(;゚Д゚)あれ? ここどうやったっけ? 思い出せ、思い出せ俺!
( ゚∀゚)思い出した! これはパーフェクト来るで!
キーンコーンカーンコーン
( ゚Д゚)
これが今日のハイライト。
改めて、そして初めて自分から踏み入れるサクラ迷宮。
城のような風景は海をモチーフにした聖杯戦争とは違うものの、踏みしめる無機質な床の感覚は同じものだと記憶している。
『聞こえていますか、ハクトさん』
辺りを見渡していると、レオの声が聞こえてきた。
生徒会室からの通信だろう。
「うん。聞こえているよ」
『通信は良好ですね。現在生徒会室はハクトさんのあらゆる数値を観測することで意味崩壊を防いでいます』
「数値を……?」
『はい。そこは水中で、呼吸をする為の空気を送り込んでいると思ってください』
なるほど、この迷宮で正常に活動するためにはそれが必須という事か。
連れてこられたなら何かしら“その存在”によって処置があったんだろうが、今回は自分から足を踏み入れている。
これが出来るのも、生徒会室のレオ達のお陰らしい。
『もし。ハクトさん、アンデルセンが渡した術式は、上手く起動していますか?』
聞こえてきたのはキアラさんの声。メルトからあまり関わるなと言われていたが、やはり彼女を疑う要素がない。
少し引っかかるものを感じつつも、術式を確認する。何に使うものかは分からないが、特に不具合は感じられない。
「大丈夫みたいですけど……これは何のプログラムなんですか?」
『あら……アンデルセンに言伝を頼んだのですが……』
まったく聞かされていない。どころか彼自身、何も知らないような物言いだった。
『……彼には一度話が必要ですね。では、私から説明させていただいても?』
「はい。お願いします」
『その術式は名を
「ゴジョウ……?」
聞いた事も無いプログラムだ。
それに、本来は術式として扱えるものでもないらしい。
『五停心観。煩悩を断つための初歩的な瞑想法である』
ガトーからの説明が入る。そういえば、スーパー求道僧を自称していた。
彼の学んだ宗教には、当然仏教も入っているのだろう。
『はい――この術式はそれほど特別なものではありません。相手の心の隙間を見つけ、本人も意識していない淀みを摘出するものです』
「……心の、隙間」
『そうです。生徒会にお誘いいただいた際、私は既に脱出を諦めた、と言いましたね』
「はい」
『理由の一つは、そのアリーナの性質です。内部は人の心が主体となって構成されているのです』
そういえば、凛が言っていた。
――人の心にずけずけと入ってくるな、と。
『ゆえにそのアリーナにおける障害は秩序だったロジックで出来たものではなく、人の感情――見せられない本性、属性を実体化させたものになっているでしょう』
「……じゃあ、この迷宮は凛の心が?」
『貴方が生徒会に報告した情報が正しければ、間違いなく』
恐らく、キアラさんの助力を得るにおいて、レオが説明をしたのだろう。
凛の心をアリーナの障害として使用した。ともなれば、キアラさんが諦めるのも分からなくもない。
戦力的な話でも、難易度的な話でも、それを突破するのは至難の業だ。
「……僕は、どうすれば?」
『心の壁を払ってください。感情の障害があるという事は彼女は救いを求めている証。――存分に、悦ばせてさしあげれば』
「……」
つまり、凛を探し、凛と話し、場合によっては凛と戦い、その感情を払ってやれと。
いや、払うというより、指摘してやればいいのか。
そうすれば「見せられない本性、属性」という性質は無くなり、迷宮にある障害なるものも消滅するだろう。
――他人の秘密を明かす、という行為は気が引ける。だが、やらなければならない。元より、凛がどうして敵になってしまったかを知らなければ納得いかないから。
「分かりました――メルト、行こう」
「えぇ……気をつけなさいハク。何があるか、分かったものじゃないわ」
「……うん」
確かに、凛はレオがいるという事実を知って何か対策をするといった旨の言葉を言っていた気がする。
