アサシン「だからお主はアホなのだぁぁ!」
「ハク、五人のサポート、同時に出来る?」
メルトはヴァイオレットと対峙しながら、言葉だけを此方に向けてきた。
メルト、リップ、フラン、セイバー、ランサー。五人を勝利させるためには、補助が必須となるだろう。
それが出来るのは僕一人。元より、そのつもりだ。
「ああ――勿論」
「なら安心ね。誰一人、負ける要素はなくなったわ」
「大した自信です。ならば、私の魔眼への対抗策は取れているという事ですね?」
「ええ、最初からね」
当然だとばかりに、メルトは言ってのける。
メルトの物言いは嘘ではない。メルトには、ヴァイオレットの魔眼を防ぐ手段が存在する。
完全に、ではないが戦いが不可能になる程ではない。
「全力で戦うのでしょう? 使ってみたら?」
「言われずとも――“戦いなさい”」
ヴァイオレットの命令により、彼女の呼び出した三つの怪物が動き出す。
三方に散っていく怪物を、それぞれ三人のサーヴァントが追う。
それぞれの戦いを阻害しないように――この大規模な戦いのために、この階はこれ程までに広いのか。
「アサシン、貴方も自由に戦いなさい。ただし、敗北は許されません」
「分かっておるわ。まあ、弟子にして間もない若輩の小娘に敗れる道理などないが――な!」
「っ、くっ――!」
言葉を紡ぎ終えると同時に、金属を強く叩いたような音が響き渡った。
音の出所など見るまでもない。アサシンの凄まじい威力の一撃が、リップを襲ったのだ。
リップは辛うじて防いでいる。しかし、それだけで終わる訳がない。
アサシンは姿を消さない。
彼は自身が至った圏境の極致を使わず、視認できる拳を
五方で戦いが動いている。全てを把握しなければ、補助など出来ない――
「
この戦闘領域全体を見渡す術式。
視界が広がる訳ではない。言わば魔力で作る第六感だ。
三百六十度、敵味方問わず場所と大雑把な状態を把握する術式。
視界を広げることは出来ないが、これならば見ていない場所でも何が起こったか、ある程度分かる。
「行くよ、メルト」
「期待に応えるわ。覚悟なさい、ヴァイオレット」
「私の台詞でもあります。この場を、今生の別れとしましょう」
ヴァイオレットが眼鏡に手を掛ける。彼女の視界内に、自身が召喚した怪物はいない。
怪物たち、そしてそれらと戦っているサーヴァントたちを視界に納めている間に眼鏡を外さなかったのには意味がある。
恐らく彼女は、此方のサーヴァントのステータスやスキルを把握している。
セイバーやランサーの対魔力は、ヴァイオレットの魔眼が完全には作用しないレベルとなっている。
正確にはセイバーの対魔力スキルは効果を発動していないが、その代替となる宝具によりどの道自身への束縛は意味を成さない。
だから、メルトと僕以外の存在を確認できない状態でその真価を発揮する。それは予測済みだ。
「
瞬間的な強化を、敏捷に回す。
魔眼への対抗策は、二つ。その一つが、発動する前に接近すること。
「ふっ――――!」
「なっ……」
高ランクの魔力放出による爆発よりも速く、神代の神速の英霊よりも
元々あまり開いていなかった距離を、瞬きよりも速くメルトは詰めた。
片手を眼鏡に掛けているヴァイオレットは完全に無防備。
強化の効力はすぐに切れたが、対応はし切れない――!
