Fate/Meltout   作:けっぺん

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初めて絵を貰った感動は異常。
高揚した気持ちを自重せず今日もUP。
ここまで妙に長かった。


Escape From New Moon.-1

「……」

 図書室にマスターが居ない事を確認し、この校舎にいるマスター達には全員声を掛けただろうと判断して生徒会室に戻ってきた僕。

「……あぁ、お疲れ様ですハクトさん」

 レオからの労いの言葉にはどこか、『余計なコトしてくれやがって』と言うような意思が籠められていた。

 ユリウスは難しい顔をしながら溜息を吐き、ガウェインは普段と変わらない誠実さを保ちながらもどこか挙動不審になっている。

 白羽さんは苦笑いしながら、部屋の片隅を見ている。

 その理由は明白だった。

「桜お姉ちゃん! 早く遊びましょう!」

「早く早く! まずは何して遊ぼうかしら!」

「え、いや、あの……」

 桜は心底困っている。

 その周りをくるくると回るのは黒と白の二人の少女。

 確か名前は――

「はぁ……キャスターさん。ハクトさんも戻ってきたんで二人を止めてください」

「了解だよ。ありす、アリス。皆の邪魔になる。図書室で本を読もうか」

「はーい!」

「はーい!」

 レオの言葉を受けたスーツ姿の男性が二人の少女に声を掛ける。

「さて、ハクト君と言ったか。私はキャスター。よろしく頼むよ」

「あ……はい」

 他にマスターとサーヴァントが居たことに驚きつつも、どうやら生徒会に協力的な人物らしい事に安堵する。

「ありすだよ、お兄ちゃん!」

「アリスだよ、お兄ちゃん!」

「え……え?」

 少女二人はまったく同じ名前を名乗った。

 無邪気に笑う二人は悪戯をしようとする雰囲気ではない。

 本当に、同じ名前を持つ二人なのだろうか。

「では行こうか。レオ、用事があったら呼んでくれたまえ」

 言って少女と共に出て行く。

 男性はキャスターと名乗っていたし、つまりあの二人の少女がマスターなのだろうか。

 普通は一人のマスターに一人のサーヴァントがつくものだが、イレギュラーという事もありえるか。

「白斗君の反応からして、ありすちゃん達は自分から生徒会室(ここ)に来たみたいだね」

「そうですね。それでハクトさん、人材はどこですか?」

「あぁ、それは――」

 もうすぐ来るだろう、と言い掛けた瞬間、

「然らばご免! 我こそは地獄のカンダタを救うべく阿弥陀如来が垂らされた蜘蛛の糸!」

 入ってきた。

 その場の空気を吹き飛ばし、そして更に微妙な空気を呼ぶ存在が。

「この臥藤 門司――お呼びと聞いて、即・托・鉢ッ!」

「……モンジ・ガトー?」

「ははは! その通り。恐ろしきは西欧財閥の次期当主よ。小生をスカウトするとは心得ている!」

「…………彼は、貴方が?」

「一応……どんな種類でも花が増えるのは良い事だってガウェイン言ってたし」

 責任転嫁、という訳ではないが、確かにガウェインはそう言っていた。

 レオもとにかく人員が足りないと言っていたし、メンバーの制限を告げられてはいない。

 ――少なくとも、僕は悪くない。

「その通りです。如何なる品種でも、庭を彩る花にはなりえましょう」

「ガウェインには後で話が。ガトーさん、失礼ですが、貴方のサーヴァントは?」

「おらぬ。我が神は旅立たれてしまわれた」

「……サーヴァントを連れていない……?」

 そう、それがガトーの一番不可思議なところだ。

 何故サーヴァントが居ないのか、つまりそれは聖杯戦争で敗北したという事ではないのだろうか。

「だがこのガトー、名うてのマスターである。居て困るというものではないぞ?」

「え、えぇ……サーヴァントの有無でメンバーを決めるつもりはありませんが……」

 まぁ、それは別の問題として、今考えるべきはガトーを生徒会に入れるか否か。

 ガトーが放つ特有の空気はレオさえも引かせるものらしい。

 そんな事を知って知らずか、ガトーは大笑する。

「ではよいではないか! “小生より安く、何故殺したし”! 応援団は任せてもらおう!」

「……ふふふ――ハクトさん」

 レオの笑みが此方に向けられる。

「な、何……?」

「誰がお笑い芸人を連れて来いと言いましたか?」

「すみませんでした」

 心の底から頭を下げる。

 レオの心労は嫌という程伝わってくるし、事実現在進行形で悩んでいるだろう。

