バカとナイトと有頂天   作:俊海

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遅くなりましてすみません。
……てか全然話が進みません。
どうしたらいいんだ……


第十六話 バカとナイトとアンブッシュ

「ここは僕と霊夢で引き受ける!ブロントさんと姫路さんは先に合流しに行って!」

 

「安心すろ、瑞希はメイン盾である俺がいる限り砕けにい。そっちは任せた!」

 

 

二人なら、僕と霊夢だけでなんとかなる……かもしれない。

今僕たちがやってはいけないことは、ここでの戦闘でFクラスと合流するのが遅れることだ。

それなら、この中で一番点数の高い姫路さんは先に行かせて、僕たちだけで倒したほうが勝率が上がる。

そうでもしないと、主力のいないFクラスではBクラスを相手取るのは難しいからだ。

ブロントさんも行かせたのは、姫路さんだけだと体力の問題があるから、そのサポートをする人間が必要だから。

あとは、この二人を早めに倒してしまうだけなんだけど……

 

 

『Fクラス 吉井明久     Bクラス 間桐慎二

            VS

 Fクラス 博麗霊夢     Bクラス メドゥーサ・ゴーゴン

 

 

       92点         174点

  世界史

      126点        187点

                             』

 

 

何この点差。

霊夢は世界史苦手なんだね。

日本史は得意だったような気がしたんだけど。

 

 

「あいにくだけど、日本に関する知識しかないわよ。外国関係苦手だし」

 

「それを言い出したら、僕だって全体的に霊夢より低いから何も言えないよ」

 

 

僕の場合は、三倍差までなら勝つ自信があるから案外イーブンなんだよね。

問題は、僕が霊夢を加勢するまでに霊夢が戦死してしまうこと。

こうなったら目も当てられない。

貴重な戦力を失ってしまったらBクラス戦の勝利が遠のく。

というか、僕が雄二にぶっ殺される。

 

 

「これで向こうに加勢何かが来られたらえらいことになるよ」

 

「その心配はしなくていい。僕達には援軍なんて来ない」

 

「え、なんで?」

 

「そんなの、僕には友達が少ないからに決まってるだろ。友達でもない奴に協力する奴はいないさ」

 

「そんな悲しい理由聴きたくなかった!なんで友達がいないのさ!」

 

「勘違いするなよ。できないんじゃない、作らないだけだ。友達がいると人間強度が下がるからな」

 

「もうヤダこの高二病!」

 

 

間桐君って、ポジティヴなのかネガティヴなのか分からない。

 

 

「慎二は色々ダメダメですからね。友達なんかできるわけないんですよ」

 

「そう?だったらなんであんたは間桐のことを下の名前で読んでるのよ?だいぶ仲良さそうに見えるわよ?」

 

「失礼なことを言わないでください。私はこの男の妹と仲がいいんです。断じてこんなワカメと仲がいいなんてことはありません」

 

「ああ、妹さんと区別するためにってことね。……まあ本当に嫌いだったら、会話しようとしないんじゃないの?やたら楽しそうだったわよ」

 

「違います。慎二に当たり散らしてストレスを発散してるだけです。慎二はどれだけ言われても心が折れない強い子ですし」

 

「……歪んだ信頼関係ね」

 

 

僕もそんなサンドバックになりたくない。

間桐君……ドンマイ。

 

 

「あれ?間桐君の召喚獣、なんにも武器持ってないように見えるよ?」

 

「よく見ろ、ガントレットをつけてるじゃないか」

 

「……まあ美鈴さんよりましかな」

 

 

美鈴さんは、武器なんて持ってなかったし。

もしかしたら、使ってなかっただけで本当は持ってたのかもしれないけど。

 

 

「で、ゴーゴンさんは鎖分銅か……うん、人の趣味はそれぞれだから、僕は気にしないよ?あ、できればちょっと距離を取ってくれない?」

 

「……ええ、そんなの人の好みだもの、否定はしないわ。……でも、私達はノーマルだから本当にそういう風に見ないで欲しいの」

 

「いや、僕は分かってたぞ。僕の妹なんかと仲良くできる時点で大体察しはついてたから。それゆえに僕と同じように友達が少ないのも理解してるし」

 

「なんで三人が三人とも私を憐れむような目で見るんですか!?」

 

 

