変形した人間形態もかなりツボだった。バルカンかっこいい。
それと決め技で十字に斬れる描写も良い。斧二刀流ってのも新しい。ミニプラはよ。
「燃え上がれ、『
解き放たれた真名。それは、ギリシャ神話の中でも有名だろう女神の名前。
最高位の女神が組み込まれているという事実に驚きつつも――同時に納得する。
嫉妬深い女神といえば、まず真っ先に挙げられる名前がヘラだ。
ならば、この女神がローズちゃんの性格に強く影響しているのかも。
尤も、今はその女神も宝具にまで格下げされている。
その効果は単純明快。外敵を悉く燃やし尽くす嫉妬の炎。
『――作戦を決行します。視界は悪くなるので、出来るだけローズマリーから離れて戦うようにしてください』
レオ君の号令でローズちゃんに対抗するように宝具を発動するのはジャックちゃん。
その宝具は『
それだけじゃない。敵の敏捷をワンランク下降させ、脱出には直感などを必要とする。
対魔力等があれば防げるけれど、そうでもなければその毒に蝕まれてしまうアサシンのクラスに相応しい宝具。
「ふん、こんな霧でどうにか出来ると思ってる?」
だけど、広がっていく毒霧に対してローズちゃんはさしたる反応を見せない。
やがて霧が迷宮を覆う。少しでも吸えば喉を焼く筈なのに、ローズちゃんは平然としている。
「寧ろ、ボクの炎が見えなくなるんじゃない? 頑張って避けてね?」
「――ジャックちゃん、宝具は?」
「……だめ。まもってるみたい」
あの炎に包まれてしまえば、どうやらジャックちゃんが操る最大の呪いも効果を成さないらしい。
だったら、やっぱり霧の中じゃあ、視界が悪くなるだけ……?
いや、視界の悪化は私たちだけじゃない。炎による狙い撃ちも出来なくなる筈。
「とにかく、あの炎の防御をどうにかしないと駄目って事か……」
「だけど、どうするのよ? あんな馬鹿みたいな火力、私たちじゃどうしようもないわよ?」
エリちゃんの言う通り。格下げされても女神は女神。それも、最高位の存在であることに変わりはない。
メルトちゃんやリップを構成している女神でも、ヘラを上回れるかは難しい。
「なら――アタシがちょっとやってみるかねぇ」
「ライダー?」
「火力ならちょっとばかり自信があるよ。ぶっ放して顔出すか試してみる価値はあるさね」
言いながら、ライダーは手を振り上げる。
彼女の頭上に展開されるのは四門の砲門。
ああ、それがライダーが
「シンジ、やるよ」
「あ、ああああああああ! 遠慮なくやっちゃってよ!」
本当に、大丈夫かな慎二君。
相変わらず動揺しているみたいだけど、そろそろ慣れてもいい頃なんじゃないかな。
「砲撃用意――てえぇーいっ!」
一斉に放たれる砲弾。霧を潜り抜けながら高速で向かっていく弾。
そして、耳を劈くほどの凄まじい爆音で思わず耳を塞ぐ。
「ッ、――」
「――! 娘、何をしているか!」
「え――」
耳から手を離した瞬間、首元が引っ張られる。
息が詰まりそうになり、何があったのかと状況を整理する。
その寸前まで私がいた場所が、炎に呑まれていた。
「な……っ」
皆はその場から退避している。
敏捷が低いリップの回避が間に合っていたことに、一先ず安心する。
慎二君はライダーの小脇に抱えられている。どうやら、誰一人あの炎の餌食にならずに済んだらしい。
「むぅ……アサシン、宝具を解け。ローズに効かぬとあれば視界は広い方が良い」
「わかった……ごめん」
「気に病むな。汝の役目はまだ終わっておらん」
アタランテちゃんに、助けられていたようだ。
ジャックちゃんを元気付けるように微笑んでいるその表情は――どこか苦痛が見えていて。
「アタ――」
後退したところに下ろされて気付く。
私を掴んでいた手とは反対――右手の手甲が焼け焦げているのを。
「それ……」
「……問題ない。まだ弓は引ける」
覗いている指にも、炎の被害は現れている。
当然、支障がない訳がない。
弓を引くに問題があるどころか、現在進行形で痛みが襲っているだろう。
「ご、ごめん! すぐ治癒するから――」
すぐさま回復のコードを紡ぐ。だけど、回復が一向に進まない。
「残念。ボクの炎はしつこいよ。徹底的に喰らいついて、死ぬまで離さない。それじゃ満足に弓なんて使えないでしょ」
まさか、そんな効果まで……
間違いなく、アタランテちゃんのそれは私のせいだ。
