バカとナイトと有頂天   作:俊海

19 / 32
テストあったんで遅れました。
……はい、投稿早くなるとか言った結果がこれ。俺調子ぶっこき過ぎてた結果だよ?
許してくだしあ;;

まー今回も趣味をぶっちゃけた感じですし、いっそのこと別の小説も書いてしまおうかなと考える今日この頃。
この世界の番長サイドの話でも書こうかな(書くとは言ってない)

それではどうぞ


第十四話 バカとナイトと天敵襲来

「…………オウフ」

 

「完全にくたばっちゃってるねブロントさん」

 

「お、お前らに俺の苦労の何が分かるってんだよ……。肉体的なダメージじゃなくて精神的なダメージを貰った感。黄金の鉄の塊で出来てる俺だが、女の口先の魔術は破壊力バツ牛んだというあるさま……。霊夢とアリスが合わさり最強に見えてしまう……」

 

 

午後のテストも終わって放課後、机に突っ伏しているブロントさんがいた。

あのあと二人から尋問されまくっていたようで、精神力が底をついてしまっている模様だ。

肉体的に強くても、女の子の話術には勝てないみたいだね。普段は長文を話して無理やり納得させるのに。

 

 

「でも実害はなかったんでしょ?いろいろ質問されただけでさ」

 

「それに関しては「」確かになと思うが、俺はどちかというと忍者とかとタイマンしてる方が大得意。姦しい女の超パワーの前では、俺が下段ガードで固めても隙だらけだった」

 

「それぐらい役得だって思いなよ。女の子に構ってもらえない悲しき男子生徒だって世の中にはたくさんいるんだからさ」

 

「……男との交流の方が気楽という理由で、その根拠は回避された。俺は紳士だからよ、女には敬意を払うし真摯な対応をする。それだと気苦労で俺の寿命はマッハなんだが……」

 

 

イギリスって紳士の国だもんね、女性には気を遣ってしまうんだろう。

こうやってぶっきらぼうな口調だから誤解しやすいけど、ブロントさんってもともと面倒見がよくて誰からも好かれる感じの性格だからね。

彼女たちの質問にも逐一答えてたりしたんじゃないかな。

 

 

「……伝達力が言霊使いレベルまでぽぴいです」

 

「そんな人、普通に学生なんかやってないでしょ」

 

 

そんな能力があったら、ヒモでもホストでもなんでもやりたい放題じゃないか。

あっ、宗教家っていうのもありだね。

 

 

「それじゃあ僕は先に帰るよ?」

 

「そうか、明日も午前中はテストだから遅刻するなよ?」

 

「分かってるって」

 

 

心配性だな雄二は。

もう他のクラスメイトはほとんど残ってないし、さっさと帰っちゃうか。

ブロントさんは、しばらくそっとしておいたほうがいいだろうしね。

 

 

「今ついさっき思い出した。明久、零時にテレビを見る系の仕事をしたことはあるか?」

 

「夜中の?ゲームしてる時ならよくあるけど」

 

「いあ、画面が深いダークパワーに包まれてる状態の話なんだが」

 

「電源を切った状態のテレビなんて見ないでしょ」

 

 

深夜の零時に真っ暗なテレビを見たら何かあるんだろうか。

おまじない的なサムシング?

 

 

「さっき言ってた番長のシマではノーカンになってない呪いなんだが、その時間にテレビを見ると『なんだ急にPOPしてきた>>運命の相手』となるらしいぞ?」

 

「それをなんでブロントさんが知ってるの?」

 

「一瞬の油断のうちにメールを送った俺に隙はなかった。番長の居場所が分かる→友達が充実→心が豊かなので性格も良い→彼女ができる。番長がいくえ不明→交友関係が雑魚→心が狭く顔にまででてくる→俺もいくえ不明。ほらこんなもん」

 

 

久しぶりに番長って人とメールしたのか。

それなら知ってても当然だね。

 

 

「意外とここから近いところの学校に行ってるらしいから、ここで文化祭があればきょうきょ参戦すると言っていた。いままでも楽しかったがこれからどこまで楽しくなるのか楽しみで仕方が無い(極楽)」

 

「それだったら、文化祭なら結構近いうちにやるから再開するのも早くなるんじゃないかな」

 

