Fate/Meltout   作:けっぺん

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「カズラのパニッシュ画面って着物がはだけた感じなんだろうなー勿論涙目でー」
とか考えてたら妄想が止まらなくなってフジヤマヴォルケイノ。
気付いたら授業終わってた。


Grimoire "Sword, or Death".-2

 

 

“これ、は――”

 

 一番最初に聞こえてきたのは、驚愕の声だった。

 或いは、それが驚愕だと理解できたのも、異常だったのかもしれない。

 

“――失敗だ、失敗だ、失敗だ、失敗だ、失敗だ! これじゃ、木偶人形にも等しい!”

 

 そして、驚愕は怒声に変わった。

 ただ、私はそれを聞き入れることしか出来なかった。

 だって、それは私の創造主(ちち)の言葉だったから。

 父の言葉は絶対だ。父が失敗だと言うのなら、私は失敗作なのだろう。

 

“涙腺は!? 見せろ!”

 

 目玉に手を突っ込まれた。

 ひりひりという痛みはあれど、ただそれだけ。

 何を感じることもない。父が何かを確かめている。ならばこれは必要な事なのだ。

 

“っ、繋がってない! 何てこった! 完全な人間(イヴ)どころか人間ですらない!”

 

 狂乱して、涙を流して、机の上の書類をばら撒いて、壁を殴って。

 髪を掻き毟って叫ぶ父が、私にはひどく可哀想に思えた。

 

「……ごめんなさい、お父様。悪いところは、直します。ごめんなさい、失敗作で。きちんと直します。だから、怒らないで。怒らないで。怒らないで――」

 

 とても悲しかった。泣こうとした。だけど、泣けなかった。

 どうやら、この体には涙を流す機能がないらしい。

 何度も、父を慰めようとした。その度に、殴られた。蹴飛ばされた。それでも、痛みは感じない。

 だけど、心臓だけは痛かった。理由は分からなかったけれど、殴られていない心臓だけがずきずきと痛んだ。

 酒に溺れて悔恨を続ける父をどうすれば慰められるのか、私は考えた。

 考えて、一つ思いついた。外に出てみよう。外に出て、父を慰められるものを見つけてこよう。

 

 緑があった。青があった。黄色があった。綺麗な、綺麗な、色がたくさんあった。

 これを持って帰れば、きっと父は喜んでくれる。そんなときだった。

 何かが腕に、噛み付いてきた。後から知ったけど、それは犬という生き物だったらしい。

 防衛本能が働いて、その犬の首を引きちぎった。そして、私は一番綺麗な色を見つけた。

 

「この色は、私にはない。だから、すごく綺麗なんだ。これがこの世で一番綺麗な色。お父様が言っていた、完全な人間(イヴ)の色――」

 

 犬の腹の中に、その中でも一際鮮やかなものを見つけた。

 これは、何よりも綺麗なものだ。

 だからきっと、お父様も好きなもの。これをあげれば、きっとお父様も喜んでくれる――

 

“ああ、あああああぁあぁああああぁぁあああ! やはりお前は怪物だ! 醜い! 汚らわしい! 狂っている! 失敗作とすら呼べない化け物だ!”

 

 決定的にその瞬間、私と父の関係は断裂した。

 さすがに、私も理解できた。私が綺麗だと思っていたものは、ひどく汚らわしいものだったと。

 喜んでほしいだけだった。笑顔を見たかった。笑顔を、見せてほしかった。

 腹の中にあるものを美しいと思う生命体は、怪物(バケモノ)と呼ぶ。それを初めて、思い知った。

 だから、直そうと思った。醜いならば、美しくあろう。汚らわしいならば、華やかであろう。狂っているならば、正常になろう。

 美しいものが、美しく思うもの。華やかなものが、華やかだと思うもの。正常なものが、正常だと思うもの。

 それは家族だ。私は家族を望んだ。父に拒絶されたのならば私には家族がいない。ならば、伴侶が必要だ。

 

「私には家族が必要です。愛してくれる人をください。完全な人間(イヴ)には完全な人間(アダム)が必要です。完全な人間(イヴ)を創造した貴方には、完全な人間(アダム)を創造する義務がある筈だ――」

 

“ふざけるな! 怪物を二匹を創れだと!? 私を何処まで落ちぶれさせれば気が済むのだ!”

