮している部隊”の味方だった場合……考えるだに恐ろしい事となる。

 

(何とかして接触回線か何かで事情が説明できればそれがベストだが……)

 

なんて考えたのとほぼ同じくらいのタイミングで第2射が放たれた。

ギリギリの所でそれを避けつつここぞとばかりに接近する。

向こうもこちらの魂胆に気付いたようだ。

ライフルを投げ捨てて背中から…うん、たぶんビーム薙刀だな、あれ。

それを抜き放って此方に突っ込んできた。

しかし……

 

「そいつを……」

 

一気に加速して相手の間合いに態と入る。

相手は一瞬怯むけど直ぐに薙刀を振り下ろしてきた……けど、師匠は元より姉さん達や刹那、ユリ、そしてあのフラッグファイターの男と比べるとすこーしだけ、遅い。

 

「…待ってたんだ!!」

 

直ぐに相手の腕を引っ掴むとそのまま合気道は“正面打ち一教転換投げ”の動きで相手の後ろに入り、薙刀を奪い取る。

すると直ぐに接触回線で相手のパイロットの声が聞こえてきた。

 

『ぬぅっ!?不覚!!よもや連邦の白い悪魔がここまでとは!』

 

「…はい?」

 

連邦?白い悪魔?あにそれおいしいんか?

……あー駄目だな。本気で頭の中がこんがらがってきた。これ以上何か余計な事聞くと本当に如何にかなりそうだ。

そう考えた俺はすぐさま接触回線による対話を試みる事にした。

聞いた所、言語はユニオンで使われているEnglishみたいだから会話はできる……筈だ。

 

「悪いちょっと待てというか待って下さい後生だから。こちら私設武装組織“ソレスタルビーイング”所属のガンダムマイスター…あー…O-01だ。諸事情により偽名を名乗ることを許してほしい。取り敢えずこちらの状況を掻い摘んで説明すると寝ている間に連れて来られて訳も分からぬまま指示だけ出されて此処にいるので少しお尋ねしたい」

 

『…何?』

 

お、反応してくれた。これは良い感じかもしれん。

こういう場合、間を置かずに立て続けに要件を言えば拒否されるという事は少ない。

……ただ、セリフの感じからして拒否られそうな気が無くもないんだよなぁ。さっきの例だって少ないってだけだし…まあいいや。

少々あれかも知れないが、失礼千万覚悟で質問を言う。

 

「現在、私はこの機体で“赤いMSのパイロットが指揮している部隊を援護して、彼らの任務を成功させよ”というあやふやにも程がある指示を受けている。そこで聞きたいのだが、貴官の部隊を指揮するのはさっきからあそこで暴れまわっている赤いMSのパイロットか?出来れば早い返答をお願いしたい」

 

『フンッ、そんな事を言ったとして、それで本当に貴様が連邦の犬ではないという保証は無い!』

 

「故に言えん、と?」

 

『そうだ!』

 

「…………あい分かった。ならば証拠を見せよう」

 

そう言ってから、ビーム薙刀を相手の手に返す。

見ればあの赤い機体とその指揮下にある機体は、他のMSには目もくれず、その奥にあるずんぐりむっくりした緑色の戦艦に殺到している。

その挙動の節々から焦りのような物を見て取れる事から、おそらく急がなくてはいけない事情があるのだろう。

……ならば愚図愚図してはいられない、というのが、目の前のMSのパイロットの心情なはずだ。

再び顔を青い一つ目の機体に戻す。

拘束を解かれた青い機体はその手にビームを発振させない状態の薙刀の柄だけを持って此方を見ている。

それを見てから、俺は通信方法をレーザー通信に変えてから、少しだけ深呼吸してこう言い放った。

 

「…もしも不満があるのなら、今から私を“それ”で斬るがいい。コックピットは腹だ。外すなよ。外したら貴官の首を貰うぞ」

 

『…ほう。その意気や良し…だが良いのか?自らに課せられた事を成し遂げられなくなるぞ?』

 

「その時はその時だ……それに、こんなふざけた状況下で信用してもらおう何ざ思っちゃいないさ…ただ、信じてくれるのなら…その時は、貴官の仲間に事情説明などしてくれるとありがたいがね」

 

『……』

 

答えは、来ない。

元々ダメ元で言っているから、あまり緊張はしない。

溜息を一つ吐いてシートによっかかる。

 

(……だめ、かな?)

