Fate/Meltout   作:けっぺん

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七章章末のマトリクスにフランがいなかったのは仕様ではありません。
素で忘れてました。追加しました。本当にすみませんでした。

そんな訳で、八章となります。どうぞ。


Alter Ego/Last Resort-1

 

 愛を求める心は思う。(女の話をしよう)

 

 “これは果たして、悪い事か”(愛を語る時、女は白を選択する)

 

 道はまっすぐ、黒へと進む。(絶望的な黒の中にあるとしても)

 

 それを知らずに、求めて進む。(汚らわしい混ざり合った灰だとしても)

 

 遠い遠い、果てを目指して。(それは、白だと言い張って)

 

 

 +

 

 

 迷宮から帰還して、僕は生徒会室に戻ってきていた。

 時間で言えば、そこまで経過していない。

 だが、一時的に意識を失っていたのが大きいらしく、妙な懐かしさがあった。

 生徒会室には、生徒会のメンバーだけではなく、慎二も呼んでいた。

 居心地悪そうな雰囲気を醸している。だが、出て行ってほしくはなかった。

「――皆、ありがとう」

 その一言を、伝えたいがために。

 皆がいなければ、ここで戦いは終わっていた。

 迷宮の後半になるにつれて、皆の力を借りることが増えてきたが、今回は真実、命を助けられた。

「気にしないでよ。私たちだって、白斗君を中枢に帰してあげたいんだから」

 彼女が中心となって、迷宮に潜ったらしい。

 そんな白羽さんの様子はいつも通りで、安心感を覚える笑みを浮かべている。

「そういう事です。僕たちはハクトさんの力になりたい。助力は惜しみませんよ」

「君が倒れれば、我々がここにいる意味もなくなる。ならば、動かない理由はあるまい」

 ……こういうのも何だが、月の裏側にいる皆が力を貸してくれて、本当に良かった。

 僕とメルトだけでは迷宮を攻略することは出来なかった。

 今まで果ててきたサーヴァントも、それぞれが僕を帰すために道を拓いてくれた。

「……まあ、これに懲りたらもうこんなことになるなよ」

「ああ……気をつける。助かったよ、慎二」

 慎二が手を貸してくれるのは意外だった。

 いつか、月の裏側に落ちて間もない頃、メルトが言っていた。

 慎二はいつか、向こうから力を貸してくれると。

 それは本当だった。エリザベートの料理のときもそうだったし、今回も命を救ってくれた。

「っ……僕はな、こいつらが話し合ってていつまで経っても動かないから来てやったんだ。良いか、もう助けないからな!」

 不機嫌そうに部屋を出て行く慎二。現界していたライダーも、苦笑しながらそれに続く。

「ともかく、気にせずとも良い。寧ろ、ローズを討つ機会を与えてくれたことに私は感謝しているよ」

「アタランテ……」

 アタランテはジャックの頭に手を置きながら言う。

 もう反対の手は黒く焦げ、力なく下げられている。

 どうやら、治癒も通じないらしい。ローズの攻撃によるものらしいが、本人を倒しても治癒はされないのか。

「どうして、ローズを?」

「……あ奴はこの子(アサシン)を誑かし、良い様に利用していた。抱いていた苦しみなどまるで知らぬようにな。それが許せなかっただけだ」

 過保護なまでに、アタランテはジャックに気をかけている。

 一体何故なのだろう――疑問を察したのか、アタランテはもう一度口を開く。

「子供には、等しく愛情を与えるべきだ。サーヴァントであってもそれは変わらない」

「アーチャー……わたしたちのために?」

「ああ。済まぬな。許せぬばかりに、汝の手で終わらせることは出来なかった」

 アタランテは、生まれて間もなく山に捨てられ、熊に育てられた。

 そのことから、子供への愛を人一倍重いものに感じているのだろう。

「全ての子供が愛され、大人に育ち愛が循環する世界。それが私の望みゆえな。あのように幼子を蔑ろにするような者を野放しにはしていられん」

 大人が子供を愛し、愛を受けて子供が育ち大人になる。

 その大人が子供を成し、愛を与えながらそれを育てる。

 そうして、愛が循環していく世界。それが、アタランテの望みのようだ。

「……アサシンは、生まれることを望まれなかった魂が自我を持った存在だ。だからこそ、私が愛してあげねばならない。少なくとも、この月の裏側ではな」

