Fate/Meltout   作:けっぺん

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アーチャーの正体はアシュヴァッターマンだ。いいな?
孤独の中で味を占めて「ずっとこのままでよくね?」ってなっちゃったんだ。
そしてそろそろ3000年くらい経つからようやく森から出れたんだ。
割と近代的な服装しているのもそういう理由だ。
「私を見たな(威圧)」ってのは3000年の間にコミュ症になっちゃったからだ。
森の中で色々な病を患うってんだから、コミュ症くらい持ってても不思議じゃない。いいな?


Kingprotea.-2

 

 幼化のプロテクトは、プロテアを成長させず一定以上の自我を持たせないためのものだ。

 大人になれば、プロテアは愛を欲するだけでなく、『別の何か』が生まれるかもしれない。

 ゆえにこのプロテクトが付加されたのだ。

 大人になる前に子供へと戻す。それによって自我と精神が成熟するのを前もって防ぐのだ。

 規定以上の年齢に至らなければ、大した自我なんて芽生えない。

 この上ない脅威に、それ以上の好き勝手をさせないためのプロテクト。付加する理由としては、間違っていない。

 だが、それが大きな問題だった。

 行き過ぎた渇愛が欲の成長と判断されたのか、プロテクトがそれを抑え込もうとしている。

「せん、ぱ、い……! おいしい、あいを! たのしいあいを! あったかい、あいをください!」

 ローズの、上限のない喜びとは違う。

 プロテアは喜ぶことにさえ異常が発生してしまうほどの状況にあるのだ。

 イレギュラーが起きたのではない。至極当然な理由。

 自我が、精神が育つ前とは言え、芽生えかけていたものもあったに違いない。

 それが幾度もリセットされ、自我は本来のものと少しずつズレはじめる。

 呪いは特段、プロテアに被害を与えるわけではない。

 彼女の心が勝手にズレてきているだけ。

 発生した異常は少しずつ肥大する。

 それでもリセットされ、しかしプロテアは何も出来ず、或いは気付くこともなくまた成長を始める。

 所謂、ループ状態。成長と幼児退行の繰り返しの中で精神は崩壊していく。

 愛を求める性質が加速し、あった筈の自我など皆無な機械に近付いていく。

 それが今のプロテアだ。

 呪いが勢い良く逆流しているために、今はその影響が色濃く出ている。

 最早、彼女の崩壊は末期にまで至っている。このまま放置していれば、この呪いの逆流で完全に自我を失ってしまうかも知れない。

「くっ……」

 何をするかなど、具体的には定まらない。

 プロテクトをどうにかして、呪いの逆流を止める。可能かどうかも分からない曖昧な目的だけ。

 メルトやリップ、カズラの宝具があれば、このプロテクトを破壊することも可能だろう。

 決着術式によって宝具を模倣することは出来る。だが、宝具の真髄を発動するためのid_esの再現は出来ない。

 プロテクトを溶かす。プロテクトを破壊する。魔術行使で空間を陣地と定め、プロテクトを焼き払う。

 そんな、うってつけの方法は使用できない。

「どう、したの? せんぱい。はやく、はやく……!」

「プロテア……」

 高度に過ぎるプロテクト。この場で即座にそれを解除するプログラムを作るなど、どんな魔術師だろうと不可能だ。

 ならば、それ以上の解など思いつかない僕には手を出せない。

 このまま行く末を見届けて、悪い方向に向かないよう願っているしかない。

 ――そう諦め、割り切るように僕が出来ていれば、この場に来るまでもなく終わっていただろう。

 サクラ迷宮を攻略する以前に、そもそも聖杯戦争を勝ち残ることさえ出来なかったと確信できる。

 そんな、人に唯一誇れるだろう悪あがき。

 窮地にふと見出した活路は、どうしようもなく小さな光だった。

「……」

 そもそも、『そんな効果』が発動するかも分からない、可能性としてさえ考慮に値しない方法だ。

 しかし、迷いはない。一か八かの賭けに慣れている事を、つくづく複雑に思う。

 プロテアにも危険が及ぶことだ。ゆえに、失敗など出来ない。

「プロテア。先に謝っておく――ごめん」

「え、せんぱ――」

 呪いに覆われた小さな体を抱き寄せる。

 発動の具合が分からない以上、接触部位は多い方が良い。

 バチバチと周囲に響く電気の音を意識の外に捨て去る。

 この幼化という現象を作り出すプログラムが僕に効かないのは当然だ。

 『この年齢』の人形として作られた僕には、最初から幼かったときなど存在しない。

 年齢の概念がない以上、若返るという概念も付き纏わないのだ。

「あ――」

 極限まで集中する。作られた静寂の中で、術式を紡ぐ。

 『道は遥か恋するオデット(ハッピーエンド・メルトアウト)』。

 チートスキルの模倣など不可能。しかし、そこに至ることは出来ずとも、応用が利くのがこの術式の最大の長所。

 同時使用は、初めてだ。即興で行うにしては、難易度の域が飛びぬけている。

 意識の配分が重要になる。再現するのは三つの絆。プロテアと同じ性質を持った、女神の権能の模倣――!

