Fate/Meltout   作:けっぺん

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四桁の団子を一体あれだけのカルデアメンバーでどうするんです?
いや、うちはアルトリアさんいるから処理には困らなさそうですけど。
女神級はどうにかクリアしました。
ミス・オリオンがスキル使うたびに「あははははwww楽しいwww」とか高笑いするのが団子集めで荒んだ心を逆撫でして困りました。
いやー何者なんでしょうねーあのミス・オリオン(棒)

今回、急ピッチで仕上げたので粗が多いと思います。申し訳ありません。


Desire of The World.-11

 

 

 此方は何の伝説も持ち合わせていない、無銘の狩人。

 対して相手は、神話にさえ名を遺した最速の狩人。

 どれだけ変転しようともその名残はあって、彼女は否定のしようもなく神話の英霊だった。

 

「があああああああああああああッ!」

「ッ、くっ、そ……!」

 見たこともない、悍ましい怪物の牙が肩を削る。

 凄まじい速度で突撃してきて、そのまま背後へと通り抜けていく。

 痛みにどうにか耐え抜き、振り返ると同時に矢を放つ。

 だが、怪物は直進の軌道を突如変化させ、横飛びでもしたかのように回避した。

「ちっ……どういう体してんだ、よ!」

 二度目の方向転換。牙を剥いて突っ込んできたそれを、今度は紙一重で躱す。

 その交差する瞬間、黒い皮に覆われた狩人の姿を見た。

 これまでの――少なからず羨望を抱いていたある種、オレにとって理想の英雄像とはまるで違う。

 憎悪のままに駆ける。

 憤怒のままに喰らう。

 欲望のままに暴れる。

 そんな、英雄とは程遠い怪物そのもの。

 それだけだったらまだ良かった。シャーウッドの森で狩っていた猪同様、獣として狩るだけなのだから。

 アタランテとしての英雄像を欠片でも残していれば良かった。

 あの怪物の皮をどうにかして引き剥がし、元のアタランテに戻してやるという選択肢が生まれる。

 だが、どちらでもない。怪物と英雄の半ば。そして、半端モノの中でも最悪なことに――狩人でありながら、彼女は弓を手に持っていなかった。

 どこかに落としたのだろうか。それとも、捨てたのだろうか。

 前者ならば、何故弓兵の命を拾いにいかないのかと考える。後者ならば――ヤツを許さない。

 どんな理由があれ、弓を捨てた狩人に憧れたという事実にオレは自己嫌悪する。

 今のオレを動かしているのは、そんな自己中心的な葛藤。

 しなくてもいい苦労をして、それが理由で命を危険に晒す。なんと馬鹿らしいことだろうか。

 英雄とはそんなものなんだろうが、オレは真っ当な英雄とは違う。

 そんなこと、しなくてもいい。いや――逆だ。

 生前これっぽっちもしてこなかったのなら、二度目の生でくらいそれをしてもいい。

 とはいえ――

「また、か――!」

 少々その相手が規格外すぎる。

 神話で数多の英雄を殺した猪。正直に言えば、侮っていた。

 再びの接近。咄嗟に頭を下げると、それまで首のあった場所を爪が通り抜けていった。

 冷や汗が頬を伝う。駄目だ、このまま避けるばかりでは遠からず限界が来る。

 そう考え、旦那たちの潜んでいるだろう住居とは離れた家々の方向に走る。

 一先ず物陰へ。更に別の住居の家の陰に移動し、怪物の視界から逃れる。

 方向転換の前にどうにか逃げ込めたとは思うが……

 いや、念には念だ。自分の二つ目の宝具、『顔のない王(ノーフェイス・メイキング)』を発動させる。

 これでヤツの視覚を気にすることはない。問題は嗅覚や聴覚、そして――

「おおおおおおおおおおおおォォォ!」

「ッ!」

 ――この、馬鹿力。

「マジ、かよ――ッ!」

 視界の端で、住居が一つ木っ端微塵に崩壊した。

 恐らくアレは適当に壊しただけだが、そのまま旦那たちの隠れ家に行っても不味い。

 とにかく意識を此方に向けるべく、矢を放つ。遂に一撃着弾するも、致命打には程遠い。

「そ、こか!」

 ――いや、もしかすると。

 見えたかもしれない。あの怪物相手に、たった一つ勝つ方法。

 ステータスの差なんて比べるべくもない。力も速さも体力も、何もかもが劣っている。

 だが、それがどうした。神話の英霊だから、それは当たり前。だが、相手が神話の英霊だからこそ――オレが勝てる面が存在する。

 作戦は決定した。さっさとこの場を離れる。視界には入っていないだろうが、耳や鼻で追うことも不可能ではないだろう。だから出来るだけ離れ、隠密に。

「何処にいる! 姿を見せろッ!」

 片っ端から家々を崩してかかる怪物。だが既にオレはそこから離れている。

 何れその破壊は此方にも向かってくるだろうが、そのときが勝負だ。

 旦那とユリウスの兄ちゃんに連絡し、後はただ待機する。

 まったく――森の狩人も情けない。最後の戦いで、人に頼る戦いを選んでしまうなんて。

