この手を伸ばせば   作:まるね子

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なんだかすごく微妙になっている……気がする。急ぎすぎたか……?


第二十三話「掌握される影」

「こちらはアメリカ陸軍第130戦術機甲大隊のジョン・スミス中佐だ。聞こえているか、エインヘリアル小隊の諸君?」

 この東シベリアにはいないはずの米軍部隊の反応をユウヤたちのレーダーが捉えると同時に、相手の指揮官と思しき者から通信が入った。

(ラプター……しかもこの距離まで反応がなかったってことは、ステルスが強化されている……特務仕様か……?)

 そんなものが何故、と思いつつも、夕呼が話したことがユウヤの脳裏に引っかかる。つまりは、()()()()()()なのだろう。

「こちらは横浜機関所属エインヘリアル小隊隊長の白銀武中尉。米軍が一体何の用です?こちらは現在、エヴェンスクハイヴ攻略作戦の真っ最中なんですが」

「それは承知している。そして反応炉の破壊に成功したこともな」

 そんなことはどうでもいいと言いたげに、三十六機のラプターがユウヤたちを取り囲むように展開していく。逃がすつもりはないということだろう。

「――これは何の真似ですか、中佐。我々は現在もBETAとの戦闘中なのですが?」

「それはもはやソビエトの連中だけで問題なかろう。反応炉はすでに破壊されているのだからな」

 そう言うと世間話は終わったとでも言うように、ラプターたちは突撃砲の銃口をユウヤたちに向けてきた。

「XG-70と不知火・弐型フェイズ3は我々アメリカの資産を用いて作られたものだ。よって、我々に返してもらおう」

(ずいぶんと高圧的な上からの物言いだな……にしたって、ずいぶんとお粗末じゃないか)

 ユウヤは米軍が弐型改をフェイズ3と呼んだことから、呆れを通り越して哀れさすら感じていた。この弐型改はフェイズ2.5改であって、フェイズ3とはまるで別物なのだ。

 相手は実力行使をしてでも凄乃皇・伍型と試製03型電磁投射砲を手に入れたいのだろうが、自分たちならばこの程度のラプター部隊に決して遅れを取るものではない――兵站さえ万全ならば。

 反応炉が破壊され、ユウヤたちの兵站が底をつく時を待ち構えていたのだろう。先ほどからCPへ呼びかけているが、ジャミングされているようで応答もない。向こうはもしかしたらジャミングされていることにすら気づいていないかもしれない。

 霞から送られてきたメッセージにはリーディングで相手の思考が読めない旨が書かれていた。こちらも対策済みだということだ。

「我々はすでに横浜機関の()()()からもXG-70と不知火・弐型フェイズ3を接収する許可を得ている。それはすでに我々のモノだ」

 彼はまだBETAが存在するこの戦域で弐型改と凄乃皇から降りろと言った。一度でも接収したという事実がほしいのだろう。だが、そんなものに乗ってやる義理はこちらにはない。

 中佐が好き勝手な物言いをしている間、ユウヤたちは密かに霞を介してリーディングとプロジェクションで意思が統一されていた。と言うよりも、元々同じ思いを抱いていたので統一する必要はなかったのだが。

「一つ、言いたいことがあります」

 武が代表して口を開き、中佐が怪訝そうな顔をした。

()()()()が本当に接収することを許したのか、俺たちにはわかりません……ですが」

 一旦言葉を区切り、武は宣戦布告を口にする。

「接収を許可したのがあくまでXG-70とフェイズ3だっていうのなら、それはここには存在しない。ここにあるのはXG-70()とフェイズ2().()5()()だ。あの人ならそのくらいの悪知恵は考えますよ」

 情報不足だったんじゃないですか、と武が言うと中佐の顔は一気に真っ赤になった。横浜機関の()()()の接収許可があろうとなかろうと、横浜機関の総責任者――()()()である夕呼がそれを許すつもりはこれっぽっちもないことはすでに本人から聞いているのだ。

「へ、屁理屈もいい加減にしろっ!こちらはお前たちが抵抗した場合、破壊することも許可されているっ!貴様らにはもう武装が残っていないことも分かっている!無駄な抵抗はやめろ!」

 中佐が激昂したように叫ぶ。実際、すでに頭はカンカンなのだろう。意外と沸点の低いことだ。

「じゃあ、お好きにどうぞ。あんたたち程度が、俺たちに勝てると思うならな」

 悠平が挑発するような口調で通信に割り込んでくる。どうやら()()が整ったようだ。

「――っ!全機、兵器使用自ゆ」

 中佐の命令が言い終わる前に突撃砲の連射音が聞こえ、六機のラプターがあっという間に沈黙した。

 突然の事態に中佐は呆然としている。何が起こったかわからなかったようだ。

 悠平の弐型改の両手には一瞬前まで中佐のラプターが装備していた突撃砲――AMWS-21が握られており、その銃口からは硝煙が立ち上っている。

「戦闘機動を取られてたらさすがに無理だったけど、でくの坊みたいに止まってるからずいぶん簡単に取れたよ。アリガトウ」

 そう言って悠平は次々に棒立ちのラプターから突撃砲を奪ってはユウヤたちに配っていった。ラプターから全ての突撃砲を奪い取り、ユウヤたちに突撃砲がいきわたるまでその間わずか数秒。悠平はこのためにずっと意識を集中していたのだ。

