Fate/Meltout   作:けっぺん

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GOバーサーカー……一体誰イオスなんだ……
自分も含めて、あのCMだけですぐにダレイオスなんて出てくる辺り型月民って色んな意味でヤバイと思います。
というかアレが椅子に座ってるとスタフィーのイーブルに見える。
第二形態が強過ぎて数年越しに倒した感動は今でも覚えてる。


Wont Love.-8

 

 

 生命活動に必要なものを軒並み破壊して、外に弾き出す殺人宝具。

 それによって、プロテアに表出した異常。

 詰まっていた空気が外へ逃げていくのに似た、不可視ながら強い衝撃が此処まで届いてくる。

「っ――っ――!」

 プロテアはパクパクと口を開け閉めしながら、表情を二転三転させている。

 今起きている出来事が理解できないといったように。ただ自分から逃げていく要素を茫然と見つめている。

 それは、今のプロテアを形作っていたもの。

 即ち、膨大な経験値だ。見る間にプロテアの圧倒的なレベルは下がっていく。

「プロテア……! 今――づっ!?」

 その様子を見かねたノートが、斧を振り上げ――その手がぶれて、斧が落ちた。

 得物を放した手に突き刺さっているのは、一本の矢。

「――あの子の生き様だ。貴様などに、手出しはさせるものか!」

「アタランテ……」

 ジャックが宝具を万全のかたちで使用するためか、霧の範囲が狭くなっている。

 内部がより濃くなった分周囲は鮮明になっており、崩れた建物の陰に、声の主が見えた。

 アタランテの傷も、決して浅くはない。

 共にいるラニが現在進行形で治癒を行っているようだが、完治には時間が掛かるだろう。

 にも関わらず、その矢の冴えはいつもと変わらない。

 その威力で言えば、今までよりも強い。手を貫かんばかりの矢は、確実にノートの動きを止めていた。

 それでも、落ちた斧を左手で拾い上げ――しかし、プロテアの救出に向かうことはできない。

 凄まじい速度で飛来してきた一撃によって。

「セイバー……さん……っ!」

「お前は俺がどうにかする、と宣言したのでな。悪く思うな、ノート」

 左手の斧のみで、セイバーの連撃をどうにか対処するノート。

 どちらも負傷は大きいが、ノートは攻撃を受けるばかり。どちらが優勢かなど明らかだ。

「い――たい――たす、けて――」

 プロテアから零れる声。最早その規模は、サーヴァント一人でも十分対処できるほどにまで落ちている。

 溜め込んでいたものが減っていく。

 その目はジャックを見ておらず、もう何処にあるかも分からない失ったものに向けて手を伸ばしている。

 やがて、何かが発現する。

 一際大きな輝きを持った、球形の物体。

 ジャックの宝具によって現れたということは、それも生命活動に必要なもの。

 当然、見たことはない。しかし、その独特な雰囲気は何度も体験したものであり、忘れることなど出来よう筈もない。

「……心の、核?」

 レリーフ――正確に言えば、その内部の空間。

 プロテアの巨大すぎる心の中心であり、最も深い部分。

 SGよりも秘すべき箇所。

「ハクトさん!」

 ラニに呼ばれ、其方に目を向ける。

「心へのダイブを! ノートの相手は任せてください!」

 この迷宮での戦いを終わらせる一番の近道。

 本来はSGのなくなった衛士の最後の手段である、深層世界による封鎖。

 それをされなくとも、こうした形で深層が表出している。

 ならば、攻略をしない手はない。一刻も早く、と身体強化を掛け、無理を承知で走る。

「だ……駄目、です!」

 しかし、ノートも黙ってみているなどという事はしない。

 体から宝具を射出するかたちでセイバーから距離を取り、アタランテの矢を迎撃。

 手に刺さった矢を引き抜いて、対処をしようとしたリップをも打ち払う。

「センパイ、行かせませ――ッ!?」

 恐らくは、妨害しようとしたのだろう。

 振り上げられた手が、否、ノートの体そのものが唐突に停止した。

 極僅かな時間。セイバーが宝具の対処を完了し、アーチャーが新たな矢を番え、リップが構えなおす。

 そして僕は、後一歩のところまでプロテアに迫っていた。

 一体、何があったのか。

 その答えは、視界の隅――倒壊した建物の上に発見した。

「……」

 僅かな時間ながら、アルターエゴをも束縛する術式。

 それ程の実力を彼が持っていることは、彼との戦いで十分に知っている。

 直撃するまで悟られなかった隠匿性能は、彼が暗殺者たる証明。

 彼――ユリウスの助力もあり、プロテアの心は目の前だ。

「――――」

 ふと、考える。

 メルトは、何処にいるのだろうか。

 まだ無事が確認されていないのは、凛とランサー、レオとガウェイン。そして、メルト。

 心配でならない。本音を言えば、すぐにでも探しに行きたい。

 だが、きっと大丈夫だ。凛もレオも最上位のマスター。そして、付き従えるサーヴァントも一級を超える最強クラスの実力者。

 そして、メルトへの信頼は彼らに勝る。契約の繋がりも相まって、無事であるという確信は十分にあった。

 だから僕がすべきは、僕にしか出来ないこの役目を全うすること。

 ジャックが。ラニが。アタランテが。セイバーが。リップが。そしてユリウスが切り拓いてくれた道を踏破し、その先に手を伸ばすこと。

「――がん、ばって、ね……お兄さん。……、みんな、あり――」

 プロテアの心に飛び込む直前、複数が混ざったような、ジャックの特徴的な声が聞こえてきた。

 激励。そしてほんの少し、言葉を探したような間があった。

 もしかすると、それは最後に言うべき言葉はなんなのか、分からなかったがゆえなのかもしれない。

 だが、彼女に目を向けると、見えた。

 ――笑っている。

 究極宝具によって黒い怨念を吹き出しながらも、急速に消耗していくジャックは、至極幸福そうに笑みを浮かべていた。

 最後の言葉が紡がれる途中、光に飛び込む。五感が外との繋がりを断たれたようだ。

 だが、それよりも僅かに先に、言葉は消えたような気がした。

 言葉の途中で事切れたのか、或いはただの気のせいだったのか。

 全ては謎のまま。分かることは、ジャックには心残りがあったこと。

 しかし、後悔など一切なかったこと。

 願わくば、あとほんの少しだけで良い。このまま、幸せに。

 小さな、小さな。それでいて、この上なく大きな願望。

 その願いを鍵に開いた扉。光の中へ。深く、更に深く、深層へと潜っていく――

 

 

 ――これは、あい。これも、あい。でも、これもあい。

 

 ――だれも、おしえてくれない。どれがほんとうの『あい』なの?

 

 

