バカとナイトと有頂天   作:俊海

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いったい自分はどれだけ投稿してなかったのか……
忘れてる方もいるんじゃないでしょうか。
遅くなったとしても、書き続けるつもりなので、できれば見捨てないでくださると幸いです。


第八話 バカとナイトと女侍

「これでようやく3対3の互角ってわけだね」

 

「まさかそっちにも援軍が来るなんて、タイミング良すぎじゃないですか?」

 

 

『Fクラス 吉井明久  VS  Dクラス 紅美鈴

 

  化学  108点   VS 92点  』

 

 

美鈴さんの言うとおりだ。

ブロントさん達は主人公補正でも持ってるんだろうか、と疑ってしまうくらいここに参戦するのがグッドタイミングだった。

しかも、僕たちが助けようとしていた相手に助けられるなんて、なんというか皮肉だな。

 

 

「わりいがそいつは違うぜ。なんせ俺がブロントさんを連れてきたんだからよ」

 

「どういうことですか?」

 

「吉井がジャ○プの主人公みてえに『俺に構わず先にいけ!』なーんて分かりやすい死亡フラグ立てて行きやがったから、急いでブロントさんのところに行って連れてきたんだ。なんか途中で『うにゅうにゅ』言ってるバカっぽい女もいたけど正々堂々不意打ちしてなァ」

 

「それって正々堂々からかけ離れているように思えますが!?」

 

「正々堂々だ。『不意打ちとは、相手の力量に対して敬意を払っている、正々堂々たる行動だ』なんて昔の偉い人が言ってたような気がしてるけどそうだったらいいなあ」

 

「途中から自信なくなってるじゃないですか!!不意打ちはだめでしょうが!!」

 

「バカかお前?きょうびなーんの捻りもないようなマンガは流行らねーんだよ。実際真面目に脳筋見たくゴリゴリ戦う正統派の主人公より、身体能力じゃなくて策略で戦うやつの方が人気が出たりすることもあんだろ。正直俺はNARUT○の中ではナ○トよりもシカ○の方が好きだし」

 

「一体何の話をしてるんですかあなたは!!」

 

「現に時代は北○の拳よりジョ○ョを受け入れちまったんだ。なんか殴り合ってるだけでストーリーがよくわからねー漫画を原○夫が描いてるあいだに、荒木○呂彦はス○ンドバトルとか創意工夫を凝らしてワンパターンな展開をなくしてたっていうたゆまぬ努力が人気の差に出てきてるんだ。絵柄はほとんど同じだったのに、こうも差がついちまったって結果が出てんだよ」

 

 

須川くんは一体何を熱弁しているんだろう。

 

 

「いい加減にしてください!!」

 

 

ほら魂魄さんが耐え切れなくなって本気で怒り始めて……

 

 

「北○の拳をバカにするつもりですか!?訂正してください!!」

 

「そっちのほうが重要なの!?」

 

 

やっぱり魂魄さんもなにかずれてた。

……なんだろう、常識ってなんだろう……

 

 

「ワンパターンって言いますけど、新たな敵が出てくるたびに新しい技をケン○ロウは披露してきたんですからね!そっちだったら本当の意味での必殺技なんて数えるくらいでしょう!?こっちの必殺技はまさに『必ず殺す技』なんですよ!そういうのが琴線に触れて昔の大人たちが北○の拳を愛読していたからこそ、パチンコとかもやってるんじゃないですか!!」

 

「いーや、ジョ○ョの方が上だね。最近アニメ化したし、今の奴らも知ってるじゃねーか。パチンコになってないって言ったら『ドラゴ○ボール』もだろうが。それに必殺技がないって言ってるけどジョ○ィは必殺技持ってるからね?『タ○ク・ACT4』なんて『絶対殺すマン』って言われてんだからな?あのかっこよさは誰にも真似できねーから。だいたい北○にゃ名台詞なんて『お前はすでに死んでいる』とか『退かぬ!媚びぬ!省みぬ!』やら『我が生涯に一片の悔い無し!』とか数えるくらいしかないだろ。ジョ○ョなんか数えてたら百以上あるんじゃねーか?」

 

「抜かしましたね!?その考え方を修正してあげます!!波○使いは北○神拳の前では死、あるのみです!北○の拳こそが至高の漫画だと、その脳みそに叩き込んで差し上げましょう!!」

 

「はっ!間違ってんのはてめえの方だ!所詮ケン○ロウは承○郎にガチバトルでも人気度でも勝てねえってんのが証明されてんだ!ジョ○ョこそが究極の漫画だって教えてやらァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

『Fクラス 須川亮  VS  Dクラス 魂魄妖夢

 

