金剛姉妹のレベリングを無心でやってた結果がこれです。
それはそうと、200話目だそうです。長くなりましたね。
途中でおまけや茶番を挟んでるので、実際は180話くらいですが。
「――離しなさい! 早く迷宮に戻らないと!」
「落ち着け! 小僧は死んではおるまい!」
すぐにでも迷宮に戻ろうとするメルトちゃんを、アタランテちゃんが止める。
事は凄く――凄く、良くない。
メルトちゃんと白斗君の
どういう事なのかは分からないけど、一番確率があるのは――
ううん、そんな事はない。あのエゴ――ローズちゃんが白斗君を手に掛けるなんて多分ない筈。
「何故、ハクトさんが迷宮に残されているのか。確かに術式は掛かっていたのに……」
「そんな事考察してる暇はないの! あんなのと一緒にしてたら、ハクがどうなるか――!」
「メルト、落ち着いて……ハクトさんなら、大丈夫だから」
駄目っぽいかも。メルトちゃん、完全に落ち着きを失ってる。
一刻も早く迷宮に向かわなきゃならないのは分かってるけど、だからってこれじゃあ白斗君を取り戻すなんて無理だろう。
でもやっぱり……気は焦る。
「で、でもでも! 早く助けないと心配よ! ハクトの事だから、勝手にピンチになってるに違いないわ!」
エリちゃんが机を強く叩いて言う。なんだろう、否定できない。
白斗君はピンチを呼ぶ天才でありながら、ピンチに飛び込む天才でもある。
既にピンチなのは確かだけど、それで終わらないのが白斗君だ。
きっと、一人迷宮に残されたってだけじゃ終わってない筈。
「どうしましょう……ローズはハクトさんと一緒になれたって喜びで、暴走する可能性もあります。プラスの感情値がオーバーフローする危険が……」
「はい。早急に手を打つ必要がありますね」
問題は、ローズちゃんがどんな性格なのか、どんな性質なのかが分からないってこと。
何が嬉しくて、何が悲しくて、どんな事に怒るのか。
今まで見てきた限りじゃ、ローズちゃんは白斗君に対して喜びしか抱かないと思うけど、もし違う何かがあったらもっと危険。
やっぱり、早く助けに行った方が良いよね。
「何してんだよ、早く助けに行けっての!」
と、そのとき、生徒会室の扉が勢い良く開かれる。
「――シンジ」
「いつまで経っても行動起こさないって思ってたら、まだ話し合いしてたのかよ! そんなの幾らやったって変わんないだろ。さっさと助けに行くのが正解だって、分からないのかよっ!」
入ってきたのは、慎二君だった。
明らかに怒っていて、息を荒げている。
「シンジ、貴方……」
「紫藤を見殺すってのか? こうしてる間にも、もしかしたら紫藤は危険な目にあってるかもしれないんだぞ」
いつも通り、外から状況を確認していたのかな。
ともかく慎二君は何が起きたか分かっているようだった。
「……確実に救助するためにも、作戦を練る必要がある。無策で挑むには、あまりにも厄介な相手だ」
「見殺すつもりはありません。シンジ、貴方は生徒会のメンバーではありません。意見の押し付けはしないでください」
抗議の目を向けるユリウス君とラニちゃん――確かに、その通りかもしれない。
作戦を練らないで勝てそうもない相手だというのは確か。慎二君は生徒会のメンバーじゃないのも確か。
だけど、私の本音を言うなら――
「――――うん。そうだよね」
「――ミス黄崎?」
「ごめん、レオ君、皆。私、話し合いとか頭使うの苦手。メルトちゃんを手伝って、白斗君助けてくるね」
「なっ――」
立ち上がる。
いつかユリウス君に、考えなしは駄目とか言われた。うん、その通りだ。
表に限った話じゃなくて、裏側でも十分、危険の種になる。
だけど、それが何だ。白斗君は、私たちに勝ったって結果を無駄にしないために――表に帰るために、ずっとずっと危険に付き纏われてきた。