 

そう思って目を瞑ろうとした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……アナベル・ガトーだ。階級は少佐。現在はシャア・アズナブル大佐の指揮下にある、特務隊にてジオンの為に戦っている』

 

「…それは信用して貰ったと捉えて良いんだな?」

 

驚きそうになった自分を自制しながら、目の前の青い機体を―――――アナベル・ガトーを見る。

すると向こうはどこか苦々しげな、それでもどこかスッキリとしたような微妙な感じで言葉を返してきた。

 

『今の我々に悩んでいる時間など無いのだ。さらに言えば今は猫の手も借りたいような状況……ならば、口だけとはいえ協力を申し込んできた者を無下に扱うわけにはいかん。……ただし、私が独断で監視として付く。何か妙な動きをすれば…』

 

「無論撃破して貰って構わん」

 

『……良かろう。ならば付いて来い!!』

 

言うが早いがアナベル…って、たぶん年上だから呼び捨ては不味いな。口に出すときはガトーさんで良いかな?まあ、とりあえず彼は機体を翻して先ほど俺が見た戦艦へと向かっていく。

俺も急いでその後を追い始める。

直後に、通信回線を使って彼からデータが送られてきた。

何かと確認する暇も無く、レーザー通信によってガトーさんから説明が入る。

 

『今、我々の友軍機としての識別ビーコンと敵機の識別ビーコン、そして通信に使う周波数のデータを送った!直ぐに機体に入力しろ!!』

 

「無茶を言うな!!ありがたいのは確かだがな!!」

 

すぐさまハロにデータ入力を指示しながら、ガトーの後を追う。

と、右側から黒と紫のツートンの少し太っているような印象を持つ機体がこちらにバズーカを向けてきた。

…ふぅん。リックドム、ね。

どうやら実体弾のバズーカを使うようなので自慢のマントが効かないのがアレだが…まあ、然したる問題はない。

 

「よっと」

 

放たれたバズーカの弾を左手で抜いたビームサーベルで両断。そのまま怯んだ所を頭にビームガン突き付けてビームをぶっ放して終了。

そのままあっさりと先へ行ってしまったガトーの後を追う。

咄嗟にやってしまったが、ビーコンからするとどうやら今のは敵のようだ。あー良かった…

 

『ほう、やるな。あの至近距離からあのような芸当ができるとは』

 

「何、師匠の課した“地獄の特訓”……もとい“初見でやったら確実に精神がくたばる地獄の修行”のおかげでなっと」

 

再び攻撃される。

今度は…ザクⅡ、ね。色合いからするとティエレンによく似てるな…向こうはこんなに丸くないけど。もっと四角い。

ドラムタイプのバレルを取り付けたマシンガンを装備しているが、キュリオス等のビーム式のそれと比べるとかなり弾速は遅い。

機体を少し捻ってからビームガンで頭部を吹き飛ばす。

しかし息つく暇も無く、今度は大出力のビーム砲と機銃の嵐が襲ってきた。

冷静にそれらを回避しながら前方を見れば、ライトグリーンで塗装された戦艦が見える。……ムサイ、か……

 

「名前の割に、あんまし“ムサく”は無さそうだな」

 

言いながらミサイルの発射管と思われる所にビームを叩き込んでから離脱する……うん、ビンゴ。

誘爆でも起こしたのか見事に汚い花火を宇宙に咲かせてくれた。

 

『何をしている!!無用な交戦をするな!!時間が無いと言っているだろう!!』

 

と、そんなタイミングでガトーさんから怒声が飛んだ。

見れば向こうはこっちの事情などお構い無しに、十字砲火を軽々と避けながら正面奥の大きなずんぐりむっくりの戦艦―――――ザンジバルへと向かっていく。

…技量凄過ぎだろ。掠ってすらいないぞ……もしかして師匠級にバケモノなんじゃねえかあの人……?

