自分はとりあえず、ぽんぽこで始めました。
序章クリアしましたが、ぽんぽこ以降ガチャで一切サーヴァントが出てきません。
フレンド、レア含めて二十回くらい引いてると思うんですけど。
ぽんぽこシールダーリリィだけでは割と無理があります。
――そして、わたしは観測する。
迷宮の始点。始まってすぐの場所を。
影の迫る、迷宮と旧校舎の境目。
一階の入り口へと押しかける影は最初に比べ、随分と減っていた。
その理由は明白。程近い発生源にいる間桐 慎二とライダーの手によるものだろう。
発生源を攻撃されている。影もそれを悟ったらしい。
感づいた個体が、少しずつ分裂――自己増殖を始めている。
発生源から現れる速度とは比べ物にならない。並のサーヴァントが五体潰す時間で、一体増えるかどうかだ。
しかし、やがて分裂を最適化させ、速度は段々と増していくだろう。
結局は発生源を潰せば、やがては全滅する。
それほどまでに旧校舎にいるサーヴァントは強力なのだ。
当然、例外もいるのだが。
「――ふむ。壮観だな。これが地獄というものか」
敵対していない状況を好機と踏んだのか、迷宮にサーヴァントが入り込んでくる。
地獄と評したその景色にあまりにも不相応なスーツ姿。
片手には分厚い本を抱え、悠々と迷宮を進んでいる。
サーヴァント・キャスター。その真名をルイス・キャロル。
戦闘能力に関しては三流にも等しいサーヴァントは、あまりにも危険な場所に、あまりにも平然と足を踏み入れた。
「残っていても良いのだが。それではサーヴァントとして情けない。この数ならば私でも、少しは戦えそうだ」
しかし、まったく戦闘能力がない訳ではないと言うように、キャスターは笑う。
手に持つ本は、紛れもなく宝具だった。
上位のランクではない。C+ランク、しかも、戦闘に特化した宝具ではない。
元より、ルイス・キャロルは作家であり、戦士ではない。
武勇で英霊となった存在ではない彼が、戦闘に向いた宝具を持っている筈もない。
作家のサーヴァントであれば、自身の作品を現実に具現化する宝具を所持するという傾向が強い。
自著に登場する無敵の戦士がいれば、それを顕現させることで戦闘力を補うことも出来よう。
だが、ルイス・キャロルにはそれがない。彼はどこまでも童話作家であるのだから、戦闘に特化した登場人物がいる筈もないのだ。
ならば何故、彼は余裕を持っているのか。
「記すべくもない。ゆえに語ろう。口伝こそが
本を開く。そこには、何も書かれていない。
どころか、どのページも全て白紙。ただ無垢な紙が束になっているだけ。
「
真っ白なページに、キャスターが息を吹き込む。
すると、白紙に文字が宿った。
白地に、白の光。果たしてそれは読める文字と言えようか。
キャスターによって光を帯びた文字は、ふわりと浮き上がる。
それら一文字一文字が、キャスターとは異質な魔力を持っている。
キャスターがいなくとも独立できる文字。ながらそれらの使用権は、キャスターに帰結している。
これは信仰心だ。ルイス・キャロルの読者から供給される魔力が文字の形を取って、キャスターの力になっているのだ。
「大英雄との戦いを所望かね。諦めたまえ、君たちの相手は私の言の葉が務めよう」
文字がキャスターを離れて纏まり、一つの形を成す。
キャスターの背よりも大きな巨人。赤を主体とした巨躯の、強大な怪物。
規格外の戦闘力。そんなものがキャスターから呼び出されたとは到底思えない。
怪物は辺りの影を敵と見定める。唸りを上げるも、飛び出すことはしない。
「構わないよ、ジャバウォック。好きに暴れるといい。ああ、この階から出てはいけないよ」
鎖が解かれたように。許可を得た怪物は雄叫びを上げ、手近な影をその拳で叩き潰す。
周囲の影が敵を見出す。だが、その次の瞬間にはそれらは最初の影の末路を辿る。
一般的なキャスターの戦略とは真反対。力任せに暴虐の限りを尽くすその様は、どんなマスターが見てもバーサーカーと口を揃えて言うだろう。
そして続けて、キャスターの後ろに列を作って何かが現れる。
チェスの駒だ。兵士がいる。馬がいる。その気になれば僧正も城壁も作り出せよう。
力は怪物とは比べるべくもない。だが、数で影に多少は対抗できよう。
「これで私は君たちの敵となった。ありすたちに手を出すモノも、少しは減るかな」
