Fate/Meltout   作:けっぺん

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今回はFate/EXTRA CCCの核心部分のネタバレを多量に含みます。
ご注意下さい。


三十九話『説話告白』

 

 

「まず始めに――ハク、私の事について、どこまで知ってるかしら」

 メルトについて知っている事――

「……加虐体し」

「私は真剣な話をしているつもりだけど」

 割と真面目だったつもりだが、確かに最初に挙げるべきではなかったか。

 では、真剣に考えるとしよう。

 メルトについて、最も核心を突いた情報といえば、二回戦の何日目かに夢の中でBBに聞いたものだろう。

「……確か、メルトはハイ・サーヴァント……女神の類だとか」

「あら、それをどこで?」

 メルトは怪訝な顔をする。

 確かに、メルトがこの話をした事はない。

「夢で見たんだ。BBが教えてくれた」

 とりあえず本当の事を話したが、やはりメルトは納得がいかないようだ。

「BBが……? ……まぁ、いいわ。その情報は事実でもあるし、嘘でもあるの」

「え?」

 事実でもあり、嘘でもある。

 どういうことだろうか。メルトは女神の系列、理解出来なくはない情報だったが。

「私は英霊複合体――複数の英霊の性質を併せ持った人工サーヴァントよ」

「人工サーヴァント……つまりは、人に作られた英霊?」

「正確に言えば、AIによって作られた、ね」

 AI、つまり人工知能か。

 人工知能と言うことは近代、若しくは未来の英霊だろうか。

 いや、それ以前に、メルトはBBの事を母と言っていた。

 つまり、BBは――

「ご明察。BBは聖杯戦争のためにムーンセルが用意した健康管理AI。サクラのバックアップよ」

「サクラって……え?」

 聖杯戦争、ムーンセル、健康管理AI、サクラ――

「保健室のNPC、間桐 桜。BBは元々、彼女のバックアップとして作られた存在なの」

 聞き覚えのある単語ばかりが出てきたと思った矢先に、衝撃の事実を口にされた。

 容姿が似ているとはいえ、まさか桜と深い関わりのある存在だったとは。

 BBが桜のバックアップなら、その子であるメルトは。

「私とリップはBBが作り出した眷属。月の裏側に落とされた人々を逃がさないための手駒よ」

「月の……裏側?」

 BBの眷属――それは理解できる。

 眷属。つまりは、神の使者か。

 北欧神話における、オーディンに付き従うワタリガラス、フギンとムニンのようなものだ。

 健康管理AI(さくら)のバックアップである以上、BBに神霊適性はないだろうが、まぁその辺りは言葉の絢だろう。

 しかし、月の裏側とは。

 地上を、宇宙開発を禁止した西欧財閥がその六割を支配している以上、裏側というのは物理的なものでは無いだろう。

 自分達の様に魂を霊子化して侵入した状態の事なのだろうが、この月に裏側なんて概念があるのか。

「えぇ、いつかの聖杯戦争の一つの結末よ」

 聖杯戦争の結末。

 過去にも聖杯戦争が行われたという事だろうか。

 その中の一つに、何らかのトラブルがあり、マスター達が月の裏側に落とされたと。

「BBは聖杯戦争に参加したサーヴァントを取り込んで力を増大させ続けた。そして何人かのマスターを、月の裏側に落としたの」

 落とした……?

 桜のバックアップであるというのに、BBは悪なのだろうか。

「彼女の本質は、分身である私にも分からないわ。でも、その根底はとある人を救いたいが為だった」

 とある人とは、誰の事だろうか。

 恐らくは、聖杯戦争に参加したマスターの一人。

「名前を岸波(きしなみ) 白野(はくの)。その記憶が曖昧で男か女かは思い出せないけど」

 聞き覚えの無い名前だ。

「だけど、一人のマスターがBBのプログラムを改変した。救済は破滅に変わり、BBは無意識にそれに従うしかなかった」

 救済が破滅に変わった?

 岸波 白野を救おうとする気持ちが、一人のマスターの手によって“破滅”へと改変された。

 一体誰なのか、きっとそのマスターも、自身の欲求、信念に基づいて動いたのだろう。

「そのマスター――殺生院(せっしょういん) キアラはBBの全てを狂わせて、私達も利用された」

 親が操られれば、子は従うしかない。

 単調なプログラムの様に、無意識の内にメルトとリップは操られていた。

「そう、単調なプログラム。私とリップはBBの欲求(エゴ)から生まれた存在だから、操られるのは至極当然ね」

「……エゴ?」

「アルターエゴ。それが私とリップの正体よ」

 BBの欲求が生んだ人工サーヴァント。

 それがメルトリリスと、パッションリップ。

「私達の存在を、ある物書きは表現した。短く的確な詩として」

 

 

 愛に濡れた唇は囁く。(女の話をしよう)

 

 “貴方のすべてを、私に下さい(愛を知った時、女は魔物に変生する)

 

 愛しみと憎しみは本来、別々のもの。

 

 それが一つのものとして語られる時、

 

 これらをつなげる感情が不可欠になる。

 