 

「ごめんなさいね!!」

 

間髪入れずに謝りながらOガンダムを飛ばしていく。

同時に護衛艦からの十字砲火が飛んできたが、一部はそのままガトーや、俺達の後ろから近付いて来た…たぶん友軍であろう機体達に向けられていた為に、さっき見た物よりも勢いが強い訳ではなった。

……それにしても、黄色のビームって……向こうはいったいどんな技術でビームを撃っているんだろうか?

と、そんなあほな事を考えている内に、目の前まで件の目標―――ザンジバルが迫ってきた。

空かさずガトーに連絡を入れて確認を取る。

 

「これが!?」

 

『そうだ!!目標の敵部隊の旗艦だ!!』

 

「沈めちゃっても良いんだな!?」

 

『元よりそれが目的だ!!!』

 

「では遠慮無く―――――」

 

言うが早いが俺はGNABCマントの下からガンビットを放出した。無論コントロールは相棒である。

射出されたガンビットは先ほどのあのデータの詳細が無かったそれらではあるが……どうやらキチンと使えたらしい。ちょっとホッとした。

まあ、そんな俺の内心の変化などお構い無しに、相棒はガンビットの銃口をザンジバルのミサイル管や主砲へと向けて行く。

無論、俺もビームガンの狙いを艦橋と思わしき場所へと定めた。

同時に、いつの間にか横に並んでいたガトーの蒼い機体―――――ゲルググも、その手に持っていた大出力ビーム砲を構える。

 

そして――――――――

 

 

 

 

 

「――――――沈めさせて、貰おうか!!!」

 

そんな咆哮にも似た大声を発すると同時に、俺はトリガーを引いた。

ほぼ同じタイミングで相棒がガンビットを、ガトーが大出力ビーム砲をブッ放す。

放たれた全てのビームは、それはそれは綺麗に光の線を描いていき………綺麗にザンジバルの各部位へと吸い込まれていく。

そして一拍の沈黙の後、ザンジバルは艦体のあらゆる所から火を噴いた後、それはそれは盛大な火の玉となって、宇宙に散って行った。

 

 

………が、ここで綺麗に決まらないのが、俺クオリティというかなんというか……

 

ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!

 

「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」

 

どうやら、爆発の余波は意外と凄かったようだ。

ゲルググの方は全然平気だったようだが、GN粒子の影響で強度はそのままとはいえ重量がビックリするほど軽量化されているOガンダムは、まさに木の葉の如く爆破の衝撃に振り回される事となったマントに揉みくちゃにされながら、けっして緩くは無い振動の嵐の中に叩き込まれる事となった。

半端ではない振動の嵐の中、何とか機体を動かしてマントを元に戻す。

飛び散った破片によるダメージが無いのは幸いと言うべきかなんと言うべきか……

 

『無事か!?傍から見ても酷い事になっていたぞ!?』

 

「これが無事に見えるか!?グルグル回って目が回りそうだ!ただ、機体にダメージは無いからまだまだいけるぞ!いちおぷ…」

 

『目が回る程度で何とかなる物ではないと思うのだが…?というより、今吐き掛けなかったか?』

 

「ぐぐぐ…ふう、大丈夫だ…自慢ではないが身体は尋常ではないほどに頑丈なのでな………よし、落ち着いた。取り敢えずこの後どうすれば良い?先ほども言ったが私は貴方達を手伝えとしか言われていないから、指示がない限りは何もできないのだが…」

 

言いながら周囲をチェックする。

戦闘の光景は其処には無い。

…というか、殆どの機体が、呆然としているような感じだ。

見える限りの半分は、おそらく自分達の頭が潰されてしまった事で指揮系統がごちゃごちゃになって混乱しているか、或いは目の前の現実を受け入れられないからボーっとしているだけか……何にせよ警戒するに越した事は無い。

残る半分は………うん、なんだろう?