 広くもなければ、狭くもない。

 何もない筈の心にぽつんと浮いている、一枚の円盤のような空間。

 それが今までの――凛、ラニ、エリザベートの心の深層、その共通点だった。

「っ……これは……」

 しかし、今回は違う。

 少しは想像していた。規格外のアルターエゴであるプロテアの心の中が、今までとは違うだろうと。

 想像は当たっていたが、外れていた。

 より正確に言えば、想像を遥かに超えていた。

 宛らそこは、不要とされたゴミの集積場だ。

 一度は必要とされて、その手に掴んだ。

 しかし必要ではなくなり、或いは求めていたものとは異なり、捨てられた。

 それが繰り返され、捨てられて。積もり積もって、捨てられて。

 用がなくなったのならば、忘れ去られる限り。後は風化して、消えていくだけ。

 そんな、役目が消えてゼロになるのを待つ場がここだ。

 集積されたゴミを処理する機能はない。ゆえにヒュージスケールはこの世界も拡張し、ただ捨て置く機能だけを広げていったのだろう。

 プロテアの圧倒的なレベルを作り上げていた要素が外に弾き出されても、拡張された容量はそのままだ。

 不可侵である心は、手付かずのまま。不要である“何か”もまた、幸か不幸か破滅を免れていた。

 空間に降り立って、周囲を見渡す。

 足場は、非常に悪い。

 そして、メルトはいない。戦うとなれば、如何に力を失ったプロテアと言えども僕に勝ち目はない。

 プロテアが戦う気であるならば、僕も抵抗するほかない。

「……」

 この場での目的は、戦いではない。彼女と話し、心を理解すること。

 迷宮を突破するのに、月の中枢に向かうのに、払ってきた犠牲はあまりにも大きい。

 それを無駄にする訳にはいかない。プロテアとも、戦いたい訳ではない。

 話し合いで解決したいというのは甘い考えだろう。

 だが、プロテアは戦意があるとも言い難かった。きっと、話せば分かってくれる相手だ。

「……プロテア」

 その、話すべき対象は目に映っている。

 今までプロテアに抱いていたイメージの真反対。性質の面からすれば、イメージ通り。

 小さな体だ。カズラと同等か、もしかするとカズラ以下かもしれない。

 細い四肢は何処から伸びているかも分からない鎖に繋がれ、宙に浮かんでいる。

 フリルであしらわれた、派手なドレスに身を包んだ少女。

 置かれている状況に目を向けなければ、普通に見える。しかしながら、髪は非常に長い。宙ぶらりんになりながらもその髪だけは床に付いて余りある。

 これが、プロテアの心そのもの。あの巨大な少女の中心である、精神の核。

 名前を呼ばれたことに反応したのか、包帯に包まれない右目がゆっくりと開かれる。

「…………せんぱい?」

「……ああ。紫藤 白斗だ」

 何処へ向いていたとも分からない目が此方を捉える。

 首がゆっくりと、動く。

「ッ――!?」

 たったそれだけで、ギリギリと空間が悲鳴を上げるように震動する。

 辺りの“何か”のうち、幾つかに皹が入り、崩れ去る。

「しどーはくと……それが、せんぱい」

 プロテアはそれを気にする様子もなく、首を傾げる。

 挙止一つ一つがこの空間にとっては災害も同じらしい。

 軋み、破壊されていく空間。持ち主に気にされず、役目がなくなったものから消えていく。

 動揺は一旦捨てる。彼女に警戒されては、心の理解など夢のまた夢だ。

「そう。よろしく、プロテア」

 危険性は未だに定かではない。

 だが、様子を見る限り、やはり敵意はない。

 未知数の危険と、心の理解。躊躇いはしない。今までだって、そうだった。

