Fate/Meltout   作:けっぺん

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白野をシャナの世界にぶち込みたい。
EXTRA勢の英霊全員好きな時に呼べる感じで。
封絶内で動けるようにすれば立派なチートフレイムヘイズの完成だぜ。

……なんて事を考えていたのが今回の更新遅延の主な原因です。


六十二話『聖者の数字』

「……」

 昨日に引き続き、図書室でラニと情報を集めている。

 セレフによって強制的に校舎に戻されてから図書室を訪れると、夜も更けているというのにラニは頑張ってくれていた。

 疲れを見て察したのか、成果発表は明日にするので休んでほしいと言ってくれた。

 その気遣いに感謝しながらしっかりと休み、そして迎えた二日目。

 ラニから得た情報は確かに有益なものながら、改めて相手となるサーヴァントの力に瞠目する。

 そもそも、この情報をどうやって手に入れたのか。そう問うと、ラニは多少の申し訳無さを醸しながらもこう返してきた。

「昨日、ハクトさんが帰還する少し前、ムーンセルの記録を防護するプロテクトの一部に穴が開いたのです。そこからセイバーの情報が得られるかと思い試したところ、多少ですが入手できました」

 帰還する前――そして、ムーンセルの記録を防護するプロテクト。

 もしかして、セレフだろうか。

 紫藤 白斗を罰する為にアリーナに姿を現した結果、セレフが元々居た場所が穴となり、ムーンセルの記録に介入できるようになった。

 多分今はその穴も塞がれているんだろうが、少しながら情報が得られたのは運が良かったのだろうか。

 ムーンセルの記録を探るのは危険な事だろう。僕としては、それをラニにさせたくはなかった。

 だが、最後の決戦に向けてラニも全力で手を貸してくれている。

 今回は無事だったことに素直に安心し、僕に協力してくれることを感謝するべきだろう。

 今はこの、ラニが手に入れてくれた情報を考えるのが先決だ。

 とは言え、セイバーの能力は余りにも強力に過ぎた。

 ラニが集めた情報は、セイバーのスキル、聖者の数字についてだ。

 朝から正午――正確には午前九時から正午に掛けて、力が三倍になる能力。

 しかしその効果時間はそれだけではない。午後三時から日没までの三時間にも作用するというのだ。

 もし昨日、アリーナでレオ達と会っていたら、その情報を知らないまま戦う事になっていた。そして何の対策も出来ないまま、あの聖剣の下に伏していただろう。

 太陽に因んだ英霊と言えば、前回、六回戦のカルナが思い付く。

 彼もまた太陽の加護を持った鎧を纏い戦っていた。あれは単純に防御力だけを追求したものだ。

 だがガウェイン卿のスキルは違う。

 防御力だけではない。攻撃の速度や威力にもそれが作用されているだろう。

 決戦は夜。普通に考えれば、あまり懸念するスキルではない。

 だが、何か夜でも作用する効果も持っているかもしれないという事も考えておかなければならない。何せ決戦は一度きりなのだ。隠れた能力を見破れずに戦いに赴いて敗北してしまっては、今までやってきたことが全て無駄になってしまう。

 どんな能力を持っているのか、それを完全に調べないで戦うのがどれだけ危険なことなのか。それはさすがに理解している。

 今までの戦い。それらで情報の不足無く戦えたのは、互いに戦いへの意思が軽薄だった一回戦と、メルトが相手を良く知っていた四回戦だけだ。その二組の対戦相手でさえ、情報以上の実力に苦しめられた。

 他の相手は宝具やスキル、更にはマスター自身の地力を隠し、完璧だと思っていた情報の穴を突くものだった。

 慎二とライダー。あの宝具の火力は、一回戦の状態ではメルト以外のサーヴァントが防げたかどうかも怪しいものだ。『さよならアルブレヒト』。聖杯戦争も後半になってから知ったメルトの能力は、あの時から僕を助けてくれていた。