  化学  76点   VS 104点  』

 

 

こっちはちょっと須川君の点数が不安になりそうだ。

それ以上に、須川君達のテンションの方が不安だけど。

どうして、いつの間にか『好きな漫画決定戦』みたいなノリになってるんだろう。

須川君も魂魄さんも、漫画が好きなんだろうか。

僕はどっちも好きだけど、なんだってこんな場面で自分の主義をぶつけ合ってるんだろう。

 

須川君の召喚獣は、だらしなく着崩した白い着物に、木刀一本を装備してるだけ。

一方で魂魄さんは、緑の服を身にまとって、日本刀を二本持った二刀流。

見た目からすると、須川君に勝目が見えない。

でも、あれだけ言ったんだ。何か策があるのかもしれない。

 

 

 

 

 

「俺は古代から居るナイトなんだが、やはりナイトは盾を持ってないといけないと思った。まあ一般論でね?両手剣を持って振り回してる奴はただのバカにしか見えないでアワレになる。剣は捨てても盾は捨てるなという名セリフを知らないのかよ」

 

「ナイトに必要なのはwwwww身を守る盾じゃなくてwwwww敵を倒す剣なのだwwwwwうはwwwww俺様かっこよすぎーwwwww修正されないでwwwww」

 

「もういいからバカは黙れ。昔からお前は頭がヒットしてるんですわ、お?不良時代にお前らが鬼の首みたいに攻撃するからバラバラに陣形が引き裂かれて俺たちが盾できるタゲから外れて行ってたのを忘れたのかよ。そうだったらその脳みそは必要ないな後ろから出汁をとって味噌汁にしてやろうか?」

 

「やめてくれよんwwwww俺様の初代ゲームボーイ並みのwwwwwスペックを誇るwwwww脳みそが壊れちゃーうwwwww灰色の脳細胞が失われるなんてwwwwwこんなのwwwww普通じゃwwwww考えられないwwwww助けて妖夢たんwwwww」

 

「あなたは一回頭を修理した方がいいんじゃないですか!?灰色の脳細胞じゃなくてピンク色の脳細胞でしょうに!!」

 

 

戦闘中の魂魄さんは、内藤くんの方はちらりとも見ずに内藤くんの話したことを訂正している。

あの状況でもツッコミができるなんて……スゴイと感心するところなのか、そんなことに慣らされてしまったことを悲しむべきなのか。

 

 

「うはwwwww四面楚歌wwwww天才はwwwww一般人にwwwww受け入れられないのねwwwww俺様wwwwwやっぱりwwwww伝説のwwwww勇者だぜwwwww」

 

「お前が勇者だとか言ってる時点で相手にならないことが証明されたな。本当の勇者なら口で説明したりしないからな。口で説明するくらいなら俺は黙って世界を救うだろうな。俺、レベリングで100とか普通に上げるし!」

 

 

お互いにタンカを切っているのは、ブロントさんと内藤君だ。

昔馴染みというのもあってか、互のことを言うのに遠慮がない。

 

内藤くんの召喚獣は、見た目はブロントさんと同じような鎧を着ているけれど、持っている武器が全く違う。

ブロントさんは片手剣に盾を装備した、ナイトと言われたらほとんどの人が想像できそうな格好をしているけれど、内藤君は召喚獣の身長よりも圧倒的に長い両手剣を持っていた。

あれだと、リーチや破壊力はブロントさんを上回るかもしれないけど、防御がおろそかになってしまう。

防御を重視するブロントさんと、攻撃を重視する内藤君の違いなんだろうか。

さてさて、内藤君の点数は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Fクラス ブロントさん  VS  Dクラス 内藤

 

  化学  59点   VS 47点  』

 

 

…………………………………えっ

 

 

 

「………………………………えっ」

 

「………………………………えっ」

 

「………………………………えっ」

 

 

何それこわい。

 

 

「かかってこいよ!黄金の鉄の塊でできたナイトが、両手剣装備の内藤に後れを取る筈がない!」

 

「久しぶりにwwwww俺様とwwwwwブロントwwwwwどっちがナイトに相応しいかwwwww勝負だぜwwwww」

 

「ちょっと待たんかいィィィィィィィィ!!!!!」

 

 

須川君が魂のツッコミをした。

間違いなく、須川君がやらなかったら僕がやっていたけど。

なんでブロントさんの点数があんなに低いんだ?

