バカとナイトと有頂天 作:俊海
夏休みのあいだの合宿だとか大会だとかでだいぶ潰れてしまってました。
しかも今回、そんなに話は進まないし……
あと、地の文の明久が、賢そうに見えてしまう不具合が発生しましたが、寛大な心で流してくれれば幸いです。
明久の一人称だと、周りの状況を説明しなきゃいけないから、すっごく難しいです……
それでは、どうぞ
「それじゃあ、ブロントさん。最前線を頼むよ」
「俺がFクラスのメイン盾ということか。そういう役割ならどっちかというと大歓迎。俺は必要最低限の防御だけしていくから後衛の攻撃の邪魔はしない。お前ら、全力で攻撃していいぞ」
「ワシ達もできるだけ耐えるからのう、援護は頼むぞい」
僕は先行前衛部隊――ブロントさん・秀吉・その他数人――がDクラスに向かうように指示した。
本来なら、先行部隊だけでまとめるつもりだったらしいけど、雄二の言う『嬉しい誤算』のおかげでその先行部隊をさらに二分割することになった。
前衛部隊は、召喚獣が近接戦向けの武器を保有している部隊だ。
この部隊は、敵の攻撃を耐え抜くことが目的になっている。
防御が得意だというブロントさんがいるのなら、その役割も当然だろう。
「防御は任せましたよブロントさん。私達も本気で攻撃しますから」
「ブロントさんはどっしり構えとけば大丈夫だぜ。雑魚的なんか私たちに淘汰されるのは目に見えてるんだからな」
「ブロントさんも無茶するなよ?」
先行後衛部隊――霊夢・魔理沙・士郎・その他数人――も、それに追従するように戦場へと趣いた。
こっちの部隊は、遠距離攻撃が可能である召喚獣を連れている生徒を集めている。
こうやって言ったらわかりやすいけど、ブロントさん達が敵の攻撃を惹きつけているあいだに、後ろから援護射撃で一網打尽にするっていう作戦だ。
「……にしても、いくら重要だからって、僕を部隊長にしなくてもいいんじゃないかな」
そうやって指示を出している僕は、中堅部隊の部隊長をやっている。
だから、先行部隊の指示を出すのは本来なら僕じゃないけれど、どうも雄二が僕をやたら持ち上げていたせいか、Fクラスのみんなが僕に指示を仰ぐようになっていた。
……本当に僕でいいんだろうか?雄二の采配ミスとしか思えない。
「何言ってんのよアキ。アンタだってかなり勉強したんでしょ?だったらそれだけでも十分隊長格でもおかしくないわよ」
「いやまあ、そうなんだけど……」
僕が不安がっているのを見た美波が、励ましてくれているのか、僕が隊長でも大丈夫だと言ってくれる。
そりゃまあ、それなりには勉強したし、今の僕なら、Dクラスの上位よりかは点数を取れる自信はある。
ただ、こうやって僕の下に誰かがついてきたことなんてなかったことだし、初めての事ばかりで緊張してるんだよ。
「泣き言を言わないの!男だったらシャンとする!」
「それだったら僕なんかよりも美波のほうが男らしいイタタタタタタタッ!!」
「誰が男みたいな体型ですって!?」
「そんなこと言ってないぃぃぃぃぃ!!」
軽口で返そうとしたら、美波にアームロックをかけられた。
口に出してるほどは痛くないけど、美波と体が密着してるから女の子の柔らかい部分が押し付けられてなんかもう訳が分からないっていうか頭が沸騰しそうだとか今の僕は顔が真っ赤なんだろうなって考えたり健康的な男子生徒である僕としてはいろいろとやばいやばいやばいやばい!!!!
