・黒髪の美少女からの執拗な嫌がらせをはじめとして色々な子に理不尽なまでに振り回される主人公の話(シリアス>シュール)
・たった一人の女の子を死の運命から逃れさせたら後は野となれ山となれな転生者が偏りすぎな原作知識で頑張る話(シュール>シリアス)
・突如現れた転生者がハードモードを逆手にとってトチ狂った邪悪な野望を達成するために頑張らない話(シュールストレミング)
それぞれ、原作は内緒です。ですが一つは東方、一つは艦これです。
多分この三つのどれかになります。Meltoutが終わったら複数書く可能性もあります。
床から、空間から、鎖は無数に現れる。
しかし以前のように体の動きが封じられるということはない。
概念の創造を行っていないのか、それもと動きの封殺とは違う何かを行っているのか。
前者だとしても、あの鎖に対して油断するわけにはいかない。
あれに絡め取られれば、概念など関係なく動くことなど不可能になるだろう。
「捕えなさい、
一斉に鎖が襲い来る。
セイバー、リップは自身に向かってくるのを弾くので精一杯だ。
僕自身も、そう動くことは出来ない。
迷宮各所に盾を展開し、視界を介さなくても周囲の状況を確認出来るよう感覚広域化の魔術を使用する。
地形把握の応用だが、魔力の消費はより大きい。
それでも、体力に限界が近く、魔力にまだ余裕のある状況ではこれはうってつけだ。
「ッ――」
背後からの鎖――直線上にある盾をぶつかる寸前、瞬間的に強化させて防ぐ。
左前方から一つ、上方から二つ。
三連撃の速度を把握し、順に盾を強化させる。
通常の強化では精々一撃を防ぐのが限界だろうが、
「あ――」
「ラニ!」
ラニが一つ、対処に遅れた。
だが問題ない。鎖の迫る位置にも盾は展開してある――!
「
鎖の本数はサーヴァントたちへの攻撃に重きを置いているようで、僕たちに襲いかかる分はどうにか僕でも把握しきれる数に収まっている。
「すみません、ハクトさん!」
「ううん、気にしないで。それよりも……」
なるほど、理解した。
ノートが概念の創造という、宝具の中でも特異かつ驚異的な効果を発動しないのは、不確定要素がいるからだ。
自身が位置を確認していないマスターやサーヴァントがいる以上、不意打ちの危険がある。
以前、四階層でノートと相対したとき、束縛が解けたのはアルジュナという不確定要素のおかげだった。
概念の創造は、意識の埒外にある者には作用できない。その弱点をノートが対策しない筈もない。
ゆえに、咄嗟の使用に向いたこの鎖という形で束縛をしようとする。
動けなくするだけであれば、この形態で十分事足りる。不意打ちがあっても、対処のしようがある。
そう考えたのだろう。そして事実、有効に動いている。
「防ぐので手一杯。私に迫るには程遠いようですが……これ以上がないのであれば、あなた方だけでもまず終わらせましょうか」
斧を持たないもう片方の手。ノートがそれを軽く振るうと、彼女の周囲に更に多くの鎖が出現する。
あれだけの数が追加されては、狙われた者は逃げ切るなど不可能だ。
万事休す――そう、思ったとき。
「――合わせなさい、ハクト君!」
「ッ!」
僕たちと反対側――ノートの背後から、声が聞こえた。
と同時に、誰を狙ったのでもない、何もない方向へ弾丸が飛んでくる。
――否、これは攻撃ではない術式だ。
「そこ!」
盾を展開、瞬時に強化する。
受け止めた術式はその場で停止した。
「次よ、全部受け止めなさい!」
立て続けに、十を超える術式が飛んでくる。
「何をしようと、無駄なことです!」
ノートは当然、それを迎撃する。意識が其方に向いたからか、襲い来る鎖はなくなっていた。
幾つかはノートに打ち落とされても、その数だけまた飛んでくる。
設置されたものも随時壊される。
そんな中で、求めていたのだろう数が設置された僅かな期に、その術式は組み上げられた。
「大丈夫よ、ノート。安心しなさい、直接危害を加える術式じゃないわ」
反射位置を正確に計算してのものか、複数の術式はノートから距離を取りつつも全方向を囲んでいる。
動きを封じるには、あまりにも広い。それらを繋いで網を作るにしても、その間隔はノートならば余裕を持って潜り抜けられる。
「そうですか……単純なものでないのなら、尚更厄介でしょう――ね!」
ノートから分散される泥。
飛び散ったそれらは剣や斧、槍へと姿を変え、各所の術式に向かって射出される。
しかし、
「――それには同意です。ミス遠坂は相変わらず、即興の術式が高度だ」
術式に泥の武器が届く前に、ノートの姿が見えなくなった。
「なっ……!?」
「これは……!」
