Fate/Meltout   作:けっぺん

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一回戦~六回戦:約三ヶ月半
七回戦~:約三ヶ月

……正直すまんかった。
クソ多忙期間が思った以上に長かったんだ。

反省しつつ、今回もUPです。


七十四話『救済の選択は』

 

 

 それは、凛やレオが語った世界の、また別の視点からみた光景だった。

 黄金期の抜け落ちた世界。それに違和感を持ち、トワイスは動いてきた。

 だが、どうにも疑問が残る。

「……何故、戦争を?」

「それが最も効率の良い前進だからだよ。安定、停滞は種を保存するだけの話。そんなものが目的なら、そも人間は必要ない」

 ――分かるかい? 人間は動物として、罪深すぎるんだ。

 トワイスは至極まっとうに、平然と言ってみせた。

「己が都合の為に多くの命と資源が費やされた。何故か。決まっている、繁栄する為だ。それが命の意義だからね」

 トワイスが至った答え。人類が存在する意義であり、本能。

 直接僕の心に告げてくるような、妙な説得力はより強みを増し、若干の期待と共に鼓膜を揺らす。

「――君なら、理解できる筈だ。人間は成長する生き物であり、その為に、多くの夢を食いつぶすのだと」

「っ――!」

 正しく、今まで自分が通ってきた道そのものだった。

 零であった状態から、一歩一歩、他の願いを超えて歩いてきた。

「無為を乗り越え、人間は初めて成長する。君がそうであったように。芥の思想、多くの過去。それらの喪失はあまりに大きい。それがこの程度の文明で終わるなど許されない」

 確たる意地を持ってトワイスは言う。

「そうだろう? 今まで支払ったものに相応しい未来を築き上げなければ、人類はただの殺戮者だ」

 その言葉に、かつて戦った老兵、ダンさんを思い出す。

 結果を拒まず受け入れ、意味を見出し、答えを模索し、勝ち続けた責任を果たす。

 長い戦いの中で得た答えを、この男性も同じく戦火に見出していた。

「過去に生きた人間として、そんな未来は認めない。こんな社会の為に、私たちは命を浪費したんじゃない。しかし、時間は戻れない。戻れないなら、進むしかない」

 過去の人間の代表とも言わんばかりにトワイスは過去を食い潰して存在する未来の在り方に怒りを持った。

「だから、もう一度、闘争に時代をやりなおす。誰もが当事者として生存競争に参加し、違う道に進まなければならない」

 戦争を憎み、戦争を否定できなかった彼の結論。

 それは戦争によっての進歩。戦いの中での人類の進化。歪んだ、それ故に真っ直ぐな願望だった。

「この願いは、いまや確信に変わった。聖杯戦争の勝者よ。君の存在こそが、それを証明してくれたのだから」

「……この人が?」

 きょとんとするラニ。だが、僕自身は言いようの無い不安を持っていた。

 トワイスの次の言葉を待つ中、とある結論を危惧し、それが杞憂であって欲しいと願っていた。

「元々、聖杯戦争とはムーンセルの情報収集活動の一つに過ぎない。無論、聖杯戦争という名もなかった」

 最良のサンプルを必要としたムーンセルによる生存競争。

 それは、サンプルの性能を競うトライアルに過ぎなかったのか。

「自己解釈の末、魔術師たちは共に殺し合い、脱落していった――」

 トワイスは辺りに転がる石柱たちを指しながら淡々と告げる。

「酷いものだろう? 私が勝利するまで、この世界は屍の山で埋まっていたんだ」

 石柱たちは、さながら魔術師たちの成れの果てといったところなのだろうか。

 ルールも何もない戦いで、根拠のない願望器たる聖杯を求めて殺し合っていた。

 正にそこは地獄だったのだろう。

「私はNPCだからね。君たちとは違って死んでも次がある。自我に目覚めた私は、最弱の身から幾度となく戦いを繰り返した」

 何度もやりなおし、その度に殺され、また次を最初の一歩から歩みなおす。

 そして、恐らくは何十という戦いの末に、この座に辿り着いたのだろう。

「ようやくここまで来て、そこからは簡単だ。私はここから表層のルールを操作し、聖杯戦争を作り上げた。ただ一人が生き残る、苛烈な生存競争――想像できぬ域まで人を押し上げる可能性の場に作り変えたんだ」

