Fate/Meltout   作:けっぺん

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誰だよ八章十話くらいで終わるとか言ってた奴。
プロットガバガバ過ぎだろまだまだ終わる気配がねーぞ。


Wont Love.-5

 

 

 プロテアが立ち上がると、周囲の建物すら小さく感じる程の高さとなった。

 あまりにも違いすぎるスケール感。今までの相手と同じようにはいかないだろう。

 まったく違う、彼女専用にも等しい戦略が必要だ。

 巨大という事は、攻撃を当てやすい。

 だが、それは簡単に倒せるという事と比例はしない。

 その巨大な体躯は決して虚構のものなどではない。当然のように筋力と耐久のステータスは規格外(EX)という域に達している。

 そして、彼女にとっては普通に動いているつもりでも、スケールの差がある。

 攻撃しようと思えば、僕たちから見れば十分に素早いだろう。

 彼女の攻撃手段がその体を用いたものだけなのだとしても、危険の度合いは高い。

 高い威力。長いリーチ。広い範囲。どれをとっても強力だ。

「のーと、つかってもいい?」

「構いません。私は気にせず、全力を振るってください」

 何やら、許可を求めるプロテア。躊躇する様子すら見せず、ノートは肯定する。

 いつでも術式が紡げるよう、魔術回路を励起させる。

 慎重に、二人の出方を伺う。プロテアだけでなく、ノートが行動を起こすという可能性は高いのだ。

「ひゅーじすけーる――」

 小さく呟く。

 巨大規模(ヒュージスケール)。あどけない声色で紡がれた言葉の真意を量る前に、再びノートが口を開く。

「そのまま、外に引き出しなさい。合理化は慣れないでしょうが、一度覚えれば手間も掛かりません」

 教授している……のだろうか。それに従っているらしいプロテアの指先に、力が集まっていく。

「っ」

 嫌な予感は、共通したものだったようだ。

 何も言わず、セイバーが跳躍する。

 ノートは動かない。聖剣を構え、自身の体ほどもある指先に向かう。

 しかし、二十メートル以上も上空への跳躍を瞬間的に出来る筈もない。その間に、プロテアがもう一度呟く。

「――すけーるあうと」

「なっ――」

 変質は、一瞬だった。

 プロテア自身から引き出されたにしては、指先に『それ』が出現したのはあまりにも突然でラグがなかった。

 セイバーの聖剣が届く前に出現した、球形の光。作り出してすぐに、プロテアは自身に向かうセイバーを捉えた。

「えいっ」

 軽く、指を動かす。

 指示を受けたように光球がセイバーを迎撃する。

「っ、ぐ――――っ!」

「セイバー!」

 強大な爆発。多大な魔力となって飛散していく魔力。巻き込まれたプロテアは、何事もなかったかのように平然としている。

 失墜していくセイバーは、ユリウスが紡いだ緩衝の術式によって素早く立ち直る。

 その体には傷はない。彼が纏う血の鎧は、Bランク以下の攻撃の悉くを無効化するという強力な性質を持っている。

 今の攻撃であれば、セイバーは幾度喰らおうと一切傷を受けない。

 しかし……今のは一体何なのだろうか。

 瞬間的に現れた光球。

 セイバーを傷つけるほどの威力はなかったまでも、あの生成速度は目を見張るものがあった。

「今のは……」

 プロテアの力の一環……という訳では、ないように思える。

 そうなのであれば、ノートが教える必要もなく行使できるはずだ。

 となると、彼女自身の力を用いた、彼女には考え付かない応用手段か。

 ヒュージスケール。スケールアウト。規模に関連する、二つの言葉。それが続けて、呪文のように紡がれた理由。

 スケールアウト――サーバーの分化により、負荷を軽減する手段。

「――力の分化?」

「ご名答。さすがはセンパイ。察する通り、今、プロテアは自分の力を分けて、攻撃手段として用いたのです」

 その方法自体は奇異なれど、力を分けるという行い自体は特段不思議なものでもない。

 魔力を撃ち出す――僕たち魔術師の術式行使もそれに該当するし、サーヴァントが宝具を解放するのも当てはまる。

 だが、それらとは決定的に違う部分がある。

 分けている、『力』の要素。

 彼女を構成するあらゆる要素を分化して、あの光球を作り出しているのだ。

 魔力だけでない、全てを総括して生成された、プロテア自身の分体とも言える。

 つまり……一回使うたびに、プロテア本体の力は小さくなっていく?

