バカとナイトと有頂天 作:俊海
あと、須川くんの性格が、某ジャンプ漫画の主人公っぽくなってしまいました。
というのも、周りのキャラが濃すぎて、バカテスのキャラが埋まっていってしまうので、目立つようにしたかったんです。
……その結果が、こんなことになるとは。
それと、今回はあんまりブロントさんは出てきません。
それでは
「明久、援護に来てくれたんじゃな!」
「秀吉、大丈夫?」
何回か交戦したのか、肩で息をしている秀吉が駆け寄ってきた。
見た目が完全に美少女である秀吉がそういう行動をとると、勘違いしてくる人が出てきそうになるかもしれないと、頭の片隅で思いながら状況を聞く。
「ブロントさんがいいところまで行ったんじゃがのう、流石に全部は受け止められんでワシ達に流れてきたんじゃ。そろそろ危ないかってところまでは削られてしまったわい」
「それで、まだ戦える?」
「無理をしたら出来んこともないが、半分くらいの点数じゃから、ろくな戦闘は期待できんぞ?」
「だったら、そろそろ補給を受けてきたほうがいいよ。他のみんなも、僕達が来たから無理して戦死しないように気をつけて!君たちの代わりは僕たちが引き受ける!」
途中からは、秀吉以外のFクラスのみんなに聞こえるように言った。
正念場でもないのに、無理して戦って負けたら元も子もないからね。
「そうさせてもらうかの。そっちも無理はしちゃいかんぞ」
「だったら俺も下がらせてもらう……すまんな吉井」
「絶対戦死するなよ!お前には期待してんだからな!」
そう言いながら、点数補充のために下がっていく仲間たちの代わりに、僕は前へと進む。
戦況を見る限り、ブロントさんに全てを任せておけばいいっていう風には行かないっぽいし。
「アキ!五十嵐先生と布施先生が来てるわ!Dクラスのやつら化学で勝負するつもりよ!」
「立会人を増やして一気に方を付けに来たのかな……」
ブロントさんは今英語のフィールドで戦ってるから、化学で戦っている仲間を助けに行くことはできない。
こっちの戦力を分散しに来たって方が本命か。
心なしか、Dクラスのみんなは、ブロントさんを避けて後方に攻撃を仕掛けてるみたいだし。
「美波、化学に自信は?」
「ほとんど無し。80点台常連よ」
それでもFクラスの中では高めの点数だから困る。
日本語を読めるようになってきてるから、多少は点数が上がってるみたいだけど、Dクラスのみんなは100点を普通に超えて来てもおかしくない。
まともにやりあったら負けてしまう。
「今ブロントさんが孤立してきてるから援護に行こう。士郎たちも化学で戦わされてるからブロントさんを手助けできてないからね」
「なるべく気づかれないように、遠藤先生のところまで行くのね。わかったわ」
美波は副官に任命されていて、基本的に僕と行動することになってるから、ついてきてくれるのはわかってるけど、これだけだと兵力が心もとない気がする。
何人か、僕たちと援軍に向かってもらうか。
「須川君も、手が空いてたらついて来てくれないかな?他のみんなも、ブロントさんのサポートしないといけないから、なるべく同行して欲しい」
「英語は苦手なんだがなぁ……ま、何が得意かって聞かれたらそれはそれで困るけど」
「俺たちもついて行くぞ!」
「ああ!なんとしてでもブロントさんのところにまで送ってやるぜ!」
なんて頼もしいんだろう。
本来なら嬉しい状況なのに、これも全て雄二が僕を持ち上げた結果だというのが腹立たしい。
「可能な限り戦闘は避けよう。それでも挑まれたら、全員で相手を倒して即座に離脱するように。僕も極力戦闘には参加するけど、僕がやられても戸惑わずにブロントさんのところに向かってね!」
「「「おう!!」」」
「……やっぱりアキが部隊長に選ばれたのは、まっとうな評価じゃないの?」
なんで今日はこんなに僕の評価が上がっていくんだろう。
そんな疑問を抱きながら、渡り廊下の隅に移動して、目立たないようにブロントさんのもとへと向かっていく。
こんな隊長と副官にしては逃げ腰だと思われるような姿だけど、本来部隊を指揮する人は臆病者の方が適正あるし問題ない。
うまいこと戦闘中の生徒の後ろに隠れて進めている。このまま一気に……
「あっ!あそこにいるのはもしや美波お姉さま!五十嵐先生こっちに来てください!」