いや、より正しく言えば、術式で囲まれた内部の一切が見えなくなった。
小規模ゆえに高密度、コストパフォーマンスと威力を両立させた完璧な炎の檻によって。
彼の決着術式の応用だ。力をそのままに、展開範囲を制御し檻を作り出している。
「掛かった――! 今よ、ランサー!」
「ガウェイン、先陣を。ランサーの一撃を、より確たるものにするために」
「御意、最古の神話を、今こそ灼き尽くしましょう!」
主の命に返す騎士の言葉は、上空から聞こえてきた。
――見えた。
宇宙の星々の中に、圧倒的なまでに大きく輝く太陽が二つ。
一つは、先となる剣の太陽、ガウェイン。
一つは、後となる槍の太陽、カルナ。
「夜を祓え――
薙ぐのではなく、突き出された聖剣は、放つ輝きをそのまま球として撃ち出した。
「ッ――まさか……っ!」
火球は檻を頂点からぶち破り、しかし貫ききることなく内部に納まっているようだった。
先陣、ランサーの一撃を確たるものにするため。その意味を理解した。
二つ目の太陽、ランサーは既にその槍を構え、振りかぶっている。
聖剣以外を通さぬ無欠の結界。そこに開いた僅かな孔を、決してノートを逃がすためには使わない。
「その
かつて見せた間接的な破壊とは違い、今回はこの宝具によって直接的に破壊を齎す。
炎の檻に向けて、施しの英雄は言葉を並べる。返答は聞かず、ランサーは戦いに終止符を打つために攻撃を放つ。
「昏き定め、此処で終えるが良い。
紫電の槍は、炎の檻に落ちていく。
頂点の孔から噴き上がる炎。その威力は尋常なものではなく、内部で展開される地獄の威力を証明していた。
中からは、絶叫や抵抗しようとする音どころか、劫火の嵐の音すら聞こえてこない。
「ぐっ……!」
「耐えてレオ! アンタの結界が壊れたら、ランサーの宝具で全部台無しよ!」
炎で展開されている結界には、不自然な皹が見えた。
そこから僅かに、性質の違う火の粉が零れている。
「分かって、ます……ミス遠坂は、術式の維持に集中してください!」
ガウェインの宝具と、ランサーの宝具。
如何に強固な結界だろうと、結界の内部で防ぎ切るのは無理がある。
「ッ!」
壊れる――そう咄嗟に感じ、結界と周囲の術式に強化を掛ける。
凄まじい負荷。だが、二分の一が三分の一になるならば、二人の負荷が減るならば、なんてことはない。
やがて、噴き上がる炎が勢いをなくす。
結界が消えるのと同時に、その向こう側の瓦礫の陰から二人が姿を現した。
「凛、レオ……」
どうやら二人とも、目だった怪我はない。
二人は警戒を抜かず、破壊力のなくなった炎を見ている。
「油断しないで。もしあのおかしな傘を使われてたら……」
そうか。あの正体不明の宝具であれば、この攻撃を耐え凌いだ可能性がある。
アルジュナの全てを賭した最後の攻撃さえ耐えた宝具だ。
一体どれほどの力を秘めているか――
「……、使いま、せんよ」
「え……?」
炎が晴れる。そこには変わらず、斧を片手に握り締めたノートがいた。
傘は持っていない。視線を向けたもう片手には、散っていく宝具が一つ。
「言ったでしょう、あの宝具は嫌いだと。それに、私がこの上ない炎への耐性を持っていること、忘れましたか?」
「……
炎への高い抵抗力を持つ首飾り。
限界を迎えたらしく消滅していくが、だからといって納得できる話ではない。
「真名解放もせず、それほどの抵抗力を持つだと……!?」
ユリウスの驚愕は当然だ。
どれだけ素の状態で高い効果を持っていようと、最上級の威力を持つ宝具二つを防御するなど無理だ。
だが、ノートが真名解放をした様子はない。
というより――これまで数多くの宝具を使ってきたノートだが、『
「――記憶力がないのですね。力で服従させればいい、忘れたのですか?」
「そんな
「あら、ひどい。ちょっとした言葉遊びですのに」
ノートはわざとらしく肩を竦める。
油断をしている様子はない。仕方ないとでも言うように首を横に振り、不敵に微笑む。
「では、ヒントです。対英雄から成ったのが、私のid_es……どうですか?」
対英雄……英雄を凌駕する、本当にごく一部の特殊な英霊だけが持つスキル。
英雄を相手取る際に有利な補正、ないし相手に不利な重圧を掛けるというものだ。
そういった面から、どんな英雄を相手にしても有利という、反則極まりないスキル――どんな英雄でも――
「――――英雄の、情報」
「ご名答。ですが多少訂正を。私が持っているのは、ムーンセルに刻まれた人類史です。名をサーヴァントセル・オートマトン。私が望めば、英霊だろうと神霊だろうとこの身に再現することが出来るのです」
宝具の元になった英霊を自身に再現させることで、『本来の持ち主』となるスキル……?
