Fate/Meltout   作:けっぺん

200 / 277
更新が遅くなってすみませんでした。
金剛姉妹のレベリングを無心でやってた結果がこれです。

それはそうと、200話目だそうです。長くなりましたね。
途中でおまけや茶番を挟んでるので、実際は180話くらいですが。


Deepest Love Fire.-2

「――離しなさい! 早く迷宮に戻らないと!」

「落ち着け! 小僧は死んではおるまい!」

 すぐにでも迷宮に戻ろうとするメルトちゃんを、アタランテちゃんが止める。

 事は凄く――凄く、良くない。

 メルトちゃんと白斗君の契約(パス)が途切れた。

 どういう事なのかは分からないけど、一番確率があるのは――

 ううん、そんな事はない。あのエゴ――ローズちゃんが白斗君を手に掛けるなんて多分ない筈。

「何故、ハクトさんが迷宮に残されているのか。確かに術式は掛かっていたのに……」

「そんな事考察してる暇はないの! あんなのと一緒にしてたら、ハクがどうなるか――!」

「メルト、落ち着いて……ハクトさんなら、大丈夫だから」

 駄目っぽいかも。メルトちゃん、完全に落ち着きを失ってる。

 一刻も早く迷宮に向かわなきゃならないのは分かってるけど、だからってこれじゃあ白斗君を取り戻すなんて無理だろう。

 でもやっぱり……気は焦る。

「で、でもでも! 早く助けないと心配よ! ハクトの事だから、勝手にピンチになってるに違いないわ!」

 エリちゃんが机を強く叩いて言う。なんだろう、否定できない。

 白斗君はピンチを呼ぶ天才でありながら、ピンチに飛び込む天才でもある。

 既にピンチなのは確かだけど、それで終わらないのが白斗君だ。

 きっと、一人迷宮に残されたってだけじゃ終わってない筈。

「どうしましょう……ローズはハクトさんと一緒になれたって喜びで、暴走する可能性もあります。プラスの感情値がオーバーフローする危険が……」

「はい。早急に手を打つ必要がありますね」

 問題は、ローズちゃんがどんな性格なのか、どんな性質なのかが分からないってこと。

 何が嬉しくて、何が悲しくて、どんな事に怒るのか。

 今まで見てきた限りじゃ、ローズちゃんは白斗君に対して喜びしか抱かないと思うけど、もし違う何かがあったらもっと危険。

 やっぱり、早く助けに行った方が良いよね。

 

「何してんだよ、早く助けに行けっての!」

 

 と、そのとき、生徒会室の扉が勢い良く開かれる。

「――シンジ」

「いつまで経っても行動起こさないって思ってたら、まだ話し合いしてたのかよ! そんなの幾らやったって変わんないだろ。さっさと助けに行くのが正解だって、分からないのかよっ!」