「離れよう!!一旦離れよう美波!!悪かったって!!美波は十分女の子らしいですぅぅぅぅぅぅぅぅう!!!」
「ほんっとーにそう思ってるの!?」
「思ってる思ってるから!!そのモデルみたいな体型は女性としての魅力を発揮してます!!」
「あっそ、ならいいわ。全く……女の子にそういうこと言っちゃダメなんだからね?」
そっぽを向きながらようやく解放してくれた。
美波の耳が赤くなってるのが後ろから見えたけど、それほど怒ってるってことなんだろうか。
僕が男らしいって言ったのは、僕よりも勇敢だからって意味だったんだけど、美波は見た目の方の意味でとったらしい。
そんなことを思うはずがないのに。
『――試獣召喚するんだが!』
「あ、ブロントさん達、始めたみたいだ」
「そうみたいね。でも、これっていいのかしら、ここからでも見えるところで戦ってるわよ?攻め込まれたら一気になだれ込まれるんじゃない?」
「でも、そのほうが戦局が分かりやすいから部隊長の僕としてはありがたいよ」
「一長一短ってところね」
特徴的なセリフを叫びながら、ブロントさん達が交戦状態に入ったみたいだ。
今回はブロントさんが先頭だということで、立会人には英語担当である遠藤先生を呼んでおいた。
そのほうが、ブロントさんの点数が高くなるからなのは言うまでもない。
遠目でブロントさんの召喚獣を観察してみる。
見た目はブロントさんをデフォルメした感じになってはいる。
けれど、その服装は高潔な騎士が身にまとうような純白の鎧へと変わっている。
左手には、鮮やかな紫の色をした盾を装備していて、右手には、あたりのものを全て喰らい尽くしてしまいそうな尖った部分の多い黒い剣が握られていた。
「うわっ……ブロントさんの召喚獣滅茶苦茶強そうじゃん」
「これぞまさにナイトって感じの召喚獣ね」
しかも今の召喚フィールドは英語だ。
一体ブロントさんの召喚獣の点数は何点なんだろう…………
『Fクラス ブロントさん VS Dクラス 鈴木一郎
英語 429点 VS 87点 』
…………What?
「あ、あんなのに勝てるわけがねえだろぉぉぉぉおぉ!!?」
「に、逃げ……くっそお!!!逃げたら逃げたでジリ貧だ!!!」
「400点越えとか、Fクラスの成績じゃねえじゃねえか!!!」
さ、さすがイギリス人、本場の人間はレベルが違う。
しかもブロントさんの場合日本語もそれなりにできるから、さらに点数が上がってるんだ。
けれど、なんという武力差、これだったらもはや蹂躙じゃないか。
「お前ら…………ハイスラでボコるわ……」
「やめろ!?こっちに来るなぁぁぁぁあぁぁ!!」
あまりの点数差に腰が引けまくってるDクラス生徒にとブロントさんの召喚獣がゆっくり近づいていく。
そのままブロントさんは黒い剣を高く振り上げて、生徒へとまっすぐに叩き落とす。
ああ、これでひとり、Dクラスの生徒が減った――
ブン………ブン………ブン………
――……え?
「あ…………あれ?外れた?」
戦死を覚悟していたDクラスの生徒がおっかなびっくり前の光景を確かめた。
そこには、当たりもせず掠りもせず、ただただ剣を振り回してるだけのブロントさんの召喚獣の姿があった。
しかも、なにやらあらぬ方向にばかりスイングしている。
まるで『初めてプレイするゲームのキャラの動きを確かめている』かのように――
「ま、まさか……ブロントさん……召喚獣を……『操作したことがない』んじゃ…………」
まずい、それはありうる。
ブロントさんはこっちに転校してきたばかりなんだ、召喚獣を見ることさえ初めてのはず。
そもそも、さっきの戦争でのことでも、ブロントさんは戦争することが分かっていても、どうやって戦争するのかは分かっていなかったような口ぶりだった。
僕達は、少ない時間とは言え一年生の時にある程度の召喚獣の操作はしていた。
その経験すらも、ブロントさんになかったとしたら……?
「やばい……完全にでくのぼう状態じゃないか……」
いくら点数が高くても、操作できなかったら意味がない。
しかも今のブロントさんにできることは、歩くことと剣を振ることだけだ。
このことがDクラスのみんなにバレたら、ブロントさんが一斉に攻撃される。
そうなると、盾役が大幅に戦力ダウンになってしまう。
「…………ほむ、なるほどなというか鬼なる」
「も、もしかして……こいつは……」
あのDクラスの生徒、気づいたっぽい!!
