バカとナイトと有頂天   作:俊海

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なんてこった……初日だけでほとんど埋まってしまった……
しかも個人的にはまだ終わっていないと思ってしまう終わり方。
……続きは気が乗れば書こうそうしよう。
それでは


番外編 バカとナイトと素敵な巫女 その1

「ほむ、ここが霖之助が言ってた博麗神社か。神聖さがオーラになって見えそうになってるな」

 

 

ある山中の森の中、一人の少年――ただ、少年という割にはその体格は立派で、見るからに頼もしそうな居丈高だけれど――が草を掻き分けながら、目の前に見えてきた古びた神社を見てそう漏らした。

しかしこの少年、なぜか神社へと向かう階段を使わずわざわざ道なき道を歩いてきている。

どうしてそんな面倒なことをしているのか。

 

 

「……そるにしても、どうして鳥居が反対側についてるんですかねえ?あっちがわには何もないというか鬼なる」

 

 

そう、階段がこの少年が住んでいる地域からは伸びていないからだ。

あるにはあるのだが、その階段の麓はただの森で、そこまでたどり着こうとするくらいなら、そこまで移動せずに直接神社まで登ったほうが早いという有様である。

 

 

「この神社を設計したの絶対忍者だろ……汚いなさすが忍者きたない。これで俺は忍者が嫌いになったな、あもりにも卑怯すぎるでしょう?」

 

 

やっとのことで敷居に足を踏み入れた少年は、服についた汚れを払いながらぶつぶつと文句を言う。

……その文句の内容は、日本語に近い意味不明な言語で構成されてはいるのが気にかかりはするけれど。

 

 

「この神社はもうだめかな参拝道が不在では持つわけもない。参拝客がいない神社に未来はにい」

 

 

少年は、あまりの不便さに神社のことを心配し始めていた。

だが、この時彼は、一年を通して三桁の人数が通ってくることがあったら異常事態であるレベルで誰も来ないことを知らなかったため、少し楽天的に見てはいたが。

 

 

「これで博麗神社には客がほとんどいないことが証明されたな証拠のログは確保したからな言い逃れはできない。今回のでそれが良くわかったよ>>霖之助感謝。……これで本当に誰もいなかったらこのままでは俺の寿命がストレスでマッハなんだが……」

 

 

霖之助という、少年が世話になっている青年にある事情で博麗神社に行くようにと言われたからわざわざ面倒な道を通ってきたというのに、神社に誰もいなかったら完全に骨折り損のくたびれもうけだ。

そこまで考えてテンションが下がってきた彼の耳元に、何かが擦れる音が届いた。

おそらくこれは、誰かが箒を掃いている音だろう。

 

 

「ほう、誰かがいてよかったな、誰かがいなかったらこの神社は倒壊してるぞ」

 

 

ようやく見つけた誰かの気配。

それを見逃す彼ではない。

すぐさま物音がする場所へと駆けていく。

 

 

「やはりいたか、俺の聴覚スキルはA+といったところかな」

 

 

向かった先には予想通り、境内を掃除している人影が見えた。

まだこちら側に気づいていないのか、黙々と箒を掃きつづけている。

とりあえずはなにか会話をしてみないことには何も始まらない、と考えた少年が声をかけようとした瞬間、たまたま向こうが彼の方へと視線を移す。

そして、存在を認識すると、一瞬驚いたような表情を浮かべ、すぐさま笑顔を向けた。

 

 

「あらいらっしゃい。わざわざこの博麗神社へようこそ。何か御用かしら?」

 

 

物腰柔らかに少年に挨拶をした人影は奇妙な格好をした少女であった。

この少女、美人というには愛らしく、可愛いというには大人びており、まさに少女から女性に変化していく狭間の美しさを持っていた。

身長は成長期の10代の少女にしては多少高めで、濡れ羽色の光った絹糸みたいに長く伸ばされた髪は、赤いリボンでまとめられている。

ただ、袖が無く、肩や腋の露出した赤い巫女服――だろう、多分。少なくとも少年はそれに近い何かじゃないかとは思った――を着ているそのさまは、初対面だと軽く面食らう。

この少年も例に漏れず、あの服の正体は一体何か判断するのに意識を持っていかれてしまった。

 

