ガンダム00  マイスター始めてみました   作:雑炊

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いよいよ佳境も佳境、大佳境です。

今回は題名通り、前回のヨハンによるネタバラシの後、刹那達はどうなったのか。
そして、ヨハンの最後の見せ場をお送りいたします。


それでは、本編をどうぞ。


自分自身の本音といい加減真正面から向かい合おうと思った瞬間の話
十八話―――マイスターズは和解して俺は出撃。後に続くは悲劇のみ。


トリニティ3兄妹がトレミーのマイスター達と交戦してから数時間後・つまりGN-X部隊と戦闘するちょっと前

 

太平洋の何処かの孤島

 

赤道に程近い筈なのに、そこまで空気に不快な湿気などを感じられないという珍しいその森の一角で刹那とロックオンは向かい合っていた。

周りには二人から少し離れてアレルヤとユリが、そして二人の間にある木に寄りかかるティエリアが事の成り行きを見守って(一人は静観だが)いた。

 

「…刹那、先ずはこれだけハッキリとさせろ…本当なのか?お前が当時、KPSAに所属していたっていうのは?」

 

「……ああ。そうだ」

 

いつもと口調だけは変わらずとも明らかに暗い雰囲気を纏っているロックオンの質問が刹那に向けられる。

対して彼女は、それに対して一拍だけ間を置いてから、一切言い淀むこと無く答えた。

 

「…お前は、当時のクルジス共和国出身か?」

 

「…ああ」

 

再びの質問。

今度はそれに一瞬何かを堪える様な素振りを見せてから、彼女は答えた。

 

(…ゲリラの……少年兵……か…)

 

ティエリアは目を細めて刹那とロックオンを交互に見る。

経緯やその他諸々の違いはどうあれ、突き詰めた事を言ってしまえば両者とも戦争によって人生を狂わされた存在。

其処に明確な区切りを与えている物は加害者と被害者という立場の違いのみ。

故に本質的な物は、両者共に変わりは無い。

 

「…ロックオン、トリニティの言っていたことは……」

 

刹那が口を開く。それに対して、彼はこれ以上無いほどに苦々しい物を吐き出す事を我慢するような顔になってから答えた。

 

「…ああ、事実だよ。俺の両親と妹はKPSAのメンバーの自爆テロに巻き込まれて、死亡した」

 

それからロックオンは一拍置くと、刹那をキッと見据えて再び話し始める。

 

「…お前は知っているかどうかは知らんが、事の全ての始まりは軌道エレベーターによる太陽光発電が開始された後に世界規模での石油輸出規制の開始だ。化石燃料に頼って生きるのはもう金輪際止めにしようってな……だが、一番ワリを食うのは今のアザディスタンや当時のお前の故郷であるクルジスといった中東諸国。輸出規制で経済は傾き、国民は貧困に喘ぎ、結果として夥しい量の死者が国内に溢れ返る…」

 

ロックオンの声に徐々に怒りがこもっていく。

 

「貧しき者や力無き者は神に救いを求めて縋り、神の代弁者たる者の声に耳を傾ける。富や権力………言い換えちまえば、“力”を求めるあさましく、醜い人間の声を、さも尊い物かのように…な」

 

それを聞いて、刹那は目を伏せた。

嘗ての幼い自分もその神の……神の代弁者だと思われていた男の言葉を信じ、その為ならば自分の命すら惜しくないと思った。

いわんや、他人の命…自分を育ててくれた両親や、ともに戦った戦友すらも。…たった一人を除けば、だが。

 

「そんでもって、約二十年近い年月にも及ぶ太陽光紛争の出来上がりってわけ、だ……神の土地に住まう者達による聖戦……自分勝手な理屈だ…まあ、勿論一方的に輸出規制を可決した国連に、罪は一つも無いとは絶対に言えないがな。……だが、神や宗教、いわんや国その物が絶対的に悪いわけじゃあない。太陽光発電システムだってそうだ……けどな、その中でどうしても、どう足掻いても世界は歪む。それ位、俺にだって十二分に理解はしている…」

 

同時に、ロックオンは視線を下に外して悲しみと怒りが混じったような複雑な表情をする。

 

「…だから、お前がKPSAに拉致、或いは洗脳されて…結果、利用されていたことも、望まない戦いを続けていたこともキチンと理解はしている…理解はしているんだ。……だが、だがな…………その歪みに巻き込まれて、俺は家族を失った………失っちまったんだよ……!!」

 

「…だから……マイスターになることを受け入れた…のか?」

 

ポツ…と、ティエリアがロックオンに問いかけた。

そこに、いつもの無機質さは無い。

どちらかというと、出された問題の答えが分からなくなった生徒がギブアップして教師に教えを請う時のような、そんな人間らしさが感じ取れる物だった。

 

「――――ああ、そうだ。勿論、それが矛盾しているって事も解ってる。俺のしている事は当時のお前達や今でもそんな事をしている連中と同じ、テロだ。俺は暴力による歪みの連鎖を断ち切らず…こっち…戦う方を選んだ」

 

だから…そう言ってロックオンはティエリアから再び刹那へと視線を移す。

 

「人を殺め続けてきた罰は世界を変えてからキッチリ全部受ける。だが、その前にやることが……いや、けじめとして、やりたい事がある」

 

