Fate/Meltout   作:けっぺん

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EXマテ届かない。


四十七話『不意打ち』

 

 

 翌日、ラニに話を聞いてみた。

「そうですか……昨日は結局、相手の対戦相手には会えなかったのですね」

 ラニが思案するように顎に手を置く。

 対戦相手もそうだが、一番の問題はアリーナの通路を塞ぐ防壁だろう。

 トリガーを取得することも出来ず、このままでは戦わずして敗退してしまう。

「戦わずして……ひょっとして、戦いを避けたかった理由でもあるのでしょうか?」

「戦いを……避けたかった?」

 確かに、相手はこちらとの接触を避けていた。

 アリーナの探索を中途半端で切り上げ、退出。

 そして、通路を塞ぐという消極的手段での妨害。

「……理屈は通る」

 戦闘を避けている、理由は分からないが、そうだとすればそれらの行動にも納得がいく。

 まぁともかく、まずは防壁を何とかする事が最優先だ。

「そうですね……何か関連した物品があれば手掛かりにもなりそうですが」

「関連した……そうだ、これは?」

 昨日拾った、獅子を象った装飾品。

 誰のものか、何のためのものかは一切分からないが、これは手掛かりになるだろうか。

「これは、ハーウェイの紋章ですね」

「ハーウェイの?」

 これはハーウェイの紋章らしい。

 だとすると、これの持ち主として可能性があるのは二人。

 レオとユリウスだが、ユリウスはもう退場している。

「レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイは対戦者の候補です。本人に確かめてみた方が良いかもしれません」

 つまりこれはレオのものという事になる。

 一応、レオに聞いてみるか。

「ただ、気をつけて下さい。敵が突然襲ってこないとも限りませんから」

 その可能性は確かにある。

 対戦相手が分からない状況というのは、誰が襲ってくるかも分からないという事。

 相手のマスターが監視しているとしたら、確実に殺せる状況というのを伺っているのかもしれない。

「うん、分かってる。ありがとう、ラニ」

 ラニに礼を言い、レオの元に向かう。

 どこに居るだろうか、そもそも昨日も姿を見せなかった。

 今日は校舎のどこかにいるという確信は無い。

 もうアリーナに行っているのかもしれない。

 しかしそんな考えを一蹴するように、その赤い背中はあった。

 図書室で本を読むレオ、その姿は学校の優等生のようで、聖杯戦争中とはとても思えない。

 視線に気付いたのか、レオが顔を上げる。

「おや、ハクトさん。どうされました?」

「レオ、これは君のか?」

 ハーウェイの紋章をを見せる。

「これは……どちらでこれを?」

「アリーナに向かうまでの廊下だけど……」

「そうですか……見たところ、兄さんの襟章のようですが、改竄した跡がありますね」

「ユリウスの?」

「はい。恐らく、何者かが偽装して、わざと置いていったのではないでしょうか」

 てっきりレオのものかと思っていたが、どうやら違うらしい。

 ユリウスのもの、という事は、以前から彼と因縁のあった者だろうか。

 ユリウスが物を落とすという事はないだろうし、彼の持ち物を奪うというのは難しいだろう。

 そう考えればユリウス以上に頭の回るマスターという事か。

「……レオは、僕の対戦相手じゃないのか?」

「はい。今回の貴方の対戦相手は僕ではありませんよ」

 だとすれば、教えてもらえるだろうか。

「レオ、君の対戦相手は誰だ?」

「……あぁ、なるほど」

 残るマスターは四人。

 レオが僕の対戦相手でないのだとしたら、レオの対戦相手が分かれば自ずと答えが見つかる。

 しかし、レオは意地悪そうに笑みを浮かべた。

「ふふ、なんでしょうね。ちょっとした意地悪というものをやってみたくなる」

 そういってレオは襟章を此方に差し出してきた。

「僕の対戦相手は教えられませんが、代わりにこの襟章を差し上げましょう」

 ユリウスの襟章、だが、良いのだろうか。

 それに、言ってはなんだが対戦相手の情報の代わりになるほどのものか。

「これは貴方の相手が落としたもの。ですから所持する権利は貴方にあります。それに、これは割に便利なものですよ」

 レオは自分の襟章を弄くりつつ言う。

「この襟章は、ハーウェイのクラウドコンピュータの使用キーです。ハーウェイのバックアップがあれば、多少ですが聖杯に介入できます。例えば、視聴覚室への侵入とか」

「それって……」

 三回戦の後、ユリウスは視聴覚室に入り、凛とラニの戦いを見ようとしていた。

 普段入ることの出来ない視聴覚室に入れたのは、ユリウスに高度なハッキング技術を有していたのではなく、この襟章でハッキングを仕掛けていたという事か。

 つまり、あの防壁は今回の対戦相手がこの襟章を使ってアリーナにハッキングを試みたのだろうか。

「待て、という事はつまり、防壁も突破できる?」

「アリーナ内に防壁を? 面白い事をしますね、貴方の対戦相手は」

 愉快そうに笑うレオに無言で返す。

「はは、すみません。その襟章があれば、防壁を解除する事もできますよ」

 それでは、読み途中の希少本がありますので、とレオは本棚に目を移す。

 レオは対戦相手ではなかった。

 襟章は何者か――真の対戦相手が“紫藤 白斗の対戦相手をレオだと錯覚させるため”に利用したのか。

 結局、対戦相手の情報は得られなかった。

 強いて言えば、レオではない事と、その相手はユリウスを欺ける程の実力者という事。

 それに、アリーナの防壁を取り除く手段も手に入れた。

 今日はトリガーを優先してアリーナに向かうべきだろう。

 

