招かれるサーヴァントは七騎。
アサシン、アサシン、アサシン、アサシン、アサシン、アサシン――そしてアサシン。
真名は全て同じ。
今、七人のハサンと七人のマスターによる命がけの戦争(かくれんぼ)が幕を開ける――!
『Fate/Hasan Night』全世界同時上映!
……風邪拗らせたみたいですね。大人しく寝ます。
僕の持っている、全ての絆。
それを解放すると、レヴィアタンたる魔力の塊は穏やかなものへと変わっていく。
『――――――――――――――――』
声のような、そうでないような、自然な音。
海鳴りか、潮騒か。深い深い海を彷彿とさせる音は耳の奥にまで響いてくる。
『及第点、だってさ。言われて気付くはまだまだだけど、それでこそ力の貸し甲斐がある、だって。あはは、ツンツンデレデレだねえ、レヴィちゃんは』
からかうような、サラスヴァティーの物言い。
それを否定しているのか、レヴィアタンはゆらゆらと揺れている。
ともかく、これでレヴィアタンは力を貸してくれるようだ。
サラスヴァティーは協力的だし、後は一柱。
その前に、力を貸してくれるのだ。礼は言っておかなければ。
「――ありがとう、レヴィアタン。改めて、よろしく」
すると、魔力の塊は再び動かなくなった。その性質を二転三転させながら、落ち着かない雰囲気を醸し出している。
「
頬に走った痛みに、思わず声が出る。
その正体に気付く前に痛覚を刺激していた何かは離れたようだが、ヴァイオレットが素早く手を引っ込めていた気がする。
『フラグ建築が試練だったら余裕で突破できるのにねー』
「……短所を試してどうするのですか」
『苦労するねー、バイオレットちゃんも』
「ヴァイオレットです」
良く分からない――恐らく僕の知るところではないのだろう――会話を交わす二人。
何故だろう。まだ会って大して経っていないのに、妙に共感しているところがあるらしい。
レヴィアタンに視線を送ると、最早自分は用がないとばかりに消えていく。
『次はアルトちゃんだね。まだ出てきてないけど』
アルト――アルテミスは、未だに柱に封じられたままの状態だ。
手掛かりとなる文言は「我、供する物を裁定す」。
そのままの意味で解釈するならば、何か、認めうるものを捧げろということだろう。
だが、レヴィアタンの例もあり、その解釈のままに行動すべきかどうかは考えどころだ。
『でも……出てくるかなー、アルトちゃん』
「え? 何か、あるのか?」
『拗ねてるんだよ、この子』
拗ねてる……?
女神という最上位の存在が抱くには妙に人間的な感情だ。
一体、何があったのだろうか。
「どうせ、マスターのせいなのでしょう?」
『うん、そう。物分りが良いね』
「大体、そういうものですから。それで、何が原因なのですか?」
「いや、僕に聞かれても……」
まったく覚えがない。
初めて会うのだから仕方がないが、話したこともないのに思い当たることと言われても無理がある。
「サラスヴァティーは、分かるのか?」
『勿論、分かるけど……それを私の口から言わせるの? わー、ご主人様ったら、鬼畜ー』
意味が分からない。
どう言い返して良いものかと思ったが、黙って視線を向けることで促すことにする。
『……うー、まあ、良いけどさ』
サラスヴァティーは嘆息して、アルテミスの柱に向かって歩く。
『この子――誰とも交わっちゃ駄目なんだよ。なんてったって、処女神だからね』
「……」
なんとなく、察してしまった。
と同時にどうしようもない居心地の悪さを感じるようになる。
既に分かったとばかりにヴァイオレットから伝わってくる冷たい視線がとても痛い。
『私は別に気にしないし、レヴィちゃんみたいにからかうほど酔狂じゃないけど、アルトちゃんはどうかなー』
つまり……そういうことか。
自身の神性を蔑ろにする者たちに力を貸すのは気が進まないと。
「……えっと、どうすれば」
『まあ、アルトちゃんも筋金入りだし、ご主人様の健闘次第だねー。なんて伝わってきたの?』
試練の内容だろうか。
とりあえず、伝わってきたままにサラスヴァティーに言うと、考える素振りを見せる。
『んー、こっちは単純だね。要するに、何か供物を差し出せって事だし』
「そのままで良いのか?」