 であれば、何度も使うことが出来ない。

「もっと、もっと……」

「っ……!?」

 だというのに、プロテアは気軽に、先程よりも強力な光球を、複数作ってみせた。

「ちょっ、あれだけの力の塊作るなんて、自爆も良いところじゃないの!?」

「……?」

 抗議するように声を張る凛。

 だが、プロテアは意味が分からないといったように首を傾げる。

 自分のやっている事が分かっていない。自滅に向かっていると知らずに、ただ攻撃手段としてそれを行っている。

 まさか、それを知った上でノートは……?

「そう。貴女だからこそ、『それ』は可能なのです。幾らでも、幾らでも、使いなさい」

「ノート……!」

 ただ自身に従うプロテアに微笑んでいたノートが、此方に振り向く。

「ご安心を。これを幾ら行ったところで、プロテアに危険はありませんから」

「だけど、あれは……」

「おや。センパイは、プロテアが普通のサーヴァントか何かに見えまして? 確かに普通ならば限界は訪れるでしょうが、よもやBBの手に負えない切り札が普通だとでも?」

 その、ノートの言葉を証明するように、プロテアが分化させた星々は増えていく。

 言うならば、アルジュナが最後に使用した壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)に近い。

 一度使えばもう戻ってこない、唯一無二の要素だ。

 自分自身を消費してまで――いや。

「成長の、限界が……ない?」

『あ……』

「聞かされていたのですか。お喋りですね、カズラは」

 いつか、カズラに教えてもらっていた。

 プロテアには、成長の限界(キャップ)が存在しない――!

「それが、プロテアの持つid_es、ヒュージスケール。当然、プロテアにも成長の限界は存在します。ですが彼女は、限界(それ)に至る度に限界(キャップ)を引き上げる。無限の規模拡大が可能なのです」

 レベル99に至れば、レベルキャップを100に引き上げる。

 レベル100に至れば、101まで引き上げる。それを、限りなく繰り返すことができる。

 確かに、型にはまった限界が存在するサーヴァントやマスターが相手をするには手におえない相手だが、弱点が存在する。

「……それでも、分化を続ければ限界が来る。途方もない数値だとしても、それを分け続けていれば、現実的なレベルにまで落ちる筈だ」

「そもそも、そこまでレベルを上昇させる分の経験値を用意する自体、コストが掛かりすぎるわ。使い捨ての攻撃に使用するのは、あまりにも無駄よ」

 この霊子世界でリソースを用意するコストは、僕とメルトが十分に理解している。

 あの光球一つに込められているプロテアの力。それが経験値としてプロテアの力になったものだと考えれば、コストが高すぎる。

「その無駄が無理にでも通るのがプロテアです。二つ目のid_es、グロウアップグロウによって」

 ノートは再び、口を閉じる。その笑みは、此方を試しているようだった。

 グロウアップグロウ。過度なまでの成長。

 成長の限界が、存在しない。――成長。

「――――」

 一つ、結論に行き着く。

 だが、それは普通、考えられない。プロテアが『普通』という括りに当てはまらない規格外な存在だとしても、考えがたい。

 否、ありえない。経験を積んで手に入れるからこそ、経験値なのだ。

 それをまさか――成長するように、自動的に手に入れるなどと。

「行き着いたようですね。その表情を見れば分かります」

 しかし、そんな常識は否定される。

「規格外のレベルを……自己成長で手に入れたのか?」

「は……?」

 驚愕は共通のもので、誰が漏らした声かは分からなかった。

「その通り。何をしなくとも、プロテアは無制限に強くなる。既に規格外に達したレベルを使うのならば、大して支障はありません」

 あまりにも単純すぎる。そして、それゆえにあまりにも強力すぎる。

 一つ目の常識を破るのが、自動的な経験値の獲得という異能。

 自動的に経験値を手に入れるというのは、効率的ではあるが有効的ではない。

 経験を積まずに得た経験値という時点で少なからず、本来の意味とは変質している。

 何も経験せずレベルだけが上がっては、成長が終了した段階の限界は鍛錬を積んだ場合よりも幾分劣る。

 そんな、二つ目に用意された常識を破るのが、ヒュージスケール。

 レベルごとの成長値がいくら少なかろうと関係ない。それを補う分、成長を続ければ良いだけの話だ。

 もしかすると、これまでの僅かな接触で、全力で倒すべきだったのかもしれない。

 そうすれば、まだ手が届くレベルだったのかもしれないのだ。

「いっぱい、いっぱい」

 此方の驚愕になど目も向けず、星を作り続けるプロテア。

 今現在、彼女のレベルは一体どこまで行っているのだろうか。

 百、千、万。ステータスなんてあてにならない。あの星は、自動獲得した経験値、それによって拡張された容量そのものを固めたものだろう。時間と共に、自動的に弾丸は装填されていくのだ。