弁財天(サラスヴァティー)――五弦琵琶(メルトアウト)

 まずはじめに、メルトの宝具。

 それは、流れるものを司る女神、サラスヴァティーの力。

 溶かす、奪うことは出来ずとも、魔力を浸透させることだけならば十分に可能だ。

 プロテアを封じ込める鎖、幼化のプログラムに自身を浸透させていく。

 術式の細部までを理解し、更に奥へ。プログラムに浸透させるのは前段階に過ぎない。プロテア自身に魔力を届かせる。

「――――――――」

 プロテアが口を動かしている。

 声を発しているのかどうかまでは分かろう筈もない。耳を傾けている余裕はないのだ。

 ただ、彼女のために言葉を発する。それが正しく声になっていること、そしてプロテアに届いていることを願いながら。

「魔力を、受け入れて。今、助けるよ」

 意味の分からない言葉だったかもしれない。

 プロテアには自身が呪いで繋がれているという自覚がない。

 ゆえに、何から助けられるのかが理解できているのかどうか。

 いや、理解できていなくとも構わない。最初の言葉さえ受け取ってくれれば、それで良い。

「――――」

 魔力のパスを強化する術式も併用し、流れる量を増やしていく。

 呪いとプロテア自身の間、針の穴ほどの広さもない溝に魔力を浸透させる。

 一定量まで流した魔力を組み上げ、変質。網のように細かい状態に変化させる。

 ――次だ。行うのはバトンパスではなく、並走。共に並び、障害を跳ね除けるための共闘。発動するのは、未踏の結界。

百花繚乱神阿多都(このはなさくやひゃっかりょうらん)