それは完璧に近づける凛の性格ともいえるし、逆を返せば――
「――ハク」
っと、あまり考えに耽っている余裕はない。ここはサクラ迷宮、聖杯戦争におけるアリーナと変わりない。
つまりは在り方は違っていても外敵を排除するエネミーは必須である。
球状のエネミー――ランク的には最底辺に位置するそれを見定める。
月の裏側で最初の戦い――戦闘を代行するメルトへの出来る限りのサポート、それが抜かりなく遂行できるかを確認し、右手に魔力を通す。
「――
手から弾丸が放たれる。
そしてある程度、危惧していた事項が間違い無かった事を確信した。
弾丸はエネミーに直撃し、エネミーが動きを止める。その隙を突いて、メルトが一撃。これだけでエネミーは消滅した。
「……能力の初期化……」
「記憶だけじゃ、無かったわね。この拘束具も一役買ってるみたい」
僕とメルト。二人の能力が初期値にまで落ちている。
弾丸の威力も、ここまで小さいものではなかった筈だ。
『初期化……僕たちはそんな事はありませんが……』
『白斗君だけって事? リップ、不具合とかある?』
『いえ……特に、ないです』
月の裏側に落ちた経緯が関係しているのだろうか。
校舎の下に広がった闇に落ちて、令呪を全て失って、更にはメルトに科せられた拘束。
これほどのペナルティ、誰かが故意にやっていなければありえない。
ともなれば、それは今回の事件の黒幕に違いないだろう。だとすると、何故僕なのか。失った記憶では、それに手を伸ばしても決して届くことはない。
『困りましたね……サーヴァントのステータスまでリセットとなると……戻らないのですか?』
『能力の改竄係もいませんし、ステータスの復旧は難しいと思います。ですが、拘束具によるステータスのリセットは一度きり。また一から伸ばす、という事は不可能ではないかと』
『あぁ……なら問題ありませんね』
平然と言ってのけるレオ。しかし、それに対する反感はない。
「一から上り詰める。心配は多いけれど、信頼は出来るわね」
そう、それがなんとなく、僕の得意分野である気がする。
諦めない。一番下から、少しずつ階段を昇っていく。この身体は元より、そんな意地で出来ていた。
「ありがとう……少しずつ、取り戻していこう」
凛と戦うにおいて、それは愚行でしかない。無謀もいいところだ。
だが、それでも構わないという意地はある。また進めばいい。凛に手が届くに至るまで。
決意を新たに、迷宮を進む。
『僕の台詞が結構高い割合で誰かに取られている気がするのですが……』
『それは貴方の意思が皆に伝わっているという事でしょう、我が君』
『……だったら良いのですが。何と言いますか、格好がつかないというか』
『これってレオ君の心の淀みってヤツじゃないの?』
『……あながち否定できんところが耳に痛いな』
……至極どうでもいい雑談を聞きながら。
やはり能力が落ちたのは大きい。特にメルトは元のステータスを活用した戦い方が出来ない事が厳しいようだ。
確かに、メルトは高い敏捷を活かした戦い方を主としていた。そうなるとDランクにまで落ちた状態では戦いづらいのも納得できる。
そしてコードキャストの効果も落ちていた。
弾丸の威力や、ステータスを上昇させるコード、軒並み性能が最低クラスとなっている。
サクラ迷宮を進む上で、これは致命的だ。ステータスを元に戻せないなら戦力としても論外だが、辛うじてステータスを戻すことは不可能ではないらしい。
経験を積んでいけば、きっと強くなる。聖杯戦争で僕がどこまで至ったかは分からないが、それに少しでも近づき、サクラ迷宮の探索で不都合がないくらい。
レオ達への迷惑が掛からないくらいには強くならなければ。
そう思い積極的にエネミーと戦い、ようやく勘を取り戻してきた頃。
「これは……」
アリーナを塞ぐ壁を発見した。
巨大かつ強固、迷宮を通る全てを拒み追い返すという、意思が固まったような壁。
『この壁は……セキュリティレベル・
★……?