 必要なのは準備のための時間と、極僅かの勝機を狙う集中と、気合いと、運。

 しかし、思った以上に破壊が速い。

 瞬く間に家が崩れていく。目を動かして探すよりも、大振りな腕で周囲ごと薙ぎ倒した方が早いと判断したのだろう。

 旦那たちがいるのは反対側。心配は必要ないが――

「――――」

 目が、合った。

 アタランテの眼ではなく、怪物の双眸がまっすぐ、此方を見据えている。

「……ああ、なんだ。そこにいたのか」

 憎悪に満ちた女の目も、此方に向く。

 しかし……なんだろうか。その憎悪がオレに向いている訳ではないような気もして。

「猪口才な手で隠れ果せたのもこれで終わりだ。諦めろ、貴様では、私には勝てん」

「……なあ、アンタ。なんでそんなモン使った?」

 気付けば、そう聞いていた。

 あの怪物の皮は間違いなく、彼女の宝具。

 しかし、本人がすすんで使ったとは思えない。何か理由があるのならば、聞いておかねば。

「戯けたことを。私は思うがままに戦うだけ。そのためならば、何だろうとやってやるまでだ」

「……ああ、そうかよ」

 当然のように答えた狩人の言葉に、迷いはなくなった。

 透明化を解除する。居場所がバレているのならば、必要はない。

 後は弓だけで十分だ。

「では、暫し動くな。その命、すぐに刈り取ってやろう」

 時間は稼いだ。そして何より、目の前の怪物を倒す理由が出来た。

 もうアレは、アタランテという英霊ではない。完全に、カリュドーンの猪になってしまったのだ。

「――甘ぇよ怪物」

 足元に転がってくる小さな物体。

 それから噴き出す煙はすぐに視界を埋める。

 普通の発煙弾ではありえない。それは兄ちゃんが用意した違法術式ゆえのこと。

「甘いのは貴様だ、ネズミ――!」

 床を蹴る音が聞こえる。次の瞬間には、すぐ傍にまで迫っているだろう。

 対して、オレは動きを開始する。

 『顔のない王』が効果を発揮していないなら、更なる集中が必要だ。

 ただ記憶を思い返して、あの場所へと辿り着けば、勝て――

「づっ――――!」

 脇腹に走る激痛。

 オレの未熟ゆえ。仕方のないことだ。ただ耐えろ。

 最速の狩人相手の徒競走。だが、間に合う。

 アレがアタランテではなく怪物ならば――!

 届く――届いた。後は――

「旦那ァ!」

 旦那に任せるだけ。

 合図と共に、周囲から爆発音が響き渡る。

「おおおおおおおおおおおおおおおお!」

 この位置に辿り着いたと同時にセットされた地雷を一斉起爆。

 ダメージは与えられないまでも、僅かに動きにラグが生まれる。

 その間に、弓を引く。腕を前に突き出す。

 煙の奥から迫ってくる、怪物の双眸の輝き。

 そう、見えているのはアレだけでいい。

 彼女ではなく――狩るのはあの怪物だけ。

「行っけええええええ!」

 怪物の眉間に放った矢。この近距離ならば、オレが出せる最大の威力を発揮できる。

 正しくあの場所を射貫けば――

「――――――――ァァアアアアアア!」

「ッ――」

 その刹那、見た。

 アタランテが右手で矢を受けたのを。

 獣としての危機感、生存本能、そうしたものが、矢を防がせた。

 ああ――駄目だったのか。

 そう理解したと同時、心臓を貫かれ、死を理解する。

 意識が遠くなるのと、一歩遅れた爆発音が聞こえたのもまた、同時だった。

 

 

 +

 

 

 切り替わった視界には、一面の荒野が広がっていた。

 周囲には何もない。カレンが発生させた炎もない。

 ただ、正面にキアラがいるのみ。

「ここは……」

「……どうやら、ムーンセルの管理する並行世界の一角、のようですね」

 並行世界……なるほど。地上に降りた訳ではなく、その再現体。

 観測する世界を記した一ページ。

 ここに転移したということは、何らかの理由がある筈。

「しかし、転移の術式はまだ残っている。一体どういうことかはわかりませんが……少なくとも、やることは変わりませんか」

 その通りだ。何処に移動しようとキアラを倒す、それだけ。

「さあ、続けましょうハクトさん。こんな場所に来れば今度こそ、邪魔は入りません」

「ああ――」

 キアラが手に大剣を構える。

 それもまた、神の宝具なのか。

 ならば此方も武器を選択する。それと同時に、真名開放。

 この世界における第一撃を、ぶつけあう。

必勝誓う鬼祓の剣(アパラージタ)!」

聖者の選択(ロンギヌス)!」

 刃先の布が取り払われる。血色の輝きを淡く放つ刃を、真っ直ぐキアラに向ける。

 キアラが剣を振るう。鬼神をも討つ神の剣が黒い魔力を爆発させる。

 神の剣。だが、広範囲に広がるものならばこの槍でも拮抗できる。

 この槍が複数持つ能力の一つ。槍が持つ秘跡を攻撃に変転させ、一点特化の刃へと変える。

 礼装に格下げされていようとも、この槍が持つのは主の奇跡。

 神の宝具を相手にしても、決して劣りはしない――!