 

 

「どーいうことだよこの点数!?ブロントさんよぉ!お前頭良かったんじゃねーのかよ!?あの英語の高得点はどこに消えた!?俺より点数低いのによくもまああんなふうにタンカ切れるなお前!?」

 

「これは俺の本来の実力とは無関係。俺は正確な答えを書いたのに汚い教師どものせいで間違いだと言われる始末。「正しいのに正しくなかった」という表情になった俺は深い悲しみに包まれた。あいつらは日本語も読めないバカなのが確定的に明らか。この学校の教師ももうダメかな」

 

「明らかにテメーのその珍妙な日本語のせいだろうがァァァァァァァ!!!そのノリで回答書いてたらそりゃ間違いにされるわ!英語の点数が良かったのは英語で書けるからだってことかよ!!」

 

 

そりゃそうだ。

僕ぐらいしか通訳できる人間がいないのに、ブロントさんの言葉を先生たちが理解できるはずがなかった。

……これってやばいんじゃ……

 

 

「うはwwwwwブロントのやつwwwww味方からフルボッコwwwww君たちwwwww喧嘩はよくないよwwwww」

 

「うっせぇ!!俺はてめえにもツッコミてぇんだよ!!俺より上のクラスであるDクラスの奴がなんでスライム程度の戦闘力しか持ってねーんだよ!!Fクラスでももう少しまともな点数取れるわ!!そんなんでDクラスになれるんだったら俺だってDクラスだろうが!!むしろお前のその点数よりこの学年の三分の一以上が低いって事実に絶望しそうだわ!!」

 

「ま、待とうよ須川君!まだ内藤君が今までの戦闘で点数を削られたって可能性が残されてるよ!きっと今まで激戦で半分以上減ってるんだ!!」

 

「そ、そうだよな!?まさか俺達がこんなバカみたいな点数のやつよりもバカだってことは流石にねーよな?……おい内藤、いままで負傷したよな?だから点数下がってんだよな?」

 

「確かにwwwww西京の俺様もwwwww無傷ってわけにはwwwwwいかなかったぜwwwww名誉の負傷だからwwwww全然wwwww恥ずかしくないけどさwwwww」

 

「……なんだよおいー。そうならそうと早く言えよなー。全く、俺にも勝るお茶目っぷりだなおい」

 

 

おそらく須川君が内藤君にこんなに食ってかかっているのは、こんなに低い点数をとっている内藤君が、自分よりも上のクラスにいるってことに不平等さを感じているからに他ならない。

でも、この点数が内藤君の実力じゃないって確率が数%とはいえあるんだ。

むしろ、ブロントさんとタメをはれるほどの人なんだし、連戦してきたと考える方が自然だろう。

そう諭したら、内藤君も肯定してくれたし、なんとか須川君は冷静さを取り戻した。

ふう……やれやれ……

 

 

「流れ弾でwwwww3点wwwww減ったwwwwwだけだけどwwwww」

 

「「ふざけんなコラぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 

そりゃ怒る。いくら温厚な僕でも怒る。

須川君とともに、内藤君にツッコミを入れた。

 

 

「3点じゃ何にも変わってねえよ!!せいぜいスライムがスライムベスになっただけだろうが!!そんなんじゃキングスライムにすらなれてねえよ!!それでも俺より点数低いって結果が変わってねえだろうがァァァァァァァ!!!」

 

「名誉の負傷ってなに!?内藤君の中では流れ弾当たるのは名誉なことなの!?そんなのだったら映画のモブキャラ全員英雄と同じじゃないの!!」

 

 

やっぱりDクラスにはまともな人がいない……っていうか、まともじゃない人のレベルが僕の理解の範疇を超えている。

あれほど破天荒だった須川君でさえも、この人に比べると幾分マシに見えるほどに、内藤君はぶっ飛んでる。

ブロントさんが知り合う人は、変な人ばかりのような気がしてならない。

 

 

「おい!?Dクラスの奴ら、上白沢先生と船越先生連れてきてるぞ!」

 

「先生の数を増やして一気に攻め落とすつもりか!?」

 

 

茶番劇をやっていると、遠くの方から何やら不穏な会話が聞こえてきた。

おそらく先生の数を増やしたのは、採点目的じゃなくて立会人になってもらうためなんだろう。

これ以上戦線が拡大されたら、自力の差が出てきてしまう。

そうなると、僕たちの勝ちが遠のいてしまうのは明らか。

 

単純戦力で劣るなら、有利な状況を作らないといけなくなる。

 

 

「ブロントさん、須川君、早くこの勝負を終わらせよう。先生の数が増やされると、僕たちが不利になる」

 

「ほむ、それなら先生の数を減らせばいいんだな。俺は最高の挑発スキルの持ち主だから、上白沢先生のタゲをそらすのくらいちょろいもん。限られた条件の中で最低限の任務を果たすのが思考のナイトだからよ。俺がミッションコンプリートするのは最初から100%だった」

 

「あー……船越先生かよ。あの先生ならなんとか処理できるけど、あんまりやりたくないんだよなぁ……」

 

 

ブロントさんは自信満々で、須川くんは露骨に嫌そうな顔をして、先生の注意をそらす方向に持っていく作戦を承諾した。

……須川くん、そんなに嫌ならその方法を取らなくてもいいんだよ?

