バカとナイトと有頂天 作:俊海
今回の話は、試召戦争が終わったあとの日常の一部を書いたものです。
今月中には、試召戦争の続きが上げられるように頑張ります。
ちなみに、アーチャーの名前は、流石に日本人っぽくないので、勝手に誠志朗と名前を付けました。
そこのところご容赦ください。
それではどうぞ
【負けられない戦いがそこにある】
「…………」
「…………」
『……………………』
静まり返る、教室。
一瞬たりとも気を抜くことができないほど、緊張しきった空気。
その二人はにらみ合い、どちらが先に動き出すのか様子を見ているようだ。
僕達はただ、どれを見守ることしかできないでいる。
「兄貴、おまえ、後悔しているのか?」
「無論だ。俺はこんな人間になぞ、なるべきではなかった」
その二人とは、我らがFクラスの有名人、衛宮士郎と、文月学園の誇る何でも屋こと衛宮誠志朗先生だ。
誠志朗先生は、苗字から分かるように士郎の兄弟でもある。
顔の作りはまるっきり同じだけれど、髪と肌の色は全く異なるこの二人。
士郎が赤銅色の髪で日本人らしい肌色であれば、誠志朗先生は擦り切れたような白髪と、摩耗した金属の如き浅黒い肌。
そんな二人が、こんなところで戦うなんて……。
「……でも、俺は後悔なんてしないぞ、どんな事になったって後悔だけは絶対にしない。だから……絶対にお前の事も認めない。お前が俺の理想だって言うんなら、そんな間違った理想は、俺自身の手でたたき出す!」
「そうか――」
誠志朗先生が、手に持っている刃物をゆらりと動かすと、それに呼応するように士郎も握り締めた刃を構え直す。
「――――ついて来れるか」
「ついて来れるか、じゃねえ……てめえの方こそ、ついて来やがれ――!」
言い放つと、二人はそれぞれの得物を振りかざす――
【10分後】
「できた!カツオのたたきと松茸ご飯だ!」
「こちらもできたぞ。鯖の味噌煮とちらし寿司だ」
そこには、出来立てホヤホヤの美味しそうなご飯の姿が!
「……いや、何してんの二人とも」
「「料理勝負に決まってるだろう?」」
家庭科の調理実習が始まるやいなや、いきなり火花を散らしたかと思ったら、とんでもなく洗練された動きで料理を作り上げる士郎と誠志朗先生。
……二人は兄弟のはずなのに、何を対抗意識を持っているんだろう。
「そもそも、今日の献立はカレーなんだけど……」
「それならこっちの鍋に作ってあるぞ」
「ほう……勝負に気を取られず、そちらもおろそかになっていないとは、少しは成長したものだと褒めてやればいいのかね?」
「うるせぇ!兄貴にいちいち褒められなくったってこれくらいできるさ!」
「ふっ、それでも私からすればお前はまだまだ子供だ。せいぜい足掻け、そうすれば届くかもしれんぞ」
「……カレーに加えて、他の二品もとなると、10分で作れるものじゃないと思うのは僕だけかな?」
一品でも当然無理だ。
ちらし寿司とかカツオのたたきとか、地味に手間がかかるやつ作ってるし。
「明久、あんまりあの二人のことを気にするとハゲるぞ。あの二人は生半可な料理人には真似できないとてとての料理スキルを持ってるから異常な超状現状を起こす確率は最初から100%だった。士郎と誠志朗先生のスキルはA+といったところかな」
「ブロントさん、野菜の切り方はこれでいいんでしょうか?」
「ほう、経験が生きたな。野菜がうまく切れてるのは確定的に明らか。俺はこのまま鍋に投下してもいいんだが?」
ブロントさんが何かを諦めたようなセリフをつぶやき、僕を元のグループのところへと連れ戻した。
……それにしても、姫路さん、ちゃんと野菜が切れるようになったんだね。
何か変なオーラも特に出てないし。
