Fate/Meltout   作:けっぺん

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水着回(中編)。
この寒さの中で書くのは地味にきついです。
楽しさ八割、寒さ二割。


Seaside Red Zone.-3

 

 

「……何をやってるんですか、まったく」

「うわっ……!?」

 どうしたものかという思考すら浮かばなくなった頃、突然体が浮き上がった。

 ヴァイオレットが腕を分離させた繊維によって、引っ張り上げたのだ。

 自然とメルトとBBからも引き離され、少し離れたところに下ろされる。

「ふう……ありがとう、ヴァイオレット」

「自重してください……BBの不満は私に回ってくるんですから」

 僕が何をした訳でもないのだが……

 とにかく、今回は余計なことをしない方が良いかもしれない。

「ちょっと、ハク、大丈夫?」

「ああ、大丈――」

 駆け寄ってきたメルトに振り返ると――

「……? どうしたの、ハク?」

 

 ――――――――天使が、いた。

 

 純白のビキニ。布面積が小さいなんてことはない、清楚な印象を抱かせる。

 トップの中央部には白に映える、ダークパープルのリボン。

 それだけではない。ボトムに巻く薄い水色のパレオは低身長ながらメルトに感じる大人な雰囲気を一層際立たせている。

 そして、極め付けに――長い髪は後ろで一括りにしている。

 メルトと一緒にいる時間は長い。しかし、そんな中でも、決してメルトに対して抱いたことのない、可愛らしさと大人な雰囲気が合わさったような新境地の感覚。

「……ハク?」

「…………可愛い」

「へ?」

 自然と、そんな言葉が口から零れた。

 否、寧ろ、最初にその感想以外が漏れてこよう筈もない。

 他の感想は一先ず置いて、これを言わなければあらゆる言葉は許されない。

「あ、えっと……凄く似合ってるよ、メルト」

「……ええ……ありがと」

 ……どうも、褒めるという事は慣れない。

 似たような――というか、同じ言葉しか言えない。

 気恥ずかしさのようなものが先行し、口が回らなくなる。

「はいはい。変な空気作ってないの。そういうのは個室に戻ってからにしなさい」

 呆れた様子の凛が言う。“そういう”ことがどういうことなのかは良いとして、個室では何もするつもりはないのだが。

「ごめん、凛」

「いいわよ。さ、楽しみましょう」

 凛は、緑色のビキニを着けていた。

 赤という印象が強い凛を良く知っている以上、少し意外に感じる。

 そして、もう一つ目に付くのは新品の麦藁帽子だ。

「それは?」

「これ? ……まあ、昔の思い出の品ってやつよ」

「思い出……?」

 凛はその帽子を手に取り、どこか大事そうに撫でる。

「昔ね、日本にある遠坂の本家に行った事があるのよ。五歳とか、その辺りかな。本家って言っても、もう廃れちゃって久しいけどね」

 そんな、昔の思い出を語る凛。

 凛は西欧財閥に対するレジスタンスとして、若いながら世界中を飛び回っている。

 彼女が遠坂という家の本家の人間ではないという事実は初耳だったが、あまり気にしてはならない事なのかもしれない。

「その時にプールに入ったの。ビニール製の、やっすいの。その時に、ちょうど今の私くらいかな……女の人に会って、麦藁帽子を貰ったのよ」

 過去に思いを馳せる凛は、どこか寂しげな表情だった。

 恐らくは、レジスタンスに手を染める前の、何も知らなかった頃。

 未来に身を投じる戦いなんて知りもしなかった、無垢な自分自身に苦笑するように口角を僅かに上げている。

「その麦藁帽子は……」

「とっくの昔に、失くしちゃったわ。どこ行っちゃったんだろ……ま、それを思い出して作ってみたの。ちょっとした未練ね」

「……」

「ああ、そんな顔しない。申し訳なさなんて感じてるなら、この場でビーム撃つわよ」

「リン、戦闘禁止よここ」

「分かってるわよ。だから申し訳ないなんて感じる必要ないの。さっきも言ったとおり、楽しみに来たんだから」

「うん……そうだね」

 凛に手を引かれ、皆の元に向かう。

 それは凛なりの強がりだったのかも知れないが――それを指摘することは出来ない。

 何より、すべき場ではない。凛の言う通り、ここは楽しむべき場所なのだ。

「来ましたか、ハクトさん」

「ああ、ラ――ニ?」

「……どうしました?」

