Fate/Meltout   作:けっぺん

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執筆に集中しなかった結果がこれだよ!
お久しぶりです。失踪してません。

そんな訳で、章末短編になります。
言うなれば最後の短編更新となるGO編、そのプロローグみたいな形。
月の住人の新たな戦い、それがどんな風に始まるのか、といったところです。
それと出張講義。最後となる今回は外典勢の四人です。どうぞ。


Last chapter/ground.

 

『Fate/Meltout After -Loading Grand Order-』

 

 

 記憶は幽かに。記録は確かに。

 

 されど名前は忘れることなく。されど文字列は遥か底。

 

 二つが同列になるとき――

 

 物語は、再び始まる。

 

 

「どうなさいますか?」

「どうもこうも。選択など一つしかないでしょう」

 立ち上がる。準備をしている暇などない。

 遥か昔とはいえど、あれほど鮮烈な思い出を忘れよう筈もない。

 かつて、激動があった。

 今の自分を形成するのに、なくてはならない、たった数十日の戦い。

 血沸く感覚は今でも心に刻まれている。此度の件は、それを再び呼び起こすものになろう。

 それに、旧友の懇願だ。

「直近の仕事は全てキャンセル、ないし代理をつけてください」

「かしこまりました」

 如何なる理由も、この懇願の上は行くまい。

 成すべきことを成す――ならば、これが僕のすべきことだ。

 

『レオナルド・B・ハーウェイ様――』

『適正サーヴァント自動取得:クラス・セイバー』

 

 

「さて、と……」

 その日が終わると同時にやってきた『それ』に目を向ける。

 どうしたものか。缶コーヒーを飲みつつ、考える。

 安物で味も悪いそれはしかし、目を覚ますのには丁度いい。

 強い苦みに眉を寄せる。もしかするとそれは、苦みだけのせいではないのかもしれないけど。

「ええ。分かってるわ。信頼してくれるって。だけどね……」

 だからといって、今更こんなものを寄越してきてはいそうですかとすぐに頷くことも出来ない。

「十年よ、十年。現役退いて久しいっての。それに、最初に寄越してきたメールがこれってどういうことよ」

 いきなり赤紙染みた招集を掛けてきたと思えば、世界の危機だの何だのと。

 本音を言うならば――

「――ふざけないでよ」

 

『遠坂 凛様――』

『適正サーヴァント自動取得:クラス・キャスター』

 

 

「これは……」

「はい。寧ろ、僥倖です」

 私たちにとって、それはまさに希望だった。

 オルガマリー所長が遠出している今、私たちが出るほかない。

 所長には申し訳ないが、これは何があろうとも私たちが行かなければならないことなのだ。

「休暇届を出してくる。準備をしてて」

「分かりました」

 部屋を出ていくのを見届ける。気付けば私は、口元に笑みが浮かんでいた。

 勿論、笑っていられるような状況でないことは分かっている。

 だけど、遂に悲願が叶うのだ。

 彼に今一度、会うことが出来るのだ。

「――すぐに行きます、ハクトさん」

 

『ハクト・エルトナム様――』

『適正サーヴァント自動取得:クラス・ルーラー』

 

『ラニ・エルトナム・レイアトラシア様――』

『適正サーヴァント自動取得:クラス・バーサーカー』

 

 

 それを見てからの行動は、我ながら早かった。

 望んでいたこと、百パーセントではないけれど。

 それでもずっと抱いてきた望みの達成が間近に迫っているのだ。

「――よし」

 既に準備は終えた。

 ロードを待っている余裕はない。

 今すぐにでも、と体は飛び出そうとする。

 ああ、行こう。ずっと、ずっと目標にしてきた、遥か遠くの世界の友のために。

「まあ、僕が必要だっていうなら? ――やってやらないこともないよ」

 決して笑ってなどいられない。この世界の危機どころの話ではないのだ。

 これまで築いてきた人類史も、これから歩んでいく未来も。

 そして、彼ら彼女らのいる並行世界も。

 