 

「…………?…………」

 

「……あの、なんですか?」

 

 

彼女が振り向き対面すると、少年は何か不思議そうな顔をして、そのまま考え込んでしまう。

それもそうだ、今彼の頭の中では『あれは……巫女服か?いやそれにしては赤色が妙に目立つし……そもそもなんであんなに肌の面積が広い服を着ているんだ!ここら辺での流行りか何かか?普段着にするには露出が多くて寒そうなのと無駄に厚着だから暑そうなのが合わさって頭がおかしくなって死にそうになるし……』なんていうことが堂々巡りしているのだから。

あまりに無反応だったため、少女は不審そうな目で彼を見つめる。

 

 

「……もしかして外国の方?だったら困ったわね、私英語とか苦手なのに……」

 

「…………」

 

「は、ハロー?フーアーユー?メイアイヘルプユー?」

 

「……!I'm sorry.I didn't notice you speaking to me,because I was doing some thinking.I am Buront.Nice to meet you.」

 

「え、えーと……ブロントさん?で合ってるのかしら……えっと……あー……ほ、ホワイディドユーカムゼアー?」

 

「……Pardon?」

 

「えっ!?発音間違えたかしら?あーもう!なんて言ったらいいのよ!!」

 

「…………」

 

「そのー……うー……えー……」

 

「お前別に日本語を使っても良いぞ?」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「日本語使えるんですか?」

 

「おまえもし化して俺が日本語が分からない馬鹿と思ってたわけ?外人だからと日本語が使えないと思う浅はかさは愚かしい。日本で必要だから日本語スキルで固めた俺に隙はなかった。Goに行っては郷に従えという名セリフを知らないのかよ」

 

「あまり使いこなせているようには見えないんだけど……」

 

「それほどでもない」

 

「まさにそのとおりですね」

 

 

ブロントと名乗った少年は、なにか勝ち誇ったような表情を浮かべるも、あまりの言葉遣いの粗さに少女は苦笑を浮かべるしかなかった。

 

 

「ああ、私の自己紹介をしてなかったですね。私は博麗霊夢、この神社の巫女をやってるわ」

 

「俺はブロントだし呼ぶときはさん付けでいい。……それ巫女服だったんだな。あまりの露出具合に寒気すら感じる始末。俺の知ってる巫女服と違うのは確定的に明らかなんだが」

 

「まあうちの服はちょっと特殊なんですよ。いろいろ由来だのなんだのがありまして」

 

「ほう巫女服の歴史の山脈があるのか。この神社もオーラ的に歴史に突出しているので神殿に近いしな……あ」

 

 

そこで何かを思い出したのか、ブロントさんはハッとする。

 

 

「そういえば、この神社のメイン管理人はどこにいるんだ?そいつに聞きたいことがある」

 

「それなら私ですよ?」

 

「……冗談は顔とPスキルの高さだけにしろ。俺は日本の文化スキルも高い。神社があって神主がいないとか俺のシマじゃノーカンだから」

 

「はい、神主がいないので博麗神社の巫女である私が責任者です」

 

「…………ちょとsYレならんしょこれは。俺は霖之助からこの神社は一人で切り盛りされてる系の話を聞いたからここにきょうきょ参戦したが、リア♀がいるとか聞いたことないんで抜けますね^^;」

 

「そーなんですよねー。私一人で神社をやっていくのって大変なんですから。掃除も大変だし、身の回りのことも一人でやらなくちゃいけないし……」

 

「しかもリアルで女一人というあるさま。……変な空間になったので俺はミステリーを残す為あきらめが鬼なったと同時に香霖堂に帰ったが多分博麗神社で伝説にならない」

 

「そういえばブロントさんは、どうしてここに来たんですか?霖之助さんがどうとか言ってましたけど」

 