ロックオンは携帯していた銃を取り出し、ゆっくりと刹那に向ける。

 

「「「ロックオン!!」」」

 

その場にいた刹那とロックオン以外の全員が焦りの声を上げる。あのティエリアですら、だ。

が、それでもロックオンは銃を下ろさない。

 

「刹那…俺は今、お前を無性に狙い撃ちたい…!無意味だと解ってはいる…!こんな事をしても、あの世の家族たちが喜ばないのだって解ってはいる…!だがな…だからと言ってはいそうですかと割り切れるほど……」

 

それから、彼は一つ深呼吸をした。

そして、まさに搾り出す、という表現がぴったり来るような感じで、次の言葉を口にした。

 

「――――――俺は、大人じゃねぇんだ……!!」

 

その言葉はまるで慟哭のように刹那には思えた。

もしも自分が彼と同じような立場に置かれたら……否、嘗ての恋人の仇が味方の一人だと知ったら……自分も、彼と同じ事をする。

そうも思った。

 

「家族の仇を討たせろ……!恨みを晴らさせろ……!」

 

だから、彼女はそう言いながら徐々に引き金にかけている指先に力を込めていくロックオンを、真正面からジッと見ていた。

それだけで彼の…今にも子供の様に泣き出してしまいそうな、自身の良き兄貴分の男の気が済むのならば……それでも良い、と。

 

 

そして次の瞬間、乾いた発砲音が島に響いた。

 

 

その決して小さくは無い音に、驚いた鳥たちが一斉に空へと飛び立つ。

周囲には、その鳥が羽ばたく音と、鳥が飛び立ったことによる木々のざわめきしか聞こえない。

 

不思議と、まるでドラマの1シーンの様に静かな瞬間だった。

 

そんな中、ロックオンは銃を下ろさずに、弾丸が髪を掠めたというのにも関わらず、ただただじっと穏やかな眼差しで自分を見ている刹那を見据える。

 

――――――……何、やってんだ…俺は…?

 

そんな彼女を見ながら、ロックオンはそう自嘲する。

無意味だと解っていながらも、自分よりも遥かに…というのは弊害があるものの、年下の少女に対して銃を向けて、殺気を出して、あまつさえ発砲しても当てずに、女の命でもある髪をかなり少しだけとはいえ散らせる…例えそれが嘗ての仇の内の一人だとはいえども…

 

…結局、仇を討つ事はできなかった。

 

途端、ロックオンは、自身が酷く矮小な人物であると自覚した。

もしも彼女が味方でも何でもなく、全くの他人であったならば、確実に撃てていたという自覚があったからだ。

それでも、相手の少女は少しも動じない。

眉一つ動かさず、眼すら閉じず……どこまでも、静かで、穏やかだ。

おそらく、当の昔にに覚悟を決めていたのだろう、と、そんな彼女を見ながらロックオンは思った。

少し癖っ毛の黒髪がはらはらと落ちていく中、刹那は目を閉じる。

…そしてややあって静かに口を開き、言葉を紡ぎ始めた。

 

「―――私は…神を信じていた。信じ込まされていた」

 

「…だから、悪くないって言いたいのか?」

 

ロックオンは眼光を一層鋭くして刹那を睨む。

しかし、彼女はそれに一切臆する事無く、あくまでも穏やかに話し続ける。

 

「違う…そういう訳じゃない……この世界に神はいない」

 

「…質問の答えには、なってねぇぞ…!!」

 

自然と語調が強くなり、視線が鋭くなるのをロックオンは自覚した。

まさかこんな場でKYが発動したのかと思ったのだ。

が、続く言葉でそれは杞憂であったと彼は理解した。

 

「…あの時、私は神を信じ…そして、最後の最後に、そんな物は所詮人が作り上げた幻想で、何の意味もない事を知った………あの男が、そうした」

 

「……あの、男………?」

 

それを聞いたロックオンは訝しげに表情を顰める。

それを見ながら、刹那はその名前を口にした。

…その顔に、形容しがたい怒りのような物を滲ませて。

 

「KPSAのリーダー…アリー・アル・サーシェス。」

 

「アリー・アル………」

 

「サーシェス……?」

 

ユリとアレルヤが、その名を疑問形で口にする。

二人の呟きを聞いてから、刹那は一つ頷くと、再び言葉を続ける。

 

「奴はモラリアで、PMCに所属していた」

 

「PMC!?確か、中東の民間軍事会社の中では大手に属する組織の筈だ!」

 

ユリの言葉を聞き、さらに視線が鋭くなったのをロックオンは自覚した。

そして間髪入れずに、こう、呟くように吐き捨てる。

 

「オイオイ…ゲリラの次は傭兵か?単なるの戦争中毒じゃねぇか、そいつ」

 

思わず苦虫を噛潰したような声で唸った。

それに呼応するように、刹那の顔にも険が浮かぶ。

 

「…モラリアの戦場で……私は思いがけず、奴と再会した」

 

「…そうか…あの時コックピットから降りたのは」

 

「……あの男の存在を確かめたかった……あいつの神が一体何処に居るのか…どんな物なのか知りたかった……」

 

それから、刹那は一拍ほど間を置き、それから口を開く。

声は―――震えていた。

 

「……もし、もしも奴の中に神がいないとしたら…私は…私は…」

 