『間桐 慎二様――』

『適正サーヴァント自動取得:クラス・ライダー』

 

 

「なるほど。そういうことならば」

『バゼット・フラガ・マクレミッツ様――』

『適正サーヴァント自動取得:クラス・ランサー』

 

「……とんだ依頼だな。そりゃまあ、見過ごせることじゃないが」

『獅子劫 界離様――』

『適正サーヴァント自動取得:クラス・アーチャー』

 

「……俺の舞台。俺の、神話……」

『ジュリアン・エインズワース様――』

『適正サーヴァント自動取得:クラス・バーサーカー』

 

「では――行きましょうか」

『シロウ・コトミネ様――』

『適正サーヴァント自動取得:クラス・アサシン』

 

「……」

『坂神 一人様――』

『適正サーヴァント自動取得:クラス・セイバー』

 

 

「……ふーん。そっかあ」

 ボクには関係のない話だと最初は思ったけれど、よくよく考えてみればそうでもないかもしれない。

 未来が存在するという確証がなくなる……つまりは、突然世界が終焉を迎える可能性も生まれてしまうってこと。

 ぶっちゃけ、意味が分からない。

 月がそんな役割をしてるってことさえ知らなかった。でも――納得は出来る。

 要するに(ムーンセル)ってのは過去も未来もお任せあれな百科事典。

 だからこそボクは、あの時あんなことが出来たのだ。

「まあ、月に人がいるなんて知らなかったけどさ」

 ともかく、この事件ってのはあまりにも危なっかしいもので。

 きっと、()()()()にも影響があるものなのだろう。

 向こうも危ないのだとしたら、ボクが動かないという選択肢はなくなる。

 そう――うん、そう。それが一番の理由だ。

 ここまで来た意味がなくなってしまったんじゃ、あの戦いで出会ったあらゆる人に面目が立たないじゃないか。

 それに、すっごく楽しそう。

 人類史を巡る冒険。それはかつてボクが繰り広げた武勇譚よりも壮大で、かつてボクが経験した運命の激戦よりも激しいのだろう。

「――よし! 行こう! おうい! 手を貸してあげるよ、名前も知らない月の人!」

 かつて赴いた月に手を振る。あまりにもキレイな満月に。

 月には恩がなくもない。大事な親友を助けてもらったんだから、これがその恩返し。

 これも旅の、また一端になるのだ。

 

『アストルフォ・フォルヴェッジ様――』

『適正サーヴァント、取得に失敗しました』

 

 

 +

 

 

