とか考えてたら妄想が止まらなくなってフジヤマヴォルケイノ。
気付いたら授業終わってた。
“これ、は――”
一番最初に聞こえてきたのは、驚愕の声だった。
或いは、それが驚愕だと理解できたのも、異常だったのかもしれない。
“――失敗だ、失敗だ、失敗だ、失敗だ、失敗だ! これじゃ、木偶人形にも等しい!”
そして、驚愕は怒声に変わった。
ただ、私はそれを聞き入れることしか出来なかった。
だって、それは私の
父の言葉は絶対だ。父が失敗だと言うのなら、私は失敗作なのだろう。
“涙腺は!? 見せろ!”
目玉に手を突っ込まれた。
ひりひりという痛みはあれど、ただそれだけ。
何を感じることもない。父が何かを確かめている。ならばこれは必要な事なのだ。
“っ、繋がってない! 何てこった!
狂乱して、涙を流して、机の上の書類をばら撒いて、壁を殴って。
髪を掻き毟って叫ぶ父が、私にはひどく可哀想に思えた。
「……ごめんなさい、お父様。悪いところは、直します。ごめんなさい、失敗作で。きちんと直します。だから、怒らないで。怒らないで。怒らないで――」
とても悲しかった。泣こうとした。だけど、泣けなかった。
どうやら、この体には涙を流す機能がないらしい。
何度も、父を慰めようとした。その度に、殴られた。蹴飛ばされた。それでも、痛みは感じない。
だけど、心臓だけは痛かった。理由は分からなかったけれど、殴られていない心臓だけがずきずきと痛んだ。
酒に溺れて悔恨を続ける父をどうすれば慰められるのか、私は考えた。
考えて、一つ思いついた。外に出てみよう。外に出て、父を慰められるものを見つけてこよう。
緑があった。青があった。黄色があった。綺麗な、綺麗な、色がたくさんあった。
これを持って帰れば、きっと父は喜んでくれる。そんなときだった。
何かが腕に、噛み付いてきた。後から知ったけど、それは犬という生き物だったらしい。
防衛本能が働いて、その犬の首を引きちぎった。そして、私は一番綺麗な色を見つけた。
「この色は、私にはない。だから、すごく綺麗なんだ。これがこの世で一番綺麗な色。お父様が言っていた、
犬の腹の中に、その中でも一際鮮やかなものを見つけた。
これは、何よりも綺麗なものだ。
だからきっと、お父様も好きなもの。これをあげれば、きっとお父様も喜んでくれる――
“ああ、あああああぁあぁああああぁぁあああ! やはりお前は怪物だ! 醜い! 汚らわしい! 狂っている! 失敗作とすら呼べない化け物だ!”
決定的にその瞬間、私と父の関係は断裂した。
さすがに、私も理解できた。私が綺麗だと思っていたものは、ひどく汚らわしいものだったと。
喜んでほしいだけだった。笑顔を見たかった。笑顔を、見せてほしかった。
腹の中にあるものを美しいと思う生命体は、
だから、直そうと思った。醜いならば、美しくあろう。汚らわしいならば、華やかであろう。狂っているならば、正常になろう。
美しいものが、美しく思うもの。華やかなものが、華やかだと思うもの。正常なものが、正常だと思うもの。
それは家族だ。私は家族を望んだ。父に拒絶されたのならば私には家族がいない。ならば、伴侶が必要だ。
「私には家族が必要です。愛してくれる人をください。
“ふざけるな! 怪物を二匹を創れだと!? 私を何処まで落ちぶれさせれば気が済むのだ!”
