Fate/Meltout   作:けっぺん

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決戦回。
最近ポケモン熱が再発してきたせいで執筆速度が遅れ気味です←
仕方ないじゃない、グラエナ可愛いんだもん。


三十三話『運命の決戦』

 

 勢いをつけた斬撃を紙一重で躱す。

 やはり白羽さんは、メルトに対しての対策を行ってきていた。

 力任せではなく、隙の少ない攻撃でメルトの行動範囲を狭めていき、逃げ場の無くなった相手に大きな一撃を与える。

 それは、三回戦の決戦の日、スクリーンで見たラニの戦法に良く似ていた。

 あの映像を見ていたメルトだからこそ、それを寸でのところで回避が叶ったのだろう。

「ちぇっ、避けるの中々上手! なら――」

 白羽さんが術式を組み上げていく。

 だが、僕もコードについて何の練習もしていなかったわけではない。

hack(16)(改変)!」

jammer(32)(妨害)!」

 完成した白羽さんの術式に、妨害のコードを打ち込む。

「きゃっ!?」

 敵サーヴァントに対してのハッキングコードは、妨害を受けて崩壊した。

 リップとメルトの戦力は五分五分、ならば白羽さんの補助は極力防いだほうが良い。

 白羽さんが怯んでいる隙に、素早く補助のコードを組む。

「メルト、サポートする! gain_agi(16)(敏捷強化)!」

 リップとの速度の差を引き離すことで、より決定打を与えやすくなるだろう。

 筋力強化のコードも打ち込みたいところだが、それを易々とさせてくれる訳でもない。

「白斗君!」

「っ!」

 咄嗟に首を動かす。

 弾丸が頬を掠め、決戦場の彼方に消えていく。

 此方に手を向ける白羽さんに対し、僕も構える。

 弾丸のコード。一回戦から使ってきた故に、少しずつ強化されたそれは最初に比べて桁違いのものにまで昇華している。

 放った弾丸が白羽さんのものとぶつかり、爆散する。

「くっ……」

 若干威力は劣っているか。

 真正面からの撃ち合いでは分が悪い。

 身体強化のコードを発動させ、走りながら弾丸を放つ。

 リップとメルトの戦いと同じように、力と速度の競い合いとなるのは必然的な結果だった。

 結局のところ、マスター同士の撃ち合いはあまり意味を成さない。

 精々、現在の様にサーヴァント同士の戦闘に介入されないように気を引くくらいか。

 両サーヴァントの力が互角の場合、補助に放たれるコードキャスト一つ一つが戦局に大きく関わる。

 先ほどの敏捷強化のコードは、地味ながらも確かな効果を発揮するはずだ。

「し……白羽、さん……!」

「余所見してる場合があるのかしら?」

 二人の戦況は、やはりメルトに分があった。

 最初は互角ながら、リップに勝る速度で地道に攻撃を続けた結果が、リップの消耗というかたちで少しずつ現れていた。

 いける――このままなら。

「ちょっ、タンマ……!」

 真剣勝負、手を止める訳には行かない。

 弾丸の連射で白羽さんを食い止める。

 回復のコードを使わせる前に、決着を――

「――白羽さ、ん……良いですか?」

「……うん、良いよ。使おうか」

 怖気が走る。

 何か良くない事を察し、咄嗟に叫ぶ。

「メルト、下がれ!」

 しかし、メルトはひたすら攻撃を繰り返し、下がる様子が無い。

 リップの被虐体質と、メルトの加虐体質の相乗効果。

 自身以外の全てを相手の視界から消し去るリップ、戦闘が長引くにつれ傷つける相手以外が見えなくなるメルト。

 二つの相性、ひたすらに攻め続けるメルトが優勢だと見えるのは外面だけ。

 この有利にみえる戦局は、メルトも僕も知りえない間にリップと白羽さんが有利な状況へと変わっていく。

 必殺の一撃を決めるための、見せ掛けの不利。

「っ、メルト!」

「もう我慢しない――」

 両の手で打ち払われ、決定的な隙を作るメルト。

「メ――」

「させないよ!」

 補助をしようと伸ばした手に、鋭い衝撃が走る。

 ピンチの陥ったサーヴァントの補助を妨害し、確実に攻撃を与える――先ほどの僕が行おうとした戦法。

 王女(サロメ)は微笑み、愛する者(ヨナカーン)の斬首を命じるが如く。

「消えてっ!」

 処刑の大鎌たる爪は、狩るべき獲物の首へと迫る。

 ようやく自身の状況に気付くメルトだが、最早彼女の速度を以てしても回避は不可能。

 コードキャスト、間に合わ――

 

 鮮血。

 