「それなんだが、霊夢では収まらぬだろう事情だし話するだけ無駄。お前全力で俺をそっとしておいて良いぞ」

 

 

ブロントさんのあまりの拒否っぷりに霊夢はむっとした。

何も喋らないうちに自分は役に立たないと言われれば腹も立つだろう。

ここでブロントさんがもう少しやんわりと拒否しておけばよかったのに、調子ぶっこきすぎてた結果がこの後先に待っているのはまあわかってた(予知夢)

 

 

「無駄って酷くないですか?何も話さないうちに自己完結するなんて汚いですよ?」

 

「…………汚い?」

 

「そうですよ。目の前であからさまに『期待はずれだ』みたいな目でこっちを見といて何も言わずに帰るのは汚いです」

 

「汚いとか罵詈雑言の最上級だろ……汚いと言われたことで俺の誇りが致命的な致命傷を負うことになった!今謝れば許す!早くすろ!」

 

「汚いのは事実でしょう?そう言われたくないなら早く事情を言ってくださいよ」

 

「そこまで言われたら言ってやるのが大人の醍醐味!俺はこのまま喋ってもいいんだが喋ったら謝るべき死にたくないなら謝るべき!」

 

「あーはいはい、それならいくらでも謝ってあげますからさっさと話しなさいな」

 

「俺はネガって言わなかったわけじゃない。霊夢にいうのがはままれるから言わなかったがお前が言えと言ったから俺の用事は神秘のベールに隠されてきたがついにそのカーテンが開かれる」

 

「で、なんですか。要件って」

 

 

ブロントさん、煽り耐性全くなしである。

霊夢も、初対面の人間相手の割に辛辣である……もっともブロントさんの方が言動的に喧嘩売ってるように見えるのは仕様だが。

 

 

「言っても意味ないけど言ってやろう俺は優しいからな。霖之助の持ってるビルの一室をHPにする手はずだったがあいつの収集品の存在があまりにも大きすぎたため俺の住む場所がない不具合が発生した。このままでは俺の住居がホんムレスになりそうになったので『どこか住むところはないのか?』と言ってやると『他の住居をおごってやろう』と言われたからこの神社に頼みに来た。見事な理由説明だと関心はするがどこもおかしくはないな」

 

「……つまり、住む場所がないからこの神社に来たってことですか?」

 

「どちかと言うと大正解だな。俺は一人でむくむくやってると聞いてたから神主がやってると思ってたのに、まさかひょろっとした女がやってるとはちょとわずかにビビった。さすがに女一人のところに転がり込むとか一般的にかんがえららないでしょう?俺は恥知らずな人間じゃないから頼み込むのは改心した」

 

 

ブロントさんが言うのをためらったのは、そんな恥ずかしいことを言いたくはなかったし、少女一人のところに居候するのは確実に無理どころか、それを頼み込んだ時点で変態扱いされても仕方ないからだ。

お前頼んでみただけなのに勝手に変態扱いされるやつの気持ち考えたことありますか?マジでぶん殴りたくなるほどむかつくんで止めてもらえませんかねぇ?

そういった考えに至ったブロントさんは、何も言わずに去ろうとしたが少女が噛み付いてくるため言わざるを得なかった。

これで自分の言いたいことは全部言えたなと納得したブロントさんは霊夢に背を向け帰路につこうとしたが、思いもよらぬ言葉をかけられることでその行動はシャッタアウトされてしまう。

 

 

「別にいいですよ?」

 

「えっ」

 

「部屋ならありますから、しばらくの間住んでてもいいですよ?」

 

「おいィ?お前らは今の言葉聞こえたか?『聞こえてない』『何か言ったの?』『俺のログには何もないな』ほらこんなもん」

 

「霖之助さんのところに住めないなら仕方ないじゃない。このまま締め出すのも気が引けるし……あ、家賃は払ってもらいますよ?」

 

