Fate/Meltout   作:けっぺん

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また予約投稿ですよ。


四十三話『絶招空間』

 

 

 ――……の反応試験を開始する。肝臓を一つ、摘出する。痛覚を確認する必要がある。麻酔は使用しない。

 

 ――失敗だ。失敗だ。失敗だ。失敗だ。失敗だ。失敗だ。失敗だ。

 

 

 ――不要ですらない。あってはならない。この個体は将来、利益を生む余地がない。

 

 ――価値がない。能力が無い。失敗作だ。デザインミスだ。

 

 ――老化速度は常人の二倍。個体寿命は、最長で二十五年と推測される。

 

 

 ――なんという失敗作。無駄だ。無駄だ。最悪に罪深い。最悪に醜悪だ。まったくもって許されない。

 

 ――平均的な個体から作られたのならまだ許せる。だが、地上でもっとも尊い生命から、このような粗悪品が作られるなどと!

 

 

 なんだこれは。

 坦々と、しかし怒りの念が篭った声。

 誰が、誰に対して向けたものなのか、それさえも分からない。

 生を否定される、それに該当する人間を、自分は知らない。

 

「アリシア様。こちらにおいででしたか」

 

 今の声は――少々若く感じられるが、間違いなくユリウスのものだ。

 ユリウス、そうだ。今自分はユリウスと戦っている筈だが――

 

「あら、■リウス。ど■かした?」

「はい。旦■様がお■びでございます」

「もう――も■、そんな■間なのね」

 

 ユリウスと話しているのは女性。

 アリシア、というのが名前だろう。

 いつかの夢の様に、会話にはところどころにノイズが掛かっている。

 それに、視界は真っ暗だ。

 何も見えず、ただ会話だけが続いている。

 

「あんまり、ぽか■かと日差し■■持ちよかったものだから、つい時間を忘れてしま■■わ」

「さあ、■急ぎを」

「ふふっ、あ■■■ことはもう少し■たせておいてもバ■■たら■■わ」

 

 方向感覚もない。

 会話がどこから聞こえているかも認識できない。

 

「それ■■、ユリ■ス。あなただって、あの■■■子なのだから、お父様■■■びすれば■いの■■■くて?」

「い■■。私■は、そ■■■は■■いません。ハーウェ■■跡■■として■要な■■■■■■■まれ■■んで■■ので」

 

 ノイズが多量に掛かっており、聞き取ろうと意識を向ける。

 これは恐らく、ユリウスの記憶だ。

 彼が何を求めているのか、それを知れるのだろうか。

 だとしたら、誰が、何の為に。

 

「――さあ、お急ぎを」

「ふふっ、あの人のことはもう少し待たせておいてもバチはあたらないわ」

 

 唐突に、ノイズが切れた。

 そして少し前の会話がリピートされるように繰り返される。

 

「それより、ユリウス。あなただって、あの人の息子なのだから、お父様とお呼びすればいいのではなくて?」

「いいえ。私には、その資格はございません。ハーウェイの跡継ぎとして必要なものを持って生まれませんでしたので」

 

 この会話は何を聞かせようとしているのか。

 きっと、何かがある。

 意識を向けながら、その先の会話に手を伸ばす。

 

「ハーウェイの子はレオ様ただ一人です」

「そう……あの子は、どうしてる?」

「はい。記憶野に直接焼き付ける、新しい学科の手ほどきを」

「……まだ、三つだというのに魔術ばかりね。このところ、母親の私ですら、めったに顔を見られないわ」

 

 アリシアという女性は、レオの母のようだ。

 ユリウスとレオは異母兄弟という話を聞いた覚えがある。

 つまりはユリウスとアリシアという女性に血縁はないのだろう。

 

「レオ様はやがて、西欧財閥の頂点に立つお方。身につけねばならぬ事も多いのでございましょう」

「西欧財閥――そんな重荷を背負わせてしまって、親としては、心苦しいばかりだわ……ねぇ、ユリウス」

「はい」

「あの子を――レオを守ってあげてね」

「は。私は、そのためだけに存在しておりますので」

 

 これが、ユリウスの意思。

 レオが聖杯に至るまでの駒でしかない自身が持っていた、確かな情。

 

「くれぐれも、レオをお願いね」

「はい、この命に、代えましても――」

 

 若き日、ユリウスがまだ殺しに手を染める前の記憶。

 大事な人との約束が、ユリウスを動かしていたのか。

 この先、ユリウスの根底。

 そこには一体、何が――

 

 

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死に殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死に殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死に殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死に殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す何故殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死に

 

 ――!!!!!!!!