「四十八人のうち……何人、来てくれるかしら」

「分からない。全員来ても、どうにもならないかもしれない」

 事は深刻、この上なかった。

「――やっぱり、無理。二千回は再観測しなおしたけど、『一秒後』すら観測できないよ」

 当たり前のように、一秒後は訪れる。

 こうしている間にも、何度も何度も一秒は経過し、過ぎていく。

 だというのに。

『カテゴリー:未来

 記述は存在しません。』

 「未来」が消えた。見える筈のこれより先が、見えなくなった。

 ここまで再観測を繰り返し、同時に原因を探って――判ったのは、後者のみ。

 ――八つの時代。

 人類が歩んできた歴史。無数に存在する事象の八つが、ノイズが掛かったように閲覧できなくなっている。

 確認できるのは、断片的かつ曖昧な情報のみ。

 一つ――理想と希望。そして確約。

 二つ――覇道と憧憬。そして絆。

 三つ――栄華と享楽。そして幸福。

 四つ――焦土と反骨。そして信頼。

 五つ――誇りと夢路。そして星。

 六つ――達成と繁栄。そして基盤。

 七つ――死と始まり。そして破滅。

 八つ――奇跡と永遠。そして果て。

 これらが果たして何を示しているのかは、まだ掴めない。

 これ以上深部に行けないならば、詳細はその時代に「これから起こる」変化を観測しないとならないのだ。

 ゆえにこそ、そこへ誰かが行かなければならない。その時代にはいない、その時代の異変を修正しうる存在が。

 この問題は全ての並行世界の未来にとっての危機だ。

 当たり前の明日を、当たり前の一秒後を迎えるために、貴方たちの力を貸してほしい――そう、世界中の優秀な魔術師に要請をした。

 何人かは、きっと力を貸してくれる。希望ではあるのだが、確信を持っているところもあった。

 だが――それでも、解決できるかどうかという問題だ。

「本当に、行くんですか?」

「行くしかない。すぐにでも。未来が確約されてない以上、“いつ終わってしまうか”分からないから」

 こうしている一秒後にでも観測すべき場所が無くなってしまう可能性もある。

 行動は迅速に。準備は既に終えている。

「カレン。仕度は出来た?」

「はい。今しがた、該当英霊より召喚許諾を受けました。地上に降りれば召喚が可能でしょう」

「そう……本当は反対なのだけど」

「火急の事態です。それに、何かあれば――お父さまとお母さまがまた、再構成してくれると信じてます」

「――カレン」

 此方に歩んできた、自発的に事態への対策を講じていたカレンは当たり前のように無視できない信頼を寄せてきた。

 普段より低いメルトの声。心配。不安。怒り。それらの綯交ぜになった、紛れもないメルトの叱責。

 しかしカレンは気にした様子もない。

 メルトの()()怒り方は非常ながら、カレンの様子はまったくもっていつも通りだった。

「……そうならないために、細心の注意を払おう。危険性がどれほどのものか分からないから、猶更だ」

「そうよ。……言っておくけれど、カレン。貴女の言う“何か”があれば、本気で怒るわよ」

「分かってます。というよりお母さま、もう怒ってます?」

「それも最初から分かっててほしいわ」

 呆れたように溜息を吐いたメルト。

 説教を諦めた様子だが、それが察せないカレンでもない。

「でも、気を付けます。わたしも叱られるのは嫌ですから。ね、お父さま」

「はは……そうだね。だから無理はしないようにね、カレン」

「ちょっと二人とも、何が言いたいのよ」

「メルトちゃんが怖いってことじゃない?」

「正解です。流石はシラハですね」

「三人とも、コレ終わったら覚えておきなさい」

 恐ろしい宣告は冗談と思いたいが、多分本気なのだろう。

 仕方ない。それは覚悟するとして、今はそれより前のことに目を向けねば。

「じゃあ、後は任せたよ――白羽」

「うん。頑張って、白斗君。本当は私も付いて行きたいんだけど――」

「何があるか分からないわ。サーヴァントもそうだけど、信頼できるマスターも(こっち)にいないと」

「そうだよね……それに、ちゃんとナビゲーターもしないと。まあそれは桜ちゃんがいるけどさ」

「はい。私も最善を尽くしますが、それでもシラハさんの力は必要なんですよ?」

 今から行うことは、この月の世界における禁忌の中の禁忌にして、例外の中の例外。

 それでいて、僕たちがずっと目指していたことでもある。

 

 ――事の始まりは、十年前。

 今では既に月から記述の消え去った、とある記録が発端となった事件。

 月の例外処理(CCC)