「それを聞いて俺の楽しみが加速した」

 

 

ブロントさんは嬉しそうな顔になった。

仲の良かった友達と会えるならそうなるのは分かる。

さっきまで欝になってたのもどこへやら、普通に座り込むまでには回復していた。

ブロントさんはもう大丈夫そうだね。

それじゃあ改めて帰ろうか。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?姫路さん?」

 

「ひゃいっ!?よ、吉井君っ、まだ残ってたんですか?」

 

「……靴箱の中、まだ僕の靴残ってるんだからわかるでしょ?」

 

「あ、あはははははっ、そうですねっ、どうして分からなかったんでしょうか私っ」

 

 

下駄箱に着いた僕の視界に入ったのは、何か挙動不審になっている姫路さんだった。

そしてそれよりも問題なのが、姫路さんが片手に持っているブツだ。

それは、あからさまにラブレターめいた手紙なのだ。

 

可愛らしい封筒を必死に隠そうとしている姫路さんを鑑賞するのもいいけど、このままでは僕が対処に困るんだよね。

ここは気付かないふりをして帰るべきなのか。

 

 

「あ、あのっ、これはっ、これはですね、そのっ」

 

「うんうん。わかってる。大丈夫だよ」

 

「えっと――ふあっ」

 

 

慌てすぎて、段差につまずき転ける姫路さん。

その拍子に隠そうとしていた手紙が僕の前に飛んできた。

 

 

《あなたのことが好きです》

 

 

「……………………」

 

 

どうしよう、そっとしておけなくなったんだけど。

ラブレターなのが確定しちゃった今、何もごまかせなくなってしまった。

ただでさえ姫路さんがそんなものを出したというのが、なんとも僕の心に軋轢をかけているのにどうしたものか。

 

 

「……………………」

 

 

飛んできた手紙を綺麗にたたみ、姫路さんに返してあげる。

姫路さんを気遣うように笑顔で一言。

 

 

「変わった不幸の手紙だね」

 

 

もう現実を認めないセリフで適当にお茶を濁すしかない。

実際なんかショックだったし。

 

 

「あ、あの、それはそれですごく困る勘違いなんですけど……」

 

「そんなことしないでも、言ってくれたら僕が直接手を下してあげるのに。ああ大丈夫、証拠は絶対に残さないから」

 

「吉井君。これは不幸の手紙じゃないですから」

 

「嘘を言わなくてもいいんだよ?それは不幸の手紙なんだ。実際に僕は結構不幸な気分になってるしさ」

 

 

ここは不幸の手紙と言い張らないと、姫路さんを傷つけることになる。

誰が好き好んで、他人に宛てた自分のラブレターを第三者に見られたがるんだ。

このまま僕はラブレターだと気づかなかった体を装って……

 

 

「もういいですから。認めます、これは吉井君の想像している通りのものです」

 

「えーもしかしてラブレター?そうなんだー。へー、全然気付かなかったよー」

 

 

こういう時、自分の演技力の低さが恨めしい。

もう少しまともな芝居はできないものなのだろうか。

棒読みもいいところじゃないか。

 

 

「クラスメイトの誰かかな?」

 

「……はい。そうです」

 

 

顔を真っ赤にしながらも迷いなく答える姫路さん。

相手は誰なんだろう。雄二か、士郎か、はたまたブロントさんか。

うん、僕が勝てる要素がどこにも見当たらない。

雄二も士郎も、見た目はそれほど相手に不快感は与えないし、ブロントさんに至っては高身長のイケメンだ。

なんで僕の周りはこんなに顔面偏差値が高いんだ。

 

 

「その人のどこがよかったの?まぁ外見はいいのは分かってはいるけどさ」

 

「あ、いえ、外見じゃなくて、あっ、もちろん外見も好きですけど!」

 

「羨ましいなあ、僕は外見に自信がないから嫉妬しそうになるよ」

 

「え?どうしてですか?吉井君、とっても格好良いじゃないですか!私の友達も結構騒いでましたし!」

 

「え?ホント?」

 

 

なんて酔狂な友達なんだ。

姫路さん共々、曇った眼鏡をかけているとしか思えない。

それとも傷つかないようにフォローしてくれてるのかな。

 