 “何か”の山を踏み越えて、プロテアに近付く。

 彼女は何もしない。ただ不思議そうに、目を瞬かせている。

 鎖につながれている事は安全とは比例しない。底の見えない相手に対して近付くのは、無謀でしかない。

 それでも、足は止まらない。否、止まれない。

 もう後戻りは出来ない。いつだって後ろを振り返らず、歩み続ける決心。

 今回も、何ら変わりない。プロテアの心を解きほぐすのもまた、僕が歩まなければならない道の一つなのだ。

「話をしよう、プロテア。僕はそのために、此処に来た」

 未だ呆けているプロテアに笑いかける。

 暫くそのままの表情を保っていたプロテアだが、やがて言葉の意味を理解したかのように微笑みを返してくる。

 邪気など一切無い。一片の欺瞞もない感情をそのまま表に出した潔白な笑みだ。

 大人びた信念を持ったカズラとはまた違う。負の感情など知らないような純粋さは、どちらかといえばありすに近い。

 もしかするとプロテアは、精神的には一番幼いエゴなのかもしれない。

「……おはなし、してくれるの?」

「ああ。どんな事でも、プロテアがしたい話で良いよ」

 警戒を解くと同時に――そもそも警戒など抱いていないようだが――心の理解も並行して行う。

 SGは一つも持っていない。それらの取得もすべきかどうか考え、冷静に対処しなければ。

「あいを、くれる?」

 『愛』。先程まで戦っていたプロテアの本体からも、その言葉は出ていた。

 間違いなく、これはキーワードだ。

 愛を欲する性質は、如何な本質から来るものなのだろうか。

「その、愛っていうのは、何なんだ?」

 先程プロテアは、他愛のない挨拶を『愛』と称していた。

 彼女の価値観。そこから来る愛。その正体を掴むのが最優先だ。

「あいは……」

「うわ……っ!」

 今までにない震動で、すぐ傍にあった“何か”が崩れる。

 空間そのものも皹が入らんばかりの軋みを上げる。

 その理由は明白。プロテアが右手を繋いでいた鎖を引き千切ったのだ。

 幼い体躯だが、やはり力は強いのか。それとも、そもそも鎖がそういう性質だったのか。

 自由になった右手で、プロテアは何かを指差す。

「それ」

 その先にあるのは――何ら他と変哲のない、“何か”の成れの果て。

「それも」

 次に指されたのも、同じ。

 原形がなんなのかすら分からないモノ。

「ここにあるものは、ぜんぶあい」

 そう言うプロテアだが、指すモノを変える度にそれまで意識の向いていた“何か”は消えていく。

「だけど、これはわたしのほしいあいじゃない」

 最初、プロテアはこれらを求めたのだろう。

 自分の欲する愛だと思って、しかしそれは違った。

「せんぱいは、くれるの? わたしのほしいあいを」

 自分の求めるものすら分からない、幼過ぎるエゴ。

 期待を込めた無邪気な表情で、確信する。

 プロテアの性質は、ただひたすらに愛を欲する『だけ』。

 彼女は、満たされないものを満たそうと求め続ける、渇愛のアルターエゴなのだと。




これでジャックちゃんは退場となります。お疲れ様でした。
CCC編が始まって暫くしてから突如登場が決まった彼女ですが、プロテアの心表出という重役を任せました。
ジャックがいなければ、八階層は普通の攻略でした。

プロテア深層の幼女形態は実は、開始当初から決まってたんですよね。
服装や性質は狐尾に合わせて調整しました。最初期のラニ並みに機械だったんだぜ初期設定。

次回は多分、久しぶりにハク無双入ります。多分。

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