くそっ!バレる前になんとか仕留めないと――
「あら?考え事してていいのかしら?」
「余所見するとは随分余裕じゃねえか!」
「悪いけど、この距離なら絶対に外さないぞ!」
「……えっ?」
『Fクラス 博麗霊夢
Fクラス 霧雨魔理沙 VS Dクラス 鈴木一郎
Fクラス 衛宮士郎
147点
英語 204点 87点
188点 』
……なんという集団リンチだ。
そういえば、あの三人も成績が良かったんだっけ。
すごいな、Bクラスを打ち負かす勢いじゃないか。
そうこうしているうちに、ブロントさんの後方からいろんなものが飛び出してきた。
なぜか脇が見えている巫女装束の霊夢の召喚獣からは、無数のお札とハリが。
見るからに魔法使いだって格好の魔理沙の召喚獣からは、星の形をした弾が。
赤く塗られた軽装備の鎧を身につけた士郎の召喚獣からは、剣のような形の矢が。
それぞれが、ブロントさんに斬られそうになっていた召喚獣へと殺到する。
『Fクラス 博麗霊夢
Fクラス 霧雨魔理沙 VS Dクラス 鈴木一郎
Fクラス 衛宮士郎
147点
英語 204点 0点
188点 』
あ、一瞬で溶けた。
「そ、そんな…………」
「さぁ来い!この負け犬が!」
絶望した顔になったDクラスの生徒のそばに、どこからともなく鉄人が現れた。
そのままDクラスの生徒を脇に抱え込み、どこかへ連れ去ろうとしている。
「て、鉄人!?嫌だ!補習室は嫌なんだっ!」
「黙れ!戦死者は全員この戦争が終わるまで補習室で特別講義だ!終戦まで何時間かかるがわからんが、たっぷり指導してやる!」
「た、頼む!見逃してくれ!あんな拷問耐えきれる気がしない!」
「拷問?そんなことはしない。これは立派な教育だ。補習が終わる頃には趣味が勉強、尊敬する人は二宮金次郎、といった理想的な生徒に仕立て上げてやろう」
「お、鬼だ!誰か助けっ――イヤァァ!!!」
……それは教育じゃなくて、洗脳じゃないだろうか。
そもそも、二宮金次郎は、歩きながら本を読むってことが危険だから真似しちゃダメなんじゃないかな。
そのせいで、全国の学校から金次郎像がなくなったらしいし。
しかし、なんと恐ろしいペナルティなんだ。
鉄人の授業を受けたら、僕たちFクラスの生徒だったら絶対に発狂する。
これは尚の事、この戦争で負けることは許されなくなった。
できることなら、今すぐ撤退してしまいたいけど、ブロントさんたちを見捨てるわけにも行かない。
だいたい、逃げ出したら戦争で勝利できなくなる。
そうなったら本末転倒だ。
「美波、もう少し様子を見てこっちが劣勢になったら、前線組と交代しよう」
「それはいいけど……ブロントさんは戦死しないかしら?操作できてないんでしょ?」
「幸い、今のところブロントさんがまともに操作できてるかどうかはDクラスの皆には確証できるものがない。まぐれでもブロントさんの攻撃があたったら、一発で戦死しちゃうし、ブロントさんに勝負を挑むのを避けてる生徒の方が多いから、すぐにやられるってことはないよ」
目の前に400点代の生徒がいたら、そこにいるだけで威圧感が半端じゃない。
ブロントさんが、まともに操作できないふりをして誘っているのかもしれないし、そうでなかったとしても、たとえまぐれであってもブロントさんの剣が当たったら、即座に補習室行きだ。
しかも、ブロントさんに勝負を挑むと、即座に士郎達が攻撃してくることが分かっている以上、向こうもおいそれと攻められるはずがない。
「oiどうした、かかってこいよ!俺が怖いのに必死につよがってもだめビビってるのばれてるからな。俺はこのままタイムアップでもいいんだが?」
「くっ……言いたいだけ言いやがって……!!操作もできねえくせして……!」
「でも、あの戦闘力は実際驚異だぞ?どうすんだよ?」
ブロントさんが挑発してるのに、試獣召喚してこないってことは、僕の予想通り攻めあぐねてるんだ。
