Fate/Meltout   作:けっぺん

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EXマテには鎧カルナさんがラフなりなんなりで書かれていると思っていた。


四十九話『偽装』

 

 

 アリーナに入った直後に感じ取れた。

 ただ居るだけでこの広い戦場全体に存在感を放てる存在。

 相手のサーヴァントが居る。

 まさかとは思っていたが、これほど上手く事が運ぶとは。

 だが、相手のサーヴァントが居るというだけで何の情報も得られていない。

 ラニの術式、それが発動するか否かで、随分と相手に近づくことも出来る筈だ。

「行こう、メルト」

「えぇ。注意は怠らないようにね。強敵よ」

 メルトに釘を刺される。

 留意している。不意打ちで死ぬなんてあってはならない。

 慎重に進んで、情報を手に入れよう。

 ただ、例え相手がラニの推測した人物だとしても、相手がこのままアリーナにいるとは限らない。

 前の様に探索を途中で切り上げて帰還する可能性も十分にありえる。

 そうなってしまってはサーヴァントの情報を得ることは出来ない。

 相手の動きは分からないが、此方には気付いているだろう。

 帰るな――そう願いながら気配の方向に進んでいくと、

「――え?」

「あら、本当に慎重なのね」

 そこにはマスターも、サーヴァントの姿も無かった。

 代わりにそこに立っていたのは、槍を持った赤いドール。

 自動人形があれ程の威圧感を放てるのか。

「ドールと言っても能力はサーヴァントのものね。どうしたらあんなもの作れるのかしら」

 ドールでありながら、サーヴァントの力を持っている。

 それは五回戦の時にラニが貸し与えてくれたバーサーカーのドールを思い出させる。

 基になったサーヴァントのスキルを持ち、ステータスを持ち、実力を持った完璧なドール。

 対戦相手は情報をとことん隠蔽するため、サーヴァントの姿を隠したドールを使って探索を行っている。

 だが、それでもこのドールの基になっているのは対戦相手のサーヴァントだ。

 本質までは分からないまでも、このドールと戦うことである程度は何かが掴めるのではないか。

「ふうん……この威圧感……神性を持っているようね」

 神性、つまりは神霊適性。

 このスキルのランクが高いほど、物質的な神霊との混血とされる。

 更に同じく神性を持つ相手と対峙した時にプレッシャーを与える効果も持つようだ。

 メルトが反応したのはメルト自身が女神を基にしたサーヴァントであるゆえに神性を得ているからだろう。

 メルトの神性はランクにしてC。

 そのメルトに威圧感を与えられるという事は、最低でも相手のサーヴァントにBランクの神性がある。

 そしてドールが持つ槍から、サーヴァントのクラスはランサーと仮定できる。

 問題はラニの術式――これが発動するようならば、ラニの推測に間違いは無い事になる。

 コードに魔力を込めると、箱が光を放つ。

 光を浴びたドール。それが弱体化しているのはすぐに分かった。

「最大HPの減少……それと……敏捷の弱化?」

「槍兵の長所を封じる術式ね」

 成程、ランサーの特徴である高い敏捷を封じる術式。

 ラニはどうやら、相手のクラスがランサーだと分かっていたようだ。

 自身の異変に気付いたのか、ドールが戦闘体勢をとる。

 大丈夫、弱体化している以上、恐らく勝てるだろう。

「メルト、頼む」

「任せなさい。人形程度に遅れは取らないわ」

 自信を込めてメルトは言った。

 ぶつかり合う両者。メルトが優勢に思える。

 相手のドールはサーヴァントの力をそのまま持っている。

 それは準決勝まで勝ち残った相手にしては、そこまでのものでは無く感じる。

 確かに実力は高い。

 だが、同じように長柄の武器を使うラニのバーサーカーのような達人と比べてしまうとやや劣るか。

 少しだがそれと戦ったメルトは長柄の武器に対する戦い方を心得ている。

 それ以下の相手に後れを取る事はまず無いだろう。

臓腑を灼くセイレーン(グリッサード)!」

 槍を振り払ったメルトががら空きの腹に膝を叩き込む。

 それにドールは数歩下がるが、直ぐに体勢を立て直して槍を構えなおす。

「炎への耐性は万全ね……踵の名は魔剣ジゼル(ブリゼ・エトワール)!」

 どうやら相手のサーヴァントは炎に関わる英霊のようだ。

 炎の攻撃と、炎への耐性。

 衝撃波を正面から切り落とし、再びドールは向かってくる。

 宝具などが無いのが幸いだったか。

 槍の腕はそこまででは無いにしろ、宝具で形勢が逆転するのは良くある。

 その情報が得られないのは残念だったが、ともかく今回手に入れられた情報は中々のものだった。

 程なくして、ドールに止めの一撃を与えたメルトが此方に戻ってくる。

「大した事はないわね。この程度かしら」

 倒れこんだドールは、完全破壊する前にアリーナから姿を消した。

 どうやら予め撤退の術式を込めてあったらしい。

 成程、エネミーに負けても大して問題がないという戦法か。

 欠点と言えば、サーヴァント自身の経験を積めない点だが、準決勝にまでくればサーヴァント達の力もほぼ最高にまで達しているだろう。

 だから本人がアリーナに潜る必要がないと割り切ってしまえば、この戦法は最良のものだ。

 メルトが今、サーヴァントとしてどのくらいのレベルなのかは分からないが、恐らく相手は僕達に勝てる事を確信している。

 相手の正体は分からないが、それほど強力な相手、というのは嫌でも分かってしまう。

 ともあれ、今回の収穫は大きい。

 相手のクラスと、ある程度の実力を測ることが出来た。

 本来ならば敏捷性が更に高いだろうが、それへの対策は残りの猶予期間で練っていけばいい。

 そう思いながら、しばらくの間アリーナで特訓を積み、余裕を持って帰還した。

 