「そんなことはどうでもいい、重要なことじゃない。重要なのは俺がここに住むということ。男と二人で住むとかお前それでいいのか?」

 

「……?それがどうしたんですか?うちから盗むものなんてありませんよ?」

 

「霊夢の頭に無知さが怖い。お前はもう少し男に対する警戒心を持つことが必要不可欠。俺が誇り高い思考の騎士じゃなかったら既にお前は裏世界でひっそり幕を閉じてるぞ」

 

「言っときますけど、私も結構強いんですからね?闇討ちとかされても逆に組み伏せるくらいはできますし」

 

「いやこの話は早くも終了したので以下レスはひ不要です。俺が消えることでその問題は回避された」

 

「ブロントさんはどこの部屋がいいですか?さすがに押し入れでは眠れないでしょ?」

 

「何か俺がいつまで立っても鬼の首みたいに粘着してるが話が勝手に進んでる不具合が発生しているんだが……」

 

「じゃあ実際どこで暮らしていくつもりなんですか?」

 

「……俺も言い返そうと必死に回転させたが言い返す言葉が出なかった。いあでも……」

 

「それとも、ブロントさんは何か後ろめたいことでもあるんですか?何か良からぬことをしようとか、そういう企みでも?」

 

「どうやって俺が悪者だって証拠だよ!最高の騎士道と最強の精神力を持っている俺には悪魔の誘いすら効きにくい(頑固)俺はこのまま住んでしまってもいいんだが?」

 

「それじゃあどこにするか決めちゃってくださいね。あ、それとあとで買い物に行くんでついて来てください。ブロントさんが来たんですし、今日の夕飯はちょっと豪勢にしますよ」

 

「ほう経験が生きたな。お前全力で料理して良いぞ。じゃ部屋を選ぶ系の仕事があるからこれで」

 

 

いつの間にかブロントさんが神社に住むことが決定してしまっていた。

あとで我に返って激しく後悔するが『俺が住むといったのは「」確かになとみとめているが「俺が望んだ事ではない」という意見』と現実逃避する結果となったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

――――…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………お前の豪勢は貧弱一般人だと思った」

 

「あ、あんまり家計に余裕ないんですから仕方ないじゃないですか……」

 

「お前俺が金を持ってて良かったな、持ってなかったら夕飯は湯豆腐だけだったぞ」

 

「それでもうちでは結構贅沢なんですけど……」

 

 

買い物をしている途中、霊夢が豆腐ばかり買っているのを見て『何いきなり豆腐だけなわけ?』と聞くと、『えっ?お豆腐なんて滅多に食べられないじゃないですか?』と帰ってきてブロントさんは霊夢のことをアワレに思った。

そこで肉屋に直行し、自分の財布を取り出すと『きゅう肉を9kgでいい』と言ったその姿に霊夢は唖然としてしまっていたが、さらに攻撃は続く。

八百屋や魚屋に行って、追撃の食材追加で格の違いを見せつけてしまうと、霊夢には羨望の眼差しで見つめられた。

 

 

「それにしてもすみませんブロントさん。こんなに買ってもらっちゃって……」

 

「これから俺も厄介になるからおもわずいさぎよい武の心がでてしまった結果だった。そんなに気にするな。そんなんじゃすぐハゲる」

 

「はげませんよ!?」

 

 

霊夢が料理をしながらも、ちゃぶ台の前で新聞を広げてるブロントさんにツッコミを入れた。

これは霊夢が、ここまで食材を買い与えてくれたのに何もしないのはさすがに気が引けるから料理を一任しているからであって、ブロントさんがサボり魔であるとは無関係。

 

 

「それにしても、ブロントさんも料理できたんですね。野菜とか買うとき新鮮なものを即座に取ってたのには驚きましたよ」

 

「俺の選定能力は鬼の力といったところかな。男だからと料理をしない奴はバカとしか思えないであわれになる。男女差別とかいいですストレス溜まるんで(苦笑)」

 

「イギリス人って日本人に比べると料理が下手なイメージがあるんだけどブロントさんは違うのかしら?」

 