 通した魔力を陣地と定め、新たな力を発動する。

 カズラの宝具。木花咲耶姫(コノハナサクヤビメ)が自ら産屋に放った炎を顕現させる力。

「――――ッ!」

 通した魔力を一気に炎上させる。

 プロテクトを跳ね除け、再びプロテアに飛び込もうとするのを炎は決して許容しない。

 プロテアは自身から発される炎に目を瞬かせている。暴走に進む一方だった感情が、僅かに停止した。

 ほんの少しの安寧。その間に穿つは、呪いのプログラム。

 これを破壊すれば、プロテアに掛けられた呪いは消える。

 それは、プロテアが無限に成長することを許す、ということ。

 いつしか彼女は、宇宙レベルの災厄になってしまうかもしれない。

 だが、それを避ける道は、何も大人にしないだけではない。

「――プロテア」

 返ってくる声は聞こえない。

 だから、僕が今伝えるべきことだけを確実に伝える。

「大人になろう。そうすれば、縛られることもなく、君が望む愛を探せる」

 呪いを壊す、三つ目の力を発動させる。

 愛を求める性質に長い間浸かっていたプログラムは、心にひどく敏感になっている。

 ならば、突破するのにこれより向いたものは存在しない。

「道理を学んで、常識を学んで、心を学ぶんだ。僕が、それを手伝うから」

 生きているだけで災厄になりかねない、規格外の生命。

 そういったものの存在は、世界の歴史の中にいない訳ではない。

 神霊が力を振るっていた神代の世界ではそういったものが跋扈していただろう。

 宇宙を眺めれば、より鮮明にそんな存在が見える。

 到底全てを確認できよう筈もないが、生態系のある星ならばそれほどの力を持った最強生物もいるのだ。

 それらと、何の変わりがあろうか。

 一歩間違えれば災厄になってしまうのならば、その誤った一歩を進まなければ良い。今からプロテアは、それを学んでいけばいいのだ。

 彼女ならばきっと――いや、絶対に出来る。

 だから、正しい一歩を踏み出すための一撃を放つ。

 並走する二つを追い、全てを終わらせるために。

死がふたりを(ブリュンヒルデ)――分断つまで(ロマンシア)!」

 心に浸かったものを貫くのならば、対心宝具が最も適している。

 表出したのは、一本の槍。

 プロテアから一旦離れ、その槍を握る。

 弾き出されたプロテクト。狙うはその一点――力の限り、投擲する。

 SGが砕ける際に似た、ガラス球が弾けるような音。

「っ……」

 幼化の呪いは砕け散った。これで、終わり。無理矢理彼女のSGを定義するならば、この呪いだけ。

 プロテアの心はまだ幼い。秘密を持つほど成熟していないのだ。

 ゆえに、後は心を解き放つだけ。

「……プロテア」

「せん、ぱい……」

 流石に発生した衝撃が大きかったためか、プロテアは呆けたように目を瞬かせている。

「なんで……? すっきりした、かんじ……」

 そうか、プロテクトの内容は理解していないまでも、自身が縛られている感覚はあったようだ。

 しかしもう、その鎖は存在しない。事実、プロテアは自由の身だ。

「プロテアは自由になったんだ。これからは、どうすることも出来る」

 そう、どうすることも。

 ここで僕を殺し、BBに叛逆しようとするものを殲滅することも可能だ。

 どんな選択をするかは、彼女次第。

 それでも、選択してほしい道はある。

「でも、美味しくて、楽しくて、温かい愛を正しく貰いたいのなら、その方法を学ばなきゃならない」

「……どう、やって?」

「言ったろ、僕が手伝うって――プロテア、君はどうしてほしい?」

 言いながら、片手を差し出す。

 強制では意味がない。促して、プロテアが自分で動いてこそ意味がある。

「――おしえて、ほしい。せんぱい……おねがいします」

「勿論。改めて、よろしく、プロテア」

 伸ばされた手を握る。

 笑いかけると、またも大きく瞳を開き、すぐに俯いてしまった。

「プロテア?」

「ん……、なんでもない」

 ふるふると首を横に振って、微笑みを返してくる。

 心なしか、頬は赤みがかっているが、言及するまでもないだろう。

 ふと、周囲を見れば、空間の破壊はさほど進んでいない。

 心が落ち着いたためか、それとも、心を正しく器に収めるすべを見出したのか。

「さあ、せんぱい。もどるんでしょ?」

「ああ……うん。皆が頑張っているからね。僕も行かないと」

「そう……また、きてくれる?」

 この、心の深層に自ら招こうとするのは、どうも新鮮だ。

 だが、確かにこの場所はプロテアと等身大で話すことが出来る場所。

 良いというのならば、ここに来ることに否やはない。

「良いよ、約束だ」

「っ……うんっ」

 意識を外へと戻していく。

 愛を求めるだけだった外側。その内部は、純真無垢な少女でしかなかった。

 手が付けられないというのは、その全てを理解していなかったからだったのだ。

 

 

 どれだけの時間が経っているのかは分からない。

 だが、開いた目、広がる視界には、未だ激戦を繰り広げるノートとセイバー、リップの姿が見える。

 的確なタイミングで術式を使用するユリウスとラニ。そして、右手を負傷したアタランテもそれを感じさせない矢を放ち攻撃する。

 五人の猛攻を、斧を含めた多数の宝具で対応するノートは疲労の欠片も見せない。

「っ、センパイ……!?」

 目に入ったのか、ノートが驚愕の声を漏らし、セイバーとリップから距離をとる。

「ハクトさん――!」

「……戻ったか。随分と早かったな」

「まさか……プロテアを……っ」

「ああ」

 後ろを向く。蹲っていたプロテアがゆっくりと目を開いた。

「……せんぱい」

「最後の階層の攻略は終わった。後はノート、君だけだ」

 未だ姿を見せていない凛とランサー、レオとガウェイン、そしてメルトが気がかりだ。

 旧校舎からの通信が途絶えたままなのも痛い。

 だが、衛士を突破したというのは大きな進歩だ。

「プロテア……」

「のー、と……わたし、あいをみつけられるよ」

「え……?」

「せんぱいが、てつだってくれるって。だからもう、びーびーはいいや」

 最後の迷宮の衛士であったプロテア。

 まだ戦闘可能なノートを置いて、彼女はあっさりとBBを切り捨てた。

「このせかいも、いらない」

 その一言で、迷宮が解放される。

 空っぽの迷宮となった八階層。ノートはもう僕たちと戦う気はなく、今度こそノートは一人だ。

「……そう」

 残されたノートは四面楚歌。

 だが、目に諦めなどない。

 その笑みは、恐ろしいまでに冷え切っていた。

「なら、良いでしょう。保険が無駄にならずに済みました」

「ッ――」

 瞬間、迷宮の床から幾つもの鎖が飛び出てきた。

 無機質だが鼓動を刻み、仄かに光を放つそれは、ノートが持つ凶悪な宝具。

女神の繰り糸(エルキドゥ)――!」

「こうなった以上、プロテアも障害でしかない。あと少しなのですから、絶対に、中枢には辿り着かせません」

 プロテアと同じように、ノートもプロテアを切り捨てた。

 概念を創造する、女神の泥。

 今までこの戦いで使用していなかった宝具の真髄。

 それを、ついに解放したのだ。

「ええ、あと、少し――なんとしてでも、ここを通すわけにはいかないのです……!」

 八階層での戦いは、最終局面に動いていく。

 中枢に戻るための最後の戦い。その終結のときは近付いていた。




プロテア洗脳完了しました。何言ってんだこいつ。
味方エゴ三人の宝具を同時使用……ハク、恐ろしい子!
id_esは使えないのでエゴが使うような凶悪な力は発揮できません。

にしても、アルジュナさん脱落済みで本当に安心しました。
この状況で書き続けるとなったら謎のプレッシャーに苛まれるところでした。
……ま、まあ、正体はアシュヴァッターマンだろうけど(震え声)

次回は多分、あのサーヴァントが本気出します。多分。

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