Fate/Meltout   作:けっぺん

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GOは明日辺り、リリース日発表でしょうか。
いよいよ戦いの幕開け……胸が高鳴りますね。


Break Down is Nigh.-5

 

 

「ところで、白羽さん。地上の記憶についてだけど……」

「うん?」

 それは、白羽さんにとって最も重視すべき事柄だった筈だ。

 だが、白羽さんはあまり重く見ていない様子だ。

「地上にリンクがないのだとしたら、それは――」

「分かってる。白斗君と同じ、バグったNPCがどうのって可能性でしょ?」

 いつぞやに話をした。

 僕がNPCにバグが発生したことによる、自我の誕生。

 もしかすると、白羽さんもそれに該当するのではないだろうか。

「本当にそうなんだとしたら、まあラッキーかも」

「え?」

「だって、そうだったら私、地上に戻らないで月に残れるって事だよね」

 ――そう、なるのだろうか。

 或いは彼女の戻れる可能性のある平行世界は存在するかもしれない。

 だが、元々体がない以上、見つけられない可能性の方が高い。

 ともなれば、白羽さんはこの事件が終わった後も、月に残ることになるだろう。

「そう、だね……白羽さんの選択に任せる部分が大きいけど」

「それなら、尚更。記憶がないのに地上に行っても、絶対上手くはいかないもんね」

 どうだろうか。白羽さんならば、なんだかんだで要領よくやれそうな気もするが。

「じゃあ、お世話になろっかな、リップ共々。ね、リップ」

「は、はい! ハクトさんが良いなら……」

「うん。歓迎するよ」

 本人の意思が最優先だが、BBやアルターエゴたちも、月で管理の一端に携わってほしいと思っている。

 更に白羽さんたちが加わるならば、月も随分と大所帯になるだろう。

 それはまた賑やかで、とても楽しそうだ。

「勿論、エリちゃんも。どうかな?」

 続けて、エリザベートに同意を求める白羽さん。

 しかしエリザベートは、笑みを浮かべながらも首を縦には振らない。

「……そうね。叶うならば、それも良いかも」

「……エリちゃん?」

「まずはしっかり、罪を償ってからでしょ? 安寧を得るのは、そうしてからよ」

 そうか……彼女にとって、今の状況は贖罪の後回しなのだろう。

 全てが終わったのならば、そのときこそ罪を償うとき。

 自身の美のために、領地の少女を幾百も虐殺してきたという悍しい過去。

 今度こそエリザベートは自身の罪と向き合おうとしているのだ。

「でないと私は永遠に悪人のまま。ごっこじゃなくて本物の歌姫(ディーバ)になるには、それから始めなきゃね」

 彼女の罪は、決して小さいものではないだろう。

 どんな形で償うにしろ、エリザベートの贖罪は長い年月が掛かる筈だ。

 数年、数十年。いや、或いはそれ以上の。

 それを経て、エリザベートは今度こそ歌姫になろうとしている。

 だからそれまでは、自由を得る訳にはいかないと。

「……まあそもそも、生きて終わったら、だけど」

「……どういうこと?」

「ハクトとそこのサーヴァントが戦うだけで終われば良いなって話よ」

 悲劇を生みかねない状況の存在をぽつりと零したエリザベートは座っていたベッドから降り、入り口に向かって歩いていく。

「シラハも、早く寝なさい。寝不足は肌が荒れるわよ」

 その言葉を最後に、エリザベートは部屋を出て行った。

「んー……結局エリちゃん、言わなかったか」

 忠告された白羽さんは、やれやれといったように肩を竦める。

 言わなかった――エリザベートは何かを告げにきたということだろうか。

「白羽さん、言わなかったって……?」

「言っちゃって良いのかなあ……まあ、私たちの目的も同じようなものだったんだけど」

 考える素振りを見せる白羽さん。

 それは少なからず、大きな事柄であるらしい。

 エリザベートに代わって告げるべきか、考え物なのだろう。

「まあ、駄目だよね。私が言ったところでエリちゃんの気持ちが伝わるわけないし」

「でもシラハさん……私たちは……」

「そうだね。でも、やっぱり抜け駆けになっちゃうし。もうちょっと我慢しようか」

 拗ねた子供をあやすように、白羽さんはリップの頭を撫でる。

「んっ……ふぁ……、し、らは、さん……っ」

 むず痒そうに悶えるリップは此方の気分に訴えんばかりの扇情的な声を漏らす。

 キリキリと音を立てて震える爪は手を振り払わないよう抑制するのが精一杯のようで、感じる刺激を如実に表している。

 悪戯っ子の如き笑みを浮かべた白羽さんは、リップに制止を言わせずに撫で続ける。

 やがてリップの頬には紅みが差し、薄らと涙を浮かべ息を荒げ始める。

 その挙止動作一つ一つが人を招き入れる性質を持っているように、此方の理性を崩しに掛かり――

 