だって召喚獣が、体のラインが出まくるような痴女スタイルなんだもん。

そのうえ装備が鎖とか、控えめに言ってもアブノーマルな性癖をしているようにしか見えない。

あとさりげなく、間桐君がゴーゴンさんの友達関係を言っちゃったね。

 

 

「前々から気づいてたけど、やっぱりお前はSM好きだったんだな。しかも痴女とか救いようがないぜ」

 

「妙なところで変態な慎二に言われたくありません!そんなことしているから女子からも敬遠されるんでしょう!?」

 

「男なんてみんな変態だ!それに僕の変態さなんて妹の危険度に比べたら可愛いもんだろ。どこの世界に兄貴を死に至らしめるレベルのいたずらを実行する人間がいるってんだ」

 

「……いや、まあ確かにそれは同意しますが…………ま、まあ慎二だったから良かったじゃないですか。怪我しなかったんですし……」

 

「そうだ、僕だったからいいんだよ。あれが僕以外の他人に向いてみろ。そんなことをしたら一発で変人どころか狂人レベルじゃないか。僕よりお前らの方が自重して欲しいくらいだ」

 

「私はそんなこと……」

 

「一般ピーポーは五月蝿いからといって暴れてる奴を調教しようとしない!」

 

「…………」

 

 

あ、黙った。

間桐君が正論を言ってるだけだけど。

 

 

「あの、そろそろ攻撃してもいいかな?こっちも忙しいんだ」

 

「アッハイ。どうぞ」

 

 

その言葉が聞きたかった。というより、聞けなかったら困る。

迷わず僕は、間桐君へと斬りかかる。

ゴーゴンさんの武器はどう見ても中距離型、それなら遠距離タイプの霊夢に任せたほうがいい。

しかも間桐君はガントレット。リーチの差がある分僕の方が有利だ。

 

 

「もらった!これで……」

 

「甘いですよ!」

 

「うわぁ!」

 

 

何だって!?

僕の剣が、後ろから来たゴーゴンさんの鎖で弾き飛ばされてしまった。

それを狙ったかのように、間桐君がニヤリと笑うと――

 

 

「もらったのはこっちだ!」

 

「おふっ!」

 

 

やばっ、ダメージをもらっちゃった。

なにげにこの戦争始まってから初めてのダメージ?

 

 

『Fクラス 吉井明久     Bクラス 間桐慎二

            VS

 Fクラス 博麗霊夢     Bクラス メドゥーサ・ゴーゴン

 

 

       76点         174点

  世界史

      126点        187点

                             』

 

 

うわ、10点以上削られてる。

いやいや、一撃で沈められなかっただけマシだと思わなくちゃ。

 

 

「ゴーゴンさんの鎖、狙いが正確すぎる気が……」

 

「いえ、この召喚獣が私の狙ったところに勝手に投げてくれるようなので」

 

「何それせこい!」

 

 

勝手にホーミングしてくれるとかチートもいいところだ。

いや、もしかして遠距離武器はみんなそうなのか?

 

 

「霊夢の札ってどうやって撃ってるの?」

 

「自動で相手に飛んでってるわよ」

 

「遠距離武器ってずるい!」

 

 

近距離武器のメリットがなくなった瞬間だよ!

遠くから一方的に攻撃されてたら勝てっこないじゃないかっ。

 

 

「まて、諦めるんじゃない僕!こっちだって霊夢がいるんだ、条件はトントンのはず。だったらゴーゴンさんをどうにか無力化して……」

 

「明久、来てるわよ」

 

「おわぁあ!?」

 

 

いつの間にか僕の近くまで間桐君が接近していた。

霊夢の言葉がなかったら、今頃僕は致命傷をもらっていただろう。

……相手の仲の良さは別として、コンビネーションはなかなかすごい。

 

 

「霊夢、鎖を撃ち落とすことってできる?」

 

「無理ね。あの鎖、一直線に進むんじゃなくて、ぐねぐねしながら向かってくるし捉えられないわ」

 

 

霊夢じゃ無理か。

だとしたら、僕がやるっきゃないってわけね。

とはいっても、僕の武器はこの剣一本だけだし、動きを封じれるようなものは……

 

 

「よし!霊夢、間桐君は君に任せた。僕はゴーゴンさんをやる」

 

「ちょっ?正気なの明久?」

 

「正気も正気、これしかない」

 

「私はいいけど、あんたが危ないわよ?」

 

「大丈夫大丈夫、どーんと僕に任せて」

 

 

ポジションチェンジ!