「くっ!ぬかったわ!」
「なんであっさり見つかってんだよお前はァァァァァ!!」
秒殺でDクラスの生徒に美波が見つかった。
あまりにも早すぎたせいか、須川君が全力でツッコミを入れてる。
「しょ、しょうがないでしょ!?だってアイツってウチのことになると人間を超越した能力使ってくるんだし!!」
「おーい吉井、もうこいつ置いていったほうがいいんじゃねえの?最悪島田をサクリファイスすれば俺たちは逃げられそうだし、コイツがいるせいで敵のパラメーターアップとかデメリットしかねえしよぉ。島田のことを『お姉さま』とか言ってる時点であの女生徒とお近づきになったら地獄の片道切符渡されそうの気がして怖いし」
「須川、ウチを見捨てる気!?あんた男でしょ!?」
「あー、もうやだやだ。最近の女ってのは都合のいい時だけ『男でしょ』とか持ち出してくるし、それでいて場合に寄ったら『男女平等』を掲げてくるから日本の男の人権が無くなっていくんだよ。一体日本の大和撫子の文化はどこへ行こうとしてるのかねェー!!」
「そんなこと力説してる場合!?『ここは俺に任せて先を急げ!』とか言えないの!?」
「俺に構わず先に逝け。そんで時間が許す限りひきつけてろ」
「ふざけんじゃないわよ!!このゲス野郎、あんたも道連れにしてやる!!」
「お姉さま!逃しません!」
「くっ!もう美春のやつここまで……須川、あんたのせいよ!!」
「騒ぐんじゃねーよ。とりあえずおちついてタイムマシンを探せ」
「二人共落ち着けェェェェェェェェ!!!」
思わず大声で突っ込んだけど、僕は悪くないよね?
なんでこんな時に二人して漫才を始めるのさ!?
「あ、あんなところに吉井さんが!五十嵐先生、私も吉井さんに勝負を挑みます!」
「大きな声出してんじゃねーよ吉井。見つかっちまったじゃねーか」
「どう考えても、そっちの大声漫才の方が原因だと思うのは僕だけかな!?」
二人の声のせいで、向こう側の援軍までこっち来てるし。
須川君がさりげなく僕のせいにしようとしてるけどそうはいかないからね。
「お姉さまに捨てられて以来、美春はこの日を一日千秋の想いで待っていました……」
「ちょっと!いい加減ウチのことは諦めてよ!」
「嫌です!お姉さまはいつまでも私のお姉さまなんです!」
「来ないで!ウチは普通に男が好きなの!」
「嘘です!お姉さまは美春のことを愛しているはずです!」
「このわからず屋!」
なんだってこんなにツッコミどころの多い人材がこの学校にたくさんいるんだろう。
僕は同性愛を否定するつもりはないけど、ああいう自分の想いの押し付けは良くないと思う。
だって、あれじゃあ相手が異性であってもストーカーの半歩手前じゃないか。
もう少しまともなことは言えないんだろうか。
こんなのが相手なんて不幸にも程がある。
もしかして、Dクラスにはこんな変な人しかいないんだろうか?
だとすると、僕を見つけて今まさに戦闘を挑んで来ようとしている人もまともじゃないじゃ……
全力で逃げ出したい。
でもそうするわけにも行かない。
うぅ……せめて、会話の通じる相手だったら嬉しいけど……しょうがない、覚悟を決めるか……
「ここで会ったが百年目!先程は失礼しましたが、この戦いには関係なしです!正々堂々勝負しましょう!」
「本当にありがとう!!」
「えー!?勝負を挑んだのに感謝されてる!?」
僕、神様の存在を信じてもいいかもしれない。
こんな幸運に恵まれるなんて、奇跡としか言い様がないよ。
紅美鈴さんは姫路さんと並ぶオアシスだ。
どうかそのままの君でいて欲しい。
普通に勝負を挑まれただけでこんなに嬉しくなるなんて……
「須川君たちは先にブロントさんのところに行ってて。この二人を倒したら僕たちも急いで向かうから」
「俺たちの手助けは不要か?」
「大丈夫、僕だって負けるつもりはないし」
「なら任せたぞ」
須川君たちを見送ると、僕は自分の召喚獣を召喚した。
僕の召喚獣は、ブロントさんの召喚獣のものよりも長い片刃剣を装備している。
その重々しい武器とは反して、服装は青を基調とした軽装備で、身軽に動けそうな印象があった。
「ならばこっちも、試獣召喚!!」
紅美鈴さんのは、緑色のチャイナ服か……いかん、一瞬心が揺らいだ。
何あの格好、僕がチャイナ服が大好きだってこと知っての作戦か!?