 聖杯戦争というシステムを作り上げたと宣言した彼は、優しげな――それでもやはり冷めた視線を向ける。

「そして、君が現れた。最弱から始まり、やがては世界の王を倒すに至る君が。はじめから適正があってはいけない。無名から、世界の代表にまで至る君が」

 僕を鍛えた戦い(もの)を、血肉を鋼と変えた苦境(もの)を、トワイスは切望していた。

 それが彼の掲げる、人類の可能性なのだと。

 トワイスはそこまで語ると半歩退き、道を空ける。

「さあ――聖杯に接続したまえ。君は地上に、その成長過程を知らしめる権利がある」

 手で聖杯を示しながら、トワイスは嬉々と告げる。

「そして声高らかに叫んでほしい。戦いは必要だと。人類はより早く進化できるのだと」

 たった一言、“止まるな”とムーンセルに入力する。それだけでその結論は確定するだろう。

 後は地上の様子がそれを肯定し、証明する。戦いが齎す、人類の進歩の早さを。

「その後は君の自由だ。神だろうと王だろうと求めたまえ。私はそれを祝福しよう。何であれ、君の決断は戦いに帰結する」

 人類は、多くの戦争を経て、数え切れないほどの命を失った。

 いずれも大きな欠落だ。欠落は成果で埋めねばならない。でなければ、失った意味がない。

 埋められぬというのなら、新しい欠落を。埋めずにはいられない傷跡が、人類には必要なのだ。

 独善。偏執的。トワイスの言葉はそんな独り歩きに満ちている。

 しかしそれでも、絶対悪とは切り捨てられない。それはトワイス自身、それが正しいと認めていないからだ。

 かつて実在した人物の情報。僕と同じ発端と形を持つ者。

 そんな過去の亡霊とも言える人物の訴えを前にして、それを否定できない僕がいた。

 何より、トワイスの結論の体現者が、紛れもない僕なのだから。

 どうしようもない不安を拭い去るように求めていたトワイスの言葉、それが無くなり、咄嗟に僕は疑問をぶつけていた。

「……何故、過去の聖杯戦争の勝者がここに? その願いを、自分で告げれば――」

「残念だがね、それは無理なんだよ。自己を持ったNPCなんて不正なデータを、ムーンセルが許容すると思うかい?」

 ――当然、許すわけがないだろう。

 不正は正す。聖杯に接続した瞬間、ムーンセルはトワイスの存在を許容しない。

「この辺りなら幾らでも誤魔化せるが、中枢に至ればすぐに見破られ、分解されるだろう。それでは意味がない。正規の勝者が必要だったんだ。私の理想を体現し、聖杯へと至れる者が」

「……不正なデータ……まさか――」

 ラニが感じている絶望の意味も分かる。

 トワイスが欲している存在は、僕では不相応なのだ。

 同じ、過去の再現である以上、結末は同じ。それは言うまでも無く、僕自身薄々思っていたことだった。

 それでも歩いてきたのは、願いと意思によるもの。

「ムーンセルの持つ全ての情報と演算機能があれば、確実に全人類規模の戦争を起こせる。正しく行動すれば誰もが生き残れる生存戦争が。私はそれを叶えうる戦いの申し子を待っていたんだ」

 だから、逆にそれが肯定されてしまうのが恐かった。

 トワイスの思想が、僕の至った願いと同じ、進化の為のものである事に、何より恐怖を感じていた。

「見えるだろう。あの門が。あの奥こそ月の中枢。フォトチュニック純結晶によって作られた記録の中心」

 あれに接続した聖杯戦争の勝者は、無限とも言える可能性を選び出し、望んだ世界を確定することができる。

 神の頭脳に不可能は存在しない。あらゆる物事を担い手の意思によって決定し、自在に世界を変えられる。

「この先はこう名付けられた――事象選択樹(アンジェリカケージ)と。その所有権は君にある。さあ――進みたまえ。地上に嵐を。失ったものを嘘にしない為に、どうか、歴史をやり直してくれ」