『ん? うん。でも、当のアルトちゃんはこの通り。出てこない神様を出てこさせるのは大変だよー。どっかの国にそんな話があったみたいだけど、今回のアルトちゃんはワケが違うからねー』
サラスヴァティーが引き合いに出したのは、日本神話における天岩戸の逸話だろう。
しかし、アルテミスが同じ理屈で出てくる訳がない。
彼女に認められる手段は、捧げる供物を以って裁定を受けるしかないだろう。
「……サラスヴァティー。アルテミスはマスターの供物の何を見定めんとしているのでしょう」
『さあ? それは私には分からないよ。ただまあ、並大抵のものじゃ見向きもしないだろうねー』
そもそも、この場で供物を用意しろといっても、何も持ってはいない。
しかしそれはアルテミスも承知の上だろう。
力を貸すことが不満だといっても、絶対に不可能な試練は提示してこない筈だ。
ならば、アルテミスはこの場で用意しうる何かを捧げろと言っているのだろう。
レヴィアタンは僕が持っている絆を以って、周りを取り巻く力を見定めた。
であれば、僕たちの持つ力や術式については知っていると見て良い。
となるとアルテミスは、この場で僕が用意できる何かを捧げろと言っているのだろうか。
『……何なら、ご主人様の命でも捧げてみる?』
「なっ……! それでは本末転倒です、命を求めるのならば、私が供物となります!」
「待って、ヴァイオレット。きっと、そういうことじゃない」
サラスヴァティーの提案は単なる冗談だろう。
アルテミスが何を求めているにしろ、試されているのは僕だ。
中枢に戻るための試練において、命を供さなければならないならばそれこそ本末転倒というものだろう。
僕が用意できる、最も価値の高い供物。見回して、ふと一つ目に入った。
「……これは、どうかな」
左手にある、残り一画となった白い刻印。
ムーンセルによって得たものではなく、僕の術式の鍛錬の成果。
裁定を受けるのならば、これが最も相応しい代物ではないだろうか。
『どうだろう? 私にはそれは特殊な令呪にしか見えないけど、結局ご主人様がこれだと思ったものが一番だろうから、良いんじゃないかな?』
恐らく、チャンスは一度きり。
寧ろ気が進まないのに機会をくれたこと自体、慈悲を示してのことだろう。
ならば切り札の一つであろうとも、惜しむことはない。
此処から先、別のサーヴァントと契約する理由はほぼ存在しない。
この切り札を切るにおいて、考慮すべき要素はたった一つ。
これが捧げるに足る供物として認められるか。それだけだ。
「……よし、やろう」
柱に近付く。特に他の柱との違いは見受けられないが、拒絶感のようなものを感じる。
すまないが、少しの間力を貸してほしい。
そんな気持ちを込めて、刻印に意識を集中させる。
「白紙の令呪を、女神アルテミスに捧ぐ――」
淡い輝きを放つ令呪。少なくとも僕には今、これ以上のものは見つけられない。
これを見てどういう決定を下すか。全てはアルテミスのみぞ知ることだ。
「――僕たちに力を、貸してほしい――――!」
擬似契約にしか使用できない筈の令呪は、役目を発動して消えていく。
白い魔力はそのまま柱へと飛び込んでいく。
全てを使い果たした左手は、虚無的な寂しさがあった。
だが、後悔はない。三画全てを、道を切り拓くために使用できたのだ。
『さてさて、どうかなー?』
何処か愉しむような、サラスヴァティーの物言い。
「……」
対してヴァイオレットは慎重にその様子を見届けている。
「――」
僕が作りうる最大の術式を信じるのみ。
果たして――
――――柱は、砂のように風に流れて消えていく。
『凄いねー。アルトちゃんが満足するなんて』
「って、事は……」
『うん。アルトちゃん、認めてくれたよ』
捧げた供物は、アルテミスに届いたらしい。
彼女の裁定が如何なる動きをもって成されたのかは分からない。
分かるのは、その結果のみ。ただ、認められたという事実のみだ。
「良かった……これで」
『そうそう。これで二つ。レヴィちゃんとアルトちゃんの力は借りられる訳だね』
「――え……?」
ごく自然に言い放たれたからだろう。
サラスヴァティーの言葉の違和感に気付くのに、少し時間が掛かった。
レヴィアタンの試練を突破し、アルテミスに認められた。その事実に決して変わりはない。
だが――二つ?