さっきとは反対に、僕がゴーゴンさんへ、霊夢が間桐君へと挑む。

そうなると、自然に間桐君は近づいてきて、ゴーゴンさんは距離を離す。

……よし、これでいい。

 

 

「遠くから攻撃できる私に挑むとは愚かですね」

 

「そうかな?ブロントさん風に言うと『リーチが長いほうが絶対に勝てると思う浅はかさは愚かしい』ってやつだよ」

 

「強がる必要はありませんよ。だいたい、あなたのようなFクラスに私が負ける道理なんてありません」

 

「そーやってFクラスをバカにするのやめてくれる?結構傷つくんだよ?」

 

「あなたなんて見るからにバカっぽいですし、お似合いじゃないですかFクラスで」

 

 

むっ、辛辣だなこの人。

戦争である以上罵詈雑言は飛んでしかるべきとは思っているけど、ここまで言われるいわれはない。

 

 

「そうやってバカにして、あとで許してって言っても許さないよ?」

 

「誰がそんなことをいいますか!!」

 

 

ゴーゴンさんが、僕めがけて鎖を投擲してきた。

……なるほど、霊夢の言うようにこれはなかなか遠距離武器では当てづらい動きをしてる。

霊夢が相手になっていたのに、ゴーゴンさんが僕を攻撃できたのにも納得できるぐらいだ。

でも、僕なら叩き落とすくらいならどうとでもなる。

 

 

「せやぁ!」

 

 

なにせ僕はこの学園内で最も精密動作が得意だと自負しているからだ。

それに、相手の攻撃はよく見ていればパターンがわかってくる。

集中さえできれば、一本の鎖くらい弾き飛ばすのは簡単だ。

 

 

「……やりますね」

 

「このくらい僕にとってはちょろいもんだよ。僕がいる限り霊夢には攻撃は通さないからね」

 

「そううまくいきますかね?ちょっとしたミスですべてが瓦解しますよ?」

 

「残念ながら、この勝負でこの吉井明久に精神的動揺による操作ミスは決してない!と思っていただこうッ!」

 

 

美鈴さんの訓練のことを考えたら、鎖一本を通さないくらい余裕と思えてくる。

……どんな訓練をしたかは公表できないけど、色々スゴかったから。

 

 

(でもこれで、ゴーゴンさんは僕への攻撃に集中せざるを得なくなったはずだ。そう、1対1の勝負に持ち込めれば僕にも勝機が見える)

 

 

ゴーゴンさんの攻撃対象が僕だけに絞られたせいか、攻撃の手数が倍以上に増えた気がする。

それらすべてを防いで防いで、延々防ぎ続ける。

 

 

「どうしました!?守ってばかりじゃ無駄に時間が過ぎていくだけですよ!」

 

「ダッテメッコラー!ザッケンナコラー!」

 

「何をわけのわからないことを!」

 

 

むう、ヤクザスラングはゴーゴンさんには通じないか。

ヤクザスラングの持つ独特な響きは、一般市民に対して原始的恐怖を引き起こすはずなんだけど、

だが、立てすぎたデスノボリはかえって生存というように、立てすぎないデスノボリはそのままデスノボリになってしまうのがマッポーめいたこの世の無情。

 

 

「そう、振り抜くんだ。閃光のように!あばよゴーゴン=サン!貴様の死因は自分のその武器による不運な衝突事故だ!」

 

 

……焦るな、焦るんじゃない僕。

美鈴さんの教えを忠実に再現するんだ。

相手の体の動き、環境を把握していれば、どんな攻撃だって見切れるはずだ。

明鏡止水の境地に至れ!

 

 

「――そこだ!」

 

「なっ!?」

 

 

一閃。

振り抜かれた僕の剣は、見事鎖の穴を穿った。

けれど、このままでは点数で負けている以上ゴーゴンさんに引っ張られるだけ。

そうさせないためにも、作戦を次の段階にシフトする!