 ダンさんとアーチャー。彼らはあのアーチャーに相応しい隠匿の宝具、『顔のない王』を隠し持っていた。戦いの基礎を知り尽くした、ダンさんらしい戦い方だったと思う。

 ありすとキャスター(アリス)。あの二人に至っては殆ど戦力に関する情報を得られなかった。物語に因んだ魔術や特異な宝具、あれらを知っていれば、有利に戦えたかもしれない。

 白羽さんとリップ。極限圧縮という特殊な宝具の効果は、ラニの力が無ければ防ぎきれなかっただろう。或いはメルトも、宝具の使用を考えていたのではないか。

 ユリウスとアサシン。情報は集まっていながら、中国武術の達人相手に有利に立ち回るなぞ出来る筈も無かった。ユリウスの違法術式も危険極まりないものだった。

 凛とランサー。知っていても対処のしようが無い黄金の鎧。そして必殺の槍を耐え凌いでも、まだ強力な宝具を持っていた。アリーナを崩壊させる程の一撃、今もあれを防げたのが不思議でならない。

 レオはこれまでの相手の誰よりも勝るのだ。今まで以上に慎重になる必要がある。

「聖者の数字への対策もしておいた方が良いかな?」

「そうですね……レオ・ハーウェイ程の相手です。対策は念入りにしておくべきでしょう」

「……そうなると、やっぱり一度戦うのが必須か」

 情報が不足している状態で戦うのは普通以上の危険が伴う。しかし、不足している情報を補うには実際に戦い合う事が最適なのだ。

 レオのアリーナ探索は朝か夕方だろう。ともなれば、必然的に聖者の数字の庇護下で戦わなければならない。

 それは決して簡単な事ではない。ただでさえ最強クラスのサーヴァントだ。その力が三倍になる。更には正体不明の聖剣まで所持している。

 ――情報を集める時点で、ここまで難儀だと感じるとは。

 真名を知られたからと言って、レオ達にとって何も困る事などないのか。

「とは言え、聖者の数字にも弱点はあるでしょう」

「――え?」

 ラニの言葉に、思わず聞き返す。

 時間内だが、それでも絶対的な効果を持つスキル。それに何か弱点があるというのか。

「これを見てください。セイバー……ガウェイン卿の伝承です」

「……ガウェイン卿は……ランスロット卿から受けた傷を撃たれて死んだ……」

 これは、聖杯戦争も序盤。一回戦の頃に調べた情報だったはずだ。これがセイバーの、聖者の数字の打倒になりえる情報なのか?