セキュリティのレベルはサーヴァントのステータスと同じ括りで分けられる。
最も弱いものはE、最も強いものはA。そして例外として、
『解析不可能……キアラさん、これが?』
『はい。秘密を守る心の防壁……凛さんの秘密を暴かなければ、開くことはないでしょう』
心の壁。それがまさか、ここまでの強度を持てるものだとは。
恐らくこれは、壊してはいけないもの。キアラさんの言ったように、秘密を見つけることでしか開いてはいけないものだろう。
「――下がりなさい、ハクト君。それ以上近づいたら、私も容赦しないわよ」
壁の向こうから聞こえてきた声。現れた凛は先ほどとは違う、敵に向ける目をしていた。
「……凛」
「気安く呼ばないでくれるかしら。私は女王――しぶとく生き残った貴方達を管理する、月の女王なのよ!」
「――」
「……はっ」
『……』
高らかに宣言する凛。その一方で、僕と生徒会の皆は絶句していた。メルトもドライな眼差しで呆れ返っている。
「あら、恐くて声も出ないかしら? まぁ、仕方ないわね。女王を前にした平民なんてそんなものよ」
……違う。何かが違う。
聖杯戦争で知り合った遠坂 凛はなんというか、ここまで残念ではなかった。
月の女王を自称する彼女――まさか、誰かに洗脳されているとか……
「
凛はあくまで、合理的でいる。既に僕が迷宮を探索する役割を持っていることを看破しているようだ。
そして、僕が居る限り、レオや皆は動かないだろうと、そこまで考えている。
実際その通りだろう。それぞれの役割がある以上、レオは迷宮探索に他の人物を任じない筈だ。
それを見越した上で、僕を見逃すと。
「あぁ、勘違いしないでよね? 別に貴方の
――そんな、凛という人物にとって当たり前に出てくるだろう言葉。
それに、微か左手が疼いた。
正確には、左手にインストールされた五停心観が、反応している。
つまり、今のが凛の……?
『これは……』
『なんという……』
『なるほど……レオが注意するだけの事はある。相当な軍師であるようですね、レディ・リンは』
『純粋だなぁ、ガウェイン君』
いや、まさか。
そんな筈はないと否定する心とは裏腹に、左手が持ち上がっていく。
「え……何この空気。私見逃してあげたのよね? 何で残念な雰囲気になってるの?」
知らぬ存ぜぬで通したいところだが、最早五停心観が告げている以上明確だ。
これが、凛の秘密。
これを指摘するのは如何なものか。抵抗はある。
一応、違っていて欲しいという願望と僅かな可能性を信じ、凛に質問する。
「……凛、何で、見逃してくれるんだ? 僕たちは凛に抵抗している。だったらそれは――凛に対する反逆じゃないのか?」
「な……」
女王であるというのなら、その地位を確固たるものにするために反逆者には徹底的に重圧を与えるべきだ。
だが、凛は見逃すといっている。それが戦略によるものだとしても、凛は“先ほどまで僕たちを捕えていた”のだ。
それが逃げて、また来たというのに、何故同じことをしようとしないのか。
「きゅ……旧校舎に戻るってんなら、私に囚われてるも同然じゃない! それを見越しての事よ! アンタに危害を加えたいとか、そんなんじゃないから! 決して、アンタの為なんかじゃないんだからね!」
「……」
確信を持ててしまった。
間違いない。本当に認めたくなかったが、間違いない。
これが凛に巣食う秘密――
「テンプレ乙……本当に、最早伝統芸能の域ね」
メルトが苦笑する。どうやら彼女も気付いたようだ。
「……ごめん、凛」
「え……な、なんで謝るのよ、私は別に……」
凛が言葉を返す前に、身体が動く。
自分の意思ではなく、活動を始めた五停心観に突き動かされているような感覚。
「ちょ――ッ!?」
どうやら、メルトの言葉が引き金になったらしい。
左手の五停心観から発されていた光が最高潮に達した時、凛の胸と同調しその秘密が曝け出される。
駆ける。ひとりでに動く身体。五停心観が宿る左手は開いた秘密に溶け込んでいき――
「――それが、凛の秘密だ」
取り出された煌く“秘密”は、硝子球のように弾けて消え去った。
それに伴い迷宮を塞いでいた防壁が音をたてて崩れていく。
「嘘……無敵のハズの
凛はその様を、驚愕の表情で見届けていた。
その秘密は、ある意味では秘密でもなんでもない。
凛にとっては当然であり、僕自身それを不思議にも思っていなかった。
五停心観が指摘して初めて気付く。それが隠すべき、秘密だというのを。
自分の心に素直であるからこそ、他者に対してそれを隠し、強く当たってしまう性格の一端。
『お手本のようなTUNDEREでしたね。教科書に載せたいほどです』
『……見てるこちらの体温すら上昇させるとは……さすがとしか言いようがないな』
『なんだろうこのノリ』
『ふむ……儂には分からん。世界とは日に日に変わっているものなのだな』
『お気持ちは良く分かります、サー・ダン。皆さんの文化が、私にはまったく分かりません』
生徒会は放っておくとして、凛は――消えかけている!?
「凛――!?」
まさか、致命的なダメージを与えてしまったのか!?
「っ、分身が保てない……!」
分身? この凛は本物じゃないのか?
「くっ……でも、今の私は
「
「それに人の心を盗み取って、ただで済むと思わないことね!」
消えかけた凛が右手を掲げる。そこに光るのは――令呪!
