Fate/Meltout   作:けっぺん

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皆様の感想で、メルトルートの確率が5%増加しました←
あ、結末もう決まってます。はい。

それと今回、かなりグレーで無理矢理な戦法と自己解釈が使われています。
果たしてこれでよかったのか。


五十五話『日輪よ、死に随え』

 

 

 凛の宝石魔術は圧倒的だ。

 大して時間を掛けずに、魔力を込めるだけでコードキャストとは比べ物にならない威力を出せる。

 一発だけならまだしも、一体凛は幾つの宝石を持っているのだろうか。

「まだよ、ハクト君! 次!」

「くっ!」

 一方だけではなく、周囲全体から襲い来る宝石は盾のコードだけで防ぐことはできない。

 そもそも盾のコードでは、一撃ならともかくとして恐らく二撃は耐えられないだろう。

 身体強化により移動速度と反射神経を強化させながら回避していく。

「やるわね。なら、一つ取っておきをお見せしようかしら?」

 凛が手に取るのは七つの宝石。

 それぞれ色が違う。その配色は虹を作るものと同じだ。

 一体何を始めようと言うのか。凛のいう取っておき――余程強力な攻撃なのだろうか。

 放られた宝石。凛の詠唱によって、それらは変質していく。

eins()! zwei()! drei()!」

 赤が光る。橙が光る。黄が光る。

vier()! funf()! sechs()――sieben()っ!」

 緑が光る。青が光る。藍が光る。紫が光る。

 七つが等間隔で宙に浮かび、それぞれが膨大な魔力を放っている。

 盾のコードを展開し、防御性能を軒並み上げる。

 防げるか――考えている間にも、凛が手を翳し、最後の詠唱を紡ぎ上げる。

Schuss schiesst Beschuss Erschliesung(カッティング・セブンカラーズ)!」

 七つ同時に襲い来る閃光。

 光り輝く七色のレーザー。盾では防げない――咄嗟にそう察し、横に飛ぶ。

 瞬間、盾をいとも簡単に貫いたレーザーは決戦場の彼方へ消えていく。

 危なかった。あのまま盾に頼ろうとしていたら、間違いなく倒されていただろう。

「洞察力は良いみたいね。宝石って高いのよ?」

 だからと言って、はいそうですかと直撃する訳には行かない。

「高い宝石……その割には沢山持っているんだね」

「レジスタンス長年やってるし、私ってお金余り使わないもの。宝石だって良い仕入れルートを知ってるしね」

 手にした金を宝石に使い、戦力を高めていくのを繰り返してきた。聖杯戦争に向けて、随分と昔から尽力してきたのだろう。

 僕には及びも付かない、地上での戦い。

 西欧財閥を良しとしないレジスタンスたちの戦いは、常に命がけだったのだろう。だからこそ、凛は確かな意思を持ってこの戦いに挑むことが出来る。

「ともかく、こんなものじゃないわよ。いつまで耐えていられるかしら、ハクト君」

 コードキャストだけならまだしも、このままでは良くて均衡状態が続くだけだ。

 凛を焦らせるなんて不可能、正面から撃ち合うのでは、相性が悪すぎる。

 何か、あの宝石と対等になれるコード、そんなもの――いや、ある。

 あれならば、少しながら油断させる事が出来るだろう。

 それを基点にして攻めれば、メルトが言うくらいの成果は上げられるだろうか。

「さて、行くわよ!」

 宝石に魔力を注ぎ、攻撃を行おうとする瞬間。

killer()(殺刃)!」

 刃を出現させ、凛に向かって投擲する。

「なっ!?」

 手に持っていた宝石を咄嗟に盾に変化させ刃を防ぐ凛。

 その顔には確かな驚愕が浮かんでいたが、それで終わりではない。

 弾丸のコードを複数同時に紡ぎ上げ、手に持っていた残りの宝石を撃ち落す。

 まだだ――まだ。

「くっ……!」

 ストックが幾つあるか分からないが、出来るだけ宝石の数を減らしていかなければ。

 後退しながら凛が展開したコード――あれは収納魔術(ボックスコード)か。

 割と序盤に僕も使えるようになった、物を効率よく収納するためのコードだ。

 アイテムを文字列に変換し、このコードに刻み込む事で物を“持たず”に“持つ”事が出来る。

 確かに宝石を大量に持ち込むのなら最適なコードだ。

 だが、敵と対面した上でこれを使うのは危機感の表れだろうし、何よりいつもの冷静さが凛には無い。

「今――だ!」

 弾丸の同時展開。これに少し、改良を加えてみる。

 あまりコードの知識はないが、それでもラニから少しくらいなら教わっている。

 いつも使っている弾丸を、術式を狙い撃ち、破壊する弾丸へと変えるには、恐らく、こうすれば良い!