 

 この叫び――怨嗟。

 一体何があったのだろうか。

 脳内に飛び込み、満たしていく呪詛に頭を割られそうになるも、何とか意識を保つ。

 ユリウス、何故お前の根底に、そんなものが――

 

 

 

「ハクッ!!」

「――っ!」

 メルトの声が鼓膜を揺らした。

 その瞬間、視界が移り変わる。

 寒気を感じ、咄嗟に横に飛ぶと、今まで立っていた場所に手があった。

 ユリウス――その手には、先の鋭く尖った短刀が握られている。

 やはり今は、戦いの最中だった。

 考えは後だ、目の前の戦いに目を向けよう。

 一旦ユリウスと距離を取ると、メルトが走り寄ってくる。

「ハク、集中して!」

「ごめん――もう大丈夫!」

 それだけの短い会話を済ませ、メルトは再び赤い暗殺者に向かい走る。

 サーヴァント同士の戦い、そしてマスターの戦いが別に始まる。

 ユリウスに弾丸を放つも、短刀に切断されその効果を失う。

 あれは、それだけでマスターを殺せるほどの力を持った術式。

 違法術式――ルールブレイクの一種だろう。

 だとしたら、どうするか。

 弾丸は防がれた。あれに対抗できうるコードキャストなど持ち合わせていない。

 盾の術式は位置を指定してから発動するため、持って動くことは出来ない。

 手馴れなだけあり、ユリウスの狙いは正確だ。

 そもそも避ける事に精一杯であり、反撃の余地など与えない一方的な戦況。

 メルトの戦いに目を向けることさえも出来ない。

 勝敗が決していない以上、アサシンの猛攻を防いでいるのだろうか。

 或いは、メルトが優勢なのかもしれない。

「考え事か、随分と余裕だな」

「っ!」

 距離が開き、投擲された短刀を弾丸で撃ち落す。

 一旦攻撃は凌ぎきった。

 しかし、すぐさま第二局面へと映る。

「いい加減目障りだ――消えろ」

 両手に出現した短刀――この距離でそれは意味を成さない筈だが、投擲目的だろうか。

 ユリウスの動きが早まった、そう感じた瞬間には、黒いコートの裾が目の前にあった。

 予め手に魔力を仕込んでおかなければ、首を掻っ切られていた。

 咄嗟に放った弾丸は鳩尾に突き刺さり爆発する。

「ぐっ……!」

「っ、はぁ……!」

 大きく息を吐きながら状況を整理する。

 突然上がった速度は、恐らく身体強化によるもの。

 違法術式と見える短刀は複数生むことが出来る。

 ユリウスは吹き飛び、十数メートル先に上がる煙の中。

 短い隙だろうが、今の内にメルトとアサシンの戦況も確認する。

素手喧嘩(ステゴロ)のクセになかなかやるじゃない。槍を使うより向いてるんじゃないかしら?」

「呵々、それは分からんな。何分、年寄りに槍は堪えるのよ!」

 互角、と言ったところか。

 双方の攻撃が際限なく放たれ、それを時折躱し、時折受け流している。

「ぬしもやるではないか。我が拳を脚具のみで防ぐとはな」

「あら、希代の魔拳士からお褒めの言葉を頂けるなんて、光栄ね」

 サポート一つで戦況が動きそうな戦い。

 手を出したいのは山々だが、それをさせないのが今回の相手である。

 煙の中から伸びてくる何かを寸でのところで躱すと、ユリウスがゆっくりと歩いてくる。

「軽視しすぎたか……」

 伸縮自在の鞭。

 あんなものまで持っているのか。

 手に魔力を込め、いつでも対処できるようにする。

「犬の様に死ね」

 大きく振られ、勢い良く伸びてくる鞭に対して、盾のコードを展開する。

「っあ!」

 盾は綺麗に切断され、鞭が腕を打つ。

 更に、ユリウスが魔力を流したのか鞭はありえない回転で素早く右腕に巻きついた。

 拘束された――恐らくあの鞭はユリウスの意思が無ければこれ以上伸びることはないだろう。

 暗殺者の前で動けなくなるという危機、脳が逃げろと無茶な指令を出す。

 しかも、右腕に魔力を流せない。

 鞭が魔力の流れを遮断しているようだ。

 電気が流れるとかそういう仕掛けは無いようだが、これだけでもユリウスの大きなアドバンテージとなる。

「……くっ!」

 左腕だけでは対処できる攻撃に限りがある。

 違法術式を持ち込んでいる上、マスターとしての腕にも差がある以上、それは致命的だ。

「終わりだ」

 短刀をもう一方の手に持ち、近づいてくるユリウス。

 この状況の打開策は、一つは思いつく。

 しかし問題なのが短刀の存在。

 ユリウスの反射神経によっては、“ユリウスを急接近させる”ことは即ち死を選ぶようなもの。

 いや、迷うな。どうせこのまま待っていても死ぬだけだ。

 ならば数パーセントだろうと、確立がある方を選ぶべきだ。

 ユリウスほどの強敵であれば、思い切りが重要――そう判断し、体中に魔力を通す。