刹那は視線を落とす。

少しではあるが涙も流れていた。

それは普段絶対に見せる事の無い、彼女の弱さだった。

ロックオンはそんな刹那を見ながら心の中で再び自嘲する。

 

(………本当に、何…やってんだかなー……仲間に……しかも可愛い可愛い妹分に銃を向けて……こんな風に詰問して…責めるような真似もして……これじゃ…本当にただの…)

 

―――下衆だ。本当に最低な大人だ。

それを自覚したロックオンはさらに自嘲の笑みを深める。

だが、それでも確認しなければならないことがある。

 

「…刹那、これだけは聞かせろ―――お前は。エクシアで何をする?」

 

「っ…戦争の根絶!」

 

涙を拭いつつ、刹那は力強く言い放つ。

 

「…俺が撃てば、できなくなるぞ」

 

「…構わない……代わりに、貴方がやってくれれば。この歪んだ世界を変えてほしい」

 

「……もしも撃たなければ、どうする。お前を、俺がもし生かし続けるとするなら」

 

「……そう、させてくれるなら……私は、戦う。KPSAの少年兵、ソラン・イブラヒムとしてでは、無い。ソレスタルビーイングのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイとして」

 

そう言い切った少女の目にあるのは―――ロックオンのよく知る、強い光だった。

生半可な物ではない。

それを再度確認するかのように、彼は目前の少女に向かって問いかけた。

 

「……ガンダムに乗ってか」

 

「そうだ。私が……ガンダムだ」

 

迷いが無い処か何処までも強い意志―――覚悟を宿した、小さな少女の強い真っ直ぐな眼差し。

それだけで、ロックオンには十分だった。

彼は彼女が持っているものが、その光が、どれだけ高尚且つ尊い物か、理解していたから。

フッと笑って、彼は銃を下ろす。

 

「…ハッ!アホ臭くて撃つ気にもならねぇな……ホントに、お前さんはとんでもねぇ……底無しの、ガンダム馬鹿だ」

 

少し皮肉混じりの、いつもの軽口を叩く。

するとそれを聞いた刹那は意外な言葉を発してきた。

 

「……ありがとう」

 

「…あ?」

 

「私にとっては、これ以上無い最高の褒め言葉だ」

 

珍しく刹那が笑う。

それを見ていたロックオンだけで無く、ティエリアたちも呆気にとられるが、ロックオンが笑いだすのにつられ、自然と笑いだす。

 

「…これが……人間か……」

 

ティエリアは柔らかに微笑むと再び木に体重を預けた。

何故だか、先程まで何処までも険悪な雰囲気を漂わせていた此処が、ひどく暖かい所に思えた。

 

 

 

そんな彼らが笑い合っている時間から、約7日後……というか、現在

 

AEU領内某所 上空

 

其処を飛んでいく、一機の戦闘機…にしては異常に大きな物の、丁度腹の中と言っても過言ではない所に、その男は居た。

……というか、まあ、俺なんですけどね。

 

「…暇だ…」

 

『だから言ったでしょ?ドッキング終わったらアンタは目的地に着くまでやる事0だって。丁度いいから、怪我人はおとなしくそこでのんびりしてなさい』

 

「…ありがたいけどありがたくない…」

 

……いや、ホントに暇なんだよ。

下手に動かそうとすればドッキングが解除されてそのまま下に落とされるからグリップには触れないし、相棒も今は索敵にリソースを使ってるから音楽や動画を流したり映せたり出来ないし……昼寝しようにも眠くないんだよなぁ…

 

さて、いきなりこんな状況で何が何だか訳分からんという皆様に説明すると、現在俺と姉さんはトリニティ3兄妹の救援の為に、Oガンダムを新しく造られた……訳ではなく元から造ってあった試作機を改良した専用支援機“GNアーマー”にドッキングさせた状態で、人革連の広州へと飛んでいた。

…まあ、おそらく間に合わんだろうな。

何せミッション開始時間までもう残り少ないし、今から見つかるの覚悟ですっ飛んで行ってもあいつらの事だから着いた時にはもう8割方終わらせてるだろう。

……また見せ場が無くなるよ……ハァ…

 

「アムロ、アムロ。偵察機、偵察機」

 

「ああ、ハイハイ。姉さん、偵察機がこっち来てるっぽい。反応とレーダー上の動きからしてたぶん無人機(ファントム)だ」

 

『了解。ステルス使うわよ。……にしても、こういう時だけはアンタとOガンダム積んでて良かったと思うわ。圧倒的に楽だもの』

 

「本来の仕事をシッカリできるように調整してるからな」

 

俺がそう言うと同時に、GNアーマー全体にGN粒子によるステルス迷彩がかかり、外部からは絶対に察知できないレベルで隠蔽が完了する。

これで無人機相手には絶対に見つからない。…まあ、万が一に有人機に来られると、それなりに中のパイロットの腕が良ければ見破られるかもしれないような代物でしかないんだけどな。

 

「お、来た」

 