shock_codebreak(EX)(破壊弾)!」

 弾丸の雨を、ありったけ収納のコードに撃ち込む。

「きゃああああっ!?」

 耐え切れず吹き飛ぶ凛と、罅が入り、散らばっていく術式の残骸。

 全壊、とまではいかないが、これで恐らく大半の宝石が消失しただろう。

「っ……痛、まさかそんな術式まで持ってるなんて……」

 ゆっくりと起き上がる凛の手には、宝石は握られていない。

 攻め込むのなら今がチャンスか。

「それに、さっきの短刀……ユリウスのでしょ?」

「……そうだ」

 ユリウスが使用した違法術式、それをコピーしたもの。

 オリジナル程の力はないし、恐らく殺傷能力も持たないだろうが、凛を動揺させるには十分なものだった。

「まったく……あんな暗殺者まで懐柔するなんて、本当、貴方何者なワケ?」

 そう言われても、何も言い返せない。

 僕の正体については凛には話していない筈だが、凛が期待しているような答えはそれではないだろう。

「ま、良いか。マスター同士の戦いは貴方の勝ち。でも、聖杯戦争の勝敗がそれだけで決まる訳じゃないのは、貴方も知っているでしょ?」

 小さく頷き、未だ激戦を繰り広げているメルトとランサーに目を向ける。

 一進一退。どちらが少しでも油断すれば、その時点で決着が付くような凄まじい迫り合い。

「ランサーが負けない限り、私にも負けは無い。それに、貴方のサーヴァントを倒せば私の勝ちよ」

「そうだね。まったく――その通りだ」

 僕と凛は同時に、相手のサーヴァントに弾丸を撃ち込む。

 それを回避し、距離を取った二人に同時に叫ぶ。

「メルト、戻って!」

「ランサー、一旦下がって!」

 戦いは始めの様に、二対二で向かい合う状態へと戻る。両者共に疲労していても、まだまだ戦いは続く、そう感じさせる。

 一旦メルトの傷を治癒のコードで癒しながら、ランサーを観察する。

 まさかとは思っていたが、あの鎧の力がここまでのものだとは。

 ただ単純に普通の鎧とは比べ物にならない防御力を発揮するだけではない。これを纏っている限りは不死であるという逸話の通り、驚異的な回復力まで付加されるようだ。

 しかも、物理的な攻撃だけではない。コードキャストなど、概念的な攻撃をも防いでしまうのだ。一応防壁破壊のコードを用意してきたのだが、それも防がれてしまう。

 あの鎧をまずはどうにかしなければならないのに、その方法が一向に思いつかない。

 何しろ、与えるダメージが回復量に追いつけていないのだ。憶測だが、十分の一程にまでダメージをカットしてしまうのではないか。

「さて、あの様子だと自分から使う事は無さそうね……やるだけやってみましょうか」

「……メルト?」

「ハク、一つ頼まれてくれないかしら。賭けに近いけれど」

 何か手段があるのだろうか。

 あの鎧をどうにかして、少しでも勝利に近づく術が。

「何?」

「難しい事じゃないわ。私が合図したら――」

 そこからは、凛にも聞こえないように耳打ちしてくる。

 メルトの提案は、何を意図しての作戦なのかまったく分からないものだ。

 だが、他に手が無いなら、乗るしかないか。

「分かった。それまでは――」

「えぇ。真正面から戦うしかないわ」

 メルトが突撃し、ランサーの槍が受け止める。

 しかし、それは今までどおりの戦い方ではない。

 メルトはそこまで攻めている訳ではなく、何やら隙を探しているかのような慎重なものだ。

 確かにあれなら、メルトのマイナススキルである加虐体質の効果も薄れるだろうが、一向に決定打を与えられないのでは。

 凛は出来るだけ魔力を温存しようとしているのか何らサポートはするつもりはなさそうだ。

 ランサーが比較的有利に居ることも要因だろうか。

 そもそも、特に説明も無かったからメルトが何をしようとしているのかすら分からない。

 今やろうとしていること――鎧の対策というのは断定して良いとして、どう言った形で突破するのか。

 メルトの指示からして、恐らくランサーや凛そのものに被害を与えるものではないのだろう。

「くっ……」

「どうした、守りに徹していてはオレは倒れんぞ」

 しまった、考えている場合ではない。合図があるまではメルトをサポートしなければ。

「……ん?」

 戦場に目を向けると、何か不自然を感じる。

 景色が変わっている訳では無いものの、一部が変質しているような。

 これは――メルトの魔力?

 察した瞬間、戦況が動く。

「っ――!?」

 魔力により変質した部分に足を踏み入れたランサーが、その足を決戦場に沈めたのだ。

 あの魔力――決戦場を溶かしている?

