Fate/Meltout   作:けっぺん

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今回短め。


四話『親友と強敵と』

 翌日、目を覚ますと携帯端末にメッセージが届いていた。

 二階の掲示板にて一回戦の対戦相手を発表するとのこと。

 まだ戦う決意は固まっていないが、とにかく確認するほかない。

 というわけで、僕は掲示板の前に立っていた。

 張り出されている、白い紙に書かれた二つの名前。

 一つは、紫藤 白斗。

 そしてもう一つ、

 

『マスター:間桐(まとう) 慎二(しんじ)

 決戦場:一の月想海』

 

「まと、う……しんじ……」

 聞き覚えのある、というより、自分の記憶に強く、大きく残っている。

 仮初の学校生活で、特に癖の強かった少年の名前。

「へえ。まさか君が一回戦の相手とはね。この本戦にいるだけでも驚きだったけどねぇ!」

 癇に障る声が聞こえた。

 青みがかった天然パーマ。

 群青色の瞳は人を小馬鹿にするように此方を見ている。

 制服の胸元を大きく開いたそのファッションは、彼の高慢な性質が強く表れている。

 見違えようのない、間桐 慎二その人だ。

「けど、考えてみればそれもアリかな。僕の友人に振り当てられた以上、君も世界有数の魔術師って事だもんな」

 他人を見下すような態度ながら、今回ばかりは頭に入ってこない。

「格の違いは歴然だけど、楽しく友人やってたワケだし。一応、おめでとうと言っておくよ」

 慎二が対戦相手。

 つまりは、慎二と殺しあわなければならない。

 あくまでも仮とはいえ、慎二は友人だ。

 殺すなんて、出来るわけがない。

「――そういえば、君、予選をギリギリで通過したんだって? どうせ、お情けで通してもらったんだろ?」

 間違いない。

 僕は予選を死の瀬戸際で何とか切り抜けた。

 メルトがあのタイミングで来てくれなければ死んでいた。

 情けをかけられたという可能性は十分にある。

「いいよねぇ凡俗は、いろいろハンデつけてもらってさ」

 慎二は間を空けずに嫌味を口にしてくる。

 その嫌味に少し耳を傾けるだけで、簡単に苛立ちが発生する。

「でも本戦からは実力勝負だから、勘違いしたままは良くないぜ?」

 彼と殺しあう、という現実と苛立ちが混在する。

 このまま彼の弁を聞いていると壊れてしまいそうで、とにかくここから立ち去ろうとする。

「あれ? 恐れをなした? まぁいいや。精々、正々堂々戦おうじゃないか。大丈夫、結構いい勝負になると思うぜ? 君だって選ばれたマスターなんだから」

 それを追いかけるような相変わらずの慎二の言葉を、これ以上聞きたくなかった。

 逃げるように個室に入り、椅子にもたれ掛かる。

「っ、はぁ……!」

 殺しあいという現実的な恐怖、友人と戦わなければならないという焦り、戦う決意を固めることができないという悩み、それらが生む苛立ち。

 どうすればいいのか分からない。

 メルトが傍に実体化する。

「……一回戦から、あいつなの? ……忌々しい」

 小声で何か聞こえた気がする。

 それに、メルトは今……

「メルト、慎二の事知ってるのか?」

「えぇ……少し、ね。それよりハク、戦う意思がないならさっさと死になさい」

 メルトから発せられた言葉は、非情なものだった。

 だが、それはこのままなら迎えてしまう結末だ。

 戦意がなければこの一回戦にでも僕は死ぬ。

 この一回戦、猶予期間はたったの一週間だ。

 決意を固めなければ、一週間後には死んでしまうのだから、悪あがきをせずに今の内に死ね。

 そう言っているのだ。

「……メルト」

 メルトはただ待っている。

 僕の答えを。

「まだ、決意を固めることはできない。でも、死にたくない」

「……」

「生きるために誰かを殺すのは、やっても良い事かな?」

「どんな生き物でも、他の命を取らないと生きていけないわ。それに同情するかどうかはその人の考え次第だけど」

 メルトは答えを出すつもりはない。

 元から彼女は、僕が戦うならば戦う、という考えを持っている。