 身体強化――案の定右腕の縛られている位置から先には効果が無いが、十分だ。

 分の悪い賭けだがやるしかない。

「っ!?」

 全力で鞭を引っ張る。

 バランスを崩したユリウスを更に引っ張り、左手の弾丸で鞭を持つ手を狙い撃つ。

 ユリウスの手を離れ、鞭がその効果を失う。

 右手に魔力が流れ、更に放った弾丸で短刀も撃ち落した。

 鞭を投げ捨て、これで絶対有利、という訳でも無さそうだ。

「……やるな。やはり成長していたか」

 ユリウスがメルトたちの戦いに目を向ける。

 念のためサポートを阻止する準備をするが、ユリウスはコードを紡ぐ素振りもみせない。

「アサシン――」

「どうしたユリウス、ぬしらの決着はついていないようだが?」

 一旦距離を取ったアサシンが悪戯めいた笑みで応える。

「――終わりにしろ」

 その言葉が発されて数秒。

 アサシンは小さく頷き、再び構える。

「承知。悪いなサーヴァント、終いだ」

「来るわよ、ハク」

「あぁ、分かってる」

 決戦場の空気が変わっていく。

 武術の真髄――李書文が行っていたとされる、気を呑む行為。

 仙道修行、周天行における到達点の一つ、全身に気を満たし、更には周囲の空間に自身の気を満たす。

 李書文の伝説は、空間に気を満たすことで自身のテリトリーを作っていた事にある。

 これにより相手は感覚の眩惑、及び緊張状態となる。

 この状態の相手の神経に衝撃を打ち込んだ場合、面相神経反射を起こし、心臓が停止する。

 ――それがアサシン、李書文の渾名、二の打ち要らずの正体。

「武の合理、身をもって知れ」

 これこそがアサシンの空間。

 即死を体現する一撃を生む李書文の世界。

「面白いわ、真正面から受けてあげる」

 それに対して、メルトも纏う魔力を変貌させる。

 今まで倒してきたエネミーやサーヴァントの能力、それはメルトのスキルにより吸収されている。

 しかし、それの全てを彼女は操れない。

 それらの能力は、防御に使用されるからだ。

 溜め込んだ能力を一時的に放出させ、ダメージを肩代わりするメルトの能力、その名を『さよならアルブレヒト』という。

「呵々、それでこそ! 我が八極に二の打ち要らず――」

 放たれる一撃は、アサシンが持てる最強の一打。

 敢えて名づけるとすれば、『无二打(二の打ち要らず)』――中国風に読むならば、ウーアルダとなるか。

「憤ッ――」

 勢い良く大地に叩きつけられた足。

 石板が割れたという逸話に相応しい衝撃を生む震脚。

 同時に、全力を込めた一撃が突き出される。

「――覇ァァァッ!!」

 激しくぶつかり合う両者。

 アサシンの拳はメルトを殺す事無く、メルトも防ぎきれた訳ではない。

「っ……!」

「大丈夫、メルト!?」

 メルトの下へ駆け寄る。

「えぇ、何とかね」

 脚具の一部に罅が入っているも、宝具の一撃に耐え切った。

「……儂の絶招に耐えたかよ」

「ありえん……どうやって生き延びた?」

 ユリウスが驚愕する。

 今まで敵を一撃で葬ってきたアサシンの一撃を防ぎきった事を信じられないのだろう。

 とはいえ、メルトのダメージは大きい。

 回復のコードを使うも、脚具の損傷は治るものではない。

 この戦いが終わり、校舎に戻るまではこの状態で戦わなければならない。

「だがぬしらの消耗具合からして、そう持つまい」

 確かに、その通りだ。

 損傷で動きも制限され、僕自身もユリウスとの戦いで使用した魔力も少なくない。

 ユリウスが防戦の構えをとれば、程なくして力を使い果たしてしまう。

「……まずいわね」

 今の一撃、充満された気と震脚の衝撃で動くことはできないとメルトは踏んだのだろう。

 だから敢えて防御の姿勢を取り、真正面から受けることを選んだ。

 避けようと考えれば動けなくなりあの攻撃は直撃していた。

 防御は最善の策だろうが、どっちみち不利な状況は変わらない。

「……」

 苦渋の表情を見て取ったのか、アサシンが構えを解く。

「アサシン、どうした?」

「許せユリウス、このままでは儂の気も治まらんのよ」

 小さく笑みを浮かべ、メルトを睨むアサシン。

 一体何をする気なのか。

「いつまで実力を隠す、サーヴァントよ」

「……何のことかしら?」

「ぬしの力、そんなものではあるまい。その状態で儂を倒すなど不可能だろう――宝具を開け。全力で掛かって来い」

 マスターであるユリウスでさえも、その言葉に耳を疑った。




アサシン先生に言わせたかった台詞第一位→宝具を開け

お察しの方はいると思いますが、七回戦のアレはありません。
アレの分も五回戦で書いてしまおうと思います。

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