Fate/Meltout   作:けっぺん

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この間ニコニコチャンネルで織田信奈の野望とやらがやっていたので見てみたら面白かった。
犬千代かわいい。五右衛門かわいい。半兵衛かわいい。犬千代かわいい。犬千代かわいい。
……別に貧乳好きとかロリコンとかそういう訳じゃないですよ。
ちゃんと勝家とか光秀とか義元とか道三とかも……ん?


三十六話『回路修復』

 

 

 朝が来た事を知ったのは部屋の時計が八時を過ぎた頃だった。

 この夜、所々記憶が無いのは、多分寝てしまっていたのだろう。

 メルトはまだ目を覚まさない。

 ユリウスのサーヴァントの言葉が頭に張り付き、自分を責める。

 ――いずれ、死に至る。

 メルトが死ぬなんて、想像もつかない。

 あんなに強く、頼りになるメルトが。

 未熟な僕を守り、力になってくれたメルトが。

 否定しようとしても、僕が未熟だからこうなったというのは、避けようもない事実なのだ。

 時々苦しげに寝息を立てるメルトは、一向に目覚める気配が無い。

 どうにかしなければ、と思うものの頭は空回りするばかり。

 少しでも気を紛らそうと廊下に出て、外を眺めていたところに、ラニが歩いてくる。

「ハクトさん……おはようございます」

「……あぁ、ラニ、おはよう……」

 どこか上の空になってしまう。

「……顔色が優れませんが、何かあったのですか?」

 顔に出ていたのだろうか。

 心配そうなラニに、遅いかもしれないが笑顔を作り向き直る。

「元気になったんだね。良かった」

「十分休息を取ったので私は大丈夫です。ですが、ハクトさん。何かあったのでしょう? 私でよければ、話してください」

 ラニの目は真剣だ。

 救ってくれたのだから助けたい、と本気で訴えてくる。

「……救われたらその人を助けるように、と師から教わりましたから」

「師の、教え?」

 そういえば、いつもラニは師の話をするが、一体何を言われたのだろうか。

「生まれて間もない頃、師から言われました。『人形に過ぎない私の、命を大切に思う人を見つけなさい』。そして、その時こそ私という器に魂が宿る時だ、と」

 だから、ずっとラニは探していた。

「そして、私は出会えた。あなたと、ここで」

 紫藤 白斗と師は、何もかもが違う。

 だけど、ラニがずっと探し求め、見つけた人。

「そう……私の、主。だから、あなたのために働かせてください」

「あ、主……?」

 つまりラニは、師に代わる庇護者を探していたという事だろうか。

 主という言葉に動揺して黙っていると、ラニは続ける。

「師は私にとって今も至上です。ですが、ハクトさんは私自身が見つけた、私の感情(なかみ)

 師の言葉をこなす事が使命だと思っていたラニが、“手を貸したい”と思った相手だと。

 そう、告げてきた。

 迷惑なはずが無い。今こそ、本当にラニの力を借りたい時なのだから。

 これ以上心強いことがあるだろうか。

 とはいえ、主、というのは面映い。

 今まで通りの、「友達」では駄目だろうか。

「ハクトさんがそういうなら、私は構いません。では、その証として携帯端末をリンクさせていただいていいでしょうか」

 この聖杯戦争での連絡手段。

 これをリンクさせれば、アリーナ内でも通話が出来るだろう。

「うん、喜んで」

 携帯端末を渡すと、ラニも同じものを取り出して少し操作をする。

 十秒弱の短い操作を終え、ラニは僕の携帯端末を返してくる。

 どうやらリンクができたようだ。

 いつでも連絡がとれるというのは心強い。

「ありがとう、ラニ」

 礼を言うと、彼女は小さく笑う。

「師程ではありませんが、私もアトラスに末席を置く者。お役に立てることがあれば、何なりとお申し付けください」

「――」

 ラニならば、メルトを回復させる術も知っているかもしれない。

 事情を説明すると、ラニの表情が驚愕に変わる。

「サーヴァントが黒い蠍にやられたのですか? その……大丈夫なのでしょうか」

「まだ大丈夫だと思う、けど……いずれ死に至るって……」

 ラニはしばらく考え込み、顔を上げる。

「……私に一度、見せていただけないでしょうか。回復の余地がまだあるかもしれません」

 その申し出を断る理由などあるはずがない。

 頷いて、ラニを自室に連れて行く。

 メルトはまだ目を覚ましておらず、その表情を曇らせながら眠っていた。

「……何らかの手段で、体中の魔術回路を乱されていますね」

「魔術回路を、乱されている?」

 暫くコードを組み、メルトに打ち込みながら調べていたラニの答えは、どう捉えたらいいのか良く分からないものだった。

「率直に言えばあなたからの魔力供給のパイプを封じられています。マスターから魔力を供給できないと、サーヴァントは現界を維持できません」

 つまり……今のメルトは自身の魔力で体を維持していると?