だが、それでは真名解放をしないという異質さの説明にはなっていない。
「そして、私の場合は使う宝具から該当する英雄を再現します。英雄が宝具を使うのではなく、宝具が真価を発揮するために英雄を選ぶのです」
「その優先順位で……真名解放が不要になるっての?」
「英雄が全力を出すのに、名乗る必要はないでしょう? ねえ、サーヴァントの皆様?」
「……」
サーヴァントが基本的に真名を隠し、クラス名で呼ばれるのはその経歴や弱点を割られないためだ。
当然、真名を名乗ることでリミッターが解除されるという事もない。全力を出そうと思えば、名乗らずとも出せる。
それと同じように、元となっている宝具の真名を口に出さずともその真価を振るえるとでも言うのだろうか。
「……呆れた。人の褌で相撲を取るのも、極まるとここまで来るのね」
「本来の使い手になっているのですから、良いではないですか。それに、私も女なのですから、言葉を選んでほしいものですわ」
これまで、ノートが持つ英霊たちの宝具による脅威は幾らでも見てきた。
真名解放せずとも真価が発揮できるという事を知ったといっても、何ら状況に変わりはない。
だがやはり、衝撃は大きかった。
誇りを知る英霊たちは、少なからずその顔を怒りに染めている。
「まあ、この事実を知って大人しく降伏してくれれば良いのですが――」
「ねえ、のーと」
これでは、ノートに虚を突かれかねない。
そう思い、どう行動するべきかと考えた始めたとき、突如プロテアが口を開いた。
「……なんですか、プロテア?」
「どうしてこのせかい、とっちゃうの?」
不満げな表情で文句を言うプロテアに、ノートのみならず僕たちも怪訝な表情になる。
「……どうして、とは? 貴女が捨てたのではないですか」
言いつつも、床から伸びた鎖の一つを手に取り、まるで自分のものだと主張するようにプロテアに向ける。
「貴女が捨てた迷宮を、私が有効利用しているだけ。とやかく言われる筋合いはありませんよ」
「ある」
「……なら、言ってみなさい。何が言いたいのですか」
「いらないっていったけど――のーとにあげるなんていってないもん」
「……、な――」
平然と言ってのけたプロテアは、他意を持っている様子など一片とも見られない。
それは、彼女の本心だ。
捨てたとはいえ、ノートにあげる義理はない、そう言っているのだ。
「何を、馬鹿なことを。耳を傾けるだけ、私が愚かでした」
「でもね、せんぱいの」
既に聞く耳もないと、ノートは目を背ける。
「さーばんとになら、あげてもいいよ」
ノートがプロテアから意識を移したと同時、迷宮が再び震撼した。
「ッ――いつの間に――!?」
目を見開いたノートが、鎖から手を離すと同時、その鎖が溶けてなくなる。
床の気配が、みるみる変化していく。
『ふぅ……やっぱり効果抜群みたい。ギリギリ間に合ったね、メルトちゃん』
「ええ。高位の女神の力だろうと、本人が意識を向けてなきゃ持ち腐れでしかないわ」
背後から歩いてくる、最も信頼できる少女。
「……メルト」
「ハク、お疲れ様。信じてたわ」
中枢にいたときに良く似た、特異な雰囲気。
それを霧散させて、今まで通りのものに戻りながら、メルトは微笑んだ。
得意げに宝具の紹介しまくってたけど真名開放してなかった理由が判明しました。
そろそろ調子乗ってすぐに足元掬われる流れやめませんかねノートさん。
そんな訳で全員集合。八章も残り僅かです。十話前後? 言ってたね。
次回は多分、あのサーヴァントが本気出します。多分。