「あはは……言いたいことはわかるけど、ラニちゃんには何を言っても変わらないと思うよ」

 スクール水着を身に着ける白羽さんは、ラニの姿を見てなんとも言えない表情になっている。

 如何に奇抜な水着だろうと、白羽さんならばそこまでのリアクションはしないだろう。

 だが、そんな彼女を以てしても、反応しにくい姿がそこにあった。

「……水着は?」

「必要ありません、と言ったら全力で止められたので……仕方なく、これだけは纏おうと」

 長めのパレオを胸の部分で巻いている――だけ。

 もしかすると、その下に何か着ているのかもしれないとも思ったが、ラニが今自身でそれを否定した。

「でも、あのラニさん? それじゃあ、すぐに取れてしまいますよ?」

「それになんの問題が?」

 羞恥という感覚が皆無に等しいラニは、この場において色々と危ないのではないだろうか。

「これを纏うのが義務ならば、確かに問題ですが……何せ、上手く引っかからないと言うか」

「ラニさん……掛けるほど胸がないもんね……」

「パッションリップ。貴女と直接の会話は初めてですが、貴女とは相容れないとすぐに分かりました」

 無意識に茶々を入れたリップは、いつも以上に目に危ない姿となっていた。

 胸だけでなく、それ以外も露出を強調したVストリング。

 正直、破壊力が強すぎる。出来るだけ目線を外しながらでないと、道をうっかり踏み外しかねない。

 ……何故か、鋼鉄の腕はいつものままだ。二重の破壊力とでも言うべきなのだろうか。

「ところでハクト、その髪どうしたの? さっきまでと比べて急に白くなってない?」

「ああ……これは前からだよ」

「札を身から離すと、当然効力も切れますから……着替えたら、ちゃんとまた身に着けてくださいね」

「分かってる。今のところ異常はないから……大丈夫だと思うけど」

 髪――以前、何の予兆もなく変異していた髪は、より白くなっていた。

 札によって気にならなくなっていたが、それを外すと変化が顕著に見て取れる。

 心配そうなエリザベートに大丈夫だと返す。

 彼女の水着はトップとスカート状のボトムが一繋ぎになったワンピース型だ。

 しかし、尻尾はきちんと出ている。後ろ側に穴が開いているらしい。

 エリザベートのイメージカラー通りの、赤い水着は良く似合っている。

 カズラの水着は極普通のワンピース型だが、その色合いは絶妙だ。

 桜色と若草色による、春のイメージ。カズラにこれ以上映える色もないだろう。

「皆さん、遊ぶのはいいですが、十分気をつけてくださいね。海は繊細の注意を払わないと危険ですから」

「分かってるわ。桜たちの迷惑にはならないって」

「わたしたちの手を煩わせないでくださいね」

「カレンは殆ど何もしないじゃないですか……!」

 カレンの発言に呆れる桜。二人は色違いのビキニを着けている。

 桜が白で、カレンが黒。

 同じ健康管理AIという特性を持っていながら、何故こう真反対の色が似合うのだろう。

あたし(アリス)、早く行こう!」

あたし(ありす)、その前にちゃんと準備運動よ」

「あまり沖には出ないようにするんだよ」

 桜とカレン、二人と同じ配色の一対の水着を着ているのがありすとアリスだ。

 白と黒のタンクトップ・ビキニタイプで、これでもかというほどにフリルがあしらわれている。

 海にすぐにでも飛び込もうとするありすをアリスが諌め、何事もないようにキャスターが見守っている。相変わらず、カメラを構えながら。

「わたしたちも行こう、アーチャー」

「ああ……海が娯楽の場とは、時代は変わったものだ」

 それに続くジャックとアタランテ。

 胸元までV字のカットが入ったトップにローライズのボトムという、大人のようなデザインの水着を着たジャックは、年齢不相応な色気が漂っている。

 アタランテの水着は翠緑のビキニ。獣の耳と尻尾からか、他にはない独自の魅力を感じさせる。

「さあ、行くよシンジ! あの海の向こうへ、ありったけの夢掻き集めて探し物を――」

「やめろライダー! どこまで行っても宝なんてありゃしないよ!」

 ライダーに引っ張られて沖に向かっていく慎二。必至の抵抗もむなしく、どんどんと遠くに連れてかれている。

 ライダーは深紅の布面積の薄いビキニだった。すぐに慎二を連れて海に飛び込んだので、あまり見ていないのだが。

「ちょっと、ハク」

「ん? どうしたんだ、メルト?」

「……他の人に、目が行きすぎ」

「……あぁ」

 それは、すまないことをした。