 

 

「自力の差なら僕たちだって負けてないんだ。各個撃破すれば勝ちの目はある!」

 

「それじゃあwwwwwこんどこそwwwww始めるざますよwwwww」

 

 

叫びながら――いや、これは笑いながらというべきか?――内藤くんは大剣を前に突き出して突進してくる。

それを前に躍り出たブロントさんが、盾でその攻撃を受け止め、無理なく力を受け流し、剣を横にそらした。

 

 

「隙あり!!」

 

「人との対戦で不意玉とか、お前それでいいのか!?」

 

 

その瞬間を狙って、魂魄さんがブロントさんに斬りかかる。

完全に無防備になったブロントさんの首をめがけて、二本の刀が真横に振るわれた。

 

 

「手間かけさせんじゃねーよ!」

 

 

そこに須川くんの木刀が交差する。

ブロントさんを狙うのに集中しすぎたせいで、須川くんの攻撃には咄嗟に対応ができなかった魂魄さんは、その腹に刺突のダメージを負うことになった。

 

 

「くっ!またあなたですか!ふざけた態度をしてる割には、なかなかやりますね!」

 

「お前には言われたかねーよ!大体さっきからお前のキャラがぶれすぎて、どう扱えばいいのかわからなくなってんだけど!?真面目キャラと思いきや、なんか妙なところではっちゃけるし、落ち着いてるのか、すぐに慌てるような性格なのかもブレまくって、周りの奴らもおいてけぼりになってんだろーが!」

 

 

それに関しては僕も同意だ。

多分根っこは真面目なんだけど、そのせいでどんな言葉でも真剣に返しちゃってるんだと思う。

そのせいで、なにかずれたことばっかり言ってるんだろう。

 

 

「先ほどの続きと行きましょうか!」

 

「さっきはそっちに増援が来たから危なかったけど、人数で五分である以上負けるつもりはないよ」

 

 

なんという安定感なんだろう。

僕と美鈴さんのあいだには、非日常的な雰囲気は流れていない。

もっと正確に言うなら、カオス枠にはまだ染まっていない。というところだろうか。

 

 

「セイッ!」

 

「なんの!」

 

 

さっきのとんでもないスピードで繰り出される拳が再び放たれる。

でも、一度見たからその対処は簡単だ。

バックステップして距離をとり、相手の攻撃をかわす。

 

 

「まだまだ終わりません……よっと!」

 

「うわっ!?」

 

 

そうしてたら、一瞬で再び距離を詰められ、今度は回し蹴りが召喚獣の側頭部を狙っていた。

これもなんとか躱すけど、操作に慣れてきたのか、連続してパンチ、キックを繰り広げられてくる。

 

 

「ああもう!みんな上達するのが早すぎるよ!これじゃ、僕の操作技術の意味がなくなるじゃないか!」

 

「そうは言っても、明久さん、一回も攻撃に当たってないんですけど!?」

 

 

美鈴さんが、悔しそうな声を出しながら訴えてくる。

確かに、この戦争で僕は未だに一回も攻撃にあたっていない。

それも、逃げることだけを考えて操作してるだけなんだけどね。

 

 

「そろそろ攻撃させてもらおうかな」

 

「!そう易易とは――」

 

 

僕の言葉に身構える美鈴さん。

そんな彼女に僕は、自分が持ってる大剣をぶん投げた。

 

 

「唸れ!僕の60ヤードマグナムぅぅぅぅぅ!!!」

 

「って、えぇ!?いきなり武器を投げ捨てた!?っていうか、それってキックの方の名前じゃないんですか!?」

 

 

あまりの突然の行動に、美鈴さんが面食らっている。

こんな時でもツッコミを忘れないとは……内藤くんの影響力は半端じゃないね……

 

 

「って、こんなもの避けてしまえば!!」

 

「あ!避けられた!!?」

 

「避けられる事考えてなかったんですか!?……あ、それともなにかほかにも策が?」

 

 

美鈴さんが、すぐに気を引き締めて僕を睨みつける。

彼女は僕が考えなしにこんなことをしたとは思っていないようだ。

だから僕は、彼女の期待に対してこう応えた。

 

 

「……万策、尽きたか……」

 

「本当になんにも考えてなかった!?」

 

「うん全く」

 

「考えなしすぎるんじゃないですか!?」

 

 

まさか避けられるとは思わなかった。

驚いてたし、動揺したまま攻撃をくらってくれれば儲けもんだったのに。

いま僕は、完全に武器無しの素手。

一方相手は中国拳法の達人。

……あれ?これって詰んだ?