そんな中で私だけが席に着いて、話し合いでも碌に案を出せなくて。
なんて役立たず。だから、仕方ないよね。話し合いなんて何も理解できなかったよ。結論としては――――さっさと迷宮に突撃するって事で良いんだよね。
「行こう、メルトちゃん。リップも、来てくれるよね」
「は、はい! 当然です!」
「勿論――慎二君も、だよね?」
「へ? ――っ、ああ。アイツが死んだら、僕の命も無駄になる。だから、今回だけ助けてやるよ」
「素直じゃないねぇ、シンジも……嬢ちゃん、アンタの思い切り、気に入った。マスターがこう言ってることだし、アタシも手伝ってやるかね」
「――うん、ありがと」
慎二君とライダー。二人の協力は心強い。
アタランテちゃんとジャックちゃん、エリちゃんも引き続き参戦する意思が見られる。
完璧。これならきっと、白斗君を助けられるよね。
「……であれば、もう一手打っておくのが確実か」
「――サー・ダン?」
「年を取ると必要以上に考えを深くしすぎるものだ。思慮だけではなく、意思を重視することも時には大切だろう」
ダンさんは微笑んでいた。
まさか、ダンさんが味方してくれるとは思ってなかった。
それで観念したように――レオ君が頷く。
「……仕方ありませんね。ミス黄崎、シンジ、迷宮に向かってください。追って作戦を指示しますから」
私たちは迷宮に向かって、その間にレオ君たちが作戦を固める。
うん、最初からこれで良かったんじゃないかな。
ともかく――その方針ならもっと安心できるか。
メルトちゃんももう飛び出さんばかりだし、早く行こう。
待っててね、白斗君。今すぐ、助けに行くから。
「……消えないかな、これ」
「無理っぽいな。こっちに気付いているかは分かんないけど、多分最初っから張ってたんだろ」
迷宮の十九階にやってきたは良いけど、早速トラップらしきものに立ち往生していた。
黒い炎。さっきまで白斗君を観測してたときに、ローズちゃんが放ったのを見た。
攻撃のために使っていたあれを、どうやら今度は防御に使っているらしい。
迷宮の構造も変わっている。
メルトちゃんたちが感じていたらしい嫌悪感は変わらない。存在を否定せんとする程の拒絶が、五感を通して伝わってくる。
変わっているのは道だ。さっきはまるで白斗君を招くように簡素な道だったのに、異常なまでに入り組んでいる。
そして、ところどころにあるのが黒い炎だ。
ローズちゃんの言葉を信じるならば、触れたらアウト。
「――構わないわ。この程度っ」
「あ! メルトちゃん!」
だというのに、メルトちゃんはさっさと走っていってしまう。
――作戦の説明、聞いてたのかな?
いや、そんなもの考えてる余裕がないってのは分かるけど、あれじゃ炎が壁になってようと飛び込みかねない。
「まったく、周りが見えなくなってんじゃないかねぇ。追いかけるよ」
ライダーが先んじて走る。
黒い炎は道を塞ぐまでには至っておらず、道を選べばどうにか進めるようになっている。
不安なのはリップの腕が通れるかどうかだったけれど、その心配もなさそうだ。
しかし――いつまで経ってもメルトちゃんには追いつけない。
どうやら正しいルートを通って行ってるみたいだけど……大丈夫かな。
「……あれ?」
階段が見えてきた。
十九階には、白斗君はいないって事なのかな?
「――となると、二十階か二十一階か。七階層のどっかには居るんだろ?」
「多分。メルトちゃんは――」
『メルトさんは此方で確認しています。現在二十階を脇目も振らずに走っているようです』
何でそんな迷わず行けるのかな?
確信があるのか、それとも直感か何かか。
メルトちゃんはそんなスキル、持ってない筈だったけど。
まあ……迷宮の一番奥にいるって可能性が一番高いし、その判断も間違ってないのかな?