うまい具合に相手もドツボにはまってる。
このままの状態が続けば――
「――誰も行かねえんなら、俺が行かせてもらうぜ」
突如、一人の男子生徒がブロントさんの目の前に姿を現した。
その生徒は、短く切り揃えられた青い色の髪に、ブロントさんと同じ赤い色の目をしている。
顔立ちも、そこらの女性だったら引っかかりそうな作りになっているが、いまはその顔を獲物を目の前にした猛獣のように、歪ませていた。
「あ、兄貴!?今そんなに前に出なくてもいいじゃないか!?」
「つっても、このまま膠着状態だったらキリがねえだろうが。それに、せっかくの戦争で、戦わねえなんて勿体ねえことできっかよ」
兄貴、と呼ばれるほどにあの生徒は慕われているんだろうか。
――いや、僕はあの生徒を知っている。
というのも、顔を合わせたことがあるからだ。
しかも、不名誉極まりない状況で、何度も見たことがあった。
「お、そっちの部隊長は明久なのか。こりゃあ手が抜けねえな」
「ら、ランサー!?Dクラスだったの!?」
青髪の生徒――クー・ランサー・フーリンが僕に気づいた。
名前こそ外国人だが、ランサーはまごう事なき日本人だ。
親が外国人だったけど、日本に移住したとかなんとかで、中身は完全にどこにでもいる男子生徒。
その影響なのか、ミドルネームまで持っている。
僕は、何となく名前として『クー』だとか『フーリン』だとか言うのは慣れてないから、そのミドルネームで呼ばせてもらってる。
ランサーが兄貴って言われてるのは、そのあだ名に違わないほど面倒見がいい兄貴肌だからだ。
さっき言った不名誉な状況っていうのは、僕が雑用をしている時のことで、そんな時にさりげなく手伝ってくれてたから、士郎の次くらいには顔を見ている。
ランサーは陸上部のエースだから、大体は校庭での作業の時でよく会うし、暇があったら手伝ってくれるとてもいい人だ。
……あれ?どうして僕ってこんなにいろんな人に手伝ってもらってるんだろう?
普通だったら、そんな面倒なことを手伝うわけがないのに。
「そんなことは置いといてだ……ブロントと言ったか?」
「さんをつけろよ!!」
「デコ助野郎!!」
またもブロントさんの後ろから霊夢達の声が響く。
それを聞いたランサーは、苦笑気味に頭をかいた。
「綺麗どころな女にそう言われちゃあ断れねえな。ブロントさんよ、硬派な見た目の割には色男じゃねえか」
「俺は別に女にアッピるなどしていない。俺の潔い高潔な心が見えそうになったのか勝手にフレになっただけの話。一級ナイトはフレがフレを呼ぶ(暴風)そういうお前だってアニキと呼ばれているログは確保している。お前が慕われているのは確定的に明らか。みろ見事なカウンターで返した」
「へっ、こいつは一本取られたな。」
ブロントさんの反論に、ホンの少しだけどニヤリと笑った。
けれど、ランサーはその表情をすぐに消し、真剣な眼差しでブロントさんを睨みつけた。
「さーて、戦争になった以上、俺とお前で仲良しごっこはできねえわけだ。そんな二人が今こうして目の前に立っている。…………あとは言わねえでもわかるだろ?」
「ナイトは挑戦者を選ばない(チャンピオン)報復とか汚い真似をするやつは心が醜いが、正々堂々正面からタイマンを挑んでくるやつには正面から完 全 撃 破 してやるのがナイトの醍醐味。お前、全力でかかってきていいぞ」
これはまずいことになった。
もともとの作戦は、ブロントさんが敵の攻撃を受け止めるのが大前提だ。
それを、初心者のブロントさんが多数の召喚獣を相手にできないことぐらいわかる。
ランサーって陸上部なのに、喧嘩好きだからなあ……
校庭で何回か、ランサーが男女を問わずに喧嘩しているのを目撃してるし。
こういった戦争でも、そういう喧嘩好きな面がでちゃったか。
……けど、どうしてあれだけ喧嘩してるのに、先生に注意されないんだろう?