列を組んでいた駒たちは、しかし戦いにおいていとも簡単にその列を崩した。
それぞれが好き勝手に、視認した影を殲滅に掛かる。
キャスターは魔術師のクラスであり、それゆえに対魔力を持ったクラスには総じて弱い。
だが、この宝具は物理攻撃に特化した攻撃法だ。
ルイス・キャロルは自在に、軽やかに物語を語る。
それゆえに、彼の言葉そのものが詠唱なのだ。この書物はそれを出力し、魔術として顕現させるもの。
彼がかつて綴ったジャバウォックやチェスの駒、トランプの兵などならば、それこそ当然のように召喚できよう。
かの怪物や兵が戦闘に向いていた訳ではない。
しかし、キャスターの歌は即興詩だ。記憶にある怪物を、今度は殺戮の権化として召喚するも自由。
真実それは、キャスターの重さのない言葉そのものが宝具と化したものだ。
弱点があるとすれば、キャスター自体に戦闘力が備わらないことと、宝具のページ数に限りがあること。
キャスターの言葉は無限に紡げど、出力装置である本にはれっきとした限界が存在する。
当然のように三体のジャバウォックを召喚したところで、宝具には限界が訪れた。
ページのなくなった本は霧散して消えていく。その名残は、強力な戦闘兵たちのみ。
「舞台を演じるのは初めてだがね。励ませてもらうよ」
キャスターは手を広げ、周囲の兵を誇るように宣言する。
「私、ルイス・キャロル一世一代のショーとなろう。心行くまで、ご覧ずるがいい」
影は倒されるべき敵であり、観客であり、キャスターの見る最後の景色となるだろう。
強力な怪物だろうと、数には勝てない。戦いの経過によっては、やがて呑まれよう。
それより先に、キャスターがその牙の餌食になる可能性もある。
恐らくそう時間は掛かるまい。捨て身であるのは、彼自身承知の上だった。
+
迷宮も半分を過ぎた。
ここまで凛とランサー、慎二とライダー、ダンさんとアーチャー、ユリウス、アタランテを残して来た。
そしてどうやら、またもやその選択をしなければならない状況になってしまったようだ。
「……ここのは、一際小さいわね」
「上等じゃない。元、とは言え私の領地にこんなもの置くなんて、いい度胸してるわ」
迷宮十五階。エリザベートの階層だった場所だ。
ローズと最初に話した場であり、キアラさんが消えたと勘違いするきっかけとなった場でもある。
その他の階と比べると、あまり大きくはない。
中型の広場が一つあるくらいで、ほぼ一本道の迷宮だ。
広場の中心に、影の発生源がある。
しかし、殆ど影は現れていない。下の階層から上ってくるものはあるが、ここの発生源自体はほぼ機能していなかった。
「では……ここにあまり人を割くのは得策ではありませんね」
レオの言う通りだ。ここの危険度は、他の階に比べて低いと思われる。
ならば、ここにあまり人を残すのは良い判断とはいえない。
「それなら私が残るわ。誰かと戦うの、向いてないし。それで良いわよね、ハクト」
この場で名乗りを上げたのは、エリザベートだった。
既に終わったこととはいえ、ここは自身の領地。
そこに無断で
槍を肩に担ぎながら、得意げに笑う彼女の力は、僕も十分に知っている。
三度目の戦いにおいては、本気の彼女と戦い――敗北寸前にまで追い詰められた。
どころか、最後が上手くいっただけで戦い自体はずっとエリザベートのペースだった。
竜の娘を自称するに相応しい高い力を持っているのは確かだ。
「……一人で、大丈夫なのか?」
とはいえこの場はエリザベートと言えども、荷が重いのではないか。
発生源が潰す前に活性化し、影が湧き出ることとなれば、彼女をもってしても止められない可能性が出てくる。
それに、今までの皆と違い、マスターの補助を得られない。
たった一人で戦うというのは、恐らく凄まじい負担だろう。
「問題ないわよ。私の強さ、知ってるでしょ? 何が相手だろうと、問題にもならないわ」
しかしエリザベートは、大丈夫とばかりに胸を張った。
その自信が決して虚勢でないことをよく知っている。
ならば、彼女の意思を無為にすることは出来ない。答えは決まった。
「わかった。なら、エリザベート。ここを任せていいかな」
「ええ、勿論! 私に任せておけばオールオッケー。この程度の仕事、さくっとやり遂げてみせるわ!」
「大丈夫? エリちゃん、私たちも手伝うよ?」
「結構よ、シラハ。貴女はもっと先で、ハクトの役に立ってあげなさい」