「なっ――!」

 無敵の剣をすり抜けて、頭目掛けて伸びた閃光は寸でのところで躱される。

 しかしこれでは終わらない。次の一撃を加えるべく、一歩踏み出し――

「あっ!?」

 その動きが、不自然に停止した。

「……ふふ。掛かりましたね」

 ――気付いていなかった。

 キアラの纏う無数の影が、印を結んでいたことに。

 戦闘の最中にそんなことまで可能なのかと驚愕する暇もあればこそ。

 何重にも連なったこの拘束術式を取り払う。それにおいて、ただ両手が動けばそれでいい。

「まだだ――黒い銃身(ブラック・バレル)!」

 周囲を取り巻く結界が束縛の要因であるのならば、狙いを定める必要もない。

 両手に顕現した二丁の拳銃。これの効果は、あらゆる術式を問答無用で粉砕すること。

 こと破魔においては最上位に位置する拳銃に引き金を引く。

 瞬く間に破壊されていく結界。影たちは立て続けに結界を作り続けるが、速度は此方が一歩上を行く。

「ならば!」

 全てを砕き切った。その瞬間、視界の端で何かが煌めき、

「――――――――ッ!」

 

 腹の中心に、孔が開いた。

 

 

「……残念でしたね。この矢は天に浮かぶ月と太陽を射貫くために作られた矢。その威力ならば、生きてはいられませんでしょう」

 明らかな致命傷だった。体は軽く吹き飛ばされ、自らが組んだ結界も纏めて破壊した矢の一撃は瞬く間に生命力を奪っていく。

 もう一呼吸。その後には既に、この命は残っていない。

 どうやらキアラは、この不意打ちを狙っていたらしい。

 神に等しい力を持っているならば、この空間から逃げ出すも容易だろう。

 故に、これで決着。紫藤 白斗の敗北は、ここに決定する。

 

 ――相手(むこう)から歩んでくる、絆が無ければ。

 

 

 ――――超えて、超えて、虹色草原。白黒マス目の王様ゲーム。

 

 それは、物語の名前。

 一人の少女のために紡がれた、永遠に続く物語の。

 

 ――――走って、走って、鏡の迷宮。みじめなウサギは、サヨナラね!

 

 死したという存在が、なかったものになる。

 始まりへと指を戻すように。或いは『存在する』続きへと手を伸ばすように。

 永遠を求める絆の主の呼び声を受けたように、肉体に受けた傷が消失する。

「――ぐっ――――!」

 ならばあとは、地に足を付けて、この衝撃を耐えるだけ。

「な、何故!?」

 キアラの言葉には答えず、集中する。

 足に万全の力を込めて、体を安定させる。

 キアラは、膝を付いていた。

 宝具『永久機関・少女帝国(クイーンズ・グラスゲーム)』。アリス――ナーサリーライムが持つ固有結界。

 使用者の状態を始まりに戻し、相手に肩代わりをさせるという形で、戦闘においては顕現する。

 傷を一点に与えるのではなく、肉体への負荷として全体へと広がるのだが、それでも肩代わりしたのは致命傷だ。

 ダメージが小さい筈はない。

「キアラ――!」

 相手の動きが停止した今が好機。

 手に取るのは太陽の聖剣。聖杯戦争の最後に待ち受けていた王が、月の裏側で指揮を執った友人が、傍に置いた騎士の剣。

 剣に籠った疑似太陽が駆動する。敵を焼き払わんと、灼熱が吹き荒れる。

転輪する(エクスカリバー)――」

 真名開放と共に剣を振るおうとするのと、転移術式が再発動するのはほぼ同時だった。

 また、別の世界への移動が始まったのか。

 間に合うか――いや、間に合うと信じるまで。

 躊躇いなんて持っていたら、それこそ間に合わない。

 キアラがこの世界から消える前に、僕がこの世界から消える前に、剣を振り抜く!

勝利の剣(ガラティーン)!」

 吹き荒れる炎が、キアラ目掛けた奔流となる。

 世界が反転する。そして、ひたすら続く荒野ともまた、別れを告げる。

 果たして別世界へと赴き、次に視界に入ったとき――――

「……!」

 ――大盾を構えたキアラは、現存していた。




ここで緑茶VS姐さんを入れたのは他に入れる場所がなかったからです。
戦いも、終盤になりました。
そろそろメルト、戻ってきてくれないかなあ。

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