「それは、私も同じです。アサシンのマスター……いえ、母として。愛というものがどういうものか、まだ良く分かりませんが」

 ラニが微笑みかけると、ジャックは屈託のない笑みを返す。

 以前のマスターは分からないまでも、彼女はマスターを助けるためにBBに従っていた。

 そう考えると、そのマスターとも仲は良かったのだろう。

 ラニはその代替ではなく、正真正銘のマスターとして、ジャックと向き合っている。

 最初に母と呼ばれたときには戸惑っていたが、今ではそれを認めて深く接するようにまでなっていた。

「ぬぅ、流石は小生が選んだサーヴァント。その寛大な願い、我が女神の輝きにも匹敵する!」

「汝に選ばれた覚えはないのだが……」

 ガトーとアタランテはどっちつかず、近すぎず離れすぎずの絶妙な関係を築いている。

 とはいっても、生徒会室においてアタランテはジャックの面倒を見ている事が多いので二人の会話はあまり見ないのだが。

「そういえば、シラハ」

「ん? どしたの、凛ちゃん」

「貴女、さっき使った術式、何だったの?」

「ああ、あれ? ヴァイオレットちゃんのid_esを術式化したんだけど」

「え……?」

 ヴァイオレットのid_es……つまり、クラックアイス。

 ローズとの戦いの内容は知らないが、白羽さんがその戦いで魔眼を……?

「どうやってそんな事を……?」

「うん、『愛に触れる刹那のサロメ(ダンスオブ・セブンヴェールズ)』っていう、私の決着術式。私やリップが過去に見た力を術式として適応させるみたい」

 白羽さんの決着術式。それは、偶然にも僕と似通った性質を持っているようだ。

 過去知りえたものが、力に直結する。そして、恐らくサーヴァントとの絆が鍵を握っている。

 僕の決着術式は宝具の模倣を可能とするものだが、スキルについては現状使用できない。

 だが、白羽さんの決着術式は例えid_esであろうともスキルの模倣が可能な術式なのか。

「ハクトさんと似通った決着術式になるのですね。力の模倣が可能というと――どんなものも際限なく、ですか?」

 ラニの問いに、白羽さんは考え込む。

「んー……それは無理かな。知らないような力は勿論だし、スキルに関しても、万能に働く訳じゃないみたい。狂化とかなんて、試す気もないし」

「誰もそんなもの使えなんて言わないわよ……ヴァイオレットのid_esが使えるとなると、他のアルターエゴのid_esも?」

「うん。だけど――すぐに戦力として使えるのは魔眼(クラックアイス)だけかな。リップとメルトちゃんのは私自身じゃ使えないみたいだし、カズラちゃんのは工房みたいな陣地を作るって前提が必要。ローズちゃんのは……やっぱり試すの怖いし」

 リップとメルトのid_es――トラッシュ&クラッシュとメルトウイルス。

 それらが使えないというのは、他のid_esと違う要素を持っているからだろうか。

 考えられるのは、二人が作られた過程が他のエゴと違うこと。

 それが、白羽さんが模倣できない理由には繋がらないが、何かしら関係している可能性は高い。

 その二つのスキルの解放は、白羽さんが四回戦でやったように、二人に還元するという形で行うのが正しいのだろう。

 そうすれば短時間ながら、二人は本来のアルターエゴとしての力を振るうことが出来る。

 まあ、聖杯戦争の際は令呪を消費しないと解放が出来なかったレベルの術式だ。現状使うとしても、そこまで上手くは行かないのだろうが。

「でも、id_esの解放以外にも色々できるし、便利なのは変わらないよ」

「そうだな。相手の動きを制限する魔眼があるだけで、制圧力は大きく増える。残る一階層も、その力は要となるだろうな」

 ユリウスの分析に白羽さんは照れたように頬をかく。

 確かに、動きを封じることが出来る魔眼さえあれば、例え効きが薄くとも敏捷を下げることができる。

 残るエゴたちとの戦いも、かなり楽になる筈だ。

「と、いう事は……レオ、最後の階層は――」

『正に切り札。良いですね。それでこそ、私と戦うに相応しい』

「っ」

 八階層の方針、それを問おうとした瞬間、視界が反転していく。

 もう何度目かも分からないジャック。そして、発案者不在の最後の放送が始まった。

 

 

 

 

 Now hacking…

 

 

 

 

 OK!