 

 一階に降りてきたとき、背筋を冷たいものが走る。

 射抜かれるような鋭い殺気。

 二回戦のアーチャーの時の様に、校舎内で此方を狙っている。

『ハク、相手はやる気よ。アリーナで迎え撃ちましょう』

「っ――」

 相手の姿を見なければ、対策も立てようが無い。

 メルトの言うとおり、アリーナに走る。

 何の攻撃も無く、アリーナに入る事が出来たが、あの殺気からして追ってくることは確実だ。

「メルト、気をつけて」

「えぇ……ハクも、油断はしないで」

 入り口近くに居る以上、相手が来れば直ぐに確認できる。

 備えは万全、相手の戦力は分からないものの、これなら――

「え――」

「な――」

 一瞬、アリーナの入り口から膨大な熱量を感じた瞬間、体は宙に浮いていた。

 壁に激突するまで吹き飛ばされ、体中に鈍痛が響く。

「校舎内からアリーナに干渉――ハク、大丈夫!?」

 メルトが走り寄ってくる。

「大、丈夫……」

 痛みはあるが、行動に支障が出るほどのものではない。

 立ち上がり、状況を判断する。

「……こんな事、可能なの?」

「理論上は不可能よ。校舎とアリーナは扉で繋がれた別次元、可能性をあげるとしたら――」

「……あげるとしたら?」

 メルトは少し考える素振りを見せた後、口を開く。

理論無視(ロジックスルー)出来る程の高密度の術式か、別次元にも干渉できる馬鹿げた威力の攻撃ね」

 どちらも信じがたい。

 確立があるとすれば、後者の攻撃か。

 校舎内からアリーナに直接干渉できる術式、その存在自体考えにくいが、そうだとしたら術式を組むにおいてそれほどの威力は求められない筈だ。

「ハク!」

「え……っ!?」

 メルトの声に顔を上げると、入り口に陽炎が発生しているのが確認できた。

 高熱――そう感じた瞬間。

 火炎の奔流が入り口から此方に走ってくる。

「――ジゼル!」

 メルトが脚を振り上げ、衝撃波を発生させる。

 それは火炎と真っ向からぶつかり、いとも簡単に消え去った。

「メルト、こっちだ!」

 メルトの手を引いて横の通路に飛ぶ。

 すぐ脇を通り過ぎていった火炎は壁に直撃し、爆発した。

 被害は最小限だったが、驚きは先程よりも大きい。

 規格外の術式、規格外の攻撃、どちらにしても、それらによる魔力の消費は激しい筈だ。

 だとすれば連射は出来ないと思っていたが、まさか二発も放てるとは――

「ハク、終わってないわ!」

「は!?」

 信じられない、そう思いたいのにそれを真っ向から否定する炎熱。

 それもアリーナの壁を砕きながら迫って行くそれを回避しても、更に四発目が飛んでくる。

「っ――なんなんだこれ!?」

 これほどの威力を持って、尚且つ連射可能。

 チート、とはこういった攻撃を呼ぶのだろうか。

 いや、もしかすると相手にとって、この攻撃が“普通”なのかもしれない。

 五発目の攻撃を回避して、ようやく校舎からの襲撃は終わったようだった。

 爆発、そして火炎。

 それも校舎から攻撃できる程に強力な。

「殺気が消えたわね。諦めたのかしら」

「また……」

 またしても相手はアリーナで仕掛ける事無く退却したようだ。

 これでは二日目も有益な情報は得られない。

「悔しいけど、探索に邪魔が入らないだけマシじゃない」

「そうだけど……」

 焦りは増すばかりだ。

 今日も情報が得られないとなると、モラトリアムは後四日。

 これまで、二日たっても一切の情報が手に入らない戦いなんて無かった。

 確かに相手が戦いを避けているように見える。

 迷っているのか、それとも理由があるのか。

 どちらにしろ、この消極的な手段が逆に此方を追い詰めていた。

「さて、早く行くわよ。防壁の突破が優先でしょ?」

「あ、あぁ……」

 仕方ない、今出来る事を少しずつやっていくしかない。

 防壁の前に立ち、襟章を取り出す。

 ハーウェイのバックアップでアリーナにハッキングを仕掛けられるらしいが。

 多分、この襟章を使って発生した防壁なら同じプロセスで解除できるだろう。

 襟章に魔術回路を接続。防壁の構造を把握し、回路に魔力を通していく。

 程なくしてハッキングが完了する。

 同等権限の下、防壁を解除――開始――完了。

 目の前にあった防壁はいとも簡単に霧散し消滅した。

 それと同時に、襟章に罅が入る。

 複数回のハッキングにより限界が来たのか、それとも防壁に何かが仕掛けてあったか。

 それは分からないが、ともかく防壁は消滅し、先に進めるようになった。

 しかし、驚いたな。

 ハーウェイのバックアップとはいったが、このレベルの防壁をこんなにも簡単に解除できるなんて。

 同じツールを使っても、こういった作業には時間が掛かるのではないのか。

 まぁ、いいか。

 探索を再開し、この日は何とかトリガーを入手できたのだった。




対戦相手の行動が少ないと短くなる。
何かイベントを追加しようかしら。

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