「待ってくださいブロントさん。煮る前に具材はちゃんと炒めないといけませんよ。そのまま煮ちゃうと野菜の水分がカレーに出て、しゃばしゃばになります」
「それに煮るにしても、煮えづらい人参から順番に入れないと食感がバラバラになるぜ。地下で育つ根菜類は、沸騰してから入れると芯が残って表面が崩れやすくなるしな」
「そ、そうだったんですか……ちゃんと覚えておかないと」
「その意見にはどちかというと大賛成。圧倒的な料理能力を保持する霊夢と魔理沙の組み合わせは他の者をを魅了するほど、何度も教えられ調理の重要さを世に広めることでリアル世界よりも充実した食生活が認可される」
魔理沙って料理得意だったんだ。
言動からして、そういうのとは無縁な人間と思ってた。
『料理?そんなことより遊びだぜ!』っていう魔理沙の姿がすぐに想像できてしまうからだけど。
「二人とも、姫路さんは余計なことしてないよね?」
「大丈夫よ。今日は化学室に行こうとさえしなかったもの」
「何をどうしたら料理に薬品が必要だって勘違いするんだ?塩酸だの硫酸だの、金属を溶かすものを料理に入れるなっての」
魔理沙のツッコミは最もである。
でも、少し前まで平然とそれをやっていた姫路さんに戦慄する。
……一時、煮物に王水を入れようとしたこともあったっけ。
「おい明久、遊んでないでお前も手伝え。俺達はあそこの超人たちと違って、普通ぐらいの料理技能しか持ってないんだから」
「あ、うん、そうだね雄二。……少し前までは、僕も料理には自信があったんだけどな」
「……一定の集団には、人間卒業試験を受けることができる人間がいるってこった」
その後、作り終えたカレーは、料理上手なメンツがいたこともあってか、他の班よりは上等な味がした。
……でも、こんな一般よりも少しだけ美味しいレベルなんて、本物の天才の前には塵に同じだということも実感させられたのであった。
「シロウ、おかわりいただけるだろうか?もう一度ご飯いただこう」
「何いきなり飯食ってるわけ?姉ちゃんは別のクラスだからここにいると先生とか呼ばれて一巻の終わり」
「美味しいご飯あるところに私ありです!」
……アルトリアさん、もう少し自重しようか。
【お前らそれでいいのか?】
「ぬわっ!?」
「何だあのすばしっこいの!?」
「ドリブルしてるのに、動きが機敏すぎるぞ!?」
バスケの試合――しかも練習とかではなくて、大会の本番の試合。
その試合に参加している三人の応援のために、僕たちは観客席にいる。
……今、間違いなく学生レベルの試合を見ているはずなのに。
「ざまぁwwwww」
「な、なんで取れないんだよ!?つーか速すぎんぞ!!」
「おいおい、俺は汚い忍者だぜ?そんじょそこらのやつらに捕まってたまるかっての!」
「こうなったら……おいお前ら!ルートをふさげ!あいつを好きに移動させるな!」
今ボールを持っているのは忍者だ。
陸上部顔負けの素早さでもって、相手を翻弄しつつ、隙を見つけては一気に駆け上がる。
でも、今は相手に完全にマークをつけられて動きを制限されている。
「こりゃあ突破できねえな……少し下がるか」
「バックコートに戻ったらダメだぞ?」
「んなことは分かってるよ。……っとここでいいか」
進行先を塞がれた忍者は、センターラインぎりぎりまで下がってしまった。
あんなに下がって大丈夫かな?反撃されたら一気に持ってかれちゃうんじゃ。
「ほーらよっと」
『…………えっ?』
投げた。
忍者、投げた。
パスとかじゃなくて。
ほぼ真上に投げてしまった。
何やってんの忍者!?そんなことしてなんになるの!?
やけくそになるにしてももう少しやり方はあったでしょ!?