 

 

「悪いですけど、徒手空拳ならば私に分がありますよ!」

 

「ぬ、ぬかった!」

 

「それじゃあ覚悟してもらいますよ!」

 

 

え、どうしようこれ。

負け確定じゃないか。

やばいやばいやばい!

 

 

「オウフwwwwwやられたwwwww妖夢たんwwwwwレイズよろwwwww」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 

突然、なにか声が聞こえた。

その声の方に僕らは振り返る。

 

 

 

『Fクラス ブロントさん  VS  Dクラス 内藤

 

  化学  59点   VS 0点  』

 

 

…………えっ?

 

 

「なんだ急にPOPしてきた>>明久の剣。俺達がタイマン張ってたら視界のはしっこから剣出してきた異常な超状現状が起きた。後ろから来たことに気づかなかった内藤は後頭部に致命的な致命傷を負ってアワレにもそのままプリケツを晒してしまう、英語で言うとノックアウト。終わる頃にはズタズタにされた金髪の雑魚がいた。今のがリアルじゃなくてよかったな、リアルだったら内藤は死んでるぞ」

 

「あ、あれ……?」

 

 

つまり、僕の投げた剣が、そのまま内藤くんに刺さったってこと?

………………

 

 

「よし!作戦通り!」

 

「絶対嘘ですよね!?」

 

「何を言うんだ。これは僕の立派な『よけられるものならよけてみろ!!!!きさまは助かっても内藤君はコナゴナだーっ!!!!!』作戦だよ」

 

「今適当に考えたでしょ!?」

 

 

失礼な。今しがた考えついた紛れもない作戦だというのに。

 

 

「じゃ先生の数を減らす系の仕事が今からあるからこれで」

 

 

そう言って、ブロントさんは駆け足でこの場を離れていった。

ブロントさんが対処するのは、上白沢先生だ。

日本史を担当していて、かなりの美人教師と評判も高い。

ただ、授業が恐ろしくつまらないんだけどね。

 

なんていうか、細かいところまでやりすぎていて、そんなの受験には出ないだろっていうようなところまで教えてくるからなぁ。

例を挙げて言うと、『1956年の時の日本の国家予算はいくらか、一桁まで正確に答えなさい』みたいな。

誰が答えられるんだ、こんな問題。

 

 

「須川君!そっちの状況はどう?」

 

「こっちは大丈夫だ。今んところ互角っぽいし問題ねえよ」

 

 

あの点数差だったのに、互角まで持ち込めてるのか。

とんでもなく不利ってわけじゃないけど、須川君って強いんだな。

 

さてと、それじゃあ点数はどんな感じなのかな。

 

 

 

 

 

『Fクラス 須川亮  VS  Dクラス 魂魄妖夢

 

  化学  76点   VS 21点  』

 

 

 

「ひ、ひっぐ……ひっぐ……」

 

「相手が泣きかけてるってところ以外はな。…………や、ちょっと待って!泣かないで!ここでお前が泣いたら俺が悪役みたいになっちゃうから!というより、俺の良心がミシミシ言ってるから!お願いだから涙目になるのやめてェェェェェェ!」

 

「ちょっとォォォォォォ!!どこが互角だァァァァァァ!!一回辞書で互角って言葉について調べてこいよ!涙目になってきてるよ魂魄さん!!」

 

「俺が言ってる互角ってのはああやって攻撃しづらくなってる状況も加味してるんだよ!!泣いてるよね!泣いてるんだよねアレ!」

 

「オイオイオイ、ヤバイよ!!なんかもう、ただのイジメみたいになってきてるよ!!いたよ、クラスにこういう泣き方するの!」

 

「べ、別に泣きそうになんかなってないですもん!こ、これは心の汗でウェッ……ウウェェェン!な、ないどうざぁぁぁん!!めーりんざぁぁぁん!!」

 

「泣いちゃったァァァァ!魂魄さん泣いちゃったよォォォォォォォォォォ!!」

 

「ああクソッ!こうなったら女ってやつは面倒なんだ。泣き始めたらいつまでたっても泣き止まねえし、見てるだけでこっちの罪悪感が半端じゃなくなるしよぉ」

 

「君は一回女性に対して労わるという言葉を覚えようか!?」

 