そうこうしている間に、モニターを通した視界の11時方向に黒っぽいカラーリングの小型戦闘機のような物体が移る。

先端に小型カメラ等といったセンサーが集積されたユニットのあるタイプ。データによると、AEUとその周辺の中東諸国で使用されている物だった。

暫くそれらは俺達の周辺の空域を旋回していたが、その内役目が終わったと言わんばかりに別の空域へと飛んでった。

ホッと息を吐いてから数瞬の後に、再びやる事が無くなった事に気付いた俺は、今度は盛大に溜息を吐いた。

こんなご時勢に暇な事に対して憂鬱の溜息を吐くとはなんとも贅沢な事かもしれないが、そうでもしないとやってられない。

何せ師匠の教育のお蔭なのかどうかは知らないが、妙な所で日本人的な慣性が身に沁みてしまっている俺は、周囲が仕事をしているというのに自分だけ何もしていないという状況下に放り出されると、何故か落ち着かなくなって何やら不安になってしまうのだ。

なんに対しての不安かは俺も知らん。

が、兎も角精神的にキツイ事には変わりない。

頭を抱えて叫びだしたくなるような衝動を何とか押さえ込みつつ、俺はOガンダムのシートに腕を組んで凭れ掛かり、そのまま目を閉じた。

 

・・・・・・なんとも意外な事に、そのまますんなりと眠りについてしまったのは・・・予想外だったが。

 

 

 

 

 

 

 

転寝から覚醒したとき、そこは人革連領内上空ではなく、大西洋上空でした。しかも夕方を少し過ぎた所なのか妙に暗い。

……What?Why?

 

『あら、起きたのね。調子はどう?』

 

「……幾分か、酷い。まず、なんで俺は大西洋にいるんだ?そこからの説明がほしい」

 

状況把握だけはしておきたいという無意識の言葉だったが、正直な話、寝てる間に世界情勢がどう動いたかを確認するために発した言葉だった。

 

『OK。んじゃ、簡単に言ってあげるけど……実働部隊が襲撃を受けたわ。それでデュナメスのマイスター、ロックオン・ストラトスが利き目である右目を負傷。同時に、ヴェーダは完全にリボンズの手に入ったわ。更に同時進行する形で、人革の対ガンダム及び疑似太陽炉搭載型MS試験運用部隊、頂部GN-X部隊によってチームトリニティの地上のアジトが全て抑えられ、現在あの3人はこの周辺の何処かの孤島でのんびりと隠れてる。おわかり?』

 

「……まあ、のんびりって点に関しては同意できないけど、大体分かった。つまり今は、3人を探してる真っ最中ってわけか」

 

帰ってきた答えに、俺は顔を随分と顰めた。

思った以上に状況の変化が激しい。

早いとこ3人を保護しないと不味い事になりそうだ。

 

『そういう事。通信入れて敵が寄って来たら不味いから目視で、だけど……って、あら?』

 

「? どした?」

 

『…アムロ。右4時の方向。イオンプラズマジェット推進光よ。しかも2つ』

 

「わかった。調べてみる」

 

不意に説明をしていた姉さんが何かに気付いた。

言われた方向を俺も見ると、確かに青白い光が二つ。並んで飛んでいるのが見える。

すぐさまキーボードを引っ張り出して映像をズームして解析。

結果として出てきたのは…イナクト?しかも巡航形態なのは良いとしても、片方は確実に長距離移動用と思われるような装備なのに対して、もう片方は完全ノーマルというのが妙に気にかかる。

遠い上に暗いので色は判別し難い。

……でも、確実に正規軍の物じゃないよな…軍の物だとしても、あの組み合わせはちょっと…どころかかなりおかしい。

…それに、イナクトのコンビというのは、なんか…こう……ね?あれが…ね?

 

念には念を入れて悪い事は無い。

すぐに相棒に解析画像を更に詳しく分析してもらい、外観的特徴、スラスター等の音、そして動き方の癖等からあの2機が懸念している物かどうかを検証してもらう。

もしもあれが何の変哲も無い正規軍の物だったとすれば、登録してあるデータと(相手がエース用のカスタムであった場合はその限りではないが)今回収できたデータはほぼ合致する筈である。

ただ、もしも民間の……例えば、あの(そこまでではないが)忌々しいPMCの所有機であった場合、搭乗者の意向に合わせて独自のカスタマイズがされている筈なので、データと回収データの間にはそれなりのズレが生じる。。

前者であれば特に問題はない。完全にスルーするか問答無用で黙らせられる。

が、後者の場合はそうはいかない。一歩間違えれば、民間企業のテストパイロットが新装備のテストを行っている可能性だってあるし、どこぞの金持ちが気分転換に自身の所有物でただ飛んでいた、という可能性だってある。

…まあ、後者は中々無いとは思うが。

 

「…ハロ!ハロ!解析完了!解析完了!」

 

「結果は?」

 

丁度良く相棒の声が響き、間髪入れずに聞き返した。

何せ懸念している物が“それ”であった場合、一刻も早い行動が必要となってくるのだ。

それはそれで良いのだが、なるべくであれば精神的負担は軽減したいというのが俺の本音である。

 

が、現実とは無情だ。そんなささやかな願いを平然と吹き飛ばしやがるのだから。

 

 

 

「PMCノカスタム機!PMCノカスタム機!前ニ戦ッタタイプ!」

 

「マジか」

 

……Oh GOD。マジで俺、あなたに何かしましたか?偶には平穏無事に物事を済まさせて下さいよ。後生ですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぁ、と、私は平時ではやらない様な、人前で欠伸をするという行動を行った。