 多くの友やサーヴァントの協力もあって、壮絶な戦いの果てに事件は収束した。

 アレが終わって少しした後、月の世界で、とある目標が生まれた。

 ――――地上への進出。

 地上の誰かが月を目指すのと同じように、僕たちも地上を目指す。

 幾度となく失敗を繰り返して。少しずつ、一歩ずつ進んでいって。

 時の経過は十年。少し前に完成したシステムが二つある。

 時空記述干渉システム・ローズマリー。

 英霊装填召喚システム・サクラ・ノート。

 前者は、僕たちの悲願。

 ローズマリーはムーンセルの記述に追記という形で干渉することで、地上への出現を可能とするシステム。

 現在、及び未来の記述。いる筈のない僕たちの存在を書き込み、“そこに在った”という結果を生む。

 それが、想定していた使用法。しかし今回は、それとは異なる方法によって地上に降りる。

 降りる時代は過去。過去の事象に介入するには現代や未来の変動しうる記述に干渉するのでは駄目だ。

 追記すべきは、既に記述の確定した過去。

 危険なことだ。

 過去に介入するだけで発生する矛盾。当然ながらそれを放置していれば、例え小さな影響だろうと未来における大きな誤差となりかねない。

 未来の誤差(バタフライエフェクト)はムーンセルの、他の確定した記述の誤りを証明する要因となる。

 連続して入る記述修正でムーンセルに掛かる負荷は凄まじいことになろう。

 矛盾が修正しきれないまでに拡大すれば、どうなるかも分からない。

 そうなる前にそれぞれの時代の問題を解決するには、長居は出来ない。

 あまりにも困難であると考えたが――打開策になるかもしれないのが、後者のシステム。

 サクラ・ノートはローズマリーの応用。異変の発生を感知してからローズマリーのノウハウを利用して組み上げたもの。

 同じく時代への記述の追記という形で、月における英霊召喚を疑似的に可能とするものだ。

 英霊は非常に強力な切り札となる。

 十年前の事件も、彼らがいなければ解決など叶わなかった。

 しかし、このシステムを起用するのは相応のリスクが必要だ。

 英霊がいれば、矛盾は更に加速する。

 加えて、世界各地の魔術師にも助力を依頼する。矛盾の加速というリスクを負ってでも、迅速な解決が優先される。

 ムーンセルの負荷を考えれば、地上に降りていられる日数は、それぞれの時代で四日間。

 たった四日で、物事を解決しなければならない。

 解決のためのリスクは大きすぎる。だが、解決しなければ未来の存在を証明できない。

 ムーンセルの持つ観測者の側面からして、それはあってはならないことなのだ。

 願望の成就ではなく使命によって、初めて地上を踏みしめる。

 ああ――ある意味では、僕たちらしいと言えるかもしれない。

 

「ローズマリー、起動確認しました。異常発生地点・項目A、追記開始します」

「三人とも、本当に気を付けてください。リカバリーの準備は万端ですが、何かあって、必ずしも修復できる保障はないですよ」

「ああ、分かってる。だからこそ、その準備が必要にならないよう努めるよ」

 初めてこの目に焼き付ける景色がそこにある。

 初めて触れる空気がそこにある。

 そう思えば、心は躍る。だが、此度は旅行に出向く訳ではない。

 今から歩み始めるは――未来を取り戻す物語。

 何が起きたのかを解き明かし。

 或いはそれを叩き壊し。

 当たり前に訪れる――訪れなければならない一秒後を、一分後を。――明日を、確約する。

「始めるよ。メルト、カレン」

「ええ――行くわ」

「頑張りましょう。お父さま、お母さま」

 

 ――これは、道程の終わりにして、新たなる道程の始まり。

 僕たちの最後の戦い。その、最初の一ページ。

 

「全工程、クリア――時空干渉、開始」

 

 

『アンデル先生出張講義 サーヴァントの事聞いてみた』

 

「さて、読者諸君、毎度お馴染みアンデルセンだ。これにて最終講義となる。

 この講義ではサーヴァントについて綴る。予めここにFate/EXTRA materialがある。真名は分かっているぞ。

 初めに言っておくがこれはFate/EXTRA CCCで俺が章毎に語るアレほど掘り下げていない。

 まぁそれは作者の頭とかメタ的理由だが。文句や抗議は作者宛に送りつけてほしい。

 ……最後までこのテンプレは変わらないな。最後の題目は以下の通りだ」

 

・セイバー(黒)

・アーチャー(緑)

・バーサーカー(白)

・アサシン(黒)

 

「所謂外典勢だ。さあ、やっていくぞ」

 

