Fate/Meltout   作:けっぺん

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来週金曜に投稿と言ったな。あれは嘘だ←
いえ、流石に一週間以上空けるのはどうかと思いまして、はい。
ですが次の更新は金曜になると思います。すみません。


五十七話『最後の戦い』

 

 

 最も弱きものが、最も強きものに挑む。

 

 迷いと嘆き、決断と成長に満ちたその道程こそ、人間の証である。

 

 

 聖杯は強きものにのみ与えられる。

 

 最後の二人は、ともに性質の違う強者となった。

 

 であれば――

 

 もう一度君に送ろう。

 

 

 光あれと。

 

 

 ――熾天の玉座にて君を待つ。

 

 

 +

 

 

 赤き皇帝が業火を喚び、斬撃の下私情を語る。

 半獣の少女が呪いを解放し、彼岸花を咲き誇らせる。

 錬鉄の英霊が剣の丘で遥か遠く、永久の栄光を剣に宿す。

 黄金の英雄王が輝ける財宝を解放し、世界一残酷な雨を降らす。

 どれが正史だったのか。否、その全てが並行であり、ムーンセルに残らない記録である以上正しい歴史なんてないのだろう。

 炎に焼かれ、呪法に侵され、剣に断たれ、黄金に貫かれ、少女は崩れ落ちた。

 

 

 ――突然入ってきた視界がメルトの過去だという事に気付くのに、そう時間は掛からなかった。

 何処とも知れない空間。客観的な目線は、やはりメルト以外をしっかりと映さず、視界にはノイズが走っている。

 状況は明白。岸波 白野が敵として立ちはだかったメルトを打ち倒したのだろう。

 そう、それはメルトリリスの最期の景色。

「……手足が、体が……胸が、痛い。これが、失恋の痛み、かしら。BBから生まれたモノには、お似合いの最期……お笑いだわ」

 自分を嘲るように笑うメルトが崩れていく。

 それに対して僕は何をすることも出来ない。ただその崩壊を見守ることしか許されない。

「結局……欲しいモノは、掴めなかった。ねえ、お馬鹿なリップ。何の為に生まれたのかしら、私たち」

 言いながら、メルトは岸波 白野に向かって歩いていく。

 崩れる脚を引き摺りながら、縋るように。

「ああ――なんて、遠くて――こんなに、近い――」

 手を伸ばす。それを岸波 白野は拒もうとしない。

 あと少しで、手が届く。しかしメルトはその手を止め、ゆっくりと降ろした。

「なんて、ね。それはさすがに恥知らずというものだわ、メルト。敗者には砂がお似合い。それでいいのよ」

 何故。もう消滅は免れない。誰もそれを止めることはできない。

 岸波 白野のサーヴァントが止めを刺さずとも、メルトは数分後には消え去るだろう。

 なのに何故。岸波 白野は拒もうとしなかったのに。メルトがずっと欲していたものなのに。最期に一度だけ、触れるのもメルトは許さないのか。

「……もう解放してあげる。いつでも外に出ればいいわ。急ぎなさい。私を倒したのに時間切れで敗者になるなんて嫌でしょう?」

 岸波 白野は頷くとサーヴァントと共に消えていった。

 この空間に残されたメルト。誰にも看取られずに逝く事を彼女は選んだ。

「……あーあ、いっちゃった。さようなら、私の恋。さようなら、素敵な人。どうか、この先に待つ結末を知っても、絶望に挫けないで」

 名残惜しそうに岸波 白野が居た空間を見ながらメルトは呟く。

 後はこのまま消えるばかり――それで良かった筈なのに。

 メルトはその消え行く体を、愛する人の役に立てようとした。

 三分も保たない体。それでも三分あれば何でも出来る。

「……ゾッとするけど、あのオペレーターの女達なら私を有効利用できるかしら」

 オペレーターの女。あの時のメルトの話からして、それは凛とラニだろう。

 このまま消えるよりは、役に立ちたい。それがメルトの選択。

 

「まさか。それこそ貴女らしくありません」

 

 しかし、それは叶わない。

 全てをこの女が、台無しにした。

「な――!? そんな、私の擬似霊子が――解かれて、粒になっていく……! この術式は……!」

「溶かすつもりが溶かされた。これが貴女の受ける報いです」

 宙に現れた影――相変わらずノイズが掛かっているが、あれが紛れも無い殺生院 キアラ。

 メルトの親であるBBを狂わせた、全ての元凶――

「ッ! そういうコト……そもそも貴女が、あの過ちを――!」

「哀れなエゴ。救われなかった愛のカタチ。ふふふ――それも美味しいわ。せめて、私の手の平の上で成仏なさいね?」

 

 ――よくも、よく、も――私たちを、利用して――!