 

 

「えいっ」

 

「あああっ!?」

 

 

剣を地面に突き刺した。

結構深くまで突き刺したから、引っ張るだけじゃ抜けないよ。

そう、それを引き抜くためには僕の近くまで寄ってこないといけない。

つまりは、ゴーゴンさんは――

 

 

「よ、吉井に近距離戦を挑まないといけないってことですか!?」

 

「それがどうしたって言うんだメドゥーサ。普通に殴りあえよ」

 

「勝てっこないじゃないですか!ただでさえこっちは武器を封じられてるっていうのに!」

 

「関係ない、行け」

 

「この人でなし!代わりにシンジが行ってくださいよ!」

 

「はっはっは。博麗に牽制されているのにどうしろと?むしろこの相性差で生き残ってる僕を尊敬してもいいくらいだろう」

 

「シンジのやくたたず!」

 

「今のお前にだけは言われたくないな、戦闘力皆無のメドゥーサさん」

 

「ぐぬぬ」

 

 

話しているあいだに、僕はゴーゴンさんに一歩ずつ近づき、ついには超至近距離まで到達する。

そして、パキポキと手を鳴らすとゴーゴンさんはビクッと震えた。

 

 

「さぁ、覚悟はいいかなゴーゴンさん」

 

「……吉井、提案があります」

 

「断る」

 

「この勝負引き分けってことにしませんか?ここは二人とも通してあげますから……」

 

「嫌だ」

 

「もちろん後追いはしませんし、なんだったら今後吉井には絶対に喧嘩を売りませんし……」

 

「もう遅い」

 

「……堪忍してください、私が悪かったです……」

 

「僕は悪くない」

 

 

さっき言ったもんね。

『許してって言っても許さないよ』って。

 

 

「オラオラオラオラオラオラオライラオラァーッ!!!!!」

 

「キャアアァ!!!」

 

 

スタンドよろしくゴーゴンさんにラッシュで殴りかかる。

数発ぶち込むと、召喚獣はすっ飛んで行き再び僕から距離が離れた。

あれだけ殴れば再起不能になっているだろう。

今のうちに剣を引き抜いておこう。

 

 

「よっと。やっぱり剣を持ってないと攻撃力ガタ落ちだからね」

 

 

さてと、戦死しちゃったかな。

 

 

「ふ、ふふふ……自ら距離を離してしまうとは愚かですね吉井!」

 

「…………」

 

 

あ、まだ生きてた。しかもまだ全然平気そう。

素手で殴ると普段よりも攻撃力がなくなるのは覚悟していたけど、ここまで下がっちゃうなんて。

 

 

「しかも剣を抜いてくれるとはサービス精神旺盛じゃないですか。再び距離が離れている今、私が俄然有利!」

 

「…………」

 

「あなたは私との知恵比べに負けたのです!今度はこっちがあなたの武器を奪ってあげます!」

 

 

巻き付いたままになっている僕の武器をゴーゴンさんは無理やり引っ張りあげようとする。

またも距離が離れた以上、僕に武器がなくなればゴーゴンさんが勝利できるだろう。

でも、ゴーゴンさんは忘れてしまっているようだ。

僕がどうやって勝つのかあらかじめ言っておいたのに。

 

 

「……いいや、知恵比べに負けたのは君の方だ。さっさと鎖を手元に戻しておけばよかったのに。言ったはずだよ『貴様の死因は自分のその武器による不運な衝突事故だ』って」

 

「何を言って……」

 

「君の召喚獣は僕の召喚獣を引っ張れるほどの点数が残っているかどうか確認してみたらどう?」

 

「へっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Fクラス 吉井明久     Bクラス 間桐慎二

            VS

 Fクラス 博麗霊夢     Bクラス メドゥーサ・ゴーゴン

 

 

       76点         142点

  世界史

      126点        62点

                             』

 

 

 

 

「もうすでに!優劣は逆転しているんだよ!こっちが引っ張れるほどにはね!」

 

「なっ、しまっ!」

 

「ふははは!フィィィィィィィィィッシュ!!!!」

 

 

カツオの一本釣りのように剣を振り上げられ、綺麗に宙を舞うゴーゴンさんの召喚獣。

いかに相手が強くても、地面に足がついていなければただの重りだ。

力とは、土台がしっかりしてこそ伝わるものである。美鈴さんもそう言ってた。

こうなってしまえばゴーゴンさんになすすべはない。

 

