Fate/Meltout   作:けっぺん

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決戦 なう。
二日おき更新は、今のところ何とかなりそうです。
このまま行けば今年中の完結も出来そうですね。


六十八話『月影の名は』

 

 

 終末の空が見える。

 どこまでも続く砂の海と、崩れ落ちた古代の建築物。

 中天の太陽は、この場で起こる戦いを静かに見守る。

 聖杯戦争の終わりとなる場に相応しい決勝戦の決戦場は、海より出たこの場で行われる。

 乾いた熱砂と無窮の蒼天。向かい合うように、黄金の王と白銀の騎士が立つ。

「――いよいよですね、ハクトさん」

「うん――本当に、長かった」

 どちらも、先に進まなければならない。だが、それが叶うのはどちらか一方だけ。

 どれだけ名残惜しくても、ここがレオと相対する最後の場なのだ。

「メルト、頼む」

「任せなさい、ハク。絶対に――勝ってみせるわ」

 メルトの自信の篭った笑みに、笑って返す。

「最後です、ガウェイン。その剣の全てを、僕の為に」

「その言葉、心待ちにしておりました。この身体全てを剣と成し、今こそ玉座への道を拓かん!」

 レオの言葉に応え、セイバーが太陽の聖剣を構える。

「さて、始めましょう、太陽の騎士さん。その見上げた騎士道に幕を降ろしてあげるわ」

 メルトも今までの集大成と言わんばかりに、吸収した魔力を表出させながら不敵に笑う。

「出来るものなら。しかしどうあれ、道を譲る訳にはいきません」

「だったら貴方達を踏み越えていくだけよ。今まで通りに、ね」

「ここより先は、王だけが歩む道。貴女方が渡ろうと言うのなら、それを全力で遮るのみ」

 レオと目が合う。その視線は相変わらず優しげで、それでいて今から戦う者への最大の敬意を表している。

 しかし、それは誰に対しても平等なもの。相手が誰であろうと同じ、優しい目を向け、誰を特別視することなく道を阻む者には相応の対処をする。

 行き過ぎた平等。それはレオの兄であるユリウスに対しても同様で、だからこそレオの異常さはどこまでも清廉潔白に見えるのだ。

 そんな民衆のための王が最後に立ちはだかるのは、やはり必然だったのだろう。今から戦い合う王に対して、此方も笑いを向ける。

「この身、この心、この(すべて)は王の為に。いざ、燃え尽きるがいい。持たざる者よ!」

 聖剣に込められた擬似太陽が運動を開始する。

 剣が軋むほどの炎熱を放ちながら、ガウェインの威圧感をより圧倒的なものにする。

 そして次の瞬間、互いの第一撃が放たれた。

 セイバーの居合いに似た構えから振るわれる剣は、斬撃よりも刺突を思わせる鋭さを持っている。

 剣を包む炎も相まって、たったそれだけでも十分すぎる威力を持った一撃と化していた。

 しかし、メルトも負けてはいない。魔力を水の如く放出することで威力をあげ、セイバーの攻撃に対処するように放つ脚の一撃はセイバーのそれを僅かに上回る。

「くっ……」

 少しでも戦況が傾けば、メルトはそれを更に有利に変えるスキルを所持している。

 マイナススキルの側面を強く持つ加虐体質だが、攻めることによって攻撃性に補正が掛かり、より有効打を与える可能性を上げることが出来るのだ。

 問題はそのマイナスの側面。戦闘――というよりは自身が有利である時間が長引くほど、メルトが理性を失ってしまう点だ。

 下手をすればバーサーカー一歩手前のスキル。無意識にこれに頼る戦いがどんな痛手を呼ぶかは、四回戦のリップとの戦いで痛感している。

 だからこそ、マスターとして攻め時とその間隔を考えなければ。

「っ――」

「メルト、戻って!」

 攻撃を往なし続けるセイバーが僅かに体勢を低くした時を見計らい、メルトを呼び戻す。

「っ」

 ある程度の攻撃ならば、メルトも周りが見えなくなる程の暴走はしない。

 素早く戻ってきたメルトが居た場所を切り裂くように振るわれた剣をもう一度構えなおし、セイバーは強く睨みを効かせる。

「退き際を心得ていますね。従者の手綱を上手く握っている」

 セイバーからの、素直な賞賛だった。

「それに、私の反撃を読むとは……良い観察眼をお持ちだ」

「さすがですね。ガウェインをして賛辞を受けるとは」

 レオも言う。あくまで、僕たちの挑戦を受ける側として戦い、それを評価しているような言い方だ。

「まだ、こんなものじゃないよ」

 ならば挑戦的に返す。弱い立場から這い上がってきた身としては、レオに挑戦するという表現は間違っていない。

「それは楽しみだ……ガウェイン」

「はっ……」

 セイバーが手を翳す。その手には令呪に似た刻印が忽然と輝いている。

「その呼吸を乱す……!」

 聖剣から零れる炎熱とは別に、セイバーを渦巻く魔力。それはガウェインが当然として持つ、騎士としての誇りと誉れが表出したもの。

 即ち、騎士王を含めた選ばれし騎士だけが集う円卓の刻印。誇りと誉れ――意思の力でしかないものを、物理的な力へと変換する騎士たる証にして、彼が真の英雄である事を証明する力。