「oiお前ら何ボーッとしてるわけ?早く守備に戻るべきそうすべき」
「うはwwwwwおkwwwww忍者ナイスwwwwwそれやってたら戻んの楽すぎwwwww修正されないでwwwww」
「別にお前らのためにやったんじゃねえよ。確実だからやっただけだ」
……何を言ってるんだろう、あの三人は。
ボールがまだ落ちてきてないのに、ブロントさんも内藤君も、忍者がボールを投げてからすぐにバックコートに戻っていった。
やってることの全てが理解できない――
ポスッ
『…………えっ?』
え、入った?
忍者の投げたボールが、ゴールに入ってる!?
もしかして、さっきのってシュートだったの!?
「はっ、俺のシュートエリアはそんなに手前じゃねーんだよ。残念だったな」
「あんな距離から入れるのはずるい。俺は中立の立場で見てきたけどやはり忍者は汚い事が判明した」
「忍者投げるのウマーwwwww相手チーム涙目wwwww」
「汚いは褒め言葉だ。こんなもん入れたら勝ちなんだろうが。投げて入れただけじゃねえか」
無理です。
普通の人はあんな距離から入れられない。
「ナイスよ忍者!そのまま一気にケリをつけてあげなさい!」
「きゃー!忍者さんかっこいいです!明日の新聞の一面は決まりですね!」
一緒に応援席にいた水橋さんと射命丸さんが歓声を上げる。
軽く相手チームが忍者に殺意の篭った視線を向けるけど、当の本人はどこ吹く風だ。
「こうなったら速攻だ!全員あいつにはボールを渡すな!」
『おうっ!』
相手の攻撃に移って、みんなが忍者を避けるように動き始める。
まあいくら速いと言っても、パスを回されたら追いつけないしいい作戦だと思う。
……センターにいるのがブロントさんじゃなかったら。
「ふん、下段ガードを固めた俺に隙はなかった。その程度のフェイントで俺を抜けると思う浅はかさは愚かしい」
「うわぁっ!?」
2mを軽く超えるブロントさんの身長に、それに比例して長い手足。
こんなものが揃っていたら、一歩踏み出すだけでディフェンスできてしまう。
少なくとも、3Pラインより内側では、すぐにボールを取ってしまえる。
「上手いですブロントさん!そのままカウンターですよ!」
「さすがブロントさんは格が違ったぜ!」
「ブロントさん、油断しないでよ!」
「いっけー!そのまま相手をバラバラに引き裂いてやりなさい!」
さっきよりも声援の数の多いブロントさんを、周りの観客席の人たちが睨みつける。
しかしブロントさんはそんなことを気にしているほど暇じゃない。
……わかるけどね、恨めしいのも。
霊夢、魔理沙、アリス、天子の四人は全員が美少女なんだし。
「もうここまででも十分に俺達の勝ちは圧勝に決まったのだがさらに攻撃は続く。俺がここから味方にパスすることによってダメージは更に加速する」
「!笠松にパスが行くぞ!全員止めろ!」
徹底的に忍者をマークする相手チーム。
ブロントさんが防御して、忍者が攻撃する。
だからこそ、忍者を抑えればなんとかなる、と思っているんだろう。
「……お前らバスケもよくわからない馬鹿ですか?どうやって俺が忍者にパスするって証拠だよ?」
『……はっ?』
「内藤!全力を出しても良いぞ!」
「うはwwwwwwwwwwおkwwwwwwwwwww」
皆の予想を裏切って、ボールが渡されたのは内藤君だった。
さっきから笑ってばっかりで何もしていない内藤君に、ブロントさんがパスをしたのが想定外だったらしく、一瞬相手は呆気にとられた。
「最速最強のパワースラッシュTP10000000%wwwwwwwwww輝けwwwwwwww俺様の両手剣wwwwwwww」
「両手剣なんて持ってないじゃねえか!」