 入ってきたのは、慎二君だった。

 明らかに怒っていて、息を荒げている。

「シンジ、貴方……」

「紫藤を見殺すってのか? こうしてる間にも、もしかしたら紫藤は危険な目にあってるかもしれないんだぞ」

 いつも通り、外から状況を確認していたのかな。

 ともかく慎二君は何が起きたか分かっているようだった。

「……確実に救助するためにも、作戦を練る必要がある。無策で挑むには、あまりにも厄介な相手だ」

「見殺すつもりはありません。シンジ、貴方は生徒会のメンバーではありません。意見の押し付けはしないでください」

 抗議の目を向けるユリウス君とラニちゃん――確かに、その通りかもしれない。

 作戦を練らないで勝てそうもない相手だというのは確か。慎二君は生徒会のメンバーじゃないのも確か。

 だけど、私の本音を言うなら――

「――――うん。そうだよね」

「――ミス黄崎?」

「ごめん、レオ君、皆。私、話し合いとか頭使うの苦手。メルトちゃんを手伝って、白斗君助けてくるね」

「なっ――」

 立ち上がる。

 いつかユリウス君に、考えなしは駄目とか言われた。うん、その通りだ。

 表に限った話じゃなくて、裏側でも十分、危険の種になる。

 だけど、それが何だ。白斗君は、私たちに勝ったって結果を無駄にしないために――表に帰るために、ずっとずっと危険に付き纏われてきた。

 そんな中で私だけが席に着いて、話し合いでも碌に案を出せなくて。

 なんて役立たず。だから、仕方ないよね。話し合いなんて何も理解できなかったよ。結論としては――――さっさと迷宮に突撃するって事で良いんだよね。

「行こう、メルトちゃん。リップも、来てくれるよね」

「は、はい! 当然です!」

「勿論――慎二君も、だよね?」

「へ? ――っ、ああ。アイツが死んだら、僕の命も無駄になる。だから、今回だけ助けてやるよ」

「素直じゃないねぇ、シンジも……嬢ちゃん、アンタの思い切り、気に入った。マスターがこう言ってることだし、アタシも手伝ってやるかね」

「――うん、ありがと」

 慎二君とライダー。二人の協力は心強い。

 アタランテちゃんとジャックちゃん、エリちゃんも引き続き参戦する意思が見られる。

 完璧。これならきっと、白斗君を助けられるよね。

「……であれば、もう一手打っておくのが確実か」

「――サー・ダン?」

「年を取ると必要以上に考えを深くしすぎるものだ。思慮だけではなく、意思を重視することも時には大切だろう」

 ダンさんは微笑んでいた。

 まさか、ダンさんが味方してくれるとは思ってなかった。

 それで観念したように――レオ君が頷く。

「……仕方ありませんね。ミス黄崎、シンジ、迷宮に向かってください。追って作戦を指示しますから」

 私たちは迷宮に向かって、その間にレオ君たちが作戦を固める。

 うん、最初からこれで良かったんじゃないかな。

 ともかく――その方針ならもっと安心できるか。

 メルトちゃんももう飛び出さんばかりだし、早く行こう。

 待っててね、白斗君。今すぐ、助けに行くから。

 

 

「……消えないかな、これ」

「無理っぽいな。こっちに気付いているかは分かんないけど、多分最初っから張ってたんだろ」

 迷宮の十九階にやってきたは良いけど、早速トラップらしきものに立ち往生していた。

 黒い炎。さっきまで白斗君を観測してたときに、ローズちゃんが放ったのを見た。

 攻撃のために使っていたあれを、どうやら今度は防御に使っているらしい。

 迷宮の構造も変わっている。

 メルトちゃんたちが感じていたらしい嫌悪感は変わらない。存在を否定せんとする程の拒絶が、五感を通して伝わってくる。

 変わっているのは道だ。さっきはまるで白斗君を招くように簡素な道だったのに、異常なまでに入り組んでいる。

 そして、ところどころにあるのが黒い炎だ。

 ローズちゃんの言葉を信じるならば、触れたらアウト。

「――構わないわ。この程度っ」

「あ! メルトちゃん!」

 だというのに、メルトちゃんはさっさと走っていってしまう。

 ――作戦の説明、聞いてたのかな?

 いや、そんなもの考えてる余裕がないってのは分かるけど、あれじゃ炎が壁になってようと飛び込みかねない。

「まったく、周りが見えなくなってんじゃないかねぇ。追いかけるよ」

 ライダーが先んじて走る。

 黒い炎は道を塞ぐまでには至っておらず、道を選べばどうにか進めるようになっている。

 不安なのはリップの腕が通れるかどうかだったけれど、その心配もなさそうだ。

 しかし――いつまで経ってもメルトちゃんには追いつけない。

 どうやら正しいルートを通って行ってるみたいだけど……大丈夫かな。

「……あれ?」

 階段が見えてきた。

 十九階には、白斗君はいないって事なのかな?

「――となると、二十階か二十一階か。七階層のどっかには居るんだろ?」

「多分。メルトちゃんは――」

『メルトさんは此方で確認しています。現在二十階を脇目も振らずに走っているようです』

 何でそんな迷わず行けるのかな?

 確信があるのか、それとも直感か何かか。

 メルトちゃんはそんなスキル、持ってない筈だったけど。

 まあ……迷宮の一番奥にいるって可能性が一番高いし、その判断も間違ってないのかな?

 ローズちゃんには可哀想だけど、戦うべき敵であるならば、仕方がない。

 そうならないで、仲間になってくれるのが一番だけど、きっとローズちゃんは駄目だ。

 確率は零に等しい。でも、ほんの僅かな確率(きぼう)を願いながら、迷宮の奥へ奥へと走っていく。

 そして、七階層の終端。二十一階の最奥に至った辺りで、

「――メルトちゃん」

 道を完全に塞いだ山のような炎の前で佇んだメルトちゃんに、追いついた。

 

 

 +

 

 

 ――どうしようもなく、満たされている。

 