「これほど強力な力であるならば、尚更伝承の縛りからは逃れられません。聖者の数字の弱点は、一度破られれば作用しなくなる点でしょう」

 そう言われて思い出す。ガウェイン卿の致命傷となった傷は、無双と謳われた午前の時間を耐え凌いだランスロット卿によって与えられたものだ。

 太陽の加護を受けている間ならば、彼の王(アーサー)さえも圧倒する彼でも、破られた相手に対してはその加護を発揮できない。

 セイバーの無双の時間であろうと、どこかに隙を見出して一撃加える事が出来れば勝機が見える。

「つまり目標は……セイバーにどうにかして攻撃を当てる事か」

 戦う前提からして、今までの中でも最難関と言っても過言ではない。それ程までに強力な相手。

 最強のマスターに最強のサーヴァント。最後に来て、彼らとの差を思い知らされる。

「……真正面から挑んでも、難しいかな」

「はい。ですから、彼らの不意を突くのが、最も確立の高い手段でしょう」

 不意……あの広いアリーナでそんな事が出来る程の技量は僕には無いし、それを易々とさせてくれるレオでもないだろう。

「ハクトさん」

「ん? 何?」

「ハーウェイと戦って、時間を稼いでください。少しの間で構いません」

 ラニは何か策を思いついたようだった。

 その眼を見る限り、確実性は高い。それでも実力が伴って、危険に変わりはない何かなんだろうが。

「私がアリーナにハッキングを仕掛けて、照明を落とします。その隙を突いて、セイバーに攻撃を」

「照明を……?」

 いや、分からなくも無い。アリーナの第一階層は暗く、特別な細工が施されている訳でもない。

 故に第二階層よりもハッキングしやすく、こういった作戦には向いているのだろう。

 それにラニには危険が及ばない。これが今のところ、最も適した作戦か。

「でも、アリーナへのハッキングは可能なのか?」

 凛が設置した後付の防壁ならともかく、今回は元々あった概念を一時的に消滅させるのが目的だ。

 ならばそれ相応の準備が必要なのではないだろうか。

「不可能ではありません。適した工房でないと少々手間が掛かりますが……」

 工房、即ち魔術を行うのに適した空間。

 アリーナへのハッキングともなれば、それなりの設備が必要だろうが、それに該当する場所に心当たりがあった。

「工房……視聴覚室とかはどうかな?」

「……なるほど、あの場所ならば問題はないでしょう。しかしあそこは施錠されている筈では?」

「……これが使えないかな」

 ポケットから出したのはハーウェイの襟章。六回戦でアリーナに凛が設置した防壁を解除した時に使った、ユリウスのものだ。

 度重なる使用のせいか罅が入っているが、まだハーウェイのクラウドコンピュータを動かすキーとしての機能は持っているだろう。まだ一回くらいならば使えるかもしれない。

 ユリウスが三回戦の凛とラニの決戦場をピーピングしようとしていた際、視聴覚室に入っていた。あれも恐らく、この襟章を使っての行為。

 今回は決戦場ではなくアリーナへのハッキング。工房としての機能だけならば、あそこで十分だろう。

「ハーウェイの襟章ですね……ユリウス・ハーウェイのものでしょうか。何かに役立つものなのですか?」

「ハーウェイのクラウドコンピュータの使用キーらしい。これで視聴覚室を開けられないかな?」

 ユリウスがやっていたように、可能ではあるだろうがまだ不確定事項。罅が入った状態で使えるが分からない以上まだ視聴覚室を使えると決まったわけではない。

「そう言えば、三回戦の件もユリウス・ハーウェイがあの部屋を開けたと聞きました。これを使えば、可能でしょうね」

 これで準備は万端。後はアリーナでレオと相対し、時間を稼ぐだけだ。

「よし。ラニ、頼む。僕達はアリーナに向かうから」

「分かりました。御武運を」

 まだ決戦では無いものの、最強の相手が最強である時間に戦わなければならない。

 だからこそ、ラニを信じ、戦うメルトを信じ、そして作戦の成功を信じながら、気を引き締めなおしてアリーナに向かった。

 

 