「って、なんか強!?コイツのパワー洒落になんねえ!?」
内藤君が一直線に相手のゴールへとドリブルし始める。
忍者に張り付いていた相手の選手も、慌てて内藤君に向かうけど、そんな妨害をものともせずに、半ば強引に突破していく。
でも、ルールは理解しているのか、チャージングにはならない程度でやっているあたり思考は冴えているらしい。
「そいじゃwwwww決めさせてもらうぜwwwwwグランドwwwwwストラーイクwwwww」
「だ、ダンクだと!?」
ゴールまで到達した内藤君は、とんでもない跳躍でもってボールをゴールに直接叩き込む。
……地味に内藤君って、ブロントさんの突進を軽々受け止められるくらい、筋力あるもんなぁ。
「うはwwwww俺様カッコよすぎーwwwww俺に惚れるとwwwww火傷するぜいwwwww」
「うっぜえ!味方だけどマジでうっぜえ!」
「あれも内藤の個性、英語で言うとアイデンティティだから多少は目を瞑るが、さすがにこるは鬱陶しいという意見」
「オウフwwwww味方が味方じゃなかったwwwwwヒドスwwwww」
かっこいいはずなのに、内藤君が自分から評価を下げていってる。
……とことん残念だなぁ。
「えーっと、『ないすだんく』です!内藤さん!」
「おっwwwww妖夢たんwwwwwテンキューwwwwwお礼にwwwww俺様とデートする権利をやろうwwwww」
「ちょ、調子に乗らないでください!」
「振られたwwwwwでもwwwww俺様めげないwwwwwだってwwwww男の子だもんwwwww」
さっきの二人と比べると、声援の数は少ないけれど、それでも女の子に応援してもらっているせいで、『どうしてあんな奴が』という視線で内藤君を見つめる審判の姿が。
……内藤君は、魂魄さんに目がいってて全然気づいてないけど。
――――…………
「完 全 勝 利。その後ボコボコにして圧勝してやった。変な空間になったので俺はミステリーを残す為勝ちのコールがされたと同時に家に帰ったが多分バスケ界で伝説になってる。最高の破壊力と最強の防御力を持っている俺には相手の持っているシュートすら効きにくい。やはりナイトがいないとダメかー」
「あー?なに言ってんだこのアホは。俺のロングシュートとスティールで勝てたんだろうがよ。テメーらすっトロイから一気に攻撃できたのは俺のおかげだっつーの」
「ちょwwwww俺様大活躍したのwwwww忘れちゃったの?wwwwwダンクこそwwwwwバスケの華でしょwwwww目立ってないお前らはwwwwwただの雑魚ですしwwwwwおすしwwwww」
その後、このゲームは、まさかの129vs23で、100点ゲームという結果に終わってしまった。
……ちなみに、ブロントさん達は、正規の部員じゃないんだよね。
それどころか――
「しかしこう誘いがあっては一人の時間も作れない(リアル話)俺達は今日でどれだけタコが引っ張られてるのか理解不能状態」
「確か、昨日は野球部で一昨日はサッカー部、その前にバレーボールもやって……」
「テニスにwwwwwアメフトwwwwwついでにハンドボールやってたwwwwwうはwwwww過労死まっしぐらwwwww」
連日で部活の助っ人に出てるんだよね。
しかも全部ほとんど圧勝で。
……どうして疲れないんだろう。
「……なんで三人とも部活に入らないの?それだけの実力があればトッププレイヤーになれるでしょ?」
「俺はバイト系の仕事があるから時すでに時間切れ」
「めんどくせえ。そのほかに色々やることあるしな」
「入ってもwwwwwすぐ追い出されるwwwww真面目にやってないようにwwwww見えるからwwwww」
君たち、それでいいの?