 水着の新鮮さに、確かに目が行き過ぎていたかもしれない。

「ごめん。大丈夫だよ、僕にとって、一番はメルトだから」

「っ」

 誰かに聞かれると、また厄介なことになりかねない。

 だから、メルトにだけ聞こえるように、耳元で囁くだけに留める。

「あれ? メルトちゃんどしたの? 顔赤いよ?」

「……なんでもないわ」

 顔を離してすぐに白羽さんが此方に目を向けてきた。

 内心でほっとする。少しでもタイミングが早ければ、また色々あったに違いない。

 それから、ようやく全員で遊び始めた。

 ……その体質ゆえ、メルトが泳げなかったのは言うまでもない。

 

 

「――いらっしゃいませ」

「……」

 ここに存在することがそもそも間違いなのではないかと思うほどの、歪すぎるパーツ。

 それがこの場に無理矢理収まっているような、奇妙極まりない店員の姿がそこにあった。

「……」

「言いたいことは予想がつくが、違和感には慣れたまえ。所詮君にとっては休息を提供するだけの店員でしかないのだからね」

「……まぁ、そうですが」

 こんなやりとりを、月の裏側に来てから既にしている気がする。

 遊び始めて二時間くらいか。

 そろそろ休もうかという話になり、一切違和感なく建っていた『海の教会』なる建物に皆が集まっていた。

 教会と銘打っていながら、明らかに一般知識そのものの『海の家』である。

 そこの店員として、当然のように存在していたのが、言峰だった。

 普段のカソックを脱ぎ捨て、サイズのギリギリな薄い黒の服を着てタオルを頭に巻いている。

 まるで何処かの町で詐欺一歩手前どころかボーダーラインを余裕でオーバーしていそうなぼったくりラーメン店でも営んでいそうな様相だ。

「……なんで貴方がいるのよ」

「随分と厳しい第一声だ。月の心にはとことん好かれていないな」

「貴方を気に入ってる人なんて皆無と思うけど」

「違いない。生憎、趣味が合うほど愉悦に通じた者がいなくてな。最古の王などならば話も弾むだろうが」

 言峰を見るなり、メルトは嫌そうな表情に変わった。

 メルトの心情は良く分かる。言峰は、NPCとしての性能は全てのAIの中でも最上位に位置する程だ。

 しかし、この性格がそれらを考慮して余りあるマイナスだった。

「来ちゃったッスねー……だったらボクたちは帰るッスよ、花嫁さん」

「……ゥゥ」

「――ジナコ?」

 店の奥から聞こえてきた声。

 目を向けると、そこにはジナコとフランがいた。

 白羽さんが呼びに行ったものの、当然のように断られたらしいが……

「いたなら来れば良かったのに。今からでも、参加しない?」

「お断りッス。水着着てはしゃぐような歳じゃな……あ、いや、ジナコさんまだまだ若いッスけど。ともかく遠慮しとくッスよ。日差しに当たってたら、浄化されかねないし」

「吸血鬼みたいなこと言ってんじゃないわよ」

 ……察するに、フランに無理矢理連れて来られたというところだろうか。

 どうも、フランはアルジュナの代わりにジナコをどうにかしようしている風がある。

 バーサーカーなが所持しているその責任感は驚くべきところだ。

 まあ、フランの前のテーブルに積まれている数枚の皿を見る限り、食べ物で懐柔されたらしいが。

「さて、ここに来たということは休憩も兼ねて食事に来たのだろう。注文をするが良い」

「料金は?」

「しっかり取るが? 売り手買い手の関係だ。金銭の関係はしっかりしていなければならない」

「……相変わらず、がめつい神父ね」

「っていうか私、ここに店を構える許可出した覚えがないんですけど」

「何、海といえば海の家は必須だ。BB、どうせならばロケーションの完成度は高い方が良いだろう?」

「……まあ、そうですね。仕方ありません、特別に許可します。さ、センパイ、何食べます?」

 BBの許可を得られ、正式な店となった『海の教会』……たった今、言峰自身が海の家と言及していたが。

 というかそもそも許可が無かったことに驚きつつも、木の板に書かれたメニューに目をやる。

 ラーメン、カレー、焼きソバ、チャーハン。オーソドックスなメニューが並んでいる。

 少々捻ったものもあるが、それ以上に気になる事がある。

「……高いな」

「観光地価格というやつだ。海ならば、アイスキャンディーが一本三百円なんてこともザラだろう。この値段も、海ならば普通のことだ」

 約束された観光地価格(ボッタクリ)――!