でもそんなことは気にしてられない。
チャイナ服なんかに負けたりしない!!
「吉井さん、大丈夫ですか?鼻血出てますけど……」
「…………」
……チャイナ服には勝てなかったよ。
しょうがないじゃん!僕の好みにど真ん中ストライクだったんだからさぁ!!
ただでさえ、紅美鈴さんはスタイルいいのに、それが召喚獣にまで再現されてるってどういうことなの!?
もしかして、あのチャイナ服体の起伏がわかりやすかったりするの!?
なんだってこう僕の弱点を的確に突いてくるかな?
「って、あれ?そっちの召喚獣、武器持ってないけど?」
「私の武器はこの拳ですよ。こう見えて武術とか得意なんですから」
「中国拳法でも使えるの?」
「なんでわかったんですか!?」
服装からしてそれしかないだろ。
紅美鈴さんって、姫路さんに引けを取らないほどの天然さん?
『Fクラス 吉井明久 VS Dクラス 紅美鈴
化学 108点 VS 97点 』
点数はほぼ互角か。
これなら行けるね。
「あれれ?吉井さんって化学得意なんですか?100点超えてるじゃないですか」
「うーん、別に得意ってわけじゃないけど……」
やっぱりFクラスに対する認識なんてそんなものか。
元はといえば、僕も頭は悪かったんだしあながち間違いでもないっていうのが悲しい。
人の良さそうな紅美鈴さんでも、僕たちのことはバカだって思ってるんだなぁ。
「真面目にやれば、このくらいはなんとかなるよ。いままではバカだったけどね」
「偉いですね!私なんて授業中寝てばっかりで、全然成績上がらなくって。それでもなんとかDクラスにねじ込んだんですけど」
「…………」
紅美鈴さんは、無自覚に人を傷つけるのが好きらしい。
要するに、この人は真面目にやらなくてもそれなりの点数が取れるってことだ。
Fクラスの不真面目さとはレベルが違うだけかもしれないけど。
「そんなことはどうでもいいか。紅美鈴さんには悪いけど、速攻でケリをつけさせてもらうよ」
「むっ?聞き捨てならないですね。そんな簡単に私が倒せるとでも?」
「……後ろを見たら、僕の言わんとしてることがわかると思うよ」
「後ろですか?」
僕の疲れきったような声を聞いて、紅美鈴さんが後ろを振り返る。
いままで背後で繰り広げられていた光景を見て、彼女も納得したようだ。
その光景とは――
「さ、お姉さま。勝負はつきましたね?」
「い、嫌ぁっ!補習室は嫌ぁっ!」
「補習室?……フフッ。お姉さま、この時間なら保健室のベッドは空いていますからね?」
「そっちはもっと嫌ぁっ!!」
そこには、新たな性犯罪者が生まれようとしている瞬間があった。
流石にあれは僕も見過ごせない。っていうか、見過ごしたら間違いなく後悔する。僕も美波も。
紅美鈴さんは、納得したと同時に呆れ顔に変わっていった。
「……たしかにあれは早急な援護が必要ですね。本当にうちのクラス残念な人が多くて済みません……」
「……紅美鈴さんたちがまともなだけ救いだよ。まぁ理由は納得してもらったかな?」
「……はい、なんかもう申し訳なくなるくらいに痛感しました」
「というわけで、早く勝負を……」
そう切り出したら、紅美鈴さんが犯罪現場への道を開けてくれた。
いいのかな?
「幸い、効果範囲内ですから敵前逃亡扱いにはなりませんし、そのあとで勝負してもいいでしょう」
「……でも、あの子君のクラスの人でしょ?」
「こっちも散々迷惑をかけてますし、構いませんよー。吉井さんは気にしないでください!」
「なんだか悪いなぁ……」
「大丈夫ですって。それでも気になるって言うなら――」
そこで一旦区切ると、紅美鈴さんは僕にウインクをした。
その表情には、どこか僕をからかうような感情も込められていて、もともと美少女である彼女の顔も相まって、僕は一瞬呼吸ができなくなるほど鼓動が高鳴る。
そんな僕にお構いなしに、紅美鈴さんは悪戯な笑みを浮かべて――
「今度の休日に甘いものでも奢ってくれたらチャラにしますよ?」
とんでもない爆弾を投下してきた。
『休日に甘いものでも奢る』
それすなわち、休日にどこか一緒に出かけるというのと同義である。
ということは……デートというやつじゃないだろうか?