 想うだけでも十分すぎるほどだったけれど、精々それでは百パーセントだった。

 他のあらゆる生命であれば、もしかすると百パーセントが最大であり満足といえる数値なのかもしれない。

 それは、ボクも例外ではない。

 実際ボクはセンパイを想うだけでずっと幸せだったし、それだけで満たされていた。

 だけどボクには、百パーセント以上がある。

 こうやってセンパイと触れ合って、それを実感することが出来た。

 ただ肌を触れ合わせるだけで、ボクの多幸感は二百パーセントにも三百パーセントにも、千、万、億と膨れ上がっていく。

「ん――はぁ――っ」

 眠っているセンパイを無理矢理起こすのは気が引けるけど……果たしてセンパイはこの幸福を享受してくれているだろうか。

 そうだったら良いな。ボクは眠っている間もセンパイを想っているけれど、センパイはどうなのかな。

 そんな思考でさえ愛おしく感じられる。

 この幸福は、永遠のものだ。

 センパイが目を覚ませば、ボクとセンパイの楽園は今度こそ完成する。

 センパイはBBを止めるとか言ってたっけ。だったら、それをボクが達成してあげよう。

 ボクが満たされるだけではない。センパイの望みを叶えて、一切の悩みの種を失くしてあげるんだ。

 そうすることで、センパイもようやく楽園を理解して、幸せになってくれる。

 ううん、楽しみだなあ。早くセンパイ、目を覚まさないかなあ。

 高揚が止まらない。

 今はボクがセンパイを求めるだけだけど、目を覚ませば今度はセンパイがボクを求めてくれる。

 どんな風に? どんな風でも良いよ、センパイなら。

 優しくだと嬉しいな。何よりセンパイらしい。

 でも、乱暴されるのだってセンパイなら嬉しい。

 だってそれって、必死にボクを求めてくれているって事でしょ?

 凄く嬉しい。ボクは、どっちでも良いよ。センパイの求め全てに応えてあげるから。

 だから、それまではセンパイが起きるまでは、ボクがセンパイを求めていても良いよね。

「ぁ――ん、く……ぅあ……」

 温かい。センパイの体温が、センパイの心音が、センパイの呼吸が。

 眠っている間だろうと、挙止動作全てがボクの幸せに変わっていく。

 永遠の愛。“病める瞬間(とき)も”、“健やかなる瞬間(とき)も”、“共に歩み”、“他者に依らず”――

「――――っ」

 ――皹。

 天上に届かんばかりの幸福から叩き落されたかのような衝撃。

 ビシリ、ビシリ。絶頂はたちまち落ち着いていき、火照った体は冷えていく。

 何かがいる。

 ボクとセンパイを守るボクの炎を、誰かが破壊しようとしている。

 楽園を侵し、センパイの幸福を奪おうとしている。

「――誰?」

 一体誰が、ボクを邪魔するの?

 ああ――――アレか。

 性懲りもなく、また来るんだね。本当に邪魔。

 分かってるよ。必死なんだよね。でも、アンタなんかにセンパイは渡さない。

 ようやく出会えたんだから。ようやく触れ合えたんだから。ようやく結ばれたんだから。

 また奪われるなんて、させる訳がない。そっちが来るのなら、良いよ、ボクは容赦しない。

 今度こそ何も出来なくなるように、徹底的に殺してあげる。

「――ちょっとだけ、待っててね、センパイ。邪魔者を消してくるから。目が覚めても、逃げたら駄目だよ?」

 行ってきますのキス――は、お預け。

 だって、恥ずかしいもん。

 ボクだって、そんなに節操がない訳じゃない。というか、勝手が分からないってのもあるけど。

 だから、今は“これだけ”で精一杯。

 だけど――ただいまは、きっと。

 うん、俄然やる気が出てきた。ご褒美があれば、何十倍も頑張れる。

 アレの――アイツらの相手は頗る面倒だけど、アイツらがどれだけ頑張ってもボクに勝つことなんて出来ない。

 理由? 決まってるじゃない。ボクにあって、邪魔者たちにないものがある。

 愛。愛する者から受ける、何物にも代えがたい最強の力。

 これがある限り、ボクに敗北なんて存在しない。

 沢山の幸福を得ることが出来た。そして、これからは永遠の愛を受けることが出来る。

 これが即ち、ボクの力。

 体が良く動く。間違いなく、今までで一番調子が良い。

「あは。センパイ、応援してくれるんだ」

 嬉しい。これなら百人力だ。万に一つも負けなんてない。

 それじゃ、行ってこよう。センパイの幸せを邪魔する奴ら――さあ、決着を付けようか。




白羽(とワカメ)、動く。
居ても立ってもいられなくなったんですね。
ワカメマジ良いワカメ。
ローズ? まだ何もしてないと思いますよ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。