「おいやめろ馬鹿、それ以上の相手を挑発する言葉は非常に人をふるかいにする」

 

「そ、そこまで怒らなくても――「日本人の料理をイングリッシュ料理と比べるやつは心が醜い。それは日本人に対して失礼すぐる。イングリッシュ料理は料理じゃないという事実、英語で言うとkitchen refuse」

 

「え?きっちん、りふゅーず?」

 

「日本語で言うと生ゴミ。黄金の国の知恵の塊でできた日本料理が野菜の皮装備のイングリッシュ料理に遅れを取るはずがない。ちくしょう日本人は馬鹿だ、どうやったらfish-and-chipsを生半可なイングリッシュには真似できない料理に出来るんだよ……」

 

「そんなにひどいんですか?イギリス料理って」

 

「日本に来て飯食って俺が今まで食っていたのは料理じゃなかったことに気づかされた。今回のでそれが良くわかったよ>>日本食感謝。あれはえごいぞ、野菜をただただクタクタになるまで煮続けるとかいうイングリッシュにとっては神の贈物だが日本人にとっては地獄の宴なことをやってたからな」

 

「あー、もしかしてそれでブロントさんも自分で料理を作るようになったんですか?実家じゃ作れる人がいないから」

 

「見事な名推理だと関心はするがどこもおかしくはないな。そしたら家でのメインシェフが俺になってしまった感。家事スキルが上がるのではなく上がってしまうのが俺」

 

「……それって家事を押し付けられていただけじゃ……」

 

「うるさいよ馬鹿」

 

「あ、ブロントさん、今からそっちに持っていきますからコンロ出してくれます?」

 

「おk」

 

 

霊夢が手にしている鉄鍋の中には、牛肉やら野菜やらがぎっしり詰まっている。

それらが全て甘辛いタレによって味付けされ、部屋の中はフツフツと煮立ちながら上がってくる食欲をそそる匂いと温かい湯気に包まれる。

重厚な感じのべっこう色の肉とトロリとした琥珀色の汗、その牛肉の塊に昆布と鰹節の煮だしが絡まり、たまり醤油のやわらかい甘みを混ぜ合わせた唾液を誘出させるその匂いがたまらない。

ブロントさんが用意したコンロの上に鉄鍋を乗せると、霊夢はカチッカチッと何度か回しをひねり着火させた。

しばらくの間、火から離れて勢いが弱まっていた泡が再度の加熱により復活し、視覚でも胃を刺激するほどに下から具材を揺らしていく。

出来立ての料理であるからか、それとも元の具材たちが新鮮なものだったのか、今まさに食べどきだと言わんばかりに慌ただしく騒いでいるその鍋はブロントさんと霊夢はゴクリと唾を飲み込ませる。

……まあ長いこと書いてはいるが、とどのつまりはすき焼きである。

 

 

「すばらしいすき焼きだすばらしい。霊夢の料理はすごいなーあこがれちゃうなー」

 

「それほどでもないですよ。私もこんなご馳走久しぶりに作りましたから、少し味付けに自信はないですけどね」

 

「これが美味しいすき焼きに見えないならお前の目は必要ないな後ろから破壊してやろうか。これが他を魅了するほどのすき焼きなのは火を煮るより明らか」

 

「ま、そんなことを言う前に早く食べちゃいましょ?せっかくのすき焼きの味が落ちちゃいますよ」

 

「箸よりも言葉が先に出る事もたまにある。だがすき焼きの圧倒的なPスキルの前に俺のガマンは長くない(誘惑)それではいただきます」

 

「はいはい、それじゃいただきまーす」

 

 

言うや否や、二人は箸を鍋に突っ込む。

霊夢は久々のマトモな食事だから、ブロントさんは久しぶりの日本食だから二人は次から次へとすき焼きを口にへと放り込んで行く。

これほどの料理は滅多にしないと言っていた霊夢だが、その味はそこらの店のレベルは軽く凌駕するほどの出来に仕上がっていた。

 