 

 希望は絶望へと変わり、激励は呪詛へと変わる。

 目を覆いたくなる、あまりにも――あまりにも報われない最期。

 言葉で説明を受けたときでは想像し得ない惨状が、そこにはあった。

 メルトは溶け、殺生院 キアラの一部になっていく。

 これが、自分をずっと支えてくれたサーヴァントの死。

 自分にはどうしようもない、メルトの抱いた絶望――

 

 

 最後の戦い。

 その始まりは、今までと何ら変わりの無い朝から始まった。

 人形を並べたベッドに横になり、可愛らしい寝息を立てるメルト。

 毎日が命懸けの異常な日常でいつも通りの光景。

 それも、後七日で終わる。

 数えるばかりになった残る日数で、僕達は今までの何よりも強い相手と戦わなければならない。

 僕にとっては始まりであり、終わりである存在。

「ん……ふぁ」

「メルト、おはよう」

 小さな欠伸と共に体を起こすメルト。

 先程まで、僕はメルトの最期を垣間見ていた。

 執着していた人に触れる事無く、報われずに消え去ったプリマドンナ。

 今、自分に手を貸してくれている少女、それは生まれた瞬間から岸波 白野を食い止める悪だったのかもしれない。

 しかし、それでも僕の知るメルトはそんな悪心を断った、最高のパートナーだ。

 あんな最期だったのなら尚更、メルトが手を貸すマスターが勝ち残り、喜び、幸せ、達成感を共有したい。

 本当に最期の瞬間、メルトが小さな救済を得たことは知っている。

 だったら、僕はそれ以上の喜びをメルトに与えてあげたい。

 聖杯戦争で勝利する、それがメルトにとっての喜びに至るかどうかは分からない。

 そもそもメルトがこの戦いに何を求めているのかすら、及びもつかない。

 でも、この少女が何かを求めて戦いに参じたのなら、マスターである僕は真っ直ぐ進むだけだ。

 メルトと共に聖杯に至り、願いを叶えて、メルトも自身が願う“何か”を達成する。

 それを目指して、最後の相手と戦おう。

「……ハク……? どうしたのかしら?」

「ううん、なんでもない」

 携帯端末が音を鳴らす。

 必要性の感じない、最後の対戦相手の発表。

 相手なんて最初からわかっている。彼と戦うなら、この決勝という場だと思っていた。どれだけ六回戦の相手が強敵だろうと、彼は勝つべくして勝つ存在なのだから。

 

 

 確信している対戦相手。それは無意識の内に訪れていた掲示板の前に立っていた。

 ブロンドの髪。赤い制服を着こなす高貴な姿。太陽の如き輝きを持った、理想の王。

 最強の従者を従えた王は、此方に気付くと柔らかな微笑みを向けてくる。

「――こんにちは」

 

『マスター:レオナルド・B・ハーウェイ

 決戦場:七の月想海』

 