 ――狂気だ。

 

 狂おしいほど愛している。狂おしいほど憎んでいる。

 

 他人への想いがこの域にまで達した時、愛憎(かいぶつ)は現れる。

 

 ……とかく、一目惚れとは暴力のようなもの。

 

 する方は幸福だが、される方には不意打ちだ。

 

 

 それが、パッションリップ。

 BBの“求愛欲求”と“愛憎”から生まれたアルターエゴ。

 英雄複合体、即ち複数の英霊の力を兼ね備えたサーヴァント。

 そして、基になったのは、ハイ・サーヴァントと言われる女神の類。

 組み込まれた女神は三柱。

 一つはパールヴァティー。

 破壊神シヴァの妻であり、夫を盲目的に愛した美の女神。

 一つはドゥルガー。

 十本の神剣を持つ、パールヴァティーの側面ともされる戦いの女神。

 一つはブリュンヒルト。

 英雄ジークフリートに恋をするも、裏切られて哀しみと共に滅んだ戦乙女(ワルキューレ)

 リップは岸波 白野に恋焦がれ、自分のものにしようとした。

 しかし、その盲目的な愛は否定され、結局は戦うほかになかった。

 結果は岸波 白野の勝利に終わった。

「だけど、白野は許した。生まれたばかりで心を正しく理解していないリップに罪はないと」

 そして、リップは解放された。

 岸波 白野の邪魔をせず、いつか振り向いてもらえるように努力をしようと改心して。

「でも、リップは殺された。殺生院 キアラの手に落ちて、私の手によって」

「……え?」

 メルトは、リップが殺した?

「私も当時は知らなかったわ。殺生院 キアラを殺せたと思っていた」

 その情報には、心当たりがあった。

 四回戦のいつかに見た夢。

 メルトが殺していた“誰か”はもしかしたら、殺生院 キアラの手によって操られていたリップだったのかもしれない。

 そして――

 

 

 愛に溺れた瞳は語る。(女の話をしよう)

 

 “私のすべては、貴方のために(愛を守る時、女は女神と等しくなる)

 

 おまえの体が目当てだ、と男は笑った。まるでケダモノね、と女は言った。

 

 おまえの心は俺のものだ、と男は笑った。ええその通りよ、と女は言った。

 

 助けてくれ、と男は言った。ケダモノではまだ足りない、と女は笑った。

 

 愛しているのに、と男は言った。ええその通りよ、と女は笑った。

 

 男女はヴェールの向こうで一つになる。癒着する肌のように。熱に溶ける氷のように。

 

 溺愛を具現する女は笑う。すべてを支配してこそ、真実の愛たり得るのだと。

 

 