『セイバー ~請われるままに栄誉を束ねた正義の味方~』

「最初は敵として、後半はユリウス・B・ハーウェイと契約したサーヴァントだ。

 真名はジークフリート。ドイツの叙事詩『ニーベルンゲンの歌』に登場する大英雄だな。

 ネーデルランドの竜殺しで、名剣バルムンクを担い魔竜ファヴニールを打ち倒しその血を浴びて不死を得た。

 その唯一の弱点は菩提樹の葉によって竜の血が防がれた背中。

 多くの栄光を手にした彼は、ブルグントの王グンターとさる国の女王ブリュンヒルデの婚姻を手伝った褒美としてグンターの妹クリームヒルトを嫁に迎え入れる。

 しかしこれこそが破滅の引き金となる。ブリュンヒルデとクリームヒルトの、どちらの夫が優れているかなどという馬鹿げた言い争い。

 この際のクリームヒルトによるブリュンヒルデの侮辱に激怒したブルグントの臣下たちによって計画されたジークフリートの暗殺。

 それを知っていながら、ジークフリートは受け入れた。

 ジークフリートは朋友たるグンターの重臣ハーゲンに告げる。自身を殺せと。それで丸く収まると。

 ハーゲンの投槍は背から心臓を貫き、ジークフリートの英雄譚は終わった。

 この後クリームヒルトによる凄惨なる復讐劇が繰り広げられるが――まあ、その話は良いだろう。

 ――ああ、ちなみに、この叙事詩に登場するブリュンヒルデはパッションリップに構成された女神……蒼銀のフラグメンツに登場するブリュンヒルデとは別人だ。

 英雄ジークフリートの起源は北欧神話における女神ブリュンヒルデの夫シグルドと同一だが、こうしたところで相違点が現れているな」

 

ハク「先生、彼はどんな英雄なんですか?」

 

「生前は極限まで己を殺した無情の願望器。求められれば応じ、求められなければ応じない。

 ずっと、その人生を求められた幸福のために費やしたジークフリートは、故にこそ死の淵で願望を得た。

 即ち、正義の味方。善悪を己で判断し、己の正義のために剣を執り、それに殉ずる。

 これは決して、誰にでも出来ることではないが、誰にでも簡単に抱ける願望(ゆめ)だ。

 一度命を終えるまで、ジークフリートはここに至ることすらできなかった。

 ジークフリートという英雄を成立させた『ニーベルンゲンの歌』では彼の武勇譚が語られる。

 本来ならば生前のみで英霊の物語は確立されて終わりだが、ジークフリートには『その後』がある。

 英霊となってから、あって当然の初めての望みがために戦場を駆ける――正義を得るための成長譚だ。

 ジークフリートは確かに英雄だ。しかしより完成された英雄になるための、な」

 

ジークフリート「ふむ。間違ってはいないが、俺は自分の願望を通そうとしたのであって、完成せんとした訳では……」

 

「分かっているさ。しかし己の存在しない英霊などそうはいないだろう。

 主のために全てを捧げ、一切の反論もない英霊はいようが、そうしたものに信念がない訳ではない。

 その信念――剣を持つ理由を得る最中な英霊、それがお前だ。

 一度召喚されて、その戦いが終わって――それでようやく、ジークフリートは真の意味で完成される。

 他者の欲望に生きた英雄が、死後になって己の正義がために戦う。

 良いじゃないか。そんな話はいくらでもありそうだが、だからこその大英雄の物語と言えるだろう。

 どうだった、不死の竜殺し。此度の召喚、お前の納得いく形に終わったか?」

 

ジークフリート「そう、だな。少なくとも、答えは得た。これは満足というものなのだろう」

 

「満点とは言えないが、及第点といったところだろうか。

 これより先に呼ばれる未来があるならば、それは良い物語になるだろうよ」

 

 