眠くはないので生欠伸だろう。脳に酸素が足りていないのかもしれない。

そう思いながら横目で自分達の機体を見る。

ここ数日の国連軍の疑似太陽炉搭載型MS(ニュースでは、確かGN-X(ジンクス)とか言っていた筈)を配備された特務部隊との度重なる交戦により、スローネ3機は中々に草臥れた感を出していた。

一度だけ、アフリカ北西部にあった地下基地で修理と補給を行えたが、それでもその後の以前戦った人革連の特務部隊による基地襲撃と、ドウル国国境付近でのAEUの特務部隊との遭遇戦で、かなりの量のGN粒子を消耗してしまった為に、炉の粒子発生率はさほど低下していないとはいえ実質今の現状はエネルギー面だけで言えば補給前と何ら変わりは無いだろう。

機体の損傷レベルも、3機それぞれだ。

 

ネーナのドライは他の2機と比べて比較的使用する粒子の量が少ない為に粒子残量はあまり心配していない。損傷も比較的援護や敵機体の牽制を主にした戦法をとっていた為軽微だ。

ミハエルのツヴァイは近接戦闘をメインにした戦法を取っていたために、装甲はかなり傷が出来ている。中でも右腕ビームガン接続部にはビームでも掠ったのか粒子ビーム特有の損傷が少し見受けられるのが、少々痛い。それ以外は凹み等なのでそこまでではないが…

武装もGNバスターソードには凹み等が見て取れるし、ビームサーベルに至っては片方を先の遭遇戦で失っている。幸いなのはファングを含めた射撃武器にまだ一つも損傷していないというところか。それでも粒子残量を鑑みれば楽観視はできない。

 

そして最も損傷しているのは、私のアインだ。

戦闘がある度に殿や囮役。また、二人の負担を最低限にする為に、敵のテリトリーど真ん中まで突っ込んでいって暴れる事が多かったからか、左肩のGNコンデンサ内臓シールドは黒焦げになり、右肩のアーマーの先端部分は吹き飛んで無くなっており、脚部も一部は装甲が剥ぎ取れてフレームを晒している。

ビームサーベルは左の片方がラックがアンテナごと切り落とされた。幸い抜いている状態で切り飛ばされた為2本とも無事だったが、今は片方をツヴァイに分け与えた為、今や実質的に右側の1本しかなく、近接レンジの戦闘には不安が残る。

 

ふっと息を吐いて空を見上げた。

今自分達が身を潜めているこの大西洋上の孤島には、人工物が一切無いため光源となっているのは見上げる空の西側に浮かんでいる月だけだ。

時刻は丁度4時。夜と朝の境目といった時間帯だ。

東の空がうっすら明るくなってきているのを見ると、どうやら太陽が昇り始めたのだという事が分かる。

それでも空には満天に星々が輝いており、そのどれもが美しい光を放っている。

 

(……いつでも此処に来れれば、プラネタリウムなどもはや無用の長物だな)

 

そう考えた自分に対して、私は自嘲の笑みを浮かべた。暢気なものだ、と。

ラグナとは連絡がつかなくなり(とはいっても、O-01と会ってからは然程連絡していないのだが)、国連軍には包囲網を狭められ、結果自分たちは確実に追い詰められているというのに一切の焦りが浮かんでこない。

むしろこんな事を考える余裕まである。

これも自分達の面倒を見てくれた“彼”の影響なのだと思うと、少々笑えてしまう。

…だが、もしも今の自分と同じ状況にいたならば、この満天の星空を見上げた時、彼はいうだろう。今自分が考えていた事と同じ言葉を。

 

(…そろそろ動き出そう)

 

東の空がだんだんと緋色に染まっていくのを見て、私は頭を切り替える。

自分の機体に戻り、仮眠をとっているかわいい弟と妹を起こさなければ。

王留美に指定されたポイントまではあと一息…とは到底言えないが、それでも今日中には着ける距離だ。

試行錯誤を繰り返して敵に捕捉され難いであろうルートをとっているとはいえ、今から飛ばせば昼前には何とかなるかもしれない。

そう考えながら愛機へと足を向ける。

 

(…?)

 

不意に、耳に妙に聞きなれた音が入った。静かに周囲に神経を張り巡らせてみると、その音が段々とこちらへ近づいてくる、AEUイナクトのイオンプラズマジェット推進の音であるという事が分かる。

ハッとして顔を上げれば、視界の隅に2つの光。

それを確認した瞬間、私は駈け出していた。

すぐさまアインのコクピットに滑り込み、アイドリング状態にしていた機体を立ち上げ、右手のライフルを構える。

通信回線を通じてミハエルとネーナが目を覚ました音が聞こえる。しかしそれに構っていられるだけの時間はない。

先手必勝と右手のトリガーに指をかけて――――――

 

(…?)

