バカとナイトと有頂天 作:俊海
後編は、三日以内には書き上がると思うのでもうしばらくお待ちください。
「さて、それでは自己紹介の続きをお願いします」
壊れた教卓を取り替えた先生と、喉の痛みが収まったらしい姫路さんが戻ってきて、HRが再開された。
……雄二は戦争の件は了承してくれたみたいだけど、一体どうやって戦うつもりなんだろう。
あくまで僕たちは学年成績最下位のFクラスだ。
テストの点数がそのまま戦力に変換される『試召戦争』では、圧倒的に不利になるんだよね。
本当に勝てるのかな……
「明久、さっききょうきょ雄二と廊下にカカッっと飛び出したが何だったのか【教えてください】。俺を仲間はずれにするのはズルイ」
「そのうち分かるよ。多分雄二が自己紹介の時に発表するだろうし」
「hai!無駄に詮索すると天狗ポリスに捕まるからな、ここで一歩引くのが大人の醍醐味。いままでも俺にとっては神の贈物だと思ってしまうほど予想外なことがヒュンヒュンいって心が豊かになった俺だったがこれから雄二の発言力によってどこまで面白くなるのか楽しみで仕方が無い(極楽)」
あれ?案外あっさり引いてくれた。
もっと詳しく聞こうとするもんじゃないのかな?
それどころか、なんにも言ってないのに雄二からの言葉が自分にとって面白いものだと確信しているかのような口ぶりだ。
なんで根拠もなしにそうやって信じられるんだろう。
「ブロントさん、どうして面白いことだって思うの?」
「相談してたことが俺にとって面白くないという証拠を出せといわれても出せるわけがないと言う理屈で最初から俺の予想の的中率は100%だった。もうここまででも十分に証拠十分だと決まったのだがさらに証拠は続く。逆にこれまででも明久達が頭からすでに二歩も三歩も出てるほどの勝気なオーラが見えそうになっているから何か面白そうなことを企んでいるのは確定的に明らかに俺の推理が正しいことが証明されている。もっというと追撃の現場証拠に注目するのだが明久はこれからのことに覚悟を決めていることがバレてる証拠に緊張感が表情に出てしまう」
「あ、あれ?顔に出てた?」
「さすがナイトの人間観察能力はA+といったところかな。貧弱一般人には普通ではまだ気づかない段階で気づいてしまう」
「でも、僕が緊張するようなことが、ブロントさんにとって面白いことになるとは限らないよ?」
むしろ逆の発想をするだろう。
緊張した顔をしているということは、何か悪いことも起こる可能性があるという証拠だ。
だというのに、確信を持って面白そうなことを企んでいると判断したのはなんでかな?
「普通ならここで明久が緊張しているのが個人的なものに関係するものだと考えてしまう。まあ一般論でね?だが明久は瑞希を何をかなぐり捨てても助けるという生半可な覚悟じゃできにい盾っぷりを見せつけている実績があるのだよ。そんな奴が今更自分がどうこう言うとは思えない思いにくい!なら逆説的真理でやはり個人ではなくやはり集団系の仕事が待っていると判断するのは俺ほどのINTをもってすればヨミヨミですよ?」
「……それって、自分も厄介ごとに巻き込まれるって気づいてるってこと?」
だいたい、集団行動することが面白いことになるとは限らないんじゃないかな?