 どうでもいいが、正しくは“少年老いやすく、学なりがたし”である。

「……仕方ありません。ガトーさんは生徒会室の掃除やお茶汲み、校舎の見回りやトイレ掃除をお願いします」

「やった。仕事減った」

 ガトーに与えられた仕事は、雑務そのものだった。

 その役目を元々与えられていたのだろう白羽さんが喜んでいる。

「という訳で兄さん、指導をお願いしますね」

「……悪意は無いと分かってはいるが。恨むぞ、紫藤」

 ユリウスにも内心謝罪する。これから心労がたたるのはユリウスだろう。

「まあまあ。言動に難はありますが、ガトーモンジは一角の人物と聞きました。きっと何かの役に立ってくれます」

「ははは! 勿論よレオ会長! メアリーセレスト号に乗ったつもりで頼るがいい!」

「それでハクトさん、他の人物はどこですか?」

 ガトーの言葉を無視してレオは聞いてくる。

 どうでもいいが、メアリーセレスト号とは十九世紀に無人で漂流しているのを発見された船の名である。

「失礼する」

 説明をしようとしたところに、ちょうど短い言葉と共にダンさんが入ってくる。

「シドウ君より脱出戦線の誘いを受けた。ダンと言う」

「サー・ダン……戦闘経験の多い方が協力してくださるのは心強いですね」

「ふむ。儂にとっても貴重な経験となるだろう。ハーウェイの次期当主よ、暫しの命だが、よろしく頼む」

 どうやらレオとダンさんは互いの事を知っているようだ。

「歓迎します。貴方なら拒む理由もありません。ハクトさん、お二人で終わりですか?」

「ああ。他に三人のマスターがいたけど……」

 慎二、ジナコ、キアラさんについて話す。

 協力する気がない、出る気がない、参加できない。

 それぞれに一応理由があり、ジナコはこちらの様子だけモニター、キアラさんは支援はするものの生徒会そのものには参加しない。

「そうですか……いつか覚悟を決める事を待つばかりですか。ともあれ、生徒会メンバーは校舎に居るマスターの半数を超えました。今はそれでよしとしましょう」

 レオ、ユリウス、白羽さん、僕、ガトー、ダンさん。ありすとアリスもメンバーにカウントされるだろうか。

 参加しないメンバーは慎二、ジナコ、キアラさん。

 確かにこれで十分かもしれないが、もっと生徒会に相応しいマスターが二人くらい居た気がする。

「今は行動の時です、ハクトさん。サクラ、ゲートは作っていただけましたか?」

「はい。緊急時ですので特別措置として許可しました。ですが……安全が保証できない以上、紫藤さんをそこに送り込むのは……」

 その行動に関してだろうか。

 横目で此方を伺いながら桜は言葉を濁らせる。

「しかし、現状手段はそれだけです。AIである貴女に責任は負わせませんよ」

「……分かりました。けど、それなら私にも手伝わせてください。皆さんの健康管理が私の存在意義ですから」

「それは此方からもお願いします。人手は多い方が良い。僕とサクラ、ミスキザキとダンさんでハクトさんをバックアップします」

「ちょっと待って……何をするつもりなのか、先に説明してくれないか?」

 正直、何が何だか分からない。

「っと、これは失礼。ハクトさん、説明が前後しましたが、貴方にはこれからアリーナに向かってもらいます」

「アリーナ……? この校舎にもあるのか?」

 確か、聖杯戦争のために用意された構造体だ。

 マスターは七日の間、アリーナでトレーニングを積んで決戦に備えるものだった。

「いえ、アリーナらしきものです。校庭にある桜の樹が、比較的正常な状態で表側に向かっている事が分かりました」

「成程……その桜の樹に未確認のアリーナがあるって事?」

「はい。それを抜ければ、聖杯戦争に戻れる可能性が高い。未確認アリーナでは格好がつかないので、生徒会はこれをサクラ迷宮と名付けました」

「サクラ迷宮……」

 それが、外界に通じる唯一の道。

 そこにメルトと共に入り、調査をするのが自分に託された役割らしい。

 他のマスターとサーヴァントでも通用するとは思うが、僕でなければならない理由があるのだろう。

「僕が行こうと思ったのですが、中は夜なんです。なのでハクトさんが適任かと」

「ヨルナンデス? 地名か何かか?」

「誰かそこの人を購買部にでも放り込んでください」

 夜……何か、レオとガウェインではいけない理由なのだろうか。

 確かにガウェインは太陽の騎士と称され、日輪の下でこそその真価を発揮する。

 ……いや、戦力の話ではない。単純に、そのアリーナでのバックアップの問題だろう。