【個性豊かすぎる教師たち】
『日本史』
「ほーう?宿題が終わっていないと?お前らはそう言いたいんだな?」
「いや……マジでスンマセン……」
只今上白沢先生の宿題提出の時間だ。
その中で、今日宿題をやってこれなかった生徒達が先生の前に立たされている。
というか、9割のクラスメイトが立っている。
集団の先頭に立っている須川君に向かって、上白沢先生は口を開く。
「どうしてそうも忘れてしまうかな?」
「いや流石にあの量を一週間では無理ですって。平安時代の政治の動きを日付ごとに纏めてこいとかただのイジメレベルですって。そんな宿題受験の何の役に立つんですか」
「口答えをするな!ただ調べて書いてくるだけじゃないか!何もその政治の動きで役人たちはどういう目的でそれを行ったのか、その結果どういうふうに終わったかまでを書けなんて言ってないんだぞ!」
「それを平然と行える人間なんて少なくとも学生レベルにはいません。つーかそんな宿題を俺たちにやらせるつもりだったんすか先生。そんなの夏休みの宿題で出されても誰もできませんから。いくらなんでもムリ難題すぎます。ひのきのぼうと50G渡されて追い出された勇者でもここまでの無力感には襲われないと思うレベルっす」
「何を言うか!他の生徒はちゃんとやってきてるじゃないか!それこそがお前らは手を抜いてきた何よりの証拠だ!」
「先生、できてるの明久や姫路、衛宮に坂本と博麗だけっす。それ以外全滅っす。なんですかこの惨状。先生なに俺らに対してザラキを放ってるんですか。そんなにザラキを詠唱したいならFC時代のクリフトにでもなってください。出来てる人間の方が少数派であって、出来てない方が普通です。あんなFクラスにあるまじき戦闘力をたたき出す人間と同格に扱わないでください。いうなればスライムとオルゴデミーラを比べるくらい歴然の差があるんです」
ちなみに、僕が出来てるのは、美鈴さんとの稽古のあとに、咲夜さんに手伝ってもらったからだ。
……本当に何でも出来るね、咲夜さん。
雄二に関しては、さすがは元神童といったところだろうか。
「さぁ!お前ら覚悟はいいな!?お前らにこれから全力で頭突きをする!教育的指導だ!」
「なんだこの人話が通じねえ!すみませんから僕達と会話のレベルを落としてください!外国の人と会話してもここまで意思疎通できないってことはねえよ!誰だこの教師を雇ったやつは!」
本気で、上白沢先生は僕達に教える気があるんだろうか。
いっそ教師じゃなくて学者になった方が――
「魔理沙、忘れ物だよ。全く、こんな年になっても僕の世話が必要だなんて、少しは落ち着きを持ったらどうだい?」
「あっ、香霖!」
「な、り、霖之助!?」
教室に入ってきたのは霖之助さんだった。
その姿を見たとき、魔理沙は嬉しそうな顔をして、上白沢先生は気まずそうな顔になった。
「おや、今は慧音の授業中だったのか、これは失礼した。で、今はどんなことをしているんだい?」
「え、えーっとだな……」
「なあ聞いてくれ香霖!慧音がひどいんだぜ!」
「あ、待て!魔理沙!」
「ほう……ちょっと詳しく聞かせてもらおうか?」
「あ……はい……」
魔理沙の訴えを聞いた霖之助さんは、メガネをクイッとさせると先生の方を睨みつけた。
……なんていうか、霖之助さんは温厚な性格のはずなのに、すごく怖い。
威圧された先生は、そのまま正座してしまう。
そして、魔理沙から先生の宿題について聞かされて――