そんな誘いをかけられたら、そこらの普通の男子生徒なら驚き戸惑うところだろう。
だがしかし、僕の精神力の高さをなめてもらったら困る。
このような非常事態は幾度となくくぐり抜けてくたんだ。
去年まで問題児という評価を受けてきた僕にとっては、このくらいの予想外の出来事なんて日常茶飯事。
落ち着いて対処するくらいわけないさ。
冷静に僕は、教室の中にかけられているカレンダーを見て日付を確認してから言った。
「――やれやれ、エイプリルフールはもう終わってるよ?」
「どういうことですか?嘘なんか言ったつもりないんですけど?」
「嘘だ!!」
こんなことで冷静になれるか!!
僕のような人間に、紅美鈴さんのような美少女がデートに誘ってくれるわけがないじゃないか!!
どうせあれだ、幸運になれるツボとかを法外な値段で売りつけたりするんだろ!
そんなハニートラップに引っかかってたまるか!!
そんなツボ買うお金もないからね!!ゲームの買いすぎで!!
お金があったら間違いなく買ってるだろうけどさ!
「どこでそうやって僕がデートのフラグを立てたっていうのさ!?最近のギャルゲーでももう少し段階を踏んでからイベントが起きるんだよ!?」
ギャルゲーなんかはやったことないけど。
「そんなデートだなんて大げさな。ただ単にどこか一緒に遊びに行きましょうってだけじゃないですか?」
「それを世間一般ではデートって言うんだけど!?」
「またまたそんな。私みたいな人間が男性をデートに誘うなんて恐れ多いですよ」
「君の自己評価の低さは一体どこから出てくるの!?」
ええい!紅美鈴さんは自分がどれだけ魅力的な人間なのかという自覚がなさすぎる!
このままだったら変な男に引っかかるぞ!
「無理ですか?」
「え、えーと……無理っていうか、なんというか……」
「そうですか……私なんかとはいきたくないってことですか」
「それは違うよ!むしろ光栄だから!行けることなら行きたいよ!」
「え……あ、あはは、嬉しいこと言ってくれますね」
「あ、あー……その……」
少し赤くなった美鈴さんの顔を見てどもり始める。
そうしてると、美鈴さんがハッと気づいたような表情になった。
「そういえば、さっきから気になってたんですけど」
「何?」
「どうして吉井さんは、私のことをフルネームで呼ぶんですか?」
……それって今聞くこと?
「うーん……なんでだろ?」
「美波さんだって下の名前で呼んでたし、私も名前で呼んでくださいよ」
「だからなんだってそう男子生徒の心をくすぐるようなことばっかり言うの!?」
この子は本当に無防備すぎる!
いつか勘違いされた男子がストーカーになっても知らないよ!?
「えー?いいじゃないですかー。せっかくのお友達なんだし」
「う……あーうー……」
いつ友達になったのさ。と聞きたかったけど、僕の本心では仲良くなれそうって思ってたから否定しづらい。
結果、なんかうめき声を上げている奇妙な生徒がそこにいた。
というか、僕だった。
「えーじゃあ美鈴さん?」
「はい、何ですか明久さん?」
「チェストぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
いきなりの女の子からのファーストネーム呼びで腹の底から衝動が湧いてくる。
それを抑えるために、叫びながら壁を全力でぶん殴って拳から血を流すバカな生徒がそこにいた。
というか、それも僕だった。
「あのー……保健室まで連れて行きましょうか?手から血が出てますよ?」
「大丈夫だ、問題ない!!だいたい、保健室に行ったら美波を助けられないし!!」
美波とは違う意味で保健室に行きたくない。
色々ノーガードなこの子とふたりっきりで密室にいるとなると、僕の精神がマッハになる。
僕が何かやっても、武術やってるらしい美鈴さんに反撃されて終わりだろうけど。
「と、とりあえず、戦闘を後回しにしてくれたことには感謝するよ。ありがとう!」
「いいえ、それほどでも。それじゃあ頑張ってくださいね!」
敵のクラスに応援されるってなんだか変な気分だ。
って、ああ!そうこうしているうちに美波が今にも捕食されそうになってる!!