『アーチャー ~獣の如く獰猛に森を駆ける純潔の狩人~』

「物語後半、サーヴァントのいない臥藤 門司と契約したサーヴァント。

 真名はアタランテ。ギリシャ神話の一端で語られる最速の狩人だ。

 かの理想郷アルカディアの王女として生まれながらも、王に求められたのは男児だった。

 生まれて間もなく山に捨てられたアタランテは、月女神アルテミスの遣わした雌熊に育てられることになる。

 このことからアタランテはアルテミスを深く信仰し、純潔を誓い狩人として生きることを選んだ。

 さて、成長したアタランテはギリシャの諸勇士に劣らぬ狩人となった。

 イアソン率いるアルゴナウタイの冒険にも参加したその武勇から、カリュドーンの猪退治にも参戦する。

 ギリシャ全土を震撼させたカリュドーンの猪。それを討つべく多くの勇者が集った。

 この戦いで猪に最初に手傷を負わせたのが他でもない、このアタランテだ。

 そのため、戦いの功労者として猪の皮は彼女に贈られたが、これが不和を呼びメレアグロスら多くの英雄が死ぬこととなる。

 ――この後、アタランテに関する記述は殆どないが、一説にはある男の策略に嵌り娶られたとされる。

 女神の神域で交わったがために獅子に変貌させられたという呪いが現れたゆえのその姿だろう」

 

ハク「先生、彼女はどんな英雄なんですか?」

 

「当然だが、その精神性は幼い頃に培われたものだ。

 山に捨てられ、熊に育てられた彼女は、故にこそ野生らしくなった。

 彼女の思考は獣のそれと良く似ている。自給自足、弱肉強食。生きるために手段を択ばず、生きる糧は己で手に入れる。

 彼女はそうして生きてきた。非道かつ非情な野生の世界においては、そうでなければその日にでものたれ死ぬだけだ。

 群れを成さない孤高の獣であったアタランテにとって、考えるべきは他者の命より今日の自分。

 求める者を誰かが持っているならば奪う。山で生きた彼女が則るは山のルールであり、山で生きる者でそれが出来ない者はいない。

 ――まあ、その思考が徒競走における彼女の敗因となった訳だが。

 結婚相手の条件であった自身との徒競走の勝利。英雄ヒッポメネスがそれに勝利したのは、女神から賜った黄金の林檎のおかげだ。

 神の食物。不死の果実。獣であるアタランテがそれに目を向けない筈がない。

 獣性はアタランテの武勇の源でもあったが、その武勇に終止符を打ったものでもあるんだ」

 

アタランテ「……そうさな。確かに愚行であったよ。たった三粒の果実に目が眩むとはな」

 

「欲で動くのは獣も人も変わりないさ。食欲にしろ不死欲にしろ、な。

 さて、このアタランテを語るうえで外せない事柄はもう一つある。彼女の望みだ。

 あらゆる子供が愛される世界。これを謳うアタランテは、この世のあらゆる子供を愛している。

 本作においてはジャックに対するそれが顕著だったな。アタランテの主なテーマと言っても過言ではない。

 幼少の頃に捨てられ、彼女は世界を知った。子供が愛されぬ現実、理の裏側というものを身をもって学んだ。

 だからこそアタランテは愛に過敏だ。子供を愛する者は好むところだし、愛されぬ子供にはより大きな愛を向ける。

 それが一方的なものだとしても、な。愛を受ければ良い大人になり、またその子にも愛を与える。この循環が彼女の願望だ。

 己が愛されなかった以上、自身から始める必要はないというのに。だがこの異常なまでに純粋な想いこそ、アタランテの本質だろう。

 アタランテはこの世界を愛さない。かといって人を愛す訳でもない。彼女が愛を寄せるのは果て無き願望の世界であり、人として未完成な全ての子なんだ。

 ちなみに、アタランテは外典においてジャックを、英霊の性質から純粋な子供ではないと射貫いているが、本作では愛すべき子供として扱っている。

 これはまあ――アタランテとジャックの関係性を定めた時にその設定が明かされてなかったからだ。メタな理由だな」

 