 ついに表示された対戦表。恐らくはこの掲示板の最後の役目だろう。

 最後の対戦相手、レオは掲示板に表示された名前に目をやり、小さく頷いた。

「これで僕達は正式に討つ者、討たれる者の関係ですか。あらためて、よろしくお願いします」

 レオの言葉には僅かだが高揚が感じられた。

 涼しい顔で言ってのけているが、彼はもしかすると、この戦いに期待を抱いているのかもしれない。

「うん……よろしく」

 対する僕は期待なんて抱いてはいられない。

 戦いに対する恐怖はもう無いが、最後の相手は非の打ち所が無い最強のマスターだ。

 期待、高揚という気持ちは生まれず、寧ろ精神を縛るような緊張が重く圧し掛かっている。いつか抱いた、王を目の前にしたというプレッシャー。それは今でも変わらない。

「それにしても、最後に僕の前に立ちはだかる相手が貴方だとは思いませんでした。流される事に順応する善良で平凡な人間だった貴方は、この戦いで成長したのですね」

「……そうだね。少なくとも、レオに勝つって気概はある」

 レオの的確な評価に、虚勢ではなく本心で返す。

 実力がどれだけ開いているかは分からない。レオの実力は、恐らく凛やラニを上回っているだろう。

 それでも、絶対に負けられないという気持ちだけは覆ることは無い。

「今の貴方は決勝を戦うに相応しい。楽しみ――こんな気持ちは初めてです」

 はにかむように笑うレオ。まるで、生まれて初めて人間らしい感情を楽しめたようだ。

「貴方との戦いは、僕が王になるための道程において、必要なものでしょう。故に敬意と感謝を。僕が知り得ない世界の側面を見せてくれる貴方に」

「負けるつもりはないよ、絶対に」

 レオは信じている。自らの勝利、そして正しさを。誰よりも強く、勝つのは自分だと確信している。

 だが、それは此方とて同じこと。

 不安は確かにある。その不安を少しでも取り払うために、今までがむしゃらに戦ってきた。

 昔のような願いも決まっていない曖昧な自分ではない――この戦いの後、どうなるか分からない自分が抱いた、決意という名のバグ。

 それがレオに勝つと、絶対的な意思を持っている。

 決勝という、勝者を決める最後の場。最強の彼と戦うにおいて、これほど相応しい場があるだろうか。

 ――なるほど、戦いを楽しむという気持ちは僕にもあるらしい。

 抱いてはいられないと思っていたが、存外期待という感情は生まれやすいのだろう。

 或いは、目の前の少年だからこそなのか。

 ともかく、彼との戦いは聖杯戦争の最後という最高の舞台だ。それを今までと違う気持ちで赴くというのは、恐らく普通の事だろう。

「レオ。気持ちは分かりますがこれ以上の親睦は不要かと。彼らは既に障害。言葉を交わす時は過ぎました」

 セイバーがレオに声を掛ける。

 完璧な騎士の清澄な闘気は今までと変わらず、しかし唯一の相違点は、此方に向けられる敵意だった。

「そうですね。ありがとう、ガウェイン。少しばかり、僕も熱にあてられたようだ」

「王とはいえ休息は必要です。お戯れはここまでに」

 セイバー――ガウェイン卿はあくまで、レオに仕える騎士として動いている。

 王にとって不要な事だと思えば指摘し、必要だと思えば促す。

 実にサーヴァントらしい、王に仕える最高の騎士の姿。

「えぇ、そうしましょう――では、僕はこれで失礼します。最後の戦場で相まみえるのを楽しみにしていますよ、ハクトさん」

 穏やかな別れの笑顔と共に立ち去るレオ。自然と、その背中を視線で追いかける。

 遥か高み、自分よりもずっと遠くにある、あの小さな背中。あれに追いつかないといけない。これまで僕は、いつもレオの背中を見ていた。だが、今回はそれを追い越さなければならない。生まれながらの絶対王者。そんな彼と対等になれる筈が無い。それでも、最後という場で見る風景は同じなのだ。

「……勝つよ、メルト」

『えぇ。これが最後。私も全力で戦うわ』

 頼りになる、ここまで助けてくれた相棒の声。

 あぁ、それも、もう直ぐ終わりだ。最後にどんな別れが待っているかは分からない。

 それでも、最後まで僕はメルトを信頼し、メルトと共に勝利を掴む。

 ――勝負だ、最後の王(レオ)。君を倒して、僕は聖杯に辿り着く。その先で、僕は僕の願いを叶える。それがレオの思想と、真反対を行くとしても。




なんせ一日目はイベントが無い。何故ユリウス殺したし。
という訳で決勝戦。そして何かルート確定したっぽいです。

とりあえずEXTRAはこのままメルトルートで終わらせてCCCは終わってから考えるという結論出ました。
この方向で行きたいと思います。

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