 

「はい。坂本君と一緒にいる姿を見て『たくましい坂本君と美少年の吉井君が歩いているのって絵になるよね』って言ってましたよ?」

 

「……独特な感性の友達だなぁ。何か裏がありそうなんだけど」

 

「『やっぱり吉井君が受けなのかな?』とも」

 

「感性が独特すぎるね。その友達と距離を置いたほうがいいと思うな。姫路さんにはまだ早い」

 

 

そんなことだろうと思ったよ畜生。

 

 

「それはおいといて。外見もってことは中身が良いの?」

 

「あ、はい。そうなんです」

 

「確かにみんな、胃袋とか肝臓とか頑丈そうだもんね」

 

 

姫路さんの料理に耐性がある人間が好みなのかな。

僕にはとてもじゃないけど収まりそうにない。

 

 

「そうじゃなくてですね。性格の方ですよ?」

 

「……いや分かってたよ?うん」

 

「もう私の料理は不味いって自覚してますからとりなさなくてもいいですよ?」

 

「ごめんなさい」

 

 

ブッダが寝ていると思ったら、ここにいたでござるの巻。

性別も超越するとは、さすがは人間の枠を超えた存在だ。

僕の失言を笑って流してくれるなんて。

 

 

「その人はですね。優しくて、明るくて、いつも楽しそうで……私の憧れなんです」

 

 

なるほど、そりゃ惹かれるよ。

だって、その人の話をする姫路さんの笑顔が本当に綺麗なものだったんだから。

そんな風に想うだけで笑顔になれる人なら、姫路さんにふさわしい人間に違いない。

 

 

「その手紙、いい返事がもらえるといいね」

 

「はいっ!」

 

 

嬉しそうに返事する姫路さんは、本当に魅力的に映って、そんなに想われてる人のことが心底羨ましいと思った。

 

 

「それじゃ、僕は先に帰るから。頑張ってね」

 

「ありがとうございます!」

 

 

僕が校舎から見えなくなるまでこっちに向かって手を振っていた姫路さんは本当に可愛らしく見えた。

そして、僕は姫路さんの姿が見えなくなったあたりで、全身の力が抜けた。

 

 

「あー……疲れた……テスト受ける数倍疲れた……」

 

 

当たり障りのない返答を僕は出来ただろうか。

あんなに真剣になって強く相手を想える姫路さんを励ますことができただろうか。

そんな答えの出ない問答を僕は一人で繰り返していた。

 

 

「……もう早く帰ってゴロゴロしよう。疲れきったよ」

 

「あー!明久さんじゃないですかー!」

 

「へ?美鈴さん?」

 

 

後ろから美鈴さんに声をかけられた。

満面の笑みで、手を振りながらこっちに駆け寄ってくる姿は、どことなく人懐っこい犬を連想させる。

……やばい、頭を撫でたい衝動に駆られるんだけど。

 

 

「ちょっと美鈴さん。犬の鳴き真似してくれる?」

 

「ワンッ!ワウワウ!」

 

「迷うことなくやってくれた!?」

 

 

なんて素直でいい子なんだ。

しかも嫌そうな顔を一つもせず、笑顔全開で鳴き真似してくれた。

一体この犬はどこのペットショップに売ってるんだ。言い値で買おう。

 

 

「じゃなくて!なんで言われた通りにやっちゃうの?普通不審がるんじゃないの?」

 

「あれ?犬の真似はお気に召しませんでしたか?もしかして猫の真似の方が良かったですかね?」

 

「お願いします」

 

 

僕のこの口はどうにかならないものか。

割と真面目に自分の口を縫い付けることを考える。

 

 

「ニャーン!ウミャーオ!」

 

「ゴブッ」

 

 

だめだ。なんだか鼻の奥が熱い。

わざわざ猫手にして鳴いてくれるとは、サービス精神が旺盛すぎやしないか。

そもそも何で僕は、美鈴さんにわけのわからない指示を出しているんだ。

 

 

「ゴメン美鈴さんっ、僕が悪かったです!」

 

「別に嫌じゃなかったですけど?鳴き真似くらいいくらでもしてあげますよー」

 

「なんでそんなに僕に対してオープンなのさっ」

 