父は逃げた。私はそれを追いかけた。追いつく度に迫害されて、その度に苛立ちを抑えられず父の家族を殺していった。
それでも、父は私を見てくれなかった。復讐すらも考えてくれなかった。
「どうして憎んでくれないのですか。どうして私を見てくれないのですか」
最後に見たのは、父の死体だった。
やつれて痩せこけ、ボロボロになった父の最期の言葉を、傍に居た人間が話してくれた。
“
死――それが、父から私に与えられた最初の望みだった。
最後の最後で、父は私に意識を向けてくれた。
ならば、私はそれに従うまでだ。
「今、そちらに行きます、お父様。次に会ったら、愛してください。愛をください。愛させてください」
私は業火の中に身を投じた。何も感じず、全てが終わった。
私の物語は、それで終わり。語り継がれるのは、
その
+
フランケンシュタイン、或いは現代のプロメテウス。
現代にまで語り継がれる怪物像と、僕の知ったフランは明らかに違っていた。
醜さなんてどこにもない、バーサーカーながら深い思慮を持った少女。
だが、目の前に現れたのは、怪物だった。
「――醜いね」
「ッッ」
怪物は、口角を不気味なまでに吊り上げて言った。
「会話を――」
「普通は私の命令に従う人形ですが、『話せ』や『戦え』などといった曖昧な命令ならば、私の怪物はある程度の自立が可能です。このフランケンシュタインの言葉は、彼女の怪物としての本心です」
ヴァイオレットの説明によれば、彼女が呼び出す怪物は彼女の意思で動いているのか。
そして、その命令の大小の操作で様々な行動を起こせるようだ。
「本当に、醜い。それが私。お父様に作られるべき存在ではない。化け物の姿」
「ゥゥゥゥゥウウウウウウアアアァッ!」
「っ、落ち着いて、フラン!」
抑えようと手を伸ばすが、それは間に合わない。
再び接近したフランの戦鎚を、しかし怪物は片腕で受け止めた。
「ほら。怪物性を隠したら、貴女には力も無くなる。何も出来ないでしょ。貴女は最初から狂ってる。狂ってるから、これ以上狂えない。狂いたいと望む度に、弱くなるだけ」
「ナアアアアアアアアアアアアアアアァァァ――――――――オォゥッ!」
何度も何度も、フランは“自分”を殴りつける。
その行動が全て分かっているかのように、怪物は物ともせず受け止める。
「
唐突に、フランを責めるばかりだった言葉は途切れた。
「お前には分かるまい。狂戦士としての自身が見出したもの、お前ならぬお前は、意味を見出しているぞ」
ランサーだ。
顕現した槍で怪物を一閃し、フランを守るように槍を構える。
対して、ヴァイオレットは動こうとしない。ただ眼前の出来事を俯瞰するように眺めるだけだ。
「――――」
「バーサーカー。お前には使命があるだろう。存在意義は誰かに示唆されるものではない。例え自分自身であっても、それが鏡である限り認める必要はないと思うが」
「ゥゥゥゥウ……ッ!」
「確かにお前は狂気の産物だ。目の前に存在するのは紛れも無くお前だが、それも有りだ。今のお前自身か過去の自分の虚像か、お前がどちらを信じるも勝手だが、どちらが重んじるべきかは明白だろう」
ランサーの淡々とした物言いに、フランの呻りが止まった。
ランサーと、半壊した自身の虚像――二つを交互に見ながら、心を落ち着けているようだ。
「……何、を、言って、も、
「ッッゥウ!」
胴体にばっさりと切れ込みを入れられた怪物は、それでもフランを唆そうとする。
しかし、その言葉を完全に止めたのは、他でもないフラン自身だった。
戦鎚の一撃で虚像の首を飛ばす。
血は流れない。ランサーの槍による切れ込みからも、首からも。
見えるのはコードのようなものばかり。死体と死体を繋げた人造人間は、その生命活動を終えると同時、再び繊維になって散っていった。
「――本性は性悪だったか、ヴァイオレット。宗旨替えとも取れるが」
戻った繊維はヴァイオレットに還元されていく。
その様子を見ながら、セイバーが口を開いた。
「……どちらかと言えば、後者でしょうか。ただ、手を抜かないと決めただけですが」
言いながら、ヴァイオレットは片手で天を仰ぐ。
その過程に残されていく、三つの繊維の塊。
先程の力と同じ――そう判断したのか、セイバー、ランサー、フランがヴァイオレットに迫る。
しかし、その剣が、槍が、戦鎚が届く前に、三つの怪物が顕現した。