微妙な感じ?

というか、その殆どがこっち…というか、俺の方を見ている。何か怖い。

 

『……ム。待て、今大佐から通信が入った。そちらに繋げる』

 

と、そんな事を考えてるまっ最中にガトーからそんな通信が入った……っていうか、そろそろ心の中でもさん付けするか。明らかにこの人俺よか年は上みたいだし…あ、でもいきなり変えるのも不自然か……如何しようかな?

 

「……いっそ渾名呼びしたら………駄目だ、怒られる。確実に怒られる」

 

『……一つ聞くが、それは誰にかな?』

 

「そりゃあ無論ガトーさんに……ん?」

 

あれ?今俺誰と話してた?

不意に聞こえた声を疑問に思い周囲を見渡そうとしてカメラを左に向けた所で…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………辛そう」

 

『…貴様『ガトー少佐。別に私は気にしていない。兎も角、今は自己紹介にかける時間も惜しい』…了解しました』

 

………えーっと…今、ガトーは分かり難かったけど、この人に対して敬語を使ったよな?

で、その人が乗ってるであろう機体は、さっきからしょっちゅう見かけていた上に、“あの変な指示”に出てきてた赤い機体で、確か指揮官で…そうすると名前は……

 

「……シャア・アズナブル大佐?特務隊の指揮官の?」

 

『…その様子では自己紹介はいらなそうだが、一応名乗っておくとしよう。確かに、私がジオン公国軍大佐の“シャア・アズナブル”だ』

 

「……CB非公式所属、特殊偽装型MS“Oガンダム”のガ…パイロットの“O-01”です。指示により貴官の指揮する部隊への“協力者”、或いは“増援”として…たぶん派遣されました」

 

『…何故“たぶん”等という曖昧な言葉が付くのかは腑に落ちんが……「すいません。無礼承知で聞かせて頂きますが、時間が無いのでしょう?」…その通りだ』

 

「でしたら、その点に関しては詮索は後回しでお願いします。先ほどもガトー……あー…えー…うー…少佐?にも言いましたが、私は決して貴方方の不利になるような事はしないので」

 

肝心のガトーの階級をど忘れしかけたけど、概ねまともに会話できたと思う。後は向こうの反応を見るのみ……!

 

『…ガトー少佐。彼は本当に信用できるのか?最初に接触した君の意見を聞きたいのだが』

 

『…五分五分といった所でしょうか』

 

「ちょ、おま」

 

まさかの裏切りキター!?ひでぇよガトーさん!!そりゃ無いって!

 

『やはりか…』

 

ちょ、やめて!?そこでそんな空気出さないで大佐!?こんな所でタダ働きな上に集中攻撃されるとか嫌だぞ俺!?

 

『…ですが、キリング中将を早期に討てたのには、彼の活躍もあっての事……愚策ではありますが、一応監視を付けた上で友軍と認識すればよろしいかと』

 

と、そこで落としてから上げるというガトーさんによるファインプレーが入った。

え?何時の間にさん付してんだって?良いじゃん別に。恩人には敬意を払うんだよ俺は。

……何?師匠はどうなんだって?あれは全く別物だろ。

 

 

 

 

 

さて、なんやかんやで監視付きとはいえ一応友軍として信用された俺と相棒。

しかし、向こうからすればまだまだ安心はできない。

何せ俺が駆るこの“Oガンダム”という機体は、細部こそ違うものの、これまで幾度となく彼らを苦しめてきた怨敵ともいえる存在――――白い悪魔“ガンダム”にそっくりであるのだから。