「明久さんは友達ですもん。ちょっとくらいの頼みなら断るわけないじゃないですかー」

 

 

姫路さんがブッダなら、美鈴さんはメシアだろうか。

僕の周りには聖人が多すぎる。

天使か、女神か。

 

 

「それはそれとして、そっちも授業終わったんだ」

 

「はい。昨日は補習でなかなか帰れなかったので、開放感がすごいですよー」

 

 

そんなに長かったんだ。

なんとも、ご愁傷様としか言えない。

 

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

「えっ」

 

 

突如、美鈴さんが僕の手を掴んだ。

困惑している僕をよそに、なんとも嬉しそうな顔をしてそのままどこかへと僕を引っ張っていく。

何?カツアゲ?

 

 

「言ったじゃないですか。私が武術を教えますって」

 

「あの約束有効だったの!?」

 

 

あれは美鈴さんのその場の善意が出てきたのであって、本当に約束を守ってくれるとは思ってなかった。

というか、僕もういろんな意味で疲れてるんだけど。

 

 

「さーレッツゴーですよー」

 

「え、ちょっと、何この子力が強い!」

 

「怖がる事は無いですよー。さ、力を抜いてくださーい」

 

「その言葉のセレクトは一体どこから来てるの!?別の意味に聞こえちゃうよ!」

 

「大丈夫です。初めてだったら最初はきついかもしれませんが、なるべく痛くはしないです。優しくしてあげますよー」

 

「できれば僕はそのセリフを聞く方に回りたくはなかった!美鈴さん、狙ってそういう文章を選んでたりしないよね!?あといきなり過ぎて僕も心の準備が出来てないんだけど!」

 

「いやー私はもう、いつ明久さんにそういうことができるのかと待ち望んでいたんで、今から辞めるっていう選択肢はないですよー。最初ですからゆっくり慣らしていく感じで、先っちょ、本の先っちょだけですから」

 

「あーわかったわかった!先っちょって武道の心得の入門編的な意味だよね!それの頭のところを少し教えるって意味だよね!?それと美鈴さん意外と強情なんだって今ようやく気付いたよ!いやー!無理やりはいやー!」

 

 

なにか叫んでる僕だったけど、そんなことはお構いなしに僕をどこかに連行していく美鈴さん。

彼女の力はあまりに強く、僕はただなすがままになっていた。

僕の周りの女性陣は、あらゆる意味で強い気がするのは僕だけなんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……結局、美鈴さんに付き合っちゃった……」

 

 

あの過酷な下校時間を迎えた翌日の朝、学校に向かう僕は満身創痍であると自他共に認める状態だと断言できる。

昨日なんだかんだで美鈴さんの武道の稽古に付き合ってしまい、ただでさえ疲れきっていた僕の体はボロボロの様相を呈しているからだ。

しかもあっちこっちをぶつけたりするもんだから、今の僕の外見はミイラ男に等しいほどの包帯を巻きまくっているし、パッと見で病院から抜け出したとしか思えない姿だろう。

 

 

「あ、ブロントさんおはよー」

 

「……うむ、明久おはよ……本当に明久か?」

 

「こんな姿だけど僕だよ」

 

 

ブロントさんをたまたま見つけたけど、思ったとおり認識されなかったよ。

顔の半分以上が見えてないもんね、僕。

 

 

「って、ブロントさんも頭に包帯巻いてるじゃない。一体どうしたのさ」

 

「……番長にハメられた感。いあハメられたというのはどちかというと大反対で、乗せられたというか鬼なる」

 

 

よく要領を得ない言い方だ。

そもそも番長なる人物は、この近くにはいないはずなのに。

 

 

「深夜あたりでテレビに頭から『のりこめー^^』してたらこのあるさま。画面ガードを固めたテレビに隙はなかった」

 

「いつからブロントさんは三次元と二次元の区別ができなくなったの!?」

 

 

いくらテレビの世界に行きたいからといって、僕たちはその世界に行くことなんかできないのは子供の時に分かることでしょ。

だというのに、ブロントさんはテレビに頭を突っ込もうとしていたらしい。

そして、真夜中にテレビに向かって頭をガンガンぶつけるブロントさんの姿を想像すると、あまりにもシュールすぎて、一瞬笑いそうになった。

 