 

「むぐむぐ…………ご飯のお代わりは9杯でいい」

 

「それならいっそのことドンブリに入れてあげましょうか?……ハムハム」

 

「お前頭いいな、INT500くらいあんじゃね?……モニュモニュ」

 

「ハクッ……それじゃあよそって来ますから、全部食べないでくださいよ?」

 

「そのくらいまあ分かってる(マナー)食い物の恨みは恐ろしいという名セリフを知らないのかよ。それにしてもすき焼きはえごいな、これだけでも食欲に破壊力バツ牛んだというのに追撃の白米を食わせてしまう超パワー!やはりイングリッシュ料理よりやはり日本料理だな」

 

「食べたくて食べるというよりは、何時の間にか食べちゃうって感じですからね」

 

「ほう経験が生きたな。その意見には賛成するしか無いだろうな。……日本は頭悪ぃな、サブカルチャーだけでも最強に近いのに食事まで美味いのはずるい」

 

「日本人は色々拘りますからね。一点に集中するっていう性格なんじゃないですか?……にしてもブロントさん、やたら日本のことを持ち上げてません?」

 

「それほどでもない。日本が二番でいいよイングランドが1番だけど。父親が日本好きだからその影響が俺の日本好きにつながっているんだろうな」

 

「へえ……なんだか珍しいですね」

 

「ああ、親父はイングリッシュだがな。なにせ天ぷらと卵が入ったうどんが好物だという実績もあるのだよ」

 

「天玉うどんじゃないですか、それ」

 

「おっととグーの音も出ないくらいに反論されてしまった感。説明はできるが名前が出てこないのは希によくある」

 

 

言いながらも、よそってもらったご飯を再びかっこむブロントさん。

体格と同じように、食事の量もすごいのだろう。

 

そんな様子を見て、どこか気分が和むのを霊夢は感じた。

あまり人に対して何かを感じるということが苦手な霊夢にしては、非常に珍しい感情だ。

なにせ、この広い博麗神社をたったひとりで暮らしていても、平気そうにしているほどに人間関係での心の揺れ動きはゼロに近い彼女なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあブロントさんはこの部屋でいいですね?」

 

「ああ、あれこれ注文をつけるやつは心が醜いからな。ナイトは部屋を選ばない」

 

「んー……布団とかあったかしら?ほかの布団なんてめったに使わないからどこにあるのかも分からないのよね……」

 

「布団なら持ってるから安心すろ」

 

 

霊夢がふと目を離した瞬間、ブロントさんが持っていたカバンを開ける音が聞こえた。

そして再びそこに目をやると、先程までどこにも存在していなかったはずの木製のベッドが鎮座していた。

 

 

「……待ちなさい」

「ん?問題でもあったのか?……ああ……このままでは畳の寿命が重力でマッハになってしまうな。しゃあねえな、それじゃあ敷布団を……」

「そうじゃないです。そこは重要なことじゃないです。さりげなく更に恐ろしいことを聞いた気がしますがあえてスルーして聞かせてもらいます。どっからそれ出したんですか?」

「カバンからなのは確定的に明らか。むしろカバン以外からは出せないという理屈で最初から俺の論破は100%だった」

 

「四次元ポケットでもあるまいし、そんな大きなものが入るわけ無いでしょうが!?何がどうやったら入るんですか!」

 

「別にこんなのは普通だろ。俺のフレに極級の番長がいるが、あいつは何十本も武器をカバンにしまえる程収納力が一般人よりも頭からすでに二歩も三歩も出てる状態。あれと比べたらこれくらいちょろいこと」

 

「あんたらはデタラメ人間の万国ビックリショーか!?」

 

「おいィ?お前知らないのか?今はいくらでも入るカバンができてるのは常識だべ?」

 

「えっ」

 

「お前頭悪ぃな、お前が取り残されてるあいだにも時代は進んでる。いくらでも入るカバンが出来てるのに超人扱いするのはずるい」

 