「――と、思っていたでしょう」
「きゃ――っ!?」
しかし、突き出された膝は届かない。
制止していた。まるで、鎖にでも繋ぎとめられたかのように。
否、鎖ではない。ヴァイオレットが使って当然な――自身の体。
「宛ら、蜘蛛に捕えられた蝶と言ったところでしょうか」
目に見えないほどに細い繊維が、メルトに絡み付いている。
最初から、罠として展開していたのか。これならば、此方がどれだけ速かろうと関係ない。
「……自分を蜘蛛に例えるなんて、良い趣味ね。私も蝶よりは蜂が良いわ」
「軽口を叩く余裕はあるようですね。では、どうやって魔眼を防ぐか、見せてもらいます」
一切情けを掛けることも、慢心することもなく、ヴァイオレットは
「――――――――――――――――」
世界が、停止した。
息が出来ない。息をする機能さえ働かない。
魔力の流れも止まっている。全ての行動が禁止されている。
『っ、ハクト君!? 大丈夫なの!?』
『駄目です! あの眼に捉われていては、術式を紡ぐことすら出来ません!』
「動けますか? 不可能でしょう。これが私の魔眼、クラックアイスの力です」
ヴァイオレットの声は聞こえる。あくまで、活動が停止するのみ――レオの言った通りだ。
同じく視界に収まっているメルトも、ドレインスキルで得た対魔力を失っている以上防ぐ手段はない。
――それが、通常のサーヴァントであれば。
「では、終わりです。さような――」
「詰めが甘いわよ――!」
「ッ!?」
停止した世界に、動きが発生する。
メルトの防御スキル、さよならアルブレヒト。対魔力数値を底上げすることで、魔眼の効果を激減させる。
メルトが振るった足。脚具の先端は、咄嗟に後退したヴァイオレットの首元を掠めた。
「っ」
視界が外れた――動ける。
「
敏捷の瞬間的強化と、ヴァイオレットの動きを封じる弾丸。
初めに放った弾丸は、しかし効果を成さない。
恐らく、ヴァイオレットにも対魔力が備わっているのだろう。
だが、メルトの攻撃は違う。瞬間的な攻撃は、凍て付く眼に真っ直ぐ向かっていく。
「――其方、こそ」
しかし、それも通用しない。
狙っていた眼は、消えた。
「は――?」
空振ったメルトはすぐさま体勢を立て直す。
信じ難い。メルトが狙っていた直線状――いや、それだけではない。
消えた箇所が広がっていく。
透明化? いや、違う。
「――繊維?」
やがてヴァイオレットの体は見えなくなった。
繊維だ。人の形を保っていたヴァイオレットは、何億という繊維に変貌していた。
「そうです。私の戦闘形態。ゴルゴン化とでも言いましょうか。魔眼の力が何故通用しないかは分かりませんが、どの道私の勝利は動きません」
ゴルゴン化、ヴァイオレットの、自身を繊維化する能力を全身に使用した状態。
厄介というレベルではない。何処から攻撃が来るか、まったく予測できない。
此方からの攻撃は、適当なものでも当たるだろう。しかし、大してダメージは与えられまい。繊維の数本を傷つけたところで、全体的な損傷は微々たるものだ。
ヴァイオレットの体全てが繊維である以上、眼は何処にも存在しない。
よって、魔眼の効果は発生しないが、魔眼の効力下、或いはそれ以上に厄介だ。
「すぐに殺すのは私では不可能。なので、少しずつ追い詰めてあげます。確実に、一歩ずつ」
数十本、数百本といった繊維が一つとなり、鞭が作られる。
襲い来るそれをメルトが躱し、その間に二本、三本と新たな鞭が作られる。
「っ……」
これでは、そう遠くないうちに躱し切れないほどになってしまう。
それより先に、此方が決定打を与える手段を見つけなければ。
「ハク、こっちは良いわ! 先に他を倒してしまって!」
「っ――分かった!」
このままでは一方的。ならば、他のサーヴァントの力を借りるべきだ。
目を向ける――先程から領域内を移動し続けていたフランと人型の怪物。
「ナアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!」
怪物はひたすらに逃走している。それをフランは雷を飛ばしながら追いかけるも、どうにも距離は詰まらない。
弾丸による補助は出来そうだが、命中は難しい。
ただまっすぐ逃げるのではなく、まるで逃げ惑っているように不規則だ。逃走ルートが把握しきれない。
セイバーは――竜を相手に優勢以上に渡り合っている。
しかし、竜の強固な鱗に対しては聖剣であっても損傷を与えるのは難しいようで、渾身の力で叩き付けても傷は付けどダメージを負った様子はない。
彼への補助は必要か、と考え始めたとき、アサシンの哄笑が聞こえた。
「呵々! そら、どうしたリップ!」
「っ、アサ、シッ、さっ……!」
リップとアサシンの戦いは、完全にアサシンのペースになっている。
リップは防戦一方で、今のところ損傷はないようだが……
「――くっ――」
「……?」
震脚と共に突き出した一撃をリップが受け止め、次の一撃に踏み出す合間。
アサシンの表情が一瞬、確かに苦痛に歪んでいた。
そして一撃。拳を突き出した状態で、アサシンは停止した。
「……何故攻めん」
「……だって」