「さあお姉さま、そろそろ観念なさってください!!」
「嫌ぁっ!!ウチはもう心に決めた人が――」
「ちょっと待てえええ!!!」
まさに美波が拉致されそうになったところを、僕の召喚獣が清水さんとやらの召喚獣にドロップキックをかました。
当然、清水さんの召喚獣は吹っ飛び、美波の召喚獣の拘束も解かれる。
「殺します……。美春とお姉さまの邪魔をする人は全員殺します……」
「なんという執念深さ……怖すぎる……」
何あの視線。あれだけでもう人が殺せるよ。
でも、僕の友達が食われそうになっているのに黙ってなんかいられない。
お互い同意の上ならいいけど、どう見ても清水さんの一方的な想いで美波が犠牲になるのはあんまりすぎる。
「お姉さまと美春の間には誰も割り込めないんです!!それを邪魔するものは殺します!」
「それはちがうよ!!客観的に見ても美波は嫌がってるじゃないか!!」
「お姉さまが恥ずかしがってるだけなんです!!美春はそれを素直にしようとしてるだけなんですから豚野郎は下がっててください!!」
「なんかいきなり初対面の人に豚野郎よばわりされた!?」
「あなたみたいな人間なんか豚野郎で十分です。全く、人の恋路を邪魔するバカなんて家畜以下と言われないだけマシじゃありませんか?わかったら邪魔しないでください、美春はお姉さまと保健室に行くんですから」
一体どうしてこの子は僕をこんなに貶めてくるんだろう。
ほとんど面識がない人間に辛辣にも程がある言葉を突き刺しすぎじゃないか?
ここまで言われると、さすがの僕もムッてくる。
「悪いけど、君が行く場所は保健室なんかじゃない。戦死して補習室に送らせてもらう」
「豚野郎ごときが何を「遅い!」
美春さんの召喚獣が僕の方に戦闘態勢に入ったと同時に、僕の召喚獣は清水さんの召喚獣の心臓部を貫いた。
『Fクラス 吉井明久 VS Dクラス 清水美春
化学 108点 VS 0点 』
「…………え?」
「悪いけど、観察処分者だから召喚獣の操作には慣れてるんだ。最初の動作だけでも、僕の方が何枚か上手になるんだよ」
何度も雑用をこなして操作している上に、本来の自分の体とは違う大きさの召喚獣と感覚を共有しているから、一般生徒よりははるかに細かい作業をすることができる。
普通の生徒が最初の行動を起こすのにまごついている間、僕は先制攻撃をするってのも可能だ。
観察処分者の数少ない利点ってところかな。
「さてと、君が言うには僕は『家畜以下の豚野郎』らしいけど、そんな僕に負けた君って一体なんなんだろうね?」
「え……あ……」
「今の君は、僕を甘く見すぎてたせいで無防備になってた。もう少しは人のことをよく観察して行動しようか?」
清水さんに背を向けて、床に崩れ落ちている美波の方に向く。
そりゃあ、さっきの清水さんの行動を思えば腰を抜かすのも無理はないか。
「美波、大丈夫?」
「う、うん、助かったわアキ。本当にありがとう!」
地獄にホトケって顔でこっちを見てくる。
美波の手を引っ張って起こしてあげると、美波は鉄人の方に口を開いた。
「西村先生、早くこの危険人物を補習室にお願いします」
「おお、清水か。たっぷりと勉強漬けにしてやるぞ。こっちに来い」
鉄人に担ぎ上げられてしまう清水さん。
だけど、その状態でこっちの方を睨みながら叫んだ。
「お、お姉さま!美春は諦めませんから!このまま無事に卒業できるなんて思わないでくださいね!!」
「……なんてひどい」
「そこの豚野郎も、卒業すらできないようにしてやりますから!!」
とても危険な捨て台詞を残し、清水さんは補習室へ連行されていった。
色々な意味で危ない戦いだった。
「アキ」
「美波、お疲れ。とりあえず一度戻って化学のテストを受けてくるといいよ」
「アキ」
「じゃ、僕は先に行くから。戦争はまだまだこれからだ」
「アキぃ!」
「な、なにかな?」
「……手が震えてるわよ?」
そんなわけないじゃないか。
なにか僕が怖がるようなことでもあったのかな?