私が逃げれなかったせいで、退避するのが遅れたのだ。
晴れた霧。ローズちゃんは両手に短刀を持ち、炎を伴わせながら歩み寄ってくる。
あの炎は沸々と燃える、ローズちゃんの感情そのもの。
だからこそ、妬みで燃え、他者を拒み、徹底的に焼き尽くす。
彼女の感情にプラスの限界は存在しない。
白斗君を想う限り、彼女はそれこそ無限に力を高め続けるのだ。
確かに、ローズちゃんの戦闘能力は低かったかもしれない。ただしそれは、彼女が生まれたばかり――まったく最初の状態での話だ。
今は、これだけのサーヴァントが集まっても手出しが出来ないほどに
『まさか……これほどとは』
もしかすると、ヴァイオレットちゃんよりも厄介かもしれない。
対処法が思いつかない。どうすれば、あの炎を突破できるのか。
接近できたとしても、刃に触れてしまえば何かしら、厄介な傷を受けてしまう。
「さ、覚悟はできた? ボクを傷つけることが出来ない以上、勝負は決まったようなものだよね」
勝利を確信しているローズちゃん。その立ち居振る舞いは私の目から見ても明らかに隙だらけだ。
だけど、その隙を突けるサーヴァントがいない。
彼女自身は隙を見せていても、心の炎の守りは磐石だ。
「諦めては――ないみたいだね」
呆れるように溜息をつくローズちゃんは、しかし笑みを浮かべている。
「勝機を信じてるんだったら、無理だと思うよ。ボクのステータスは軒並みA以上。大英雄だって凌駕する状態だから」
「は――?」
『A以上って――なんの冗談よ。アンタのステータス、観測できてるわよ。Aランクなんて、一つしかないじゃない』
その通り。私もある程度は分かっているけど、ローズちゃんのステータスはあまり高いとはいえない。
幸運がAランクである以外は、全てがCランクかDランク。あまり他のアルターエゴみたいに、最上級のサーヴァントに匹敵するようなステータスは持っていない。
だけど、ローズちゃんに嘘を言っている様子は見られない。
「情報だけを信じるのは感心しないなあ。id_esの存在くらい知ってるでしょ?」
id_es。アルターエゴが持つ、規格外なスキル。
非戦闘型のエゴであるカズラちゃんでさえ、強力極まりないスキルを持っていた。
力を失っているリップやメルトちゃんも、id_esスキルは凄い力を持っている。
ならばその例に漏れず、ローズちゃんのid_esも規格外なもので。
「バグハート、なんてBBは名付けたけど、情けない嫉妬だよね。ボクはこのスキルの力で、センパイを想えば想うほどに強くなる。誰にも譲れない愛の力が、ボクを無限に強くするの」
その性能は、信じ難いものだった。
ようやく理解する。ローズちゃんの感情の値に、プラスの限界は存在しない。
それは即ち、
ただあの炎を破るだけでは駄目だ。正直、ローズちゃんはあの炎よりも厄介かもしれない。
「で、それでも勝てる? 大人しく出て行って、二度と来ないならボクは深追いしないよ。暇じゃないしね」
「……逃げろって事?」
「そう。負け犬らしく尻尾を巻いて逃げろってこと。ま、尻尾があるのは二人しかいないけど」
「誰が犬よ! 私は高貴なる竜の――」
「喧しい。汝の声は耳に響く」
逃げるならば、それ以上は追わない。
だけどそれでもう一度作戦を練って、再び来たとしたら、絶対に見逃しはしないだろう。
それこそ、残滓の一片に至るまで切り刻んだとしても。彼女の苛立ちが収まるまで徹底的に陵辱を繰り返して。
――死。
一度経験した、これ以上ない恐怖。
死が目の前にあるというこの感情は、やっぱり慣れるものじゃない。
でも、
「――無理、かな」
「は?」
「色々理由はあるよ。逃げるのは恥ずかしいってのもある。やっと私が生徒会にいる理由になるってのもある。だけど、一番はもっと単純」
結末が分かっていても、貫き通したいものがある。
「白斗君を君に渡したくない、以上!」
「――――」
「……」
『……』
「っ――シラハ?」
指を突きつけての宣言で、場が静まり返った。
逃げるより、恥ずかしいかなこれ。場を支配したってポジティブに考えるって手もあるけど。
「何を、言ってるの、シラハ……貴女まで」
「あ、あれ? メルトちゃんじゃなくて、ローズちゃんの動揺を狙ったんだけど……」
『……自力で考えた作戦なのかは知らんが、それは相手に聞こえないように言うべきだろう』
ユリウス君の言う通りなんだけど、まあ、ローズちゃんは思いっきり驚愕してるし、良かったと思う。