 

 

 

 

『こんにちは、旧校舎の皆様方。BBチャンネルのお時間です。とは言っても、本人がいないのですが』

 視界に広がったのは、見慣れたハリボテのスタジオだった。

 そして、その中央に立つのはBBではない。

 今まで幾度となく戦ってきながら、未だにその限界を見せていないBBの切り札。

「――ノート」

『はい。見事、ローズを突破したようで。今回は女史の活躍が特出していましたね』

 ノートの言葉は、七階層の一部始終を見ていたかのようだった。

 だが、それだと気になる事がある。

「……ローズを助けようとはしなかったのか?」

『手を出したら、私に矛先が向きかねませんもの。勝手に暴走した彼女に非があります』

 ローズはあの後、力を使い果たして消滅したのだろう。

 だが、それにノートは手を伸ばしもしなかったのか?

「ローズは……」

『霊核の中心を貫かれた存在を助ける手段は、私も持っていません。何より、生きる気のなくなったローズを生かしておく理由はありません』

 姉妹の義理――頭を過ぎったそれは、ノートには存在しないらしい。

 アルターエゴはお互い仲が悪いのは既に知っているが、それが関与しているのだとしたら筋金入りだ。

 表情に出していないだけなのかも知れないが、ローズの死に対して、何も思っていないようだ。

 敵として相対した僕が、何を言う権利もない。だが、それでも問いたいことがある。

「……ノート」

『何でしょう?』

「ヴァイオレットは、ノートが倒したのか?」

 ヴァイオレットはノートへの警戒を僕たちに忠告していた。

 そんな死の間際に告げたという事は、その理由があるという事。

 状況からしても確率が高い。その問いに、ノートは、

『そうですが。言ったでしょう? 憂さ晴らしはさせていただくと』

 隠さず、誤魔化しもせず、言ってのけた。

 憂さ晴らし。そんな理由だけで、ノートは姉妹を手に掛けたのだ。

「……」

『おや。怒りましたか? ヴァイオレットはセンパイにとって、敵だった筈ですけど』

 確かに、そうだ。

 だが、彼女を殺すつもりがあったのかといえば、否だ。

 カズラと同じように、ヴァイオレットと和解するという道を僕は望んでいた。

 それが叶わずとも、あのような悲劇的な最期を望んではいない。

『ああ――なるほど。ヴァイオレットを引き込むつもりだったのですね』

「……そういうつもりがなかった訳じゃない」

『正直なのは良いことです。では、これで私は真実、センパイの怨みの対象となったと』

 それが至福であるかのように、ノートは笑う。

 どこか寒気の感じる笑みは、ノートがBBチャンネルという形でコンタクトを取ってきた目的を確信付けるものがあった。

『であれば重畳。今まで以上の気迫を持って、最後の階層に来てくださるのですね』

「……つまり――」

『はい。八階層、BBに辿り着くための最後の砦は、私が務めましょう』

 その宣言に戦慄する。

 遂に、衛士としてノートと戦わなければならないのだ。

「……貴女が衛士って事? 既にSGを二つも取られている貴女が?」

『いえ。正確には違います。ですから、その件について、今回はお話に参りました』

 違う……?

 BBへの最後の砦と言い放ったノートは、衛士ではないのか?

 だとすれば、最早衛士になりえる存在など、一人しかいない。

『八階層の衛士は、BBの隠し玉――アルターエゴ・キングプロテアが務めます』

 ある意味では、BBが作り出したアルターエゴの中でもトップクラスの規格外。

 今まで、まともに相対したこともなく、碌に能力も知らない謎の存在。

 たった一つ分かっている事は、成長の限界がないという事。

 BBですら完全に手綱を握れなかった切り札が、遂に立ちはだかるのか。

『ですが、私たちが相手では三階分センパイが戦い合うことは不可能でしょう』

「……それは」

 不可能だ、とは言えない。

 だが、それは確かに正しいかもしれない。

 プロテアとノート。二人を相手に階層一つを戦うというのは、それこそ今まで突破してきた迷宮全てを合わせても難易度だ。

『ですので、一つ希望をあげましょう。八階層のうち二つ――二十二階と二十三階を、明け渡します』

 余裕か、はたまた何か理由があるのか。

 あまりにも突飛な言葉は、薄い笑顔を崩さぬまま言い放たれた。




アタランテとジャックの唐突な掘り下げ。
フラグ? 何ですかそれ? 美味しいんですか?

BBチャンネルの開始を初回からコピペする簡単なお仕事もこれで最後。
最後の階層の衛士はプロテアとなります。
とはいっても今までのような衛士とは違うのは明らかですね。

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