「ッ――ぁ――!」

 敏捷強化が功を奏したか。

 咄嗟の回避は、何とか致命傷を免れた。

 しかし肩から胸、横腹までを斜めに一閃、瞬間的な筋力の増強を受けたリップの斬撃は、明らかに重傷の域を超えていた。

「あっちゃー、駄目だったかー」

「メルト、回復を!」

 回復のコードを使用するも、ほとんど効果をなさない。

 素人の魔術ではここまで深い傷を治癒する事ができない。

 慎二程の腕が、ダンさん程の経験が、ありす程の魔力があれば、回復が敵っただろうか。

「メルト、大丈夫!?」

「……ハ……ク、大丈……夫、まだ、行けるわ……」

 コードを使用し続けるも、メルトの傷が塞がる見込みはない。

 どうするか、このままでは戦闘は不可能。

 このまま負けるしかないのか。

 何か逆転――せめてメルトの傷を治す一手は……

「ハク……リップの動き、止められる?」

「……え?」

「傷を治さな、いと……勝負にならないわ……だから……」

 そうか、メルトには相手の魔力を吸収して自身の傷を癒す技がある。

 臓腑を灼くセイレーン。

 二回戦、アーチャーとの戦いで毒矢に蝕まれた体を治癒させた技。

 リップに使用する事で、この傷を塞ぐことができる。

「分かった。やってみる」

「頼む、わよ……」

 とはいえ、どうするべきか。

 白羽さんとリップも合流し、何かを話し合っている。

 更に此方を追い詰める算段だろうか。

 何かまた別の戦法を用意してある可能性は十分にありえる。

 弾丸、駄目だ。威力は白羽さんが上回っている以上、リップに当てるのは不可能と思って良い。

 身体強化でどうにかする、あの爪のリーチに自ら突っ込むと? それに、隙を作れるような一撃を与える事が出来る訳がない。

 ならどうするか、彼女らに悟られないよう、リップの隙を作る戦法。

 一か八か、試してみる価値のあるものはある。

 だが、作れる隙は僅か。それを生かす為にはメルトを突っ込ませる必要がある。

 失敗すれば、あの爪を受けきるのは今のメルトには不可能。

 即ち、死に直結する。

 戦法に白羽さんが勘付く可能性もある。

 ここ一番に行う賭けとしては、かなり分が悪い。

 しかし、これ以外に今の状況を覆す戦法は思いつかない。

 やってみる、しかない。

「メルト――」

 コードを組みながら、呟く。

「走れ!」

 傷ついた体に鞭を打つ指示だが、道が無い以上仕方ない。

 苦笑したメルトは、リップに向かい走る。

 金属が地面に打ち付けられる音と共にリップとの幅が縮まり、当然それにリップは構え、白羽さんもコードを組む。

 ここまでは予想通り。

 素早くコードを組み上げ、それを発動させる。

「学習力は、ないのかなっ!?」

 此方のコードを妨害するべく、白羽さんの弾丸は此方に襲い掛かる。

 ――作戦通り。

 これを成功させるには、白羽さんが此方に集中してくれる事が必須。

 使うコードは、防御。

shield_mgi(16)(防御)!」

 展開した盾が弾丸を受け止める。

 複数展開――白羽さんは気付かない。

 リップが腕の前に展開させた盾に。

「ひゃっ!?」

 今までと違い損傷しているメルトの速度は遅い。

 リップの性格からして素早く対応する必要もないと感じるだろうという考えは的中した。

 その腕は盾に引っ掛かり、予想外の出来事への驚愕で動きは制限される。

 そしてそこに叩き込まれる一撃を、回避することは出来ない。

臓腑を灼くセイレーン(ピケ・エトワール)!」

「う、ぁ……っ!」

 倒れこむリップから一旦離れ、此方に戻ってくるメルト。

 その傷は完治とまではいかないまでも、戦闘は十分可能なくらいまで回復していた。

 更にリップには手痛い一撃を与え、戦況を僅かにでも動かすことには成功したと言えるだろう。

「リップ、大丈夫!?」

「は……はい」

 回復のコードを掛けられ、再び立ち上がるリップ。

 これで損傷は同等か。

「メルト、もう無茶はしないで。引き際も考えながら戦おう」

「えぇ……ごめんなさい、ハク」

「大丈夫。絶対勝つよ」

 白羽さんとリップも戦闘の構えを取る。

「やっぱり手強いね……」

「はい……で、でも、負けません!」

「その調子。頑張るよ」

 戦闘は第二局面。

 お互いの戦力はほとんど見せ合い、後はそのぶつかりあい。

 その開幕はお互いの弾丸。

 相殺された二つを始動として、両のサーヴァントが踏み出す。

 金属の爪と金属の脚が打ち合い、甲高い音が決戦場に響き渡る。

 何度かぶつかった後、メルトは一旦後ろに下がって構えなおし、再びリップに向かう。

 所謂ヒットアンドアウェイの戦法は、予め指示しておく事でメルトのスキルを発動させない手段となる。

 今回の様に、相手にも精神を束縛するスキルがある状態では、この戦法は有効といえよう。

「考えてきたね。メルトちゃんの事だから突っ込みっぱなしだと思ってたけど」

「それを見越してのそっちの作戦でしょ?」

 サーヴァント達とは別に、撃ち合うマスター(ぼくたち)