 言い切った。普通のラーメンが四桁もするような価格を、普通だと言い切った。

「ちなみに、お金はセンパイ持ちです。こんなに女の子がいるんですから、男気見せてくださいね?」

「え?」

「あ、そう? ごめんねハクト君、ご馳走様」

「え――?」

「お金持ちだねー。なら、私も」

「え――――!?」

 BBに続いて、次々と注文され、言峰がそれを何食わぬ顔で受けていく。

 まったく状況が整理できていない。

 良く分からないが……もしや、全員分僕が払うと?

「……」

 望み薄と分かりながらも、レオを見る。

 すると、柔らかな微笑みに――僅かに同情と愉悦を混ぜて、悪魔の如き囁きを述べる。

「――幾らでも貸しますよ?」

「遠慮します」

「まあ、そういうとは思いましたけど。せめて、僕たち男性の食事代は僕が払いますので、頑張ってください」

 ……どうやら、破産を覚悟せよとの事らしい。

「何でも食べていいの?」

「……ああ、うん」

「やった! ありがとうお兄さん! アーチャー、ハンバーグっ!」

「うむ。では頼みに行こうか。……なんか、済まぬな」

「いや、いいよ。アタランテも何でも頼んで」

「……では、言葉に甘えよう。感謝するぞ」

 迷宮を今まで必至で攻略してきたし、お金の使い道も多くはなかった。

 ゆえに、ある程度余裕はあったが、多分それもこれっきりでなくなりそうだ。

 BBがその気である以上、他の誰かだけ駄目だという訳にもいかない。

 こうして――この日、いつぞやのMPS以来の金銭的危機を味わうのだった。




『じゅんぱくせれなーで』
夜に映える純白の水着。天使、降臨す。
メルトの水着。スク水の予定だったが、この数ヶ月で嗜好は変わった。

『おもひでおろおろ』
遠い記憶に思いを馳せて、それでもここぞのうっかりは忘れない。
凛の水着+α。麦藁帽子に関しては、「Fate/EXTRA 公式サイト 隠しページ」で検索。

『女子スクール水着』
ロマン溢れる機動力重視。名前はひらがなで書かないと呪われる。
白羽の水着。CCCのやつと同じ。

『アトラスの結論』
やはり至るべきはこの一点――「はかせ ない」。
ラニの水……水……。黒い肌の露出は実に良い。

『びっぐばん』
宇宙創生の爆発に比類する、究極の破壊力。
リップの水着。もう食い込むだけ食い込んでるイメージ。

『すかーれっとあいどる』
真紅のアイドルに相応しい、お尻に穴の開いた最新モデル。
エリザベートの水着。エリちゃんはスカートがないと物足りないと感じた。

『かちょうふうげつ』
花は彩り、鳥は歌う。風は柔らかに、月は照らす。
カズラの水着。細部までデザインに拘っている。カズラも着物じゃないとなんか物足りない。

『ほわいとらばー・ぶらっくらばー』
二つで一つ。清楚な白か、アダルティックな黒か。貴方はどっち?
桜とカレンの水着。桜は多分Hollowのアレ。

『しろのしおり・くろのしおり』
二つで一つ。子供な白か、子供な黒か。貴方はどっち?
ありすとアリスの水着。こらそこ、適当とか言わない。

『てむずのひげき』
子供と侮るなかれ。霧の夜にご用心。
ジャックの水着。BBが真冬のテムズ川を思い浮かべながら作ったらしい。

『かりすとのほし』
ケモ耳と尻尾との融合が此処に。海と森が今、一つになる。
アタランテの水着。ぶっちゃけ獣っ娘に水着は合わない気がする。

『えるどらごぼんばー』
どっかのせくすぃーびきにに匹敵する、シンプルな魅力。
ライダーの水着。これで何故男と伝えられたのか。

『店長襲名正装』
店長たる者、これを着ずして店長は名乗れまい。
言峰の限定衣装。ぼったくりラーメンなんて知りません。

という訳で、水着回はもう少し続きます。
こんなに引っ張るようなもんでもない気もします。
あ、後ちょっとこれから忙しくなるので、更新遅れます。

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