この手を伸ばせば   作:まるね子

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G弾が降ってきたその後。


第二部 ―リブート―
???「光の中で」


 光の奔流が周囲を満たしていた。無数の粒子がランダムに飛び交い、集約と分解を繰り返している。光があふれ、交差し、そこから新たな光が生まれ、または散っていく。

 だが、悠平にはそれをのんきに()()している余裕はなかった。

 悠平は膨大な何かのエネルギーを受けて全員を量子分解することに成功した。しかし、未だ悠平たちの肉体は再構成される様子はなく、光の粒子となったまま何か強い引力に引き寄せられている。このような状態を認識したのは悠平にとっても初めてのことであり、一体何が起きているのかは分からない。でも、悠平の傍に漂っている光の粒子たちを手放してはいけない。それだけは分かる。分かってしまう。

 武、霞、ユウヤ、イーニァ、ネージュ、そしてそれぞれが乗っていた機体や身につけていたものが悠平の傍に漂う光の粒子の正体だ。しかし、その中には見覚えのない何かが混じっている。

 

 ――いや、今はそんなことはどうでもいい!絶対に、手放しちゃいけないんだ!

 

 悠平は必死にみんなの粒子を引き離されまいと努力していた。

 量子化に成功する瞬間、G弾の爆発で機体同士の接触がわずかに途切れてしまったことが原因だろう。つまり、悠平は今、テレポートと同時に()()()()()存在のアポーツを同時に行っているのだ。

 無生物にしか作用しないとずっと()()()()()()()アポーツを、悠平は行っている。どうしてそう思い込んでいたのかは()()()()()()()()。だが、今はそんなことはどうでもいい。仲間を引き剥がそうとする引力に悠平は必死に抗っていた。

 しかし、悠平の努力をあざ笑うかのように徐々にみんなを構成する粒子が引き離されようとしていた。やはり、生きている存在のアポーツは無理があるのか。

 

 ――まだだっ!まだ……っ!!

 

 無理に無理を重ね、自身を構成する粒子すら飛び散りそうになるのを必死に堪えながら、悠平は仲間たちを手繰り寄せようとする。

 

 ――再構成されるまで、持ちこたえさえすれば……っ!

 

 だが、本当にこのまま待っていれば再構成が行われるのか、悠平には確証がない。

 不意に仲間たちを引っ張る力がその強さを増した。無生物を構成していた粒子を置き去りに、悠平から一気に引き剥がされていく。

 

 ――ぁぁぁぁあああああああああああああああっ!!!!

 

 悠平は必死になって追いすがり、みんなを引き寄せようとする。だが、引き寄せられない。引力が強すぎるのだ。

 引力はさらにその強さを増していき、悠平から再び仲間たちを引き剥がしていく。

 

 ――クソ……ッ!クソッ!!クソォッ!!!

 

 みんなが引き剥がされていく中、何とか一人だけ手元に引き寄せ強く抱き締める。それは悠平が愛している、一番大切な子。

 

 ――放さない……っ、絶対に放さない……っ!!……っぁぁあああああああっ!!!

 

 悠平は絶叫しながら涙を流す。

 守れない。

 武を。

 霞を。

 ユウヤを。

 イーニァを。

 大切な仲間たちを、守れない。

 己の力不足ゆえに守れない。

 そして、ネージュすらも、守れない。

 必死に抱き締めているのに、ネージュが零れ落ちようとしていた。

 足掻いても、足掻いても、引力に引き寄せられてしまう。

 悠平は己の能力の限界を感じていた。自身の構成を維持できない。無力感と能力の限界による疲労で意識すら手放しそうになる。

 砕ける。

 解ける。

 分解する。

 

 ――…………もう…………ダメ、なのか…………っ?

 

 諦めそうに、なる。

 

 ――諦めちゃダメ!

 

 ――……誰、だ?

 

 悠平以外の声がした。この光の奔流の中で、悠平以外の何者かの声が。

 

 ――あなたはその子を絶対放さないで!大丈夫!あなたはまだ、がんばれるよ!!

 

 謎の声は悠平を激励する。絶対に放すな、がんばれと。

 

 ――でも、それじゃああいつらは……っ

 

 悠平は引き離されていく仲間たちの粒子を見る。引力は強い。見る見るうちに引き離されていく。

 

 ――大丈夫だよ!タケルちゃんたちはわたしにまかせて!

 

 ――……え?タケルちゃん、って…………まさか……っ!?

 

 見覚えのない光の粒子が大きく広がって、光で満ちていく。やがて光は悠平の認識を埋め尽くし、純白で染め上げていった。

 何も見えない。だが、不思議と不安はなくなっていた。()()が任せろと言ったのなら、みんなはきっと大丈夫だ。

 悠平はネージュの存在を抱き締めていることだけを感じていた。光はやがて収束し――

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、そこは純夏の脳髄が収められたシリンダールームだった。

「私……眠って、いたんでしょうか……?」

 おかしい。さっきまでG弾が落ちてくるという危機的状況だったはずだ。それともアレは夢だったのだろうか。

 しょぼしょぼする目を擦りながら、霞はさっきまでの光景が夢だったのだと判断した。

(……あれ?それなら、ヴェルホヤンスクハイヴ攻略戦へはこれから出立するんでしょうか?)

 霞は今日が何日だったのかを確認するために、カレンダーのある夕呼の執務室へと向かって歩き出した。

 それにしても、服がいつもより小さい気がするのは気のせいだろうか。




分かる人はいろいろもう分かったかも……とりあえず次回へ続きます。

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