……いや、むしろ驚いたのはこっちだったけどな。

何せ見た目もなんもかんもかなり“似過ぎている”といっても過言ではないような機体が、俺と互角か一歩間違えればそれ以上の動きで戦ってるんだもの。

データを見る限りだと、今から突入しようとしてたコロニーでも、そのガンダムの“新型”が開発されてたみたいだし。

………いやー。世界って広いんだなー…

 

「なんて事を考えながらアムロ・レイがコロニーにログインしました」

 

「右ニ同ジク」

 

『何を言っているのだ貴様は…』

 

「いや、言わなきゃダメかな、と」

 

言いながらゆっくりと“港”と呼ばれる所からOガンダムを飛ばす。

あ、因みにコロニーの中に入ってるのは俺とガトーさんだけです。

何でも、ここで作戦遂行中の“サイクロプス隊”の救出が任務なんだとか。

それをキチンとこなす事で、自分達を信頼させろという事らしい。

へーとしか思わなかった俺は悪くない。

だっていつもの事だし。

 

で、肝心のコロニーの中は一見すると地上と何ら変わり無い物にしか見えなかった。

民家があり、道路があり、デパートといった商店があり、そして植物の生い茂る林や森がある。

サンタの巨大なバルーンがある事から、ああ、今はクリスマスなのだと容易に予想が付く。

…………そして甦るクリスマスに関する碌でもない思い出がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!

 

「アアアアアアアア!!!!!!!ちょ、ま!師匠やめて!!七面鳥の足は鼻の穴には入らないからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

『オイ、いきなり如何した!?何故奇声を上げる!?』

 

「気にするな、思い出したくもない思い出ががががががががががががが!!!!!??????」

 

『何処からどう見ても気にするような状況に陥っているぞ!?』

 

「ノノオノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

『オイ待て!!本当に一体どうしたというのだ!?』

 

俺発狂。ガトーさん大混乱。まあそりゃそうだろうなと残った冷静な部分で俺はそう呟いた。

 

 

 

数十秒後

 

 

 

「トラウマ克服完了!!さ、殺ろう!!」

 

「タンドリーチキン」

 

「ガガガガガガガガッガガガガガガッガ!!??」

 

『全然克服できてないではないか!?』

 

出来てるよ。キチンと操縦できてんじゃん。

そう言おうとするも声が出ない。中々俺の精神にあの一件が与えたダメージは相当だったらしい。恐るべし、師匠。

 

「……なんかムカッ腹立ってきたな?帰ったら師匠の飯に山葵を大量に入れたろう」

 

『お前の師匠は一体どんな人間なのだ……?』

 

「外道」「逸般人」

 

「「というか師匠」」

 

『……』

 

何とも言えない顔になってガトーさんが黙った。

それはそうだろうと思う。

師匠とか呼ばれてんのに弟子にそんな風に言われる人間は多分そう居ないだろうし。

…ってか、“師匠”って……

 

(…お?)

 

ふと視界の隅に青い一つ目とOガンダムによく似た青と白のツートンカラーの機体を発見した。

片方は兎も角として…もう片方のが例の“連邦の白い悪魔”かな?

 

「何はともあれ先制攻撃」

 

言いながらビームを一発放つ。

すると反応だけは良いようで、難なくよけられた。…まあ、当てる気無かったから当然なんだけどさ。

 

「それではガトーさん。あの新型はこっちが担当しますので救出の方お願いします」

 

『そうさせて貰おう。まさかいきなり躊躇無く発砲するとは思わなかったが』

 

「強襲闇討は正義」

 

『…自分の師の事を言えんのではないか?』

 

「自分はあそこまで非道くないです」

 