それぞれの攻撃が受け止められる。
一の怪物――フランの戦鎚を両腕で受け止めている怪物。
目を剥き、犬歯を見せる、先程の怪物相応に醜悪な人型。
ギリギリで人の形を止めているような、紙一重の怪物だった。
二の怪物――セイバーの剣を片腕の爪で受け止めている怪物。
黒い鱗に覆われた巨体。全長に匹敵するほどの両翼。一見穏やかに見えるが、その瞳は邪悪に染まっている。
竜だ。誰が見ても明らかな、黒い竜がヴァイオレットの体積を完全に無視して召喚されていた。
三の怪物――ランサーの槍を血を滲ませながらも真っ向から受け止めている怪物。
禿げ上がった頭と、横並びになった目玉。裂けたような口。
戦いに用いるというよりは祭事にでも使うような、豪奢な鎧を纏った鬼だ。
召喚された三つの怪物の内、二つに対して決して小さくない動揺を見せている英霊がいた。
セイバーとランサー。それぞれの武器を受け止めている怪物に、その驚愕は向けられている。
「――ファヴニールか」
「――ガトートカチャ」
二人が呟いた名詞には、覚えがあった。
ファヴニール。ニーベルンゲンの歌に登場する、邪悪なる竜。
とある男が呪いを持った財宝を守るために、人から変貌した姿。
最終的に聖剣を携えた英雄によって打ち倒された、紛れもない怪物だ。
ガトートカチャ。マハーバーラタに登場する、強大なる羅刹。
パーンダヴァの兄弟に協力し、クルクシェートラの戦いにおいてはカルナと戦った。
最終的にカルナに討ち倒されるが、カルナの友軍を壊滅にまで追い込んだという。
「こんなものまで……」
ファヴニールは確かに、怪物に属する存在かもしれない。
しかしガトートカチャは怪物と言っても、正真正銘の神だ。そんなものまで、呼び出せるものなのだろうか。
「まだ終わりません。パッションリップ、貴女の相手は“これ”です」
「え……?」
ヴァイオレットは、自身の力とは明確に異なる泥を放った。
強力極まりない怪物を見て尚――怖気を感じるそれ。
嫌な予感は、何処までも的中する。
「――――」
「あ――」
リップが、驚愕と絶望に満ちた声を漏らす。
仕方あるまい。師と仰いだ者の燃えるような赤が、黒く染まっていては。
『……アサシン』
「呵々、その通りだ。声しか聞けんが、壮健そうだなユリウス。何よりだ、儂が命を投げ打った以上、そうでなくてはな」
黒ずんだ中国武術の装束。苛烈な赤い髪は解かれ、白く染まっている。
かつて、BBによって囚われた空間から脱出する際、時間を稼いでくれたサーヴァント。
言うなれば命の恩人であるアサシンは、変貌していた。
「ヴァイオレット、これは……」
「ノートより借り受けました。アサシン、貴方はパッションリップの相手を」
「うむ、承った。弟子を討つのは気が引けるが、それもまた武の道。覚悟せよ、リップ」
「あ……アサシン、さん……」
リップの答えは聞かず、アサシンは腰を落とす。
バーサーカーと同じように、彼もまた、ノートによって悪に落とされたらしい。
彼は本気だ。ノートの泥に侵食されたせいか――或いは武人としての単純な興味か。
後者であってほしい。彼の性格の深層まで侵すようなこと、あって良い筈がない。
「さて、メルト。貴女の相手は私です。数は揃いました。戦いを始めましょう」
「っ……」
腕を繊維化させていくヴァイオレット。明らかに此方を狙っての行動に、気を向けざるをえなくなる。
「良いだろう。お前に恩恵を受けた俺だが、それとこれとは話が別だ。今一度、討たせてもらう」
「お前ほどの羅刹までも、奴の蔵書に記されればここまで落ちるか。仕方あるまい、悪く思うな」
「ゥゥゥゥゥ――」
「アサシンさん……なんで……!」
「これが運命という奴よ。死合うとしよう、互いの拳を懸けてな」
今、この場で補佐が出来るマスターは僕一人。ともかく、五人を確実に勝たせるように動かなければ……
リップ「サーヴァントファイトォ!」
アサシン「レディィィィィ!」
リップ「ゴォォォォゥッ!」
テテン! テッテテー!
ファヴニールさん、ガトートカチャさん、人型怪物さん、そして黒化アサシン先生の登場です。拍手。
なんでしょうね、この怪獣大決戦。
黒先生の登場は、もしかすると呂布の時点で想像していた方も多いかもしれません。リップとの相対も含めて。
師弟対決は男のロマン。