お気に入りもいつの間にか百を超えてるし……みなさんありがとー!おかげでまだ書けそうです!
自分たちが放った自立誘導弾が戦闘力を失った味方のラプターを巻き添えに、不知火・改が爆発に飲み込まれるのを確認した衛士はニヤリと笑みを浮かべた。命令されたのは不知火・改の捕獲だが、最悪の場合は大破した機体を回収すればいいため、破壊することは止められていないのだ。爆発で巻き起こった土煙で状況を確認することはできないが、まず間違いなく大破しているだろう。
あの不知火・改は捉えどころがなく、幻惑するかのような戦闘機動で翻弄してくるため最大火力で回避する余裕を奪い、片付けることになったのだ。そしてその際、戦闘力を失ったもののジャンプユニットが無事だったラプターの衛士が自ら足止め役を買って出ることで、全ての自立誘導弾を叩き込むことに成功したのだ。
もう一機厄介な戦闘機動を行う不知火・改が存在するが、他の不知火・改もまだ残っている自立誘導弾を一斉に叩き込めば片がつくだろう。こちらの位置はすでに特定されているが、それはもはや問題にならない。
そう思い、残りの不知火・改を破壊するためにトリガーへ指をかけた衛士は土煙が晴れてきた爆心地が視界に入り、そこに無残な姿を晒すラプターの残骸
「馬鹿な!?やつは……あの
戦域情報を確認しようとした衛士は視界が傾いていることに気づいた。網膜に投影されている映像が横に流れ、地面に叩きつけられた衝撃で映像が大きく乱れる。
衛士は何が起こったか理解できずにいた。機体のダメージチェックを確認すると、両腕の肘から先、自立誘導弾のコンテナ、そして下半身には丸々LOSTの文字が表示されている。爆発していないということは主機は無事なのだろう。
「戦術機で
どこか疲れたような男の声がオープン回線から聞こえてくる。
衛士はあわてて戦域情報を確認すると、大破した自分のラプターの後ろに爆発に飲み込まれたはずの不知火・改のマーカーがあることに気づき、目を見張った。
「一体……どうなっている。やつはどうやって、あの状況から……っ?」
なんとかラプターの視界を不知火・改へ向けると、片手に長刀を装備して佇んでいる姿が見えた。ラプターはどうやらあの長刀で両断されたらしい。
「……でも、一度使ったのなら二度も三度も変わらないだろうし……さっさと片付けさせてもらうぞ」
わずかに呼吸が荒く、疲れを帯びた男の声はそんな宣言をする。自立誘導弾を装備した残り二機のラプターは今度こそこの不知火・改を仕留めようと、トリガーに指をかける。しかし、自立誘導弾は発射されることなく、大破したラプターの傍から
それを見た衛士は思わず口を開き、その不知火・改をこう呼んでいた。
「――
ネージュは瞬間移動によって不知火・改が残っていた二機の自立誘導弾装備のラプターを反撃する間も与えずに達磨にする光景を見て呆然としていた。悠平がテレポートを使えることはネージュも身をもって知ってはいたが、戦術機ごとテレポートできることなどまるで知らなかったのだ。
「ぼけっとするな!敵はまだ残ってるぞ!」
武に叱咤され、目の前に迫ろうとしていたラプターに気づいたネージュは自分でもどうやったのか理解できない機動でラプターの背後に回り、長刀で戦闘力を奪った。それがクイック・ミラージュと似た機動だったことが後で判明するが所詮は一発芸の類、今は考える時ではない。
ネージュは武たちと協力して、残った三機のラプターを片付けることに集中していった。
「――くだ――よりエイン――01、応答してください!」
襲撃してきたラプターの全機無力化が完了すると、ノイズと共にピアティフの焦った声が武の耳に届いた。
「ピ、ピアティフ中尉……?」
「あぁっ、やっと繋がりましたよ!」
「タケルさん?大丈夫なんですか?さっきまで回線が繋がりませんでしたけど、一体何があったんですか?」
ピアティフと交代した霞がいつもとあまり変わらないような、しかし泣きそうだと分かる声でまくし立ててきた。
「何がって……あ」
そこで武はラプターに襲撃されたことをCPに報告していないことを思い出した。しかし、繋がらなかったということや、先ほど聞こえてきていたノイズから判断するとジャミングがかかっていたのかもしれない。
武がそのことを報告すると向こうも驚いたようで、回線を開いたまま他のオペレーターに確認を行っていた。
「作戦行動中、米軍部隊に戦線から離れた部隊は確認できませんでした。おそらくですが、そのラプターは派遣部隊のものではない可能性があります」
少ししてピアティフから報告が入る。さすがにBETAとの戦闘中に部隊を率いて仕掛けるといったような強引な手段に出たというわけではない、ということだろう。
作戦もすでに残存BETAの掃討に移っており、これ以上のBETAの増援もないだろうということで武たちはラプターの残骸を運ぶ部隊の到着を待って仮設前線基地へ帰投することになった。
帰投する途中、ユウヤは何が起こったかを聞きたそうな顔をしており、イーニァは無邪気にユウヘイすごーい、とはしゃいでいた。ネージュも気にしていないような顔をしてはいるがやはり気になるのだろう、どこかそわそわしていた。そして悠平は顔色が悪く、ひどく体力を消耗しているのは明らかだ。