 

「お前頭悪いな、証拠も出さずに俺がバカになったと思う浅はかさは愚かしい。勝手に人を判断するのはずるい」

 

「どう考えてもその行動は、そうとしか取れないと思うんだけど……」

 

「そう言うと思って、俺は証拠のログは確保したからな言い逃れはできない。そういう奇行に走ったのもこの証拠で完 全 論 破してやるのが弁護士の醍醐味」

 

「ブロントさんは弁護士じゃないでしょ」

 

 

どんな証拠を出されたとしても、ブロントさんがテレビに入ろうとしていたのは事実だ。

それは揺らがないし、テレビには入れないことも常識だから、ブロントさんがおかしい行動をとったのは否定できない。

まぁ、もし仮に、テレビに入れるようになったとかだったら話は別だけど。

 

 

「これが証拠ログ」

 

「…………」

 

 

そう言って僕に向けて差し出されたのはブロントさんの携帯だった。

画面を見ると、その番長という人から送られてきた写真付きのメールらしいのが分かる。

そして、そのメールに添付されている写真を見た。

 

 

 

そこには、テレビに手を突っ込みながらこっちを無表情で見つめている少年の姿が写っていた。

 

 

 

 

「…………」

 

「どうやらテレビに手が入ったらしく『このままでは俺の腕がマッハなんだが』と泣き叫ぶ貧弱一般人とは違って番長は勇気力が二歩も三歩も出ている状態だからよ俺に報告するために番長はとんずらを使って普通ならまだ撮れない時間できょうきょカメラを起動するとすばやくフラッシュを使い激写したと言ってたが」

 

「……いや、これってただのトリック写真とかでしょ?普通に合成写真とか、壊れたテレビを使ったとかじゃない?」

 

「なんか写真のはしっこから顔出してきた時計を見たら昨日と今日が合わさる時間に撮っているのは火を煮るより明らか。メールが届いたのはそれから九分後だから合成できないできにくい。しかもテレビも変なノイズが走ってるし画面が壊れてはいないという意見。やはり事実だった」

 

「普通に考えて、そんなことが起こるなんておかしいでしょ!?」

 

「オカルトの中心的存在の召喚獣を使ってる明久たちに言われたくないんですがねえ……」

 

 

う……そう言われると、否定できない。

召喚獣も、言ってしまえば科学とオカルトが混ざったものだし、一概にオカルト的なものを否定できないのは確かだ。

でも、だとしても、どうしてこんな異常事態なのに、写真を撮っているこの少年はこんなにも落ち着き払っているのかってことが気になるよ。

 

 

「それはどうでもいい重要なことじゃない。明久こそどうしたらそんなプリケツ晒すレベルにまで怪我してるのか、これがワカラナイ」

 

「あー、美鈴さんに太極拳を教えてもらってたんだよ。この間の試召戦争で約束してたし」

 

 

正確には、拉致されたが正しいけど。

 

 

「ほう、リアルでもモンクタイプになるつもりなのか。戦争でも経験が生きるのは確定的に明らか。これから明久の成長は鯉のぼりになるだろうな。喧嘩の強い人すごいなー憧れちゃうなー」

 

「いや、それこそブロントさんに言われたくないから」

 

 

片手で人間を持ち上げるような人にそんなことを言われても、ブロントさんじゃなかったらイヤミにしか聞こえない。

それとも、遠まわしに自画自賛してるのかも……ブロントさんに限ってそれはないな。

 

 

「ブロントさんなんか、今まで喧嘩で負けたことないでしょ?あれだけ筋肉あるんだし」

 

「……あるよ」

 

「えっ」

 

「喧嘩で負けたことくらいある」

 

 

そんな馬鹿な。

僕の見立てだったら、中学時代『悪鬼羅刹』とか中二病臭いあだ名をつけられていた雄二にすら完勝できるぐらい腕っ節はあると思ってる。

実際、あの筋力は常識では測れないぐらいのものだったし、明らかに喧嘩慣れしている動きでもあったんだ。

そのブロントさんが負けるところなんか想像できない。

 

 

「口喧嘩で負けることは稀によくあるが、真剣な喧嘩という意味のタイマンでは多くの不良を殺してきたのは事実、英語で言うとノンフィクション。それでも、あれには一度も勝った試しがない俺は深いトラウマに包まれた」

 

「……それって誰のこと?」

 

 

ブロントさんに心の傷を負わせられるほど強いって、どこの鬼なんだろう。

精神的にも肉体的にも強そうなブロントさんが、ガタガタ体を震わせてきて、顔色も悪くなってきている。

そして、その重い口を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……姉ちゃんだ」

 

「……お姉さん?」

 

 

ブロントさんのお姉さん?