 僕ではアリーナに入ったマスターをバックアップする技術がない。

 サーヴァントと契約しているだけで精一杯である以上、足での現地調達が自分にできる最大限の事なのだ。

「バックアップは生徒会室で行います。ハクトさんは桜の樹へ向かってください」

「――分かった」

 生徒会の一員として、役に立たなければ。

 自分に出来る最大の形で。

「管理者権限で樹の中に入るゲートを作りました。後は紫藤さん次第です」

 桜もサポートをしてくれる。健康管理AIとして、止めるのが普通なのに、僕たちを尊重してくれている。

 絶対に、皆の意思を無駄にする訳にはいかない。

「以上です。校庭に向かってください。サクラ迷宮初突入ミッションを開始します。所謂処女航海という奴ですね」

「あ、あの……そういう言い方はちょっと……」

「……」

 何故こういう場面でシリアスが続かないのか。

 レオとしては極めてノーマルな単語をチョイスしたつもりなんだろうが。

 どうにも、この空気に慣れるのは時間が掛かりそうである。

「難儀だねぇ」

 白羽さんの言葉に全面同意しつつ、サクラ迷宮に向かう事にした。

 

 

「あれが……」

 校庭の桜の樹からは、校舎内とは違う妙な形の魔力が感じ取れる。

 これがサクラ迷宮に繋がるゲートらしいが。

「あ、あの……」

「――桜?」

 校舎から出た直後に桜に呼び止められた。

「……気を付けてください。迷宮の中は彼女の領域です。もし出会ってしまったら、絶対に逆らったりしないように」

「彼女……?」

 それが事件の元凶なのだろうか。

 そうだとして、桜はその敵が何者であるのが知っているのだろうか。

「危なくなったら、すぐに帰ってきてくださいね」

 桜に“彼女”について問おうとしたが、口を開く前に桜は消えてしまった。

 今のは、強制的な転移だろうか。

「校舎の外でデータを物質化するには霊子容量が足りないみたいね」

「メルト……じゃあ、桜は外には出れないのか?」

「どうかしら? アレでサクラも上級AIだし、システムの維持が最優先。それ以外は不慣れなのよ」

 そうか……AIは設定された事以外には向いていない。

 普通に出来る事にも負荷が掛かってしまうらしい。

「まぁ、ここは月の裏側。AIの原則から外れても即処罰なんて事はないでしょうけど」

「処罰……? それって……」

「今ハクが考えるべきコトじゃないわ。秘密を明かしたいなら慣れなさい。今はサクラ迷宮に急ぐわよ」

「え、あぁ……」

 秘密を明かしたいのなら慣れろ――どういう事だろうか。

 メルトは意味深な言葉が多いが、今のにも何らかの意味が籠められているのだろうか。

 常に先を見越しているような不思議なサーヴァント。それがメルトだ。

 何を知っているかは教えてもらえないし、重要な情報だろうと令呪を使って強制させる気にはならない――そもそも令呪はないのだが。

 ともあれ、その何かはきっと進めば見つかるはずだ。

 今はサクラ迷宮の調査が先決。

 月の裏側に構築された未知のアリーナ、はたして何が待ち受けているのだろうか。

 桜の樹に近づくと、軋むような音と共にゲートが現れる。

 直接桜の樹の中に通じる入り口は暗闇で、中を窺うことはできない。

「……よし」

 意を決して、中に入ろうとした瞬間、

 

「――せんぱい、ここ?」

 

 入り口から何か、巨大なものが出てきた。

 あっという間に視界を覆った何かは、思考の余地すら無く体を圧迫していく。

 その圧迫は窮屈さは感じられず、しかし決して緩やかではない。

 まるで子供が興味を持ったものを手に取るような、無邪気な圧迫。

「メ――ル――」

「ハ、ク――」

 何が起きたか分からない。メルトが共に居る事、それが唯一の理解できている点だ。

 遠くでとぷん、という何かが水に浸かる音がした。

 意識を刈り取る眩暈は容赦なく思考を埋めていく。

 そして、何も感じなくなった。




ありすとアリスがこちらをみている!なかまにしますか?→はい
ありす「だがことわる」
アリス「だがことわる」
キャス「だがことわる」
幼女二人と続投したオリキャラの保護者が旧校舎に逃げ延び、ハクとメルトは拉致られました。
何がしたかったかって、でっかい人も色々ヤバイ事を表現したかっただけです。はい。

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