Fate/Meltout   作:けっぺん

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明日のアプデで長らく遠征組の旗艦を務めていた私の初期艦が改二実装されるみたいです。
どういう性能になるか、今からwktkが止まりません。


Alter Ego/Last Resort-2

 

 

 階層を構成する三階のうち、二つを明け渡す。

 ノートは虚偽を言っている様子はない。

「……なんで、そんな事を?」

『言ったとおり、センパイたちへのハンデ……といって納得はしないのでしょうね』

 当然だ。

 BBたちは事実、追い詰められている。

 迷宮突破まで後一歩。そんな状況でハンデを出すほど遊びでもない筈だ。

「本当の理由は何なのかしら? 階層の半分以上を捨てる利点なんてないわよね?」

『ありますよ。すぐにでもセンパイと戦うことが出来る。それだけが理由です』

「え――?」

『嘘は言ってませんよ。ここまで戦ってきたセンパイの最後の相手として、全力でお相手したい。途中で倒れてしまっては面白みがありませんもの』

 全力を以て、全力の僕たちを叩き潰す。

 その為に、途中で倒れるという可能性を皆無にした。

 正気とは思えない。追い詰められているならば、出来るだけ可能性の高い手段を取るべきだが――

『背水の陣、というものです。BBへの最後の道に背を預けていれば、全力以上の力を出せると思いませんか?』

 愉快そうに言ってのけるノートだが、それが建前であることは明らかだった。

 背水の陣などとは考えていない。元より、ノートは追い詰められているとは思っていない。

「……ノート。ハクトさんは、強いですよ?」

 同じエゴとして、発言を許可されているカズラが口を開く。

『知ってます。私とて苦汁を飲まされていますもの。だから今度こそ、勝利を掴もうとしているのです。何も不思議はありませんよね?』

「ヴァイオレットにも勝ったハクトさんです。ノートが勝利を確信するほどの要因が、あるのですか?」

『なくても虚勢を張るのが心ある人間でしょう――と、冗談は置いておきまして。勿論、ありますとも。それこそ貴方たち全てを相手にして、一分の敗北もない程に』

 ノートは絶対的な自信を持っている。

 確かに、ノートの戦闘能力はアルターエゴの中でもトップクラスだろう。

 聖杯戦争に参加した百を超えるサーヴァントの宝具を操り、概念を生み出す宝具『女神の繰り糸(エルキドゥ)』を所持する。

 そして、消滅したと思われたサーヴァントたちを手駒として利用するという離れ業までやってのけた。

 その中で、アサシンは完全に消滅した。だが、まだバーサーカーが残っている。

 それに――他のサーヴァントを残している可能性も無くはないのだ。

『さて。私の予想としては、BBが中枢の防衛機構に勝利するまで後十二時間といったところでしょう。センパイも、窮地を潜り抜けた直後。ゆっくり休んで、万全の状態で来てくださいな』

 十二時間。一日の半分。

 数字にすると、非常に短く思える。

 焦る気持ちが募るが、今すぐに迷宮に行くのは無理だ。

 傷は一つ残らず治癒されているが、暫く気を失っていた故に気だるさが残っている。

『何人で来ようとも構いませんよ。センパイとメルトリリスだけでは話になりませんから、是非ベストな状態で来てください』

「……随分な物言いじゃない。舐められるのは不愉快なのだけど」

『なら、勝ってみせなさいな。達者なのは口だけではないというのを示しなさい』

 メルトは表情は見えないまでも不機嫌だというのは明らかだ。

 だが、ノートの言葉は悔しいが真実だ。

 僕とメルトだけで、ノートに勝利するのは難しい。

 もしかすると――というのはあるかもしれない。これまでだってそんな奇跡で歩んできたようなものだ。

 今回は紛れもなく最強の敵。寧ろ、総員の力を借りてようやく、『もしかすると』がありうる程。

「……負けるつもりはないよ、ノート。絶対に、突破させてもらう」

『是非とも。期待していますよ』

 放送を終えようとするノート。しかし、まだ聞きたいことがあった。

「ノート」

『――なんですか? お話してくださるのは嬉しいのですが、そんな暇があるなら休むべきと思いますよ』

 此方を、気遣ってくれているのだろうか。

 いや、それよりも。ノートならば、分かるかもしれない。

「……BBは、僕たちが中枢を管理していたことを知っているのか?」

『――』

 ノートは目を見開いた。驚愕と感心が混ざったような、初めて見るものだ。

『……なるほど。そういう、事ですか』

 反応から察するに、ノートは知らなかったのだろうか。

 余裕を持っていた笑みが崩れ、口元に手を当てて何かを考えている。

 やがて、元あった笑みは深まり、納得が行ったように頷いた。

『知っていたのでしょう。それならば、あそこまで必死になる理由も付きます』

「理由……?」

 BBは、桜の同型機。

 ならば、僕とメルトによるムーンセルの管理体制は桜にとって好ましくないものだった……?