それにしても、ゴーゴンさんが戦死していなくてよかった。

だからこそ、ある程度殴ったあとは吹っ飛ばしたんだけどね。

ラッシュで終わらせてゴーゴンさんを撃破しても良かったんだけど、最後のダメ押しにもう一つやりたかったことがある。

 

 

「霊夢、伏せて!」

 

「ええ!」

 

「ええええええええええええっ!?」

 

「にゃあああああああ!!」

 

 

ゴーゴンさんの召喚獣もろとも、鎖をぶん回す。

急な僕の声にも霊夢は慌てず地面に伏せたけど、それとは対照的に突然の乱入者に間桐君は驚きの声を上げてしまっていた。

そんなことはお構いなしに、剣を振り回しまくって、間桐君の召喚獣を鎖でぶっ飛ばす。

 

 

 

『Fクラス 吉井明久     Bクラス 間桐慎二

            VS

 Fクラス 博麗霊夢     Bクラス メドゥーサ・ゴーゴン

 

 

       76点         80点

  世界史

      126点        0点

                             』

 

 

 

 

やった、60点も削れた!

 

 

「は、発想のスケールで負けた……」

 

「あうう……負けてしまいました……」

 

 

なんだろう、やられ始めてからゴーゴンさんがポンコツになっていってる気がする。

打たれ弱い性格なんだろうか、あれほどドSな発言ばかりしていたのに。

 

 

「残るは間桐君だけ!この勝負、僕達の勝ちだ!」

 

「明久、そのセリフは負けフラグになりそうだからやめなさい」

 

「それはどうかな?」

 

 

なにやら逆転フラグになりそうなセリフを口にしながら不敵に笑う間桐君。

でも、合計点数で倍以上の差があるというのに何でそんなに自信満々なんだろう。

 

 

「お前ら、もしかして僕の目的が勝つことだなんて勘違いしてないだろうな?」

 

「……何だって?」

 

「そりゃあ倒せる方が都合がいいけど、さっき言ったように僕じゃお前らを倒せない。倒せなくてもいいんだよ、僕にとってはね」

 

「じゃあ一体何を……」

 

「足止めだ。何のためにわざわざ無駄にメドゥーサと会話してたと思ってんだ」

 

 

何だって!?

確かに時間を確認すると、もう十分以上経ってしまっている!

あの手馴れた感じの漫才も、あらかじめ用意されていた筋書き通りにやっていたってことか!

おのれ笠松君!汚いなさすが忍者きたない!

 

 

「え、それ私聞いてないんですけど」

 

「お前が聞いてたらすぐにバレるじゃねーか」

 

「そ、そんなうっかりじゃありません!」

 

「お前らのそういう弁解には説得力がまったくもって皆無だっていうことを自覚しろ!どれだけお前らがうっかりなのか逐一指摘して言ってやってもいいんだぞ!?」

 

「くっ……シンジのくせに生意気ですよ!」

 

「…………お前、劣勢になったらそれをすぐ言うよな」

 

 

ゴーゴンさん、天然だったんだ……

 

 

「さぁかかってこい、吉井と博麗!実は僕は一回斬られただけで死ぬぞ!」

 

「霊夢」

 

「はいはい」

 

 

霊夢に声をかけて弾幕をやめさせる。

と、同時に僕の召喚獣に剣を振りかぶらせながら突進。

アワレ間桐君は爆発四散!

 

 

「ま、デスヨネーって感じだな。これで僕の役目も終わったし敗者は去ろう」

 

「さあ来い!お前ら二人共補習室行きだ!」

 

 

え、鉄人いつの間に校庭に!?

……不思議でもないか。今思えばこの人も十分人外レベルの身体能力を持ってたっけ。

 

 

「いくよ霊夢!間桐君の言う通りなら、僕達も早く移動しないと!」

 

「分かってるわよ!早く行かないとみんなが裏世界でひっそり幕を閉じてるかもしれないんだから!」

 

 

相手の作戦にいつまでも乗っかってるわけには行かない。

笠松君がどれほどの知略家なのかはよくは知らないけれど、あの根本よりも汚いのであれば軽く見ていい相手じゃないんだから。

脇目もふらず校舎の中に突入し、一目散に階段を駆け上がる。

 

 