 だから、この戦いにおいて、考えを出さなければならないのは僕だけだ。

「ただ、相手がワ……シンジだとしても、曖昧な気持ちで殺すならそれは命に対する冒涜よ」

「……うん、だけど」

「分かっているわ。猶予期間は始まったばかり。決戦までに考えを固めなさい」

 問題の先送りにすぎない。

 だけどメルトはそれを是としてくれた。

 メルトが期待してくれるなら、それに応えなければならない。

 だから頑張ろう。

 今、出来る限りの事を。

「アリーナに行こう。まずは強くならなきゃ」

「分かったわ。行きましょ、ハク」

 

 

 +

 

 

 学校を模倣(デザイン)したSE.RA.PHの屋上に、私は立っていた。

 勿論、何もしていないワケじゃない。

 この聖杯戦争における最大の敵――レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイの対抗策を練っているのだ。

 彼は自身の実力もさることながら、サーヴァントもかなりの強者だ。

 何せ聖剣の担い手。一筋縄ではいかないだろう。

 彼のサーヴァント、そのスキルは、正直異常ともいえる。

 初対面で真名を名乗らせるという行動は、彼の自信の表れだろうか。

 幸か不幸か、彼のサーヴァントは世界的に有名な英雄だ。

 その逸話を知ることは難しくはなかったが、有名な分、実力のあるマスターについたサーヴァントはステータスが極限まで引き上げられるだろう。

 あのサーヴァントは、レオについている限り逸話本来の強力な力を存分に発揮できる。

 正直――今の力ではレオには勝てない。

 一回戦で当たらなかったのは幸いだ。

 せめて私のサーヴァントが万全の状態になってからではないと、恐らく勝負にすらならないだろう。

「悔しいけど、出来れば終盤まで当たらないで欲しいわね……」

 思わず零れた呟きに、返す言葉が一つ。

「時間が経てば彼らも力をつける。オレは今の内に倒した方が良いと思うが……」

「無理よ。スペックは勝ってるとはいえ、まだ足りないわ。アンタは鎧を一部位でも多く取り戻す!」

 何故か分からないけど、私のサーヴァントは不完全な状態で召喚された。

 宝具の類は計四つ。だが、その内二つが全く機能していない状態だった。

 そのうち一つ――黄金の鎧についてはとりあえず昨日、アリーナでひたすら戦ったことでその一部を取り戻した。

 とはいえ、左肩だけでは話にならない。

 完全な状態にならないと、レオに勝つ事は難しいだろう。

 残る一つは、その宝具から派生するものだ。

 つまり、まずは鎧を取り戻さないと私のサーヴァントは十全な力を発揮できない。

「痛いところを突いてくれる。だが、何故鎧が無いのか、それはオレにも分からん。召喚が不完全だったのではないか?」

「召喚したのはムーンセルでしょ! まったく、何はともあれ、アリーナに向かうわよ。さっさと鎧を完全なものにしないと!」

「リン、何故気が立っている? 戦闘に差し支えるぞ」

「アンタのせいでしょ! バカランサー!」

 非常に率直、あらゆる虚偽を捨て去るランサーの言葉は、怒りを買いやすいものだ。

 彼が誠実な英雄だということは知っている。

 だが、彼の解釈と性格は、ある意味はた迷惑なものなのだ。

 鎧が無いことを良しと、自己完結してしまっている。

 今のところは、性能的にも性格的にも、決してアタリサーヴァントとは言い難いけど、本来の力が出せればレオのサーヴァントにも劣らない英雄だ。

「情緒不安定なマスターだ。幸先が不安だな」

「だー、もう! 全、部! ア、ン、タ、が! 原因なの!」

 訂正、今のところは、とんでもないハズレサーヴァント。本来の力が出ても多分性格的にはハズレサーヴァントだ。

 レオと戦う前の大前提として、私はまずこのランサーを上手く扱う術を考えなくてはならなくなった。




兄貴じゃ在り来たりだと思った。
本来の力を出して欲しかった。
後悔はしていない。
公開はしている。

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