「慧音、君は昔から何かに集中しだすと周りが見えなくなる性格なのは知っている。さらに言うなら、君の学習能力も、それこそ他の追随を許さない領域に達していることも僕はよく知っている。確かにその能力は何かを学び、考察し、結論を出すのには最も適した才能と言っても過言ではない。ただ、その神に授かったとも言える知能指数だの記憶力だのが他の一般の人間に備わっていると考えてしまうことが君の悪い癖だってことを僕は今までに何回も口を酸っぱくして説明したはずだし否定させる気もない。それだというのに、君は一体何でこうも生徒に対して無理難題ということすらおこがましい宿題をさせているんだい?ああ確かに受験に関係ないことを学ばせるのも非常に大切なのは僕もよくわかる。分かるからこそどうしてこんな勉強が嫌いになるような宿題の出し方をしたのかということが僕が聞きたいことなんだ。こんなことでは、受験勉強以外にも大切な勉強があることを理解する前に、子供たちが勉強自体に嫌悪感を抱くことを考えなかったのかい?君は多少自分のことを過小評価するきらいがある。いや、その自己評価の低さは多少なんて言葉で片付けていいものじゃないな。一体君はいつになったら自分は平凡な人間とは違うということを自覚するのか、というか早く自覚してくれないと教師としてというよりも人間としてどうにかなってしまうことを早々に理解したまえ。そんな『他人だって自分の出来ることぐらいできる』なんて烏滸がましい考えをするようでは対人関係すらうまくいかないぞ。いや、よしんば今うまくいっていたとしても、いつかその関係に亀裂が走ることは間違いないだろう。かの有名な武将の織田信長も、今でこそ彼のやったことは合理的であり、まさに未来からタイムスリップしたかのように行動していると評価できるが、当時の信長の評判を知らない君でもないだろ?うつけだの第六天魔王だのと言われ、蔑まれ恐れられてたじゃないか。今でこそ、宗教の力が弱まっているから、寺を放火したりとするのも戦争の上では仕方ないと考えることもできるが、あの時代では寺を燃やすなんて人間としてありえないと考えられてたことも知っているはずだ。そういう歴史を知っているのに、どうして君はそういうところから学んでいかないんだい?そもそも君は――――」
「はい……はい……すみません……」
くどくどと、霖之助さんに叱られ涙目になっている上白沢先生がそこにいた。
まさか、先生を叱れる人間が霖之助さんとは思わなかった。
……でも、この説教を聞いている限り、上白沢先生の無駄に長い蘊蓄は、霖之助さんが影響しているんじゃないだろうか。
『体育』
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「うっせーんだよ不破!」
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!!!今は授業中だあああああああ!!!!!先生をつけんかあああああああ!!!!!」
「声がでかすぎるわ!もう少し静かにしろ!」
「…………んっ」
今日はBクラスとの合同授業だ。
……不破先生、今日も騒がしいな。
筋骨隆々で、声がでかいなんて、まさに体育教師っぽいけど、いかんせんデカすぎる。
忍者は、昔からの付き合いだからある程度ざっくばらんに話しかけられるけど、耐性がない僕らには、あの大音響の中先生に進言はできない。
「それではああああああ!まずは準備運動からだあああああああああ!」
「畜生すぐに元の音量に戻っちまう!」
「腕を広げて回転しろおおおおおおおおお!!己の限界を超えるのだあああああああああ!!」
えっ、何あの人間タケコプターみたいな動き。
なんか速すぎて、残像が残ってるんだけど。
「……おい明久」
「何?ブロントさん」
「……俺の目が悪いなら俺の目は必要ないから後ろから破壊しなくてはならないがそれよりもちょと僅かに気になることがある」
「へ?」
そして、ゆっくりとブロントさんが不破先生の足元に指を向けてつぶやく。
「……あれ、浮いてないか?」
「えっ」
よーく観察してみよう。
全力全開で回転している不破先生の足元、よく見ると、足が地面に接してない。
「……物理法則なんかくそくらえと言わんばかりだね」
「文月学園は召喚獣だけじゃなくてリアル人間もオカルトじみているんだな、今回のでそれがよく分かったよ>>不破感謝」
「いやいや流石にあれと僕たちを一緒にしないでよ!?」