「いやーだってあんだけジョ○ョにたいしてタンカきれるんだったらメンタル強いって思うじゃん?島田といい清水といい、色々な意味で強い女生徒ばっかり見てきたわけじゃん?内藤にあれだけツッコミいれられるなら魂魄もそういうタイプなのかなーって思って煽ってたらこのザマになっちまってな」

 

「点数にこんだけ差が開いても煽る方が悪いよ!」

 

「煽ってたら勝手に何か自爆してただけなんだけどな。あのダメージの九割は、自分でコケて顔面に痛そうなの食らってたからだし」

 

「メンタルよわ!?」

 

 

なんとなく侍っぽい雰囲気漂ってたのに、あんなにガッタガタなんて。

戦ってるこっちが申し訳なくなってくる。

 

 

「だいたい、それだけでなんで泣くのさ?そんなに補習を受けたくないの?」

 

「わだじ……今回、ぜんぜんやぐにたってな……ウェェェン!」

 

「それだけで泣いてるの!?」

 

「あれだげ、がっごづけといて……何にもできてないんでずよ!?」

 

 

泣きながら喋ってるせいか、声が震えている。

かっこつけてっていうのは、最初に内藤君を止めてるところの事なんだろうか。

まあ、僕達みたいなバカな男子学生なら平気なんだろうけど、魂魄さんにとっては重要なことなんだろう。

あれだけ言っておきながら、敵を倒せず戦死する。確かにきついかも。

 

 

「うはwwwwwそんなに泣いちゃwwwwwダメダメよwwwww妖夢たんwwwww」

 

「ヒック……な、ないどうさん?」

 

 

さっき戦死したばかりの内藤君が魂魄さんに話しかけている。

空気を読んでるのか、鉄人はまだこっちに来ていない。

 

 

「今回負けちゃってもいいじゃないwwwww次に勝てばいいんだぜwwwww」

 

「あ、あなたは!すぐに負けちゃったじゃないですか!!悔しくないんですか!?」

 

「全然悔しくないwwwww俺様本気出さなかっただけだしwwwww今度から本気出すwwwww」

 

「あの点数でですか?あれだったら無理じゃないですか!」

 

「だってwwwww俺様化学苦手なんだもんwwwww一番得意なのは保健体育だよwwwww」

 

 

なんとなく、我がFクラスの仲間のうちの一人を思い浮かべた僕がいる。

 

 

「大体wwwwwせっかく戦ってるんだしwwwww楽しんでやろーぜwwwwwそのほうがwwwww得だと思うけどwwwww」

 

「これは真剣勝負なんですよ!?それなのに……私は何の成果もないんですよ!?」

 

「そうやって真面目なのもwwwww妖夢たんのいいところだけどwwwwwそれじゃあ緊張してwwwww本当の力を出せないよwwwww」

 

「緊張しない方がおかしいじゃないですか!初めての試召戦争ですよ!?」

 

「ほらwwwww俺様の言ったとおりだwwwww」

 

「何がですか!?」

 

「妖夢たんwwwww本気出せてないwwwww緊張してるんだもんねwwwww」

 

「え……?」

 

「だからwwwww今度は本気出して勝負したらいいだけのことwwwwwうはwwwww俺様wwwww頭良すぎーwwwww修正されないでwwwww」

 

 

……あれ?おかしいな?本当に内藤くんが頭良さそうに見えてきたぞ?

 

 

「妖夢たんwwwwwもうwwwww緊張してないみたいだねwwwww大声出せばwwwwwすっきりするっていうしwwwww」

 

「な、内藤さん?もしかしてわざと……」

 

「女の子からの罵倒wwwww俺達の業界ではwwwwwご褒美ですwwwwwリラックスできるならwwwww俺様に当たり散らしてもいいからwwwww笑おうぜwwwww」

 

 

そう言って、内藤くんは親指を立てて魂魄さんに笑いかけた。

心なしか、内藤君の歯が光っているようにも見えた。

それに釣られて、魂魄さんもクスッと笑う。

 

 

「勝利の合言葉wwwwwうはwwwwwwwwwwおkwwwwwwwwwwww」

 

「もう!へんなところで茶化すんですから……」

 

「そうそうwwwwwそうやって笑ってたほうがwwwwwかわいいぜwwwww」

 

「な、いきなり何を言い出すんですか!!」

 

「オウフwwwww」

 

 

照れ隠しなのか、魂魄さんが内藤君の頭をポカッと殴り、そのまま内藤くんは鉄人に連れ去られていった。

……なんだこの茶番。

でも、魂魄さんに元の調子が戻ってよかった。

 

 

「失礼しました。それでは、再び尋常に勝負です!」

 

「はっ!さっきまで泣いてた奴が、もう笑ってやがる。だいたいそう意気込んでもこの点数差だったら勝てねえだろうが」

 