 それが、メルトリリス。

 BBの“奉仕要求”と“快楽”から生まれたアルターエゴ。

 基になった女神は、リップと同様に三柱。

 一つはアルテミス。

 ギリシャ神話における処女神で、狙った獲物を確実に射抜き、疫病と死をもたらす女神。

 一つはレヴィアタン。

 リヴァイアサンとも呼ばれる、旧約聖書における海の悪魔だ。

 一つはサラスヴァティー。

 七福神の一つである弁財天の原流である、インド神話において「流れるもの」を司る女神。

 メルトもリップと同じように、岸波 白野に執着していた

 しかしその在り方はリップとは間反対。

 その加虐体質と冷酷さで岸波 白野を確実に追い詰めていった。

 BBの思惑を外れて行動し、BBを超えようともしていた。

 それは高望みではなく、自身の能力を以てすれば可能な事。

 メルトが所持していた最強の力こそ、id_es――リップのトラッシュ&クラッシュと対をなす“メルトウイルス”。

 エナジードレイン系統スキルの最上位に位置するスキルであり、ドレイン、コピー、スケールダウンを可能とする。

 対象の経験値、スキル、容量等のパラメータを吸収、変換(コンバート)し、自身の一部とするスキル。

 メルトはこれを利用して、自身のレベルを上昇させ続け、更にはムーンセルのルールを改竄して絶対的な無敵性を取得した。

 曰く、“メルトリリスを傷つけてはいけない”という正当なルール。

 しかし、その正当性は、親であるBBによって覆された。

 それでも、メルトのレベルは岸波 白野を凌駕しており、勝利は尚も絶対だった。

 しかし、それをも覆された。

 小さく弱い、“喜劇の王”と罵っていた一人のマスターによって。

「それって……」

「シンジよ。だから私は彼を知っていた」

 間桐 慎二。

 紛れも無い、一回戦で戦い、倒した相手だった。

「でも、慎二は……」

「分かっているわ。いつかの聖杯戦争の末路――それはこの戦いなのかもしれないわね」

「どういう事?」

「運命なんてちょっとした事で枝分かれするものよ。別の時代にシンジが生きる世界だってあるかもしれない」

 それは想像すらつかない程遠い、別次元クラスの話。

 しかし、確率とすればメルトの話もありえるのだろう。

 慎二はメルトを自身の命を以て陥れた。

 岸波 白野を助けるために命を差し出し、メルトのレベルをゼロへと戻した。

 慎二の助けもあり、岸波 白野はメルトに勝利した。

 消え行く体は儚いものだった。

 その姿に、岸波 白野は何を思ったのだろうか。

 メルトに止めを刺すのを躊躇った。

 対してメルトは、自嘲と共に自身の空間から解放し、岸波 白野を逃がした。

 一度でさえも、恋焦がれた相手に触れる事無く、メルトは消滅する。

 その前に、たった一つでも、役に立ちたかった。

 消え行くまでの数分で、メルトはその力を、岸波 白野を支えるオペレーター、遠坂 凛とラニ=Ⅷに渡そうとした。

 だが、それは叶わなかった。

 最後の最後に、殺害を確信した殺生院 キアラによって、メルトの思惑の全ては崩れ去った。

 たった一人の人を、一途に想い続けた哀れな少女。

 歪んだ愛で想い人を溺れ溶かし、真の意味で一つとなろうとした先にあったのは、残酷極まりない最期だった。

 殺生院 キアラはメルトを取り込んだ。

 その後、岸波 白野の前に立ちはだかった殺生院 キアラは、BBさえも取り込み、強大な魔人となった。

 だが、それこそが殺生院 キアラの最大の誤算。

 彼女が取り込んだパッションリップ、メルトリリス、BB。

 そして、同じく月の裏側に落とされた健康管理AI、間桐 桜。

 彼女達の抵抗によって、殺生院 キアラは岸波 白野を殺せず、その欲望は潰えた。

 死したその先で、ようやく岸波 白野の役に立てた。

 それだけが、メルトの唯一の救済。

 英霊ならぬ少女の、たった一つ抱いた小さな喜び――

 

 

「それが、私。メルトリリスの全てよ」

 全てが謎に包まれた、自分のサーヴァント。

 今、メルトはその秘密の全てを話してくれた。

「……後悔は、ないの?」

「あるわ。白野が好き“だった”んだもの。でも、今の私にその記憶は無いわ」

 記憶がない……?

 これだけの情報を話してくれたのに、まだ不備があるのだろうか。

「岸波 白野の記憶は今の私には無いわ。男なのか女なのか。どんなサーヴァントを連れていたのかも、ね」

 恋焦がれた人の記憶を失くしている。

 たった一つ覚えているのは、名前のみ。

 その人がどんな人物だったのか、その性別さえ判然としないなんて。

 ……どこかおかしい気もするが。

「あぁ、でもサーヴァントについては、記憶が無いというよりはっきりしていないってところかしら?」

「はっきりしていない?」

「えぇ。赤い皇帝だった気もするし、青い狐だった気もする。金ピカだった覚えもあるわ。それに後一人、思い出せそうで思い出せないのがいるわね」

 記憶の錯乱、いや、先ほどメルトの言っていた、運命の枝分かれに関連しているのだろう。

 月の裏側に落ちた岸波 白野のサーヴァントには、その四パターンがあった。

 それらの記憶を曖昧ながら所持している、それが今のメルトのようだ。

「さて、これで私の話はお終い。ハク、何で今、これを話したか分かる?」

 唐突に問われ、考える。

 約束だから――多分そんな理由ではないだろう。

 重大な話である以上、恐らくもっと大きな理由がある。

 一番可能性がある事柄を挙げるとすれば――

「……今回の対戦相手?」

「ご名答」

 短く正解を告げ、メルトは小さく笑う。

「ユリウスはともかく、あのサーヴァントは私の記憶にない存在。そして今までの相手より強力よ」

 確かに、メルトやバーサーカーのドールを一撃で戦闘不能に追いやったあのサーヴァントは、ある意味リップよりも注意して挑まなければならない存在だ。

 彼らとの戦闘を前にして、メルトが話をする理由。

 今、ようやく理解した。

「この五回戦、私は全てを出し切るわ。出し惜しみは無し、ハクの腕も上がってきたし、頃合ね」

「……」

 メルトの言葉には、決意の色が見えた。

「今回の決戦で、宝具を解禁するわ。使いどころはハクに一任する。貴方の方が直感は鋭そうだしね」

 今まで、僕が未熟だった為に使用を禁じてきた切り札。

 メルトは、遂にそれを使うと言った。

 それ程までに、ユリウスは強敵なのだ。

 まだモラトリアムもあり、情報も集まっていない。

 第一、宝具を解禁するにしても、あの姿の見えないサーヴァントの秘密を明かさなければ、当てることすら出来ないだろう。

 メルトの決意を無駄にする訳には行かない。

 最悪の敵に挑むための、最高の切り札を得て、まず始めに特訓、とアリーナに向かう事にした。




ゲーム的に言えばマトリクスレベル3。
この作品にとって岸波白野は、これ以上でもなければこれ以下でもありません。
ちなみに思い出せそうで思い出せないサーヴァントは弓兵さんです。

次回は水曜日の予定ですが、多分来れないので予約投稿使わせていただきます。
従って感想への返信は金曜日の投稿で一気に行わせていただきます。

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