Fate/Meltout   作:けっぺん

229 / 277
GO配信前に完結したらみたいな感じでフラグ立てようとしたけど何も思いつかない。
戦いはまだか。


Anima Ataraxia.-2

 

 

 もう訪れることはないと思っていた生徒会室。

 その扉を開いて、視界に映ったのはこれまでと何ら変わりのない面々……という訳ではない。

 いつもその部屋にいたサーヴァントのうち二人が欠けている。

 ノートとの戦いにおいて、セイバーとジャックは消滅した。

 ラニの表情は晴れず、実体化しているアタランテはラニの傍――普段ジャックのいた場所を眉を顰めて眺めている。

「ああ、来ましたか、ハクトさん」

 レオの笑みは、見るだけで安心感を覚えるものだ。

「どうやら、復帰は適ったようですね。一時は危険だったのですが」

 嘘偽りを一切言わないカレン。彼女も相変わらず、いつも通りだ。

 一見平和な空間。だが、許容しえないものが一つ。

 生徒会室のボードに映っていた、セブンレイターの数値。

 BBが送ってきたプログラム――月が彼女の手に落ちてから七日後の地上の様子を記したものだ。

「あれは……」

 その画面を見て、BBが自身を疑うように目を擦る。

 彼女は何ら、手を加えてはいないのだろう。

 ならば、あの数値はなんなのか。

 

ALL() DEAD()

 