「喰らいなさい!」

 ランサーが僅かに動きを鈍らせた隙を突き、メルトの脚が振るわれ、水と化した魔力を放つ。

 暴かれる嘘吐きロイス――アサシンの透明化を僅かながら破った攻撃だ。

 敵の能力を溶かす波。ランサーが放った炎により相殺され、ランサー自身へのダメージはなかったが、フィールド全体を浸していた。

「今よ、ハク!」

 何をしようとしているのか、ようやく分かった。

 決戦場のプロテクト、それを溶かしていたのか。

 そこに撃ち込む、破壊のコード。作戦の真意は分からないが、これで何か、変化が起きる筈――

「あんたまさか……!?」

 凛の驚愕。言葉を紡ぎ終わる前に、罅の入るような音が決戦場に響き渡る。

 亀裂の様に広がっていくそれは、しかし本当の罅ではなく、決戦場を形作る文字列だった。

 そこにメルトが走り寄り、水の魔力を流し込んでいく。

 瞬間。

「うわ……!?」

 変質していく決戦場。メルトによって書き換えられた――いや、一定の文字列を溶かしたのか――フィールドはその本質を塗り替えていく。

「これって……」

「……やってくれるわね、ハクト君」

 移り変わった決戦の舞台。そこは見覚えのある場所だった。

 沈没船。死の海。そう、間違いなく、慎二と戦った最初の決戦場。

 しかし、これがメルトの策なのだろうか。だとすれば、決戦場が移り変わっただけで何が変わるのか。考えても出てこない解答だったが、その正解は紛れも無く目の前で発生していた。

「……光を絶ったか。まさかこんな手段でオレの鎧を破るとは……」

 いつも通りの口調ながら、ランサーの言葉には驚愕が見え隠れしている。

 光を失った黄金の鎧。太陽が届かない戦場なら、それは必然。

 今までの不完全だった鎧は、届いていた光に比例して進化していたのだ。光の届く海ならば十全に力を発揮できても、深い海には光が届かない。光が届かなければ、太陽の恩恵は受けられない。

 これが、太陽の鎧の攻略法。絶対的な力を持つのであれば、その大元を絶ってしまえば良いのだ。

「これで貴方の鎧は効果を成さないわ、ランサー」

 メルトの宣言に、ランサーは静かに頷く。

「この鎧が足枷になる時が来ようとは。だが、これでオレを超えたと思ってもらっても困る」

「えぇ。受けて立つわ」

 薄々だが、感じ取れた。ランサーがやろうとしている事を。

 鎧の効果が無くなった以上、あれは行動を阻害するものにすぎない。

 ならば早々に取り払うべきではないか。

「リン。尚早だとは思うが――使うぞ」

「仕方ないわね。戻ったらどうにか取り戻す算段付ければいいんだし。良いわ、これでお終いよ」

 凛は勝利を確信している。

 そう、鎧を棄て、尚且つ確実な勝利を手に出来る手段が、ランサーにはある。

「ハク、来るわよ」

「あぁ……分かってる」

 宝具の発動。それを察し、礼装を取り出す。

 ラニが用意した、最強の防御礼装。名を『アトラスの悪魔』。

 瞬間的な未来予知により一度限りあらゆる攻撃への耐性を持つ障壁。

 これで防げるかは分からない。何せ相手の宝具は神が与えた神造兵装。規格外の物だ。

 だが、今僕達にできるのは、ラニを信じること。彼女が作った、最強の礼装を。

 飛翔するランサーは、炎を纏いながら腕を大きく開く。

 

「譲り渡そう、太陽の鎧を」

 その一言で光を失った黄金の鎧は激しく燃え上がり、ランサーはその矮躯を晒す。

「神々の慈悲を知れ。インドラよ、刮目しろ」

 炎の翼を広げ、空高く飛翔するランサー。

 輝けるその姿は、例えるならば太陽。深海をくまなく照らす、ありえない光。

「絶滅とは是、この一刺――」

 黒き槍の穂先が此方に向けられる。中央を走る紫電が熱を伴い、それは槍を覆う炎になる。

 これこそが、施しの英雄と謳われるカルナが生涯使用しなかった最強宝具。

 雷神インドラが鎧の代償として譲り渡した雷の力。それでいて、その雷神が操る事が出来なかった究極の一。

「焼き尽くせ、『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』!」

 広がる波紋。たった一回限りの必殺の槍は、標的を狙い、膨大な魔力を迸らせる。

 礼装が発動する。障壁が展開され、爆炎の閃光を待ち受ける。

 視界が白で染まる。礼装とリンクした魔術回路に途轍もない衝撃が走る。

 限界を超え、軋みを上げる体。しかし負けてはいられない。ここで諦めてしまったら、全てが水の泡だ。

 永久とも一瞬とも取れる時間は、思考を引き伸ばし、空白へと変えていく。

 果たして次に視界に入れた光景は、煙を上げる黒い槍を持つ手をゆっくりと下ろしていくランサーだった。




宝石魔術の詠唱は良く分からんです。
そして三話続く戦いは今回初めてですね。長え。

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