あまりにも意外すぎる答えを聞いて、少し放心しかけたけど慌てて我に返って質問する。

 

 

「それって子供の頃のこと?だったら仕方ないと思うけど」

 

「いあ、今やっても勝てにいだろうな。実の弟の俺にリアルで殺意向けてヤバかったし、俺よりも剣とか使うスキルがA+を飛び抜けてSクラスレベルだし勝負するだけ無駄。それになんか俺よりも筋力強いとか絶対バ開発のせいだろ、汚いなさすがバ開発きたない」

 

 

どこのマウンテンゴリラだ、そのお姉さん。

ブロントさんより強いって、それもう人型決戦兵器じゃない?

 

 

「お姉さんってどんな人?」

 

「……文月学園にいる」

 

「えっ」

 

「普通に文月学園にいる。「これほど運がないと逃げらるるわけがない」と諦め表情になった」

 

 

そんな人、ウチにいたっけ?

いろいろ個性が強い生徒が多い文月学園でも、そんな修羅みたいな人はいなかったはず……

 

その時、ふと登校初日のことを思い出した。

そういえばあの時も、ブロントさんはやたら怯えていたような……

 

 

「ブロントさん?もしかしてお姉さんって……」

 

「お、明久にブロントさん。奇遇だな」

 

 

答えらしいものにたどり着いた僕のセリフを遮って、後ろから声をかけてくる生徒が一人。

反応して後ろに振り返ると、こちらに近づいてくる士郎の姿があった。

なんというか、タイミングがいいのか悪いのか……

 

 

「ああ、おはよ――っ!?」

 

 

ブロントさんも倣って振り向くと、いきなり固まった。

その顔は驚愕の色に染まっていて、次いで尋常ないほどの汗が吹き出してきている。

まさに、恐怖一色に染まったブロントさんは、士郎から――――正確には、士郎の隣にいる人物から遠ざかろうと後ずさりし始め――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、久しぶりですねブロント」

 

「Why!?Why is there you here!?(どうして!?どうしてこんなところにいるんだ!?)」

 

「随分な挨拶じゃないですか。実の姉に向かって」

 

「あ、姉といっても双子ですしおすし……」

 

 

驚きすぎて、一瞬英語になったブロントさんを睨みつけるように返すは士郎とともにここに今しがた来た金髪の美少女。

彼女は、さっき僕がブロントさんに聞こうとしていた女生徒だ。

剣道部に所属していて、いつも冷静沈着、律儀で丁寧、とことん真面目、そして負けず嫌いといった『正統派な人間』というのを体現しているかのような性格の持ち主。

僕達と一緒に入学してはいるが、イギリスからやってきた彼女の名前は――――

 

 

「なんだアルトリア。ブロントさんの知り合いだったのか?」

 

 

アルトリア・ペンドラゴン。

何故か、弓道部であるはずの士郎と一緒にいるところを目撃される女の子である。

 

ブロントさんを萎縮させるほどの眼力で、ブロントさんを横目で見つつ、士郎の問いに返事した。

 

 

「いいえシロウ。知り合いどころか私の愚弟ですよ。時折家を飛び出したかと思えば、一年ほど帰ってこなかったりするほどの『冒険者』などを自称する不良ですがね」

 

「あ、あれは親の許可はとっているからその問題は回避され――」

 

「私や弟などには全く報告せずにということに目を瞑れば、の話ですがね!」

 

「……すいまえんでした。許してくだしあ……」

 

 

そのまま頭を下げるブロントさん。

うん、でもまあ、その気持ちはわかる。

ブロントさんの近くにいいるだけの僕でさえ、膝が大爆笑しているんだから。

 