 100%。

 画面は、地域の分け隔てなく真っ赤に染まっていた。

 それが指し示すのは、一切の漏れもない全滅だ。

「こんなの、気にしなくていいのよ。どうせキアラが動揺目的でデータに細工したんでしょ」

 凛はそれを大して気にしないようだ。

 どころか、誰一人それを真に受けていない様子だった。

「殺生院 キアラの声は此方にも聞こえていました。それで、どうするのですか、ハクトさん」

「え……?」

 単刀直入に、ラニが問うてくる。

「今、貴方――そして私たちが出来る選択は二つです。諦めるか、戦うか」

 その目は、至極真剣なものだった。

 そして、そんな選択肢を出しておきながら、諦観なんて少しも持っていない。

 どちらにでも動くことが出来る。彼女は、一人の選択を待っている。

「貴方の選択が、私たちの選択。私たちは、どちらでも構いません」

「儂らは、君の価値観に全てを預けよう。何を選ぶも、君次第ということだ」

「即ち神託よ。お主の導きが、我らの礎となるのだ」

 彼ら、彼女らがそう言うならば。そんな曖昧な決定などしない。

 生徒会が、この旧校舎が、どういう決定をしようと僕の選択など最初から一つしかない。

 ――『諦め』。

 そんな言葉は、最初から僕の選択肢には存在しない。

 今までだってそうだった。諦めなんて出来ていれば、僕はこんな場所にまで来てすらいない。

「僕は、戦う。世界の一つたりとも、僕の手で変える訳にはいかない」

 僕は管理者だ。

 平行世界全てを見届け、その終わりまでを管理するのが僕の役目。

 どんな世界であれ、一つとして手を出すことは禁忌に等しい。

「なら、私たちはそれをお手伝いするだけ。命じなよ、白斗君。私たちに勝った勝者として」

「命令……は、出来ないけど」

 白羽さんのそれは、軽い冗談なのだろう。

 生憎、僕には人を動かそうとしても命令は出来ない。

 性格的にしょうがないのだ。だから形式上は、命ずるのではなくあくまでも頼みとして。

「――皆、頼む。力を貸してほしい」

「……私からも頼むわ」

 状況が悪いのは明白だ。何せ、メルト自らが、その性格と矜持を捨てて頭を下げる程なのだから。

「頭を上げてください。そこまでしなくても良いんです。本当に命じれば良かったのに」

 レオは吹き出し、くつくつと笑いを堪えながら言った。

「最後の作戦になりますね。月の裏側の最終決戦――月を守る防衛戦線ですか」

「良いじゃない。中々にセンスがあるわ。オーディエンスが少ないのが残念だけど、歌い甲斐のあるステージになりそうよ」

「それで、何か勝算があるのか?」

「ない」

 きっぱりと言えるほどに、それは確実なものだった。

 勝つか負けるか、やってみないと分からない。戦力は不明で、少なくともキアラさんにとって自信があるくらい。情報といえばこの程度なのだ。

「……BB。キアラさんについて、何か分かることは?」

「……影で彼女を操ろうとした私を、違和感すら抱かせずに騙せるほどに、精神操作に長けていること。それ以外は、何も」

「ち……力が強くて、すごく、強いです」

 BBを補足するようにおずおずと一つ、口が開かれる。

「……リップ」

「私、全然敵いませんでした。弱っていたってのもあったけど……」

 もしかして、それは彼女の生前……この事件の発端となった記憶の話だろうか。

 彼女に討たれた果てに体を操られ、その先でメルトによって身を滅ぼされた。

 リップが言うのであれば、十分に信頼できるものだ。

「リップ、貴女……」

「……情報源は分かりませんが、それは僕らの追及すべき事柄ではないのでしょうね」

 あえて言及せず、レオは何か術式の操作を始める。

「良かったわね、無駄にならずに済んで」

「ええ。BBが此方に来たときは、どうしようかと思いましたが」

 突然自身の名前が挙がり、BBは首を傾げる。

 疑問への回答は、ラニが受け継いだ。

「ローズマリーに最後に渡された、BBの詳細データ。かなり多重のプロテクトが掛けられていましたが、先程解凍が完了しました」

「それは……!」

十の王冠(ドミナ・コロナム)の元となったバビロンの妖婦。そして、更に大元である、ムーンセルすら名前を忘れたチャタル・ヒュユクの女神の権能、百獣母体(ボトニア・テローン)。それらの詳細です」

 バビロンの妖婦――七つの丘を司る獣を駆る、退廃の守護神。

 そして、その伝説の基盤となったのがチャタル・ヒュユクの女神。

 その歴史の下層は九千年もの昔に遡るとされる。

 太古に存在した、万物の起源である女神の権能。そうか……BBはそんなものを。

「……でも、私はここにいますよ? そんな情報、最早幾らでも提供しますし、今更それを解凍して何になるんです?」

「BB、貴女のスキルの情報を調べた結果、我々も『原初の力』へのアクセス権を取得しました」

「原初の……力」

「ただし、アルターエゴの場合は特殊極まります。原初も原初、人類史における始まり(オリジン)、人には届かない、究極の一――」

 あらゆる原初を超える原初。

 地上に生きる全ての上に立つ、概念の名。

「即ち、構成する女神の権能の集合体。神話礼装を解放します」

 生命であれば、何であれ原型(オリジン)というものは存在する。

 恐らく、どんなサーヴァントにもその能力を付加することは可能であり、果てまで至れば権能にまで手が届くだろう。

 神話礼装。だが、アルターエゴのそれは更に上を行く。

 英霊の至る権能こそが基盤。構成する女神全ての権能を備えた礼装。

「それを……メルトに?」

「はい。それが、我々に用意できる最大の戦力です」

 確かに、それが手に入れば勝率はぐんと上がるに違いない。だが、

「……ちょっと。正気で言ってるの? 最上位ではないけど、れっきとした女神よ? それも三柱。扱う私自身は良いとして、誰が起こしに行くのよ」

「決まってるでしょ。当然誰かサーヴァントのお供を連れるとはいえ、マスターで勝ちの目があるのなんて、たった一人じゃない」

 女神の眠りを妨げる。否、叩き起こし、更には屈服させる。

 誰が聞いても明らかな暴挙だ。どうやら初耳らしいガトーは口を開いて唖然としていた。ある意味、非常に珍しい表情だろう。

 ともかく、その手段を取るのであれば、その役目を請け負うのはただ一人。それ以外ありえない。

「うん。僕が行く」

「ば――馬鹿じゃないのハク!? 女神の力はサーヴァントとは比較にならないわ!」

「分かってる。だけど、起こしに行くのはメルトを構成する三つの女神だ。なら、勝てる」

 協力を申し出ることは、決して不可能ではない。何故なら――

「何を根拠に――」

「メルトのマスターだから」

 これまで幾度となく、死と隣り合わせの危険な戦いを繰り広げてきた。

 それはメルトがいてくれたからだ。

 最大にして、最愛のパートナー。そんな彼女の性質は、一番僕が理解している。

「――……なんかもう、勝負は見えてますね」

 カズラの苦笑交じりの言葉に、目を見開いていたメルトは脱力して壁に寄りかかる。

「……そうね。確認するまでもなく、私のマスターは馬鹿だったわ。本能が勝てないワケよ」

 呆れた様子のメルトに何も言えなくなるが、ともかく、方針は決定した。

「可能性が上がるなら、それに越したことはない。その方法で行こう」

「分かってると思うけど、危険よ?」

「それでも良い。時間がどれだけ掛かるか分からないから、今すぐにでも」

「なっ……! それには反対です! まだ紫藤さんは全快していません、せめて回復するまで休んでください!」

 しかし、それを桜が止める。

 確かにまだ絶好調と言える状態ではないが、もうそれほど時間は残っていない。

 神話礼装の解放にどれだけ時間が掛かるかも分からない以上、休んでいる暇はないのだ。

「しかし、休息は決戦に向け、神話礼装の解放後に取るべきです。連戦はあまりにも厳しいかと」

「でも……」

「それなら、全快させれば良いでしょう」

 抑揚のない声に振り向くと、槍の切っ先が向けられていた。

「……カレン?」

聖者の選択(ロンギヌス)