ただただ面倒なことになるかもしれないって確率もあるのに。
「そんなことはどうでもいい。重要じゃない。俺はソロで狩るよりも仲間がいることで本気を出せるメイン盾を自負してる思考のナイト。むしろ面倒なことをしてこそ集団プレイの醍醐味。このFクラスのメンバーで何かやることに意味があるんだが?そんな効率中心の生活とかいいですストレス溜まるんで(苦笑)」
「でも、ブロントさんにも迷惑が……」
「お前が何をしようとしてるのか今の俺にはシャッタアウトされているが、おもえが覚悟を決めるというのはこのクラスのためにやってることぐらい分かってる(予知夢)それでももし他のパーティメンバーがズタズタに引き裂かれそうになるなら俺が全部守ってやれば一方向からしか攻撃が来てないので簡単に叩き落として防衛可能。お前はナイトの防御力の高さをあまり舐めないほうがいい」
「……そっか、ありがとねブロントさん」
「これくらいナイトなら――――――いや、友達ならちょろいこと」
……本当にブロントさんはすごいな。
何かを『守る』ことに関しては本当に得意なんだな。
それにブロントさんと友達って……うん、全然悪くない。
むしろ嬉しいな。
「私はああ明久もナイト派閥に飲みこまれたかとこのLSの今後に大きく希望を持ったぜ。ブロントさんの友達なら私の友達も同然だ。お前のものは俺のものという名セリフを知らないのかよ?」
「あ、うん、よろしくね霧雨さん」
「魔理沙でいいぜ。周らのみんなも魔理沙って呼んでるしな」
快活な笑顔を浮かべながら、ブロントさんの後ろから霧雨さん――魔理沙が出てきた。
男っぽい喋り方をしているせいか、それとも元々の性格なんだろうか、非常に人懐っこいというか、とてもフレンドリーな印象を受ける。
魔理沙が来たってことは、博麗さんも来るんだろうな。
一体、実家が神社ってどんな感じなんだろう。
「……あれ?博麗さんは?」
そう思っていたら、いつまでたってもこっちに来ない。
それどころか、なんだか上の空になってこっちに興味を持っていないような感じが。
てっきり魔理沙と一緒に来てくれると思ってたんだけど……
「あー……あいつは元々あんまり自分からどうこうってやつじゃないんだ。あんまり気を悪くしないでくれよ?」
「そうだったんだ。ブロントさんも、魔理沙もコミュ力高いからてっきり博麗さんもかと思ったよ」
「うむ、霊夢はなんにも興味をもてにいフワフワしてる博麗神社のメイン巫女なんだが、一度神秘のベールに隠されてきた性根の良さのカーテンが開かれたら『お前そんな性格だったのか』と驚きが鬼なる。俺も最初は3回連続で見つめても『そこにいたのに居なかった』と考えているのがヨミヨミの表情でカウンターを決められて深い悲しみに包まれた経験が9回もある。あんまり霊夢を悪く思わないでくだふぁい(しきたり)」
まあそういう人もいるかな、というよりむしろ、ブロントさんや魔理沙の押しの強さで心を開かせたって感じなんだろうか。
気難しい性格なんだろうか……んなわけないか、魔理沙と一緒に『さんをつけろよデコ助野郎』って叫んでたくらいなんだし。
それでも、ブロントさんたちと友達なんだし、悪い子ではないはずだよね。
「ふーん。そういうことなんだ。じゃアキ、ちょっと行ってくる」
「え?美波?」
話聞いてたんだ。
なにか納得したような表情を浮かべると、僕の疑問にも答えずにさっさと去っていってしまった。
一体何がしたかったんだろう。
……って、あれ?博麗さんの席に向かってる?
「はろはろー霊夢でいいかしら?」
「ん?……あんた何?」
「ウチは島田美波よ。呼ぶときは島田でも美波でもどっちでもいいわ」
「それで?私に何か用かしら?」
「まあせっかく数少ないFクラスの女の子なんだし仲良くしましょうよ。ウチも女友達が少なくてさみしいの。あとで瑞希や魔理沙も混ぜておしゃべりでもしない?」
「別にいいけど……」
「それなら――――」
お、美波が博麗さんに切り込んでいった!
なんか博麗さんが本当に興味なさげに美波を見てる……ここまでとは思わなかった。
それでも博麗さんの気のない返事に屈することなく美波は距離を縮めようとしてる。
さっきから博麗さんの表情があんまり変わってないんだけど……あれで大丈夫なんだろうか。
「お、霊夢のやつだいぶ打ち解けてきたな」
「見事な仕事だと感心はするがどこもおかしくはないな。霊夢が最初から5W1Hで返事を返すとは美波のトーク力は圧倒的にさすがって感じ」
「あれで打ち解けてるの!?表情固定だよ!?言ってる内容も内容だし!?」
僕の目からしたら、事務的な応対をしているようにしか見えないんだけど。
博麗さんが美波達と会話する約束をしたのも、僕にはなんだか渋々了承した感じに思えたのは気のせいだろうか?
