黒ひげ「第二のジャンヌゥ!」
セイバー「……」
こんなパーティで愉悦に浸るのが楽しい。バサスロ普通に強いですし。
あ、後姐さんも来てくれました。アーチャー枠が少なかったので助かります。
ところでバサスロのガトリングは使うたびに一々戦闘機からちぎってるんですかね?
「ねえ、
「ええ、
「泥棒さん?」
「もっと悪いわ。人攫いさんなの」
「まあ怖い。じゃあ、あたしたちでやっつけちゃおう!」
室内を火炎が、吹雪が、旋風が吹き荒れる。
唯一、退避せよという指示に従ったマスター、ありすとアリス。
彼女たちは跳ねるような会話を繰り返しながら、生徒会室にやってくる影を退治し始める。
私は戦闘用の術式の使用には向いていないけれど、それでも同じマスターに変わりはない。
自分に出来る最大限の弾丸でもって、影の減少に少しでも貢献する。
「しかし……急に来ましたね。ミス遠坂が倒れたということは……?」
「ありません。マスターとサーヴァントの情報は私が把握できます。校庭に凛さん及び契約したランサーを確認できています。まだ二人は戦闘中と思われますが……」
――五分ほど前までは、影は一切この部屋に来ていなかった。
どうやらありすとアリス、ジナコ=カリギリを除く生徒会外のマスターも最終作戦に参加したようだが、それをもってしても影の全滅は叶わないようだ。
しかしそれでも、五分前までは影たちを全て食い止められていた。
誰かに何かがあったのか、生徒会室にいる私たちは把握することができない。
膨大な影の影響か、旧校舎のサーバーの一部がダウンしている。
それによって外の映像が一切送られてこない。観測の精度を極限まで上げても、分かるのは各階のマスター、サーヴァントが生存しているかのみ。
一応それでも、役目は果たせている。だが、重要な情報が判明するのは手遅れとなってからだ。
影が襲い来る直前、迷宮の一階で戦っていたらしいありすのサーヴァント――キャスターが消滅した。
恐らく、彼がミス遠坂が食い止めきれる限界にまで影を減らしていたのだろう。
しかし彼の消滅によって、そのダムが壊れ、ミス遠坂が抑えきれなくなった。
ミス遠坂のマスターとしての技量はレオ・ハーウェイに匹敵するほどだし、彼女のサーヴァントの力も最上位に位置する。
彼女たちが全力を出して尚、取り零した影なのだろう。
「ラニさん、サクラ。無闇矢鱈と動かないでくださいね。守り切る保障がなくなりますから」
「分かっています。BB、貴女も細心の注意を」
「勿論。死ぬつもりはこれっぽっちもありませんから」
BBが教鞭を振るうと、部屋に跋扈する影の殆どが消し飛ぶ。
これならば、当分は問題がない。
更に多数が来ない限りは、この場を守り切ることが出来るだろう。
しかし……これ以上の数を相手している他のマスターが心配だ。
既に一体、サーヴァントが消滅した。或いはそれ以上の被害も出るかもしれない。
「ラニさん、影の相手は私だけで十分ですから、観測に集中してください」
「……分かりました」
やはりここでも、私は無力のままらしい。
術式の心得はある。しかしそれは、主に補助に関するものに向いている。
威力が重視される場において、まったく役に立つことができないのだ。
倒せて、一撃で一体。BBには威力も範囲も及ばない。
「喰らいなさい――サ・ク・ラ・ビーム!」
教鞭の一振りで、桜色の光が影を覆い尽くす。
自身が得た特権を用いて、BBはこの場の守護を成し遂げている。
「
「ダメよ、
ありすとアリスは彼女たちのペースで、マスターとは思えない高度な術式を紡ぐ。
流星が落ち、鎌を振るい、大岩を落とし。小さな体躯に相応しからぬ、豪快な攻撃でBBに負けず劣らずの戦果を叩き出す。
――この場にバーサーカーがいれば、アサシンがいれば、という感情が沸く。
何を馬鹿なことを。叶わないことを顧みても仕方がない。彼らがいないならば、いないなりの仕事があるではないか。
自分に出来ることを、機能の全てを使って成せば良い。
アトラスのホムンクルスとして恥じない行いをするだけだ。
「……アサシン」
ふと記憶を過ったからか。気付けば声が漏れていた。
ハクトさんと同じくらいに、様々なことを教えてくれた、私の二人目のサーヴァント。
彼女
しかし最後には、それも自然になった。母と呼ばれることに逆に安心感を覚え、アサシンを子として認識出来るようにもなった。
出来ることならば、戦いの外で平穏を過ごしたかった。まさか私が、こんな感情を持つなんて――
「――ラニさん? 何か言いました?」
「いえ。なんでもありません。少し、余事に思考を預けていただけです」
ああ……であれば、彼女の母としても、私は悩んでいる訳にはいかないか。
「しっかりしてくださいね。遮蔽物が多い以上、観測も難易度が高まります。決戦の最中に意味消失なんて、させる訳にはいきませんよ」
「ええ、勿論。任されたからには、パーフェクトにこなしてみせます」
そうだ。直接的に参戦するということではないが、私も大きな役割を背負っている。
皆が戦いに集中できるよう、些末な余事を気に掛けさせないようにしなければ。
「……桜」
「なんですか、カレン。貴女も少し、分担を――」
「すみません、無理、です」
「え――?」
それまで目を向けていなかったカレンの声色が普段と違うと感じたのは、そのときだった。
胸元を押さえ、その場に蹲るカレン。
いつも以上に声に抑揚がなく、一目で異常が発生していると分かる。
「カレン!? 一体……」
「心配いりません。ようやく、わたしの役目も終わる。それだけ、です」
その手が胸から離される。胸で輝いているのは、彼女に備えられた特殊な令呪――
もしかして、最後に残っていた一画を使用したのでは……?