 誰が反応するよりも早く、カレンは槍の真名を解放した。

 何を言う前に、光が此方に飛び込んでくる。

 刃に巻きついていた布が剥がれ、飛び出した光の刃が突き刺さる。

「――!」

 しかし、決して痛みを負う事はなく、瞬間的にあらゆる苦痛や疲労が消え去った。

「……これで大丈夫。少なくとも、貴方自身の思う最善の状態になった筈です」

「今のは……?」

「この槍の選択の一つ。この槍がかつて吸った血の力で、傷を癒しただけの事ですが」

「主の血液か。確かにその血は死した眼にさえ光を取り戻したという。それほどの力は備わっていよう」

 『聖者の選択(ロンギヌス)』の力か。傷は嘘のように消え去り、痕跡すら残っていない。

 これならば、戦える。何の問題もなくなった。

「ありがとう、カレン。さあ、始めよう」

「それで、誰が一緒に行くんです? センパイを絶対守れる自身のあるサーヴァントなんて、いるんですか?」

「いるじゃない。BB、貴女は()()を信用していないのかしら?」

「なんですって……?」

 BBの疑問は、僕も抱いていた。

 女神に匹敵するほどのサーヴァントなんて、そういないだろう。

「彼女……?」

「ハク」

 メルトが歩み寄りながら、『それ』に手を掛ける。

 彼女は確信しているようだった。

「ほんの少しだけ、浮気を許すわ。これ、返してあげなさい。そして、絶対に勝ちなさい」

 渡されたものと、その言葉を繋ぎ合わせる。

「まさか……」

「始めるわ。よろしく」

「……はい。暫くそこを動かないでください」

 問い返す前に、メルトは術式に囲まれた。

 メルトが目を閉じると、すぐに意識は失われたようだった。

 眠りについたメルト。そして、紡がれる術式は後一つ。

「魂を肉体と精神から抽出。精神感応を開始……接触、開始します」

「ハクト君、良く聞いて。すぐにサーヴァントを送るわ。通信は出来なくなるから、後は貴方次第よ」

 術式に囚われ、遠のく意識。凛の言葉を受け止め、頷く。

「――センパ――――」

 最後に、BBの声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 逆行する運河。原初の黎明。

 

 それは、メルトの電脳体。ハイ・サーヴァントの柱を閉じ込めた、アルターエゴという存在を形作る世界。

 

「――――」

 例えようのない世界だった。

 電子の空間でありながら、始まりそのものの大地でもある。

 ひどく居心地が良い。清澄な空気に満ちた世界はどこまでも広がっているようだった。

 それら全てが、1と0の塊だ。苔生した神殿の柱に触れてみると、ノイズのようにざわりとした感触が伝わってくる。

 メルトに渡された『それ』は手に残っている。

 しかし、それの持ち主が、一向に現れない。

「……」

 空を見ると、一羽の鳥が羽ばたいている。

 当然それも本物ではない。

 この世界で適応化された、イメージに過ぎない――

「……え?」

 ゆっくりと此方に近付いてくるその鳥には、見覚えがあった。

 細部まで精巧に作られた針金細工。

 鳥は以前見たときよりも遥かに大きな魔力を伴っていた。

 音のない羽ばたきで手元にまで飛んできた鳥は、『それ』を銜える。

 そして、少し離れたところで体の形を崩す。

 輝く繊維となって再構成されるのは、長身の人型。

「――言うまでもありませんが、しかし、形式というものもある」

 たった数日。ながらその間に起きた出来事によって、とても長い期間に感じた。

「ならばそれに則るべきですね。正直なところ、憧れもあった」

 彼女が、凛の言っていた女神に匹敵するサーヴァント。

 戦闘能力がそこに至るかは分からない。だが、彼女の力は信頼できる。

「求めに応じ、貴方を守護すべく参りました」

 かつて、ノートによって倒されたと思っていたアルターエゴの一人。

 BBが最も信頼を置いていたブレーン。

 彼女はメルトが持っていた眼鏡を再び身に着ける。

 閉じていた目が開かれる。

 その目が此方を捉えた。僅か微笑んだ彼女に、僕も自然と笑みが零れた。

 彼女が生きていた。それがただ、嬉しかった。

「――問おう。貴方が、私のマスターですか? ……なんて」

 彼女らしくない、喜色の感情を表に出した茶目っ気を終わりに出しつつの問いに。

 頷いて、答えを返す。

「……よろしく――ヴァイオレット」

 ここに、一時の契約が交わされた。




というわけで、ヴァイオレットさん復活です。
鳥一羽の消滅をハクが見ていなかったり、凛の部屋の針金細工だったり伏線は地味に張ってました。
神話礼装は原作の同名礼装とは仕組みが違います。
ちょっとチートが過ぎるかもしれないけど、まあ良いか。相手キアラだし。

次回は多分、また戦闘です。多分。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。