「あ、アキ?ランサーってやつは頭がいいの?」
「……いや、そんなに言うほど頭はよくないよ。僕よりかは点数は低かったはずだし。英語もそれなりにできるくらいだから100点前後だと思う」
「それくらいなら、ブロントさんひとりでも勝てるわよね……?」
美波のその質問は、もはや願望に近いものだった。
たしかに、いくら操作できないとは言え、四倍近い戦闘力を持っていて負けるはずはない。
一般生徒だって、去年ちょっとやったくらいだから、複雑な操作はできないし、そこそこ削られるかもしれないけど勝てるはずなんだ。
ただ、ランサーの戦闘狂といってもいいほど、勝負への執念がすごい。
陸上部のレースでも、どんなに圧倒的不利な場合でも、自分の限界なんかを簡単に突破して逆転することだって多い。
だからこそ、陸上部のエースに選ばれたんだろうけど。
そんなランサーが、この試召戦争で簡単に勝ちを譲ってくれるとは思えない。
ブロントさんも殴り合いだとか、実戦経験なんかはランサーには負けてないけど、ランサーには召喚獣の操作技術っていうアドバンテージがある。
一筋縄ではいかない。残念だけど、そんな現実が目の前に突きつけられた感じだ。
「だったらとっとと勝負だ!『試獣召喚』!!」
『Fクラス ブロントさん VS Dクラス クー・ランサー・フーリン
英語 429点 VS 107点 』
ブロントさんの召喚獣の前に、ランサーの召喚獣が現れた。
全身青い服を着ていて、血に染まったかのような真っ赤な槍を携えている。
名前のとおり『ランサー』って感じの召喚獣だ。
「俺がこいつを惹きつける!てめえらは後衛を戦死させてこい!!」
「分かった!兄貴も死ぬなよ!」
「当たり前だろ!俺がやられると思ってんのか!?」
「そうだったな……みんな!兄貴がブロントさんを抑えているうちに、他のやつらを潰すんだ!!」
「「「「「おおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」
やっぱりそうきたか!!
Dクラスの一番の驚異は、ブロントさんだ。
士郎たちの援護射撃も、ブロントさんという壁がいてこそ成り立つ戦法だ。
しかも皆Dクラスの二倍以上の点数を持っているわけでもないし、3対1になったらまず勝ち目がない!
その上、あれだけの大人数を操作のおぼついていないブロントさんには、たとえ実戦ではできることでも捌ききるのは不可能だ。
最初は、ブロントさんの攻撃に当たったらどうしよう、と恐怖していた生徒たちも、ランサーが先陣を切ったことで持ち直してしまった。
このままだと、前線が突破されてしまう!