「ん?…………霊夢、ストップ」

 

「どうしたのよ、急に止まったりなんかして」

 

「なんだか踊り場の様子がおかしくない?」

 

 

二階から三階への階段が妙に騒がしい。

僕達ならともかく、他の生徒には階段を使う理由がないのに、多くの生徒が会話しているのが聞こえてくる。

それも、Bクラスの生徒とFクラスの生徒の入り混じった状態で。

まさか、こんなところで仲良くおしゃべりに興じているわけでもあるまいし。

 

 

「……確かにな「」という意見ね……」

 

「ちょっと僕が先に行って見てくるよ」

 

「…………分かったわ。じゃあ私は待っとくわね。ふあぁ~……」

 

 

アクビをしながら、霊夢は階段の影に隠れて座り込んだ。

あまりの強行軍に少し疲れでも出ちゃったのかな。

霊夢には少し休んでもらって、息を殺しながら僕は偵察に向かう。

さてはて、どうなっているのか……。

 

 

『そこで止まれ!それ以上近寄るなら召喚獣に止めを刺して、この女を補習室送りにするぞ!』

 

『美波!……汚いなさすがBクラスきたない。人質を取るとかあもりにも卑怯すぎるでしょう!?』

 

『はっはっは!いつも笠松が言ってるだろう?『汚いは褒め言葉だ』ってなぁ!』

 

 

何だって!?美波が捕まったのか!?

…………それにしても、よく相手も人質に取れたもんだ。

美波の戦闘力は結構高いのに。

 

 

『つーか、なんでオメーはそう簡単に人質なんかになってんだよ。勝手に持ち場離れたんじゃねーだろうな?』

 

『……離れました』

 

『何やってんだてめェはァァァァァ!!てめェの持ち場はァァァ!?』

 

『い、いや、十分人手が足りてると思って……別のところと合流しようかなーって』

 

『ふっざけんなァァァァァ!!!』

 

『おいおい、お前らのやることは分かってんだろうな?』

 

『ご心配なく!勝手に行動したバカごとお前らを処刑すればいいんスよね!?』

 

 

何やってるの美波!?

これは須川君の怒りもごもっともだ。

そもそも、美波ってそんな自由奔放なキャラだったっけ?

 

 

『待て、須川。コイツがそんな理由で捕まったと思ってるのか?』

 

『はぁ?どういうことだよ?』

 

『コイツ、吉井が怪我をしたって偽情報を流したら、部隊を離れて一人で保健室に向かってったんだよ』

 

『あ、バカ!止めなさいよ!』

 

 

なんだって!?

 

 

『ううぅ…………バレた……心配してたのバレた……』

 

『あー……なるほどね。だからとっさに嘘ついたわけか』

 

『え?なんでじゃあ美波は今、そんな嘘をついたんだ?普通に明久の心配をして行動したんだろ?』

 

『…………んなだからお前は鈍感だって言われんだよ。少しは女の心を察する努力ぐらいしろ』

 

 

士郎と同様、どうして嘘をついたのかわからない僕がいる。

 

 

『クソが!俺がもう少し早くきょうきょ参戦できてれば明久が無事なことを明白に明瞭にできる手はずだった!ちくしょうおまえらは馬鹿だ!』

 

『たしかこういう時は『遅い』『ようやく来たのか』『来た。ノロマ来た』『メインノロマ来た』『時すでに時間切れ』っていえばいいんだったか?』

 

『ナイトは貧弱一般人よりも高みにいるからお前らのイタズラにも笑顔だったがいい加減にしろよ!ただでさえ人質とかいうネガ工作で俺のぎゃく鱗にふれてる上に追撃の挑発でさらに怒りが加速した!こっちが礼儀正しい大人の対応してればつけあがりやがってよ!』

 

『おっと動くなよ?コイツがどうなってもいいってんなら話は別だがな!』

 

 

……まあ、だいたい状況はわかった。

美波が嘘につられて捕まったってところだろう。

それなら、原因になった僕がどうにかするしかないじゃないか。

 

幸い、ふたりは踊り場に背を向けているから、踊り場までに気づかれなければ背後に回るのは可能だ。

この一年で先生に見つからないようにと培ってきた隠密移動の技術で、動きを悟られないように階段を上る。

……よし、察知はされなかった。

 

 

「お前らハイスラでボコ……おいィ?」

 

「お?どうしたんだ?ビビったのかよ?」

 

 

ブロントさんがこっちに気づいた。

やばい、ブロントさんが呆気にとられてる。下手したらこのままバレちゃうんじゃないのこれ?