自身の身の丈ほどもある槍を構え、エリザベートは影の発生源に歩み寄る。
今ならばあれを楽に破壊できる。そうすれば、エリザベートも共に先に行けよう。
だが――
「ッ、下がりなさいディーバッ!」
先に大きく踏み出し、エリザベートの前に出たガウェインによって遮られる。
「ちょっ、何を……ッ!?」
ガウェインがいち早く察知したものの正体は、すぐに分かった。
発生源が変質している。いや、最初からアレはそういう性質だったのだろう。
アレの中心に核として据えられているもの。
今まで幾つも触れてきたその感覚は、たとえこの距離だろうと分かる。
「SG……?」
心の秘密が、アレには組み込まれている。
誰のものかなど、考えるまでもない。
この影を仕向けたのが事件の黒幕であることは明白であり、彼女にも当然SGというものはあるだろう。
ともなれば、あのSGはキアラさんのものに他ならない。
「あれは……SGを核にすることで自立している? 真髄は影の発生源ではなく――」
ヴァイオレットが分析の答えを出す前に、向こう側から解答を出した。
人型を成した影。紛れもなくそれは、キアラさんそのもの。
「そういうこと。衛士と同じね。SGを核にして自分の分体を作っているってワケ」
『――ええ、その通り。ご安心を。今まで皆様が相手してきた欲の影より、腕に覚えはありますわ」
キアラさんの形を成した影は、本体と同じ声を出した。
当たり前か。SGを使った分体であるならば、今まで戦ってきた衛士とそう変わりない。
『それで。一体どなたが私の相手をするのです? 全員と戦ってもよろしいのですが、急いでいるのでしょう?』
向こうは全てをお見通しらしい。
さも当然のように勝利の確信を告げてきたキアラさんのエゴ。
その確信に根拠があるのだとしても、僕たち全員が相手をする訳にはいかない。
この分体に使われているSGは一つ。つまり、後二つ分、この先にエゴが待ち構えていると見て良いだろう。
それら全てを相手に連戦することは消耗を考えれば論外だ。
つまりは――このエゴを相手にするという状況でも、誰かをここに残すことは変わらない。
「話が早いわ。貴女はこの私、高貴なる竜の娘、エリザベート・バートリーが相手してあげる」
それを分かっていたのだろう。エリザベートがガウェインを押しのけて前に出る。
『……まさか、貴女一人で私と戦うと?』
「そうよ。歓喜に咽び泣くことね。私のライブをたった一人で拝聴できることを!」
『そう、ですね。確かに喜ばしいですわ。いえ……寧ろ物足りなくて落胆するくらいでしょうか』
再びエリザベートは槍を構え、エゴと対峙する。
「皆は先に行きなさい! こんな奴、とっとと片付けてすぐに追いつくから――!」
彼女の決意を、無駄には出来ない。
エリザベートは強力なサーヴァントだ。きっと、何事もなかったかのように追いついてくるだろう。
「――頼んだよ、エリザベート。行こう、皆」
「頼まれたわ――また後でね、ハクト」
言葉を交わしあい、エリザベートの横を抜けていく。
エゴは邪魔してこない。だが隙は一切なく、ガウェインでさえもその横を通り抜けた際に攻撃することはしなかった。
真っ向勝負に横槍は入れられないと、騎士道に則ったのか。或いは不意打ちが成功しないと確信していたからか。
前者であれば良いと思った。後者であるよりも希望が持てるから。
「止まらないで。彼女なら大丈夫よ、行きましょう、ハク」
「……っ」
校舎である可能性を考えると、足が止まりそうになる。
だが、駄目だ。エリザベートを信じて、先へと進む。
後方で、ぶつかり合う音がした。戦いが始まったのだろう。
――……まあそもそも、生きて終わったら、だけど。
――ハクトとそこのサーヴァントが戦うだけで終われば良いなって話よ。
もしかすると彼女は、こうなると予感していたのかもしれない。
彼女は覚悟をしたのだろう。だが、きっともう一度、会うことが出来る。
また後でね――と、再会を約束したのだから。
キャスター:一階
捨て身の特攻。影と対峙。
エリザベート:十五階
キアラ・エゴと対峙。
ラスボスその3、キアラ・エゴの登場です。
戦闘力はオリジナルよりも幾分劣る感じですね。
ところで今更思ったんですが、この作品でのエリちゃんの本当のクラスってなんなんでしょう?
次回は多分、エリちゃんの戦いです。多分。