「サクラ、ラニ」
ぼそぼそと、呟くような声。
しかし、確かな意思を持って、カレンはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……ムーンセルの、サーバー……落ちるかもしれません。すみませ――」
一画使うだけでも凄まじい負荷のかかる令呪。
その全てを使ったとき、一体どんな代償を支払うことになるのか。
信じたくはないが、一つ思い当たるものがある。力の抜けきったその体は、それを確信させるものだった。
「何を、するつもりですか……?」
「…………最後の役目、終えてきます。――を、助けに……」
最後まで言い切ることなく、カレンはその場から消えた。
「ッ、何処へ――!」
「ムーンセル中枢です! センパイのところに――!」
――――何を考えているのか。
守らなければならない存在が、最も危険な場所に行くなどと……!
「くっ、私がすぐに……!?」
BBが部屋中の影を消し去り、追い掛けようとした瞬間だった。
「――――――――」
迷宮の果て、中枢に出現したカレンの反応が、再び消滅したのは。
代わりに何処かに現れる筈の反応は、旧校舎にも、迷宮の他の階にもない。
まるでカレンという存在そのものが、消滅したかのようだった。
+
引いていた波が再び迫るように、影の数は増した。
誰かが負けた影響なんて思いたくはないけれど、それが一番可能性が高い。
そして、本当だろうと救助に向かうことは出来ない。私も私で、手一杯なのだ。
「リン、疲弊しているようだが、まだ体は持つか」
「全然平気……って言いたいところだけど。どうせ嘘なんて通じないわよね。白状する、ちょっとキツいわ」
宝石剣を使用する代償は、性能に見合わない小ささだった。
百使っても問題はない。だが、二百、三百となればどうか。
それほど使うことにはならない――そう思っていたけれど、そこまで甘くはなかった。
一回の使用につき、体を構成する霊子をほんの数ドットずつ壊していく。
その影響は、ここまできて遂に現れてきた。
「……痛覚がないって、結構イヤな感覚なのね」
「それは、オレには分かりかねる。だが、確かに想像してみれば、不快なものだ」
左手の先から、崩壊は始まった。
指は大方黒く染まって、肘にまでノイズは届いている。
聖杯戦争の六回戦、私の表での最後の戦いの後を思い出す。
戦いに敗れ、体が消えていく感覚は忘れようにも忘れられない。
あの感覚を二度味わうことになるなんて思わなかった。
この後も繰り返し使っていれば、どうなるのだろうか。
どこまで行けるのだろうと、ほんの少し興味が沸く。
使い続けていれば、やがて体全てが消えるのか。
試す勇気はないけれど、精神的な疲労をリセットするには丁度良い現実逃避だった。
「さて、と……まだまだやるわよ。あんだけ大見得を切っちゃったんだから、こんなところでくたばれるもんですか」
剣を持ち直す。ランサーを御すのに、自身の魔力を賄わなくて良くなったのはかなり大きい。
ランサー並みの大喰らいにもなると、戦闘態勢を維持するだけで精一杯だ。
私が全力で戦うことが出来ず、身を守るのもランサー頼りになってしまう。
最強クラスのサーヴァントを引き当てた代償だ。仕方のないこと。
だからこそ、割り切らずにこの礼装の一端だけでも解放したのだ。
聖杯戦争において、並行世界の魔力を全然引っ張ってこれなければ、恐らく六回戦までに枯渇していただろう。
この術式があったからこそ、私は自分でも戦えた。
そして今は――更に上。自分も全力、ランサーも全力。魔力の枯渇なんて一切気にせず戦えるのだから。ランサーが倒れる訳ないのだから。後は私がくたばらないよう頑張るだけだ。
倉庫魔術を展開させる。ありったけの宝石を用意した。自慢の礼装だって、たんまりある。
「破産覚悟よ。全部ぶちまけてでも、倒しつくしてやるわ」
「ふむ……リン、その、良いのか。それはSGと接触すると思うのだが」
「ああ、もう! こんな時に余計な心配しなくていいのよ! ってか掘り返すな!」
思いっきり殴ってやろうと思ったけれど、生憎手の届く近くにランサーはいない。
後でしっかり返礼はさせてもらおう。だけど、まあ、確かにその通り。
でもそんなことを気にするような状況じゃないのだ。
「ま……後でハクト君にはきっかりとお礼してもらわなきゃね。地上に戻ったら、どんな手段使ってでもまた月に来て請求してやるわ」