Bクラスの生徒も、今にも殴りかからんとしていたブロントさんが急に止まったのに不審に思ってるっぽいし。

 

 

「誰がビビってるって証拠だよ!?怒りに任せると美波が骨になるから自制しただけ。見事な理由だと関心はするがどこもおかしくはないな」

 

「もういいわ……ウチごとやっちゃって!」

 

「……その必要はないぞ。こういうピンチの時こそチャンスなんだからな」

 

「何言ってんだ。ポル○レフだって三番しか選べねえのにお前らがどうにかできるわけないだろうが!」

 

「てめえにわかだな?結局あれはイ○ーが助けてくれたから答えは二番だっつーの」

 

 

須川君、ちょっとその答えは危なくないかな。バレちゃうよ?

だけれど、ここまでくれば関係ない。

ひっそり僕は二人の後ろを取ることができたんだから。

 

さあアイサツをしてやろう。

 

 

「さーて、これでお前らは終わりだが、最後に言い残すことはあるか?」

 

「……後ろに気をつけておくことをお進めする不意だまでお前の命は非常にまずい事になる」

 

「は?何を言って――」

 

「ドーモ、Bクラスノセイト=サン、ヨシイアキヒサです」

 

「アイエエエ!?」

 

「ヨシイ!?ヨシイナンデ!?」

 

「コワイ!」

 

「ゴボボーッ!」

 

「ハイクを詠め。カイシャクしてやる」

 

 

Bクラスの生徒二人は、僕が背後からアンブッシュしたことにより、ニンジャリアリティショックを起こしてしめやかにシッキン。

しかし、そのスキを見逃す僕ではなかった。

「Wasshoi!」常人の三倍の速力を持つショーカン・ジツで青装束を纏った僕の召喚獣が、天井から突如出現し、空気を切り裂くような3連続回転と共に着地した。

殺戮者のエントリーだ!

 

 

 

『               Bクラス 鈴木二郎

  Fクラス 吉井明久  VS

                Bクラス 吉田卓夫

 

 

                   33点

  英語W 105点

                  18点

                             』

 

 

 

 

 

「イヤーッ!イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 

Bクラス殺すべし。慈悲はない

アワレ二人は爆発四散。ワザマエ!

キンボシ・オオキイぞ。

 

 

「あ、アキ?」

 

「いやー、ちょうど良かったよ。階段を上がってくるときにたまたま背後に回れたからさ。美波大丈夫だった?」

 

 

床に座り込む彼女に手を差し伸べる。

Bクラスめ、なんて卑怯な真似を。

 

 

「…………」

 

 

素直に僕の手を掴んで、立ち上がる美波。

この間の戦争でも同じような事をした気がする。

 

 

「明久、無事でよかったよ。心配したんだからな?」

 

「ん、ありがとう。士郎も無事そうでなによりだよ」

 

「…………」

 

「お前らちょっと教室に戻って休んどけよ。明久も島田も色々疲れてんだろ?」

 

「そうさせてもらおうかな。少しだけ一息つかせてもらうよ」

 

「…………」

 

「俺はああヒーローは本当に偶然常に近くを通りかかるもんだなと納得した。しかも美波に手を貸して「もう大丈夫だな」といって必要最低限の施しだけしている姿は孤高の騎士だな」

 

「それほどでもないよ」

 

「謙虚だなー。憧れちゃうなー。そるにしても汚い連中だったな。ぜいいんが汚いわけじゃないが忍者の家来は平気でうそをつくのでBクラスのイメージが悪くなっている」

 

「別に笠松君の家来ってわけじゃないと思うけど……」

 

「…………」

 

 

どうも美波からのリアクションが芳しくない。

なんかやりにくい。

 

 

「さっきからどうしたのさ美波。黙りこくっちゃって」

 

「……アキ、ちょっといい?」

 

「何か用かな?」

 

「さっきのあいつらの言ってたこと聞いた?」

 

「…………えーと」

 

 

どうしよう。なんて答えたらいいんだ。

 

 