ローズちゃんには可哀想だけど、戦うべき敵であるならば、仕方がない。
そうならないで、仲間になってくれるのが一番だけど、きっとローズちゃんは駄目だ。
確率は零に等しい。でも、ほんの僅かな
そして、七階層の終端。二十一階の最奥に至った辺りで、
「――メルトちゃん」
道を完全に塞いだ山のような炎の前で佇んだメルトちゃんに、追いついた。
+
――どうしようもなく、満たされている。
想うだけでも十分すぎるほどだったけれど、精々それでは百パーセントだった。
他のあらゆる生命であれば、もしかすると百パーセントが最大であり満足といえる数値なのかもしれない。
それは、ボクも例外ではない。
実際ボクはセンパイを想うだけでずっと幸せだったし、それだけで満たされていた。
だけどボクには、百パーセント以上がある。
こうやってセンパイと触れ合って、それを実感することが出来た。
ただ肌を触れ合わせるだけで、ボクの多幸感は二百パーセントにも三百パーセントにも、千、万、億と膨れ上がっていく。
「ん――はぁ――っ」
眠っているセンパイを無理矢理起こすのは気が引けるけど……果たしてセンパイはこの幸福を享受してくれているだろうか。
そうだったら良いな。ボクは眠っている間もセンパイを想っているけれど、センパイはどうなのかな。
そんな思考でさえ愛おしく感じられる。
この幸福は、永遠のものだ。
センパイが目を覚ませば、ボクとセンパイの楽園は今度こそ完成する。
センパイはBBを止めるとか言ってたっけ。だったら、それをボクが達成してあげよう。
ボクが満たされるだけではない。センパイの望みを叶えて、一切の悩みの種を失くしてあげるんだ。
そうすることで、センパイもようやく楽園を理解して、幸せになってくれる。
ううん、楽しみだなあ。早くセンパイ、目を覚まさないかなあ。
高揚が止まらない。
今はボクがセンパイを求めるだけだけど、目を覚ませば今度はセンパイがボクを求めてくれる。
どんな風に? どんな風でも良いよ、センパイなら。
優しくだと嬉しいな。何よりセンパイらしい。
でも、乱暴されるのだってセンパイなら嬉しい。
だってそれって、必死にボクを求めてくれているって事でしょ?
凄く嬉しい。ボクは、どっちでも良いよ。センパイの求め全てに応えてあげるから。
だから、それまではセンパイが起きるまでは、ボクがセンパイを求めていても良いよね。
「ぁ――ん、く……ぅあ……」
温かい。センパイの体温が、センパイの心音が、センパイの呼吸が。
眠っている間だろうと、挙止動作全てがボクの幸せに変わっていく。
永遠の愛。“病める
「――――っ」
――皹。
天上に届かんばかりの幸福から叩き落されたかのような衝撃。
ビシリ、ビシリ。絶頂はたちまち落ち着いていき、火照った体は冷えていく。
何かがいる。
ボクとセンパイを守るボクの炎を、誰かが破壊しようとしている。
楽園を侵し、センパイの幸福を奪おうとしている。
「――誰?」
一体誰が、ボクを邪魔するの?
ああ――――アレか。
性懲りもなく、また来るんだね。本当に邪魔。
分かってるよ。必死なんだよね。でも、アンタなんかにセンパイは渡さない。
ようやく出会えたんだから。ようやく触れ合えたんだから。ようやく結ばれたんだから。
また奪われるなんて、させる訳がない。そっちが来るのなら、良いよ、ボクは容赦しない。
今度こそ何も出来なくなるように、徹底的に殺してあげる。
「――ちょっとだけ、待っててね、センパイ。邪魔者を消してくるから。目が覚めても、逃げたら駄目だよ?」
行ってきますのキス――は、お預け。
だって、恥ずかしいもん。
ボクだって、そんなに節操がない訳じゃない。というか、勝手が分からないってのもあるけど。
だから、今は“これだけ”で精一杯。
だけど――ただいまは、きっと。
うん、俄然やる気が出てきた。ご褒美があれば、何十倍も頑張れる。
アレの――アイツらの相手は頗る面倒だけど、アイツらがどれだけ頑張ってもボクに勝つことなんて出来ない。
理由? 決まってるじゃない。ボクにあって、邪魔者たちにないものがある。
愛。愛する者から受ける、何物にも代えがたい最強の力。
これがある限り、ボクに敗北なんて存在しない。
沢山の幸福を得ることが出来た。そして、これからは永遠の愛を受けることが出来る。
これが即ち、ボクの力。
体が良く動く。間違いなく、今までで一番調子が良い。
「あは。センパイ、応援してくれるんだ」
嬉しい。これなら百人力だ。万に一つも負けなんてない。
それじゃ、行ってこよう。センパイの幸せを邪魔する奴ら――さあ、決着を付けようか。
白羽(とワカメ)、動く。
居ても立ってもいられなくなったんですね。
ワカメマジ良いワカメ。
ローズ? まだ何もしてないと思いますよ。