「……そうだな。あの男ならば断りもすまい」
何か気まずそうだったけれど、今回の謝礼は妥当だと思う。
どころか、少しばかり水増ししても良いくらいに危険な仕事なんだし。
……まあ、そんな捕らぬ狸の皮算用より前に、この場を生き残らなければならないのだが。
ランサーは大丈夫だろう。この数くらいならばまだ問題はない。
だが――私はどうか。
少々厳しい。先ほどまでの数なら大丈夫だったが、ここまで増えてくるとなると。
「ッ」
気付けば背後から忍び寄っていた影をどうにか対処する。
ランサーの助力は、そろそろ期待できなくなってくる。
自身が生き残れるかどうかと誰かを手助けできるかは違う。
それでも時折此方に炎を飛ばしてきてくれているが、ランサーもそこまで余裕がある訳ではないのだ。
このままだと――
『くたばるには早いッスよー、リンさん。そんな黒一反木綿なんかに潰されるとか、一階層のときより恥ずかしいッス』
危ないか、そう思った瞬間、声が聞こえてきた。
「……ジナコ?」
『ちょりッス。早速だけど、ちょっとその戦場借りるッスよ』
「へ……?」
突如として戦場に参入してきた、ジナコの声。
彼女は普段通りの呑気な声色でそんなことを言ってきた。
「借りるって……っ、何するつもりよ?」
会話の間にも、一切躊躇わずに影は襲ってくる。
周囲の警戒を怠らず、影を消し飛ばしながら応対する。
生憎だが、まともに返事をしていられるほど暇のある状態ではない。
『別に、お二人にとって不利益なモンでもないッス。ちょっとだけ、手助けッスよ』
「手助け?」
そうは言っても、ジナコのマスターとしての実力は下位を脱さない。
正直、この場で活躍することは出来ないだろう。だというのに、ジナコは妙に自信ありげだ。
そして、その自信が決して虚勢でないことはすぐに知ることになった。
「な――ぁ?」
思ってもみない声が出るほどに、それは衝撃だった。
夜空に突如雲が現れたと思ったら、雷の如き輝きが降り注ぐ。
影の群れを焼き払い、余りある威力の雷は周囲を吹き飛ばす。
私の、宝石を用いた魔術にも匹敵するだろう威力。
しかも一撃ではない。更に一撃、次に一撃、と連なって落ちてくる。
範囲こそ狭いが、連射能力はおそよ魔術師に再現出来る筈のものではない。
「ジナコ、これは?」
『ふっふっふ。聞いて驚け、これぞジナコさんの決着術式、
神の雷。それを名乗るに相応しい威力。
しかし……これほどの密度の術式を、ジナコが用意したと?
『凄いしょ。ジナコさんが一晩でやってやったッス。どうッスか?』
「……どうやったのよ?」
『令呪ッス。あれを使えばリンさんに負けず劣らずな術式くらい作れるッスよ。なんだっけ、えっと、カルナさん? どう思うッスか?』
会話を突如振られたランサーは相変わらず周囲の影の殲滅に尽力しながらも、淡々と答える。
「確かに、これならばリンのここぞの不注意も補えよう。アルジュナの秘儀から手懸りを得たと存じるが」
『半分当たりッス。まあ、こんだけ雷を使うサーヴァントと関わったんだし』
令呪――それを用いて術式を作ったということは、永続的に続くものではあるまい。
だが、それでも驚いた。それほど膨大な魔力を、ジナコが操れたということに。
「……ま、良いわ。手伝ってくれるのなら手伝ってもらおうじゃない。絶対に、私たちには当てないでよ!」
そんなことを許容できるくらいには、私も焦っているのだろう。
ランサーの本気なんだろう軽口も大して気にならない。
『オケィ。BANBAN、やってやるッス!』
半ば自棄になっているような気もするが、しかし、ジナコの心境に何かしらの変化があったのは確実だ。
それはアーチャーや、バーサーカーとの接触で、少しずつ変わっていったものなのだろう。
ジナコとは殆ど会話もないけれど、彼女の階層を歩き、心に直接触れた身としては嬉しく思う。
さあ、一人増えた。これならば影の群れなどに劣る要員なんて何一つありはしない。
宝石剣を更に振るう。大丈夫だ。全部が壊れきる前に、きっと決着はつくだろう。
ありす:生徒会室
影を相手に絶賛お遊戯中。
ジナコ:校庭(用具室)
決着術式発動。凛に助力。
という訳で、ジナコ参戦です。
決着術式は、名前はともかく性能はアルジュナの宝具に近いです。
威力も範囲も及びませんが、大きな力となるでしょう。