「はい、そういう事です」

 だとすると、危険ではないか。

 その魔力が尽きてしまっては……

「……マスターからの魔力供給が上手くいっていない以上、持って後数日でしょう」

「――そんな、何か方法はないのか!?」

「状況は確認しました。何か、考えて見ます」

 少なくとも、今出来ることは何も無い。

「後でお話しましょう。三階の廊下で待っています」

 真剣な面持ちで言って、ラニは部屋を出て行く。

 ラニにもメルトにも、いつも世話になってばかりだ。

 役立たずの自分が歯がゆいが、早く何とかしなければという気持ちが今は強い。

 自分に出来ることが無い以上、ラニを頼るしかない。

 その事実が作る傷は、今まで受けたどんなものよりも深く感じた。

 

 

 朝、ラニに相談してから随分と時間が経過した。

 昼を過ぎ、午後、そろそろ何か策を見つけてくれただろうか。

 相変わらず人任せな自分に、苦笑すら沸かない。

 自分への呆れと早くしなければという焦りが、急がせる。

 そろそろ三階に行ってみよう。

 部屋を出ると、おう、と軽い挨拶の声が聞こえた。

「壮健そうで何より。ぬし一人か? サーヴァントはどうした?」

 しかし、如何に本人にとって軽いものであっても、此方にとっては紛れも無い、死刑宣告。

 サーヴァントを連れていない今、敵のサーヴァントに出会うというのは、それ以外の何者でもなかった。

 周囲を見渡してみるも、姿は見当たらない。

 どころか、一切の気配すら感じられない。

 しかしこの声を聞き違うはずも無い、間違いなくメルトを一撃で瀕死に追いやった、ユリウスのサーヴァントだ。

 体が動かない。

 本能的な恐怖は、二日続けて体験しても決して馴れないものなのだから。

 逃げようとするも、脳が命令を受け付けない。

「呵々、そう急くな。今は仕事の外。気ままにブラついてるだけよ」

「……戦う気はない……と?」

「応よ。儂はそこまで酔狂ではない。理の無い殺しなどせんよ」

 少なくとも、このサーヴァントは話の分かる者だと言う事か。

「まぁ――今回の我が主は違うがな。ユリウスと戦う以上、確かにぬしの警戒はもっともか」

 暗殺者に従う暗殺者。

 どちらも心の無い、冷たい氷の様な存在かとも思ったが……

「儂も確かにあやつと同類だろうがな。出会った人間全てを殺しては飯を食うにも困ろうさ」

 豪快に、サーヴァントは笑う。

 どうもこの人物はユリウスの様に問答無用という暗殺者ではないようだ。

 では、全ての人間を殺すというわけではないという事だろうか。

「うむ。儂は一戦一殺を心がけておる。一度の戦いでは一人しか殺さぬし、一人には必ず死んでもらう」

 不可視のサーヴァントは、そう告げた。

 戦い(ころし)に確たる標的と目標を定め、それだけを確実に討つ。

 それを可能にする能力は暗殺者、ながらその心は戦いを楽しむ闘士のものの様に思える。

「しかし……やはり、そういう事か。ぬしのサーヴァント、まだ生きているな?」

「……」

 その問いに、恐る恐る頷くと、サーヴァントは大笑した。

「誇るが良い、魔術師。ぬしのサーヴァントは中々の腕前だ。一瞬だが儂の拳をずらしおった!」

 どうやらこの場で戦う事は無いようだ。

 ここまで饒舌だと逆に暗殺者である事を疑う程だ。

「呵々、今までの相手より何倍も愉しいぞ。殺すには惜しい相手、というヤツか!」

 ユリウスのサーヴァントという事で危険視していたが、この男は良識を持つ戦士なのか。

 だったら、今苦しんでいるメルトを助けてもらうことも――

「それは聞けぬ相談だな。儂とて助けてやりたいのは山々だが、この拳は壊す事しかできんのだ」

 しかし、その期待はあっさりと打ち砕かれた。

「儂の拳には、人体を効率よく壊す術理はあれど、たいそうな思想も理念もない。宿るのは殺だけよ」

 余人を生かした事など数えるほども無い。

 武人を謳うにはほど遠い殺人鬼だと。

 サーヴァントはそう言った。

 無理を承知で聞いてみたが、やはり望むべくもなかったか。

「故に己がサーヴァントはぬしの手で治せ。儂とて敵は万全でなければ愉しくないのでな」

 その気配が、遠ざかっていく。