「殺しはしないけど、消える前にちょっと痛い目見せてあげる――カモン、ディーバ!」
サーヴァントの気配。ランサーとの契約を切って新たに契約した、特殊なクラスのサーヴァント。
その存在は凛の呼び声に応じて出現した。
「ふふ――おいしそうじゃない。これが今回のメインディッシュってワケ?」
フリルのついたドレスと、赤い髪。それだけならば、普通の少女。
だが、「普通」だけの外見を否定するパーツがある。
竜の如き、角と尻尾。
「いい声で鳴いてくれそうね。そこの豚、名を名乗りなさい」
そんな、傲岸不遜極まる言動は、領民を苦しめる貴族を思わせる。
指をさされているのは紛れも無く僕であり、かといって何を返せば良いのかも分からず黙っていると、
「ほら、早く名乗――」
「黙りなさい、エリザベート。ハクを豚呼ばわりして良いのは私だけよ」
「――は?」
一体誰の声か。メルトを除く、僕も含めたこの場の全員が驚愕を隠せない。
後半の言葉はあえてスルーしておくとして、現れたばかりのサーヴァントを呼ぶのであれば、相応しいのはクラス名、ディーバだ。
だが、メルトが呼んだのはそれではなかった。
「エリザベートって……」
「な、なんで貴女が真名看破してるのよ!」
「リン、貴女の言葉で確信されたと思うのだけど」
確かに、凛の反応からして真名は間違いない。
エリザベート。その名に該当する英雄といえば……
「なんでも何も、ある意味じゃ私が“その”エリザベート・バートリーと一番関係の深いサーヴァントだもの」
考えている内に、メルトはとんでもないことをぶっちゃけた。
エリザベート・バートリー。十六世紀から十七世紀にかけて実在した女性。
その異名は血の伯爵夫人。ハンガリーはチェイテ城に生きた、史上名高い
自らの欲と美への執着がために六百人を超える女性を虐殺し、その血を浴びて美を保ったとされている。
サーヴァントとして最も重要な真名。それをメルトは得意げに看破し、凛は動揺して自爆し、エリザベート本人はそんな凛を見て呆れている。
「こ、答えになって、ないのよ――――!」
自棄になったような叫びを上げながら、凛の分身なるものは弾けて消えた。
『……凛さんの生体反応は消えていません。今の凛さんは迷宮の容量の
迷宮の四分の一……つまり、
「……凛が、この迷宮の核?」
『そう考えれば、理屈は通ります。分身は、凛さん本体と迷宮のリソースを使って作られた存在だと思われます』
桜の分析が正しければ、今の凛は本人でありながら本人ではない。
抜き出した秘密を守るための
その凛が消え、残るはディーバ――エリザベートのみ。
「……それで、そこのサーヴァント。貴女は何者? 関係が深いって、貴女の事なんか知らないわよ?」
「そうね。私個人が知ってるだけだもの。それで、どうするのかしら? ここで殺し合うでも、私は構わないけど?」
メルトはそういうが、無茶だろう。今のステータスでは及びもつかない程、差は大きい。
だがなんというか、今のメルトには目の前の少女に負けたくないという意地が感じられる。
「……はぁ、
頭を抑えながら、エリザベートは転移していった。
残るのは、僕とメルトのみ。道を塞いでいた防壁――凛曰くウォールが消えたことで、先に進めるようになっている。
『一先ず探索は終了ですね。ハクトさん、その先に比較的安定した空間があります。そこから一旦帰投を』
「あぁ……分かった」
一つ、問題は解決した。これがサクラ迷宮を進む方法。
秘密を探っていく。やはりそれに抵抗はあるが、それしか方法がないのなら仕方がない。
凛に申し訳なさを感じつつ、もう一つ、ちょっとした疑問が生まれる。
ランサーがいなかった。契約を切っていても当然として凛を守ろうとする筈なのに。
あまりにも疑問は多く、解決していく速度の割に合わない。
だが、それでも一歩ずつ進んでいけば、きっと全てを解決する糸口が見つかるだろう。
とりあえず、全ての疑問を一旦押し込めて、休むべく旧校舎に戻ることにした。
五停心観の入手法が違う?
原作通りにやったらメルトがキアラ殺しちゃいます。
ダンさんは流行とかそういうものには疎いです。
無事天然系として、残念属性が追加されました。やったね。
↓今回から開始、何のヒントにもならない一文次回予告↓
「何でも何も、ベッドは一つじゃない」
ではでは、また次回!