アタランテ「それで締めるというのは……どうなのだろうか。私はさして気にもしないが」

 

「いや、うん、なんだ。本当にすまない。独自なキャラ付けと言っても在り来たりが過ぎるしな」

 

 

『バーサーカー ~原初を追う狂気が生んだ人造人間~』

「CCC編序盤から生徒会側の味方となり、後半ジナコ=カリギリと契約したサーヴァントだな。

 真名はフランケンシュタイン。より正確にはフランケンシュタインによって作られた無銘の人造人間。

 出典はメアリー・シェリーによって書かれた小説『フランケンシュタイン、或いは現代のプロメテウス』からだ。

 さて、このサーヴァントは原典とFate世界の設定とで随分と違う点がある。

 原典では生命の真理を追い求めてヴィクター・フランケンシュタインが死体を紡ぎ合わせて作った人造人間だ。

 対してFateでの設定は原初の人間(アダム)を産むための母体、イヴとして作られたのが彼女だな。

 理想の人間を目指して作られた彼女だが、生みの親であるヴィクターには失敗作と断じられた。

 涙腺がない。感情の抑制ができない。このような生命は人間とは言えないと。

 醜いと罵られ、美しいものに執着した彼女はやがてヴィクターに恐れられるようになった。

 逃亡したヴィクターを追い掛けているうち、世界の在り様に触れて知性を育んだ彼女はいつしか創造主を憎むようになる。

 復讐に動き、友人や妻に手を掛けつつヴィクターを追うフランケンシュタイン。

 やがて世界の極点にまで追い続け、ようやく彼の下に辿り着いたとき――ヴィクターは息を引き取っていた。

 最後まで愛されることなく、最後まで父の後を追った彼女は自ら炎に身を投じる。何とも悲しい結末だな。俺が言えた口でもないが」

 

ハク「先生、彼女はどんな英雄なんですか?」

 

「英雄……まあ、今更気にすることもないか。

 フランケンシュタインの精神性はまだ成人していない子供そのものだ。

 子供として当然の愛を受けていなかったがために通常のそれとは大きく異なるがな。

 愛に飢え、興味に溢れた様は子犬と言った方がより正しいか。ただし一見ではそれらしくない素振りに見えるだろう。

 興味がないようにそっぽを向いて、しかし目線はしっかり興味の対象を捉えている。

 警戒心は強いが人懐こい。信頼しうるマスターに出会えば、真実ペットの如く付き纏うだろう」

 

フラン「……ぺ……っと……?」

 

「ああ、こっちの話だ。気にしなくていい。

 さて、ヴィクターの一件は彼女のトラウマではあるが、同時に彼女を大きく成長させた要因でもある。

 皮肉だな。迫害されなければ英霊には至らなかった。こうした例は何もフランケンシュタインに限った話ではないが。

 不愛想に見えるが感情豊か。そして相手の感情の機微にもまた敏感だ。

 これはヴィクターに“狂った怪物”だと罵倒されたがためだな。

 このことからフランケンシュタインは理性を持ち、感情を学ぼうとした。

 英霊となってからの彼女は臓物を美しいと感じていた頃よりも、常人の感性に近い――花を愛でる少女になったな。

 それが英霊として正しいかどうかはさておきだが」

 

フラン「ゥゥ……はな、は、きれい」

 

「――ちなみに、彼女の望みは『自らの伴侶を得ること』だが。

 これはヴィクターによって作り出された人造人間でなければならない、真実聖杯がないと叶わない願いだ。

 しかし、彼女が信頼し、心を開くことがあれば――その限りではないようだぞ?」

 

 

『アサシン ~孕むは狂気、望まれなかった迷い子たち~』

「後半、ラニ=Ⅷと契約したサーヴァント。外典勢の中では最も掘り下げられただろうか。

 真名は切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)。十九世紀末、ロンドンはイーストエンド、ホワイトチャペルで発生した連続殺人事件の犯人だな。