「――ハク」

 

「っ」

 慌ててリップから視線を外し、咳払いをしつつ平常心へと戻す。

 崩されんばかりの理性を無理矢理に繋いだ鎖の冷たさは絶対的で、如何な性質であろうとも逆らうことはできまい。

 もしこの場にメルトがいなかったらどうなっていたか。

 或いは、あってはならない間違いを起こしていたかもしれない。それほどまでに、リップの挙動が持つ誘惑は大きなものだった。

「……ん? どしたの、白斗君? 顔赤いよ?」

「い、いや……なんでもない」

 リップから手を離しつつ、白羽さんが問うてくる。

 どうやら、あまりにも「それ」に集中していたらしい。

「っ、はぁ……はぁ……っ」

 ぐったりとベッドに体を預け上気したリップの表情を、直視することは出来ない。

 息遣いに含まれる性質に耐えるので限界だとか、そういう話ではなく。

 ――なんというか、部屋の気温が下がっている気がするのだ。

「あ、もしかして、刺激強かった?」

 刺激が強い云々以前に、白羽さんはリップがこういった反応をすることを分かっていたのだろうか。

「ごめんごめん。私たちにとっては結構日常的なことなんだけどね」

「……日常的?」

 一体それはどんな日常なのかとある意味気になる。

 流石に言及するつもりはないが、少しというかかなり……なんというか、アレなように思える。

「さて、と。話すことも話し終えたし、お暇しようか、リップ」

「ふぁ……ふぁい……」

 まだ茫然自失といった様子のリップを連れて、白羽さんは入り口にまで歩いていく。

「お話は中枢に()()()()()、いくらでも出来るよね。言いたいことは全部終わってからにするよ」

「あ……あぁ」

 言葉に含みを持たせながらも、白羽さんとリップは部屋を出て行った。

 彼女は、敗北を決して信じていない。

 未来は絶対にあると、心の底から信じているのだ。

 しかし……どうも、部屋の気温は下がったままのような気がする。

 となると気温低下の原因は白羽さんとリップではなく、他にあるということで――

「……メルト?」

「……」

 まあ、予想は出来ていたのだが。

 絶対零度の視線の持ち主は、真っ直ぐと此方を睨んでいた。

「……最後の最後まで、ハクはそうなのよね。ええ、分かってたわ」

 納得したように頷くメルトは、一歩一歩を重く踏みしめて歩み寄ってくる。

 脚具も付けていないのに、その歩みは威圧的。

 ああ――恐らく神話礼装の影響が出ているのだろう。

 女神の如き威圧感を既に会得していたようだ。

「っ!?」

 気付けば体は浮き上がり、ベッドへと投げ出されていた。

 痛みはないものの、メルトが思い切り足を振るっていたことから何が起きたかは明白だ。

「えっと……メルト」

 メルトは怒りというよりも至極不満げな表情で見下ろしてくる。

「私が傍にいるっていうのに……」

「え……?」

「しかも、私たちの個室でリップに見惚れるなんて……流石の私でも文句の一つでも……言いたくなるわ」

 ……そういうことか。

 服を弱い力で摘んでくるメルトの不満は、その一点に帰結するらしい。

 ともすれば、どうにも申し訳ないという思いに駆られる。

 スキルに該当するようなリップの性質に当てられた……などというのは言い訳に過ぎない。

「……もう今更、私だけをなんて言わないけど。少しくらい、自重してほしいものよ」

 メルトの言葉は、どこか諦観が含まれていた。

 それでも――だからこそメルトにとっては、面白くないことなのだろう。

 長く一緒にいれば、その人の「ある事」に関して答えはすぐに出せる。

 即ち、メルトが今、嘘を吐いていると。

「――あ――――」

 何に対しての嘘か。理解すると同時に、先程から感じていた左手の脈動は確かなものへと変わる。

「っ……」

 元々の記憶が戻ったとき、当然のことだと思っていたメルトの性質二つがSGであることを知った。

 加虐体質と、ドールマニア。この二つは当たり前でありながら、メルトの秘密だった。