「…………そう。アンタも」
「そう。私も。だから、邪魔させてもらうよ」
これは、私からの宣戦布告。
それを言っただけで、如何ともし難い達成感があった。
まあ、本人がいる前じゃ多分言えないんだろうけど。これは私が決意を固めるための宣言。
吹っ切れた。もう大丈夫だ。
「シラハ、何を――」
「分かってるよ、メルトちゃん。だけどさ、一番は駄目でも二番ならありえるでしょ?」
「――っ」
「ライバルも多いし、だったらアピールもしといた方が良いし。ちょっと頑張ろっかな」
倍率は高い。だけど、だからこそやる気は出る。
「……アンタも、泥棒猫か。センパイを困らせるんだね」
「うん。困らせることになるかな。本当の泥棒猫を懲らしめるから、感謝されるかもだけど」
殺意に炎を広げていくローズちゃんに、更なる挑発を掛ける。
「――ふぅ」
感じたことのない程の殺意を浴びせられる。
思わず失笑さえ浮かぶ。だけど、その笑みは諦めを前にしたものじゃない。
「リップ、白斗君を取り戻したいよね」
「え……は、はいっ! 勿論です!」
「エリちゃんもだよね」
「と、当然よ! ドラクル・ディナー・リベンジがあるんだから!」
「……うん。で、当然、メルトちゃんもだよね」
「……当たり前でしょ。言っておくけれど、誰にも渡さないわよ」
四対一。負ける道理なんて、これっぽっちもない。
慎二君、ライダー、アタランテちゃん、ジャックちゃんは分からないけれど――決して、白斗君の評価は低くない。
白斗君を想う気持ちなら、きっと互角――否、超えられる。
そして、同じ道を歩み、同じ
「やっぱり、逃がさない。屈辱を与えるのも面倒。今すぐここで、灰も残さず消してやる」
その憎悪はすぐにでも私たちを焼き尽くすだろう。
だけど、それよりも私の術式は早い。
――言葉を紡げ。
分かっている。指示なんて不要だ。
――口を開け。
分かっている。時間はない。危機を脱し、勝利を掴む手を私は持っている。
――言葉を、紡げ。
「――
今までこの目で、幾多の力を見てきた。
そして、それ以上にリップは多くの力を見てきた。
全てが頭に入っている。それを転換して、自身に適応させ、コピーする――白斗君のそれとは似て非なる決着術式。
正しき“
拾い上げる過去など決まりきっている。隠し通した愛を求めて果てた、エゴならぬエゴの力。
「
「なっ――」
目に激痛が走る。第一の衝撃で、視界が揺れ、反転し、全てが闇に包まれる。
その力は大きすぎる。手から零れ落ちかけたそれを、どうにか両手でがっしりと掴む。
第二の衝撃。波が引くような、最初の痛みとは違う間延びするような痛みで術式の細部までが完成する。
目の機能が改竄されて復活する。取り戻した視界には、冷たい世界が広がっていた。
『まさか……ヴァイオレットのid_esを!?』
『黄崎さん! 目に負担が掛かりすぎてます! その術式は、長時間の展開は危険ですよ!』
「うん。分かってる」
桜ちゃんの警告は百も承知だ。自分の体に感じる負担と影響なんて、自分が一番分かっている。
「シラハ、さん……」
「決めるよ、リップ、皆。長くは持たないから」
「っ、くっ……この……」
長時間発動できないどころか、本来の力を発揮することさえできない。
それは、術式である以上当たり前だ。
体に大きな負荷が掛かっているようだが、それでもローズちゃんは動けている。
しかし、炎は確かに停止している。揺らめいていた不定形の脅威は、その矛を収めている。
調整の利かない力だ。あのローズちゃんに向かう皆の動きも制限することになってしまう。
だからこそ――皆がその力を溜めこんでいるのが分かる。
速度で圧倒的に勝るというアドバンテージ。しっかりと準備をした攻撃であれば、防御手段のなくなった相手を討つのは容易い。
だとしても、油断はせず。
仕留めてくれるのを信じる。私の仕事は、敵を見据え続けること。
どうしようもなかった戦況は、ようやく攻めへと転じた。
『
黒い炎。っょぃ。ルビ二文字。
オリジナル宝具の真名でもやたら気に入っている。
『
白羽の決着術式。初出は今回ではなくEXTRA編の用語集。
今まで見た力を「術式として」使える能力。ぶっちゃけ使い時が来るとは思わなかった。
という訳で、メルトのライバルが増えました。
はっきり物が言える女の子好きです。