 

 翌日、対策が功を奏した事をラニに伝えに行った。

「そうですか……効果があったのですね」

 しかし、ラニの顔つきは神妙なものだ。

「ラニ、どうかした……?」

「いえ……相手の正体、これで確信が持てました」

「……」

 やはり、ラニが予想していた相手は間違っていなかったらしい。

 だが、その答えはある程度予想していたものではある。

 ラニとの面識があり、ランサーのクラスを持ったサーヴァントを連れ、ここまで勝ち残っているマスター。

 出来れば認めたくない、違って欲しい。

 それでも、その事実は三日後には知る事になってしまう。

「今は、相手の宝具を一つ、伝えておきましょう」

「一つ……?」

「はい。相手のサーヴァントは宝具を複数持っています。その全貌を私は知りませんので……」

 自分を責めるような物言いに、気にするなと返す。

 誰が相手であろうと、勝ちを求める以上サーヴァントの情報集めは避けては通れない。

 だから今はどんな情報でも必要なのだ。

 それが相手の切り札たる宝具であれば尚更、情報の中でもトップクラスに重要なものだ。

「……宝具の名は、『ブラフマーストラ』。如何なる敵をも滅ぼす武器です」

 ブラフマーストラ。

 インド神話の最高神の一人、ブラフマーが持つ必殺の投擲武器。

 担い手の得意分野に応じて千変万化する神造兵装。

 放つと標的に必中し、それを仕留めた後は持ち主の下に戻ってくるという。

 この武器を使用する英雄は、神話上でも何人かいる。

 だが、この情報だけで随分と相手に近づく事が出来た。

 対策云々はともかくとして、まず始めに相手のサーヴァントの正体を知る事が最優先だ。

 そう、一度見た事のある、あのサーヴァントの正体を。

「相手の真名は私にも分かりませんが、一つ言えるのは、間違いなく強敵です」

「……うん」

 対戦相手のマスター。

 その人の名を知っていた。

 まだ答えを得ていなかった僕に手を差し伸べてくれた、友人とも言える相手。

 慎二の様に、仮初で与えられた友人ではない。

 戦いの中で自分を気にかけてくれた友人。

「ハクトさん……」

 俯いていた顔を、ラニが覗きこんでくる。

「お願いです……迷わないで下さい」

「……分かってる」

 迷い、躊躇う時間はとうに過ぎた。

 データに過ぎない存在でも、確たる願いを持って戦うことを決意した。

 どんな強敵が相手でも、最後まで戦い抜くと決めた。

 最強クラスのマスターであり、優勝候補の筆頭。

 レオと肩を並べる実力を持つ“彼女”が相手でも、戦い、勝つ。

 もう、「負けるかも」「戦えない」などと言った弱音を吐く事はない。

 友人だからこそ、最大の敬意として全力で戦う。

 それが、当たり前なんだ。

 

 

 四日目のアリーナ探索。

 ほぼ全てを踏破し終え、アリーナのマップが把握できた。

 明日辺り第二層が生成されるだろうし、探索のバランスは丁度いいくらいだ。

 そんな順調さとは裏腹に、どうも特訓に身が入らない。

 決意しているつもりでも、内心ではまだ迷いや躊躇いが残っているのか。

「……」

 あれだけ決意を固めておきながら、いざ友人と戦うとなると躊躇ってしまう。

 ……僕はまだまだ弱い。

「ハク」

「……メルト?」

 エネミーを狩っていたメルトが、いつの間にか傍に来ていた。

「辛いのは分かるわ。でも、迷っていては駄目。今まで倒してきた相手を思い出しなさい」

 慎二、ダンさん、ありす、白羽さん、ランルー君。

 そして、ユリウス。

 何度も決意を改めて、ユリウスと対峙してようやく得た答え。

 それを、終盤になった今蔑ろにするわけには行かない。

「私はハクのサーヴァント。ハクを勝たせるために、相手が誰であろうと全力を出すわ」

 そう、それがメルトにとって、当然のこと。

 そして、それを肯定して報いるのが、マスターとして当然なのだ。

 何を迷っていたのか。何を躊躇っていたのか。

 相手は友人だ。だからこそ、今までの誰よりも強敵であり、戦いにくいのは当然。

 それでも、もう戻れない。僕は最後まで戦い、誰であろうと勝利して、聖杯にたどり着く。

 他でもない、僕自身の願いを叶えるために。

「……ごめん、メルト。もう大丈夫」

「……」

 メルトは黙って微笑むと、再び狩りを始めた。

 それは僕への肯定か、それとも否か。

 分からないが、どんな状況になってもメルトは力を貸してくれる。

 最弱であったマスターを、ここまで勝たせてくれた。

 まだ戦いに意味を見いだせなくて、迷っていた僕が自分自身の回答を見つけ出すのを待っていてくれた。

 相手がどんなに強敵だろうと恐れる事無く立ち向かい、僕を勝利へと導いてくれた。

 メルトの力を借りっぱなし、寧ろ、僕はメルトに何一つ礼が出来ていない。

 それは僕にその力が無いから。その資格がないから。

 だから、いつか、必ず。

 メルトへの、出来る限り最高の恩返しをしよう。

「――よし、次だ」

 倒したエネミーの消滅を見届け、次の標的を探す。

 完全に吹っ切れた、とは言い切れない。

 でも、今の僕は昔とは違う。

 だからきっと、いや――絶対に大丈夫。

 今は、確かな自信があった。




ま た ヘ タ レ か 。

どうでも良いけどアルクとエリザの宝具ランクは吹いた。
EランクやらE-ランクの宝具で散々コンティニューさせられてたとは……

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