 SGとして定義できるあと一つは暫くの間、兆しだけで確たるものにはならなかったが、ようやく確信した。

「……そう、か」

 そのSGは、同じようにメルトの性質だと思っていたことだ。

 それこそメルトが生まれたときから持っていたものだろう。

 だが、ここまでの反応の小ささからして、他の二つよりSGへの昇華は遅れていたようだ。

 恐らくは、本来持っていた三つ目のSGと入れ替わる形で、これがSGになったのだ。

 小さいながらも、ひた隠していた大きな秘密。

「……何よ、その目」

 ――独占願望。

 どんな人間にも少なからずあるだろうその秘密は、メルトの不満の理由を分かりえるのに十分すぎるものだった。

 決まりの悪そうにメルトは頬を膨らませる。

 戦いのときの狩人のような鋭い雰囲気とは真逆の、小動物のようなかわいらしさ。

「ううん……ごめん、メルト」

 仕方ないと割り切られた事柄は一体どうすれば解決するか、それの答えは出てこない。

 だからといって自分をすぐに変えるなんてことは出来ないし、であれば今後、どうにか力を尽くすしかない。

 メルトがどういう不満を持っていても。メルトがどういう疑惑を持っていても。

 彼女が僕にとって、最も大事な存在であるのは変わらない。

「ッ」

 起き上がり、メルトを抱き寄せる。

 そこから唇を合わせるまでに、僕もメルトも何も言うことなく。

 そして特に抵抗することもなく、メルトはそれを受け入れた。

「ん――――ぁ」

 決して長い時間ではない。思いの丈を表すだけに、そう時間は必要ない。

 舌を絡めることもなく。本当に唇を合わせるだけの、数秒程度のキス。

「……ずるいわ、それ」

 これで許されようとは微塵も思っていない。

 だが、ある程度メルトは機嫌を直してくれたようで、体を預けてきた。

 それはやはり嬉しくて、メルトの気が済むまで、その状態を続ける。

 やがて顔を上げたメルトは、一息ついてから言う。

「……もういいわ。シラハの言うとおりよ、こういうのも帰ってからゆっくりと話せばいいものね」

「え、っと……うん。そう、だね」

 何故か「ゆっくり」を強調するメルトに、一抹の不安を感じる。

 だがまあ、今気にしていても仕方ないことだろう。

 若干帰りたいという気持ちが減ったような気もするが、だからといって、最後の戦いに手を抜くわけにもいかない。

「そろそろ休むわよ。時間も惜しいわ。大して休まずに負けた、なんて笑い話にもならないわ」

「ああ、分かってる。絶対勝たなきゃいけないんだ。疲れはしっかり、取っておかないと」

 まだまだ時間があるとはいえ、疲れを取るとなれば決して余分な時間ではないのだ。

 ――最後の夜は、更けていく。

 それぞれの思いは、決意は、最後の戦いに向けて確たるものへと整っていく。

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 +

 

 

「――終わったぞキアラ。いつでも発動出来るが」

「う、ふふ……ではそろそろ始めましょう。お悦びなさい、貴女の秘めたる愛……存分に届けて差し上げますわ」

「ふん。こいつも悪趣味な奴に捕まったものだ。ひどく醜くなった。最早目も当てられん」

「あら、良いではありませんか。だからこそ美味です。ほら、お聴きなさい、アンデルセン。縋り訴えるあの様、なんとも儚く愛おしい」

「下らん。だがアイツならば、お前の醜悪さに相応しい泥を吐くだろうよ」

 

 

 

 

            「――――ン、パイ――」

 




本当に爆ぜてくれませんかねこのザビ。
というわけで、原作から唯一変更した最後のSGの発表です。
キャス狐と同じやつ。あそこまで末期的ではないでしょうが。

何か嫌なフラグを立てつつ、物語は残り最後の一日になります。
いや、まあ時間の流れなんてないんですけどね。

次回は多分、最後の会議です。多分。

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