 それを外側から護るは、精霊の加護。他でもない、聖剣を与えた湖の乙女による、優先的に幸運を見出す能力。

 誇りと加護を力とする完成された騎士の姿が、そこにあった。

「面白いじゃない。相応の形で相手をするわ」

 言って、メルトもその魔力を変質させる。『許されぬヒラリオン』、攻撃と同時に相手の魔力を奪い去る長期戦に向いた補助スキルだ。

 互いの戦闘体勢が整い、それを待っていたかの如く聖剣は唸りと共に炎を巻き上げる。

「障害は全て――叩き伏せる!」

 特別な忠義を込めた剣閃を、メルトは防御に展開していた魔力で対処する。

 凄まじい火炎と爆風を僕自身も盾のコードで防ぐ中、涼しい顔で立っているレオを見る。

 戦いを見物するようにただ立っているレオはコードを紡ぐ素振りも見せない。手を隠しているのか、セイバーを信頼するがゆえか、まだ、使う必要は無いと踏んでいるか。

 だったら、その間に少しでも詰める。まだ戦いは序盤だ。ここで有利に立っておけば、きっと後半にも作用する。

gain_str&agi(128)(筋力、敏捷強化)!」

 筋力と敏捷を上昇させることで、より攻撃の回数を増やす。

 聖者の数字による強化はないといっても、やはり最強クラスのサーヴァントなだけはある。セイバーはメルトの鋭い攻撃を冷静に対処しており、今までの手数に不釣合いな傷しか負わせられていない。

 それが一撃を重く、速くすることで変化を及ぼせるのではと思ったものの、しかしセイバーの剣は纏う火炎も相まって担い手を護る。

「っ――甘い!」

 意思を直接力に変えるセイバーの一撃も重く、防御を主体としつつも時折襲う斬撃は回避こそ出来ているものの、一切油断できない威力を持っている。

 速度に長けるメルトの攻撃にも慣れたのか、最早傷を与えられる様子もない。

 ただ単調な攻撃だけに頼った一辺倒な攻めで勝てる程、相手も甘くないだろう。

「メルト!」

 一旦セイバーとの距離を取り、次の手を考える。

「やっぱり、決勝に相応しい相手ね。ハク、どうするの?」

 どうするか。懸念されるのがレオの存在だ。

 未だ行動を起こさず戦いを静観しているセイバーの主の存在が判断を迷わせる。

 いや、少し試してみるか。

「とりあえず、レオの出方を見たい。同時に攻めるよ」

「分かったわ。行くわよ」

 これでレオが何かしらの行動を起こしてくるか、どの程度でレオが行動を起こすべきと判断するのか。

 まずは今まで通り、メルトにセイバーの気を引かせる。しかしその攻め方は先程よりも控えめで、セイバーもレオも不自然を抱いているはずだ。

 期を見計らい、コードを紡ぐ。

shock(128)(弾丸)!」

 多重展開。より少ない魔力で同じコードを幾つも紡ぐ、ここ三日間で修得した技術だ。

 六回戦の凛との撃ち合いでこれが出来れば、もっと有利に立ち回れただろう。

 弾丸を幾層にも重ね、雨の様に撃ち出す。一つならまだしもこの量を、メルトの連撃の中で防ぎきるのは難しいだろう。

 弾丸が初めだったら、聖剣からの魔力の放射で防ぐのも簡単だっただろう。だが、今はメルトの攻撃を捌くのに使っている以上突然に魔力を放出することはできない。

「っ――!」

 セイバーの苦渋の顔に対して、レオは涼しい顔を崩さない。

 コードの兆しは見えない。この状況になって尚、セイバーに任せると?