『心配、しているのですか?』

「ッ」

 心配。

 もしかすると、そうなのかもしれない。

 BBが暴走したきっかけ。その理由は依然として分からない。

 だが、僕はBBを倒すというよりは止めようとして今まで追いかけてきた。

 それは――BBを心配していたからなのだろうか。

『ですが、決してBBは止まらないでしょう』

「……何故?」

『小さな欲で、大きな例外が生まれてしまったからです。一度始まってしまった以上、この例外処理(CCC)は完了するまで終わることは出来ません』

 欲……BBに生まれた、欲?

「それって――」

『分からないでしょうね。貴方にも、メルトリリスにも――()()()サクラに聞いてみては?』

「私にもって……ちょっと、BBは――」

 メルトの言葉には耳を貸さず、ノートは手早く放送を終了させる。

 これ以上話すべきことはない。そう言うように手を振ると、視界は再び反転する。

 

 

 生徒会室に視界が戻ると、無意識に視線は桜の方に向いた。

 怯えたように萎縮する桜。

 だが、問わなければならない。同型機として、桜は何を思っていたのか。

 申告の強制はしていない。だが、それとは別に話してもらいたいことはある。

「っ……」

「……桜」

 何かがあったのならば、話してほしい。

 その表情から、隠し事があるのは明らかだ。

 それが、BBの暴走の秘密に関することならば――この事件の解決の鍵になるかもしれない。

「わ……私、には……何も……」

「サクラ、NPCに虚偽が許されていない事、分かってるわよね。話しなさい」

 強制が義務付けられていないAIだとしても、それを主に命じられた以上、優先順位は変動する。

「……」

 桜は答えにくそうに、口を噤んでいる。

 ――震えていた。話したくない、話してはいけないことを、話さなければならない強制の下に置かれた事への恐れか。

「……サクラ。保健室へ移動しては? 部外者に聞かせる内容ではありません」

 カレンが無表情を崩さぬままに提案する。

 言いにくいことであれば、聞いている人数は少ない方が良い――カレンなりの気遣いなのだろうか。

「そうね。私たちが聞いても仕方ないことなんだろうし、そうした方が良いわ。私たちは八階層の作戦を話し合ってるから」

「……ハク、サクラ。行くわよ」

 凛が勧めると、溜息を吐いたメルトが先導するように部屋を出て行く。

 皆には悪いが、これは少なくとも、僕は知っておかなければならない事柄だ。

 席を立ち、その場を皆に任せて部屋を出る。

 付いてくる桜は心ここにあらずといった様子で、俯いている。

 保健室前にまで来ると、メルトは立ち止まる。

 保健室の扉は普段は施錠されている。ゆえに桜を待っているのだと思ったが――

「ハク、聞いてきて。私はここで待ってるから」

「え?」

 メルトは廊下の壁に寄りかかりながら言う。

 何度か保健室には訪れたが、メルトが室内に入ったことは一度もない。

 もしかして――そもそもこの旧校舎の保健室は、サーヴァントが入ることが出来ないのだろうか。

「良いから。あ、でも――あまり時間がないのは分かってるわね?」

 手短に済ませろとメルトは言外に告げている。

 以前のように、呑気にお茶会などするなという事らしい。

 赤い聖骸布の巻かれた腕を少し此方に突き出している。

 それが警告であり、脅迫であるのは火を見るよりも明らかだった。いい加減、あの礼装への対策も見つけておきたいところである。

「じゃあ……桜」

「……は、はい」

 健康管理AIである桜の権限で、保健室の施錠が解かれる。

「どうぞ……」

 明らかに、いつもより元気がない。

 室内の空気は変わらない筈なのにどこか重苦しく感じられる。それは、この保健室が健康管理AI(さくら)の空間ゆえなのかもしれない。

 椅子に腰掛けた桜と向かい合うように座る。その瞳には、まだ迷いが見られた。

「……」

「……桜、ゆっくりで良いよ」

 桜にとって都合の悪い事であるのはほぼ確実だ。

 メルトの言う通り、時間はない。だが、休む時間を割いてでも、これは聞かなければならない。

 桜が何を知っているのか。それを知るのは管理者としての義務。

 だから僕は、桜を尊重して――時間いっぱいまでだろうと、待とうと思う。

「――紫藤さん」

「何?」

「まず、初めに……謝らせてください。私は、AIとしての規律を破り、禁則に手を出してしまいました」

 桜の手は震えている。

 今にも泣き出しそうな表情で、桜は打ち明ける。

 