「ほむ……お前ら、今の言葉が聞こえたか?」

 

「聞こえた」

 

「確かに言ってた」

 

「…………僕のログにも確かにあるな」

 

 

そう言われたら、そう言うしかないじゃない。

だってこの三人、僕がいるのを見てたんだから。

 

 

「聞いたんだ……」

 

「べ、別にいいんじゃないかな?心配してくれてありがと――」

 

「ウチがアンタの様子を見に行っちゃ悪いって言うの!?これでも心配したんだからね!」

 

「いやだから、いいって言ってるじゃ――」

 

「普通に考えて三階から落ちたら怪我するんじゃないかって心配するでしょ!?それの何が悪いのよ!」

 

「悪くないから、全然悪くないって――」

 

「アキが死んで、ウチも殺すーー!!」

 

「美波、それ逆……逆でもさほど意味が変わらない……だと……?」

 

 

どっちにしろ無理心中である。

 

 

「ああぁ~……なんでバレるのよ……様子を見て大丈夫そうだったらこっそり戻ろうと思ってたのに……」

 

「ほー、じゃあ大丈夫そうじゃなかったらどうするつもりだったんだ?」

 

「どうするって、一生懸命看病を…………にゃああああああああああ!?」

 

「どーしてこの学園内の奴らはすぐに思ったことを口に出すんだよ」

 

「は、ハメやがったわね須川ァ!!あんたを殺してウチは生きる!!」

 

「それって普通に俺を殺してるだけじゃね?そいつはお断りだから逃げさせてもらうぜ」

 

「あっ!待ちなさい須川!」

 

「待てと言われて待つ奴は古今東西いねーよ!」

 

 

何やら赤くなった美波は、そのまま煽っていた須川君を追いかけてどこかに行ってしまった。

元気そうでよかったよかった。

 

 

「そういえば明久、霊夢はどうすた?」

 

「霊夢ならそこの階段の陰に隠れてると思うけど」

 

「そうか。おーい霊夢こっちにくるべきそうすべき……」

 

 

階段を下りながら声をかけるブロントさんが急に止まった。

 

 

「どうしたのブロントさん」

 

「何かあったのか?」

 

「……他の人も早く黙るべき起こしたくないなら黙るべき」

 

 

あれ?霊夢が寝ちゃってる。

そんなに疲れてたのかな。

 

 

「霊夢は色々なことはできる一級廃人だが体力だけは貧弱一般人だからな。瑞希と同じくらい体力がないという事実、英語で言うとノンフィクション。ここまででも霊夢は深い眠りに包まれるのが確定的に明らかに決まったのだがさらに攻撃は続く。次は体型に注目するのだが霊夢は昔は空腹でマッハになるほどの食生活であまり体内のカロリーはない。しかし最近の食事は量が多くあの部分でさらに霊夢に致命的な致命傷の眠気を与えられる。今も昼食後っぽいので眠気が宿ってそうで強い」

 

「そういえば、霊夢って貧乏生活だったんだよね……」

 

「そりゃあ体力もないはずだ」

 

 

それの割には結構肉付きはいいんだよね。

少なくとも美波よりははるかにある。どことは言わないけど。

 

 

「ともかく霊夢はしばらく眠らせるべ。このままにしていてもまともに戦えない戦いにくい。それなら休ませるほうがいいと思った、まあ一般論でね?」

 

「あー確かにそうかも」

 

「女の子には優しくしないとな。俺も賛成だ」

 

 

さっきも、全然攻撃が当たってなかったけど、もしかしたら疲れがたまってるせいかもしれない。

Fクラスって男が多いから、ついつい女の子の事情とかを忘れてしまう時があるもんね。

……だとしたら悪いことしたなぁ。

 

 

「霊夢、背中をおごってやろう」

 

「…………むー……おんぶ……」

 

 

よたよたと、ブロントさんの背中にもたれかかる霊夢。

その霊夢の重さを感じていないのかと思うほど、ブロントさんは立ち上がった。

 

 

「本当にブロントさんって力が強いよね」

 

「何をやったらそんなに鍛えられるんだ?」

 

「スポーツジムで体鍛えたらいいのではないか?強くなるのではなく強くなってしまうのがナイト」

 

 

とりあえずひと騒動が終わったし、一旦教室に戻ろう。

 


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