一緒にいる時間が長い二人にはわかるんだろうけど、僕にはさっぱりわからない。
それはつまり、僕と同じくらい博麗さんと会話をしたことがない美波も同じように思っているということだ。
どうして美波はそこまで博麗さんと会話を続けようって気になるんだろう。
僕たちだったら、女の子と会話できるチャンスだとか、バカだから冷たい対応にも慣れているからってことで説明できるんだけど、美波は普通の女の子なわけだ。
せいぜい、他の人と違うのは、帰国子女ってだけで…………あ。
「そるにしても、どうして美波は話を続けられるんですかねえ?明久【はい、教えてください】」
「……美波、最初は友達がいなかったんだよ。それを自分に重ねているのかもしれない」
美波も、最初は日本語もロクに喋れなかったし、態度が態度だったから周りの人も敬遠していた。
そこを僕がなんとか友達になろうと何回もアプローチを試みたんだけど、友達になれるまでキッツイ返し方されてたし……
今でこそ美波と僕は仲がいいと思うけど、それまでは美波は寂しい思いをしていたのかもね。
そうやって、自分と同じような境遇とまではいかないけど、せっかく新しい仲間に会えたんだから仲良くなりたいと思うのも普通の心境なんだろう。
……うまくいくといいな。
「――それじゃあ昼休みにお昼ご飯食べましょ?アキたちも一緒になるかもだけど」
「構わないわ。こっちもブロントさんと魔理沙も一緒になるけどいいわよね?」
「もちろん。ブロントさんも魔理沙もアキの友達だし、どうせならウチも三人一緒に友達になれたら嬉しいから、こっちからお願いしたいくらいよ」
おお!どこからどう繋げたのかよくわからないけど、いつの間にか僕たちと一緒に昼ごはんを食べることになってる!
これなら美波だけじゃなくて、姫路さんや雄二達も三人との親交を深められる。
美波、気遣いスキルが高すぎる。
あ、そうだ。士郎もどうせだから誘ってみようかな?
士郎って成績が良かったから、Fクラスの知り合いなんてそんなにいないだろうし。
でも士郎が周りの手伝いをしてる時に知り合ったって可能性も……
ま、いいか、細かいこと考えてないで、士郎と仲良くなりたいから一緒に食べるってだけでいいじゃないか。
どうせ僕はバカなんだし、思いたったら即行動って感じが僕らしいし。
「こいつは渡りに船ってやつだな。私も明久の友達とやらと話してみたかったんだ。類は友をよぶって言うし、どれだけ常識はずれな奴らなのか楽しみだぜ」
「それって僕も常識がぶっ飛んでるやつっていうことなの!?」
「ああ!ブロントさんからも話には聞いてたし、私の知り合いの情報屋からのリークもあったからな」
「失敬な!僕はなんの変哲もない普通の少年だよ!!」
心外な。僕はどこにだっている普通のお茶目な男子学生だというのに。
僕は僕の周りの色々な意味で目立ってしまう人間と比べると清廉潔白な男の子だよ。
全く失礼しちゃうな魔理沙は。
「坂本君、キミが自己紹介最後の一人ですよ」
「了解」
そしてとうとう呼ばれた、このクラスの代表の雄二。
教壇に歩み寄る姿には、いつものふざけた感じは全くなく、代表にふさわしい堂々とした雰囲気が漂っていた。
――それは多分、これから話す内容にも関係があるのかもしれない。
「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺のことは代表でも坂本でも、好きなように呼べ」
そのただならぬ雄二の迫力――といっていいのだろうか、その類のものを受けてクラス中の生徒の視線が雄二に集中する。
みんなの注目が自分に向かっていることを確認したあと、雄二は口を開いた。
「さて、皆に一つ聞きたい。Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいが――
――不満はないか?」
「「「「「「「大ありじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」」」」」」
今、クラスのみんなの心がひとつになった。
そう思えるほどの魂の叫びが響いた。
僕だってそうだ。こんな教室と思えない廃屋にぶち込まれたら誰だってこの環境に文句を言うに決まってる。
「だろう?俺だってこの現状には大いに不満だ。人間的な生活を送るのにも問題意識を持ってるほどにはな」
「そうだそうだ!!」
「いくら学費が安いからと言ったって、この設備はあんまりだ!!改善を要求する!!」
「そりゃあテストの時に成績が悪かった俺たちに責任がないわけじゃないさ!!だけどAクラスとの差があまりにも大きすぎる!!」
これまで、この教室に対して文句を言っていなかった――思っていたにしても、口には出さなかったFクラスのみんなの不平不満の声があがって行く。
その溜まりに溜まった不満が、雄二の言葉で爆発してしまった。
それに比例して、教室中のボルテージが上がる。
最高潮にそれが達した時、戦友になる仲間たちに不敵な笑みを浮かべながら、
「そこで代表として提案だが――――
――――FクラスはAクラスに対して『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う!」
雄二は、戦争の引き金を引いた。