それを見かねたのか、それともはたまたいつものように空気が読めていないだけなのか、士郎がアルトリアさんの肩を掴んで宥め始めた。

 

 

「……アルトリア?そこまで言ってやるなよ。そんなに弟に強く当たったらダメだ」

 

「ですが、今回でさえもブロントからの連絡は一切なかったんですよ!?今年度の初日に私の姿を見ているにも関わらず、姉である私のところに来なかったのはおかしいでしょう!?」

 

「だからと言って、そんなに威嚇するように喋ってたら言葉につまるじゃないか。姉だからこそ、少しは弟の行動を許してやるほどの寛容さが必要だと思うぞ」

 

「そんな少しのことを許していたら、ブロントはどこまでもつけあがるんです!そもそも『少し』では収まらないぐらいのことをブロントはしてきてるんですからね!!」

 

「男なんてそんなもんだ。特に今は思春期の真っ只中なんだし、色んなことをやりたい盛りでもあるし、家族とは少し距離を置き始めたりするのは必然といってもいい。男のことを理解してやってくれ」

 

「それが度が過ぎているというのです!ブロントのことを全く知らないシロウがとやかく言わないでください!」

 

「なっ!その言葉を訂正しろ!俺は確かにブロントさんと接している時間はアルトリアよりも短いさ!それでも少なくともブロントさんは良い奴だってことは分かってるぞ!それに男でしか理解できないことだってあるってことを理解していないアルトリアに言われたくはない!」

 

「あなたは昔からそうなんですから!そうやって人を甘やかして!そんなのだから周りにお人好しだの言われるのです!少しは自分を顧みてください!」

 

「お人好し上等だ!そんなこといったらアルトリアだって自分を顧みないどころか、責任感が強すぎて自分の体が壊れるまで無茶をするじゃないか!」

 

「「ぐぬぬぬぬ…………!!」」

 

 

え、何これ怖い。

ありのまま今起こった事を話すよ。

「士郎が仲裁していると思ったら、いつのまにか痴話喧嘩が始まっていた」

何を言っているのか、分からないと思うけど、僕も何が起きたのかわからなかった…………頭がどうにかなりそうだった……

女誑しだとか天然だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったんだけど。

 

なんていうか、話している内容も、子供をどう教育するかで喧嘩している夫婦みたいなものだったし、最後の方とかただ惚気けているだけじゃない?

いつの間にか、動かなくなっていたはずの僕の足も動くようになってるし、今のうちに……

 

 

「――っは!?ブロント!あなたは何をコソコソ逃げようとしているんですか!!」

 

「こ、これはただ遅刻しそうになったから学校に向かおうとしただけ!見事な仕事だと関心はするがどこもおかしくはないな!」

 

「まだ30分以上余裕があるでしょうが!!待ちなさい!!」

 

「とんずらァ!」

 

「私から逃げ切れると思っているんですか!!」

 

 

いつの間にか逃げようとしていたブロントさんを目ざとく察知したアルトリアさんは、ブロントさんを追いかけ始める。

全力疾走で走っているブロントさんを見て、なぜだかわからないけど『今日の一時間目はブロントさん僕と同じくらい包帯巻いてそうだな』ということを確信してしまった。

 

 

「……士郎?行く?」

 

 

僕にはもう、どうすることもできない。

できることは、士郎と一緒に登校することぐらいだ。

 

 

「……ああ。アルトリアは足が速いから俺も追いつけないし、助けに行っても無駄だろうしな。……ったく、アルトリアも、もう少しは落ち着きを持つっていうのをだな」

 

「ははは……」

 

 

もう乾いた笑いしか出てこなかった。

言ってるそれが、特別な関係的なアトモスフィアを醸し出しているからだ。

もしかして士郎の受け流し・ジツを強化してしまったのは、彼女も関係しているのではと思ってしまう僕がいる。

 

 

「……今日の夕飯は、アルトリアの量だけ減らしてやる」

 

 

交際しているどころか、同棲しているレベルの発言がエントリーしたような気がしたけど『今のは空耳だ。いいね?』『アッハイ』という脳内会話が発生したので、聞かなかったことにした。

……あれ?ここ最近ブロントさん、災難にしか巡り合ってないような……

 

…………気のせいだろう。多分。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。