 

―――――その手を止めた。

何故ならば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…光通信?攻撃の意思無し…だと?」

 

 

…イナクトの顔面部センサーを用いた光通信によって、その様なメッセージが送られて来たからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ~…くそ。やられた……。師匠め、元から助ける気なんぞ無かったな?」

 

Oガンダムの中で俺は呟いた。

何故ならば、あのトラウマレベルで俺の苦手なイナクトコンビの後を追っている最中、師匠から突然この後の段取りを描いたスケジュール表みたいな物が送られてきたからだ。

姉さんに期待制御を任せている以上は、俺には仕事は無い。要は暇である。

なのでその暇潰しに読んでいたのだが……クソッ。表面上には殆ど出ていないのが自分でも気になるが、本当に腹が立つ。

あろう事か、そこにはトリニティ3兄妹の物も書かれており、更にはある地点から先に彼らの欄は全てが斜線になってしまっていたのだ。

つまり、彼らに出番は無いという事。……要は、用済みという事。

そう考えるとあの2機がなんで居るのかも辻褄が合う。

簡単に言えば、奴らは刺客なのだ。

 

(…不味いな)

 

ヨハン達は確かに身体能力は高いのである程度ならば白兵戦も可能だろう。

 

しかし、相手はプロの傭兵である。

 

地力はともかく実力その物には大きな開きがあるのは目に見えている。

そこから導き出される答えとは……

 

(……ああ、もう!)

 

「姉さん。今すぐ俺をあの2機が降りようとしている島に下して。3人の救援に向かうから」

 

「……は!?何言ってんのアンタ!?リボンズの計画滅茶苦茶にする気!?そもそも気付かれるわよ!!」

 

「だったら近くでいいよ。最悪後は泳いでやる。…それに」

 

言いながらスケジュール表を姉さんに見せつけるように出す。

端末を操作して上から下まで一通り誰が書かれているのかを見せてから、俺はこう言ってやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…此処に、俺の名前は一切無い」

 

つまりはそういう事だろう。

それに、偶には日頃の仕返しを兼ねて、逆らってみるのも良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イナクトから一人の男が顔を出す。

その身に纏うノーマルスーツは、朱い。

私とミハエルは今、機体から降り、その手に各々の獲物を持って立っていた。

念の為、二人ともスーツの下には事前にO-01の忠告で所持していた、防弾性プレートを急所部分に当てている。

これでもし不意打ちで銃撃されたとしても、頭部でなければ即死の心配は無い。

ネーナは機体に待機させた。向こうももう1機のパイロットが降りていない。

一応保険のつもりだが…最悪犠牲は私一人に抑えねばな。

 

「よう!世界中にケンカ売ってあっぷあっぷしているソレスタルなんたらってのはあんたらか?!」

 

男がそう言った。

周囲に響き渡るような声だ。命令しなれた人間独特の印象がある。

こちらもそんな男に対して警戒しながら言葉をかける。

 

「何者だ?」

 

それを聞いた男はヘルメットを脱いで顔を晒した。

朱い長髪に粗野に見える顔立ち。

目は獰猛な獣のごとき鋭い光を放ち、口元には不敵な笑み。

男は首を振り、髪をかき上げながらばらしつつ、こう言った。

 

「アリー・アル・サーシェス。御覧の通りに傭兵だ。スポンサー様からアンタらを如何にかして欲しいと頼まれたんで、こんな辺鄙な所まで足を運んだってわけだ」

 

その言い方に、私は引っ掛かる物を覚えた。

我々を“如何にかして欲しい”?それは一体どういう意味だ?

救援であれば歓迎すべきだ。しかし、イナクトがたったの2機?

しかも相手は傭兵と来た。このような時勢になってしまったとは言え、ソレスタルビーイングはどこまで行っても秘密主義だ。

そんな組織が救援の為とはいえ、“一般人である傭兵という職業の人物”を“雇う”?

更に引っ掛かるのは、彼は自分への依頼人を“スポンサー”と言った。

…それは一体誰だ?

 

「援軍って…2人だけかよ?誰に頼まれたんだ?」

 

ミハエルがそう言う。

それを聞いて、私は内心で顔を青くした。

 

(……不味い!ミハエルは今の言葉にあった違和感に気付いていない!!)

 

瞬間的に私は身構えた。

向こうは今、コックピットハッチにあるウィンチロープを使って降りてきている。

そしてこちらを見下ろしながらこんな事を言い、

 

「ラグナ?……ああ、ハイハイ。ラグナ・ハーヴェイな……」

 

地面に足をつけた瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やっこさん、死んだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が殺した」

 

その手に隠し持っていた物を、発砲した。

 

 

 

 

瞬間、私は弾かれたようにミハエルを突き飛ばす。

しかし、一拍遅かったのか、弾丸はミハエルの脇腹を貫通する。

同時に、私の右肩にも衝撃が走り、一拍遅れて痛みが来る。

 

「「がっ!」」

 

二人同時に倒れこむが、そのまま倒れている訳にはいかない。

すぐに立ち上がって銃を構えようとして――――

 

(……!!!!!)

 

左肩と、右足に衝撃。同時に激痛。

 

「ぐああああ!!」

 

そのまま倒れこんだ所を、足で踏みつけられる。

疲弊した所に、決して軽くは無い傷を負った体に激痛が走る。

一瞬ではあるが意識が遠のきかけた。

それを必死に堪えて眼だけで男――――アリー・アル・サーシェスを睨む。

奴は、笑っていた。

 

「…ハッ!お前さんは中々そこのよりかは勘が良いみてぇだな。どこで気付いたよ?」

 

言いながら、サーシェスは足を抉るように動かす。

それで更に激痛が体を襲うが、それに構ってはいられない。

 

「グッ!…貴様の、暈した言い方だ…少し考えれば、違和感に気が、付く」

 

「あらららら。もうちょっと考えて言やあ良かったかな?俺もまだまだだなぁ…せっかくのチャンス、無駄にしちまったぜ。…ま、いいか」

 

そういいながら、奴は視線をミハエルに移した。

当のミハエルは起き上がり、得物のソニックナイフを構えている。

…しかし、今の状況でそれは不味い!!