(だいぶ無理をしたみたいだな……戦術機ごとテレポートしたんだから無理もないけどさ)
武は悠平が戦術機ごとテレポートできることを以前から知っていた。夕呼が悠平の能力を調べていた時、テレポートの限界を確かめる意味で行った実験に立ち会っていたのだ。しかし当時、ネージュは霞に日本語を教わっている最中であり、その間に行われていた実験のことを知らされてはいなかった。
(これは、俺が御巫の能力の説明をする必要があるかもしれないな……)
武はそんなことを考えながら、悠平の体調を考えて医療班の待機の指示を行うのだった。
基地に戻ってくるなりすぐに力尽きて倒れてしまった悠平をネージュと医療班に任せ、武たちは、米軍派遣部隊の指揮官に今回の襲撃の件を問い詰めていた。
「……少し待て。こちらからも本国に問い合わせて確認をしてみる」
指揮官は何も聞かされていなかったらしく、厳しい表情をしながらその場で本国との連絡を開始した。どうやら自分にやましいところはないというアピールらしい。
やがて会話が終わり分かったことは、武たちが交戦したラプターはロールアウト直前に行方不明になったものである可能性が高いということだけだった。そのため、捕まえたラプターの衛士から情報を引き出すことが期待されたが、全員何らかの毒物を服用し自決してしまったという報告がソ連軍からもたらされた。だが、息を引き取る直前にうわ言のように口にしていた言葉から、一人はアメリカ人ではないらしい。
これといった情報は手に入らなかったが、大破したラプターは米軍が全て回収して徹底的に手がかりを探ることとなった。しかし、望みは薄いだろう。
武は夕呼が東シベリアへ派遣した理由にこのことが関係あるのか確認を取りたい気持ちに駆られたが、セキュリティの問題もあって通信で尋ねることは危険だと判断した。どうやら横浜基地に戻るまでこの問題を抱えることになるようだ。
目を覚ますと、そこは医療テントだった。悠平は気だるい体を起こし周囲を確認してみると負傷者があちこちに寝かされていることが分かるが、このテントには軽傷者が多いようだ。
体の調子を確かめようとすると右手に違和感があった。よく見てみると、傍で眠っているネージュに右手を握られていることに気がついた。どうやら心配をかけてしまったらしい。
触り心地のいいネージュのさらさらな銀髪を撫でてやっていると瞼が震え、ネージュが目を覚ます気配を感じた。
「おはよう、ネージュ」
眠そうに目を擦るネージュに声をかけてやると、悠平が起きていることに気づくや否やとても心配そうな顔をして悠平の体をぺたぺたと触り始めた。どこか異常がないか調べているつもりなのだろう。
「大丈夫だよ。まだ少し体がだるいけど……二、三日も休めば回復するから、あまり心配しなくても大丈夫だぞ?」
苦笑しながら悠平が答えてやると、ネージュは気が抜けたのか腰から力が抜け、
「え……ネージュ?え、ちょ……っ!?」
ネージュの頬を、涙が伝った。
今まで女の子に泣かれた経験がなかった悠平は軽く混乱しかけ、それだけ心配をかけてしまっていたことに心苦しさを感じて、ネージュを抱き締めた。
悠平に抱き締められたネージュの目からは堰を切ったようにぽろぽろと涙が溢れ出し、嗚咽を漏らし始めた。
――私がもっとちゃんとやれていれば……。
――ごめんなさい。
――心配した。
――死んだかと思った。
――もう目を覚まさないかと思った。
――いなくなるかと思った。
――怖かった。
――よかった。
――よかった……。
――本当に良かった……。
悠平の体を抱き返したネージュは嗚咽を漏らし続け、ネージュの言葉なき言葉が悠平の脳裏に響き渡る。それはネージュの無意識によるプロジェクションによって悠平へ届けられた、ネージュの本心。
悠平はそのプロジェクションから武が悠平の能力を、戦術機ごとテレポートした場合にかかる負担の大きさを仲間たちに話したことを知った。
悠平にとって戦術機でのテレポートは最終手段だ。その負担の大きさからよほどの事態にならない限り使うことはないし、一度使ってしまえば二度も三度もあまり変わりない。だがそれを行うことで倒れ、そのたびにネージュが泣いてしまうのだとしたら、
(なるべく使わないで済むように、もっと強くならないとな……)
泣きじゃぐるネージュの頭を撫でながら、悠平は静かに決意した。
後日、その光景を見ていたソ連軍の者や仲間たちから盛大にからかわれるのは、また別の話である。
大規模BETA群による侵攻以降、戦力を大きく損耗したソ連軍は結局年内のエヴェンスクハイヴ攻略を断念することになり、しかし、BETAも大規模侵攻で大きく数を減らしたことで当面大規模侵攻が起こる可能性はほぼなくなり、実験部隊が横浜基地へ戻るまでの約二ヶ月はごく小規模な戦闘を繰り返すに留まった。
季節は冬を迎え、東シベリア奪還作戦は一応の成功を見たのだった。
戦闘シーン短めで飛ばしていきました。長々書いてもややこしくなって把握できなくなるので……
東シベリア奪還作戦自体は正史でも実施されているんですが、その中身をでっち上げるのは苦労します。ネットで資料を探しても見つからなかったりすると特に……