 相変わらず足音も聞こえないし、姿も見えない。

「ではな。ぬしとあのサーヴァントが今一度立ち上がる時を待っているぞ」

 場を支配していた緊張の糸が解ける。

 去っていったのだろうか。

 ……あのサーヴァントの事は今はいいだろう。

 ともかく、ラニの下に向かおう。

 事態を一刻も早く解決するために。

 

 

「朝、確認した限り、メルトリリスは魔術回路に甚大な損傷を受けています」

 ラニが言うには、このまま魔力を供給しなければメルトは最悪、明日の内に消滅してしまうらしい。

 いくら何でも早すぎる。

 方法があるとしても、たったそれだけの猶予で間に合うだろうか。

「ですが、解決方法はあります。相手を倒すまで解けない呪いだとしても、この方法ならば大丈夫でしょう」

 ラニは坦々と続ける。

 本当なのであれば、一刻も早く行いたいが。

「どんな方法なの?」

「方法としてはシンプルです。一時的に私の魔力をメルトリリスに送ります」

 ラニの魔力を……

 そんな事が可能なのか。

 それに、それを聞いてもどうすればいいか、想像もつかない。

「……多少の工程が必要になりますが、問題ありません」

「工程?」

「アリーナ内で私の端末を聖杯に接続し、一時的な通り道(バックドア)を作ります」

 そうする事で、ラニからメルトへの魔力供給が可能となるらしい。

 一時的な予備燃料という事か。

「だけど、ラニの身体に負担が……」

「ありがとうございます。ですが、この方法が最も効率がいい。ハクトさんが嫌なら仕方ありませんが……」

 ラニが問題ないというのなら、僕に依存がある筈無い。

「それで、僕は何をすればいいの?」

「ではまず、アリーナ内に移動し、ハッキングに適した場所にこれを仕掛けて来て下さい」

 渡されたのは、黒い立方体のデータ。

 微量な魔力を発しているこれは、一体なんだろうか。

割込回路(バイパス)です。それを用いれば、アリーナから私の魔力の流れを作る事が出来ます」

 成程、これはこの方法に欠かせないデータなのか。

 ならば早速、アリーナに――

「あの、待ってください」

「え?」

「サーヴァントの居ない身で行くのは危険です。これをどうぞ」

 そう言って渡される、もう一つのデータ。

「これは?」

「私のサーヴァントのデータをインストールしたドールです。エネミーと戦える程度の戦闘力はあるでしょう」

 これは……確かに頼もしい。

 ラニのサーヴァント、つまり、あのバーサーカーのデータの入ったドール。

 正直なところ、一人で行こうとしていた身としては、頼れる武器だ。

「ありがとう、ラニ」

「いえ、お気をつけて。詳細はアリーナについたら携帯端末から連絡します」

「うん、分かった」

 ラニに相談して、本当に良かった。

 これで何とかなればいいのだが。

 とりあえず、アリーナに向かうとしよう。

 

 

 アリーナの前で、ドールのプログラムを起動させる。

 魔力を注ぐと小さかったデータは肥大し、あの巨人の形をとった。

 巨大な矛を持った偉丈夫のバーサーカー。

 本人ではない、仮初のドールに過ぎないが、まさか手を借りる事になるとは思わなかった。

「よろしく、バーサーカー」

 本当はドールであり狂戦士ではないのだが、その姿かたちからそう呼ぶ事にする。

「■■■■――――!!」

 その咆哮に目を見開く。

 応えられる事はないと思っていただけに、その驚愕は一入だった。

 ラニの事だから、念のために作っておいたのだとしても性能等は出来るだけオリジナルに近づけようと思ったのだろうが、まさか咆哮まで上げるとは思わなかった。

 あのバーサーカー程の迫力はなく、機械的だが、より頼りになったように感じる。

 正体すら知らないが、実力は確かなものだ。

 一時的ながら共にアリーナを歩く仲間に笑いかけ、アリーナの扉を開いた。




大音量放送禁止用語、再び。
出しておいてなんですが、大して活躍しません。はい。
次回、アレです。
です……けど……どうしましょうかね。
まぁ、健全作品ですし……いや、ううむ。

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