そんなことないじゃないか。
この戦争では僕は負けるつもりなんてないんだから。
もしもこのまま戦死でもしてしまったら、さっきの修羅も裸足で逃げ出すほどの表情でこっちを睨んでいた清水さんと一緒の教室にぶち込まれることなんか怖いわけガガガガガガ
「……見間違えじゃない?それを言うなら、美波だって足がガクガク言ってるよ」
「……それこそ見間違えよ」
美波だって怖いんだろう。
このまま補習なんかくらったら、さっきの二の舞になってしまうんだから。
「…………」
「…………」
無言が辛い。
さっきの阿修羅をも凌駕する存在を思い出してしまうから。
さっさとなかったことにしてしまおう。
「戦況はどんな感じかな」
「さぁ?よくわからないわね」
そっと、僕達は戦場の音に耳を傾けた。
「ハイスラぁぁぁ!!」
「はっ!そんなの当たるかよ!!」
「追撃のグランドヴァイパ!!」
「ック!やりやがったな!コイツでも喰らえ!!」
「黄金の鉄の塊でできたナイトがタイツ装備のランスに遅れを取るはずがない!!」
「タイツじゃねーよ!!」
「どこからどう見てもタイツにしか見えない不具合。どうやってそれがタイツじゃないって証拠だよ。おまえ頭わりいな、証拠も出さずに主張するのはずるい」
「そっちこそタイツだって証拠はあんのかよ!?」
「お前ら、今のあいつの装備タイツに見えたか?」
「見えた」
「確かにタイツだ」
「俺のログにも確かにあるな」
「ほらこんなもん」
「畜生……お前らは馬鹿だ」
「め、メディック!!メディィィィック!!藤堂がやられそうだ!!」
「へっ、俺のことはいいから、逃げろや……ここは引き受けたぜ」
「と、藤堂ぉぉぉぉぉ!!!」
「伝説の突き技wwwパワースラッシュwww輝けwww俺様の両手剣www」
「それって突いてんのか斬ってんのかはっきりしろ!!」
「無理wwwサポシwww」
「なんなのよまとわりついて鬱陶しいわね!!いい加減にしないとダークパワー夢想封印でボコるわよ!?」
「吹き飛ばすんなら私に任せろ!弾幕はパワーだぜ!!マスタースパーク!!!」
「俺だって!いくぞDクラス!点数の貯蔵は十分か!?」
「オウフwww」
「な、内藤が流れ弾に当たったぞ!?大丈夫か!?」
「うはwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwおkwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「うっぜぇ!!なんかこいつうっぜぇ!!!」
「そこのやつら!ここから先は私が相手だぞーー!!!」
「ギャーギャー騒いでんじゃねーよ。発情期ですかコノヤロー」
「は、発情っ!?いきなり変なこと言わないでよ!!」
「うっせえ。三秒以内にどかねーと頭ブチ抜くぞ」
「えっ?」
「ハイ1。さいなら」
「う、うにゅぅぅぅ!?」
「うっし、さっさと行くぞお前ら」
「ちょっとちょっと!?2と3はどこに行ったの!?」
「しらねーなそんな数字。男はなァ1だけ覚えとけば生きていけるんだよ」
「さっき自分で3秒って言ったじゃない!!汚いぞ!」
「ケッ、吉井達を襲おうとしてたおめーらからキタネーという言葉をきくとは思わなかったぜ。ましてや今はクラスを懸けた試召戦争!勝つためには手段を選ばんもんネーーボクちゃん……ルンルン」
「お、覚えてろーーー!!」
「心配すんな。明日にはその記憶を粗大ゴミと一緒に捨てに行くから」
うん。よく分からないってことが分かった。
「アキ、大丈夫?」
「僕は大丈夫だよ。それに、今からまた戦わないといけないし」
「え?それって……」
「無事に終わってよかったですね、明久さん」
僕の背後から、よく通る綺麗な声が聞こえてきた。
いや誰のものかなんてのはわかってるけど。
「待っててくれてありがとう。美鈴さん」
「いいですって。約束さえ守ってくれれば」
「あっちの約束も、まだ有効だったの!?」
「ちょっとアキ?どういうことなの?」
美波が僕の袖をクイクイ引っ張って質問してくるけど気にかけてられない。
まさか本気で美鈴さんが僕との約束を本当のものと思っていたなんて。
よく考えたら、僕の財布ってお金がないんじゃなかったっけ?
やばい、美鈴さんにおごるお金がない!!