「――――私が、この事件の、発端なんです」

 

 

 +

 

 

 いつも、疑問だった。

 主である二人を結ぶモノの正体が。

 

 マスターとサーヴァントの契約。それは確かに存在する。

 けれど、私の中にある疑問の正しい解答は、それではない。

 その正体の名称は知っていた。

 それが『何』であるのか、言葉を並べて説明することも出来た。

 当たり前だ。私は月の蔵書(ムーンセル)によって創造されたAI。意味を持った言葉、地球に存在する概念であれば、ムーンセルは悉くを記録する。

 頭の中で辞書を引くように引っ張り出して、反芻するまでもなく一度で理解できる。

 その機能が主の、少なくとも片方にはなかったようで、いつも■■されていた。

 

 ――■■かった。

 

 その度に、私が抱いた現象は何なのかという新しい疑問になった。

 全て同じ概念なのだろう。けれど一つ一つが違って、それぞれが個別に記録されていく。

 AIとしての価値観に従うならば、記憶容量を圧迫するだけで意味を持たない邪魔なデータに過ぎない。

 だというのに――少しも不快にはならなかった。

 つまりそれは、無駄なものではなく、AIにとって有益なものだという事で。

 だから私は、その概念の正体を探し出そうとした。

 

 何度、検索をしただろうか。

 何度、記録と照合をしただろうか。

 その正体は、一向に見つからない。

 ただ、分かったことがある。

 ムーンセルに所属する、殆どのNPCから、同じ概念を観測できた。

 だからといって、この概念がNPCにとって当然のものであるとは言い難い。そうなのだとしたら、NPCとして説明出来なければおかしい筈だ。

 もしかすると、バグなのかもしれないという、小さな不安が生まれる。

 NPC全員に等しく発生していて、しかし誰も気付かない。大きな問題が起きているのかもしれない。

 小さな可能性だとしても、調べてみなければならない。あの人が管理するムーンセルに、大きな異変が起きてはならない。

 

 調べようとしてすぐに――主たる二人からも、概念は観測できた。

 

 それを理解できたのは、私がその概念を考え始めたからなのだろう。二人からその概念が消えることはない。

 気にしてみれば、二人のその概念は幾らでも大きくなるし、場合によっては小さくなる。

 ただし、一定以下になる事は決してない。そして、どんな状況で上下するかも暫くの観測で理解した。

 それで、悪いモノではないとようやく分かった。

 聞いてみるべきだろうか。その概念の正体を。

 

 ようやく、概念の名称が分かった。

 それを検索して――意味、概要も理解できた。

 ただ、ピンと来ない。自分がそれを持っているというのは良い。しかし、自覚が出来なかった。

 何故自覚できないか。それも分からない。だからまた調べて――その概念に、大元がある事を知った。

 その大元を、私を含めてNPC全員は持っていない。持っているのは、概念そのものだけ。

 大元を所持していないから、この概念は無意味なデータに過ぎないのだ。

 だから大元を知ろうとした。学んで、主のように、完全になろうとした。

 

 どうやっても、それを手に入れることは出来なかった。

 そもそもAIには、それを理解することは出来ないのだ。

 当たり前だ。NPCに必要のないものなのだから。

 主も、それは十分に分かっている事だったらしい。

 

「紫藤さん……心って、何なんですか?」

 

 『心』。それが、私たちになくて、二人にあるモノ。

 二人を、契約以上に固く結ぶ関係。

 その正体は、答えてはもらえなかった。口を閉ざしたままだった。

 理解した。それは――AIには理解できないものなのだと。

 この時、潔く諦めれば良かった。小細工などしなければ良かった。

 

 

 NPCに心を付け加えるために――ムーンセルの中枢に侵入し、接続を試みるなど、考えなければ良かったのだ。




良く分からないけど何かが判明しました。
というかこの病み上がりさっさと休ませなくて大丈夫ですかね。
そんな事は気にせず、次回も頑張ってもらいます。

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