「……どうするべきか」

 ユリウスが苦々しげに呟く。

 これだけのメンバーを揃えてなお、分が悪すぎる。

 幸運であるのが、プロテアが攻撃意思を本格的に持っていないという点か。

 彼女は一つの、目の前の物事に集中する子供のようだ。

 現に今も、戦闘の意思など忘れ去って、ただ光球を作り出すことに熱中している。

 自身の眼前に全ての光球を集め、すぐ傍に擬似的な星空を作り、まるでそれを目的としているように今も増やし続けている。

 あれだけの量が降り注げば、決して無傷では終わらない。

 ならば、此方に意識がない今が攻め時なのかもしれない。

 問題は、どう攻めるか。

 ノートが動かないとも限らない。いや、プロテアが危機に陥れば、ノートが動かない筈がない。

 両者を同時に叩く。形勢を有利にまでは出来なくとも、少しずつでもダメージを与えていかないと、勝ち目が見えない。

 一瞬でも良い。ノートの意識が別の何かに向けば――

「――おや」

「これは――」

 視界が、薄ら白く染まっていく。

 まるで思考が筒抜けていたかのように、意識を移しざるを得ない殺人現場が活動を開始する。

「アサシン……」

 『暗黒霧都(ザ・ミスト)』。敵のみを侵す毒の霧。

 これで、少なくとも毒から逃れるために、此方への咄嗟の対応が出来ない!

「白羽さん!」

『へっ!? な、何!?』

「リップのid_esを! すぐに!」

 霧はまだ全てを覆っていない。今が好機だ。

「ハクトさん……?」

「リップはあの光球を捉えて。霧で見えなくなる前に」

「は、はい! 分かりましたっ!」

 この階を攻略するに際して、ブリーフィングにて聞かされた白羽さんの決着術式。

 自身の知る力を術式化する、僕の決着術式に似たもの。

愛に触れる刹那のサロメ(ダンスオブ・セブンヴェールズ)――gain(解放)_trash(トラッシュ)&crash(クラッシュ)!』

 リップがかつて所持していたチートスキルが、僅かな時間還元される。

「っ」

 その事態を自身より優先と判断したのか、ノートが此方に斧を向けた。

 しかし、セイバーが素早く対応する。

 時間を稼ぐだけに徹すれば、セイバーならば幾らでも可能だろう。

 ともかく最初は、反撃の布石。プロテアの、いつ来るか分からない攻撃を封じる。

「潰れて――くださいっ!」

 リップのid_es、トラッシュ&クラッシュ。

 手で覆ったものを極限まで圧縮して、キューブ状のジャンクデータに変えるスキル。

 何も物理的に囲う必要はない。

 リップの視覚的に、手で覆われていれば、発動の条件は整うのだ。

「え……?」

 プロテアの眼前に集中した星々を纏めて潰す。瞬間的に消え去った星空。プロテアが怪訝そうに首を傾げる。

 霧が視界を覆い尽くす。

 ジャックの絶対殺人空間。動く戦況を把握するため、視力強化の術式を紡ぐ。

 ここからは反撃。少しでも此方に傾いた状況を活かすために。

 視界が開ける。メルトに補助を掛け、セイバーに加勢しようとした瞬間、聞こえた。

シグナム(SCEGNAM)

「ッ――――!」

 そして、見た。

 聖剣が打ち払われた、極僅かな隙に、

 大英雄たるセイバーに不死を与えていた竜血の鎧を突き抜けて、

「ガ――ァ、ッ!」

 たとえ破られても、致命傷になど到底至らないほどにまで傷を浅くする正に無敵の鎧など知らぬように、

「――な……っ」

 肩から斜めに一線、あまりにも深すぎる斬撃が刻まれたのを。




やっと次回からまともな戦闘シーンに入れるぜ。やったぜ。
プロテアのid_esが判明しました。何もしなくてもチートになれる凶悪コンボです。
リップのid_esでプロテアを狙わなかったのは、位置関係の問題だと思われます。
多くの味方が集まってたので、多分リップとプロテアの間に誰かいたんでしょう。

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