 

「ミハエル、ネーナを連れて逃げろ!!」

 

叫ぶと同時に、私は全力で起き上がり、奴を跳ね飛ばした。

瞬間、今度は右わき腹に激痛が走る。

…しかし構ってはいられん!!

すぐに奴に組み付いて抑え込み、ミハエル向かって叫ぶ。

 

「だ、だけどよ「構うな!!行けぇ!!!私を無駄死にさせるつもりか!!」…っ!!」

 

ミハエルが首を少しだけ縦に振って、ツヴァイに駆けていく。

しかし…

 

「おっと逃がすかよ。邪魔だ」

 

「ぅがぁ!?」

 

サーシェスの持った銃のグリップが私の米神に叩き付けられる。

それで怯んでしまった隙に、奴は私を振り解き、ミハエルに向けて、数発銃弾を放った。

が、寸前に体当たりしたために何発かは逸らす事ができた。しかし、内一発が足に当たってしまったらしく、倒れこむのが視界に映る。

 

「ネーナ!!ミハエルを回収して逃げろ!!早く!!」

 

間髪入れずに叫んでいた。

そのままサーシェスに無事な方の足で蹴りを食らわす。しかし、上手い事受けられ、そのままCQCで返されてしまった。

しかし、時間を稼ぐ事はできたらしい。

ネーナのドライがミハエルをその手で包み、上空へと退避していくのが見える。

 

(これならば…)

 

と、その時である。

 

「…へっ。美しき兄妹愛ってヤツかぁ?陳腐でヤダねぇ…ほら」

 

そう言いながら、サーシェスが私から手を離しそのまま離れる。

咄嗟の事で呆然としてしまうが、私はすぐさま現状を理解し、自分の機体のコックピットへと向かった。無論逃げる為だ。

本来であれば損耗の少ないツヴァイに乗るのがベストなのだが、この状況下、一々生体プロテクトを外しているだけの時間は無い。

途中先程捨てた銃が目に入るが拾おうとは思わなかった。

そうすれば今度こそ死んでいただろう。

 

「うぐっ!!…うう……」

 

痛みでともすれば意識の飛びそうな身体を必死に動かし、コックピットに転がり込んだ私は、すぐさま機体を上空へと逃がす。

肩が撃たれている為に操作が変になり妙な挙動ではある。

が、機体は十分に私に応えてくれていた。

 

『ヨハン兄!大丈夫!?』『兄貴!!』

 

飛び上がってから直ぐに二人から通信が入る。

見れば二人とも涙目だ。ネーナなんかもう既に涙をこれでもかと言うほどに溢している。

何とかして励まそう…そう思いながら、口を開こうと――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

『はっはー!!!』

 

「っ!?何だと!?」

 

聞こえてきた声に驚愕しながら、反射的に残ったビームサーベルで切りかかってきた影に対応する。

その影の正体は―――――

 

 

 

 

 

「つ、ツヴァイ…だと!?」

 

『ちょいさぁ!!』

 

襲い掛かってきたのはあまりにも見慣れた緋色の機体―――――言わずと知れた、ガンダムスローネツヴァイだった。

しかしその機体から聞こえてくる声は、確実にヤツの物だ。

 

(一体何故?!)

 

そんな言葉が脳内を駆け回る。

そもそも、ソレスタルビーイング所有のMSは、その全てに強奪防止用の生体プロテクトが仕掛けてある。

特に私達の機体は、私達以外が使えぬよう、それぞれの機体のマイスターのバイオメトリクスが無ければ動かす事は出来ない様になっているのだ。

…だが、現実としてヤツは機体を動かせている。

それが意味する所とは―――――アレしかない!!

 

「まさか、ヴェーダを使ってデータの書き換えを!?」

 

私が驚愕でそう叫ぶと同時に、ツヴァイはその手に持ったバスターソードを思い切り振り回した。

その衝撃で、私は弾き飛ばされる。

同時に身体に襲い掛かる激痛は更に酷くなった。

 

『兄貴!待ってろ、今助けに…』『ちょ、ちょっとミハ兄!!』

 

弾き飛ばされる中そんな声が聞こえる。

朦朧とする意識の中薄っすらと目を開けると、視界の隅でドライが何とかして此方に来ようとしているのが見えた。

が、その直後下から突っ込んできた、もう一機の蒼いイナクトによって弾き飛ばされ、そのままリニアライフルの弾を何発か食らってしまう。

その全てが直撃コースだと分かった瞬間には、イナクトはリニアライフルを持っていないほうの手にソニックブレードを持ち、ドライに向かって突っ込んでいる途中であった。

瞬間、脳が沸騰する。

体中の痛みが無くなる。

必死に操縦桿を動かして二人を助けようと機体を向かわせる。

 

が、

 

 

 

 

 

「っ!邪魔だぁぁぁぁ!!!!!」

 

目の前にバスターソードを振り上げながら、ツヴァイが割り込んでくる。

無論、此方もビームサーベルを構え、突っ込む。

 

だが明らかに向こうの方が早い。

 

おそらく、刀身が届くよりも早く、此方を両断するだろう。

 

 

 

 

 

――――――…ここまでか。

 

酷く静かに私はその結果を受け入れられた。

 

……しかし、それでもミハエルとネーナが此処で死んでしまうという現実の方は認められたものではない!