 どこまでも真摯に、信頼を込めてトワイスは告げてくる。

 戦いによって成長してきた僕。トワイスの理想そのものである僕と同じ道を、地上すべてに歩ませろと。

 それは、僕が戦いの中で至った答えとどこまでも共通していた。

 歩まなければ、人は生きられない。レオにそう宣言した。

 だが、歩むために戦いは避けられないのではないか。トワイスの言葉で、そんな欠陥が見えてしまったのだ。

「戦いは――避けられない」

「そうだ。地上の人々にそれを気付かせるんだ」

 そんな事、求めていない。戦いを肯定なんて出来ないのに、否定していても必然として戦いは訪れる。

 なら、それが僕の願いの本来の形なのだろうか。

 戦いによって訪れる人類の進化。それが、僕が願っていた願望の果て――

 

「――ハクッ!」

 

 頬に、衝撃が走った。

 気がつけば目の前に立つメルトと、大きく振ったような腕、コートから覗く手が何が起きたかを物語っている。

 サーヴァントと思えない力の弱さは、感覚障害によるものだろうか。

「ハク――まさかとは思うけど、戦いを肯定する訳じゃないわよね?」

「っ」

 メルトの問いは、確実に核心を突いてくる。

 戦いを否定する事が出来ないトワイスと同じ道を歩むのが、僕の願いの本質なのではないか。

 そんな不安を切り裂くようなメルトの鋭い眼差しは、怒りが込められていた。

「仕方ないなんて割り切って良いの? 死を積み重ねた先の進化で良いの?」

 全て理解しているようなメルトの言葉。良いはずがない。願わくば、そんな前提なんて覆したい。

 しかし、似すぎているトワイスの願いがどうしようもなく染み込んでいるのだ。

 戦いこそが正しい道なのだと。

「私に、ラニに、リンに、レオに語った願いはそれなの?」

「ッ――!」

 違う。僕が思い描いていたのは、そんな未来ではない。

 

 慎二やありすのように、何も知らずに死ぬ人間がこれ以上居ていい訳がない。

 

 ダンさんの言ったように、僕なりの責任が戦いとして果たされる結末があっていい訳がない。

 

 白羽さんのように、恐れた死を迎えてしまう未来を作っていい訳がない。

 

 ユリウスと分かり合えたのは死の間際。そんな皮肉な運命をこれ以上迎えさせていい訳がない。

 

 

 自信を持ってメルト、ラニ、凛、レオに語った願いが戦いに帰結するなんてあっていい訳がない。

 

 

「――そうだね、メルト。ありがとう」

「……ふふ……言ってあげなさい、ハク。過去の欠片に過ぎないあの男に、貴方の意思を」

 頷いて、トワイスに向かい一歩踏み出す。

 そうだ。今のはトワイスの思想に過ぎない。

 それを押し付けられる訳にはいかない。戦いで考えに至ったのなら、尚更その意思を歪めてはいけない!

「――戦争を肯定する事はできない。それは僕が望む世界じゃない!」

「感情的だな。君らしいといえば君らしい。そこのサーヴァントの君も、同じ考えなのか?」

「当たり前じゃない。貴方と同じ考えを持っていた――それだけで即刻破棄するレベルに気に入らないんだから、それを否定するハクの考えに肯定しない理由がないわ」

 勝ち誇ったようにメルトは言う。

 これ以上ない頼もしさを込めて、真っ向からトワイスを否定する。

「戦いの中で私も変わってきた。それは否定しないわ。でも嫌。私の変化の要因は戦いじゃなくてハクだから。そのハクの願いの障害になるのなら――」

 

 ――なんであれ、融かしてしまうわ。

 