「いやいやそんなわけ無いでしょ……ないですよね?」

 

「俺の知り合いの山脈に名実ともに唯一ぬにの博士がいる。そいつがPT組んでる時に学士界のドラえもんですねと言われるくらいのひみつ道具を作る技術がとてとてと評価されるあるさま。このカバンはその博士に作ってもらったからいくらでも入る。これで完全論破」

 

「…………本当ですか?」

 

「お前過去にしがみつきすぎた結果だよ?お前は周りの世界に興味を持つことが必要不可欠。世間知らずになるからこうやって痛い目にあう」

 

「人間の進歩ってすごいわね……」

 

 

感心したように、霊夢はブロントさんが持っているカバンを眺めている。

どこからどう見てもただの旅行カバンにしか見えないが、これがいくらでも入るカバンなんて信じられない。

しかし、なにか違いはないのかと観察していると、徐々にブロントさんの口の端が歪んでいく。

何事かと霊夢が顔を伺っているうちに、そのまま無理やり笑いをこらえたように体を震わせた。

 

 

「クク……クック、ブフっ」

 

「何がおかしいんですか!?」

 

「あ、ああ、すまにい霊夢……今のはからかっただけだ」

 

「へ?」

 

「口で説明するくらいなら俺はネタばらしをするだろうな。まあみてな」

 

 

そういうと、ブロントさんは軽く拳を握ってベッドに上から叩きつけた。

すると、クシャッという音と共にベッドはバラバラに引き裂かれてしまった。

 

 

「終わる頃にはズタズタにされたベッドがあった。実はこれただのペーパークラフト、いわゆるハリボテ」

 

「え……じゃあ、それって……」

 

「すぐ組み立てられるように折りたたんでカバンに入れていただけの話。見事なドッキリだと関心はするがどこもおかしくはないな」

 

「…………」

 

「なんだか霊夢はみょんに落ち着きが鬼なってるから慌てさせてみたかった。いやあ霊夢殿も大変でござるなwww」

 

「……………………」

 

「おっととグーの音も出ないくらいに凹ませてしまった感。これにこりたらその世間知らずを早く直せ。俺はこのままタイムアッポでもいいんだが、お前はこのままだと頭がおかしくなって死ぬからな以後気をつけろ」

 

「…………………………」

 

「あの、何か言ってもらわないと俺の寿命がストレスでマッハなんですがねえ……」

 

「……調子に乗るなよ、本気出すぞ」

 

「……えっ」

 

「……おまえのあまりのフザケぶりに完全な怒りとなった。仏の顔を三度までという名セリフを知らないのかよ?こっちが礼儀正しい大人の対応していればつけあがりやがってよ」

 

「oi misu ミス、おい何いきなり怒り出してるわけ?しかもなんか『目が黒かったのに赤かった』という表情なる……。俺がどこにも逃げられないプレシャーを背負う事になった気がしてしょうがないんですがねえ……おい、紀伊店のか」

 

「お前は一級廃人の私の足元にも及ばない貧弱一般人!その一般人が一級廃人の私に対してナメタ言葉を使うことで私の怒りが有頂天になった!この怒りはしばらくおさまる事を知らない!!」

 

「マジ震えてきやがった……怖いです……こんな恐ろしいい敵を作りたくないので僕はあやまりますごめんなさい。調子こいてすいまえんでした;;」

 

「時すでに時間切れブロントさんはこのまま裏世界でひっそり幕を閉じる。何か言い残すことはないのか?」

 

「ひ、必死に回転させたが何も出てこないという理屈で俺の遺言は終了ですね^^;」

 

「歯を食いしばりなさいマジで親のダイヤの結婚指輪のネックレスを指にはめてぶん殴りますので奥歯ロストしますから」

 

「h,hai!」

 

 