とりあえず、そのことは置いておこう。
今の戦況を冷静に分析するんだ。
ひとつのミスで、僕達は地獄の鬼よりも恐ろしい生物と対面することになってしまうんだから。
「美波は下がってて。このままだったら巻き添えを喰らうことになる。戦い始めたら全力で教室まで逃げてね」
「おっ?女の子のために盾になるなんてかっこいいですねー。明久さんはホントにいい人です」
「何当たり前のことを言ってんのよ?バカがつくほどアキは優しいんだから」
あれ。美波まで援護してくれるなんて。
さっきの罵倒の嵐を経験してるから、そんな言葉でもとても嬉しくなる。
「……これは困ったな。美鈴さん、全然隙がないや」
「そりゃそうですよ。さっきの一撃必殺って感じの技を受けるわけには行かないですし」
さっきの戦闘を見られているっていうのが痛いな。
僕の操作技術に警戒して、油断してくれない。
サシで戦っても、三倍の点数までなら互角に戦える自信はあるけど、今の僕の目的はブロントさんと合流すること。
こんなところで時間を使っている暇はない。
「美波、この人は本当に強いんだ。点数を消耗している美波だったらすぐ補習室に送られちゃうから、早く逃げて」
「……分かった。何から何まで助けてくれて感謝するわ。絶対に負けないでよ」
「了解」
教室へと逃げ帰る美波を見送ってから美鈴さんを見据える。
……一筋縄じゃいかないな。
「美鈴さん、ここまでしてもらってあれだけど、勝たせてもらうよ」
「残念ですが、勝つのは私です!」
突如、美鈴さんの召喚獣が僕の召喚獣の目の前に現れた。
目にも止まらない速さで、そのまま召喚獣の腹を殴ろうとする。
それに気づいた僕は、なんとかギリギリで後ろに下がり攻撃をかわした。
「あ、あっぶな!?もうちょっとでクリーンヒットしてたよ!?」
「さすが明久さん、反応もいいですね」
やっば!?あんなのくらったら無事なんかじゃすまないぞ!?
点数を削られるのはまだいいけど、召喚獣が受けたダメージが僕にフィードバックするから僕自身がまともじゃなくなる。
痛みに悶えて、操作することができなくなっちゃうよ。
「武術をやってると、体の動かし方がすぐにわかるのかな?ブロントさんやランサーもそうだし」
「……その割には余裕そうですね」
そんなことはないんだけど。
「それより美鈴さん、やっぱり君は強いよ。まさか『それだけしかダメージを受けてない』なんてね」
「え?それはどう言う……」
疑問の声を上げながら、美鈴さんは召喚獣の点数を見た。
『Fクラス 吉井明久 VS Dクラス 紅美鈴
化学 108点 VS 92点 』
「……いつの間に?」
「最初の下がった時にね。剣を横に振りつつ下がってたんだよ」
某狩猟ゲームの技『斬り下がり』を模倣したものを使ってみたんだけど、意外と使えるなこれ。
ただ、僕の召喚獣の手の動きが速かったからか、自分の召喚獣の影になってて見えなかったのか、気付かれなかったみたいだね。
「とっさに攻撃もするなんて……抜け目無いですね」
「当たり前だよ。僕たちが去年どれだけこの学校で問題を起こしたか知らないの?先生たちの目を盗んで好き勝手やってた経験が僕の中にはある!」
「……それって自慢げに言えることですか?」
「……あ、ごめん。ちょっと目から汗が出てきた」
的確なツッコミを入れられて少し涙腺が緩む。
別に僕は後悔してないもんね!
「今度はこっちの番だ!」
「望むところです!」
急激に加速して、美鈴さんの召喚獣に斬りかかる。
さっきの美鈴さんと同じことをしているように見えるかもしれない。
事実、美鈴さんはさっきの僕と同じようにカウンターを狙っている。
だけど、
「もらった!」
「なっ?」
攻撃せずに、美鈴さんの召喚獣の背後に回った。
相手のリーチは、拳だから短い。
カウンターを狙うとなると、本当にタイミングが重要になるのはゲームで知ってる。
だから僕は、攻撃するふりをして後ろから攻撃する!
「これで終わりだ!」
「そうはいきませんよ!」
突如現れた刀によって、僕の攻撃は中断させられた。
「き、君は……魂魄さん!?」
「危ないところでしたね美鈴さん」
「あはは……本当ですね。召喚獣じゃ拳法の動きがしづらくて困ります」
なんてこったい、向こうに援軍が来るなんて!