 相変わらず威力は劣っているが、速度で勝る以上戦い方次第で有利に立ち回る事もできる。

 今のメルトの様に、少しずつ優勢に変わっていく。

「っ、くっ!」

 白羽さんの表情に焦りの色が見え始める。

 ようやく、勝ち筋が見えてきた。

 メルトも、我を失う事無く定期的に後退を交え、冷静にリップと戦えている。

 このまま攻め続ければ、いけるか。

「リップ、あれを使うよ!」

「は、はい!」

 白羽さんが叫ぶ。

 何を始めるつもりだろうか。

gain(解放)_trash(トラッシュ)&crash(クラッシュ)!」

 何重にも連なる難解なコード。

 下手な魔術師には到底扱えないような、いや、寧ろ魔術として測定可能な範囲の埒外に当たるかもしれない。

「ハク!」

 メルトが戻ってくる。

 僕の前に立ち、リップ達を警戒している。

「あの術式、id_esの解放ね。宝具が来るわよ」

「宝具……分かった」

 id_esの解放、そんな事が可能なのか。

 あれが本気なのだとしたら、スキル『トラッシュ&クラッシュ』を使用してくる。

 しかし、その強力なスキルを封じる策が此方にはある。

 懐に仕舞っていた礼装。

 ラニが用意してくれた『オシリスの砂塵』だ。

 体への干渉を防ぎ、身を護る礼装。

 念のため用意してもらったそれが本当に役に立つとは。

「気をつけて。あの宝具、能力だけじゃない、威力もかなりのものよ」

「一応耐久強化のコードを使っておこうか」

 メルトの耐久を強化させ、念のため回復のコードも唱える。

 そして、礼装に魔力を注ぎ、一度限りのその能力を解放する。

 辺りに砂が舞い上がり、僕らを防護するように包み込む。

「さぁ、来るわよ!」

 腕を振りかざすリップ。

 白羽さんは、勝利を確信して笑みを浮かべている。

「そろそろお別れ、まさか奥の手を使う事になるとは思わなかったけど」

 素人でも分かる。

 リップの腕に溜まる、尋常ではない魔力。

 正しくそれは宝具の予兆、敗北の兆し。

 だが、メルトがいてくれれば大丈夫、そんな気がする。

 それを確信するのが、マスターである僕の役目。

「リップ、GO!」

「ごめんなさい、ハクトさん。ごめん――なさいっ!」

 その金属の腕は、膨大な魔力を爆発させて僕らに襲い掛かる。

 超高速で飛び回り、決戦場を蹂躙するそれは鉄球の重さにして槍の鋭さ。

 宝具たる名前の元となった戦女神、ブリュンヒルデの槍の舞。

「っ!」

 僕は避けるのが精一杯で、メルトにまで目が行かないが、何とか避けれているようだ。

 だが完璧、とまではいかない。

 かすり傷は身体中に無数、それら一つ一つが鈍い痛みを放っている。

 それはきっとメルトも同じ筈、彼女が頑張っている以上、マスターである僕がこんなに早く倒れる訳にはいかない。

 魔力を放出しながら飛ぶ拳の弾道は直線ながら、標的を通り過ぎると大きく曲がり、再び戻ってくる。

 逃げ場を無くすのではなく、始めから確かな攻撃力を以て襲いくる連続攻撃。

 やろうと思えばこれで標的を仕留める事も十分に可能。

 ながら回避が敵うのは、消耗により確実に相手を倒すためか。

 立つのも辛い程に、体が悲鳴を上げる。

 動くたびに苛む激痛に意識が遠のきそうになるが、それを必死で堪える。

 これがリップの宝具の本領である筈がない。

 余興で倒れてしまっては、それこそ話にならない。

 ここで意識を手放してしまっては、次に目を覚ます事はない。

 駄目だ、勝ち残るんだ。絶対に。

「敵だから、仕方無いんです。ハクトさん、これから一生、潰れた箱の中で生きてください。私だけの、キューブになって……」

 リップの元に戻った腕は此方を捉えている。

 凄まじい重圧、何かが自分を押さえつけ、潰していくかのような。

「メルトも潰れて。今度も駄目なら次がある。きっと――私は次こそ愛を得られる。邪魔を、しないで」

「っ……」

 最後の一撃、これを凌げば、きっと勝機は見える。

 これがリップが持つid_es、トラッシュ&クラッシュの本当の力。

死がふたりを分断つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア)!」

 両の手が握られた瞬間、掛かる圧力は頂点に達する。

 体の内部から潰されていく感覚が思考の全てを埋め尽くす。

 覆っていた砂が輝きを放ち、パッションリップの干渉を断つ。

 次の瞬間、自分はその場に何事も無く立っており、疲労して腕を下ろしたリップの姿を見据えた。




メルトウイルスの解放は無いものと思ってください。
ついでに解放コードの使用MPは600くらいじゃないかなと思ってます。

ちなみに私のグラエナは威嚇とバークアウトを使った両受け。
怒りの前歯で地道に削っていく健気な子です。

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