 直撃を確信した瞬間、

 

「ガウェイン」

 

 良く通る声で、レオは呟いた。

「――くっ!」

 メルトが下がり、セイバーが聖剣の魔力を放出し、炎の防壁を作る。

 弾丸を防ぎきるのと同時に、メルトは戻ってきた。

「メルト!?」

「ごめんなさい……しくじったわ」

 メルトはわき腹を押さえながら言う。そのコートに隠れながらも、滴る血は見えている。

「一体何が……」

 治癒のコードを紡ぎながら、防壁を消滅させるセイバーを見やる。

 セイバーには、一切変化が見られない。それに、レオも何かのコードを紡いだ気配が無い。

 であれば、どうやってメルトに攻撃したというのか。弾丸を放ち、その弾丸が届くまでにセイバーは連撃に晒されながらも何かしらの方法でメルトに攻撃を当て、素早い行動で防壁を展開、弾丸も防ぎきった。

 そういった結果だけは明白ながら、その過程が理解できない。あの連撃の中でメルトに攻撃を当てるには、瞬間的に使えるような攻撃じゃないと無理だ。

 切り傷となると剣による攻撃。攻撃を受けていた聖剣で咄嗟に攻撃する方法。

「まさか……」

 一つだけ思い当たる、聖剣ガラティーンの情報。

 遥か遠くに居る敵だろうと可視できれば刃が届く――あの時は到底信じがたい、当てにならない情報だと思っていた。

 しかし、今の状況で咄嗟に剣の刃を伸ばし、メルトを傷つけたのだとすれば。

「そうなると、この決戦場のどこに居ても関係ないか……」

「どうするの? あの剣、思った以上に厄介よ」

 メルトも情報に思い至ったようだ。距離を開けても詰めても、あの剣を前にしては同じこと。

 そして攻防どちらにも使える炎の魔力。更にはセイバー自身が纏う意思と精霊の加護。改めて、完璧たるサーヴァントに戦慄が走る。

 まずは一撃与えるところから――その一撃を与えることが、そもそも難関。

「炎の防御を破れるくらいの攻撃があれば良いんだけど……とにかく剣先に立たないよう注意しながら――」

「防御を破る、ね。了解したわ」

「――え?」

 メルトの攻撃スキルは速度や吸収に秀でたものだが、特別威力の高いものは無かった筈だ。

 もしかして、あるというのか。あの炎は防御能力もかなりのものだろう。それを貫くほどの何かを隠し持っていたと?

「できるだけ魔力を通して。あの太陽の防御、貫いて見せるわ」

 信じて、いいのだろうか。否、今までメルトを信じなかったことなんてない。

 だったら今回も、今まで通り信じる。それが良い方向に向かうことを信じて。

「分かった――」

 紡ぎ上げるのは魔力の供給。『道は遥か恋するオデット』で紡ぐ、普通の術式では出来ない魔力パスの増強。

 結果普通とは違う量の魔力をメルトに供給できる。瞬間的な攻撃に込められる魔力も、通常の比ではない。

「行くわよ、騎士さん」

「……」

 セイバーは、攻撃を先に止めようとはしない。

 襲い来るものから主を護る騎士の在り方――セイバーも、それに反さない意思の持ち主なのか。

「……」

 レオも、ただ黙して戦場を見ている。

 そんな二人を打倒すべく、メルトに魔力を供給、メルトはその魔力をより鋭いものへと変えていく。

 静かで、緩やかで、それでいて喧々かつ激烈な、変幻自在たる水の魔力。

 それを相手を貫く刃に変質させ、放つ――今まで何度も試用してきた、『踵の名は魔剣ジゼル』に近い。

 ただ、それでも違うのは魔力の量。

「――月影の名は(ブリゼ)

 そう、同じようで、圧倒的に違う。

 多大な魔力を以て放つ一撃、その名は、

魔刃ジゼル(エトワール)!」

 元になった攻撃と同じ銘を付けられながらも、より攻撃的となっていた。

 速さを追求した鋭い攻撃を進化させた、速度をそのままに範囲と威力を増した、刃の閃光。

 対軍クラスにまで昇華した無数の刃がセイバーを襲う。

「なっ……!」

 これ程の攻撃は想像だにしなかったのか、セイバーも驚愕に目を開き、咄嗟に剣を振り上げる。

 しかし咄嗟の防壁で防げる威力ではない。鋭い閃光はセイバーを――

「……させません」

 瞬間、レオが魔力を放った。既に紡いでいた術式を発動し、セイバーの前に展開する。

 強大な盾として。

 炎熱を貫いた閃光が盾に突き刺さる。

 後少し――しかし及ばず、閃光と相殺するように盾が消滅し、

「甘いわね、王様」

 追撃で放たれた斬撃が、セイバーを切り裂いた。




月影の名は魔刃ジゼル。赤セイバーの喝采パワーアップみたいな感じ。
でも普通のジゼルは使えるので、やっぱり別スキル扱いでしょうか。
新技が防がれるという展開は一度やってみたかった。メルトはそれも予想の内だったようですが。

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