「サラス、ヴァティー……貴女は既にマスターたちを認めているから、助力をしてくれたのではないのですか?」
『うん? そんな事、一言も言ってないよ? 流石に私も、そこまで甘くはないよ』
最初から友好的だったサラスヴァティーは、有無を言わずに力を貸してくれるものとばかり思っていた。
だが、助力をしたというのはあくまで、彼女の「戯れ」だったのだろう。
それとこれとは話が別。レヴィアタンともアルテミスとも別の、サラスヴァティーの試練は残っているのだ。
『まあ、だからって何をしようって訳でもないけどねー』
しかし、サラスヴァティーは首を横に振る。
『我、流るるままに。私は物事の流れに乗るまでだよ。レヴィちゃんとアルトちゃんが認めたなら、私はそれに乗っかってあげる』
「サラスヴァティー……」
流れるもの全てを司る女神。
その性質は、こんなところにまで現れるのか。
『だけど、一つ確認しても良いかな?』
「ああ。なんでも」
『ご主人様、既に死の確定したマスターたちの処断について、決めているのかな?』
それは、中枢に向かうにおいて絶対にぶつからなければならない命題だ。
ゆえに、考えてきた。
メルトは助かる可能性があると言っていた。虚言だったかもしれないが、僕は既に一つ、見つけている。
彼ら、彼女らへの、せめてもの返礼を。皆を生きて地上へ戻す可能性を。
「……決めている。皆を地上に帰せるよう、尽くすつもりだよ」
聞き届けたサラスヴァティーは、暫く考える様子を見せてから頷いた。
『認められた死の運命を覆す。それが良い事か悪い事かなんて、その人次第。さてさて、どうなるやら』
僕たちに背を向けて、心底愉快そうな声色で、サラスヴァティーは独りごちる。
メルトの姿をとった陽炎は、曖昧な輪郭を更に薄くしていく。
役目を終えたのだ。最早下位の存在の前にいる必要はない。
『――良いか人間。我らは貴様のサーヴァントにそれぞれ権能を授けた』
消え行く陽炎は再び例え難い雰囲気を放ち、その口調を変化させた。
『一つ。力の窮極。最強存在という概念。しかしそれは無敵とは意味が違う。敵が有るか無いか、それは貴様と本体次第じゃ』
『二つ。災厄の毒。人には想像し得ぬ死の色じゃ。あらゆる生命を脅かす最上位の魔。下らぬ戦の勝者に相応しい、最も人を殺した証じゃろうな』
『三つ。遍く源流。如何なる物事にも流れがある。神が定めた流れに逆らうは不届き者よ。故に、裁け。醜悪の化生など、残すは許さんぞ』
言の葉は存在に刻み込まれるように、深く残る。
三つの権能の真髄はまだ定かではない。とはいっても、それらが絶対的なものであることは否が応にも伝わってくる。
『我らが力を授けたのだ。無様を晒すことは我らへの冒涜と知れ』
そんな警告をして、陽炎は消えていく。
「――分かった。頑張るよ、サラスヴァティー」
『力を振るうは当然よ。ではな、“ご主人様”。そしてバイオレットよ。――精々頑張って。無理して、無理して、その先で……ハッピーエンドがあると良いねー』
結局、彼女の性格の本質はどちらだったのだろうか。
分からないまま、サラスヴァティーは跡形も無く消えた。
「……ヴァイオレットです」
最後まで呼び名を通したことに、ヴァイオレットは不満げに呟く。
ともあれ、女神の封印は破壊した。これで空間に留まる理由はないと言わんばかりに、全身の感覚が薄れていく。
「どうやら、契約はこれまでですね」
「ヴァイオレット……」
「心配せずとも、これより先はBBと再契約をします。神話礼装を解放した以上、他のサーヴァントに負担を掛けるのは効率以前の問題です」
言いつつも、ヴァイオレットは自ら契約を断った。
契約のパスは再びメルト一つとなる。
「……とはいえ、寂しいものですね」
少し悲しげに、ヴァイオレットは微笑む。
共に向き合いながら、残る僅かな時間を共有する。
遠のいていく意識に身を任せながら感じる、不思議な感覚。
やがて女神を封じた楽園は、完全に視界から消えていった。
レヴィアタン:ドS
アルテミス:クレクレちゃん
サラスヴァティー:フランチェスカ
なんだこいつら。
ともあれ、神話礼装を取得しました。
ようやくこれで最終決戦……とはいかないんですけどね。
以下、ヴァイオレットのCCC風戦闘スキル(想像)
『限界設定』 使用MP40
相手のHP表示が????のとき、1ターン目の初手でのみ使用可能。
相手のHPの下四桁を全て0にする。
表ラスボス戦で使えば早速6988ダメージ。チート。
『束縛の糸』 使用MP30
筋力ダメージ+アタックスタン。
『戒めの鎖』 使用MP50
バフ。相手の手に勝利したとき、一定確率でスタン効果。
『自己管理』 使用MP20
バフ。ターン終了時HPの20%分回復。
『戦況分析』 使用MP50
バフ。3手の間、全ての攻撃に勝つ。顔のない王。
『コカトリス』 使用MP40
魔力ダメージ+麻痺
『鴆』 使用MP40
魔力ダメージ+毒
『ヘルハウンド』 使用MP50
魔力ダメージ+呪い
『ワイバーン』 使用MP70
筋力ダメージ+二手スタン
『ペーガソス』 使用MP70
筋力大ダメージ
『
使用条件:EXターン3回発動
魔力ダメージ+使用したターンの相手の行動を全てwaitに。
召喚士的な。状態異常とスタンでハメ殺すみたいな感じです。
次回は多分、再び落ち着きムードです。多分。