 

 父は逃げた。私はそれを追いかけた。追いつく度に迫害されて、その度に苛立ちを抑えられず父の家族を殺していった。

 それでも、父は私を見てくれなかった。復讐すらも考えてくれなかった。

 

「どうして憎んでくれないのですか。どうして私を見てくれないのですか」

 

 最後に見たのは、父の死体だった。

 やつれて痩せこけ、ボロボロになった父の最期の言葉を、傍に居た人間が話してくれた。

 

怪物(ヤツ)を、殺してくれ――”

 

 死――それが、父から私に与えられた最初の望みだった。

 最後の最後で、父は私に意識を向けてくれた。

 ならば、私はそれに従うまでだ。

 

「今、そちらに行きます、お父様。次に会ったら、愛してください。愛をください。愛させてください」

 

 私は業火の中に身を投じた。何も感じず、全てが終わった。

 私の物語は、それで終わり。語り継がれるのは、醜い怪物(フリークス)という伝説だけ。

 その醜い怪物(フリークス)が、目の前にいる。私が、目の前にいる。どういう事だ。どういう――

 

 

 +

 

 

 フランケンシュタイン、或いは現代のプロメテウス。

 現代にまで語り継がれる怪物像と、僕の知ったフランは明らかに違っていた。

 醜さなんてどこにもない、バーサーカーながら深い思慮を持った少女。

 だが、目の前に現れたのは、怪物だった。

「――醜いね」

「ッッ」

 怪物は、口角を不気味なまでに吊り上げて言った。

「会話を――」

「普通は私の命令に従う人形ですが、『話せ』や『戦え』などといった曖昧な命令ならば、私の怪物はある程度の自立が可能です。このフランケンシュタインの言葉は、彼女の怪物としての本心です」

 ヴァイオレットの説明によれば、彼女が呼び出す怪物は彼女の意思で動いているのか。

 そして、その命令の大小の操作で様々な行動を起こせるようだ。

「本当に、醜い。それが私。お父様に作られるべき存在ではない。化け物の姿」

「ゥゥゥゥゥウウウウウウアアアァッ!」

「っ、落ち着いて、フラン!」

 抑えようと手を伸ばすが、それは間に合わない。

 再び接近したフランの戦鎚を、しかし怪物は片腕で受け止めた。

「ほら。怪物性を隠したら、貴女には力も無くなる。何も出来ないでしょ。貴女は最初から狂ってる。狂ってるから、これ以上狂えない。狂いたいと望む度に、弱くなるだけ」

「ナアアアアアアアアアアアアアアアァァァ――――――――オォゥッ!」

 何度も何度も、フランは“自分”を殴りつける。

 その行動が全て分かっているかのように、怪物は物ともせず受け止める。

貴女(わたし)では私に勝てない。狂っている事が唯一の存在意義だったのに、それを否定した貴女(わたし)では」

 唐突に、フランを責めるばかりだった言葉は途切れた。

「お前には分かるまい。狂戦士としての自身が見出したもの、お前ならぬお前は、意味を見出しているぞ」

 ランサーだ。

 顕現した槍で怪物を一閃し、フランを守るように槍を構える。

 対して、ヴァイオレットは動こうとしない。ただ眼前の出来事を俯瞰するように眺めるだけだ。

「――――」

「バーサーカー。お前には使命があるだろう。存在意義は誰かに示唆されるものではない。例え自分自身であっても、それが鏡である限り認める必要はないと思うが」

「ゥゥゥゥウ……ッ!」

「確かにお前は狂気の産物だ。目の前に存在するのは紛れも無くお前だが、それも有りだ。今のお前自身か過去の自分の虚像か、お前がどちらを信じるも勝手だが、どちらが重んじるべきかは明白だろう」