「それでも、私は全力を出してあなたを倒します!それで負けても悔いはありません!」

 

 

再び対峙するふたり。

これは、さきに気を緩めたほうが攻撃される。

どっちが先に動くのか――

 

 

 

 

 

『校内放送なんだが?お前らは注意して聞くべき、死にたくないなら全力で聞くべき』

 

 

聞き覚えのある声と、聞き覚えがありすぎる特徴的な話し方が校内放送で流れ出した。

直接職員室に向かうと、Dクラスのみんなに見つかっちゃうから放送で呼び出したんだろうか。

 

 

『上白沢先生は、校舎裏で銀髪のメガネが『はやくきてーはやくきてー』と叫んでいるので何が何でもカカッっときょうきょ早く会いに行っテ!何かあるのかもじもじしだしてるので俺が思うに重大なことでも伝えるのではないか?男がたまたま気合入れてる時そういうことが事が結構あるらしい』

 

 

……は?

え?銀髪のメガネって誰?

そんな奴いたっけ?

ていうか、そんなことであの堅物で知られる上白沢先生が動くとは――

 

 

「なんだと言うんだあいつは?いったい私に何を伝えると言うんだ!?ま、まさか……いやいやそんなことはないだろう、あいつはそう言うのに疎いやつなんだから。でも、もしかしたら1%の確率でもそういうことがあるなら……エヘヘヘヘヘ……」

 

「みょんっ!?」

 

「うわっ!?いつの間に目の前に!?ってもう通り過ぎた!?」

 

 

何かがブツブツ言いながら、目の前を走り抜けていくのがわかった。

しかもそのしゃべるスピードも、今のセリフを言うのに一秒ほどしか経っていない。

その顔は、普段のキリッとした表情からは想像もできないくらいだらしなく緩んでいて、これがあの上白沢先生のなのかと疑問に思う程度には、態度が変貌していた。

そんなとろっとろになってる割に、その動きは機敏で、普段から逃げ出している生徒を追いかける時も鉄人とタメが貼れるくらいには素早いけど、そんな時よりもスピードが上がっている。

普段のあれでも、全力じゃなかったというのか。

 

 

「……あ、魂魄の召喚獣が吉井の剣に突き刺さってる……」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 

今ので驚いたのか、魂魄さんが召喚獣の操作をミスして、内藤くんに突き刺さってからそのままになってた僕の剣に向かって、転んで自爆していた。

さっきから空気を読んでいたのか、気を遣っていたのか、一言も喋っていない美鈴さんも思わず声が漏れてしまう。

…………あれ?これって魂魄さんの召喚獣って……

 

 

 

『Fクラス 須川亮  VS  Dクラス 魂魄妖夢

 

  化学  76点   VS 0点  』

 

 

……………………

 

 

 

 

「魂魄さん」

 

「……何か用ですか」

 

「……正直すまなかった」

 

「……あなたの剣がたまたまそこにあっただけじゃないですか。吉井さんは悪くありませんよ」

 

「……涙目になって言われても、罪悪感がやばい」

 

 

平静を装っているのか、しっかりした口調で返してくる魂魄さん。

でも、目元が潤んでる状態で言われても説得力も欠片もない。

なんだろう、魂魄さんは不憫の星のもとに生まれてきたんだろうか。

 

 

「……魂魄、その、なんだ。……補習室に行くぞ」

 

「…………はい」

 

「…………補習室で、隣の席は内藤だ。できる限り愚痴ってこい」

 

「…………分かりました」

 

「……あれは運がなかったというか。そんなに気落ちするな。お前は根が真面目なんだ。今度から頑張ればいい」

 

「……すみません」

 

 

あまりに不遇すぎて、補習室へ連行しに来た鉄人さえも、魂魄さんを当たり障りのないように慰めている。

なんとも、後味の悪い、決着のつき方だ。

持ち直して、せっかく意気込んだのに、何の関係もないところで戦死する。

……もはや、僕には、どう対応すればいいのかわからなくなっていた。

 

 

「……魂魄、マジで気にするなよ。うん、あれはもう事故だったから。俺も少し言いすぎたし……マジごめん」

 

「……はい」

 

「……じゃ、その、俺、行くから。吉井に言われた通りに作戦遂行させなきゃならんし。本当にゴメンな」

 

「もう行ってください……。武士の情けは不要です」

 

「……強く生きろよ」

 

「…………分かりました」

 

 