 犯人、と言ってもこの事件は世間的に犯人の知られていない未解決事件。そのため、ジャックは喚ばれたクラスによって性質を変化させる。

 例えばバーサーカーで召喚されると狂気の象徴、誰か分からないゆえに誰にでもなれる存在。アサシンだとこの少女だな。

 このジャックはロンドンに溢れ返っていた娼婦が宿した望まれぬ子。堕胎された魂の集合体たる怨霊だ。

 だから、このジャック()()は母の胎内に回帰することを望んでいる。

 少なくとも五人の女性を殺害したジャックだが、その犯行が魔性のものであると察知した魔術師によって退治される。

 しかしその魔性が切り裂きジャックの伝説に取り込まれた――それが、この反英霊だな」

 

ハク「先生、彼女たちはどんな英雄なんですか?」

 

「あくまでもジャックは子供。あどけなく笑い、甘え、娯楽を謳歌する無垢な幼児そのものだ。

 ジャック以上に純粋なサーヴァントはいないだろうな。何しろ産まれていないのだから、不純物が混じろう筈もない。

 ゆえにこそ、その純粋さでもって相手を手に掛ける。子供が悪意なく、興味本位で生き物を殺すのと似ているな。

 子供というのは残酷だ。それはジャックも同じこと。普段の甘え上手な性格と表裏ですらなく、どちらも同じ側面に存在する。

 この純粋さは一般人の暮らす世界の裏側を如実に映しているな。

 ジャックが生きた……いや、活動した世界は醜悪な闇でしかなかった。そこでしか動いていないジャックは闇しか知らない。

 産まれることすら否定され、胎内に返ることも許されず、一片の救いもないまま、ジャックは闇の中で朽ち果てた。

 こうして召喚されても、存在を証明したことにはならない。

 ジャック、アサシン……集合体としての名前はあっても、個々に名前がないのだから」

 

ジャック「……どうしてそんなことを言うの? 貴方も……怖い人?」

 

「どうだか。お前たちの言う怖い人の定義が分からんが、どうとでも取ると良い。どうせ最後だからな。

 さて、このジャックは集合体であるために、一つの思考の中で無数が鬩ぎ合っている。

 様々な感情があるだろうが、それらが一つになったのがジャックの感情だな。

 瞬間的、そして永続的な多数決だ。尤も、純粋な子供であるから何かと同じ答えに行き着きやすいだろうが。

 本編終盤、アタランテに移った魂は“死にたくない”魂の集まり。死を選ぶ者もいれば、当然死を拒む魂もあったという訳だ。

 大方、他の魂のように勇気が持てなかったのだろう。寧ろ此方の方が子供――生に執着するジャックとしては正しいとさえ言える。

 しかしまあ……ほぼ全ての魂が同じ答えを持つだろう問いもまた、存在する。

 ――どうだ子供たち。此度の、月の裏側の物語。出会えた母は良い母だったか?」

 

ジャック「――――うん! おかあさん(マスター)……おかあさん(ラニ)は、すっごく優しかったもん!」

 

「……と、こういう風にな。根本は違えど、人為らざる者同士だ。

 片や感情を学び、片や生の楽しみを味わった。この戦いのひと時の安寧は、得難いものだったろうよ」

 

 

「さあ、これで俺が語ることは全てだ。

 暫くの間、暇をいただこうか。ではな読者諸君」




これから先を更新していく訳でもなし、本編ほど考えて書いてはいません。悪しからず。
この後三話ほど、夢の対決に入らせていただきます。
シリアスは死んだ! くらいの緩い感じでやっていきたいものです。

さて、FGOですが、遂に初のコラボが始まりましたね。
私は式の宝具レベルを5にしたところです。
ジャック、姐さん、フランの外典勢で組ませるのが楽しくて楽しくて。
……え? ジーク? いないんですよ(半ギレ)

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