 ランサーの淡々とした物言いに、フランの呻りが止まった。

 ランサーと、半壊した自身の虚像――二つを交互に見ながら、心を落ち着けているようだ。

「……何、を、言って、も、貴女(わたし)に、狂気、以外の道、は、ない。醜、――」

「ッッゥウ!」

 胴体にばっさりと切れ込みを入れられた怪物は、それでもフランを唆そうとする。

 しかし、その言葉を完全に止めたのは、他でもないフラン自身だった。

 戦鎚の一撃で虚像の首を飛ばす。

 血は流れない。ランサーの槍による切れ込みからも、首からも。

 見えるのはコードのようなものばかり。死体と死体を繋げた人造人間は、その生命活動を終えると同時、再び繊維になって散っていった。

「――本性は性悪だったか、ヴァイオレット。宗旨替えとも取れるが」

 戻った繊維はヴァイオレットに還元されていく。

 その様子を見ながら、セイバーが口を開いた。

「……どちらかと言えば、後者でしょうか。ただ、手を抜かないと決めただけですが」

 言いながら、ヴァイオレットは片手で天を仰ぐ。

 その過程に残されていく、三つの繊維の塊。

 先程の力と同じ――そう判断したのか、セイバー、ランサー、フランがヴァイオレットに迫る。

 しかし、その剣が、槍が、戦鎚が届く前に、三つの怪物が顕現した。

 それぞれの攻撃が受け止められる。

 一の怪物――フランの戦鎚を両腕で受け止めている怪物。

 目を剥き、犬歯を見せる、先程の怪物相応に醜悪な人型。

 ギリギリで人の形を止めているような、紙一重の怪物だった。

 二の怪物――セイバーの剣を片腕の爪で受け止めている怪物。

 黒い鱗に覆われた巨体。全長に匹敵するほどの両翼。一見穏やかに見えるが、その瞳は邪悪に染まっている。

 竜だ。誰が見ても明らかな、黒い竜がヴァイオレットの体積を完全に無視して召喚されていた。

 三の怪物――ランサーの槍を血を滲ませながらも真っ向から受け止めている怪物。

 禿げ上がった頭と、横並びになった目玉。裂けたような口。

 戦いに用いるというよりは祭事にでも使うような、豪奢な鎧を纏った鬼だ。

 召喚された三つの怪物の内、二つに対して決して小さくない動揺を見せている英霊がいた。

 セイバーとランサー。それぞれの武器を受け止めている怪物に、その驚愕は向けられている。

「――ファヴニールか」

「――ガトートカチャ」

 二人が呟いた名詞には、覚えがあった。

 ファヴニール。ニーベルンゲンの歌に登場する、邪悪なる竜。

 とある男が呪いを持った財宝を守るために、人から変貌した姿。

 最終的に聖剣を携えた英雄によって打ち倒された、紛れもない怪物だ。

 ガトートカチャ。マハーバーラタに登場する、強大なる羅刹。

 パーンダヴァの兄弟に協力し、クルクシェートラの戦いにおいてはカルナと戦った。

 最終的にカルナに討ち倒されるが、カルナの友軍を壊滅にまで追い込んだという。

「こんなものまで……」

 ファヴニールは確かに、怪物に属する存在かもしれない。

 しかしガトートカチャは怪物と言っても、正真正銘の神だ。そんなものまで、呼び出せるものなのだろうか。

「まだ終わりません。パッションリップ、貴女の相手は“これ”です」

「え……?」

 ヴァイオレットは、自身の力とは明確に異なる泥を放った。

 強力極まりない怪物を見て尚――怖気を感じるそれ。

 嫌な予感は、何処までも的中する。

「――――」

「あ――」

 リップが、驚愕と絶望に満ちた声を漏らす。

 仕方あるまい。師と仰いだ者の燃えるような赤が、黒く染まっていては。

『……アサシン』

「呵々、その通りだ。声しか聞けんが、壮健そうだなユリウス。何よりだ、儂が命を投げ打った以上、そうでなくてはな」

 黒ずんだ中国武術の装束。苛烈な赤い髪は解かれ、白く染まっている。

 かつて、BBによって囚われた空間から脱出する際、時間を稼いでくれたサーヴァント。

 言うなれば命の恩人であるアサシンは、変貌していた。

「ヴァイオレット、これは……」

「ノートより借り受けました。アサシン、貴方はパッションリップの相手を」

「うむ、承った。弟子を討つのは気が引けるが、それもまた武の道。覚悟せよ、リップ」

「あ……アサシン、さん……」

 リップの答えは聞かず、アサシンは腰を落とす。

 バーサーカーと同じように、彼もまた、ノートによって悪に落とされたらしい。

 彼は本気だ。ノートの泥に侵食されたせいか――或いは武人としての単純な興味か。

 後者であってほしい。彼の性格の深層まで侵すようなこと、あって良い筈がない。

「さて、メルト。貴女の相手は私です。数は揃いました。戦いを始めましょう」

「っ……」

 腕を繊維化させていくヴァイオレット。明らかに此方を狙っての行動に、気を向けざるをえなくなる。

「良いだろう。お前に恩恵を受けた俺だが、それとこれとは話が別だ。今一度、討たせてもらう」

「お前ほどの羅刹までも、奴の蔵書に記されればここまで落ちるか。仕方あるまい、悪く思うな」

「ゥゥゥゥゥ――」

「アサシンさん……なんで……!」

「これが運命という奴よ。死合うとしよう、互いの拳を懸けてな」

 今、この場で補佐が出来るマスターは僕一人。ともかく、五人を確実に勝たせるように動かなければ……




リップ「サーヴァントファイトォ!」
アサシン「レディィィィィ!」
リップ「ゴォォォォゥッ!」
テテン! テッテテー!

ファヴニールさん、ガトートカチャさん、人型怪物さん、そして黒化アサシン先生の登場です。拍手。
なんでしょうね、この怪獣大決戦。
黒先生の登場は、もしかすると呂布の時点で想像していた方も多いかもしれません。リップとの相対も含めて。
師弟対決は男のロマン。

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