 アリーナの第一階層。昨日メルトに思いを伝え、そしてムーンセルの意思と戦った場所は、相変わらず静寂が支配している。

 レオが来る事を祈りながらエネミーを倒して肩慣らしをする。今までよりもメルトと息が合っている気がして、それだけで嬉しく感じられた。

 だが、浮かれてはいられない。戦いの最中に別の事を考えたりすることがどれだけ危険なのか、そもそもそれをすることがどれだけ愚かなのかは十分承知している。

 凡そ一時間程度だろうか。危なげなくエネミー討伐をしていると、携帯端末が音を鳴らした。

『ハクトさん、レオ・ハーウェイがアリーナに入りました。準備をお願いします』

「っ……!」

 ラニの言葉と同時に感じ取れた。今までのマスターとは違う、例えようの無い威圧感。

 レオが来た。その事実に思わず拳に力が篭る。

「……分かった。ラニ、ハッキングの調子は?」

『良好です。ですが、まだ時間が掛かるでしょう」

 やはり戦闘は避けられない。ラニ程の魔術師でもここまで時間が掛かるとは、第一階層とは言え決勝戦のアリーナともなれば相応のプロテクトが掛けられているのだろう。

『出来る限りハッキングを急ぎますが、身の危険があれば迷わず撤退してください』

「うん。頼んだよ」

 連絡を終える。未だ力を込めたままの拳に、暖かいものが触れる。

「……メルト」

「大丈夫よ。ハクが勝利を願うなら、私はそれに応える。ましてや時間を稼ぐだけなら、何の問題もありはしないわ」

「……頼もしいな」

「当たり前じゃない。私はハクのサーヴァントだもの」

 そうだ。この聖杯戦争で、メルトはいつだって傍に居てくれた。

 メルトが居れば、僕は負けない。メルトが諦めなければ、僕は諦めない。何てったって、僕はメルトのマスターで、メルトは僕のサーヴァントなのだから。

 力を抜いて、開けた場所で待つ。暫くすると、赤と白銀、二つの影が歩いてくるのが見えた。

 二つは僕達と数歩離れたところで止まると、一つ――赤は小さく微笑んだ。

「こんにちは、ハクトさん」

「こんにちは、レオ」

 同じように返し、続けてレオはメルトに目を向ける。自然と同じように、セイバーと目を合わせると、小さく会釈をしてきた。

「そして初めまして、ですね。何とお呼びすれば?」

「初めまして、小さな王様。私はメルトリリス。メルトで構わないわ」

 真名を名乗った事に、レオは少なからず驚いたようだ。それも当然か。秘匿とされる情報、自ら真名を名乗るサーヴァントはそういないだろう。

 しかしメルトには名乗るべきクラスは割り当てられていない。それに史実や神話にその名前が無い以上、知られて困る事もない。

「そうですか。では、よろしくお願いします、メルト。何と言いますか……奇抜な格好ですね」

 すっかり慣れてしまい、疑問にすらならなかった()()に対する反応は久しぶりな気がする。というより一回戦以来か。よくよく考えれば、この姿に反応しなかった今までの相手はある意味凄いと思う。いや、十中八九、言わずに秘めていただけなんだろうが。

「ふふ、お子様には早かったかしら?」

 いつも通りの挑発。だがそれに応えるのはレオでは無かった。

 セイバーが前に出て、殺気の篭った目でメルトを見やる。

「黙りなさい、遊女。この方は貴女が触れて良い存在ではない」

「あら、随分な言い方だこと。騎士サマのお気には召さなかったようね」

 それに対してまるで愉しんでいるように微笑むメルト。久々に見る、加虐の笑みだ。

「まぁ構わないわ。その方がお互いに遠慮がいらないものね」

「戦うつもりはない。王の遊歩の最中である。疾く去れ」

「良いのですよ、ガウェイン。彼女の挑戦を受けてあげてください」

 メルトの挑発を一蹴しようとしたセイバーであったが、レオは敢えてそれに乗るようだ。

 作戦の成功に近づいたのはありがたいが、それ程までに力に自信があるのだろうか。

「……御意」

 レオの決定にセイバーは義務と言わんばかりに肯定すると、その手に輝ける剣を構える。

「あれが……転輪する勝利の剣(ガラティーン)

 かの王が持つとされる約束された勝利の剣(エクスカリバー)の姉妹剣。

 紛れも無く聖剣に位置する、最高クラスの宝具。

 初めて見る伝説の再現であるその剣は、担い手たる太陽の騎士の姿をより一層大きく見せた。

「……まさかと思うけれど、擬似太陽、かしら?」

「仰る通り。我が剣には擬似太陽が宿っています。不浄は悉く焼き尽くすのみ」

 握り込んだセイバーの意思に応じる様に聖剣がギリギリと唸りながら震え、灼熱の炎が噴き出す。

 まさか擬似太陽が込められていたとは。聖者の数字に加え、ここまでの力を持つ剣まで持つ英霊、やはり一筋縄ではいかないだろう。

「不思議と、僕も高揚しているようだ。さぁ、ガウェイン」

「――は。我が剣は王の為に」

「……使命に殉じる騎士、ね。悲しいものだわ」

 メルトが体勢を低くし、臨戦に備える。

「メルト」

「えぇ。分かってるわ」

 まずは第一戦。ひたすら防御に徹して、ラニのハッキング完了を待つ。

 聖者の数字を無効化して、少しでも勝率を上げる――そのための戦い。

「その身に刻んで、後悔するがいい。王に刃を向けた、その大罪を」

 太陽の騎士が剣を振るう。

 それに受けて立つようにメルトもまた、脚を振るった。




来週の火曜日から四日程、学を修める旅に出るのでそれまでに後一回くらい更新したいところ。
ってか決勝戦のモラトリアム長すぎじゃね? 六話目なのにまだ二日目だぜ。

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