 高速連鎖物質転移。あらかじめ複数の物質を正確に認識しておくことで連鎖反応のように連続して物質を取り寄せるという技能だ。夕呼の実験によって新たに発見した特性ではあるが、対象が高速で動いていると認識し難いため取り寄せられないという欠点も併せ持っている。

 凄乃皇は武器を失ったことにようやく気づき逃げようとするラプター部隊を正面に見据えた。

「逃げようとしたら荷電粒子砲を発射します。丁度、射線上には友軍機がいないみたいですからね」

 それは、ソ連軍に発見されることを避けるための逃走経路だったのだろうが、それが完全に裏目に出た形となった。

 

 

 拿捕されたラプターはソ連軍と横浜機関がそれぞれ半数ずつを持ち帰ることとなり、米国はそれに対して返還要求をすることができなかった。米軍に非があるのはもはや覆しようがなく、しでかしたことが大きすぎてこの失態を隠蔽することもままならないのだ。

 それにはソ連軍と横浜機関の関係が意外なほど良好なものになっていたということもあるが、それらを引き起こしたたった一人の無能によって米国の権威はこれまでにないほど失墜しはじめていた。あまりにお粗末な展開だ。

「まさかこんな無能を擁するやつらに今まで翻弄されてたなんてねぇ……」

 夕呼は資料に添付されていた写真を見て誰にともなくつぶやいた。

 写真に写っていたのは醜く肥え太った豚のような米軍中将。これまで横浜機関の妨害をしていた米国至上主義者のトップスリーの一人だった。実質的には中心人物の手駒でしかないのだが、これでもG弾の管理と運用を任されていた責任者だという。

(アタシだったら、こんな無能を責任者になんかしたくないわねぇ……)

 ともあれ、この無能のしでかした勝手な行動のおかげで全容が判明したのも確かなのだ。おまけにラプターという格好の材料まで与えてくれた。

「さあて、どう料理してやろうかしら……」

 夕呼は魔女の笑みを浮かべてこれからのことを考えた。

 

 

 豪奢なシャンデリアが吊るされた品のいい執務室で男――現アメリカ副大統領はモニターごしに二人の男と向かい合っていた。

「魔女に全てを掴まれてしまった。これ以上、魔女に手を出すことはできない」

 そう言った副大統領は、すっかり疲れ果てた顔をしていた。米国の権威が今まさに失墜し続けているのだ。それもたった一人の無能のせいで。

「魔女がいかほどのものか、所詮ワシらアメリカには及ばぬ存在よ」

 画面越しに男の一人である老人が居丈高な態度で口を開いた。

(その魔女を侮った結果がこれだろう、耄碌爺め……っ!)

 この老人――前アメリカ大統領はもう一人の男、贅肉ダルマこと米軍中将をやけにひいきする傾向があった。中将をG弾の管理・運用の責任者に推したのもこの老人だ。副大統領は中将をG弾の責任者にしたくはなかったが、この老人に押し切られてしまったのだ。そして、今回中将を切ろうとした副大統領を押しとどめたのもこの老人だった。

「あんな魔女がアメリカのものを使って世界中に認められるのはおかしいじゃないか!XG-70は元々俺たちのものだ!G弾もXG-70も俺たちが運用するべきものだ!」

 中将が肥え太った体を震わせながら怒りをあらわにした。怒りたいのはこちらだというのに、だ。

「ソ連もソ連だ!G元素はアメリカの元で正しく使われなくちゃいかん!あいつらのような劣等民族が持っていていいモノじゃないんだ!」

 醜い豚がわめき散らす姿を見て、副大統領は脳の血管が切れそうなほどの怒りを堪える。

「そうだ!アメリカこそが正義なのだ!世界はワシらアメリカを中心に纏まらねばならぬ!」

 豚のわめきに老害が追従する。副大統領はその様子を見てようやく己の最大の失敗を悟り、一気に冷静になった。

(……ダメだ。こいつらを放っておいては、アメリカは立ち直れなくなってしまうっ!)

 今、アメリカを立ち直らせるには一つずつ堅実に実績を積み重ねていくしかない。しかし、この二人がこうして力を持ち続ける限り、アメリカに汚点を残し続けるだけだろう。

 かつては優秀だった前大統領もこうなってしまってはもはや足かせにしかならず、中将とは名ばかりの豚に至っては失敗を失敗とも思っていない無能だ。

(初めから、私一人でやるべきだったのかもしれない……力が足りないからと言って安易にこの二人に協力を持ちかけるなどしなければ……)

 いや、と副大統領はかぶりを振る。全ては自らが馬鹿なことを考えてしまったことが原因だ。各国を出し抜き、追い落とし、屈服させることを考えてしまったためだ。

 副大統領には愛するアメリカを中心として世界を纏め上げるという理想があった。しかし、その理想が歪んでしまったのはいつからだろう。

 G弾が完成した時か。日本がオルタネイティヴ計画を誘致した時か。BETAの正体が判明した時か。横浜機関が設立した時か。副大統領には分からない。

(今アメリカは窮地に立たされている……全ては私たちが愚かだったゆえに……)

 副大統領は何の生産性もない二人のわめきを耳にしながら一人、全てを清算してアメリカを立ち直らせるための考えをめぐらせ始めた。今度こそアメリカのためになるようにと願いながら。

 




さっさと豚を追い詰めたくてお粗末な展開に。もっとやりようはあったような……

……わざとだよ?わ、わざとだからね?勘違いしないでよ、この先の展開のためなんだからねっ!?

ちなみにジョン・スミスは本名です。偽名じゃありません。ネタにするつもりがネタを入れれる場所がなくなりましたorz

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