「だったらまずは、あの弓を持ってる男子から戦死させるぞ!」
「じゃあ俺はあっちの金髪の女の子だ!」
「俺はあの腋を出してる巫女の召喚獣の相手になる!」
砲撃担当の中でも主要な三人が潰せたら、一気に攻め込みやすくなる。
そう判断した三人の生徒が、ランサーの召喚獣を追い越してブロントさんの後方へと駆け出そうとし始めた。
それに追従して、何人かの生徒も続こうとしている。
こうなったら、微力ではあるけど、僕たちも援軍に向かうべきか――――
「――――ほむ。学習のパワーの力が全快になったから最高の騎士はヴァージョンアップして至高の騎士に進化した」
そう呟いたとたん、ランサーが慌てたように最初に突撃してきた生徒三人に叫ぶ。
「待て!!今すぐ引き返――「残念だが、時すでに時間切れ」
ブロントさんの召喚獣が、後衛部隊に攻撃しようとしていた召喚獣に肉薄した。
もともと召喚獣が持っていた黒い剣を腰の鞘に戻し、突進したエネルギーをそのまま右の拳に載せるように、大きく振りかぶって殴りつける。
「――メガトンパンチ!!」
「なんだとっ!?」
相手の召喚獣はそのまま慣性の法則に則って、かなりの距離を吹っ飛ばされた。
すかさずブロントさんの召喚獣は、殴り抜いたその勢いを殺さずに、右足を軸にして半回転して素早く振り返ると、ブロントさんの目の前に立っていた召喚獣に左手のストレートを決めた。
「ギガトンパンチ!!」
「う、嘘だろっ!?」
殴り飛ばした召喚獣を見向きもせずに、ブロントさんの召喚獣は腰に差してた黒い剣を持つと、その後ろにいた召喚獣に振り下ろす。
ブロントさんの剣は、普通の剣よりも長くなっているせいか、本来の剣の射程距離を超えて、召喚獣を捉えている。
今度の攻撃は、さっきとは違って外すこともなく、まっすぐ相手の脳天に突き刺さった。
「感覚が長いから遠くまで届く!!」
「うぼあーー!!」
『Fクラス ブロントさん VS Dクラス生徒×3
英語 429点 VS 0点 』
そんな攻撃をくらって、まともに点数が残っている訳もなく、先走った三人の生徒はあえなくブロントさんによって戦死者となってしまった。
「俺を抜こうとするひまがあるなら手を出すべきだったな。俺が後衛に攻撃をそらすと思う浅はかさは愚かしい。お前ら調子ぶっこきすぎた結果だよ?」
「ば、バカな……」
「あ、ありえん……」
「さっきまで、操作できてなかったのに……」
……いや本当になんでブロントさんこんなに強くなってるの!?
動きが完全に初心者だったじゃん!!
今の戦闘ってどう見ても手馴れた感じの操作だったけど!?
「俺はリアルではモンクタイプだが、そのモンクっぷりは現実世界だけでは収まらない。バーチャルの世界でもこの喧嘩テクでゲーセンの多くの廃人プレイヤーを殺してきた。不良界で伝説になるほどの格ゲースキルも持ち合わせている俺に隙はなかった」
「そんな格ゲーみたいなノリで操作方法を習得したっていうのか!?」
ばんなそかな……いや、そんなばかな。
操作するという点では、格ゲーも召喚獣も同じなのかもしれないけど、何かがおかしい。
なんでそんなのでマスターできるのか分からないのは僕が馬鹿だからってわけじゃないよね?ランサーも驚いてるし。
「でも、これは好機だ!美波、皆!僕たちも加勢に行くよ!」
僕たちが雄二に与えられた役割には、ブロントさん達が疲弊した時に前線を維持するというものの他に、もう一つある。
前線部隊が一気に優勢になった時にダメ押しで追撃をするという、役割だ。
前者の場合、こっちの攻撃が後衛の援護射撃がダメージソースになるから、なんとしても相手の攻撃を食い止めなくてはならない。
その時に交代で盾をして、なるべく攻撃を持続するわけだ。
後者は、前線だけで相手をつぶせる状況ということ。
その状況になるということは、ブロントさんが主力になっていることにほかならない。
ブロントさんのサポートを全力でして、早期決着で第一戦に勝利する。こっちのほうが最初に言った作戦よりも被害が圧倒的に少ない。
そして今は、ブロントさんの召喚獣が、本人の言ったように縦横無尽の活躍をしている。
ランサーははっきり言って強敵だし、倒せるうちに倒しておきたい。
だからこそのこのチャンス、逃すわけには行かない!
「全員、突撃しろぉーーーっ!!」
「「「「「うおおおおぉぉぉーーー!!!!」」」」」
気がついたら戦場に向かって全力ダッシュをしていた。
それもこれも、Fクラスの勝利を思ってのこと。
Fクラスの皆も、僕の命令に背くことなく、すぐ後ろに付いて来てくれてる。
心を一つにした僕たちに敵う相手なんていないはずだ。