「その御立派な腕は飾りか? 儂が教えたのは守りではないぞ」
「私の、腕なんて……アサシンさんの腕の方が……」
「自信を持つが良い。でなければその命、
真剣な眼で、アサシンはリップに諭している。
「戦え。お主に教えたこと、全て儂にぶつけて見せいっ!」
その眼は、黒に塗れた狂気だけではなく、まだ彼特有の闘気が残っている。
彼は、ノートの泥によって黒に染まった存在。
しかし、戦闘狂であったのは――最初から変わりない。今の状態はアサシンにとって、何ら変わりのない事。
その叱咤は弟子への――リップへの教えなのだ。
「――――」
苦痛をひた隠しにしているのは、誰の目から見ても明らかだ。
もしかすると、泥で一命を取り留めているとはいえ、傷が癒えた訳ではないのかもしれない。
体は限界を迎えている。それはアサシンも承知の上。
「――――分かり、ました」
限界で繋ぎ止められている。それをリップは理解した。
「アサシンさんは――私が、倒しますっ!」
しかし闘志に限界はなく、何処までも灼熱を爆発させている。
「呵――呵々々々々々々――! 良く言った! それでこそ儂の最後の弟子! 全力で来い、儂の套路に至って見せよ!」
故に、今度こそ戦いが始まるのは明白で、どちらも戦意――否、殺意を持って拳を放つ。
リップの巨大な拳は、それこそ一撃で致命傷となり得る。
そして、それはアサシンの拳も同じ。アサシンはリップの拳を寸でで躱し、リップはアサシンの拳をその腕で受け止める。
避けれていない分、リップの方がダメージが大きい――訳ではない。
リップの腕は文字通りの鋼鉄。鋼鉄にひたすら拳を打ち付けているアサシンは、一撃ごとに激痛を孕んでいるだろう。
ながらそれを止めないのは、溢れんばかりの闘気があるから。
「嗚呼、愉しい! 愉しいなァ! 命を擦り切り功夫を比べ合う、この熱い感覚、何時になっても鮮烈だわ!」
「負けま、せん……!」
あの二人の戦いには、介入は許されない。
決着がつくまで、傍観者であるしかないのだ。
では、僕がサポートするべきは他の戦い。
ランサーは、かつて倒した怪物ガトートカチャと戦っている。
槍の正確無比な刺突は、確実に怪物の胸部を突く。だが、そこに穴が開くことはない。
どうやらあの怪物の耐久力はランサーの槍を以てしても傷つけるのは難しいらしい。
「ランサー!」
筋力上昇の術式をランサーに掛ける。
「ッ」
此方を一瞥し、再び胸部に刺突。魔力放出による炎も交えたそれは、怪物を吹き飛ばすに至る。
決定打には……なっていないか。
ランサーは後退し、此方の傍までやってくる。
「駄目か……ランサー、以前は、どうやって倒したんだ?」
「この槍を基点に、『
ランサーの四つ目の宝具――凛たちとの戦いの、最後で発動されたもの。
海を切り裂いて現れた太陽。凛によって補助されたアレは、まさしく対国宝具だった。
凄まじい威力のあの攻撃は、確かに怪物を倒すに値する。
しかし、範囲は膨大だ。この場で使えば、怪物だけでなく味方までも巻き込んでしまう。
「あの宝具を使わずに……倒すのは?」
「不可能ではないが、難しい。強いて言えば――」
ランサーが、ちらと槍を見る。
そうか……彼には、あの槍がある。
一発限りの神をも殺す究極の宝具。それならば、神としての側面を持つ怪物を殺すのも可能だ。
だが――
「この槍は発動こそ出来るが……一度きりだ」
「……」
使えるのは一発だけ。一戦闘につき一撃ではない。一度使えば、槍は効力を失う。
凛との決戦において発動はされた。しかし、理屈は不明だがもう一度使用が可能になっている。
それをこの場で使って良いものか。確かにこれは迷いどころだ。
「――――いや」
本当に、一撃限りか。
それはあくまで、ランサーが持っているそれの話。
もし、一撃限りの槍を模倣出来るのだとすれば、その限りではないのではないか。
「ランサー。少しだけ時間を稼いでくれ。もしかしたら、倒せるかもしれない」
「何……?」
怪訝な表情のランサー。しかし、すぐに此方のしようとしたことを理解したらしい。
頷き、起き上がった怪物と再び対峙する。
最初にすべき補助は見つかった。今までやった事もない、大きな術式を紡ぐことになる。
発動、決着術式――『
リップ(拳から深い悲しみが伝わってくる……アサシン先生の拳が……拳が泣いている!)
リップ「ど、どうしてですか!?」
アサシン「うるさい!」
リップ(私の心に、悲しみが響く。そうだ、己の拳は己の魂を表現するものだと、教えてくれたのはこの人だ。
ならば、これがアサシン先生の魂の叫びなの!?)
Q.六回戦の決戦場で凛はどうやって爆発から逃れたの?
A.決戦場では鯖からマスターには攻撃できません。
Q.二回戦で緑茶がハクに攻撃してなかった?
A.その頃にEXマテ出てませんでした。
Q.核→レンジ:2~90 槍→レンジ:40~99
A.直線のビームなんで撃ち方によっては被害を抑えられます。核は全方向爆発です。
矛盾と疑問はこんな感じで片付けてください。
設定の追加なんてよくあることです。
なんかハクがえらい事やらかそうとしてますね。
一体どこの主人公だコイツ。