このままだったら、ブロントさんを助けに行くどころか、僕が援軍が必要になっちゃうよ。
でも、一対二ならなんとか……
『デンデデッデデレデンデデッデデレデンデデッデデレデンデデッデデレ』
な、なんなのこの音楽?
どこからともなく聞こえて……
「西京のwwwww俺様wwwww」
『ヘエーエ エーエエエー エーエエー ウーウォーオオオォー ララララ ラァーアーアーアー』
「今ここにwwwww光輪wwwww」
『ナァォォォォ オォォォォ サウェェェアァァァァ アァァァァ アァァァァ アァァァァ イェェェェェェェェェゥゥアァ…』
「こ……この特徴的な喋り方は……」
「みwwなwwぎwwっwwてwwきたぜーwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
『ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォーアノノアイノノォオオオォー ラロラロラロリィラロロー ラロラロラロリィラロ ヒィーィジヤロラルリーロロロー』
そこには内藤君がいた。
さっきのようににやけながら、わけのわからない音楽を伴って……
って――
「どこからこの音楽を流してるの!?」
「俺様の辞書にwwwww不可能の文字はないwwwwwちなみにwwwwwエッチな単語にはwwwwwラインマーカーがwwwwww引いてあるざますよwwwww」
「流れるようにセクハラ発言しないでください!!」
「無理wwwwwサポシwwwww」
「サポシ関係ないでしょうが!!」
さっきのように内藤君がバカなことをいって、魂魄さんがツッコミを入れる。
完成された一連の流れがそこにあった。
「って、これまずくない!?」
一気に1対3になっちゃったよ!
「いざwwwww尋常にwwwww勝負するぜーwwwww」
「吉井さん、覚悟してください!」
「うわーお、ヤルきまんまんだー」
ブッダよまだ眠っているのですか!?
このままだとジリー・プアーで、最終的に僕が爆発四散しちゃうんだけど!?
いくら危険なことが茶飯インシデントな僕でも、アンブッシュな敵の増援のエントリーでは実際やばい。
このままじゃハイクを読んでしまう羽目になっちゃう!
「美鈴さん!さっきまで一体一の勝負だったでしょ!?武人として邪魔されるのは構わないの!?」
「すみません今戦争中なんで、それはそれ、これはこれです」
「ガッデム!」
ああ、もう内藤君と魂魄さんに囲まれちゃってるよ!
こんなのじゃうまく立ち回れない!
「それじゃwwwww明久の召喚獣討伐にwwwwwのりこめー^^wwwww」
「わぁい^^」
「おー^^」
「なんでそういう時だけ息が合うの!?」
ダメだ。
僕はこのまま戦死してしまう。
……もう少し、頑張りたかったな……
せめて、ブロントさんの助けに――
「唯一ぬにの盾!!」
「はいィィィ!!次ィィィ!!」
「え……?」
内藤君の攻撃が、大きな盾に阻まれて、魂魄さんの刀は、横から入り込んできた木刀によって弾かれた。
残った美鈴さんの召喚獣の攻撃は、無意識のうちに僕の召喚獣が、足払いをかけて蹴り飛ばしていた。
って、どうしてこの人がこんなところに?
もう一人も、なんで……
「俺はランサーと戦っていて時間を食ってしまっていたんだが、3対1の不利なのが確定的に明らかな状況でも明久がなんとか耐えているみたいだった」
「あなたは……」
「俺はなんとかランサーを倒していたので急いだ。ところがアワレにも明久がくずれそうになっているっぽいのが心の声で叫んでいた」
「こんなに早く来るなんて……」
「どうやら試合が早くも終了しそうになったらしく『はやくきて~はやくきて~』と泣き叫んでいる明久のために俺達はとんずらを使って普通ならまだ付かない時間できょうきょ参戦すると」
「うはwwwww登場するタイミングwwwwwかっこよすぎーーwwwww修正されるねwwwww」
「『もうついたのか!』『はやい!』『きた!盾きた!』『メイン盾きた!』『これで勝つる!』と大歓迎状態だった」
「ブ……ブロントさん……?」
そこには、僕を守るために駆けつけてくれたナイトの姿と
「おいおい、エラソーなこと言って死にかかってんじゃねーか。まぁ、これに懲りたら無茶なことすんのはバーゲンセールと風呂の覗きの時だけにしやがれ」
「そんな状況でも無茶なことはしないよ!?」
ふざけたことを言うけど、助けに来てくれた須川君の姿があった。