 

故に私はこの時、初めて心の底から神という物に祈った。

 

…助けてくれと。

 

私などは最早如何でも良いから、兎に角、あの二人だけは助けてくれ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、願いは叶った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハイ、ドーン!!』

 

外部音声で凄まじい雄叫びを響かせながら、何かが蒼いイナクトを文字通りに吹き飛ばす。

吹き飛ばされたイナクトは、空中で体勢を整えたが、直後に四肢を突っ込んできた何かが放ったビームによって吹き飛ばされ、そのまま海へと落ちていった。

その何か、が一体何なのか、私には分からない。

だが、それを操る人物が一体誰であったのか、私には手に取る様に分かった。

 

だからこそ、感謝の言葉と共に、最後の願いを彼に託した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「   、       」

 

と。

 

視界が閃光に包まれる。

痛みは無い。

熱さも無い。

何もかもが白く染まっていく。

ただ、最後に一瞬だけ、誰かの顔が見えた。

若い、まだ少々幼さを残している16歳ほどの黒髪黒目の黄色人種の少年だ。

どこかで見た事があるような気がするが、気のせいだろう。

 

 

 

それでも、それが誰なのかは―――――私には、少しだけ分かった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヨハン!!!!!】

 

だれかが、わたしのこえをさけんだ。

 

それきり、わたしはなにも かんが     なっ 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨハン!!!!!」

 

目の前で、スローネアインがスローネツヴァイによって真っ二つにされる。

それをただ見てなどいられはしない。

何とか助けようとして右腕のツインライフルを向け、ツヴァイ向かってビームを放つ。

命中。

しかし、咄嗟に身体を捻っていたのか、背面のジョイントがぐしゃぐしゃになっただけであまり大きな損傷は見られない。

 

そして、当のアインは、

 

胴の部分から綺麗に真っ二つになって、

 

直後、真っ赤な血の色をした粒子を周囲にばら撒きつつ、

 

 

 

 

 

爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ………チッ…」

 

『兄貴ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!』『イヤアアアアアアアアアア!!!!!』

 

瞬間、はらわたが煮えくり返る。

しかし、耳元から聞こえた二人の絶望したような悲鳴が一瞬で脳みそを冷静にしてくれた。。

しかし、構ってはいられない。

直ぐにツヴァイに背を見せながら、ドライを引っ掴むとそのまま戦線を離脱する。

丁度、レーダーには遥か上空から降下してくる、武装コンテナくらいの大きさの物体も確認してるしな。

チラ、と背後を見る。

案の定追いかけて来ているようだ。

それを確認した直後に、俺はとある場所へと通信を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、後は頼む」

 

『了解した』

 

 

 

直後、俺の頭の上を擦れ違う、青と白の影。

それに対して心の中で、「遅い」と悪態を吐いてから、俺はそんな事を言う資格は無い、と自嘲した。

後方で、ツヴァイとエクシアの切り結ぶ音が聞こえた。

前方には、GNアーマーが此方を待っているかのように滞空していた。

その丁度胴体部分にある、MS収容スペースに、ドライを上手い事固定し、そのままOガンダムをGNアーマーの上に乗っけて、俺は姉さんとミハエルとネーナと共に、その場を逃げ出した。

 

「……仇は取ってやるぞ……とは、言わないからな」

 

酷く自然にそんな言葉が出たので、俺は自分自身を酷いヤツだと嘲笑した。

……ただ………

 

 

 

 

 

 

【二人を、頼みます】

 

 

 

 

 

 

「………安心しろ。バッチリ最後まで面倒見てやるさ」

 

彼の死の間際に聞こえた、その“頼み”だけは、意地でも聞き届けてやらねばならん、と思ったのも事実だったから、俺はそのすぐ後に頬を叩いて気合を入れ直した。

……何故ならば、ここからが俺と相棒の本来の出番なのだから。

 




如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。

という訳でヨハン君一時退場です。
また次回の番外編で出てきますが。

で、ロックオン兄貴の発砲事件発生。原作との違いは、マイスターが全員居るという点です。
良かったねアレルヤ。第2次スパロボZでハブられてないから出れたんだよ。

で……まさかのヨハン兄さん死亡ですが…………実は、ここも1回書き上げた後に、なんだか微妙な感じがしたので書き直してます。丸々。
しかも書き直す前は、助けるのが間に合って兄さん生きてるという、ね…
ただ、この後の展開上、とあるキャラの成長の為に、彼にはここで一時退場という形をとって頂きました。…ああ、ファンの方々から殺されないか心配です…


そして次回ですが……また微妙な所で“番外編という短編の寄せ集め回”が入ります。
パワーアップイベントはまた直ぐその後です。
少々お待ちくださいね。

では、また次回

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