遠慮がちに須川君は、魂魄さんに話しかけた後、すぐさま遥か彼方に消えていった。

この空気の中の圧力に耐えられなかったんだろう。

魂魄さんがやられたのは、僕たち三人が悪いんだし。

須川君が魂魄さんを煽り、ブロントさんが上白沢先生を呼び出し、僕が剣を投げたからこそ、この結果が生まれている。

魂魄さんはどれだけ運がないんだ。

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁああん!!内藤さぁぁぁぁん!!!!」

 

「……思う存分泣いたほうがいいねあれは」

 

「そうですね……心折れても仕方ないですよ」

 

 

僕たちからかなり離れてから、魂魄さんの泣き声が聞こえてきた。

我慢してたけど、耐えられなくなってたみたいだ。

いやまあわかってたけど。

 

 

「……勝負、再開しようか」

 

「…………はい、敵前逃亡はダメですし」

 

 

正直、戦うような気分じゃなかった。

できれば、今すぐ家に帰って、布団に潜って今日のことを忘れてしまいたい。

でも、そうはいかないのが試召戦争だ。

僕達の行動が、クラス全体を左右する。

そんな中で、勝手に逃げ出したら戦犯ものである。

 

 

「…………僕、まともな枠に入ってなかったほうがよかったかもしれない」

 

「…………奇遇ですね、私もそう思っていたところですよ」

 

 

カオス枠なら、こんなの気にしなくても良かったのに。

内藤君みたいにずっとふざけてるキャラとか、ブロントさんみたいに精神的に異常に強かったりしてたりすれば、こんな微妙な気持ちにならなくて済んだのに。

もしくは、不憫枠だったなら、魂魄さんや、ランサーのようにいつの間にか補習室に送られて、こんなことを考えずに済んだというのに。

 

 

「……悲しいなあ」

 

「……悲しいですね」

 

 

もしかしたら、真の不憫枠は、こんなアンニュイな気持ちで戦わされ続けられる、僕たち常識人枠なのかもしれない。

一体どうしてこうなったんだろう。

 

 

『連絡致します。船越先生、船越先生』

 

 

そう思ってたら、再び校内放送が。

これは須川君の声だ。

 

 

『……これも、俺なりの償い方だ。Fクラスの野郎ども、あとは頼んだぜ』

 

「え……?」

 

『俺こと須川亮が、体育館裏で待っています』

 

 

……あれ?須川君?

 

 

『生徒と教師の垣根を越えた、男と女の大事な話があるから捕まえられるもんなら捕まえてみやがれェェェェェェェェェェェェ!!!!!以上!俺は逃げる!!!!』

 

 

な、なんて危険なことを!?

相手はあの船越女史だよ!?わかってるの!?

婚期を逃して、遂に生徒たちに単位を盾に交際を迫るようになった、あの船越先生だよ!?

確かにそうしたら、船越先生は確実に須川くんを追いかけるか、体育館でずっと待っててくれるだろうけど、その分須川君の身が危険なことに!!

 

 

「須川……お前は男だよ!」

 

「ああ。感動したよ。まさかクラスのためにそこまでやってくれるなんて!」

 

 

前衛部隊の仲間たちが感動にむせび泣きながら須川君に敬礼を送っている。

まさか、須川君、魂魄さんへの良心の呵責が耐え切れなくなって!?

それでその身を戦争に捧げるって決めたのかい!?

 

 

「おい、聞いたか今の放送」

 

「ああ。Fクラスの連中、本気で勝ちに来てるぞ」

 

「あんなに確固たる意志を持ってる奴らに勝てるのか……?」

 

 

Dクラスからそんなつぶやきが聞こえてくる。

須川君のたった一回の放送が、戦場にいい影響を与えている。

 

 

「皆、須川の死を無駄にするな!」

 

「絶対に勝つぞーっ!」

 

 

うちのクラスの士気にまでいい影響が。

 

 

「隊長、いけますよ!この勢いで押し返しましょう!」

 

「…………」

 

 

遠くから、僕に声をかけてくれるクラスメートがいるけど、僕は今それに返事できるほど余裕はない。

須川君はどんな覚悟で、あの放送をしたんだろう。

僕がやる気をなくしていたのに、あれほど『あんまりやりたくない』って言ってた作戦を、須川君はどんな気持ちで決行したんだろう。

魂魄さんの戦死から、須川君は覚悟を決めたというのに、僕はそれに引きずられて……

 

 

「……隊長?」

 

「……す」

 

「す?」

 

「須川くぅぅぅぅぅんっっ!!!」

 

 

その男意気に、僕は涙を流さずにはいられなくなった。

君の犠牲は、決して無駄になんかしないからね!!

 

 

 

 

「…………船越先生に捕まっても、最悪警察につきだしたら助かるんじゃないですかね?」

 

 

そんな美鈴さんの冷静なツッコミも、今の僕には聞こえなかった。


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