あまりの怒りにブロントさんは言われた通りに歯を食いしばって目を瞑るしかできなくなってしまった。

いずれ来る衝撃に耐えようと全身に力を入れる姿はまさに孤高の騎士だったな。

黄金の鉄の塊で出来てるナイトは皮装備のジョブに遅れをとることはないが女には勝てない勝ちにくい。

しかし、覚悟を決めてバラバラに引き裂かれる時に備えても、いつまでたってもその時が来ない件。

かわりにブロントさんに届いてきたのが、霊夢の漏れ出てくる声だった。

 

 

「プッ…………クスクス……」

 

「……おいィ?」

 

「フフッ……ブロントさん、どうしたんですかそんな必死が鬼なって」

 

「…………殴らないのか?」

 

「あら、殴って欲しかったんですか?」

 

「どうやって俺がMだって証拠だよ。お前が怒ってたのはバレバレで証拠に怒り顔が出てしまってたはずなんだが……」

 

「やですね、冗談ですよ冗談。あれぐらいで怒るわけがないじゃないですか」

 

「……助かった、終わったと思ったよ。お前えごいなマジで怒りのオーラが見えそうになってたぞ」

 

「そりゃあ素で結構ムカつきましたから。今のがリアルじゃなくてよかったですね、リアルだったらブロントさんは死んでますよ」

 

「俺は不良界でも結構有名でケンカとかでもたいしてビビる事はまず無かったが生まれて初めて姉以外の存在にほんの少しビビった」

 

「ブロントさんも姉が怖かったんですね。私もです」

 

「ほう?」

 

「今はここにいたのにいなかったという表情なるんですが、私も昔はお姉さんに頭が上がらなかったんですよ。……いや、今でもですけど」

 

「いあ絶対こっちの姉貴の方が怖いのは明白に明瞭。なぜならばうちの姉貴は実の弟の俺にリアルで殺意向けてヤバかったし、マジで切れたときは飛ぶながら俺を地面に叩きつける技をしてくるからな」

 

「うちのお姉さんも素手で岩を砕いたり、本気で喧嘩したとき私を岩盤に叩きつけるなんてこと普通にありましたよ?」

 

「こっちが少しサボってるからといってすぐに頭を殴ってくるとか間接的とはいえ殺人罪と同義だろ……俺は不良だから喧嘩も強いし学校も授業をサボって逃げてたが、いつまでたっても姉貴には勝てないという事実」

 

「私も巫女としての修行が厳しすぎて稀によく脱走してましたね。それでも『どこに行くのかしら?』と言われて回り込まれたときは絶望になりましたよ。……あんなクリーチャーにどうやって霖之助さんは勝ったのかしら」

 

「やはり霖之助は格が違った。ついでに俺の姉貴も倒してくれたらいいんだが……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

自然と、二人は固い握手をした。

互いに言い出すこともなく、その動作は洗練されていた。

 

 

「お前はなかなか分かっているようだな。ジュースをおごってやろう」

 

「ブロントさんこそ経験が生きましたね。お茶をおごってあげましょう」

 

 

互いに、杯を酌み交わす。

中身がノンアルコールだから犯罪行為とは無関係。

出会って初日だというのに、まるで古代から居る戦友のような既視感を覚えた二人。

共通の敵を持った者同士の、確かな絆がそこにあった。

きっとこの思いは、どこにも逃げられない運命を持った者にしかわからないのだろう。

 

 

「それではブロントさん、おやすみなさい」

 

「ああ、霊夢も早く寝るべき肌が死にたくないなら寝るべき」

 

「わかってますよ。じゃあまた明日」

 

「あばよ」

 

 

霊夢が去っていくのを見送ったブロントさん。

日本に来てからまだ一日も経っていないというのに、あまりに激動すぎる一日を送って疲れがどっと出てきてしまっていた。

それじゃあゆっくり寝ようかと思ったとき、そこでようやく気づく。

 

 

「…………俺の布団がにい」

 

 

 

仕方ないので、その日は畳で雑魚寝することを余儀なくされたブロントさんであった。

翌日には体がバキバキになった銀髪の雑魚がいた。

 

 

 

 

 

 

話が続かないことが稀によくあるらしい。


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