心外な、という意味を言外に含めると、ガトーさんはなんとも微妙な雰囲気を出しながら青い機体の方へと向かっていった。

まあ、しょうがないかなとは思う。

確かに俺自身さっきの行動はかなり外道だと思うし、何よりも卑怯だと思う。

ただ、師匠はさっきのような行動は日常茶飯事でもっと酷い事までするのだから俺なんか遥かにマシだろう。

 

「…とか言ってる間にもう敵が目と鼻の先ですよっと」

 

改めて目の前の“ガンダム”を見る。

頭部にバルカン、背中にサーベルが2本……色さえ同じならほぼそっくりだ。驚きである。

まあ、それは無効も同じ事だろう。

明らかに動揺しているのが目に見えてわかる。新兵なんだろうか?

 

「……まあ、容赦なんぞしないわけで」

 

そうポツリと呟いてから、Oガンダムを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、言うわけで『1期編でやろうと思って“た”外伝のプレ版』終了だ…………これはツッコミを入れるべきだったんだろうか?」

 

「いいから解説に行くよ。このお話は作者が投稿しようとしていた、“外伝話”のプランの一つで、Pixiv版で既に投稿されている外伝の前に既に書かれていた物だよ。因みにあっちがこっちでも正規で投稿する予定の物だね」

 

「……ここにある作者から手渡されたメモによると、“GジェネDS”の序盤(スペシャルルート)にOガンダムで介入するという話だったようです」

 

「どらどら……へえ。ファースト・ガンダムVSOガンダムっていう構想もあったらしいな。つまりは『本物の白い悪魔VS偽物の白い悪魔』ってことか」

 

「…2期編に入ってからも、向こうの世界に跳んで行くっていうプロットも書いてたみたいだね。流石は作者だ。節操がない」

 

「結局あんまり書けてないみたいだけどな。……何で今回載せようと思ったんだ?」

 

 

「「「「……まさか書く理由付けの為?」」」」

 

 

違げーよアホども

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハイ。と、いうわけでこれにて短編集終了だ。いや…本当に長かった…」

 

「もはや短編集ってレベルの分量じゃないからね。いつもの1話分以上はあると思うよ……っと思ったら文字数カウント見る限りだとどうやら3万3千文字近い文字数あるじゃないか?」

 

「って事は、いつもの3倍近いのかよ今回………まあ、所々不完全燃焼な部分もあったけどな。特に最後」

 

「作者の力量を考えると、この程度が関の山なのでは?」

 

おいヨハンちょっと表出ろ。 by作者 (゚Д゚)ノカモーン

 

「作者の変な呟きはスルーして…さて、次回はとうとう“あのシステム”御披露目回か…ここまで来るのに一体どれだけかかった……」

 

「それは言ってはいけない約束だよ。際限がなくなってしまう」

 

「ハハハハハ…ハア…」

 

「と…そうなると、俺らマイスターもうかうかしてらんねえな…こっからが正念場か」

 

「私はもう退場してしまったので、実質今回が最後の出番になりますが…」

 

「安心しろ。多分ギャグ回では出番あるぞ」

 

「“幽霊役”…という文字がつくけどね」

 

「…寒い時代だ……!」

 

「あ~…今度暇なときに一緒に飲みに行くか?愚痴程度は聞いてやるよ…」

 

 

「と、いうわけでこれ以上やると収拾つかなくなるので今回はここまで!!ちなみに今回は後書き無し!!書くことないからな殆ど!」

 

「あるとしたら作者の謝罪くらいだけど…鬱陶しいから僕が削除しておいたよ」

 

「ま、そーなるわな」

 

「それでは、カーテンコールと行きましょう。O-01。お願いします」

 

「では皆様、合図と共にお願いします。…いっせーのーっで!!」

 

 

 

『次回をお楽しみに!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うん。いざ言ってみると途轍もなく恥ずかしいね」

 

「そこでみんなが気にしていることを言うなよ師匠ェ……」

 

 

 

 

 




というわけで後書きも何も無く次回に続きます

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