「そう思うんならそうなんだろうなお前の中的にね。貧弱一般人よりも常識はずれなのは確定的に明らか、忍者も同じように飛んでることが証拠ログ」
……見えない、何かあったの?僕のログには何もないな。
忍者も突っ込んでたのに、同じく飛べるようになってる光景なんて知らない。
「うおおおおおおおお!!!!漢プターああああああ!!!」
「はあああああああああああああああああ!!!!うおおおおおおおおおおおお!!!」
「忍者もうるせえんだよ!!いい加減にしろ!」
……ボクニハナニモキコエナイ。
【家族関係】
「そういえば、ブロントさんって他に兄弟はいないの?」
「いるぞ。金髪の弟がいる」
「その子は今どうしてるの?」
「今はイングランドで親父と一緒に暮らしているのではないか?親父はなんだかんだで世話を焼くのが好き系の話があるのだよ」
ブロントさんの性格もその辺から来たのかもしれないな。
「ちなみにどんな性格の弟?」
「知力に特化した力がオーラになって見えそうなくらい頭は良いぞ。あいつは同時に本を5冊読み進めるほどの超パワーを持ち手だからな。ちなみにこれは一歩間違えると処理能力の限界を破壊し頭がおかしくなって死ぬ裏技」
「そんなに本が好きなんだ」
「ああ、将来は図書館の司書になりたいとも言ってたな。普段は確かに心優しく言葉遣いもいい弟だが、自分のことになるとマジでかなぐり捨てるくらい自分のことを大事にしないから心配している(不安)」
うーん、ブロントさんの兄弟って、皆が皆違う性格をしている気がする。
中でも抜きん出てるのがブロントさんかもしれないのは心の奥底にしまっておこう。
ブロントさんは友達だし。
「弟の性格は、どちかというと天子の父親に似ているかもしれにいな。まあ昔から天子の父親は俺の親父の先輩だから交流はあったし」
「へえ、天子と知り合ったのもそのおかげ?」
「ほう経験が生きたな。大正解だ」
「あら、あんたたち何の話をしてるの?」
「ちょうどいいところに来たな>>天子。お前の父親の話をしているところだ」
噂をすれば影、僕達の会話に天子が入ってきた。
「天子って、兄弟いる?」
「ええ、いるわよ。……そりゃあもう、なんていうかすっごい馬鹿な兄がね」
「……馬鹿?」
「そうよ、すっごい馬鹿。昔は私達の親が忙しい時、ある人に保護者になってもらってたけど、その人の影響を一番受けてるやつよ」
なんとなく察したけど、その次に影響を受けてるのはブロントさんなんだろうな。
「山だの森だの行ってはウサギを捕まえて解体して食べたり、何週間も野宿したりと、なんていうか野生児みたいなことをしてたわ」
「なにその狼少年」
「あの人も『……育て方を偏らせすぎた』って嘆いてたほどにひどかったんだから」
現代において、野生に帰る人間がいるとは、僕の目をもってしても見抜けなんだ。
「ブロントさんはほどよく影響受けてたんだけど、あれは本当にすごかったわ。精神年齢も、多分私たちの中で一番低かっただろうし」
「……あれ?よく考えると、君たち幼馴染組の中で一番歳上なの天子のお兄さん?」
「そうよ!普段は同い年で遊んでたけど、ちょいちょい入ってくるから困ったものよ!」
なんだろう、その人の今をすごく知りたい僕と、全く知りたくない僕がいる。
「そんな奴なのに、どうして恋人がいるのかしら……」
「えっ!?いるの!?」
「……いや、正確には違うわね。当人は全然そんな意識ないだろうし」
そんな人についていけてるなんて、その人の恋人はどんな聖人なんだろう。
「とは言っても、相手の人もなかなかに個性的なのよね。まあ割れ鍋に綴じ蓋ってやつ?普段全然感情を出さないものだから周りから浮いてる感じの人だもの。その様子を見てた兄が凄い構ってるのが日常の光景よ」
「……君達の周りって常に波乱万丈だね」
「へえ明久はなかなか解っている様ね。他のやつらにも伝えてやるべきよ。ジュースを奢ってあげるわ」
「……いあ天子、多分高確率で明久は褒めてないという意見」
むしろ一回ブロントさん関係の人に会ってみたいな。
そのあと後悔するだろうけど。