 堂々たるメルトの宣言は、僕の自信に変わる。

 トワイスを意思を以て否定し、彼の歪んだ願いをここで断ち切ってみせると。

「……理解に苦しむよ。他の人間ならともかく、私の思想の体現者である君が」

 それは、当然の事だ。何を迷っていたのか。同じに見える根底の、決定的な相違点に気付けなかったなんて。

「同じ道を歩んでも、同じ気持ちを抱くとは限らない。戦いの中で得た僕の答えは、戦いに帰結する願望じゃない!」

 断固として告げた。

 これが僕の答え。そして、トワイスと敵対する絶対的な宣言だ。

「……残念だ。相容れないとなっては、君を帰す訳には行かない。ムーンセルから生きて帰れるのは一人だけ。君か私、どちらかが消滅しなければ、永遠に出られない」

 当事者ではないラニを勘定から抜かして、トワイスは言う。

 だがそれはとんだ見当違いだ。このムーンセルから生きて出るのは、僕でもトワイスでもない。

 このラニなのだから。

「洗脳なんて使いたくなかったがね。君の変心を待つほど、私も余裕がある訳ではない」

 洗脳。心にトワイスの意思を植え付け、願いをトワイスの確たるものに変化させる気だろうか。

 だが、そもそも僕もトワイスも同じ不正だデータに過ぎない。ムーンセルの中枢で、消去されてしまう存在だろう。

 何も得られず無になる僕、そして、その無を手にしたところで何ひとつ解決しないトワイス。

 この戦いに勝者は存在しない。だが、ほんの僅かでも、願いを叶えられる可能性があるのなら。

「抵抗しても構わない。君自身、我を通すのであれば、私を倒すしかないのだからね」

 僅かな可能性に賭けるための大前提。そこに立ち塞がる、本当に最後の障壁。

「実に因果だ。結局、行き着く先はこの結論か――では、今回の聖杯戦争を締め括ろう」

 トワイスが片手を空に掲げる。

 白であった空は一転、満天の星空へと切り替わった。

 その手に光る、三画の令呪。彼がマスターである、決定的な証。

「ただ一人の勝者が全てを手に入れる、それが変えようの無い人間の在り方という事だ……!」

 

 ――生死のかかった戦いでこそ、人は精神を成長させうる。

 

 ――人類にとって私は悪である。だが生命とは転輪するもの。

 

 ――全てを生かす為に、個に救いを齎す為に、私はこの力を授かった。

 

「見るが良い。凡百のサーヴァントよ。ムーンセルがその蔵書から私に与えた救いの姿を!」

 輝く令呪は、英霊を呼ぶ。彼が手に入れた、最強の力を。

「来たれ、救世の英霊! この世でただ一人、生の苦しみより解脱した解答者よ!」

 天に、巨大な転輪が現れる。

 最上部は見えないほどに高く展開されるそれは、規格外な宝具だった。

 その中心より光が降り、圧倒的な魔力を以てこの空間に現界する。

 大いなる深緑、原始の緑を連想させる、特殊極まりないサーヴァント、救世者(セイヴァー)として。

「――それが、人類が悟りを得て真如へと至る道であるならば、我は衆生を救済すべく(ヴァジュラ)を持ちてそれを導かん」

 救世の英霊は、慈悲に満ちた厳かな言葉を言い放つ。

 ガウェインやカルナなんて、話にならない程の力。

 嫌でも感じる強大さも、戦いの後に待つ結末(みらい)も、この歩みを止める事はない。

 今はこの、正真正銘の最後の戦いを、ここまで一緒に来てくれた――愛する彼女と戦い抜く!

「行くわよ、ハク。貴方の望みを無駄にはしない。一番近くで認めた私が、あの場所に導くわ!」

「あぁ――行こう」

 メルトの言葉で、手に力を込める。

「ハクト、さん……」

 ラニの不安げな声に、自信を持った笑いで返す。

「大丈夫だよ、ラニ。戦いは――すぐに終わる」

 意思が魔力に作用して、より大きな力に変える。

 令呪に込めた魔力は更に膨大な力として、聖杯戦争を終わらせる力としてメルトを支援する。

 全てを今、終わらせよう。

 

「令呪を以て命じる――メルト、全てに決着を――!」

 




物語は最終局面へ。
最後までヘタレさせねぇとウチのザビじゃねぇんです。

さて、ここからはちょっとしたご報告。
CCCに関してですが、今のところ新規のオリキャラは二名(+三名)を予定しています。
三名は細かい設定を後付けするだけなので半オリキャラと言った感じですが、残る二名は完全にオリジナルとなります。
尚、新たな陣営は今のところ予定しておりません。

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